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小塚崇彦選手、現役引退を発表

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 2016年3月15日、長らく日本のフィギュア界をリードしてきたトップスケーターの一人である小塚崇彦選手が現役引退を発表しました。

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【フィギュア】小塚引退、所属トヨタ自動車で社業専念「新たな人生歩む」

 フィギュアスケート男子の2010年バンクーバー五輪代表で、11年世界選手権銀メダリストの小塚崇彦(27)=トヨタ自動車=が3月末で現役を引退すると、日本スケート連盟が15日に発表した。昨年末の全日本選手権で5位に終わって世界選手権の代表を逃していた。中京大大学院を今春修了し、4月からトヨタ自動車で社業に専念する。

小塚は「5歳から始めたスケートを今まで楽しく続けてこられたのは、多くの方々のおかげだと感謝しています。氷上を去ることになりますが、これまでの経験を生かしてトヨタ自動車の従業員として新たな人生を歩むことに致しました」とコメントした。4月17日のアイスショー「スターズ・オン・アイス」(国立代々木競技場)に出演し、ファンに別れを告げる。

スポーツ報知 2016年3月16日 7:06 一部抜粋

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 このニュースを聞いた時、寂しい感情が押し寄せる一方で、とうとうこの時が来てしまったのかという感慨も覚えました。
 小塚選手はジュニア時代、ジュニアグランプリファイナル、世界ジュニア選手権と主要大会を全て制し、鳴り物入りでシニア参戦したデビューシーズン、NHK杯で銅メダルを獲得し早々に実力を発揮。翌07/08シーズンはGPでの表彰台こそなかったものの全日本選手権で2位となり初表彰台&初めての世界選手権代表を経験。そして08/09シーズンはスケートアメリカでGP初優勝を果たすと、初出場のGPファイナルでも銀メダルを獲得。全日本選手権では2年連続の2位、四大陸選手権では銅メダル、世界選手権では6位入賞と、飛躍のシーズンとなりました。09/10シーズンは全日本選手権で3位となり初の五輪代表に選出。そのバンクーバー五輪では8位入賞と好成績を収めました。そして小塚選手の競技人生のハイライトとなった10/11シーズン、GP2大会で優勝すると、GPファイナルでは銅メダル。全日本選手権で初優勝すると、世界選手権でも銀メダルを獲得し、シーズンを通してほぼ全ての大会で表彰台に乗る最高のシーズンとなりました。11/12シーズンはGP2大会で表彰台に上がり全日本選手権は2連覇こそならなかったものの2位になるなど好調なシーズン前半を送りましたが、2年連続のメダルを狙った世界選手権ではミスが相次ぎ11位に。12/13シーズンはスケートアメリカで優勝し2季ぶりのGPのタイトルを獲得し、GPファイナルにも出場しましたが、全日本選手権で5位となり、シニアデビューシーズン以来、6季ぶりに世界選手権出場を逃しました。
 節目となったのは13/14シーズン。シーズン序盤のGPで成績が伸びずほかの日本男子選手に後れを取りますが、代表選考会である全日本選手権では3位に入り、逆転でのオリンピック代表入りに一歩前進。しかし、GPでの成績を理由に惜しくも代表には選ばれず。ですが、2位となった四大陸選手権、6位となった世界選手権と存在をアピールしました。14/15シーズンは負傷を抱えた中でのGPは振るわなかったものの、世界選手権出場を懸けた全日本選手権では前年の再現となる見事な復活劇で2年連続の3位。しかし、世界選手権では12位と自身最低順位に終わりました。
 そして今シーズン、GP初戦の中国杯を右足首の怪我で辞退すると、負傷の影響が残る中出場したロステレコム杯では9位、最後の試合となった全日本選手権でも本領発揮とはならず5位となり、世界選手権出場には届きませんでした。

