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全日本選手権2014・男子&アイスダンス―羽生結弦選手、圧巻の3連覇(前編)

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 遅くなりましたが、全日本選手権2014についての記事をお届けします。まずは男子とアイスダンスです。
 男子を制したのはエースの羽生結弦選手です。他を寄せ付けない圧倒的な演技と得点で高橋大輔選手以来となる3連覇を達成しました。2位に入ったのはジュニアの宇野昌磨選手。ジュニアGPファイナルで優勝した勢いそのままに、全日本でも初の表彰台に立ちました。3位はベテランの小塚崇彦選手で、2年連続の銅メダルを獲得しました。
 アイスダンスではキャシー・リード、クリス・リード組がこちらも3連覇を果たしました。

第83回全日本フィギュアスケート選手権大会 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 金メダルを手にしたのは羽生結弦選手です。

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 今シーズンまだ完璧な演技ができていないショート、まずは得意の4トゥループを難なく成功させて3点という驚異的な加点を得ます。後半に入り、3アクセルもクリーンに成功。次は今季鬼門となっている3ルッツからの連続ジャンプでしたが、ルッツの軸が空中で曲がって着氷でバランスを崩しかけたため、セカンドジャンプは2回転となってしまいます。しかし、それ以外にミスらしいミスはなく、羽生選手らしい安定感のある演技を見せました。得点は94.36点、堂々の首位発進となります。

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 翌日のフリー、冒頭はGPファイナルできれいに成功させた大技4サルコウでしたが、回り切ってはいたもののあえなく転倒となります。しかし、続く4トゥループは相変わらずの安定感でパーフェクトに決めます。後半になってもジャンプに陰りは見えず、鬼門となっている3ルッツからの連続ジャンプ、得意の3アクセルからの連続ジャンプ2つ、そしてファイナルでは転倒してしまった最後の3ルッツもしっかり着氷させ、圧巻のフィニッシュを迎えました。得点は192.50点、2位に大差をつける圧倒的な内容と得点で文句なしの3連覇を成し遂げました。
 SPではやはり3ルッツでのミスがあって今回もその課題を克服することはできなかったのですが、翌日のフリーではまるで別人のように完璧に3ルッツを跳んでいて、修正能力の高さというのを改めて感じました。元々羽生選手にとって3ルッツは苦手なジャンプではないですから、フリーの方が本来の姿なのですが、ショートの流れの中で跳ぶ3ルッツというものに、フリーの時とは違う感覚やタイミングのズレがあるのかもしれないですね。
 そして表現的には、ショートはだいぶ音楽の世界観を表すという点において完成度が高まってきたかなと思うのですが、フリーの「オペラ座の怪人」に関してはまだ羽生選手らしさというのを存分に発揮するまでには至っていないかなと感じます。ファイナルの時もそう感じたのですが、今大会はそれに加えて演技全体にキレがなく、セーブしながら振り付けを淡々とこなしているという印象でした。
 フリーの翌日の28日、羽生選手はファイナル期間中から断続的な腹痛があったこと、精密検査を受けること、そのため29日のエキシビションの出演をキャンセルすることが発表されました。そして30日、日本スケート連盟から羽生選手の検査結果について、尿膜管遺残症という病気であること、手術を行ったことが明かされました。
 数週間断続的に腹痛があったということで、競技の過密スケジュールが影響を及ぼしたのか、中国杯でのアクシデントが関係しているのかとも思いましたが、先天的なものが今になって症状として現れたということのようですね。もちろん外科出術を要するほどの病気なので心配ですが、命に大きく関わるようなものでなくて良かったなと思いますし、今後競技者を続けていく上でも選手生命を脅かすようなものではなさそうなので少し安心しました。治療には2週間の入院と1か月の安静が必要とのことで、6週間以上リンクでの練習ができないことを考えると、世界選手権に向けては身体的な感覚や体力回復の面でかなり厳しいことになりそうだなと思うのですが、オリンピックシーズンの翌シーズンにこういった病気が現れるということは、ある意味神様が羽生選手にゆっくり休みなさいと言っているのだと解釈することもできるので、とにかく今は世界選手権のことは一旦忘れて治療に専念してほしいですね。2014年は一心不乱に突っ走ってきた羽生選手ですから、2015年の年始めは神様から与えられた休息を有効に使ってほしいなと思います。
 なにはともあれ、全日本選手権優勝、おめでとうございました。


 2位は全日本ジュニアチャンピオン、ジュニアGPファイナル王者の宇野昌磨選手です。

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 SPはベートーヴェンの「ヴァイオリンソナタ第9番」。まずは得点源となる大技の3アクセル、一見きれいに決まったかに見えましたが、若干着氷でフリーレッグが氷についてしまいわずかに減点されます。しかし次の4トゥループは完璧な跳躍。後半の3+3も問題なく成功させると、ヴァイオリンの華麗かつ繊細な旋律に乗ったメリハリのある演技を披露。ステップシークエンスやスピンでも全てレベル4を獲得し、得点は85.53点で3位の好発進となります。

