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 スケートカナダ男子シングル、金メダルを獲得したのは世界選手権3連覇中のパトリック・チャン選手です。羽生結弦選手、織田信成選手はそれぞれ2位、3位に入り、無良崇人選手は10位に終わりました。
 アイスダンスでは地元カナダのテッサ・ヴァーチュー、スコット・モイヤー組が5度目の優勝を飾っています。

ISU GP Skate Canada International 2013 大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 優勝はカナダのパトリック・チャン選手、2位に30点近い差をつけての金メダルです。

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 SPでは4回転が3回転になる失敗はあったものの、他はきっちりまとめて首位。プログラムも昨季と同じ「エレジー」ですから、慣れたもので落ち着いた滑りを見せました。
 フリーは2本の4回転をほぼ完璧に成功させ、3アクセルが2回転になるといった軽いミスはありましたが、大きな乱れのない全体に流れのある演技で他を圧倒しました。
 今大会のチャン選手は必ずしも好調ではなく、複数のジャンプミス、スピンがレベル1になるというらしくないミスもありました。しかし、その中でもほかの選手が苦労している4回転ジャンプをしっかり決めたところは、さすがチャンピオンという風格でした。優勝は有力選手たちの不調に助けられた面もありますが、皆シーズン始めという点では条件は同じですからね。このような形で五輪シーズンのスタートを切ったということで、ただでさえ強いチャン選手が波に乗っていきそうな気もします。もちろん、シーズン前半の波が後半にまで維持されるかどうかは分かりませんが。
 とにもかくにも優勝おめでとうございます。


 2位は羽生結弦選手、ただあまり満足のいく内容とはいきませんでした。

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 SPは4回転で着氷が乱れたり3ルッツが1回転になったりと失敗が重なり3位発進。演技全体も普段のはつらつとした元気の良さがなく、まるで借りてきた猫のような大人しさでした。演技後にはキス&クライでいつも以上に汗を掻いていて、どこか体調でも悪いのかなと思うほど。そういう話は今のところ出てきてないので、精神的な緊張による硬さだったのだろうとは思いますが。


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 そしてフリーでも4サルコウで転倒、4トゥループでも手を付くなどのミスをし、プログラム後半はどんどんスピードも落ちて力のない演技となってしまいました。SPでもそうでしたが、今大会は最初から演技に元気がなかったように思います。フリーの後半にスピードがなくなるのはいつものことですが、前半からすでにふわふわした感じというか、地に足が付いていないようなぎこちない動きになってしまっていて、終盤に向けてどんどん盛り上がっていく音楽と動きの小さい身体とのギャップで、ちぐはぐな印象を受けました。良かったのはその中でも後半のジャンプをきちんと跳べていたこと。スピンもいつもほどのシュアな回転ではありませんでしたが、レベルと加点はしっかり取れていました。プログラムもエレガンスかつドラマティックな音楽で羽生選手に合っていると思います。
 今大会、羽生選手はチャン選手と一緒ということでかなり意識していたみたいですね。でも、世界選手権3連覇中のチャンピオンに18歳の若手がかなわないのは当たり前です。だったらかなわないことを前提にして胸を借りるくらいの気持ちで臨んだ方が良いのではないかと思います。また、順位についての言葉も多く聞かれましたが、順位やファイナルのことを気にして自分にプレッシャーを与え過ぎているのではないかなと感じました。なまじ実績があるだけに、それに見合う結果を残さなければいけないという責任感があるのかもしれませんが、そうはいってもまだ若いのですから、先輩スケーターたちに挑戦するというスタンスでもいいんじゃないかという気がします。実績がない頃、失うものがなく怖いもの知らずで突き進んでいた羽生選手はある意味、ものすごく強かったです。
 フリー後のインタビューで羽生選手は“一からやり直す”と話していました。昔に戻ることはできませんが、あまり気負い過ぎず、以前のような無我夢中の演技をまた見せてほしいなと思います。


 銅メダルを獲得したのは織田信成選手です。

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 SPは冒頭の4回転で思わぬ転倒となるも、その後は3アクセル、3ルッツに3トゥループを急遽付けたコンビネーションジャンプなど演技をまとめ、織田選手らしいコミカルさあふれる楽しいプログラムを滑り切りました。失敗はしてしまいましたが、そのあとが落ち着いていて跳ぶべきジャンプを跳べていましたし、表情も明るくて失敗を忘れさせてくれる演技でした。


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 フリーは4回転が2本ともトリプルに、後半の3フリップでも転倒があり、納得のいく演技とはなりませんでした。それでも終盤、「ウィリアムテル序曲」の有名な旋律に乗ったコレオグラフィックシークエンスでは笑顔を見せて滑り、観客の手拍子を誘っていました。ジャンプのミスが3つありましたが、それ以外のジャンプでは織田選手特有の柔らかな着氷を見せ、軒並み高い加点を得ています。
 こうして採点表だけを見るとそれほど悪くない演技に思えます。が、実際の点数は内容的にかなり悪かった羽生選手よりも下。演技全体の流れを比較しても明らかに織田選手が上回っています(実際プログラムコンポーネンツは織田選手が上)。しかし、残念なことに織田選手はコンビネーションジャンプが1つしか入りませんでした。また、羽生選手は不完全だったものの4回転を回り切って降りてきていますが、織田選手は3回転。演技全体の印象は織田選手の方が良いだけに、そういった細かいところで取りこぼしてしまったのがもったいなかったですね。
 何はともあれ、男子全体の低調に助けられて表彰台を守った織田選手(羽生選手もですが)。次戦NHK杯は高橋大輔選手、ハビエル・フェルナンデス選手らとの争いになりますが、何とかファイナルを目指して頑張ってほしいです。


 4位はチェコの実力者、ミハル・ブレジナ選手です。

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 ショートは4回転が2回転になってしまったがために出遅れ、7位スタート。しかし、フリーでは2つの4サルコウを決め、最終的には4位まで順位を上げました。
 2、3位の2人が良くなかったことを考えると、ブレジナ選手にも表彰台入りのチャンスは充分にありました。ですが、後半の最初のジャンプ、大技トリプルアクセルで失敗すると、3ループがダブルに、3ルッツで転倒、3サルコウからのコンビネーションでもパンクと、ミスを連発してしまいました。結局フリー順位は5位となり、表彰台には届きませんでした。せっかく4回転を2本きっちりと決めているだけに、もったいないなーという印象が強く残りました。
 ブレジナ選手はとてもポテンシャルの高い力のある選手なのですけれど、あともう一つというところで本領を発揮できていないことが多いように思います。本当の意味でブレイクし切れていないというか、常に惜しい印象が強いというか……。昨季の欧州選手権はフリーの自己ベスト更新で良い出来でしたが、次の世界選手権では10位と振るいませんでしたし。今大会はブレイクするチャンスだったんじゃないかという気もします。
 次戦のフランスは再びチャン選手や羽生選手との競合となるので、ファイナルという意味では厳しいかもしれませんが、カナダ以上の演技を期待しています。


 5位に入ったのは現世界ジュニアチャンピオン、ジョシュア・ファリス選手。

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 SPは4+3が3+1になる失敗で8位と大きく出遅れてしまいますが、フリーは4回転こそ転倒したものの、その後はほとんどのジャンプを決め、フリー4位と立て直しました。
 私は今回初めてファリス選手を見たのですが、王道なスケートをする正統派という感じですね。ものすごく強烈な個性があるわけではないですが、年齢のわりに落ち着いた大人っぽい表現ができる選手だなと思いました。特に印象に残ったのは、ジャンプの跳び方。トゥ系のジャンプが得意なのだと思いますが、ほとんど助走や構えなくスッとルッツやフリップを跳ぶんですね。高橋大輔選手もステップからすぐにルッツやフリップを跳べる選手ですけれど、ファリス選手の跳び方には高橋選手っぽさを感じましたね。
 華々しいGPデビューとまではいきませんでしたが、フリーでの挽回は良いアピールになったと思います。次戦のロシアではショート、フリー共に揃うと良いですね。


 6位となったのはアメリカのベテラン、ジェレミー・アボット選手です。

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 SPでは久しぶりに4回転を決め、波に乗っていくかなと思ったんですが、コンビネーションジャンプや3アクセルでミスをしてしまい4位スタートとなりました。フリーは4回転や3アクセルで転倒、他にもジャンプのミスが相次ぎ、残念ながらフリー6位、トータルでも6位に留まりました。
 ジャンプが決まらなかった影響もあってか、いつもほどスケーティングの伸びや演技の大きさがなかったように感じました。フリー「エキソジェネシス交響曲」は個人的にとても好きなプログラムなのですが、後半に向けて盛り上がっていく音楽のダイナミズムとアボット選手の雄大なスケーティングとが奇跡的な融合を見せるプログラムです。今シーズンでの引退を表明しているアボット選手にとって、これ以上集大成に相応しい作品はないと思います。彼がオリンピックに行けるかどうかは分かりませんが、願わくは「エキソジェネシス交響曲」をソチで見たいなと思います。
 ファイナルは絶望的な状況になってしまいましたが、次戦NHK杯での演技、楽しみにしています。


