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秋に読みたい絵本・私的10撰

もりのかくれんぼう (日本の絵本)



9月も下旬、秋が徐々に深まってくる頃合いです。ということで、秋にぴったりの絵本10冊をご紹介。私的10撰なので、メジャーなものからマイナーなものまで私の独断と偏見で選んだ秋の絵本です。絵本選びのご参考に。


まずは、こちら。


14ひきのおつきみ (14ひきのシリーズ)

14ひきのおつきみ (14ひきのシリーズ)

【あらすじ】
十五夜の日。14ひきたちは夜にそなえて、木の上にお月見台を作り、おだんごやごちそうを用意。そうして、日が暮れて、月が出るのを待ちます。

いわむらかずおさんの『14ひきのおつきみ』は、森にすむねずみの大家族の日常を描いた“14ひきシリーズ”の1冊。秋絵本の定番と言えるでしょう。
14ひきシリーズはねずみの一家を主人公とすることで、豊かな自然の姿を壮大なものではなく、身近なものとして描いています。一家にとって木や花や虫たちは特別なものではないし、“自然”という感じではない。ご近所さんみたいな感じですね。うまく木や草など森の恵みを利用して、楽しい日常を送っています。こういう自然との接し方はいいなあと思いますし、人間として学べる部分も多くあって、温かな気持ちになれる絵本です。
このシリーズにはほかにも、『やまいも』や『あきまつり』といった秋を舞台にしたものがありますが、私は特に『おつきみ』が印象深いのでこれにしました。もちろん、これ以外も全部良いです。


次は、記事冒頭にも載せたこちら。


もりのかくれんぼう (日本の絵本)

もりのかくれんぼう (日本の絵本)

【あらすじ】
帰宅途中の女の子ケイコは、ひょんなことから不思議な森に迷い込みます。そこにはたくさんの動物たちが隠れていて……。

末吉暁子さんの『もりのかくれんぼう』。これも秋の定番(たぶん)。
秋が深まった黄金色の森の中にたくさんの動物たちが隠れているという内容です。いわゆる“隠し絵”というんでしょうか、黄金色の背景の中に同色の動物たちが紛れ込んでいて、それを発見していくのが楽しい絵本です。見事に森の色と溶け合っているので、子どもはもちろん、大人でも存分に楽しめると思います。
絵は林明子さん。『はじめてのおつかい』『こんとあき』など、ありのままの子どもの姿を描いた名作を生み出している林さんの描写力が、この絵本でも最大限に発揮されています。余談ですが、宮崎駿監督はかつて『はじめてのおつかい』の女の子の描き方を見て感動したそうです。幼い子ども特有の歩き方―まっすぐ立って歩けず、前のめりか後ろのめりになる―がリアルに表現されているから、とのこと。林さんの描く子どもは最も“子どもらしい子ども”と言えるのかもしれません。


秋と言えば月。十五夜はもう終わってしまいましたが、月気分に浸る絵本を2冊。


どこへいったの、お月さま (児童図書館・絵本の部屋)

どこへいったの、お月さま (児童図書館・絵本の部屋)

【あらすじ】
クマくんはお月さまとかくれんぼを始めます。クマくんが木に隠れると、お月さまも雲に隠れて……。

アメリカの絵本作家、フランク・アッシュさんの『どこへいったの、お月さま』。ストーリー自体はシンプルで、主人公のクマくんが月とかくれんぼをするという他愛ないものですが、クマくんが隠れると、ちょうどそれに合わせて月も雲に隠れるので、本当にかくれんぼをしているみたいになるという微笑ましい絵本です。
でも、こういうのは絵本の中だけのお話ではなく、実際に子どもって自然物に対してもこういうふうに接してしまうものなんですね。私自身、子どもの頃はどうして月はどこへ行っても追いかけてくるのかと不思議に思っていました。子どもの何気ない姿、遊びを描いた絵本ではありますが、子どもの特徴を細かく的確にとらえた絵本だと思います。
ちなみに、この絵本もシリーズの1冊で、クマくんを主人公にした絵本がいくつもあります。『かじってみたいな、お月さま』『ぼく、お月さまとはなしたよ』といった月のお話もあるので、そちらも良いでしょう。


月世界探険 (タンタンの冒険)

月世界探険 (タンタンの冒険)

【あらすじ】
ロケットに乗って地球を旅立ったルポライターのタンタン、ムーランサール城の城主のハドック船長、ロケットの開発者のビーカー教授、タンタンの愛犬スノーウィたちは、宇宙飛行の末、とうとう月に降り立ちます。未知の世界を、タンタンたちは探検しますが……。