 振り返ってみればピークとなった10/11シーズン以降、特に2012年以降は股関節の痛みというのが小塚選手にとって大きなネックとなっていて、満足に練習を詰めない時期もあり、少しずつ成績も落ち気味になっていました。
 とはいえ、ずっと“低迷”し続けていたかというとそうではなくて、確かに10/11シーズンが最高潮だったという印象が個人的にはあるのですが、その後も必ずしも“低迷”のイメージには当てはまらない、ここぞという時に強さを見せる選手でした。
 何といってもその強さが発揮されたのはソチ五輪出場権を懸けた2013年の全日本と世界選手権出場権を懸けた2014年の全日本でしょう。特に2014年はショート6位と出遅れたところから、フリーは全てのジャンプを予定どおりに着氷する久々の会心の演技で、フィニッシュ後に拳を2度空中に突き上げて喜びを爆発させたあのシーンは忘れられません。小塚選手はシニア移行後は10度全日本に出場していますが、そのうちメダルを逃したのは3度だけ。日本スケート連盟の公式プロフィールに冗談半分に“特技:全日本選手権”と書いているくらい全日本に強く、股関節の持病があって国際試合でなかなか本来の力を発揮できないながらも層の厚い日本男子の中で存在感を示し続けられたのは、やはりこの全日本での印象が強烈だったからですし、成績やスコアだけ見るならば近年の小塚選手は“低迷”していたのかもしれませんが、その演技は最後まで輝きを放ち続けていたと思います。

 また、近年の小塚選手の演技からは若い頃にはなかった(今でも十分若いですが)大人の男性の色香や渋み、深みが感じられて、それがベテランとなった小塚選手の新たな魅力にもなっていました。ジュニアの頃から絶賛されてきたスケーティングにどんどん磨きがかかるのはもちろん、若手の頃は正統派であるがゆえに時に淡泊さも感じられた表現面も、年を重ねることによってどんどん大人の味わいというのが滲み出るようになってきて、昨季のSPのタンゴや昨季と今季のフリー「Io Ci Saro」、昨季のエキシビションナンバーをアレンジした今季のショートのフラメンコなど、今の小塚選手だからこそ演じられるほのかな色気とダークさ、ダイナミズムが溢れんばかりに表現されていて、今この段階でやめてしまうのはもったいないと正直思いますね。
 そして、かつての小塚選手は髙橋大輔さんや織田信成さんという先輩に囲まれて3兄弟の末っ子的なイメージがありましたが、最近は日本フィギュア界の年長者として頼もしさも感じさせていて、特に2014年の全日本の際には女子の採点に関して苦言を呈する場面もあり(こちらの記事の後半をご覧ください)、そういった意味でもキャプテン的存在の小塚選手がいなくなってしまうという寂しさもヒシヒシと感じます。
 これでバンクーバー五輪代表の男子選手3人が全員引退となり、トリノ五輪シーズンからフィギュアを見始めた私などからすると、青春を形成してきた1ピースがまた一つ欠けてしまったような、心にぽっかり穴が空いたような感じがします。ただ、小塚選手の身体のコンディションを考えるといつ引退してもおかしくなかったですし、昨季で引退という可能性もあったのが今シーズンも美しいスケーティングを見させていただき、今は本当に感謝の気持ちでいっぱいですね。
 今後小塚選手は所属しているトヨタの社員として活動していくとのことで、プロスケーターとしての活動、コーチ業などされていくのかは分かりませんが、大学院に進学して体育学を専攻するなどスポーツ科学の研究にも熱心な方ですから、どんな形であれフィギュアスケートに関わり続けて、あの唯一無二の素晴らしいスケーティング技術を次の世代に伝えていってほしいなと思います。プライベートでも2月に結婚されたばかりですから、奥さまとともに小塚選手の第二の人生が今まで以上に充実したものになることを心から願っています。
 長い間お疲れさまでした。そして美しい演技の数々をありがとうございました。


:小塚選手のポートレート写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から引用させていただきました。
by hitsujigusa | 2016-03-17 17:05 | フィギュアスケート(大会関連)