 SP5位と悪くないスタートを切った無良崇人選手は、フリーで順位を落とし10位となりました。

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 SPは今までの無良選手のイメージを覆す男の色気を漂わすプログラム。4回転の着氷で大きく乱れてしまったものの、他はしっかりまとめミスを最小限に抑えました。ただ、精神的な緊張かプログラムがまだ身体に浸透していないからか、全体的に硬く、無良選手らしい豪快さや力強さに欠けていましたね。


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 そしてフリー、冒頭の4回転が2回転になってしまうと、次の4回転でもダウングレード(大きな回転不足)となり、転倒は1度もなかったのですがミスを連発し、フリー10位、総合でも最下位となってしまいました。
 1本目の4回転を失敗した時に2本目は回避すべきだったとの無良選手の言葉がありましたが、失敗が重なったことによって動揺が広がってしまったのでしょうね。こうもミスが続くと見ている方も演技に集中できなくなってしまい、プログラムの魅力もかき消されてしまうのが残念でした。それにしても、演技構成点の方で気になったところがあります。トランジション=技と技の間のつなぎの点数で3点台、4点台を付けていたジャッジがいたことです。シニアの世界で実績のない選手でもなかなか無いのに、GPでの優勝経験もあり、着実に力をつけてきている無良選手に対し3点台、4点台というのは……。確かに悪い演技でしたが、それでも同じ項目で7点台を出しているジャッジもいる一方で、3、4点台という極端な差。専門家にしか分からないことなのかもしれませんが、ほかの4項目では普通に6、7点台が出ているだけに、ここだけがどうしても気になりました。
 昨季同じスケートカナダで8位と悔しい結果に終わり、そこから次のフランス大会で初優勝し、全日本でも3位、世界選手権の切符を勝ち取った無良選手。今大会の結果でファイナルの可能性は消えましたが、全日本が終わるまでどうなるか分からないので、昨シーズンの再現を期待しています。次戦はNHK杯です。


 終わってみれば男子メダリストの顔ぶれは想定内の面々だったと言えますが、ここまで全体的に不調、低調とはちょっと思ってなかったですね。2位の羽生選手の点数でさえ、先週のスケートアメリカ4位の高橋大輔選手の点数より低いわけですから。羽生、織田両選手もかなり良い状態で来ていたことを考えると、本当にスポーツの世界というのは分かりません。
 そして、GPシリーズに参戦している日本男子6選手がこれで全員初戦を終えました。6人中、上々の滑り出しとなったのはスケートアメリカ優勝の町田樹選手ただ一人。調子が良いと伝えられていた選手も含め、5選手は収穫より課題の多いスタートとなりました。2大会連続で日本男子が表彰台に登っているのは喜ばしいことですが、演技内容的には少しさみしいですね。これからの各選手の復調を祈っています。



 ここからはアイスダンスについて。
 優勝したのは現世界選手権銀メダリスト、テッサ・ヴァーチュー、スコット・モイヤー組。SP、フリー共に1位で、危なげのない完全優勝。なんとこれでスケートカナダ3制覇、通算でも5度目の優勝となりました。
 2位に入ったのはこちらもカナダのケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組。ショート、フリー、総合で自己ベストを更新する完璧な出来で、スケートカナダでの通算3つ目のメダルを獲得しました。
 3位となったアメリカのマディソン・ハベル、ザカリー・ダナヒュー組もSP、フリー、総合の自己最高得点を出し、GPシリーズ初メダルを獲得しています。


 女子とペアではGP初優勝、男子とアイスダンスでは自国のスターのおなじみの優勝となったスケートカナダ2013。GPシリーズ次戦は、中国の首都北京で行われる中国杯です。


:男子メダリスト3選手の写真は、ロイターが2013年10月27日の11:22に配信した記事「フィギュア=スケートカナダで羽生が2位、織田は3位」から、チャン選手の写真、ブレジナ選手の写真、ファリス選手の写真は、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、羽生選手のSPの写真、織田選手のSPの写真は、AFPBB Newsが2013年10月26日の16:21に配信した記事「織田が2位発進!羽生は3位 スケート・カナダ」から、羽生選手のフリーの写真は毎日jpが2013年10月27日の10:01に配信した記事「フィギュア:2位に羽生、女子・鈴木も スケートカナダ」から、織田選手のフリーの写真、アボット選手の写真、無良選手の写真は、カナダのフィギュアスケート組織「Skate Canada」の公式ウェブサイト内のフォトギャラリーの「2013 Skate Canada International - Saint John, NB」から引用させていただきました。


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 GPシリーズ第2戦、スケートカナダが終了しました。女子シングルを制したのはロシアのユリア・リプニツカヤ選手。GPシリーズ初優勝となります。鈴木明子選手は見事銀メダルを獲得、アメリカのグレイシー・ゴールド選手が3位となっています。
 そしてペアではイタリアのステファニア・ベルトン、オンドレイ・ホッタレク組がショート、フリー、総合で自己ベストを更新し、こちらもGP初優勝を飾りました。

ISU GP Skate Canada International 2013 大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 金メダルを獲得したのはロシアの15歳、ユリア・リプニツカヤ選手です!

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 SP、フリー、総合と全てでパーソナルベストを更新し優勝したリプニツカヤ選手。本当に見事な金メダルでした。
 昨季は高難度のジャンプ、柔軟性を生かしたスピンが強く印象に残ったリプニツカヤ選手ですが、今大会はプログラム自体のメッセージ性、独創性が深く心に残りました。
 SPは「愛はまごころ」。しゃがみこんで氷の上に指でハートを描くところから始まって、最後もハートを描いて終わるという明確なストーリーが見えるプログラム。初々しさのあるリプニツカヤ選手の演技とも相まって、恋する少女の心の内が伝わってくるような作品となっていました。
 フリーは映画『シンドラーのリスト』のサントラを使用、映画に登場した赤い服の少女をリプニツカヤ選手が演じるという趣向。大きな山場のない淡々とした曲調の中、リプニツカヤ選手もほとんど表情を変えず、目を引く派手な振り付けや動きもありませんでしたが、それでもヒシヒシと心に迫るものがありました。テレビの解説で荒川静香さんもおっしゃっていましたが、平和への祈り、メッセージというものが強く感じられましたし、これほど淡々としているのに強烈に訴えてくるものがある演技を彼女がしたことにビックリしました。15歳の女の子が演じるには「シンドラーのリスト」は難しいんじゃないかと思っていましたが、私の想像を超えてましたね。技術が目立っていた昨季から、ガラリと印象が変わりました。
 なんにせよ、素晴らしい初優勝です。おめでとうございます。


 鈴木明子選手はショート3位から順位を上げて、2位となりました。これで3年連続出場のスケートカナダでは3年連続の銀メダル獲得です。

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 SPは冒頭の3+3のセカンドジャンプがアンダーローテッド(軽微の回転不足)を取られてしまいますが、他をきっちりとまとめ、「愛の讃歌」の世界を存分に見せてくれました。この曲は長久保コーチの好きな曲ということで、その想いを抱きながら滑っているのでしょうね、見ているこちらにも鈴木選手の“愛”が伝わってきました。また、鈴木選手の人柄やスケート人生も凝縮されているように感じて、ぐっと来ましたね。

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 フリーではこちらも冒頭の3フリップがステップアウトし、コンビネーションにならず。しかし次の2アクセル+3トゥループに急遽2トゥループをつけ、ミスを挽回。その後も多少のミスはありましたが、ベテランらしい落ち着きでのびやか且つスケールの大きい演技を披露、鈴木選手自身も満足感のある表情を浮かべました。
 フリーの演目は「オペラ座の怪人」ですが、かの有名なメインテーマは使用しておらず、全体的に女性らしい「オペラ座の怪人」でしたね。鈴木選手特有の躍るようなリズムはありつつも、優雅でしっとりとしていて良かったです。
 ファイナル、そして五輪に向けて上々のスタートとなりました。次戦はNHK杯です。


