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猫の絵本・私的10撰

せかいいちのねこ (MOEのえほん)



 さて、今回のテーマは猫の絵本・私的10撰です。なぜ今猫かというと、数日後に迫った2月22日はニャンニャンニャンで猫の日なんですねー。ということで、個人的に好きな猫の絵本を10冊取り上げたいと思います。


 まずは定番の猫絵本2冊です。


11ぴきのねことあほうどり

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【あらすじ】
 あるところにおなかぺこぺこの11ぴきのねこがいました。11ぴきはコロッケのお店を始めますがコロッケは毎日売れ残り、11ぴきは毎日コロッケを食べ続けるはめに。コロッケにうんざりし、鳥の丸焼きを食べることを夢見る11ぴきのまえに、ある日あほうどりが現われて――。

 言わずと知れた馬場のぼるさんの名作ベストセラー「11ぴきのねこ」シリーズ。今回はその2作目『11ぴきのねことあほうどり』を取り上げます。
 シリーズの第1作目が出版されたのは1967年。そしてこの2作目が発表されたのは1972年。私が生まれるずっと前なのですが、独特の少しスパイスの効いたユーモア、ねこたちのユニークさはいつの時代の子どもたちにも受け入れられるおもしろさなのではないかと思います。その中でも『11ぴきのねことあほうどり』は私の中で最も強烈に印象に残っていて、あほうどりを目の前にして鳥の丸焼きを思い浮かべたり、最後の思いがけないオチなど、決して良い子(良い猫?)ではなく悪だくみをしたりズルいことを考えたりもするけれど、でもなんだか憎めない11ぴきの魅力が存分に発揮されている作品と言えます。
 作者の馬場さんは実は漫画家なんですね。かの手塚治虫氏とも並び称される方だそうで、子どもの頃はそんなことは全く知らずにこの絵本を読んでいましたが、“漫画”という視点を加えて見てみると、たしかにシンプルな線や色づかいや絵柄、単純明快ながら何度読んでもクスリと笑えるストーリー展開は大人になってから思うと漫画家ならではという感じがします。
 繊細で凝った絵や、複雑でメッセージ性の高いストーリーで素晴らしい現代の絵本ももちろん多くありますが、ある意味それとは真逆を行く「11ぴきのねこ」は、子どもに支持され続ける、本当の名作だと思いますね。


猫の事務所 (日本の童話名作選)

猫の事務所 (日本の童話名作選)

【あらすじ】
 軽便鉄道の停車場の近くにある猫の第六事務所には、事務長の黒猫、一番書記の白猫、二番書記の虎猫、三番書記の三毛猫、そして四番書記のかま猫がいました。かま猫はほかの書記たちから見下されいじめられながらも、懸命に仕事を続けていましたが――。

 宮沢賢治の名作『猫の事務所』。絵本としてもいくつかのバージョンが出ていますが、今回取り上げたのは絵本画家・黒井健さんが絵を手がけたものです。
 以前も、宮沢賢治の絵本・私的10撰という記事でこの絵本をピックアップしてますのでそちらもぜひご参考いただきたいのですが、猫の世界における優劣や差別をシビアに描写していて、ストーリー的には大人向けかなと思うのですが、黒井さんの温かみのある絵がうまくそこを補って、子どもにも読みやすい絵本になっていると思います。


 次は一風変わった猫絵本4冊です。


せかいいちのねこ (MOEのえほん)

せかいいちのねこ (MOEのえほん)

【あらすじ】
 幼い男の子のぬいぐるみであるねこのニャンコ。男の子に大切にされているニャンコですが、もうすぐ7歳になる男の子がぬいぐるみで遊ばなくなるのではないかと心配に。これからも男の子と仲良しでいるために、ニャンコは本物のねこになる旅に出ますが――。

 画家のヒグチユウコさんがお話も絵も手がけた『せかいいちのねこ』。ねこのぬいぐるみが本物のねこになるという夢を追いかけて旅する姿を描いた絵本ですが、その旅の途上でさまざまな本物のねこに出会う中で自分にとって大切なものは何かを見つけていく物語は、普遍的でありながら独創性豊かな世界観となっています。
 ですが、何より魅力的なのは他に類を見ないオリジナリティー溢れる絵でしょう。ヒグチさんの絵は動物や植物など、物の質感を写真のようにリアルなタッチで描くのが特徴で、この絵本でも猫たちの毛並みだったり手足の形状だったり、ある意味生々しささえ感じるインパクトのある絵となっています。その一方でリアルな質感の猫たちが人間よろしくおしゃれな着こなしをしていたり、人間味溢れる仕草をしていたりというギャップが絶妙なアクセントとなっていて、リアルな絵とファンタジーな物語の交ざり具合が唯一無二の世界観を作り出している素敵な絵本だと思います。


チャーちゃん (福音館の単行本)

チャーちゃん (福音館の単行本)