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 フリーは「映画『ドンファン』より」。冒頭は前日成功させた4トゥループ、しっかりとした回転と着氷でこちらもパーフェクトに成功させます。続く3アクセルも決めると、2本目の3アクセル+2トゥループもクリーンに降りて高い加点を得ます。後半に入っても勢いは衰えず、2アクセル+1ループ+3フリップの難しい3連続ジャンプを始め、相次いでジャンプを成功。最後の3+3のセカンドジャンプの回転が足りず着氷で乱れる場面はありましたが、それ以外にミスと言えるミスのないほぼノーミスの演技でスタンディングオベーションを受けました。得点は165.75点、フリー3位で総合2位に順位を上げました。
 ショート、フリーともに本当に素晴らしい演技、内容でしたね。シニアの実力者たちに囲まれての演技でしたが、そういった選手たちと比べても全く見劣りのしない存在感、ジャンプ、圧倒されるような迫力があり、演技を見ているあいだはジュニアの選手ということが頭から消え去ってしまいました。宇野選手自身はSPに関してもフリーに関しても辛めの評価で特に表現面を課題に挙げていますが、私なんかからすればこの年齢でこれだけの魅せる力があるということはそれだけで凄いなと思いますし、確かにつなぎや振り付け以外の部分では改善の余地はあるでしょうが、それは伸びしろがあるということですし17歳という年齢を考えれば当たり前のことなので、もっと堂々としていてもいいのになと感じましたね。でも、この謙虚さ、控えめさが宇野選手のレベルアップ、向上を後押ししているのかもしれません。
 今大会の結果によってISU主催のシニアの選手権大会である四大陸選手権への出場も決まり、来季のシニア参戦に向けて着々と力強い歩みを進めている宇野選手。気負うことなくのびのびと、四大陸でも宇野選手らしい演技をしてほしいなと思います。


 3位は前年の銅メダリスト、小塚崇彦選手です。

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 ショートは小塚選手史上初めてのタンゴ。まずは大技4トゥループでしたが、ダウングレード(大幅な回転不足)で転倒となります。続く3アクセルはクリーンに成功。ですが、後半の3+3はファーストジャンプの3ルッツで着氷が乱れ、コンビネーションにならず。ステップシークエンスでは小塚選手らしい滑らかかつスピード感溢れるスケーティングを存分に見せつけましたが、演技を終えた小塚選手は渋い表情を浮かべました。得点は72.39点で6位につけます。

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 フリーの冒頭はショートで完全な失敗に終わった4トゥループから、やはり回転不足で降りてきてしまいますが、何とかこらえます。さらに2本目の4トゥループも回転が足りなかったものの、うまくセカンドジャンプに繋げて連続ジャンプにします。続く3アクセルはきれいに成功。後半もいくつか着氷で詰まったりこらえたりする場面はあったものの転倒することはなく、音楽の盛り上がりとともにぐんぐんスピードを増す終盤は圧巻の滑り。フィニッシュした小塚選手は握り締めた拳を天に突き上げ、派手なガッツポーズで歓喜を爆発させました。得点は173.29点、フリー2位で総合3位にジャンプアップしました。
 SPは4回転で大きなミスがあり、しかもコンビネーションジャンプが入らないという致命的なミスもあり、かろうじてフリーの最終グループに滑り込んだという感じでした。しかし、フリーではこの1年間の鬱憤を晴らすかのような会心の演技。細かく見ればジャンプミスは多いですし、まだまだ本来の小塚選手のジャンプとは言えないのですが、演技全体の一貫した流れの美しさ、滞りなく流れる大河を想起させるような気持ちの良いほどよく滑る壮大なスケーティングは迫力に満ちていて、見ていて胸がスカッとしましたね。
 また、表現的にも一皮剥けたのかなという印象で、淡泊さが特徴だったこれまでの小塚選手とは一線を画する粘っこさみたいなものが出てきたような気がします。そして何といっても“大人の色気”が演技に滲み出るようになってきて、SPのタンゴ、エキシビションのフラメンコでもこれまではあまり感じられなかったような艶っぽさ、色っぽさが感じられ、クールな表情とは裏腹の熱さが絶妙な渋みを生み出しているように思います。子どもを想う父親の気持ちを歌ったフリーの「Io Ci Saro」(日本語タイトルは「これからも僕はいるよ」)も、一歩間違えるとボーカルのパワーに押されてスケーターの存在感が薄れてしまう恐れもあると思うのですが、今大会は小塚選手のスケートの力強さと歌声のエネルギッシュさが見事に一体化して、小塚選手が歌を引っ張っているかのような演技で、まさに現役随一のスケーティング技術を持つ小塚選手にしかできない表現の仕方だと感じました。ジャンプ的には世界選手権で銀メダルを獲得した10/11シーズンがピークかもしれませんが、表現的には今の小塚選手の方が私は断然好きですし、世界選手権銀メダリストとなって以降、さまざまな苦労や挫折を経験してきた小塚選手だからこそ、明るさや爽やかさだけじゃない、暗さや苦々しさも漂わせる奥行きのある表現ができるようになったんじゃないかなと思いますね。
 シーズン後半の大舞台に向けて大きく一歩を踏み出した小塚選手。次戦も満足のいく演技となることを願っています。


