冬に読みたい絵本・私的10撰

ビロードのうさぎ



 12月も半ばに差し掛かり、いよいよ冬めいてきました。ということで、この季節にふさわしい、独断と偏見で選んだ冬に読みたい絵本・私的10撰をご紹介したいと思います。


 まずは、間近に迫ってきたクリスマスをテーマにした絵本6冊を。


急行「北極号」

急行「北極号」
【あらすじ】
 あるクリスマスイブの夜、サンタクロースを待つ“僕”の家の前に急行「北極号」が現れます。「北極号」に乗り込んだ僕を待ち受けていたのは、たくさんの子どもたち。心をときめかせる子どもたちを乗せて、「北極号」は森を抜け、山を越え、何と北極点に到着して――。

 ハリウッドでアニメーション化もされたクリスマスの大定番絵本、『急行「北極号」』。作者のクリス・ヴァン・オールズバーグさんはアメリカを代表する絵本作家で、日本語訳は日本を代表する小説家、村上春樹さんです。
 この絵本の最大の魅力は、オールズバーグさん特有の色鮮やかさと陰影が混在する芸術的な絵。この絵本のイラストには多くの色彩が使われていて、クリスマスイブの楽しい雰囲気、子どもたちのワクワクドキドキとした気持ちが臨場感たっぷりに描かれています。その一方で、色彩の彩度は抑えられていて、冬の夜に漂う暗闇、影、冷え冷えとした空気が、まるで自分がその場に居て体験しているかのように、ありありと伝わってきます。
 この作品は子どもにとっては楽しいクリスマス絵本ですが、大人が読むとまた違った感覚に陥るのではないかと思います。一見すると子どもたちの不思議な楽しい冒険を描いたファンタジー絵本という風情で、もちろんそれが物語の軸ではあるのですが、それと同時に“いつか去ってゆく子ども時代”を描いた作品でもあります。なぜ、「北極号」には子どもしか乗っていないのか、また、乗れないのか。その意味を考えた時、ふっと淋しさがよぎり、切なさが込み上げます。だからこそ、「北極号」に乗れる無邪気で純粋な子どもたちの姿、そして、「北極号」という存在がとてもまぶしく、かけがえのない愛おしいものに感じられます。
 絵が醸し出す雰囲気と物語が伝えるメッセージが見事にマッチした、老若男女楽しめるクリスマス絵本ですね。


すずの兵隊さん (児童図書館・絵本の部屋)

すずの兵隊さん (児童図書館・絵本の部屋)
【あらすじ】
 ある男の子への誕生日プレゼントとしておもちゃの兵隊のセットが贈られました。これらの兵隊は25人で同じ古いスプーンから作られたものでしたが、1人の兵隊だけは材料が足りず、1本足でした。いつしか1本足の兵隊は、紙で出来たお城の入り口に立つ、紙製のバレリーナの人形に想いを寄せるようになり――。

 言わずと知れた童話作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの名作『すずの兵隊さん』。絵はアメリカのイラストレーター・絵本画家のフレッド・マルチェリーノさんです。
 アンデルセン童話の特徴は大げさでない静かなもの哀しさや切なさですが、その中でもこの作品はアンデルセン童話の魅力が凝縮された物語ではないかと思います。人間の都合によって1本足で生まれてきたおもちゃの兵隊は自らの意思でバレリーナに恋をしますが、それさえも運命のいたずらによって、また、人間の手によって邪魔されてしまいます。それでもバレリーナを想い続ける1本足の兵隊……。おもちゃを擬人化した童話やアニメは多くありますが、この作品の兵隊やバレリーナは自分の足で動いたり歩いたりするわけではなく、あくまで普通のちっぽけなおもちゃです。しかし、アンデルセンはおもちゃに心を与え、物語に“偶然の奇跡”を付与することによって、美しいラブストーリーに仕立て上げました。その結果、擬人化された物語とはまた一味違う、儚くささやかな作品となっています。
 『すずの兵隊さん』の絵本は他にも多くありますが、このフレッド・マルチェリーノさんが描いた絵は良い意味でクセが無く、誰にでも親しみやすい絵柄でおすすめです。


ビロードのうさぎ

ビロードのうさぎ
【あらすじ】
 クリスマスプレゼントとしてある男の子の元にやってきたビロードのうさぎ。男の子はうさぎを気に入り、大切にしてくれました。が、ある日うさぎに悲劇が訪れて――。

