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世界選手権2017・女子フリー&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、世界最高得点で2連覇(後編)

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 世界選手権2017、女子フリー&ペアの記事の後編です。前編はこちらのリンクからご覧ください。

ISU World Figure Skating Championships 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 女子の7位となったのはアメリカのベテラン、アシュリー・ワグナー選手です。

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 冒頭は得意な2アクセルを難なく成功させ、続いて得点源の3フリップ+3トゥループでしたが、ファーストジャンプの着氷でこらえ気味になりセカンドジャンプは1回転となります。次の2アクセル+2トゥループはクリーンに成功。後半最初は得点源となる3+1+3、確実に決めたいところでしたが最後のジャンプがアンダーローテーション(軽度の回転不足)と判定されます。続く3フリップも同じくアンダーローテーション。3ループはきれいに下りますが、最後の3ルッツは踏み切りのエッジエラーで減点となり、得点は124.50点でフリー10位、総合7位となりました。
 ショートはベテランらしい落ち着きで大きなミスなくまとめたワグナー選手ですが、フリーは鍵を握る3+3のパンクに加え、元々課題だった回転不足も複数あり得点を伸ばし切れませんでしたね。ショートからそうでしたが、今大会のワグナー選手のジャンプは全体的に余裕がなく、余裕がある時のジャンプは高い加点が付くのですが、今回は回り切っていたジャンプでもギリギリのものが多かったので加点を稼げなかったのもスコアを伸ばせなかった要因かなと思います。ただ、フリーの演技後のワグナー選手の放心したような表情は、かつて“The Almost Girl”と呼ばれた時の演技がうまくいかなかった際に見せていた表情とは違って、今回の経験も一つの通過点として潔く受け入れているという勇ましさに溢れていて、昨年メダルを取っているがゆえの余裕なのかなとも感じました。
 来季はいよいよオリンピック。26歳となるワグナー選手にとっては集大成のシーズンになるかもしれませんが、満足のいくシーズンになることを願っています。


 8位はロシアの新星マリア・ソツコワ選手です。

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 まずは得点源の3ルッツ+3トゥループ、これをクリーンに決め、さらに3フリップも完璧で1.2点の加点と上々のスタート。スピンとステップシークエンスを挟んだ後半、最初の3ループをしっかり着氷。続いて3フリップ+1ループ+3サルコウの難しい3連続ジャンプでしたが、ファーストジャンプが2回転となります。その動揺を引きずったのか直後の3ルッツはダウングレード(大幅な回転不足)で転倒。2アクセル+2トゥループは決めますが、最後の単独の2アクセルも乱れ、後半に精彩を欠く内容となりました。得点は122.44点でフリー11位、総合8位とショートから順位を落としました。
 スタミナ面が課題と言われていたソツコワ選手でしたが、その課題が如実に表れたフリー後半となってしまいましたね。また、体力面だけではなく、メンタル面でも一つの失敗の後にどう切り替えて立て直すかというのが今後の課題として残ったのかなと思います。ただ、シニア1年目ということを考えるとこれは当然のことですし、何も焦ったり深刻にとらえたりするものはないので、シニアデビューシーズンに世界の大舞台を経験できたということがオリンピック出場に向けて貴重な財産となったと思いますから、来季はさらに強くなったソツコワ選手を見られることを楽しみにしたいですね。


