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ベストコスチューム16/17・男子フリー部門

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 前回に引き続き、ベストコスチューム16/17・男子フリーの衣装のベスト10をお送りします。なお、ベスト10を決めるにあたってのルールについては、こちらの記事をご参考下さい。また、男子のショートプログラムの衣装ベスト10は、こちらの記事をご覧ください。

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 男子フリー部門1位は、日本の羽生結弦選手の「Hope & Legacy」です。

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 プログラム名の「Hope & Legancy」は曲名ではなく、久石譲さんの「View Of Silence」と「Asian Dream Song」という2曲を組み合わせた羽生選手オリジナルのタイトルです。“希望と遺産”という壮大な題名にふさわしく、ダイナミックで、それでいて繊細さと優雅さに満ちた世界観のプログラムとなっています。
 そんな重層的なプログラムを表すように、衣装も非常によく考えられた繊細な作りになっています。形としては両袖とも長袖ですが、左肩の方にだけ布が垂れ下がるアシンメトリーなデザイン。そして、上半身全体に左上から右下にかけて流れるような細かいギャザーが入った立体的な作りです。色は肩の辺りは白、胸の辺りは明るいグリーン、そこから絶妙なグラデーションで深い群青色、そして黒へと徐々に変化しており、腕も同じような色づかいで、極めて繊細なカラーコーディネーションと言えますし、また、細かく散りばめられたビジューも派手すぎず控えめな光を放っています。
 比較的曲調の変化の少ないしっとりとした音楽なので、衣装も地味すぎると音楽に埋もれてしまいかねないと思いますが、音楽よりも主張しすぎず、かといって地味すぎもせず、ほどよい華やかさを持った芸術的に美しい衣装だと思います。


 2位はアメリカのネイサン・チェン選手の「韃靼人の踊り 歌劇『イーゴリ公』より」。

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 フィギュア界でも定番の「韃靼人の踊り」。ロシアから北アジア、東ヨーロッパにかけて暮らした“韃靼人(タタール人)”をモチーフにした異国情緒満載の楽曲ということで、チェン選手のコスチュームもそうしたエキゾチックさを前面に押し出していますね。
 衣装は長袖のトップスの上に半袖の上着を重ねたようなコーディネートで、そのどちらも深い赤を基調に襟元や裾、袖が金糸で縁取りされたような作りです。この刺繍風の部分が非常に細やかな意匠となっていて、異国らしさをひしひしと感じさせます。また、腰に巻いたベルト(と、長袖シャツの袖口)も花の周りを円が囲んだようなモチーフをいくつも連ねたデザインで特徴的ですし、胸の中心に配置された勲章のようなメダルのような装飾品も、好いアクセントとなっています。
 異国情緒を表現した衣装は過去にも数多くありますが、どうしてもステレオタイプに陥りがちでもあります。チェン選手の衣装はそうしたオーソドックスさを引き継ぎながらも、オリジナリティーもしっかりある素晴らしい衣装に仕上がっているのではないでしょうか。


 3位は日本の宇野昌磨選手の「ブエノスアイレス午前零時/ロコへのバラード」です。

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 タンゴ界の巨匠アストル・ピアソラの楽曲2曲のメドレープログラムで、衣装はタンゴらしい赤と黒を基調とした色づかいとなっています。
 作りとしては上から下まで繋がったいわゆる“つなぎ”の上に、長袖の上着を着用したスタイル。下に着た衣装はベージュから赤、グレー、黒へとグラデーションになっていて、細かいビジューが縦のラインを描くように施されています。そして上着は立て襟に丈の短いものでジャケットというよりボレロですね。前身頃から裾にかけてと、腕の肘から下の外側全体に曲線的なデザインがあしらわれています。この模様が暑い国の植物っぽくもあり、また、燃え盛る炎のようでもあり、タンゴらしい情熱を明確に伝えていますね。色づかい自体は定番ですが、デザインで個性を表した衣装だと思います。


 4位はウズベキスタンのミーシャ・ジー選手の「バレエ「くるみ割り人形」より」。

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 王道中の王道、チャイコフスキーのバレエ作品「くるみ割り人形」の中でも特に有名な場面「パ・ド・ドゥ」を使用したプログラム。「パ・ド・ドゥ」は金平糖の精と王子の踊りのシーンですが、ジー選手の衣装はまさに王子を演じるバレエダンサーそのものです。
 トップスは立て襟の白い長袖で、縦に金色の模様がシンメトリーにあしらわれています。ボトムスは黒いパンツで、全体的にごくシンプルなスタイルですが、「くるみ割り人形」という誰もが知る名曲だからこそ、あえて衣装で派手派手しく主張する必要はないのかなと思います。また、現役随一の表現力を誇るジー選手だからこそ、これくらいシンプルな衣装でも音楽の壮大さに負けることなく演じ切れるのだろうなとも感じますね。


 5位はアメリカのアダム・リッポン選手の「O/Arrival of the Birds 映画『The Crimson Wing: Mystery of the Flamingos』より」。

