フィギュアスケーター衣装コレクション⑤―安藤美姫編

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 久しぶりのフィギュアスケーター衣装コレクション。第5弾になります。今回は2013年に現役を引退された安藤美姫さんの衣装を見ていきたいと思います。



 
 女子選手史上初の4回転ジャンパーとして一躍ブレイクした安藤さん。注目を浴びたトリノ五輪は15位と悔しい結果に終わりましたが、翌年の世界選手権では初めての優勝。その後もメンタル面の不安定さや怪我などが影響して波のある時期もありましたが、2009年の世界選手権で銅メダル、2010年のバンクーバー五輪で5位入賞、そして2011年の世界選手権で自身二度目の女王に輝くなど、素晴らしい経歴を残し、2013年の全日本選手権をもって現役を引退されました。引退後はプロスケーターとして活躍、また、テレビにも多く登場されています。
 そんな輝かしい成績を収めてきた安藤さんですが、独創的・個性的なコスチュームも魅力のひとつでした。さっそく素敵な衣装の数々を見ていきましょう。


 まずは安藤さんが初の世界女王になった06/07シーズンのショート「シェヘラザード」とフリー「ヴァイオリン協奏曲 第1楽章」です。

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 フィギュア界の大定番「シェヘラザード」は異国情緒漂う旋律が印象的ですが、安藤さんの衣装もその風情を想起させるものになっています。青と水色をベースに、ところどころに施された金色がよりアラブっぽさを感じさせますね。デザインは左右非対称でヌーディーな部分も多く、アンバランスな感じが個性的です。
 一方、「ヴァイオリン協奏曲」の衣装はシンプル。華々しく華麗な音楽にふさわしい鮮やかな真紅。情熱、激しさをイメージさせます。また、首元、胸元にあしらわれた装飾がなおいっそう華やかです。ワンピースの形は左右対称かつスタンダードで、斬新なショートの衣装とは正反対ですね。
 こうした独創的な衣装とシンプルな衣装というふたつの流れは、その後の安藤さんの衣装にも受け継がれていきます。


 次は07/08シーズンのフリー「カルメン」。

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 こちらもフィギュア界の王道、特に女子選手の十八番「カルメン」ですが、やはりオリジナリティー溢れるコスチュームによって安藤美姫特有の色を出しています。
 衣装全体は黒と赤がベース。胸部分は黒と赤が交錯するようなデザインで、花を横から描いたようにも見えます。そこから稲妻のように一筋の赤が垂れ下がり、黒いスカートにビビッドなアクセント加えています。また、安藤さんの衣装の特徴のひとつと言えるのがシースルー生地の使い方の巧さ。腕部分や腹部にうっすら透ける素材を使うことで色気を醸し出しています。
 黒と赤を基調にした衣装は「カルメン」ではよく見られますが、個性的なデザインで他の「カルメン」とは一線を画し、それでいて見事に“カルメンらしさ”も表した素敵な衣装だと思います。


 続いては08/09シーズンのショート「チェアマンズ・ワルツ 映画『SAYURI』より」とフリー「交響曲第3番 オルガン付き」です。

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 このシーズンは奇抜な衣装のショート、シンプルな衣装のフリーという06/07シーズンのパターンを踏襲しています。
 ショートプログラムは日本を舞台にしたハリウッド映画『SAYURI』の中の楽曲を使用しましたが、あまり日本らしい衣装ではありません。以前当ブログで紹介した中野友加里さんの「SAYURI」の衣装は襟ぐりが深いV字になっていたり袖が広がるようになっていたりと、“着物っぽさ”を存分に意識したものでしたし、アメリカの長洲未来選手も「SAYURI」を使用しましたが、やはり着物風でした。それらと比較すると安藤さんのコスチュームは、あえて“日本らしさ”を避けているように感じます。
 身体の右半分はビロードのような質感のある青紫の生地づかい。首元は詰め襟風、胸元からスカートにかけてはカクカクとしたデザインで、ラインストーン(スパンコール?)で縁取りがなされています。身体の左側は鮮やかなピンクの花をあしらったエレガントな趣き。スカートは花びらを重ねたデザインになっていておもしろいですね。どちらかというと花は洋風で、青紫のスカートに施された控えめな桜の刺繍とは対比的です。
 和風でも西洋風でもなく、左右で雰囲気の全く異なるコスチュームはエッジが効いていてインパクトがありますね。
 対照的にフリーの衣装は、左右対称な作りのワンピース。06/07シーズンのフリー同様、胸の上の部分と腕は透け感のある素材、胸から胴にかけては透け感のない素材で覆うというデザイン。シックな深い紫の中に細かな装飾を散りばめ、また、サイドから中央に向かって入るシルバーのラインがアクセントになっていて、スタイリッシュさもありますね。サン=サーンスの「交響曲第3番 オルガン付き」は重厚かつ硬質な雰囲気が印象的な楽曲ですから、このクールな色づかいとデザインはまさにピッタリです。