 11位となったのは日本の樋口新葉選手です。

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 冒頭は大技3ルッツ+3トゥループ、これをパーフェクトに決め1.1点の加点を獲得。続く3ループは着氷が若干乱れますが、最小限のミスにとどめます。次の3サルコウは美しい流れで跳び切りこちらも加点1.1の高評価を得ます。後半1発目は得意の2アクセルをさらりと成功。続いて2つ目の3ルッツ+3トゥループでしたが、力んだのかタイミングが狂い単独の2ルッツに。次の3+2+2もわずかに減点。そして最後の2アクセルに急遽3トゥループを付けてリカバリーしようとしましたが、スピードと跳び上がりが足りずダウングレードで転倒となってしまいます。フィニッシュした樋口選手は悔しそうな表情を浮かべました。得点は122.18点でフリー12位、総合11位で初めての世界選手権を終えました。
 今シーズンの樋口選手はジャンプのパンクが目立ちましたが、今回のフリーも力みから後半の3ルッツが2回転となり予定していた3+3にならなかったのが惜しかったですね。演技中でもいかに自身のメンタルをコントロールできるかが来季の躍進に向けてポイントとなってきそうです。ただ、その中でも最後の2アクセルに3トゥループを付けて1点でも多くの得点を稼ごうとする姿勢からは樋口選手の強い意志がうかがえて、非常に頼もしく感じました。樋口選手にとってシニアデビューの今シーズンは悔しい試合の方が多かったかもしれませんが、全ての経験が来季に繋がっていくと思いますし、シニアの雰囲気や感覚にも慣れたと思うので、シニア2年目となる来季こそ、樋口選手の笑顔がもっともっと増えることを祈っています。


 補欠からの繰り上がり出場となった本郷理華選手は16位となりました。

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 まずは得点源の3フリップ+3トゥループからでしたが、パンクして2フリップの単独となります。しかし続く3サルコウに2トゥループと2ループを付けてすぐにリカバリー。次の3ルッツも正確なエッジでクリーンに決めます。後半はこちらも重要な2アクセル+3トゥループでしたが、勢いが足りず3トゥループは回転不足で着氷でバランスを崩します。直後の3サルコウは危なげなく下りましたが、3フリップ+2トゥループは3フリップが回転不足。そして最後の2アクセルをとっさにより得点の高い3フリップに変更し挑みましたが、こちらも回転し切れずに転倒。ステップシークエンスやコレオシークエンスでは「リバーダンス」の軽快な世界観を元気いっぱいに演じましたが、107.28点でフリー18位、総合16位にとどまりました。
 練習の時からなかなかジャンプが噛み合わなかった本郷選手。それでもベストを尽くそうと笑顔を浮かべながら丁寧にステップをこなしたり、予定を変更してより難しいジャンプに挑戦したりと、最後の最後まで懸命さが伝わってくる滑りでした。今シーズンは足首の怪我もありそもそもコンディションが整わない中で、四大陸、今大会と直前に繰り上がりで出場しなければならない大会が2試合もあり、本当に難しいシチュエーションを強いられたと思います。ですが、こうした経験も決して無駄にはならないと思いますし、本郷選手ならばこの悔しさを糧にしてまた復活してくれると信じています。



 さて、ここからはペアの結果です。

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 優勝したのは中国の隋文静(スイ・ウェンジン)&韓聰(ハン・ツォン)組。まずSPは圧巻の演技で世界歴代2位となるハイスコアを叩き出して首位に立つと、フリーは序盤のソロジャンプで転倒があったものの、そのほかのエレメンツを全て加点1以上のクオリティーの高さで揃える完成度の高い演技でフリーも1位、トータルでも世界歴代2位の得点をマークし、完全優勝を果たしました。
 隋&韓組といえば5月に隋選手が両脚の外科手術を行い、本格的な氷上練習を始めたのは何と年明け以降という急ピッチでの仕上げでしたが、にもかかわらず四大陸選手権でさっそく優勝すると、この世界選手権も勢いのままに初のタイトルを奪取しました。手術から数か月でこのレベルというのが信じられないくらいなのですが、それだけこの大会に懸ける想いが強かったのでしょうし、オリンピック前に何が何でも世界チャンピオンになるんだというオリンピックへの決意の表れでもあったのかなと思います。中国ペアの世界制覇は2010年の龐清(パン・チン)&佟健(トン・ジャン)組以来実に7年ぶり。世界ジュニア選手権を3連覇するなど若い頃から(今も若いですが)世界のトップを争う存在として期待され続けてきたペアですが、2年連続の銀メダルというもう一息という期間を経てとうとう頂点まで到達。このペアの特徴としては男性が170cmとペア選手としては小柄で女性との身長差があまりないということもあり、日本のペアにとっても参考になる部分が多いペアなのではないかとも感じますね。
 オリンピックの前年に世界を制するというのは来季に向けて弾みをつけるという意味でも重要なことですから、この勢いを持って隋&韓組が来季どんなシーズンを送るのか楽しみにしたいと思います。世界選手権初優勝、おめでとうございました。

