フィギュアスケーター衣装コレクション⑩―鈴木明子編

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 フィギュアスケーター衣装コレクション第10弾は13/14シーズンをもって引退された鈴木明子さんです。世界随一の表現力を持つスケーターとして活躍された鈴木さん。プログラムの表現、選曲はもちろん、プログラムの世界観を表す衣装からも常にこだわりを感じさせる選手でした。そんな鈴木さんのコスチュームを今回は取り上げます。



 
 
 まずは鈴木さんがバンクーバー五輪に出場した09/10シーズンのSP「アンダルシア 『リバーダンス』より/ファイヤーダンス 『リバーダンス』より」、フリー「ウエストサイドストーリー」です。

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 ショートはアイルランドの文化をコンセプトにした舞台作品『リバーダンス』の楽曲を使用したプログラム。アイリッシュ・ダンスをメインにした作品ではあるのですが、その中にはラテンっぽい雰囲気の音楽もあり、鈴木さんのプログラムはそれらを用いていますね。そのため衣装も黒とオレンジをベースにしたラテンの色づかいとなっています。ただ、メインは黒で暖色のオレンジは部分的な使い方になっているので、全体的にシックな印象を与えます。その一方で上半身に金色と銀色で大らかな曲線が描かれていて、華やかさとシックさのバランスがほどよいですね。
 フリーはおなじみのミュージカル「ウエストサイドストーリー」。このプログラムではシーズンを通して複数のコスチュームが使用されましたが、今回選んだのはオリンピックや世界選手権で着用されたもの。複数ある衣装はどれも赤を基調にしていて、プログラムの情熱や陽気さ、明るさを前面に押し出していますが、この衣装は中でも最も赤が濃く、デザイン的にも動きがあり、インパクトがあります。また、「ウエストサイドストーリー」のヒロインはプエルトリコ系アメリカ人のマリアということで、色づかいも胸元にあしらわれた花もそういったラテンのイメージを取り入れているのかなと思いますね。


 続いては11/12シーズンのSP「ハンガリアンラプソディー」とフリー「こうもり序曲」です。

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 シーズンを通してグレーの衣装のみを使用した「ハンガリアンラプソディー」。黒とグレーという色づかいは地味な印象になりやすく、また、少し間違えると貧相な印象にもなりかねないので難しいと思うのですが、鈴木さんは素材感やデザインによって品格あるドレスに仕上げています。ベースとなるグレーの生地は光沢のあるベルベット風生地で、翻るたびに艶やかなスカートが光を放ってきれいです。そして黒い部分は花びらをかたどっていますが、カクカクっとした形になっているので硬質感があり、花でありながらクールなイメージを与えていて、硬質な音色のヴァイオリンが奏でるプログラムのかっこいい雰囲気にピッタリ合っています。
 一方、フリーの「こうもり序曲」はシーズンを通して3つの衣装が使用されましたが、今回選んだのはグランプリファイナルと全日本選手権で着用されたピンク色の衣装、世界選手権とワールド・チーム・トロフィーで着用された青い衣装の2着です。ピンクのストラップレス風ドレスは首元に繊細なネックレス風の装飾が施され、胸の部分が細かなモザイク柄になっていて、色とりどりの華やかな装飾があしらわれています。ボディの部分は細かなラインを描くことでキュッとウエストを絞っていて、そこから広がるスカートはふんわりとしてエレガントです。青い衣装の方はよりシンプルなデザインですが、首元から胸元にかけて植物の蔓草のような装飾が施され、金属風のシルバーと大ぶりな青いジュエリーがあしらわれていて、とてもゴージャスな作りとなっています。どちらも格式高い「こうもり序曲」の雰囲気に合っていますが、前者はよりフェミニンで可愛らしく、後者はより大人っぽく風格があり、同じプログラムでもコスチュームが違うことによって若干イメージも変わっていて、スケーターの表現の意図がうかがえる両コスチュームですね。


 次は12/13シーズンのSP「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY 映画『キル・ビル』より/映画『レジェンド・オブ・デスペラード』より」、フリーの「O」です。

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 SPは二つの映画のサントラを組み合わせたプログラムですが、コンセプトは『キル・ビル』の方に絞り、映画のイメージを最大限に活かしたものとなっています。衣装はレザーっぽい光沢のある生地で、クールな黒一色。首元は立て襟付きで、ところどころにシルバーの装飾が施されて非常にロック&パンクなカッコいいデザインとなっています。その一方で胸元が大きく開きスカートもスリットの入ったミニで、セクシーな女性のイメージを醸し出していますね。また、この写真では見えませんがスカートの裏地が鮮やかな黄色になっていて、映画の主人公が着ている黄色いトラックスーツを思わせて、細かな工夫がうかがえます。
 フリーの「O」はサーカス集団シルク・ドゥ・ソレイユの舞台作品。“O”とはフランス語で“水”を意味する“eau”に由来していて、水をモチーフにした作品となっていますが、鈴木さんのプログラムは“鳥”のイメージを前面に押し出し、鈴木さん自身が自由に戯れ羽ばたく鳥を演じています。ということで衣装も水を想起させる深い青を基調としながら、そこに鳥の翼のようなデザインを大胆にあしらっています。左肩の部分のファーやエメラルドグリーン、ライトブルー、ゴールドといった色とりどりの装飾など、さまざまな色を使いながらも全くごちゃごちゃとした感じはなく、まるで絵画のように一つのデザインとして統一、一体化しています。鳥をイメージしたコスチュームというのはほかの選手でもしばしば見られるのですが、その中でも最も美しく、最も鳥らしい衣装ではないかと思いますね。