【あらすじ】
 ねこのチャーちゃんは今死んでいます。ですが、決して悲しくも寂しくもありません。チャーちゃんが今いる場所は色に溢れ、とても自由で楽しくて――。

 小説家・保坂和志さんが手がけた異色の猫絵本『チャーちゃん』。のっけから語り手である猫のチャーちゃんが死んでいることを独白するところから物語が幕を開け、死後の世界と思われる場所にいるチャーちゃんが不思議な世界観の中で自由自在に(死んではいるけれども)生を謳歌する姿が描かれます。
 作者の保坂さんは芥川賞や谷崎潤一郎賞受賞経験のある小説家ですが、猫好きとしても知られ、猫が登場する小説も多く書いています。なのでこの絵本も猫愛に溢れていて、物語としては死後の世界という一見重そうに感じられるかもしれませんが、実際に読んでみると明るくユーモアにも満ちていて、“死”について問いかけながらも、強引に教訓的にしたり考えさせたりということなく、可愛らしいチャーちゃんの姿を通して死ってどういうことなんだろうと自然と興味を持たせてくれる作品となっています。また、画家で、近年絵本や児童書の挿絵も手がける小沢さかえさんの絵がやわらかく美しい色彩で、独特の空気感を見事に表現しています。


うきわねこ

うきわねこ

【あらすじ】
 ある日ねこのえびおのもとにおじいちゃんから誕生日のプレゼントが届きます。箱を開けるとプレゼントはなぜかうきわでした。箱の中には手紙も入っていて、そこには「つぎのまんげつのよるをたのしみにしていてください」と書かれていました。そして待ちに待った満月の夜。えびおがうきわを膨らませて体に通すと、突然うきわが浮いて――。

 詩人・作家の蜂飼耳さん作、牧野千穂さん絵の『うきわねこ』。空を飛べるうきわで飛ぶ猫というファンタジックな内容ですが、子猫が真夜中にこっそり秘密の体験をするという冒険の物語でもあり、明るさだけではない秘密めいた暗さも描かれている絵本です。
 ストーリーや道具立てもかわいらしく魅力的ですが、牧野さんのパステル画がやはりこの物語の世界観を大きく支えています。パステル画なのでふんわりとした輪郭が明確でない絵が特徴的なのですが、その絵の良い意味でのぼんやり感が、うきわに導かれて旅をするという非日常感にぴったりで、物語と絵の組み合わせがベストマッチな作品だと思います。


くつやのねこ

くつやのねこ

【あらすじ】
 あるところに貧しい靴屋と一匹の猫が暮らしていました。靴屋は腕の良い職人でしたが、靴はさっぱり売れず、店を閉めることを考えていました。ですが、猫は諦めず、自分が革の長靴を履いて注文をとってくると言い、森の奥の魔物が住むというお城に行きますが――。

 昔話「長靴をはいた猫」をモチーフに、新たなエッセンスを加えたいまいあやのさんの『くつやのねこ』。「長靴をはいた猫」の中のエピソードを用いつつ、猫を靴屋の猫に変更することで一味違う物語に仕上げていておもしろいですね。原話は昔ながらの民話とあって主人公の猫がずる賢かったりするのですが、この絵本の方はずる賢さや昔話特有の毒を残しつつもまろやかになっていて、子どもにも親しみやすいのではないかと思います。
 また、作者のいまいさんはロンドン生まれで欧米育ちということで、絵にも西洋の絵画の香りが色濃く漂っているような気がします。その絵柄がヨーロッパを舞台にした物語とよく合っていて、お話とともに見応えのあるものとなっています。



 続いてはほのぼのとした雰囲気が素敵な猫絵本2冊。


ハーニャの庭で

ハーニャの庭で

【あらすじ】
 山の途中にある小さな家。ねこのハーニャはその庭で暮らしています。庭には家に住む家族以外にも、いろんな動物や虫たちが訪れてとてもにぎやかです。そんなある日、ハーニャの庭に迷い猫がやって来て――。

 「チリとチリリ」シリーズなどで知られる人気絵本作家・どいかやさんの『ハーニャの庭で』。どいさんは実際に自然豊かな土地で多くの猫たちとともに生活していて、この絵本のほかにも猫が登場する作品を多く手がけていますが、『ハーニャの庭で』はまさにどいさんの暮らしを反映させたものではないかと思います。
 とはいえ、あくまで主体となるのは猫のハーニャ。物語の中には人間も出てきますが、人間たちがハーニャを飼っているという感じではなく、ハーニャの庭にほかの生きものたちが一緒に暮らしているという描き方が印象的で、素敵だなと思います。そして、そんな猫目線で描かれる里山の自然描写が美しく、おおむね見開き2ページに対してひと月ずつ、1月から12月の季節の移り変わりが、優しく温かい色鉛筆画によって描き出されています。猫好きな人にはもちろん、美しい自然を描いた絵本やイラストが好きな人にもおすすめの絵本です。


ねこのシジミ (イメージの森)

ねこのシジミ (イメージの森)