 そして、銅メダルを獲得したのはアメリカのグレイシー・ゴールド選手。昨季のロシア大会に続いて、GPシリーズ2つ目のメダルです。

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 SPは3ルッツ+3トゥループの難しいコンビネーションジャンプを決めるなど完璧な出来で、70点に迫る高得点=自己新を出しトップに立ちました。
 フリーでは後半でジャンプのミスが重なり順位を落としてしまいましたが、それでもファイナルのチャンスが残る3位に留まりました。
 SPは変則的なリズム、テンポでジャジーに、フリーはバレエ「眠れる森の美女」でエレガンスに。欲を言えばもう少し個性というか、アクみたいなものが欲しいような気もしますが、逆にこういったTHE正統派なタイプのスケーターは今では貴重な存在かもしれません。図抜けたものがあるわけではありませんが、今大会もジャンプ、スピン、ステップとバランス良く、全て平均以上にこなせる総合力は彼女の強みですね。
 次のGPはNHK杯となるゴールド選手ですが、浅田選手、鈴木選手、ラディオノワ選手など強豪とのファイナル争いとなります。その中で表彰台(できれば2位以上)を確保するのはなかなかの難関と言えますが、見るだけの人間としてはこれだけの選手が日本に集まるのは今から楽しみですね。


 4位にはアメリカのクリスティーナ・ガオ選手が入りました。

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 SPでは全てのエレメンツに加点が付くパーフェクトな演技で自己ベスト、フリーは複数ミスがありましたが大崩れすることはなく、昨季同様の安定感を見せました。
 SPは昨季と同じプログラムというだけあって、細部にまで表現が行き渡っていましたね。技術的にも演技的にも余裕があったように思います。
 一方フリーは失敗もあってショートほどのびのびとはいかず、また、全体的に多少メリハリにも欠けていたように感じました。ただ、昨シーズンのGP2戦で2位、4位と上位を確保して、その結果繰り上がりとはいえファイナルに出場したように、今季も初戦で上位に入ったことはそれほど悪くないスタートと言えます。大きな失敗をしない、失敗しても崩れないというのは大きな武器ですし、アメリカ国内に向けて良いアピールになるのではないでしょうか。
 次戦はフランス、こちらも頑張ってほしいと思います。


 5位は地元カナダのベテラン、アメリー・ラコステ選手です。

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 こちらもSPはノーミスで自己ベストを更新。ここ数シーズンはジャンプで苦労している印象が強かったので、久しぶりに好調なラコステ選手を見た感じがしますね。
 そしてフリーの演目は映画『アメリ』、まさにラコステ選手にピッタリなプログラムです。今年で25歳になるラコステ選手、今季は集大成のシーズンになるのだろうと思いますが、自分の名前が付いたプログラムで挑むというのは本当に素敵なアイデアですね。今回はミスが続いて完璧な「アメリ」とはなりませんでしたが、それでも今までの自己最高得点を上回り、トータルでも自己新。収穫と手ごたえのあるスケートカナダとなったのではないかと思います。
 ラコステ選手にしかできない「アメリ」、ぜひ見せてほしいですね。


 6位はGPデビューとなった、アメリカのコートニー・ヒックス選手。

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 ショートは単独の3ルッツがダブルになるミスもあり、点が伸びず最下位スタート。しかしフリーでは1度転倒した以外はミスなくまとめ、自己ベストの得点で4位、総合でも6位に順位を上げました。
 さすがに滑りはまだジュニアジュニアしていますが、フリーでの挽回は素晴らしかったですね。ヒックス選手は昨季の全米選手権でも4位に入っていますし、9月に行われた国際大会「U.S. International Figure Skating Classic」ではゴールド選手を抑えて優勝しています。五輪の可能性も充分にあるでしょうから、注目の選手ですね。


 今大会の女子シングルはエントリー発表当初、キム・ヨナ選手、キーラ・コルピ選手、アリョーナ・レオノワ選手もエントリーしていましたが、それぞれ怪我などで欠場してしまいました。その分20代の選手は鈴木選手とラコステ選手のみという若手中心の試合となり、ショートプログラム後にもカナダのケイトリン・オズモンド選手が太ももを痛めて棄権するという出来事もありました。ベテランと若手の戦いが見られなかったのは残念でしたが、パーソナルベスト更新の演技も多くあり、見応えのある試合となりましたね。


 そして、ペアではイタリアのステファニア・ベルトン、オンドレイ・ホッタレク組が今までの自己ベストを約6点上回る得点でGP初優勝となりました。ベルトン、ホッタレク組は先週のスケートアメリカに引き続いての出場。アメリカでは5位ですから、そこからほとんど時間のない中で立て直してベストの演技ができたというのは素晴らしいですね。2大会合わせて22ポイントなのでファイナルは厳しいですが、自己新は五輪に向けて大きな収穫となったことと思います。
 2位となったのは中国の若手ペア、隋文静(スイ・ウェンジン)、韓聰(ハン・コン)組。SP3位からフリー1位で順位を上げましたが、ベルトン、ホッタレク組とは0.15点差で銀メダルとなりました。優勝となればGP初タイトルだっただけに惜しかったですが、次のNHK杯でぜひ頑張ってほしいですね。
 銅メダルはカナダのメーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組。ショートではいくつかの減点要素がありながらも1位となりましたが、フリーでもスピンのレベルの取りこぼしやリフトが1つノーカウントになるなどミスが続き、3位となってしまいました。2013年世界選手権銅メダリストのペアですから、予想を下回る結果とはなりましたが、次のフランス大会では良い演技を見せてほしいと思います。


 とりあえず、女子&ペアはここまで。男子&アイスダンスに続きます。


:女子メダリスト3選手の写真はロイターが2013年10月27日の11:11に配信した記事「フィギュア=スケートカナダで鈴木は2位、リプニツカヤ優勝」から、リプニツカヤ選手の写真はicenetworkが2013年10月26日に配信した記事「Lipnitskaia puts herself on short list for Sochi」から、鈴木選手のSPの写真はカナダのフィギュアスケート組織「Skate Canada」の公式フェイスブックページから、鈴木選手のフリーの写真は毎日jpが2013年10月27日05:02に配信した記事「フィギュア:鈴木明子2位 GP第2戦、スケートカナダ」から、ゴールド選手の写真、ガオ選手の写真、ラコステ選手の写真は、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、ヒックス選手の写真はカナダのフィギュアスケート組織「Skate Canada」の公式サイト内のフォトギャラリーの「2013 Skate Canada International - Saint John, NB」から引用させていただきました。


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by hitsujigusa | 2013-10-29 23:58 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 スケートアメリカ・男子&アイスダンスに続いて、女子&ペアの結果について書いていきます。
 女子シングルでは浅田真央選手がパーソナルベストに迫る得点で優勝、2位にアメリカのアシュリー・ワグナー選手、3位がロシアの新星エレーナ・ラディオノワ選手となっています。
 一方、ペアではロシアのタチアナ・ボロソジャー、マキシム・トランコフ組が自己ベスト、歴代最高得点で圧勝しています。

ISU GP Hilton HHonors Skate America 2013 スケートアメリカの詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 まずは女子、優勝したのは浅田真央選手です! 総合得点は204.55点と、バンクーバー五輪で出した自身の自己ベストに迫るハイスコアとなりました。

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 ショートプログラムは7シーズンぶりの「ノクターン」。冒頭の3アクセルは少し両足着氷となりましたが、回転は認められ成功。その後の3フリップや3+2も難なく決めると、スピン、ステップ全てでレベル4を獲得。73.18点という高得点でSP首位に立ちました。
 3か月ほど前にアイスショーで初めて「ノクターン」を披露した時は、まだ自分のものにし切れていない感じがしましたが、今大会で見せた「ノクターン」は細部まで表現が行き届いていましたし、ジャンプやステップなどのエレメンツとも見事に融合していて、一つの芸術作品として完成品に近い出来でした。今大会もまず、トリプルアクセルというところにメディアの注目は注がれていましたが、そういった一つの技の良し悪しが頭から吹っ飛んでしまうほど、プログラムの完成度、浅田選手の美しさが印象に残りました。
 とは言っても、これほど良い演技ができたのはトリプルアクセルが成功したからなのだと思います。やはり浅田選手の基盤にあるのはジャンプの出来だと思うので、まず大技を成功させたことがその後ののびやかな演技にも繋がっていったのでしょうね。