『月世界探検』は、“タンタンの冒険シリーズ”の1つ。スピルバーグ監督が手掛けて映画化しているくらいなので、それなりに有名なシリーズなのだろうと思います。そのわりに日本ではいまいちヒットしなかったようですが……。
“タンタンの冒険”は、ベルギーの漫画家エルジェさんのバンド・デシネ。バンド・デシネとはベルギー、フランスで親しまれている漫画のことです。なので、厳密には絵本でないのですが、私はほかの絵本と同じ感覚で読んでいたので、あえて含めました。
話としては主人公タンタンたちが月を探検するというもの。でもファンタジーではなく、緻密な科学に基づいたリアルな月旅行です。これが出版されたのが1954年、実際にアポロが月へ行ったのが1969年。15年も前にこんなにリアルな月旅行を描いていたのかと思うと驚かされます。
内容的は子どもには難しいと思います。専門的な知識満載なので。でも、私は子ども時代読んでいて、分からないなりに絵のカラーの鮮やかさとか、キャラクターたちの変人ぶりとか、かなりおもしろがりながら読んでました。
眺める月でなく、サイエンティフィックな月を味わえる本です。この話の前日譚となる『めざすは月』を合わせて読むと、さらに気分が高まります。


5、6冊目は、味覚の秋。ということで、りんごを題材にした絵本。


アップルパイをつくりましょ―りょこうもいっしょにしちゃいましょ

アップルパイをつくりましょ―りょこうもいっしょにしちゃいましょ

【あらすじ】
ある日、主人公の女の子はアップルパイを作ろうと思い立ちます。必要な材料は、りんご、小麦粉、砂糖、シナモン、塩、バター、卵。ところがマーケットはお休み。そこで女の子は材料を求めて、世界へと旅立ちます。まずは小麦粉を求めて、イタリアの麦農場に行きますが……。

アメリカの絵本作家、マージョリー・プライスマンさんの『アップルパイをつくりましょ りょこうもいっしょにしちゃいましょ』。
なんと、アップルパイを作るために世界中を旅してしまうという壮大なお話。どこへ行ったかは、読んだ時のお楽しみなので書きませんが、ヨーロッパからアジア、中南米まで、本当に世界中です。そこまでしなくてもほかのお店に行けばいいのに……と思っちゃいますが、なにはともあれ、発想がおもしろい絵本ですね。
でも、その材料の本場?にわざわざ行くわけですから、こんなに美味しいアップルパイはないだろうと思います。まさに、味覚の秋にふさわしい絵本です。


1こでも100このりんご (えほん・ワンダーランド)

1こでも100このりんご (えほん・ワンダーランド)

【あらすじ】
ある町のくだものやさんに1個のりんごが飾られています。くだものやさんの前をいろんな人が通りかかっては、りんごを見ていろんなことを考えます。

井上正治さんの『1こでも100このりんご』。
ひとつのりんごを巡って、さまざまな人々の多様性みたいなものがうかがえる、ちょっと哲学的なにおいもする絵本です。
たとえば、りんごを見て、良い畑でないと育たないりんごだ、と言う農家の人たち。良い色だという言う絵描きさん。ビタミンがいっぱいありそうだなあと言うお医者さん。みんなこんなきれいなりんごを見て歌を作ったのかなと言う作曲家の女性。
たったひとつのりんごを見ても、見た人が感じることはこんなにも違う。100人いれば100通りのりんごがあるのだという、視点がユニークな絵本。
子どもが読んでも、あんまりおもしろがるタイプの絵本ではないかもしれないけど、シンプルでありながら考えさせられもする良作です。


次の2冊は、ハロウィーンにまつわる絵本。


パンプキン・ムーンシャイン (ターシャ・テューダークラシックコレクション)

パンプキン・ムーンシャインTasha Tudor Classic Collection (ターシャ・テューダークラシックコレクション)

【あらすじ】
小さな女の子シルヴィー・アンは、ハロウィーンで使うかぼちゃちょうちんのためのかぼちゃを採りに畑へ行きます。シルヴィー・アンは大きなかぼちゃを運ぼうとしますが……。

2008年に92歳で亡くなった、アメリカを代表する絵本作家ターシャ・テューダーさんのデビュー作、『パンプキン・ムーンシャイン』。
ハロウィーンというアメリカの文化、風習がありありと伝わってくる絵本です。日本ではハロウィーンというとクリスマス同様にイベント的な扱われ方をしていますが、本場のハロウィーンというのはこういうものなんだというのがよく分かります。アメリカの風土を学ぶという意味でもおもしろい絵本ですね。
ターシャさんの絵は、緻密ではありますが緻密過ぎないというか、どこかふわっとした雰囲気のある絵で、優しさに溢れています。奇抜なストーリーではなく、かつて存在した古き良き田舎の生活、風土というものを大切にする人々のライフスタイルが描かれていて、温かい気持ちになれます。


魔女たちのあさ (えほんライブラリー)

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【あらすじ】
ある森に住んでいる魔女たちは、夜になると起き出します。そうして、こうもりのシチューを食べると、ほうきに乗って夜空へと飛び出して……。