 こちらも古典的名作といわれるマージェリィ・W・ビアンコ作の『ビロードのうさぎ』。絵は人気絵本作家、酒井駒子さんです。
 人形=おもちゃを題材にしているということで、『すずの兵隊さん』とも共通しますが、『ビロードのうさぎ』はまた少し着目点が違って、子どもに愛されるということはおもちゃにとってどういうことかという、おもちゃと子どもの関係性を描いた作品となっています。
 おもちゃを大切に、モノを大事に、というのは全ての親が子どもに言う当たり前の教えだと思いますが、この作品にはなぜ大切にしなければいけないのか、という本質が描かれているような気がします。また、物語がうさぎ目線で描かれているので教訓的にならず、押しつけがましくもなく、優しくじんわりと心に染み込んできます。モノが溢れる現代、ついつい使い捨てしたり粗末にしたりしがちですが、モノを大切にする心の尊さを改めて教えてくれる、大人にとっても読みごたえのある絵本ではないかと思います。
 そして、物語の雰囲気を見事に表現しているのが酒井駒子さんの美しい絵。風格・重厚さと可愛らしさが同居する不思議な魅力を持つ絵です。


子うさぎましろのお話 (おはなし名作絵本 3)

子うさぎましろのお話 (おはなし名作絵本 3)
【あらすじ】
 クリスマスの日、子うさぎのましろは、サンタクロースのおじいさんからプレゼントをもらいました。しかし、もうひとつプレゼントが欲しくなったましろは体に炭をこすりつけて、黒いうさぎに。別のうさぎになりすましたましろがサンタクロースのおじいさんに会いに行くと、おじいさんは小さな種をくれて――。

 こちらは日本を代表するクリスマス絵本、『子うさぎましろのお話』。文は佐々木たづさん、絵は三好碩也さんです。
 物語は子どものうさぎが欲張って、プレゼントを余計にもらおうとするというシンプルなものですが、この作品も『ビロードのうさぎ』同様、単なる教訓話に終わらない深い作品となっています。
 子どもが嘘をついたとき大人はどうすればいいのか、そして子どもの心はどういう状態になるのか、そういった心理描写的な部分が絶妙だと思うのですが、それを人間同士の話でなく、うさぎとサンタのおじいさんの話にすることによって、物語の世界に入り込みやすく、また共感しやすくなっていますね。ましろというキャラクターも秀逸で、悪い事をしてしまうのですが憎めない可愛らしさが前面に出ていて、子どもの特徴をうまく具現化したキャラクターだと思います。
 もちろん絵も素晴らしいです。ベースは白で、そこにパステルのような線画でちょこちょこ色が付けられています。描き込みすぎないことで白さが目立って、雪の降り積もった冬の雰囲気がよく表わされています。


羊男のクリスマス (講談社文庫)

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【あらすじ】
 クリスマスソングを作曲するよう依頼された羊男。ところが、クリスマスが近づいてもなぜか作曲が進みません。羊男が羊博士に相談すると、羊にとって神聖な日である聖羊祭日には穴の開いた食べ物は食べてはいけないのに、羊男がドーナツを食べてしまったせいで呪いがかかったのが、作曲が進まない理由だと言われます。困った羊男は穴の開いていないドーナツを手に旅に出て――。

 小説家村上春樹さんと漫画家であり絵本画家でもある佐々木マキさんがタッグを組んだ絵本『羊男のクリスマス』。
 あらすじを読んで分かるように何だかわけの分からないめちゃくちゃな話で、ストーリーもあるようでないような不思議な物語です。直接クリスマスとはあまり関係ない感じなのですが、羊男や羊博士、ねじけや双子の女の子など、謎めいたキャラクターが次々と登場して、よく分からないけれどほのぼのとしてクスッと笑えて、ホッとできる絵本となっています。
 村上春樹さんはこういった独特の世界観の短編、ショートショートを多く書いている方ですが、この絵本は村上さんのお話だけでは完成しなくて、やはり佐々木マキさんのイラストが大きな役割を担っているように感じます。元々前衛的な作風で人気を得た漫画家だっただけあって、ポップさがありながらもどこか抜けていて、軽みのある絵なんですね。その抜け感と村上さんの文章の抜け感とがうまい具合にハマっていて、見事な相乗効果を生み出している絵本です。
 ここでは手に入りやすい講談社文庫版を提示しましたが、絵本なので単行本で読んだ方が絵も存分に楽しめて、より絵本感も味わえるのではないかと思います。
 ちなみに“羊男”というのは村上さんの長編小説『羊をめぐる冒険』で初登場し、その後の作品でもチラホラ登場する謎のキャラクターです。同じく村上さんと佐々木さんがコラボし、羊男が登場する『ふしぎな図書館』も良いです。