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 フリーは冒頭の3アクセルで転倒しましたが、その後は切り換えて3フリップ+3ループを3+2に、2アクセル+3トゥループを2+2にするなど、最小限の失敗に抑えるための安全策を取り、ショート同様すべてのスピン、ステップでレベル4を獲得、ミスらしいミスなく滑り切りました。
 3アクセルの失敗は残念でしたが、すぐに切り換えて安全策を取ったのは良かったと思います。3+3、2アクセル+3トゥループのどちらかは跳んでおくべきという意見もあるかもしれませんが、GP初戦なのでまずはまとまった演技を見せることに重点を置いたのだと思います。ミスの少ない演技をジャッジに見せることで演技構成点にも良い影響を及ぼすでしょうし、初戦でしっかりとした演技を見せるところから始まって、今後の試合で一段ずつ階段を上るように課題をクリアしていけばいいのではないかと思います。
 演技内容としては、ショートと比べるとのびやかさ、生き生きとした感じは欠けていたかもしれません。3アクセルで転倒してしまったことで体力を消耗してしまったようですね。3アクセルというのは女子にとっては本当に至難のジャンプなので、その成功不成功いかんによってその後の演技にも影響が出てしまうのは仕方のないことです。
 ただ、後半に疲れが出てしまったのは転倒だけが理由ではなく、佐藤信夫コーチいわく、体の使い方が変わってきた影響もあるようです。

◇◇◇◇◇

 「今までは長距離的な体の使い方。今季は中距離から短距離に近い体の使い方ができるようになってきた」。練習では、ここぞという技や動きの前に「そこでいけ、もっと、と声を掛ける」という。
 演技にメリハリをつけ、力を込める場面ではこれまで以上のエネルギーが必要になるため。持久力に加えて瞬発力を求められる、新たなスタイルを身につけつつある。
 体力の問題を佐藤コーチは車に例えた。「同じスピードならずっといける。信号のたびに止まって急発進を繰り返したら、すぐにガソリンがなくなるでしょう」。冒頭の転倒でリズムを乱したこの日は、最後まで力がもたなかった。


北陸中日新聞 2013年10月22日朝刊 一部抜粋

◇◇◇◇◇

 なるほどな~と思いました。なかなかうまいたとえですね、信夫コーチ。フリーの「ピアノ協奏曲第2番」は重厚かつ力強い曲調ですから、ここぞという技の直前にスピードを上げたり、強さを強調する振り付けの際により力を込めた動きをしたりすることで、さらに力強さが印象付けられるんでしょうね。
 この難しいプログラムを浅田選手がどう自分のものにしていくのか、次のNHK杯がますます楽しみになりました。


 2位となったのはアメリカのエース、アシュリー・ワグナー選手。ショートとトータルで自己ベストを出しました。

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 何よりも印象的だったのはジャンプの安定感。ショート、フリー合わせて転倒やパンクといった大きな失敗はなく、しかも両方で3+3を完璧に成功させています。ワグナー選手は昨シーズンは3+3を演技構成に組み込まず、難易度は低いものの完成度の高い演技で安定した成績を残しました。しかし、トップ選手の多くが3+3を跳んでいる現在、五輪でメダルを狙うことを考えるとやはり3+3は外せません。そうして迎えたGP初戦、さっそくSP、フリーともに決めたというのは素晴らしいですね。スケートアメリカ・男子の記事で町田選手の4回転について書きましたが、それと同じで、昨季は全くと言っていいほど跳んでいなかったことを考えると(国別対抗戦では挑戦してましたね)、これほどパーフェクトに3+3を成功させたのにはちょっと驚かされました。
 もちろん他のジャンプもほぼきちんと決めていますし、見ていて安心感がありました。もう完全にアメリカの女王、貫録たっぷりですね。“The Almost Girl"なんて呼ばれてた頃が懐かしいくらいです。
 ワグナー選手の次戦はフランス、またこのような演技が見られることを期待しています。


 銅メダルを獲得したのはGPデビューとなったジュニア女王、エレーナ・ラディオノワ選手です。

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 ショートは全てのジャンプを完璧に決め、スピン、ステップでもレベル4を獲得、上々の滑り出しとなり、上の写真でもわかるように本人もとても嬉しそうで満足した様子でした。
 フリーは冒頭の3ルッツ+3トゥループの3ルッツで転倒してしまいました。しかし、演技中盤の単独の3ルッツの後ろに急遽3トゥループを付けて3+3にする機転を利かせ、2アクセルで大きくステップアウトするミスはありましたが、全体的にまとめました。冒頭で転倒してしまったので大崩れしてもおかしくないかなと思ったんですが、中盤に急遽3+3を跳ぶという対応を見せ、そういった意味では思いがけない失敗をしても冷静に対処できる落ち着きがうかがえましたね。
 彼女の演技をじっくり見たのは初めてでしたが、ジャンプ、スピン、ステップと全体的にバランスの良い選手と感じました。また、ここ数シーズンでGPデビューしているロシアの若手女子選手―ソトニコワ選手、トゥクタミシェワ選手、リプニツカヤ選手―は年齢のわりに大人っぽい感じがしましたが、ラディオノワ選手は年齢相応の女の子らしさというか、14歳らしい14歳という感じがしました。表現的にも明るく元気いっぱいという印象で、見ていて楽しくなるスケーターですね。
 次戦、ラディオノワ選手はNHK杯に出場予定です。今大会3位に入ったことでファイナルのチャンスもあるので、頑張ってほしいと思います。


 表彰台まであと一歩、4位となったのはエリザベータ・トゥクタミシェワ選手です。

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 SPで3+3が1+3となり、単独の3回転もちょっとミスしてしまったために得点が伸びず、まさかの9位スタートとなってしまったトゥクタミシェワ選手。しかしフリーでは3+3を封印して安全策を取り、ミスらしいミスのない演技を披露、フリー3位で総合4位まで一気にアップしました。
 テレビの解説で荒川静香さんもおっしゃっていましたが、トゥクタミシェワ選手はSPでミスして出遅れ、フリーで挽回して順位を上げるということが多いのですね(昨季はGPファイナルSP5位からフリー2位、欧州選手権はSP4位からフリー1位、世界選手権はSP14位からフリー8位)。土壇場の追い詰められたところから盛り返す精神的な強さというのはすごいのですが、ショートからこれができればより安定的に成績を残せると思うので、激しいロシア国内の五輪選考を勝ち抜くためにもそこが改善されると良いですね。
 あと、少し気になったのはプログラムのタイプというか、選曲ですね。シニアデビューとなった11/12シーズンのショート、フリー、昨季のショート、そして今季のショート、フリーと、ラテン系の音楽ばかりです(昨季のSPは当初「ある愛の詩」だったのを途中で変えました)。ラテン系がよく似合っていて自身も得意にしているということは分かりますが、ラテン一色というのは表現の幅という意味でどうなのかなと思うのです。もちろんそれぞれ違う曲ではあるのですが、どうしても印象が似通ってしまいますし、トゥクタミシェワ選手を見ているといつも同じ感じに見えてしまうので、もっと違う雰囲気のプログラムで、違うトゥクタミシェワ選手を見てみたいなとちょっと思いました。


 5位となったのはGPデビューとなるアメリカのサマンサ・シザリオ選手。

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 ショートでは3+3でダウングレードを取られ8位と出遅れてしまいましたが、フリーではミスといえるミスはなく自己ベストで順位を上げました。
 おっ、と思ったのはショートで跳んだ3フリップ+3ループですね。セカンドにループを持ってくるトリプルトリプルというのは男子でも滅多に跳ばない難しいコンビネーションです。今大会では跳ばなかったものの、浅田真央選手がフリーに同じ3フリップ+3ループを取り入れていますし、アデリーナ・ソトニコワ選手は最高難度の3ルッツ+3ループに先日のジャパンオープンで挑戦していますが、それ以外だとほとんどセカンドのループジャンプというのは聞かないです。なので、こういった難易度の高いコンビネーションを安定的に成功させられるようになると大きな武器になるでしょうね。
 表現的にはノリノリ系というか、それでいてセクシーな魅力のあるスケーターだと感じました。今季本格的なシニアデビューとはいえ、すでに20歳で雰囲気的には大人っぽいのですが、スピンやステップではレベルを取りこぼしているので、GPシリーズを戦っていく中で技術的にもより成長していけると良いですね。


 6位はフランスのマエ=ベレニス・メイテ選手。こちらもフリーとトータルの自己ベストをマークしています。

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 ショートでは3+3でミスがありましたが、フリーでは3+3も含め、ほとんどミスのないまとまった演技でパーソナルベストを出しました。
 メイテ選手の魅力は何といっても豪快なジャンプだと思うのですが、そのジャンプの良さがあまりGOE(出来栄え点)の加点に結び付いていないのが残念ですね。高さもありスピードもあるのですが、パワーで跳んでいるためか流れるようなランディングという感じではありません。現在のGOEでは流れのあるジャンプにより加点する傾向が強いですから、そういった点でメイテ選手は損をしています。今大会のフリーでもジャンプ自体は回転不足を取られることもなく、きちんと成功させているのに、GOEの加点はいちばん高いものでも0.50点、すべてのジャンプの出来栄え点を足しても0.20点にしかなりません。ちなみに、浅田選手はジャンプのGOE合計で-2.24点ですが、それ以外のエレメンツで5.89点を稼いでいますし、ワグナー選手もジャンプのGOE合計は0.04点ですが、それ以外の技のGOE合計は4.39点です。この両選手はそれぞれメイテ選手よりジャンプでのロスが多いですが、その分スピンやステップで得点を稼いでいます。
 そもそもメイテ選手がプログラムに組み込んでいるジャンプの難易度があまり高くないというのはありますが、それでもしっかり回転して決めているのに加点が稼げていないのはもったいないですね。スピンやステップを磨くというのももちろんですが、ジャンプに流れが出ると加点も増えると思うので、個人的にはそこらへんを期待したいですね。