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 イギリスのバンド、コールドプレイの「O」という楽曲と、フラミンゴを取材したネイチャードキュメンタリー映画のサウンドトラックを組み合わせたプログラム。リッポン選手は元々その前のシーズンで「O」をエキシビションナンバーとして使用しており、衣装も写真のものを着用していましたが、エキシビションやアイスショーで使用した衣装は「昨季以前にすでに使用された衣装は対象から除外する」というルールには当てはめず、今回選ばせていただきました。
 使用されているそれぞれの楽曲が、「O」は“Fly On”=「飛ぶ」というサブタイトルがついていますし(厳密には「O」のインストゥルメンタルバージョンで、アルバムの隠しトラックとして収録されている曲のタイトルが「Fly On」)、もう一つの楽曲もフラミンゴをフィーチャーした映画のサントラということで、プログラムも全体的に鳥をイメージした世界観となっています。
 ということで衣装も“鳥らしさ”が控えめながら感じられるデザイン。トップスは透け感のある白い素材に、鳥の翼のような異素材が組み合わせられています。この異素材の部分に黒やグレーで羽のようなラインが描かれ、まさに“鳥”を思わせるコスチュームとなっているわけですが、わかりやすく“鳥”というよりは、あえてアシンメトリーに、少し外した感じのデザインになっていて、この控えめさが素敵だなと思いますね。


 6位は韓国のイ・シヒョン選手の「Take Me to Church/From Eden」です。

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 アイルランド出身の歌手ホージアの楽曲2曲のメドレープログラム。バラード調の「Take Me to Church」からアップテンポな「From Eden」へと曲調は変化しますが、基本的にはロックということもあってか、イ選手の衣装は全身デニム生地というカジュアルなものとなっています。
 トップスはデニムの長袖シャツを腕まくりした風の五分袖、ボトムスはジーンズというスタイルですが、トップスは襟の周囲にさまざまなビジューが散りばめられ、また、短めのネクタイにもラインストーンがあしらわれており、カジュアルではありますが華やかさもある衣装となっています。全身デニムだけだとラフすぎる印象になりかねませんが、部分的に装飾品を用いることで効果的なアクセントとなっていて、カジュアルさと華やかさのバランスが取れた衣装になっていると思います。


 7位は日本の田中刑事選手の「フェデリコ・フェリーニ・メドレー」。

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 イタリアの名映画監督フェデリコ・フェリーニ作品のサウンドトラックを組み合わせた軽快かつユーモラスなプログラム。ということで衣装も軽快さを強く意識したデザインと言えます。
 トップスは黒白のストライプ柄シャツで、ボトムスは黒っぽいジーンズ風パンツ。上述したイ選手同様にシャツの袖をまくってボトムスはジーンズ風にすることでカジュアルさ、軽やかさを演出していますが、田中選手の場合はシャツもパンツも黒をベースにしている分、より大人っぽくシックになっているかなと感じます。さらに、シャツは襟の一部分と右側面に濃いめのピンクをあしらい、また、左胸のポケットは赤い生地の上にストライプの生地を斜めに貼りつけ、その上に花のようにも見える赤と白のビジューの装飾を施すという凝ったデザインで、カジュアルな中にもさりげない品を感じさせる考えられたコスチュームだなと思います。


 8位はアメリカのグラント・ホフスタイン選手の「歌劇「道化師」より」。

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 レオンカヴァッロの名作「道化師」。フィギュア界でも近年男子選手の使用が増えてきており、定番になりつつあります。
 冒頭からテノールの迫力に満ちたボーカルで始まるプログラムですが、そんな重厚さにふさわしい気品と大人の華やかさを感じさせるコスチュームは、トップスが深みのある臙脂色。形としてはシンプルな長袖シャツですが、胸元が一部三角形に開いて肌がのぞくような作りとなっています。また、細かなラインストーンによって左肩から右の脇へと流れるようなラインをあしらったり、そのほかの部分ではランダムに散りばめるようにあしらったりとバランス良く装飾品を使っていて、色づかいが重厚で渋い分、装飾品の使い方でうまく華もプラスしていて工夫されているなと感じます。


 9位はカザフスタンのデニス・テン選手の「歌劇「トスカ」より」。

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 大定番のオペラ「トスカ」を使用したプログラムということで、衣装もその重厚さを意識したデザインです。
 上下とも黒をベースにし、トップスは立て襟で胸元が大きく開いた作り。その胸元から肩、腕、背中の中心にかけて赤をあしらってアクセントにしています。ハッキリとした鮮やかな赤というよりは渋みのある赤なので、派手すぎない落ち着いた色づかいと言えますし、一面赤ではなく小さいラインストーンを無数にあしらうことで複雑な色味を作り出していて、「トスカ」のどっしりとした雰囲気にピッタリ合ったカラーコーディネーションだなと思います。


 10位はアメリカのティモシー・ドレンスキー選手の「Sometimes I Dream」です。

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 ギリシャ出身のテノール歌手マリオ・フラングーリスさんの歌う「Sometimes I Dream」。一部「トスカ」の有名なアリア「星は光りぬ」のアレンジバージョンが入っており、いわゆる名曲をサンプリングしたクラシカルオーバー曲と言えます。
 そんなオペラのアリアを用いた重厚なプログラムということもあり、コスチュームもやはりシックに落ち着いた色づかい。透け感のある素材の服の上に、透け感のない黒の長袖トップスを重ね、腰に装飾的なベルトを巻いています。何よりこの衣装のポイントとなっているのはベルトで、実際はもちろん軽い素材を使っていると思うのですが、まるで本物の金属のように見える質感と、赤や緑といったビジューで形作られた模様もエキゾチックで、音楽の世界観に合っているなと思います。トップスやボトムスといった服自体は極めてシンプルですが、ベルトのみを派手めにするという一点豪華主義の良い例と言えますね。



 男子フリー部門のベスト10は以上です。次はペアのショートプログラムに続きますので、またしばしお待ちください。


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by hitsujigusa | 2017-06-15 18:55 | フィギュアスケート(衣装関連)