アンナの赤いオーバー (児童図書館・絵本の部屋)

アンナの赤いオーバー (児童図書館・絵本の部屋)
【あらすじ】
 去年の冬、アンナのオーバーは小さくなっていたので、戦争が終わったら新しいのを買ってもらうことをお母さんと約束していました。そして戦争は終わりましたが、家にお金はなく、お店にも物はありませんでした。お母さんは一からオーバーを作ることを考え――。

 実話を基にした絵本『アンナの赤いオーバー』。作者はハリエット・ジィーフェルトさん、絵はアニタ・ローベルさんです。
 この絵本の最大の魅力は、何もないところから一つのオーバーが出来上がっていく詳しい過程が描かれていることです。金時計と引き換えに羊毛をもらって、ランプと引き換えに羊毛を紡いでもらって、紡いだ毛糸を赤く染めるためにコケモモを摘みます。今はお金さえ払えば簡単にモノが手に入る時代ですが、そうではない時代があり、オーバーひとつ作るということがどれだけ大変なことなのかということが、理屈ではなく実感としてよく分かります。
 モノがないからこそ、モノを大切にする人々の心の豊かさに、温かくなれる絵本です。


 続いて、宮沢賢治の冬の絵本2冊です。


氷河ねずみの毛皮 (日本の童話名作選)

氷河ねずみの毛皮 (日本の童話名作選)
【あらすじ】
 ひどい吹雪に見舞われた12月26日のイーハトヴの停車場、ベーリング行きの急行列車が午後8時に発車します。列車には顔の赤い肥った紳士や痩せた赤ひげの男、船乗りの青年などが乗っていました。列車は一路ベーリングへ向けて、吹雪の中を走りますが――。

 宮沢賢治作『氷河ねずみの毛皮』は、宮沢賢治の童話の中でもさほど知名度が高い作品とは言えませんが、賢治らしさがところどころに読み取れる隠れた名作です。
 宮沢賢治という人は季節の空気や雰囲気を見事に書き表す童話作家ですが、中でも私は冬を描いた童話が好きです。冬特有のピリピリした空気、凍てつくような風、陰影の深い空や大地、そうした冬の雰囲気が肌に伝わるような生々しさを持って描かれています。
 この『氷河ねずみの毛皮』もそうした“冬感”満載の作品ですが、それと同時に自然VS人間という賢治童話の特徴がよく表れた作品でもあります。さりげなくではありますが、動物を殺してその毛皮を利用する人間への警鐘が鳴らされていて、考えさせられるところもありますね。
 絵を描いているのは絵本画家でイラストレーターの木内達朗さん。『急行「北極号」』のクリス・ヴァン・オールズバーグさんの絵とも似ていますが、より重厚かつ陰影が深くて、怪しげでどこか不気味な雰囲気が漂う『氷河ねずみの毛皮』の世界を見事にビジュアル化しています。


雪わたり (ミキハウスの絵本)

雪わたり (ミキハウスの絵本)
【あらすじ】
 雪がすっかり凍ったある日、四郎とかん子の兄妹が雪靴を履いて森の近くまで出かけると、森から白い狐の子がやって来ました。黍団子をあげようと言う狐の紺三郎に、思わずかん子は偽物だろうと言ってしまいます。気を悪くした紺三郎でしたが、狐が嘘つきじゃないことを証明するために二人を幻燈会に招待すると言います。幻燈会の入場券をもらった四郎とかん子は十五夜の夜、森を訪れますが――。