 最後は鈴木さんが現役引退された13/14シーズンのSP「愛の讃歌」とフリー「オペラ座の怪人」です。

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 SPの「愛の讃歌」は写真の紫の衣装とソチ五輪で使用された赤い衣装の2つがありますが、今回は多く着用された紫の衣装を選びました。「愛の讃歌」の情熱的なイメージからすると赤い衣装も合っているのですが、音楽自体が華やかでゴージャスさがある分、衣装はシックな方がバランスが取れてより良いんじゃないかなと思います。ただ、単に紫だからシックというのではなく、肩や腰に大ぶりのジュエリーでインパクトのある装飾を施していますし、ドレス全体に細かなビジューやラインストーンで幾本ものラインを走らせていて、それによって華々しさもプラスされています。色づかいと装飾づかいのバランスが素晴らしいコスチュームだと思います。
 フリーの「オペラ座の怪人」では3つの衣装が使用されましたが、今回は全日本選手権、ソチ五輪で着用された胸元が花柄の衣装と、世界選手権で使用された純白の衣装の2つをチョイスしました。シーズン序盤では上半身がレース風の白、スカートがネイビーというツートーンのドレスを使用していてこちらもとても素敵だったのですが、ブログかどこかで鈴木さん自身がおっしゃっていたように、「オペラ座の怪人」のヒロイン・クリスティーヌのイメージは“白”ということで、シーズン後半は白に統一しました。全日本選手権、ソチ五輪で着用した衣装は、コスチュームの形はシンプルながら、肩のストラップ部分と胸元が一面お花畑のように花で埋め尽くされていて、ものすごく繊細で凝った作りになっています。よくよく見るとピンクやイエロー、紫や青など多彩な色のお花があしらわれているのですが、遠目から見た時に全くごちゃごちゃ感なく本当に綺麗にベースの白の中に溶け込んで一体化していて、見れば見るほど凄い衣装だなと感嘆してしまいます。そして、鈴木さんの引退試合となった世界選手権で着用されたのはさらに真っ白なドレス。カラーは白のみで実にシンプルなのですが、首元のネックレス風の装飾や肩のストラップ、胸元など衣装全体に渡って白やシルバーの細かなビジューがあしらわれていて、じっくり見るとお腹の部分がレース風でもあり、職人技のような本格的な衣装となっていますね。



 鈴木さんの衣装を振り返るのはここでおしまいとなりますが、こんな短い記事では取り上げきれないくらい、フィギュア界では右に出る者はいない“ファッションリーダー”だったと言えるのではないかと思います。。「ハンガリアンラプソディー」や「キル・ビル」のように比較的クールなものも、「こうもり序曲」や「オペラ座の怪人」のような可愛らしいものも、さまざまなタイプの衣装を見事に着こなし、自分のものにする選手でしたね。それはコスチュームのみならずプログラムに関しても言えることで、これほど型にはまらない多彩な表情を持つ選手は今後なかなか出てこないんじゃないかと思います。そういった不世出の表現力が衣装にも表れていたんだなと感じますね。引退してからも変わらずアイスショーでは素晴らしいプログラムとコスチュームを披露し続けてくれていて、これからもますます楽しみなスケーターですね。今後も鈴木明子さんのご活躍を祈っています。では。


:記事冒頭の鈴木さんのポートレート写真、「アンダルシア 『リバーダンス』より/ファイヤーダンス 『リバーダンス』より」の写真、「オペラ座の怪人」の花柄の衣装の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、「ウエストサイドストーリー」の写真、「オペラ座の怪人」の白い衣装の写真は、写真画像ウェブサイト「ゲッティイメージズ」から、「ハンガリアンラプソディー」の写真はブログ「Naked Ice」が2011年12月18日に配信した記事「End of 2011-2012 Grand Prix Thoughts」から、「こうもり序曲」のピンクの衣装の写真、「O」の写真は、フィギュアスケートコスチューム情報ウェブサイト「フィギュアスケート・コスチューム図鑑」から、「こうもり序曲」の青の衣装の写真は、アメリカのファッションデザイナー、ニック・ヴェレオスさんの公式ブログが2012年4月1日に配信した記事「Figure Skating Fashion Minute: ISU 2012 World Championships Nice France--The Ladies Finals Costume Review!」から、「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY 映画『キル・ビル』より/映画『レジェンド・オブ・デスペラード』より」の写真はインターネットフォーラムサイト「SkyscraperCity」から、「愛の讃歌」の写真はスポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2015-10-12 01:31 | フィギュアスケート(衣装関連) | Trackback | Comments(0)