【あらすじ】
 公園に捨てられていたたれ目で目やにが汚い子猫は、ショウちゃんという男の子に拾われてシジミと名付けられました。シジミの毎日は何事も起きず平凡だけれども、それがシジミにとっては幸せな日々で――。

 日本を代表するイラストレーター・和田誠さんの『ねこのシジミ』。ただただ平凡で何でもない日常を淡々と綴っていて、特にドラマチックな話でもないのですが、なのになぜかふしぎと心があったまる、心に残る絵本です。
 こちらも上記の『ハーニャの庭』同様に猫目線の物語なのですが、前者が人間があまり登場しなかったのとは対照的に、この作品は人間に飼われる飼い猫の、人間と密接に結びついた暮らしを描いています。でも、シジミが飼い主である家族たちに束縛されたりしつけられたりということはなく、シジミと家族の人々が全く同等で、むしろペットだからといってやたら愛情を注がれたり特別扱いされたりしない、猫と人間のほどよい距離感が読んでいてほのぼのさせられます。絵は銅版画で、柔らかな線とセピア色で統一された絵が醸し出す雰囲気が日常の風景描写にマッチしていて、飼い猫の日常を描いた猫絵本の中でもベストの作品だと思います。


 最後は海外の猫絵本2冊です。


ズーム、海をゆめみて

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【あらすじ】
 猫のズームは冒険が大好き。ある日、ロイおじさんの日記帳を見つけ、そこに書いてあった海へ行く道をたどります。ところが着いた場所は友だちのマリアさんのお家。もちろんどこにも海なんてありません。マリアさんに事情を話すと、マリアさんは家の壁の大きなしかけを回して――。

 カナダの絵本作家、ティム・ウィン・ジョーンズさん作、エリック・ベドウズさん絵の『ズーム、海をゆめみて』。『ズーム、北極をゆめみて』、『ズーム、エジプトをゆめみて』に続く「ズームシリーズ」の第1作目です。
 日本で出版されたのは1995年(本国では1983年)で現在は絶版になっており(中古のみで入手可)、正直あまり知られている絵本ではないと思うのですが、ミステリアスな作風が素晴らしく個人的に大好きな作品で、海を描いた絵本・私的10撰という記事でも取り上げています。詳しくはリンク先をご覧いただきたいのですが、日常からふっと非日常に入り込んでしまう不思議な世界観と、神秘的な雰囲気を高める鉛筆画が魅力的な絵本です。その一方で猫のズームが大冒険を繰り広げる姿がかわいらしく、クリス・ヴァン・オールズバーグやモーリス・センダックなど幻想的な絵本が好きな方にはもちろんのこと、猫好きの方にもおすすめです。


ポテト・スープが大好きな猫

ポテト・スープが大好きな猫

【あらすじ】
 おじいさんはアメリカのテキサスの田舎に一匹の猫と暮らしています。猫は今まで一度もねずみをつかまえたことがなく全くの役立たずでしたが、おじいさんの作るポテトスープが好物で、おじいさんは猫のそんなところが気に入っていました。おじいさんと猫は二人でよく湖に魚釣りに行くのでしたが、ある朝、いつも魚釣りに行く時間に猫は起きてこず――。

 ヤングアダルト小説家のテリー・ファリッシュさん作、絵本画家のバリー・ルートさん絵、そして村上春樹さん翻訳の『ポテト・スープが大好きな猫』。あるおじいさんと猫とのそっけないながらも温かい友情を描いた絵本です。
 内容的には非常にアメリカらしい風土というのが描かれていて、舞台もテキサスの田舎というアメリカらしさ満載の土地ですし、そこで魚釣りをしながら孤独に暮らすおじいさんと猫という風景は、ある意味オーソドックスでさほど目新しさがあるわけではありません。ですが、おじいさんと猫のキャラクター描写が秀逸で、お互いぶっきらぼうな者同士が適度に距離を置きながらもお互いを気にし合っている姿が微笑ましく、こういう人(と猫)いそうだなと思わせられます。二人の関係性は決してベタベタしたものではないのですが、でも完全に突き放しているわけでもなく、こういうのが古き良きアメリカらしい人情味なのかなとも感じますね。作者がヤングアダルト作家なので、この絵本も絵本というより短編小説を読んでいるような味わいを感じられると思います。


 以上が私が選んだ猫絵本・ベスト10です。猫好きの方もそうでない方も、ぜひこの猫の日を良い機会に、手に取ってみてください。


:馬場のぼる著『11ぴきのねことあほうどり』(こぐま社、1972年)の書影はこぐま社の公式サイトから、ティム・ウィン・ジョーンズ著、エリック・ベドウズ絵『ズーム、海をゆめみて』(ブックローン出版、1995年9月)の書影はショッピングサイト「アマゾン」から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
宮沢賢治の絵本・私的10撰 2014年9月20日  記事内で『猫の事務所』を取り上げています。
海を描いた絵本・私的10撰 2015年7月17日  記事内で『ズーム、海をゆめみて』を取り上げています。

by hitsujigusa | 2016-02-18 16:52 | 絵本