 7位となったのはイタリアのベテラン、ヴァレンティーナ・マルケイ選手。

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 ショートは本当に良いスタートで、パーソナルベストとなる59.25点を出して4位につけました。フリーでは2度の転倒を含めミスが続き97.54点、順位を落としてしまいました。
 SPの曲はナポリ民謡の「帰れソレントへ」ということで、イタリア人のマルケイ選手にふさわしい雰囲気たっぷりのプログラムで素晴らしかったですね。他方、フリーは映画『ミッション・インポッシブル2』のサントラを使っていて力強さが印象に残る演技。ショートの女性的な柔らかさとフリーの強さというのが対比になっていて、改めて多彩な表現力を持つスケーターだなと感じました。
 難易度の高いジャンプや代名詞みたいな技を持っている選手ではないですが、このようにさまざまな色、表情を見せてくれるスケーターというのは貴重な存在ですね。マルケイ選手の次戦はNHK杯となります。


 8位にはスウェーデンのこちらもベテラン、ビクトリア・ヘルゲソン選手が入りました。

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 マルケイ選手同様、ノーミスのSPで自己ベストをマークし5位発進となりましたが、フリーでは転倒が3度とミスが重なり8位となりました。
 ヘルゲソン選手はスピン、ステップ、スケーティングと安定して美しい選手なのですが、ジャンプのミスが多く、あともう一つ、二つということが多いのが残念ですね。ジャンプ以外のものは素晴らしいので、ジャンプさえ決まれば総合的に良くなるのにと思います。ヘルゲソン選手が五輪後どうするのかは分からないのですが、引退するまでにフリーでの会心の出来というのをぜひ見たいですね。


 9位はグルジアのエレーネ・ゲデヴァニシヴィリ選手です。

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 ショートはジャンプで微少の減点はあったものの、まとまった演技で6位につけましたが、フリーではこちらも2度の転倒があり最終的に9位となってしまいました。
 気になるところとしてはジャンプの失敗もそうなのですが、スピンでレベルが取れていないところ。これは今大会に限ったことではないですが、ショートではレベル3、4が取れているのにフリーになると2、3にレベルが落ちていることが多いので、2日間通じてスピンのレベルも安定するようになると良いなと思います。
 ゲデヴァニシヴィリ選手も次はNHK杯、そちらでは良い演技が見られることを楽しみにしています。


 そして、ペアではロシアのタチアナ・ボロソジャー、マキシム・トランコフ組が自己新=世界最高得点を叩き出して大差で優勝しました。この結果を見ると、このペアの圧倒的強さは全く揺るぎそうになく、五輪にもこのままの勢いで行きそうな気がします。この2人を破るペアは果たしているんでしょうか。
 銀メダルはカナダのカーステン・ムーア=タワーズ、ディラン・モスコビッチ組、銅メダルはロシアのクセニア・ストルボワ、ヒョードル・クリモフ組となっています。



 日本勢の男女ダブル優勝に、ペアとアイスダンスそれぞれの優勝者の圧勝という話題満載で幕を閉じたスケートアメリカ2013。GPシリーズ13/14、次の大会はスケートカナダとなります。


:女子シングルメダリスト3選手の写真はAFPBB Newsが2013年10月21日の10:15に配信した記事「浅田がシーズン初戦制す、スケート・アメリカ」から、浅田選手のSPの写真、ラディオノワ選手の写真、シザリオ選手の写真はウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートフォトギャラリーのスケートアメリカ・女子SPから、浅田選手のフリーの写真はウェブサイト「朝日新聞デジタル」のフィギュアスケートフォトギャラリーのスケートアメリカ女子フリーから、ワグナー選手の写真、メイテ選手の写真、ゲデヴァニシヴィリ選手の写真は「スポーツナビ」のフィギュアスケートフォトギャラリーのスケートアメリカ・女子FSから、トゥクタミシェワ選手の写真、マルケイ選手の写真、ヘルゲソン選手の写真は「スポーツナビ」のスケートアメリカ・女子FSの実況ページから引用させていただきました。


【ブログ内関連記事】
スケートアメリカ2013・男子&アイスダンス―町田樹選手、パーソナルベストで優勝
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by hitsujigusa | 2013-10-23 23:33 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 グランプリシリーズ13/14が開幕しました。初戦となるスケートアメリカ、男子シングルでは見事、町田樹選手がパーソナルベストとなる高得点を叩き出して優勝。2位にアメリカのアダム・リッポン選手、3位には同じくアメリカのマックス・アーロン選手が入っています。高橋大輔選手、小塚崇彦選手はそれぞれ4位、6位となりました。
 そして、アイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード組は自己最高位タイとなる5位となっています。

ISU GP Hilton HHonors Skate America 2013 スケートアメリカの詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 改めまして、男子シングルの優勝は町田樹選手です!

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 ショートプログラムは4トゥループ+3トゥループ、3アクセル、3ルッツを完璧に決め、91.18点という自己ベスト、世界歴代6位の高得点で首位に立ちました。
 町田選手がずっと秘密にしていたショートの使用曲は「エデンの東」。町田選手はショートについてインタビューで“町田樹が町田樹を表現”、“THE 町田樹”と評していましたが、まさにそのとおりのプログラム。「エデンの東」はジェームズ・ディーンが主演した映画の印象が強いですが、町田選手は映画を見ていないのだそう。映画の主人公を演じるのではなく、町田選手の人生そのものを「エデンの東」に重ね合わせて表現している、そんな印象を持ちました。
 ですが、それ以上に今回驚いたのが4回転! 昨季はほとんどが失敗だったのに、今季は初戦から難なく成功。それも本当に完璧な余裕のある4回転です。昨季の姿がまだ記憶に新しい私としては、この成長にはちょっと驚いてしまいました。なにかコツでもつかんだのかなと思いましたが、基礎を見直す練習のおかげなようですね。

◇◇◇◇◇

 昨季はGP初制覇で勢いに乗りながら、大事な全日本選手権は9位。「大敗したからこそ、ゼロからのスタートにしたかった」。2年過ごした米カリフォルニアから関大に復学する希望もあり、基礎を徹底する大西勝敬(よしのり)コーチのもとに拠点を移した。打ち込んだのがかつて競技に組み込まれていた、氷上にスケート靴の刃で図形を描くコンパルソリー(規定)。姿勢や動きを綿密に制御できなければ、きれいな形は描けない。
 これまでほぼやったことのない練習に「できないからこそ考えることで、ジャンプ、スピン、ステップにも応用できる。体にとても敏感になった」。基礎を確かなものにした結果、上に乗せる4回転の安定度も増した。


北陸中日新聞 2013年10月21日朝刊 抜粋

◇◇◇◇◇

 魔法みたいにコツを得たわけではなく(当たり前ですが)、一見ジャンプとは関係なさそうな基礎練習が良い効果を生んだのですね。今季から町田選手を指導する大西コーチは佐藤信夫コーチの門下生だそうですが、そう考えると信夫コーチの下、基礎を改革しそれが今結実している浅田真央選手とも通じるものがあるような気がします。

 そして、フリー。こちらでも自己ベストを更新してフリー1位、もちろん総合でも自己ベストとなり、自己最高得点で優勝となりました。また、フリーの得点は歴代9位、トータルの得点では歴代5位です。

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 2本目の4回転が前のめりの着氷で単独になってしまった以外は、ほぼパーフェクトな内容。昨季の「火の鳥」も素晴らしいものでしたが、それ以上に力強く、ダイナミック、男らしさの増した「火の鳥」になっています。
 これで一気に五輪代表に向けて躍り出た感のある町田選手ですが、だからこそ今大会以上に次戦が大切になってきます。次は6戦目のロシア大会に出場の町田選手、1か月ほど間が空くことになりますが、このコンディション、勢いを保って次に繋げてほしいなと思います。