 4位は今大会をもって現役引退した町田樹選手です。

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 SPはまず4+3の難しい連続ジャンプを確実に成功。続く3アクセルもパーフェクトに決めます。スピンではレベルを取りこぼす場面もありましたが、複雑なステップシークエンスを丁寧に滑り切った後、きつい最終盤での3ルッツもきっちり着氷させ、気持ちのこもった演技で観客を沸かせました。得点は90.16点で2位の好位置につけます。

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 そして迎えたフリーはベートーヴェンの「交響曲第9番」。冒頭の4トゥループはしっかりと成功させ、2本目の4トゥループからの連続ジャンプに向かいましたが、ファーストジャンプで転倒しセカンドジャンプに繋げられません。続く3アクセル、3サルコウは成功させたものの、後半の3アクセル、3フリップでチラホラとミスがあり、また、3つのスピン全てでレベルを取りこぼしてしまいます。しかし、最後まで表現に徹し、指先、爪先にまで心が表れる町田選手らしい演技を見せ、演じ終えた町田選手は納得したように微笑みました。得点は152.45点、フリー5位で総合では4位となりました。
 GPファイナル後に体調を崩し高熱が出たこともあったようで、万全の調整はできなかったのかなと思うのですが、その中でも“表現する”ということに対して真摯な町田選手の姿は心に響きましたし、ジャンプは別にして、表現者としての町田選手の全てを出し尽くしたと言っても過言ではない演技だったと思います。
 ご存知のように、町田選手はフリーの翌日の28日、今大会をもって現役を引退することを発表し、29日のエキシビションを最後に競技者としての活動にピリオドを打ちました。このことに関しては、こちらの記事に引退の詳細と全日本での演技についても多少書きましたので、ここではあまり突っ込んで書くことはしないでおこうと思います。全日本が終わって、年が明けて、町田選手はもうフィギュアスケート選手ではなく一学生として歩き出していることでしょう。そんな町田選手の未来が明るく輝くものであることを心から祈っています。


 5位となったのは無良崇人選手です。

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 ショートはまず、今季安定感を増した4トゥループでしたが、回転は足りていたものの転倒してしまいます。ですが、直後の3アクセルは無良選手らしい高さ抜群の跳躍で加点2の高評価。後半の3+3も完璧ではありませんでしたが確実に成功させ、冷静に演技を立て直しました。得点は78.54点で5位発進となります。

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 フリーも冒頭は2本の4トゥループからで、1本目は着氷で乱れ減点を受けます。しかし、2本目の4トゥループはしっかり着氷させ、かつ、3トゥループに繋げて確実に連続ジャンプにします。さらに得意の3アクセルも決めて、序盤はまずまずの内容。ですが、後半に入ると3ループや3フリップといった大技以外のジャンプでほころびが出てしまい、無良選手はフィニッシュ後、表情を曇らせました。得点は157.86点でフリー4位、トータルでは5位に留まりました。
 3アクセルはショート、フリーともにノーミスで、4回転に関してもフリーではSPからうまく修正したなという感じだったのですが、それだけにほかのトリプルジャンプの失敗がもったいないと言わざるを得ないですね。フリーは内容的にはファイナルの時とほぼ同じで、後半の3ループ、3フリップ、3サルコウ+1ループ+2サルコウのところでミスしてしまっていて、無良選手自身は悪いイメージがあったわけではないと話していますが、ボタンの掛け違いのように一度出現したズレを元に戻せなかったのかなという印象ですね。
 ですが、ジャンプの調子自体はそんなに悪くは見えなかったですし、実際高難度の4回転や3アクセルは安定しているわけですから、ボタンを正しい穴にはめることさえできれば、大丈夫なのではないかという気がします。
 このあとのシーズンでは2014年末に得た悔しさを晴らして、スケートカナダの時のような笑顔が見られることを楽しみにしています。



 さて、この記事はまだまだ続くのですが、長くなりそうなのでとりあえずここで一旦終了にさせていただきまして、続きは(後編)に書きたいと思います。面倒をおかけして申し訳ないのですが、(後編)もご覧いただけると幸いです。


:男子メダリスト3選手のスリーショット写真、羽生選手のフリーの写真、宇野選手の写真、小塚選手のSPの写真、町田選手の写真、無良選手の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、羽生選手のSPの写真、小塚選手のフリーの写真は、毎日新聞のニュースサイトが2014年12月26日に配信した記事「写真特集:2014全日本フィギュア 華麗なる戦い」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2015-01-07 03:10 | フィギュアスケート(大会関連)