 2位に入ったのはドイツのアリオナ・サフチェンコ&ブリュノ・マッソ組。SPは大技のスロー3アクセルに挑戦し着氷で大きくバランスを崩しましたがミスらしいミスといえばそのくらいで、ほかをクリーンにまとめて自己ベストの2位につけます。フリーもスロー3アクセルに挑み、着氷で軽く片手が氷に触れたもののほぼ成功に近い形で決め、隋&韓組と0.37点差の2位、総合でも約1点差という超僅差で惜しくも2位となりました。
 何といっても特筆すべきはスロー3アクセルでしょう。シーズン前半のGPではプログラムに取り入れていましたがなかなか成功には至らず。今大会も加点が付く形での成功とはなりませんでしたが、フリーではあともう少しというクオリティーでまとめ、残念ながら金メダルにはわずかに届きませんでしたが、間違いなくオリンピックに繋がる演技になったのではないかと思います。サフチェンコ選手が平昌五輪に出場すれば実に5度目のオリンピックということになりますが、メダル、それも金メダルを取るということになればさらに凄い快挙ですから、ぜひ頑張ってほしいですね。

 3位はロシアのエフゲニア・タラソワ&ウラジミール・モロゾフ組。SPはステップシークエンスやリフトなど全ての要素をレベル4でまとめた上、加点の付く質を揃えてパーソナルベストに迫る得点で3位と好発進。フリーは冒頭の大技4ツイストで細かなミスと、終盤のリフトでもレベルが1になるミスがありましたが、そのほかは目立ったミスなく演じ切りフリー4位、総合3位で初表彰台となりました。
 今シーズンはGPファイナル、欧州選手権と主要なタイトルを制し満を持してヘルシンキに乗り込んだタラソワ&モロゾフ組。ショート、フリーともに減点が一つもなかった欧州選手権と比べると細かなミスがあったのは残念でしたが、大きく印象を損なうようなミスはなく今季継続してきた安定感を今回も発揮しましたね。この安定感が来季も続けば、オリンピックのメダルもぐっと近づくと思うので注目したいですね。

 日本の須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組はSP17位で惜しくもフリーに進出できませんでした。

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 SPは冒頭の3ツイストがレベル2にとどまった上、GOEでも減点されるミスがありましたが、その後はミスらしいミスなく演技をまとめ、自己ベストを3点以上更新。しかし17位となり、上位16組が進めるフリーには残念ながら届きませんでした。
 今季の須藤&ブードロー=オデ組は試合に出るたびにパーソナルベストを更新するような状態で、このショートもその目標はクリアできたのですが、惜しむらくはツイストのミスで、ツイストがクリーンに成功していればフリーに進めていた可能性もあるのでもったいなかったですね。ただ、滑るたびに安定感を増し、自信をつけていっているのも間違いないと思うので、今回の経験を来季に活かしてさらなる飛躍を期待したいですね。



 さて、これで世界選手権2017の女子とペアの記事は以上です。ここで今大会の順位によって決まった来年の平昌五輪の国別出場枠(世界選手権の枠を兼ねる)についてまとめたいと思います。