 次はバンクーバー五輪が開催された09/10シーズンのフリー、「ドラマ『ROME[ローマ]』より/映画『ミッション・クレオパトラ』より」の衣装2つです。

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 このシーズン、安藤さんはほぼ毎試合でフリーの衣装を変えるという試みを行いました。今回取り上げたのは、上の写真がグランプリファイナルでのもの、下の写真がバンクーバー五輪でのものです。
 プログラムのテーマは“クレオパトラ”ということで、どちらの衣装もまさにクレオパトラらしさを感じさせますが、両コスチュームの毛色は多少違います。上の青い衣装は左右非対称タイプ。ヌーディーな生地に蛇の図や異素材を組み合わせてエキゾチックな風情を醸し出しています。一方、下のエメラルドグリーンの衣装は左右対称で模様や柄は無しのシンプルタイプ。ですが、両方とも大ぶりのラインストーンを用いたり金色の縁取りをしたりと共通点があります。また、首元のデザインやスカートの中央に布が垂れ下がっているのも同じですね。うまくエジプトっぽいカラーや装飾を使いつつ、オーソドックスになり過ぎない新鮮味を与えてくれた、“クレオパトラ”の衣装の数々でした。


 そしてこちらは10/11シーズンのショート「映画『ミッション』より」とフリー「ピアノ協奏曲 イ短調」です。

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 それまでしばしば見られた個性的な衣装とシンプルな衣装との組み合わせではなく、このシーズンはショート、フリーともにシンプルなコスチュームという安藤さんにしては珍しいパターンでした。
 ショートの衣装は淡いピンク色。色もそうですが、繊細なレースを衣装全体にあしらうなどそれまでの安藤さんにはあまり見られなかったタイプの衣装でした。プログラムは映画『ミッション』のサントラを使用していて、宗教的な映画ではあるのですがプログラム自体はさほど宗教色は無く、穏やかでしっとりと女性らしい旋律が印象深く、そういったこととも併せて安藤さんの新境地ともいえる作品・衣装だったと思います。
 フリーはクラシックの名曲、グリーグの「ピアノ協奏曲」。優雅な柔らかさもありながら男性的なダイナミックさも兼ね備えていて、漆黒の中にシルバーのラインやネックレス風の装飾がなされたコスチュームは音楽の雰囲気にぴったりですね。やはりこの衣装も06/07シーズンのフリー、08/09シーズンのフリーと同様に透け感のある部分と無い部分のバランスがほぼ同じで、同系統の衣装と言えます。


 最後は安藤さんの現役ラストシーズンとなった13/14シーズンのフリー、「火の鳥」です。

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 ストラヴィンスキーの「火の鳥」は、安藤さんにとって初めて全日本選手権を制し、世界ジュニア選手権でも初優勝を果たしたシーズンに使用した思い入れ深い楽曲。最後と決めたシーズンに再びこの作品を演じたわけですが、かつての「火の鳥」の衣装が赤一色だったのと比べ、こちらは赤の中に紺、ブルー、紫、シルバー、オレンジなど多彩な色が複雑に混じり合っています。このシーズンの「火の鳥」の衣装はもうひとつあって、そちらは黒を基調として赤と青が混じり合った花が描かれているのですが、どちらの衣装にしても赤一色ではなくて、多種多様な色が散りばめられているというのが興味深く感じました。いろんな色がひとつになったこの衣装は、情熱も明るさも苦悩も闇も全て自分のものにした安藤美姫というスケーターを象徴しているような気がしました。


 こうして安藤さんの衣装の一部をざっと見てみますと、やはり2つの系統に分けることができそうです。「シェヘラザード」や「カルメン」「チェアマンズ・ワルツ」のような独創的なものと、「ヴァイオリン協奏曲」や「交響曲第3番 オルガン付き」「ピアノ協奏曲 イ短調」のようなシンプルなもの。どちらも素敵なのですが、興味深いのは安藤さんが世界選手権でメダルを取った時のフリーの衣装はシンプルなものばかりということですね。逆にいえばシンプルな衣装の時ほど調子が良いということが言えそうです。もちろんたまたまだとは思いますが、おもしろい法則だなと思います。
 ブレイクした当初はジャンパーとしての技術面が注目を浴びた安藤さん。しかし、個性的なプログラム、斬新な衣装など常にチャレンジを続け、表現者・アーティストとしても唯一無二の世界を見せ続けてくれました。プロスケーターとして、指導者として新たな道を歩み始めた安藤さんのこれからのご活躍をお祈りしています。


:記事冒頭の安藤さんのポートレート写真は、安藤美姫さんの公式フェイスブックページから、「ヴァイオリン協奏曲」の写真、「カルメン」の写真は、ウェブサイト「ゲッティイメージズ日本」から、「シェヘラザード」の写真、「チェアマンズ・ワルツ 映画『SAYURI』より」の写真、「交響曲第3番 オルガン付き」の写真、「ドラマ『ROME[ローマ]』より/映画『ミッション・クレオパトラ』より」の青い衣装の写真、「映画『ミッション』より」の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、「ドラマ『ROME[ローマ]』より/映画『ミッション・クレオパトラ』より」のエメラルドグリーンの衣装の写真はアイスダンス情報ウェブサイト「Ice-dance.com」から、「ピアノ協奏曲 イ短調」の写真は、朝日新聞のニュースサイト内のフォトギャラリー「安藤美姫選手のあゆみ」から、「火の鳥」の写真は毎日新聞のニュースサイト内の写真特集「フィギュア:安藤が優勝 フリーは91.05 関東選手権」から引用させていただきました。


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by hitsujigusa | 2014-05-30 15:02 | フィギュアスケート(衣装関連) | Trackback | Comments(0)