世界選手権2017・男子フリー&アイスダンス―羽生結弦選手、逆転で2度目の優勝(後編)

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 世界選手権2017、男子とアイスダンスについての記事の後編です。なお、前編はこちらをご覧ください。

ISU World Figure Skating Championships 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 7位はアメリカのジェイソン・ブラウン選手です。

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 まずはショートには組み込まなかった4トゥループからでしたが、アンダーローテーション(軽度の回転不足)で転倒となります。しかし、次の3アクセル+3トゥループをクリーンに着氷すると、レベル4のスピンとステップシークエンスを挟んだ後半、2本目の3アクセルもパーフェクトに成功。さらに3ルッツ、3+2、2アクセルと中盤のジャンプは全てクリーンで1点以上の加点が付く出来栄え。終盤の3ループがパンクして2回転になりましたが、最後の3ルッツ+1ループ+3サルコウはきれいに着氷。演技を終えたブラウン選手は感極まったように破顔しました。得点は176.42点でフリー7位、総合も7位となりました。
 異次元の4回転ジャンパーたちが優勝争い、メダル争いを繰り広げる中、ショート、フリー合わせて4回転1本という構成で異彩を放ったブラウン選手。4トゥループと3ループの失敗はありましたが、それさえも些細なことに思わせる圧倒的な表現の力、プログラムの力で唯一無二の世界を作り上げましたね。前編の記事でネイサン・チェン選手のフリーの構成について偏っていると指摘したのですが、ブラウン選手も8つのジャンプ要素のうち6つを後半に固めているわけなので偏っているといえば偏っているのですが、ジャンプとジャンプのあいだにつなぎや小技をふんだんに盛り込んだり、スピンを演技全体に均等に配置したりと、ジャンプ以外の部分にも観客の目がいくバランスの良い構成になっていて、ジャンプに注目が集まりがちな最近の男子フィギュア界の中でジャンプ以外のフィギュアスケートの魅力を最も伝えてくれる貴重なスケーターだなと今回改めて感じました。
 4回転が得意ではないブラウン選手が世界のメダル争いに食い込んでいくのは難しいかもしれませんが、今のままのブラウン選手のスケートを追求してどんどんほかの選手にはないオリジナリティーを極めていってほしいなと思います。


 8位はロシアチャンピオンのミハイル・コリヤダ選手です。

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 冒頭は今季からチャレンジしている大技4ルッツ、回転は認定されたものの転倒で初成功とはならず。続く4トゥループはきっちり決めて加点を得ます。しかし直後の3アクセルはタイミングが合わなかったのか抜けて1回転に。次の3+3はクリーンに成功とバラつきの目立つ前半となります。立て直したい後半、まずは3アクセルを今度は完璧に成功。3+1+3は最後のジャンプが2回転に。続いて3ループは問題なく決めますが、最後の2アクセルは若干乱れ、フィニッシュしたコリヤダ選手は納得がいかないというように顔を曇らせました。得点は164.19点でフリー9位、総合8位となりました。
 前半の大技でミスが重なったことによって全体的にリズムに乗りきれなかったという印象の残る演技でしたね。ただ、4ルッツは回り切ってからの転倒でしたし、成功の形も本人には見えているのだろうと思うので、来シーズンに向けて良い収穫になったのではないかと思います。
 今大会はパーソナルベストから10点以上低いスコアで8位とコリヤダ選手自身は消化不良の内容、結果だったかもしれませんが、シーズン全体を俯瞰するとそこまで極端に崩れる試合というのも少なく、何といってもロシア選手権優勝という大きな初タイトルもあり、足元をしっかり固めるシーズンになったのではないでしょうか。来季は4ルッツの成功も含め、さらに飛躍するシーズンになることを期待したいですね。


 19位となったのは日本の田中刑事選手です。

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 まずは得点源の4サルコウ、これをクリーンに着氷します。さらに続けて2本目の4サルコウはしっかり2トゥループを付けて成功させ最高の滑り出しとなります。しかし直後の3アクセルが2回転に。後半に入り最初の3+3は問題なく下りますが、3アクセルは力が入ったのか珍しく回転不足で転倒。残りのジャンプは全て予定どおりにこなしましたが、3アクセルのミスが響いて148.89点でフリー17位、総合19位にとどまりました。
 ショートで失敗した4サルコウをしっかり修正した一方で、今シーズン安定していた3アクセルが1本もクリーンに決まらず、田中選手らしい演技とはなりませんでしたね。単純にこの大会で自己ベストくらいの得点を出せていれば10位には入れていたので残念だなと思うのと同時に、田中選手の実力は19位で終わる選手ではないというのもわかっているので、今大会の演技には少しもどかしさも覚えました。ただ、五輪プレシーズンに世界選手権の雰囲気を経験できたことは貴重な収穫だと思うので、来季は日本男子の第3の男としてさらにベースを底上げするシーズンにしてほしいなと思いますね。