 銀メダルを獲得したのはこちらもSP、フリー、総合全てで自己ベストを更新したアダム・リッポン選手です。

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 今大会、リッポン選手に関して何より驚かされたのは4ルッツのチャレンジです。今まで挑戦していた記憶がないですし、ジャンパーというイメージでもないのでこの試みには非常にびっくりしました。ましてや4ルッツという最高難度の4回転です。でも、“リッポンルッツ”と名前が付けられるほどルッツを得意にしている選手なので、トゥループやサルコウを飛び越えてルッツというのもうなずけますね。成功となればブランドン・ムロズ選手に続き2人目の4ルッツ成功者となりましたが、残念ながらショート、フリーともに失敗に終わりました。
 でも、それは別として今大会のリッポン選手からは今までとは違う、生まれ変わったような、別選手のような“強さ”を感じました。元々美しい顔立ちをしているリッポン選手ですが、ともすれば女性的な優しい印象が強いスケーターでした。でも、この大会で見せたのは柔らかさの中にも確固たる芯、男性的な“力”が見える演技、剛と柔がバランスよく溶け合っているなと感じられる演技でした。身のこなしもよりきれいになって、身体の線の美しさが印象に残りました。心なしか顔もさらに凛々しくなって男ぶりが増したような……。
 次はNHK杯に出場ですが、またこのような、もしくはこれ以上の演技を見せてくれることを期待しています。


 3位となったのは、GP初参戦となる現全米チャンピオン、マックス・アーロン選手。こちらもフリーの自己ベストをマークしました。

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 ショートは4回転ジャンプの転倒で出遅れてしまいましたが、フリーではクリーンとは言えないものの2本の4回転を成功させ2位、総合でも3位となりGP初メダルを獲得しました。
 4回転時代といえる現在の男子フィギュアですが、それでもフリーで4回転を3本跳ぶのは至難の業。アーロン選手はフリー冒頭の4トゥループで転倒しましたが、2つの4サルコウを成功させたことで表彰台にまで上り詰めました。ただ、プログラム全体の完成度としてはまだまだ、ジャンプの印象が強く、つなぎの部分が物足りなく感じました。そのため、1つの作品としてのアピールに欠けていたように感じます。ジャンプ自体も空中で多少崩れていてもパワーでまとめる技術はすごいのですが、その分少し強引さが目立ってGOE(出来栄え点)の加点には結び付いていません。スピンやステップでもそれなりにレベルは取れていますが、同様ですね。
 元アイスホッケー選手ということでアスレチックな力強さが印象的なアーロン選手。ジャンパーとしての素質は充分あると思うので、スピン、ステップ、つなぎなど、ジャンプ以外のところでもっと質が良くなると、フィギュアスケーターとしての魅力もよりアップするんじゃないかなと思います。こちらも次戦、NHK杯に出場です。


 高橋大輔選手はミスが相次ぎ、ショート5位、フリー4位、トータルでも4位となりました。

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 ショートでは冒頭の4回転で転倒、3アクセルも着氷が乱れ、3ルッツ+3トゥループは3+2に。しかし、スピン、ステップではしっかりレベルを取り、「ヴァイオリンのためのソナチネ」の静謐な世界を見事に表現していました。

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 フリーでは4回転を回り切るもステップアウト、2本目は回避して3ルッツに、3アクセルの着氷が乱れたり、3ループがシングル、3サルコウがダブルになるなどらしくないミスが続き、ショートからの挽回はできませんでした。
 アイスダンスのテレビ中継の解説をなさっていた河合彩さんはブログで、高橋選手の演技について“何かが噛み合っていないような印象”とおっしゃっていましたが、私も同様に感じました。ちょっとしたズレ、ボタンの掛け違い、みたいな……。高橋選手自身は練習から噛み合っていないのだと言っていましたが、噛み合いさえすればすんなり行きそうな気もします。また、練習不足という言葉もありましたが、すでに2回五輪シーズンを経験している高橋選手が練習不足というのは、そうならざるを得ない理由があったのだろうと想像します。テレビで解説をなさっていた荒川静香さんによると、大会前にスケート靴を変えたそうですが、その影響があったのでしょうか。
 ともかくも、ファイナル出場のためには次戦で優勝しなければなりません。NHK杯までは3週間ほどあるので、その中でどれだけ立て直してくるか楽しみです。


 GPデビューとなった、世界ジュニア銀メダリストのジェイソン・ブラウン選手は5位に入りました。

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 全選手中、唯一4回転を取り入れていないブラウン選手。SPではミスのない演技で2位となりましたが、フリーでは得点稼ぎとなる大技3アクセルを2本とも失敗し、順位を落としてしまいました。現在の男子フィギュアの中で4回転を跳ばないのはそれだけでもハンデとなります。昨季の町田選手のように、ショート、フリー合わせて4回転1本でも結果を残すことはできますが、その場合やはり全体の完成度を高めなければいけません。ブラウン選手がこれから4回転を跳んでくるかどうかは分からないのですが、やはり3アクセルのような大技はしっかり決めないと、上位に食い込むのは難しいでしょうね。
 とはいえ、表現者としてのブラウン選手にはなかなかの魅力を感じました。柔軟性を生かしたスピンや技と技の間のつなぎ、跳ぶ直前に工夫を凝らしたジャンプ、全身を大きく使ったステップなど、最近の若手男子選手の中でも個性を強く感じました。フリーは「リバーダンス」ということで本田武史さんを思い出してしまったのですが、そちらとはまた違った柔らかさのある演技、かつ、ダンサブルな動きが印象に残りました。次戦はフランス、アメリカ男子の五輪切符争いも厳しいですが頑張って欲しいですね。


 昨季からの復活をかける小塚崇彦選手は6位となりました。

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 ショートは冒頭の4回転を回り切ったものの着氷で乱れ、3ルッツ+3トゥループもルッツで乱れ単独に、コンビネーションが入らなかったという点で大きくロスしてしまいましたね。

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 フリーは4回転が2回転になり、3+3のセカンドがダウングレードを取られてしまいました。しかしそれ以外の大きなミスはなく、まとまっていた演技と言えると思います。ですがそのわりに得点は伸びず。演技を一見するとミスの少ないものに見えるために、実際の順位、得点と演技との間に差があるようにも感じます。
 たとえば、高橋大輔選手のフリーの技術点は72.40点。小塚選手の技術点は72.28点なのでほぼ同じです。でも高橋選手は2本の3アクセルで減点され、トリプルがシングルやダブルになるロスの大きいミスを後半に犯している、にもかかわらず小塚選手より技術点は高いのです。なぜ小塚選手の技術点が伸びなかったのかと考えると、失敗で大きくロスしたのはもちろんですが、決まったジャンプやスピンなどでもあまりGOEの加点を稼げていないのですね。昨季の怪我の影響があるのでしょうか、ジャンプは着氷でこらえている感じがあり、詰まったランディングが目立ちました。スピンで加点が少ないのも怪我の影響なのかは分かりませんが。五輪のために手術せずリハビリで治しているそうなので、心配ではありますが、ジャンプ自体が跳べていないわけではないので、少しでも小塚選手らしい流れのあるジャンプが取り戻せるといいなと思います。
 ところで、全然関係ない話なのですが、小塚選手、フリーの衣装をジャパンオープンから変更してきました。ジャパンオープンの時の衣装は赤と黒の派手めなもので、ネットではあまり評判はよろしくなく、“ガソリンスタンドの店員”というヒドい形容もあったようですが、今大会では淡い青の衣装にしてきました。一見、昨シーズンのショートの衣装!?と思ったのですが、よく見たら背中や腕にキラキラの装飾がありました。こちらの方が、音楽の優雅さ、ノーブルさに合っていて良いですね。


 さて、ここからはアイスダンス。優勝したのはアメリカのメリル・デイビス、チャーリー・ホワイト組。2位にイタリアのアンナ・カッペリーニ、ルカ・ラノッテ組、3位にアメリカのマイア・シブタニ、アレックス・シブタニ組が入りました。
 そして、日本のキャシー・リード、クリス・リード組はGP自己最高位タイとなる5位となりました。

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 ショートでは2つの要素で出来栄えにマイナスが付いてしまいましたが、フリーでは全ての要素で加点が付き、ショートからの順位を上げて5位に入りました。クリス選手が怪我を抱えて練習が満足にできない中でも、ミスの少ない演技ができたことは2人にとって大きな自信になるのではないでしょうか。特に、フリーは演技時間が長いにもかかわらず、そういった不安要素を全く感じさせない流れのある力強い演技で素晴らしかったです。また、次のNHK杯が楽しみになりましたね。