《女子》

3枠:カナダ、ロシア、アメリカ
2枠:日本、イタリア、カザフスタン、韓国

《ペア》

3枠:中国、ロシア、カナダ
2枠:ドイツ、イタリア、フランス、アメリカ



 枠取りの計算方法としては、3人出場している国は上位2人の順位の数字の合計が13以下であれば3枠、14~28であれば2枠、29以上であれば1枠となり、2人出場の国も全く同じ条件となります。1人しか出場していない国は、その1人の順位の数字が11以上だと1枠のまま、3~10だと2枠、2以下だと3枠に増えます。
 女子はフィギュア大国の3国が順当に3枠を獲得しましたが、ロシア、アメリカは別にして、カナダがここまで飛躍することを想像していた人は少ないんじゃないでしょうか。オズモンド、デールマン両選手とも今季は好成績を上げていましたから、3枠を取れる可能性は十分あるという見方は出来ましたが、2、3位という成績でここまで余裕で3枠に繋がるとは予想外でした。
 一方で日本は残念ながらトリノ、バンクーバー、ソチと3大会守ってきた3枠を守りきれませんでした。結果的に見ればやはりエースの宮原知子選手の欠場は痛く、精神的支柱という意味でも初出場の樋口、三原の両選手を引っ張る役目を期待されていたと思うので、そういった存在がいなくなり、シニア1季目の2人と、代役出場の本郷選手ににプレッシャーを背負わせる結果となってしまったのは日本チームの戦略的には失敗ということになりますね。ただ、その中でも3選手ともベストを尽くし、5位と11位で合計16と、3枠獲得までもう少しというところまで粘ってくれて、この経験が若い選手たちの財産になることを願いたいですね。
 そして、イタリア、カザフスタン、韓国はそれぞれ1人のみの出場でしたが、上位に食い込んで見事2枠を獲得しました。イタリアは元世界チャンピオンのコストナー選手を派遣したことで思惑通りとなりましたね。カザフスタン、韓国はエリザベート・トゥルシンバエワ、チェ・ダビン両選手とも年齢的に若く経験も浅い分、枠取りのプレッシャーに押しつぶされてしまうリスクもありましたが、2人ともパーソナルベスト更新という素晴らしい内容で2枠を引き寄せました。特に韓国は母国開催のオリンピックですし、若い選手が台頭してきて国内の競争も激しくなっていることを考えても、何が何でも2枠が欲しいところだったと思うのですが、その重圧を見事に跳ね返しましたね。
 ペアはペア大国の3国が無事に3枠を獲得。ただ、カナダは優勝候補に挙げられていたメーガン・デュハメル&エリック・ラドフォード組が予想外の7位に沈んだことで、6位のリュボーフィ・イリュシェチキナ&ディラン・モスコヴィッチ組と合わせて13ポイントとなり、ギリギリの3枠獲得となりました。
 2枠を獲得した国々も特にサプライズはない順当さだと思いますが、意外だったのはアメリカ。全米チャンピオンのヘイヴン・デニー&ブランドン・フレイジャー組がまさかのミス連発でSP20位でフリー進出を逃したことで、2枠どころか1枠さえ危うい状況になりました。結果的にはフリーに進出したアレクサ・シメカ=クニーリム&クリス・クニーリム組が10位となり、2組の合計ポイントが28(フリーに進出できなかった選手や組は18ポイントで計算されます)という際どいところで2枠を何とかキープ。ある意味ドラマティックな枠取りとなりました。

 オリンピックの枠取りが懸かるということで特別な大会となった今年の世界選手権。女子全体を振り返ると、表彰台に上った3人はミスが少なく210点を超えましたが、4位の選手は200点に届かずという少し差が開いた結果に。昨年は1~5位までが210点台で、6、7位の選手も200点台だったことを考えると、今年はショートとフリーを揃えた選手が昨年より少なかったということが言えそうです。
 ペアは2連覇中のデュハメル&ラドフォード組が7位という波乱があり、勢力図の変化が如実に表れた形に。また、須藤&ブードロー=オデ組が61.70点という自己ベストにもかかわらずフリーに進出できず、昨年はフリー進出ラインとなるSP16位のペアで52点台だったことを思うと、ペアもレベルがどんどん高まっていることを感じさせられましたね。


 さて、次の記事では男子フリーとアイスダンスについて取り上げますので、もう少しお待ちください。


:女子メダリスト3選手のスリーショット写真、ワグナー選手の写真、ペアメダリスト3組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、ソツコワ選手の写真、須藤&ブードロー=オデ組の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、樋口選手の写真、本郷選手の写真は、デイリースポーツのニュースサイト内の写真特集記事から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2017-04-05 00:17 | フィギュアスケート(大会関連)