 さて、ここからはアイスダンスです。

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 実に5年ぶりとなる3度目の優勝を果たしたのは、今季競技復帰したカナダのテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア組です。SDは全てのエレメンツがレベル4という非の打ちどころのない演技で2位に約5点の大差をつけて断トツの首位。FDはサーキュラーステップシークエンスの終わりでモイア選手がバランスを崩して転びかけるというまさかのミスはありましたが、そのほかは全て高いレベルとクオリティーでまとめ自己ベストに近い得点で2位、ショートのリードを守り切って優勝となりました。
 フリーはヴァーチュー&モイア組らしからぬシーンはありましたが、それでも2位という圧倒的な地力の差を見せつけましたね。この結果を見る限り来シーズンもこのカップルを軸に世界のアイスダンス界は回っていきそうですし、二人が引っ張ることによってほかのカップルも追いつけ追い越せとばかりにレベルアップしてくると思うので、そういった意味でもヴァーチュー&モイア組が競技会に戻ってきた意義は大きかったのかなと思います。世界選手権優勝、おめでとうございました。

 銀メダリストとなったのは2015、2016年の世界王者、フランスのガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組。SDはツイズルと2つのステップシークエンスがレベル3にとどまり、1位に点差をつけられての2位。しかしFDはステップは1つレベル3だったものの全体的に完成度の高い演技を披露し、自身が持つ世界最高を上回る119.15点で1位、トータルでは2点差及ばず惜しくも2位となりました。
 ショートで5点というアイスダンスではひっくり返すのが難しい点差をつけられ、ヴァーチュー&モイア組の優勝だろうという大方の予想になりましたが、フリーはディフェンディング・チャンピオンとして意地を見せる演技でしたね。パパダキス&シゼロン組が来季ヴァーチュー&モイア組を上回ってオリンピックチャンピオンになるために鍵となるのはショート。パパダキス&シゼロン組はショートで少し出遅れてフリーで追い上げるというのがパターンが多いので、その鬼門のショートでさらに安定感が増せば、ヴァーチュー&モイア組をもっと脅かせるのではないでしょうか。

 3位はアメリカチャンピオンのマイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組です。SDは得意のステップシークエンスがレベル2という取りこぼしがあり、アメリカ勢の中でも3番手となる5位と出遅れ。FDも珍しくリフトで時間超過による減点1があり4位でしたが、トータルでは3位で2年連続で表彰台に上がりました。
 圧倒的な技術力を武器とするシブタニ兄妹にしては取りこぼしの多い試合となりましたが、この僅差の接戦を勝ち抜いてメダルを手にした経験は、ある程度余裕を持って2位になった昨年以上の価値があるのではないかと思います。特に今年はショートとフリーが揃わず順位の変動が大きいカップルが例年より多かった中で、ショート5位、フリー4位という不本意な内容でも2年連続で表彰台を死守できたことは、来季に向けて大きなアピールになりますし、大きな意味のある3位なのではないでしょうか。

 日本の村元哉中&クリス・リード組はSD23位で残念ながらFDには進めませんでした。

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 冒頭のパターンダンスは確実に丁寧にこなしましたが、パーシャルステップシークエンスはレベル2どまり。そして終盤のツイズルではリード選手の回転がずれてレベル1になった上GOEでも減点となり、54.68点で23位にとどまりました。
 パーソナルベストの61.10点からはかなり低い得点となってしまい、キス&クライでは言葉を失った村元&リード組。演技全体としては勢いもあって良かったと思うのですが、細かな部分の精密さに欠けてしまったのかなと思いますね。彼らの自己ベストを考えると問題なくフリー進出できると思っていましたし、そのために必死に練習をしてきたと思うので悔しい気持ちは強いでしょうが、この悔しさをバネに来季はさらなる技術の向上と安定感を手に入れて、オリンピックの出場権を獲得してほしいですね。