 ここまで男子&アイスダンスについて書きました。次は女子&ペアに続きます。


:男子シングルメダリスト3選手の写真、町田選手のフリーの写真、リッポン選手の写真、小塚選手のフリーの写真はAFPBB Newsが2013年10月20日14:02に配信した記事「町田が優勝、高橋4位 小塚は6位に スケート・アメリカ」から、町田選手のSPの写真、高橋選手のSPの写真はウェブサイト「スポーツナビ」のスケートアメリカ男子SPの実況ページから、アーロン選手の写真、高橋選手のフリーの写真、ブラウン選手の写真は「スポーツナビ」のスケートアメリカ男子FSのフォトギャラリーから、小塚選手のSPの写真はAFPBB Newsが2013年10月19日13:31に配信した記事「町田がSP首位、小塚4位 高橋は5位に スケート・アメリカ」から、リード&リード組の写真はウェブサイト「朝日新聞デジタル」内のフィギュアスケートフォトギャラリーから、それぞれ引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
スケートアメリカ2013・女子&ペア―浅田真央選手、200点超えで優勝
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by hitsujigusa | 2013-10-22 01:34 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

遠い太鼓 (講談社文庫)



 10月19日は海外旅行の日、だそうです。(遠(10)くへ行く(19)の語呂合わせ。)ということで、それに合わせて旅に出たくなる本(海外編)を取り上げます。今回は10冊これというのがなかったので、8撰としました。また、小説、絵本などは除き、紀行エッセイ、写真集が中心となっています。


 トップバッターは紀行文学の代表ともいえるこちら。

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

 沢木耕太郎さんの『深夜特急』、文庫だと全6巻+追加エッセイですね。主人公“私”が、香港、タイ、シンガポール、インド、中東、東欧、ヨーロッパというように、東から西へバスや鉄道のみで旅する姿を描いています。小説に近い作品ですが、沢木さんの実体験に基づいているので紀行エッセイとも言えますね。
 とにもかくにもおもしろいの一言。バックパッカーの主人公がいろんな人々と出会い、その土地の文化、習俗に触れるさまは臨場感にあふれていて、本当に旅しているような気分になります。単なる楽しい旅行、観光ではなく、安ホテルで夜を明かし、現地の人々に溶け込むような旅なので、なかなか真似できるものではありません。それでも主人公のように心のおもむくままに旅してみたいと思わせられますし、旅の本質が書かれている本だと思います。


 こちらも日本の作者の紀行エッセイとしては定番ですね。

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)

 村上春樹さんの『遠い太鼓』は、村上さんがヨーロッパに長期滞在していた1986年から1989年までの出来事を綴ったエッセイです。なので紀行文、旅行記というより、村上さん独特の眼で滞在した国々、地域の素顔をとらえた日記的なエッセイですね。
 舞台となっているのは主にギリシャ、イタリアですが、その風景や現地の人々の空気感が伝わってくる文章で、のどかな気持ちになります。ギリシャやイタリアというと最近では金融危機のことがよく言われますが、この本を読んでいると何となくその理由がわかる気がします。ギリシャ人、イタリア人特有の大雑把さ、のんびりさ、そういうものがよく分かるんですが、それでもなんだか憎めない温かさみたいなものも感じられて、淡々としながらも心から楽しんで書いている村上さんの文章の魔法かなと感じます。


 こちらもエッセイの名手。

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)

 梨木香歩さんの『春になったら莓を摘みに』。イギリスに留学した“私”=梨木さんと下宿の女主人ウェスト夫人との交流、そこから生まれるさまざまなエピソードを記したエッセイ。こちらも『遠い太鼓』同様、紀行ではなく日記ですね。
 イギリスの風情、情緒満載のエッセイなんですが、それ以上におもしろいのはウェスト夫人の人柄でしょうか。博愛精神に満ちあふれていて、それによってトラブルも引き寄せてしまう、それでも徹底的に自分を貫くウェスト夫人。その姿に梨木さんは振り回されたり困惑したりしつつも、引き付けられていきます。下宿には多種多様な民族の下宿人たちがいて、当然そこには相容れない考え、価値観があるわけですが、“理解はできないが、受け容れる”というウェスト夫人のモットーの元に、それぞれが親交を深め、関係を形作っていきます。そういった人と人との繋がりについて考えさせられる本なのですが、もちろん、イギリスの雰囲気を味わいたい人にもおすすめの一冊です。また、梨木さんはほかにも、『渡りの足跡』『エストニア紀行』など、旅情緒を掻き立てられるエッセイを書いていて、そちらも素晴らしいです。


居ごこちのよい旅

居ごこちのよい旅

 『暮しの手帖』の編集長として知られる松浦弥太郎さんの『居ごこちのよい旅』。サンフランシスコのノースビーチ、ハワイのヒロ、バンクーバー、台北など、12の町に滞在した松浦さんが出会った街並み、店、食べ物、人々について、写真家若木信吾さんの写真とともに綴った旅エッセイです。
 本に出てくるのは観光地や有名スポットなどではなく、非常にローカルな店や景色。自分の足で歩き、自分の目で見、自分の肌で感じることでしか書けない、その町の生々しい日常が記されています。また、写真は美しいのはもちろん、ノスタルジックな雰囲気を醸し出していて、松浦さんの文章と合わせ、現代では少なくなった古き良き町の空気が伝わってくる本となっています。


 次はパリの本2冊。


クウネルの旅 パリのすみっこ

クウネルの旅 パリのすみっこ

 雑誌『クウネル』の編集者鈴木るみ子さんの『パリのすみっこ』。これは『クウネル』に掲載されたパリ関係の記事を1冊にまとめたもの。タイトルにある“すみっこ”のとおり、ガイドブックによく載っているような華やかできれいな“メイン”のパリとは違う、“すみっこ”のような地味で平凡なパリが登場します。
 とはいえ、どんな日常の風景もおしゃれに見えてしまうのがパリ。内容は多種に富んでいて、お菓子屋さん、パステル屋さん、ポトフづくり名人のおばあちゃんなど、いろんなお店や人の素顔が、お話仕立てのエピソードや美しい写真とともに紹介されています。きらびやかではないけれど、それでもやっぱり可愛らしくて素敵なパリが詰まっていて、日常のパリが知りたいという人にはもってこいの本です。


パリのおさんぽ

パリのおさんぽ

 日常のパリの風景をパノラマ写真のようにとらえた『パリのおさんぽ』。いろんなアベニューの風景を見開きで横に長く掲載していて、まさに“おさんぽ”するような感覚になれる写真集です。写真集といっても、そのアベニュー沿いにあるお店の情報なんかもちょこちょこ載っているので、実用書ではありませんがガイドブック的にも使えるかもしれません。とにかくかわいいパリ、おしゃれなパリの写真をいっぱい眺めたいという人におすすめ。ページをめくるごとにいろんなアベニューが登場して、パリにいるような気分になれる本です。続編として『パリのおさんぽ2』、姉妹本として『ローマのおさんぽ』もあり、こちらもおすすめ。


 最後に、人物にフィーチャーした写真集2冊です。


Santa Fe 宮沢りえ

Santa Fe 宮沢りえ

 言わずと知れた篠山紀信さん撮影、宮沢りえさんモデルのヌード写真集『Santa Fe(サンタフェ)』。旅行記でもなければ場所に焦点を当てた写真集でもないのですけれど、サンタフェという土地の風景を撮った写真集としても素晴らしいので挙げました。
 宮沢りえさんのことについて言及しますと、セクシーとか色っぽいとかいうのは全くなくて、ただただ神々しくさえ感じられる美しさが印象に残りますね。私は女ですが、同性から見ても彫刻のようなりえさんの身体はうっとりしますし、人間というものの美しさを教えてくれる本なんじゃないかと思います。
 そんなりえさんの裸身とサンタフェの景色、豊かな自然がコラボレーションすることによって、お互いの魅力がさらに高まっている気がしますね。青々とした野原や赤茶けた岩剥き出しの山、突き抜けるような青空が美しく、この本が単なるヌード写真集に終わっていないのはこういうところに理由があるのだなと改めて感じました。


アムール 翠れん―ホンマタカシ写真集

アムール 翠れん―ホンマタカシ写真集

 こちらは東野翠れんさんモデル、ホンマタカシさん撮影の写真集『アムール翠れん』。ロシアの各地をモデルの東野さんが巡り、その風景をホンマさんが淡く美しい写真に収めています。
 この写真集は『Santa Fe』とは違って、モデルメインというよりは風景メイン。ロシアというと極寒の風景なんかが思い浮かびますが、ここに登場するのは夏のロシア。良い意味でロシアっぽくない、明るさが印象的な写真集となっています。また、東野翠れんさんは父親が日本人、母親がイスラエル人のハーフなのですが、その異国情緒あふれる顔立ちがロシアの風景と不思議に溶け合っていて、地元の人のような馴染み具合が良い味を出していますね。巻末には東野さんの短い日記(直筆)も付いていて、写真集ではあるんですけど、旅行記的な色合いもある本です。