これまたアメリカの絵本作家エドリアン・アダムズさんの『魔女たちのあさ』。
夜起きて朝眠る魔女たちの一日を描いています。なので絵本は全体的に暗めなのですが、魔女たちがとても明るい魔女たちなので、怖い感じはなく、読んでいてこんな魔女なら自分もなってみたいなあと思わせる魔女です。ほうきで曲芸飛行をしたり、月の上で一休みしたり。また、絵的にも青、緑、紫、黒など、いろんな色づかいで夜が魅力的に描かれていて、雰囲気たっぷりです。秋の夜長とよく言いますが、まさにこの季節にぴったりですね。
ところで、『魔女たちのあさ』の作者アダムズさんは、1906年生まれ。この本がアメリカで出版されたのが1971年、当時65歳です。ご存命であれば2013年で107歳ですが……。どうなのでしょう。


最後に、宮沢賢治の絵本を2冊、ご紹介します。


狼(オイノ)森と笊森、盗森 (日本の童話名作選)

狼(オイノ)森と笊森、盗森 (日本の童話名作選)

【あらすじ】
ある秋の日、4つの森に囲まれた野原に、農民たちがやってきます。農民たちが畑を作ること、家を建てること、火を使うこと、少し木をもらうことをしてもいいかと森に訪ねると、森は「いいぞお」と答えてくれました。そうして農民たちはそこに暮らすようになりますが……。

宮沢賢治の『狼森と笊森、盗森』(おいのもりとざるもり、ぬすともり)。
農業に従事していた宮沢賢治らしい童話です。人間たちが自然に対して許可を求め、その上で開拓し生活する。しかし、そうたやすくは話は進まず、人間たちに慢心が生まれ、事件が起こるわけです。自然に対する敬意の気持ちをテーマにした作品ですが、説教臭くなく、それよりは岩手の農民の風土がよくわかる絵本として純粋におもしろいです。
この作品に限らず賢治の童話は、独特の世界を持っていて深いがゆえに、深読みしたくなります。でも、そこまでせずとも、自然の描き方のユニークさやオノマトペの豊かさなど楽しめるポイントがいくつもあるので、それだけでも十分おなかいっぱい、読み応えがありますね。とは言え、やはり読めば読むほど新たな味がにじみ出てきて、いろいろ裏に隠されたものを読んでしまいたくなるんですが。
絵の村上勉さんは、デフォルメされた曲線的かつ細かい絵柄が特徴的な絵本画家・イラストレーターさんです。佐藤さとるさんの「コロボックル」とか、最近では有川浩さんの『旅猫リポート』が有名でしょうか。賢治とのコラボレーションは良い相乗効果を生み出していて、ちょっぴり不気味な感じ、おどろおどろしさが醸し出されています。


どんぐりと山猫 (ミキハウスの絵本)

どんぐりと山猫 (ミキハウスの絵本)

【あらすじ】
ある秋の土曜日、一郎の元にへたくそな字で書かれたはがきが届きます。はがきには、明日面倒な裁判をするからおいでくださいというようなことが書かれ、差出人は山ねことなっていました。翌日、一郎は谷川に沿った道を上へと歩いていきますが……。

『どんぐりと山猫』は、どんぐりたちの裁判に人間の男の子が招かれて行くというもの。人間とそれ以外のものの交流を描いた童話は、先ほどの『狼森と笊森、盗森』もそうですし、『注文の多い料理店』とか『雪渡り』がありますね。そのなかでもこの『どんぐりと山猫』はユーモアあふれる作品となっています。
“どんぐりのせいくらべ”という言葉がありますが、まさにこの作品はどんぐりたちの争い(=誰がいちばん偉いか)を描いています。どんぐり同士ということでおかしみが生まれるわけですが、よく考えたら人間もこれと同じことをやっているわけです。そしてそこには裁判長として君臨する山猫もおり、まさに人間界の縮図となっています。
この作品もまた、他者との比較とか競争意識とか様々な問題をはらんでいると見ることもできるのですが、絵本ですから、まずは秋の雰囲気とか森の不思議さを味わって、それから文章とかセリフ、場面の意味を考えてみるとおもしろいと思います。とは言っても、読んでいるうちに自然と疑問が湧いてきちゃうんですよね、賢治童話は。ちなみに、宮崎駿監督がいちばん好きな宮沢賢治作品はこれだそうです。
ところで、実は私はこの作品を絵本で読んだことはありません。ですので、とりあえず数ある『どんぐりと山猫』の絵本の中で最新のものを挙げましたが、他のどれでも良いと思います。


というわけで、長々と書き連ねてまいりました。ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
秋の絵本10撰、ご参考になれば幸いです。


:記事内の宮崎駿監督に関する部分は、スタジオジブリ、文春文庫編『ジブリの教科書3 となりのトトロ』(文藝春秋、2013年6月)を参考にいたしました。以下にリンクを張ります。


【ブログ内関連記事】
冬に読みたい絵本・私的10撰 2013年12月15日
宮沢賢治の絵本・私的10撰 2014年9月20日  記事内で『狼森と笊森、盗森』を取り上げています。


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by hitsujigusa | 2013-09-21 03:17 | 絵本