 男子フリーとアイスダンスの記事は以上ですが、ここで平昌オリンピック(と来年の世界選手権)の国別出場枠をまとめたいと思います。


《男子》

3枠:日本、アメリカ
2枠:カナダ、ロシア、スペイン、中国、イスラエル

《アイスダンス》

3枠:カナダ、アメリカ
2枠:ロシア、イタリア、フランス



 オリンピックと世界選手権の出場枠は、それぞれ国別の出場選手数とその順位によって決められます。
 まず3選手もしくは2選手出場している国は、その上位2選手の順位の数字の合計が13以下であれば3枠獲得。14~28以内であれば2枠、29以上で1枠となります。一方、1選手しか出場していない国は、その1選手が2位以上になれば一気に3枠獲得。3~10位であれば2枠。11位以下だと1枠のままです。
 ということで、男子は日本がワンツーフィニッシュというこれ以上ない最高の形で3枠を確保。そしてアメリカは表彰台も目されていたチェン選手が6位と思ったほど伸びませんでしたが、ブラウン選手が4回転1本のみで踏ん張って7位と、ちょうど13ポイントで見事に3枠を勝ち取りました。
 そして2選手出場で2枠を守ったのはカナダとロシアとスペイン。有力選手がフェルナンデス選手しかいないスペインは別として、カナダとロシアは何とか頑張って3枠を取りたいところだったと思うのですが残念ながら2枠のまま。特にカナダはチャン選手が5位、ケヴィン・レイノルズ選手が9位で14ポイントだったので、本当にあと少しでしたね。
 1選手のみの出場だった中国とイスラエルは上位に食い込んで2枠に増枠。中国は元々2枠が与えられていましたが、出場予定だった閻涵(ヤン・ハン)選手が肩の負傷のため欠場。結果的に金選手一人のみの出場でしたが、全く問題なく余裕で2枠を確保しましたね。そしてイスラエルは唯一の出場のアレクセイ・ビチェンコ選手が10位と2枠に増えるギリギリのラインをクリア。イスラエルが2枠を獲得するのはオリンピック史上初の歴史的な快挙であり、最近のイスラエルはビチェンコ選手のほかにも若手のダニエル・サモヒン選手も台頭してきていますから意味の大きい2枠ですね。
 アイスダンスはアイスダンス大国の北米2国ががっちりと3枠をキープ。一方で同じくアイスダンス大国のロシアは上位2組の合計が15ポイントで惜しいところで3枠を逃しました。5位のエカテリーナ・ボブロワ&ドミトリー・ソロビエフ組がSD8位と出遅れたのが、FDだけだと3位だっただけにもったいなかったですね。

 今大会全体を振り返ると男子は予想されていたとおり史上最高レベルの戦いとなり、300点を超えたフェルナンデス選手でさえ4位という尋常ではない時代に突入。この過酷な時代を勝ち抜いて勝者となるためには、4回転を数種類跳ぶのは当たり前として、その出来栄えも求められ、また、スピンやステップの些細な取りこぼしでも順位が左右される可能性があり、本当の意味での総合力が必要とされるのかなと思います。難度の高い4回転を何本も跳んでほかの選手に基礎点で優位に立つという方法ももちろんありますが、今やそういったレベルの選手が1人や2人ではなく5人以上いる時代なので、ジャンプの基礎点の足し算で差をつけるだけではなく、その美しさを磨くこともかなり重要になってきそうですね。
 そしてアイスダンスは第一線から退いていたオリンピックチャンピオンが戻ってきたことによって、パパダキス&シゼロン組が頭一つ抜け出ていたここ2年の状況が一転、勢力図が掻き回されておもしろさが増したのではないかと思います。オリンピックシーズンも今季同様もしくはそれ以上に、基礎点でレベル4を取るのは大前提として、GOEをどう稼ぐかという戦いになってくるでしょうね。



 世界選手権2017の記事はこれで終了です。ただ、今年は世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)も残っていますので、世界選手権に出場した選手たちは連戦で大変でしょうが、怪我のないよう気を付けて今シーズンを有終の美で飾ってほしいと思います。では。


:男子メダリスト3選手のスリーショット写真、田中選手の写真、アイスダンスメダリスト3組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、ブラウン選手の写真、コリヤダ選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、村元&リード組の写真はフィギュアスケート情報サイト「Absolute Skating」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2017-04-06 18:00 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)