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ジャパンオープン2016―日本、大差で2連覇

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 フリー演技のみで地域別の順位を競うジャパンオープン2016が今年もさいたまで開催されました。今年は男女の世界チャンピオン2名が揃ったことに加え、女子は世界選手権2016のトップ5が勢ぞろいという豪華な顔ぶれで、この時期の大会にしてはハイレベルな内容となりました。その模様をざっくりとお伝えします。

Kinoshita Group Cup Japan Open 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 ジャパンオープンは日本、北米、欧州のチーム対抗戦。各チーム男子2名、女子2名でフリー演技を行い、その合計得点でチーム順位を決定します。なお、現役選手のみならず、引退したプロスケーターも参加可能です。
 今年のジャパンオープンは日本が637.65点で優勝、2位は欧州で595.66点、3位は北米で574.20点となりました。
 ここからはチームごとに内容と結果を振り返っていきます。


●日本チーム


 日本チームの今回のメンバーは、女子はエースの宮原知子選手、今季シニア参戦の樋口新葉選手、男子はシニア2年目となる宇野昌磨選手、そして2013年に引退された織田信成さんです。
 まず何といっても最大の注目を浴びたのは、4月のチームチャレンジカップで世界初となる4フリップを成功させた宇野選手でしょう。今大会も新たな代名詞となった4フリップをプログラムに組み込むことを明言し、実際に成功。しかもチームチャレンジカップでは若干着氷で詰まったりこらえたりした感じもあったのが、今回は流れも素晴らしい完璧な4フリップで、完全に自分のものにしたジャンプだったと思います。その直後の4トゥループでは転倒してしまいましたが、その後は見事に立て直し、後半の4トゥループからのコンビネーション、3アクセル+3トゥループ、さらにオリジナルの組み合わせである3アクセル+1ループ+3フリップもクリーンに成功させ、非公式ながら198.55点というハイスコアで男子のトップに立ちました。昨年もこのジャパンオープンで圧巻の滑りを見せ、そこからあれよあれよという間に世界のトップレベルに駆け上がった宇野選手ですが、一方でグランプリファイナルを絶頂に調子を落としてしまったといういきさつもあります。今季はその教訓を活かして、さらなる進化を目指すでしょうから、4フリップを始めとした高難度のジャンプはもちろん、表現者としても宇野選手らしい見応えのあるプログラムを期待したいですね。
 女子のエースの宮原選手は、相変わらずの安定感を発揮。約1点ほどパーソナルベストを上回る得点で女子の2位となりました。2週間ほど前のUSインターナショナルでは回転不足を取られる場面もありましたが、短期間でそういった課題も修正していて、さすが宮原選手という演技でしたね。プログラムに関しては逆に宮原選手らしからぬ壮大さを前面に押し出した内容になっていて、表現面でもすでに進化というのがうかがえましたが、シーズンが進むにつれてさらに勢いだったり躍動感というのも現れてくると思うので楽しみですね。
 初出場となった樋口選手は、緊張のためかところどころ珍しいジャンプミスがありましたが、滑り自体は彼女らしい雄大でスピード感に溢れていて、決してシニアの先輩たちに交じっても見劣りしないものだと感じました。プログラムも定番の「シェヘラザード」ですが、「シェヘラザード」のおなじみのパートをあまり用いていてなくて、全体的にゆったりした曲調なのが印象に残りました。その中で樋口選手の体の使い方が以前よりもとてもしなやかになっていて、女性的な表現というのが見違えるように美しくなっていますね。迫力たっぷりのジャンプはもちろん、表現面でも注目したいと思います。
 そして予想外の活躍を見せたのがプロスケーターで解説者やタレントとしても活動する織田さん。4+3、3アクセルを含む難度の高いプログラムを大きなミスなく滑り切り、得点も何と現役時代のパーソナルベストを超える178.72点をマークし、男子の3位という好成績でチームに貢献しました。試合後のインタビューではまさかの自己ベスト更新に、「あの涙の引退は何だったんだろう」とジョークまじりに笑顔で語った織田さんですが、引退したのが2013年の全日本選手権で、そこから約3年経っているにもかかわらず4+3や3アクセルを跳べるというのは本当に凄い超人的なことですし、それだけこのジャパンオープンに向けて練習を積んできたんだなというのが感じられましたね。