 こちらも宮沢賢治の冬の名作『雪わたり』です。
 大人の世界を描いた『氷河ねずみの毛皮』とは対照的に、『雪わたり』は子どもの世界を描いています。また、前者は人間と自然が対立するさまを主題としていましたが、後者では人間の子どもである四郎とかん子の兄妹と狐の子どもである紺三郎とは、人間と動物という枠を超えて仲を深めます。自然や動物と対立せざるを得ない大人と違い、友達になれる子ども。こういう子どもの描き方も賢治は上手く、子どもというものの本質を突いているように感じます。
 絵を担当するのは方緒良さん。黒と白とグレーのみのモノトーンで描かれた世界からは、まさに空気も凍てつく真冬の感じがヒシヒシと伝わってきますし、この世のものでないようなきつねの世界の幻想的な雰囲気も表現されています。


 続いては、雪をテーマにしたこちらの絵本。


ゆきがやんだら (学研おはなし絵本)

ゆきがやんだら (学研おはなし絵本)
【あらすじ】
 ある朝、“ぼく”が起きたら外は雪が降り積もっていました。雪のせいで保育園はお休み、帰ってくるはずだったお父さんが乗った飛行機も止まってしまって、“ぼく”はママと家に二人きり。“ぼく”はほとんど見たことのない雪にワクワクしますが――。

 酒井駒子さんの絵本『ゆきがやんだら』。
 見慣れない雪を見て喜ぶ子どもを描いたシンプルな作品ですが、“雪”という非日常的なものに敏感に反応し、些細なことにも心をときめかせる子どもの特徴を絶妙にとらえています。また、主人公のうさぎの子は団地のようなところ、つまり普通の町に住んでいるのですが、滅多に雪が降らない地域に雪が降るとこういう感じになるよなぁという感じもうまく描き表わされていて、キャラクターは“うさぎ”ですが、リアリティが感じられます。
 良いなと思うのは、描かれている親子の在り方。雪が降って困ったな、予定が狂って嫌だなというのではなく、いつもとは違うからこそ、この特別な時間を親子水入らずで楽しもうというお話になっていて、子どもを包むお母さんの温かさ、優しさというのが伝わってきます。
 雪というのは不思議なもので、単なる自然現象に過ぎないのですが、雪が降るとまるで別世界のような、日常から切り離されたかのような感覚になります。酒井さんの絵は雪の降る日特有の沈んだ色合いで、そうした閉鎖的で非日常的な暗さをもきちんと描いています。


 最後は日本の冬の童話の名作です。


手ぶくろを買いに (日本の童話名作選)

手ぶくろを買いに (日本の童話名作選)
【あらすじ】
 きつねの親子が棲んでいる森に冬がやって来ました。きつねの子は雪に驚きながらも洞穴を出て、雪の中で遊び回りますが、その手は雪にかじかんで牡丹色になってしまいました。子ぎつねに手袋を買ってやろうと考えた母さんぎつねは、子ぎつねの片方の手を人間の手に変えて、子ぎつね一人で人間の町に行かせますが――。

 童話作家、新美南吉の名作『手ぶくろを買いに』。
 あまりにも有名なので、あえて私が書くこともないのですが……。子どもの頃読んだ時は単純に、子どもに手袋を買ってやりたいと思う母親の愛情、子ぎつねの手を見ても何も言わなかった帽子屋さんの優しさが印象に残り、ハートウォーミングな童話だなと感じました。ですが大人になって読むと、、黙って子ぎつねに手袋を売ってくれた帽子屋の気持ち、人間は恐くないと言う子ぎつねの純粋さ、その言葉を聞いた母さんぎつねの複雑な心情など、考えさせられたり想像させられたりするところも多くて、それだけ重層的で深みのある作品なんだなと改めて思いました。
 この絵本は黒井健さんが絵を描いたバージョンで、黒井さんらしい柔らかくて温かみのある絵が物語の雰囲気とよく合っていて、おすすめです。


 以上が、冬に読みたい絵本・私的10撰です。どれもわりと有名というか、冬の絵本としては定番のものばかりになってしまったような気がしますが、ぜひ、ご参考になさって下さい。


【ブログ内関連記事】
秋に読みたい絵本・私的10撰 2013年9月21日
宮沢賢治の絵本・私的10撰 2014年9月20日  記事内で『雪わたり』『氷河ねずみの毛皮』を取り上げています。
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by hitsujigusa | 2013-12-15 02:45 | 絵本 | Trackback | Comments(0)