●欧州チーム


 欧州チームは女子は現世界女王、ロシアのエフゲニア・メドベデワ選手と世界選手権3位のアンナ・ポゴリラヤ選手、男子は世界選手権2連覇中のスペインのハビエル・フェルナンデス選手、今年1月の欧州選手権を最後に現役を引退したフランスのフローラン・アモディオさんが出場。現在の世界王者が二人も揃うゴージャスなメンバーで臨みました。
 圧巻の演技を見せたのはメドベデワ選手。ストーリー性豊かで哲学的な印象も与えるプログラムの表現の仕方はもちろん、ジャンプも変わらず2つの3+3やタノジャンプなど工夫が凝らされていて、それでもまだシニア2年目なんだというのが信じられないほどの風格を漂わせました。今のところ成長期によるジャンプへの悪影響は感じられませんでしたし、この調子でいくと今シーズンも快進撃は続くのかなという感じがします。
 ポゴリラヤ選手は細かなジャンプミスがいくつかあり会心の演技とはなりませんでしたが、序盤のミスを後半ではしっかりと取り返し、世界のメダリストとして存在感を見せつけました。彼女もまだ18歳なのですが、どこかしらベテランのような重厚感というのもまとっていて、全く若手という感じがしませんね。
 そして世界王者として君臨しているフェルナンデス選手。小さなミスはあったものの、3つの4回転をどれもクリーンに下りていて、スロースターターというか、シーズンの終盤にピークを持ってくるのが上手いフェルナンデス選手のこの時期にしては、早い仕上がりだなと感じました。プログラムは「エルヴィス・プレスリー・メドレー」で、フェルナンデス選手らしい喜劇役者的な軽快さを存分に発揮しつつ、往年のスターさながらに観客を見事に自分の世界に引き込んでいて、その中で何でもないことのように力みなくさらりと4回転3本を跳んでいるのがさすがでしたね。プログラムも滑りこなれてくるともっともっとノリノリになるでしょうから楽しみにしたいと思います。
 アモディオさんは引退して8か月あまり経ってのこの大会で、メンタル的にここに合わせて調整するのは難しかったんじゃないかなと想像します。エレメンツの数を少なくした演技でしたが、その分、演技や表現に多少なりとも集中を注げたんじゃないかなと思いますね。


●北米チーム


 北米チームは女子のアシュリー・ワグナー選手、グレイシー・ゴールド選手、男子のアダム・リッポン選手、休養中のジェレミー・アボット選手という全員アメリカの選手で構成されました。
 最も輝きを放ったのは世界選手権銀メダリストのワグナー選手。細かなジャンプミスこそ複数ありましたが、壮大な「エクソジェネシス交響曲第3部」の旋律に乗せて、ワグナー選手らしいダイナミックでエレガンスな滑りを存分に見せてくれました。昨シーズンとうとう世界選手権の表彰台に到達したワグナー選手が、そこからいかに上積みしてさらなる躍進を見せるのか、要注目ですね。
 現全米女王のゴールド選手は、まだ調整が間に合っていなかったのか、ミスの散見される内容となりました。昨シーズンは期待されながらも望むような結果を手に入れられなかったゴールド選手。今季こそ強固にそびえている壁を乗り越えるシーズンとなるのか、シーズン前半からの仕上がり、完成度にも注目したいですね。
 こちらも全米王者のリッポン選手。今回も4ルッツに挑戦し、残念ながらダウングレード(大幅な回転不足)で転倒となり成功には至りませんでしたが、それ以外はおおむねまとまった内容だったのではないでしょうか。昨季はシーズンを通して比較的安定した演技を続け、悲願の全米チャンピオンとなりましたが、アメリカ男子は上位の実力が拮抗しているというイメージなので、リッポン選手も全米2連覇に向けて厳しい戦いが続くでしょう。また、世界選手権2016の結果によってアメリカ男子は次の世界選手権の枠が3から2に減ってしまったので、その2枠に入るだけでも大変な事だと思います。平昌五輪出場に向けても今季いかに安定した結果を出し続けていくかがカギになってくると思うので、リッポン選手に限ったことではありませんが、注目のシーズンになりますね。
 引退こそ正式発表していないものの、長らく競技会からは遠ざかっているアボット選手は、それでもミスを最小限に抑えた演技でリッポン選手を上回る男子の4位となりました。4回転は入っていませんが、2本の3アクセルを組み込み、しかもそのうちは3アクセル+1ループ+3サルコウという難しい組み合わせで、現時点での最大限の力を発揮できたんじゃないかなと思います。プログラム全体を評価するプログラムコンポーネンツの点数もやはり高くて、“ジェレミー・アボットここにあり”という存在感を示しました。


 さて、ジャパンオープンが終わり、チャレンジャーシリーズでは浅田真央選手やエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手、パトリック・チャン選手という世界チャンピオン経験者が顔を揃えるフィンランディア杯も開幕が迫り、ジュニアのGPシリーズも最終戦を残すのみ。GPシリーズ開幕前からいろいろと話題の豊富なフィギュア界ですが、五輪プレシーズンとなる今季が一体どんなシーズンになるのか、まだ全然想像がつきません。が、いろんな意味でにぎやかなシーズンになるのは間違いないのではないかと思います。では。


:記事内の写真はスポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2016-10-06 14:22 | フィギュアスケート(大会関連)