 以上が、旅に出たくなる本の私的8撰です。とりあえず今思い付くのが8冊だったので8撰にしましたが、ほかにもあれば追記して10撰になるかもしれません。気が向けば、なので約束はできませんが……。
 旅気分に浸りたいなあと思う際は、ぜひこれらの本をおすすめいたします。


【ブログ内関連記事】
冒険を描いた小説・私的10撰 2015年8月29日  沢木耕太郎『深夜特急』を記事内で取り上げています。
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by hitsujigusa | 2013-10-18 01:37 | エッセイ・評論・その他 | Trackback | Comments(0)

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 さて、いよいよ秋も深まってまいりました。それとともに、フィギュアスケートシーズンも本格的に開幕を迎えています。
 9月の末から、ドイツのネーベルホルン杯、スロバキアのオンドレイネペラトロフィー、フィンランドのフィンランディア杯といった国際大会が相次いで開催され、10月5日にはさいたまスーパーアリーナにおいてジャパンオープンが行われました。
 それらの大会について、日本選手の演技、結果を中心にざっくりとですが書いていきます。なお、ジャパンオープンは観たのですが、それ以外の大会は選手の演技を見ていないので結果からわかることのみとなります。


《ジャパンオープン2013》

 日本、北米、欧州の3地域の団体戦によって行われるジャパンオープン。各地域男女2選手ずつの出場、フリースケーティングのみ行い、各選手が得た得点を加算し、チーム順位を決めます。
 そして、先日行われたジャパンオープン2013は、見事日本チームが544.85点で優勝しました。2位北米、528.89点、3位欧州、477.84点と続きます。以下に、男女ごとの順位や各選手の採点表を示したファイルリンクを張ります。

Kinoshita Group Cup Japan Open 2013

*****

 一人一人について言及していくと本当に長くなりそうなので、各チームごとにざっと……。

●日本チーム

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 女子で1位となった浅田真央選手。とにかく素晴らしかった!の一言です。初戦でこれだけまとまって、音楽の世界を表現できているというのはかなり早い仕上がりと言えそうです。
 いくつかミスはありましたが、トリプルアクセルの着氷後にターンしたり、2アクセル+3トゥループのセカンドがダブルになったり、3サルコウがアンダーローテッドになったりという軽微なものでした。何より6種類のトリプルジャンプに挑んでいるというのが凄いことだと思います。そして、全スピン、ステップでレベル4を獲得。演技全体を見ても、09/10シーズンのフリー「鐘」を思わせる出だしから、重厚な旋律に乗せて繰り広げられるジャンプ、そしてプログラム終盤、ビールマンスピンからの怒濤の如きステップシークエンス。休むところがほとんどなく、最後までスピードも落ちず、息をつかせないような圧倒的な「ピアノ協奏曲第2番」でした。
 シーズンが進むに連れさらに完成度も高まっていくでしょうし、ここに全エレメンツが揃うと、物凄いプログラムになりそうで、これからの浅田選手の毎試合がより楽しみになりましたね。

 男子で2位になった小塚崇彦選手は、昨季と同じ「序奏とロンド・カプリチオーソ」。同じプログラムを持ってきているだけあって、音楽との馴染み具合、調和という点では安心して見ていられましたね。
 冒頭の4トゥループは回転不足も大きな乱れもないものの、着氷後に微妙にグニョッとなったためかGOEで大きく減点されてしまいましたが(そんなに減点するほどじゃなかったように見えたけど)、ほかは3アクセルがシングルになった以外、素晴らしい演技でした。そのわりにやはり演技構成点が伸びていないのですが、小塚選手は良ければ良いほど淡々と見えてしまうタイプのスケーターなので、そこはもう仕方ないのかなと思います。小塚選手もここ数シーズン、“表現”、“見せ方”という面ではかなり試行錯誤、いろんなチャレンジをしていましたし、それがあった上での今があるわけですしね。このまま小塚選手らしさを貫き通していってほしいですね。

 男子4位の高橋大輔選手は少し残念な内容となってしまいました。4回転や3アクセルといった大技を失敗、スピンもレベル1やノーカウントとなりました。でも、高橋選手は元々スロースターターですし、高橋選手のペースというものをしっかり持っているでしょうから、さほど心配はいらないのだろうと思います。
 新プログラム「ビートルズメドレー」についてですが、とても難しいプログラムだなと率直に感じました。5曲のメドレーですが、それぞれが異なる雰囲気を醸し出していて、これほどころころ変わる印象をそれに合わせて表現するというのは、高橋選手といえども至難の業なんじゃないかと思います。これから高橋選手がこのプログラムをどのように自分のものにし、進化させていくのか、楽しみです。

 女子5位となった村上佳菜子選手はミスが相次ぎ、キス&クライで思わず涙してしまいました。
 村上選手は1か月ほど前にスケート靴が壊れ、以前の靴に戻したところ足が腫れてしまったそうです。そのせいでしょうか、演技前から不安そうな表情で、冒頭の3フリップ+2トゥループは成功したものの、それ以降ミスが続き、不安なままで最後まで滑ってしまったのかなという印象です。村上選手は11/12シーズンにも合う靴が見つからないという問題がありましたが、靴の問題はしばしば長引いてしまうこともあるようなので、そこが少し心配ではありますね。
 新プログラム「愛のイエントル」は全体的に静かでしっとりした曲調で、村上選手にとっては新しい挑戦だと感じました。大きな盛り上がりのないタイプの音楽を村上選手がどう表現するのか、焦らず頑張ってほしいです。


●北米チーム

 女子2位に入ったジョアニー・ロシェットさん。私は久しぶりに拝見したのですが、現役時代と変わらぬ締まった身体で、難易度の低いものが中心とはいえ軸のきれいなジャンプも健在。まだまだ現役やれそうだなと感じました。
 女子3位のアシュリー・ワグナー選手は、アンダーローテッドなどちょっとしたミスはありましたが、全体的には安定していて、さすがアメリカのエースと思わせる演技でした。
 男子3位のジェレミー・アボット選手は、本来出場するはずであったケヴィン・レイノルズ選手が欠場したために、急遽の出場となりました。その中で4回転ジャンプなど複数ミスはあったものの、アボット選手らしい演技を見せてくれました。2シーズンぶりの「エクソジェネシス交響曲」はやはりアボット選手によく合っていて、改めて美しいプログラムだなと見惚れてしまい、ミスがあったことを忘れてしまうほどでした。
 男子5位のジェフリー・バトルさんは、現役時代と変わらないジャンプ、スピンとまではいかなかったですが、音楽と一体になる感じ、あのバトルさんらしさというものは引き込まれるものがありましたね。


●欧州チーム

 男子1位のハビエル・フェルナンデス選手は計3つの4回転ジャンプ、3アクセルを含め、ほぼ完璧な内容。スピンが全てレベル1、2にはなりましたが、この時期に4回転3本というのは驚きましたし、圧倒されました。
 女子4位のアデリーナ・ソトニコワ選手は、ミスは複数あったものの、冒頭に3ルッツ+3ループという女子では最高難度のトリプルトリプルを組み込んできました。アンダーローテッドとはなりましたが、このコンビネーションジャンプは元々彼女が得意としていたものなので、久しぶりに挑戦し、立ったというのは大きな意味があることだと思います。
 男子で6位となったミハル・ブレジナ選手。かなりジャンプに苦労していて、本来のスピードやダイナミックさもありませんでしたね。もちろんこの時期ですから致し方ないことなのですが。こちらもスロースターターのようなので、徐々に上がっていけばと思います。
 女子で6位になったイリーナ・スルツカヤさんは残念ながらミス連発となってしまいましたが、競技から離れて久しい彼女なので仕方ないでしょうね。それでも、昨年はメダル・ウィナーズ・オープンに出場していますし、いろんな形で引退した名スケーターの姿が見られるのはうれしいことですね。


 エキシビションマッチ的な大会ではあるジャパンオープンですが、そんな中でも実戦形式で試合用プログラムを滑ることは現役選手にとって意味のあることでしょうし、これをひとつの調整として今後調子を上げていってほしいですね。



《ネーベルホルン杯》

 9月25日から28日にかけてドイツのオーベルストドルフにて行われたネーベルホルン杯。「安藤美姫選手、今シーズンのプログラム発表&新プログラム続報・その⑦」でも少し触れたのですが、改めて正式な結果とともに書きたいと思います。

 男子シングルで優勝したのは、織田信成選手。

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 フリーと総合の得点でパーソナルベストを更新する会心の出来。(今年のネーベルホルン杯は五輪予選を兼ねているということで記録も公式になるみたいですね)
 フリーは4回転は1本でしたがそれでも技術点は90点超え、ミスらしいミスのない演技内容。五輪シーズンのスタートとしてこれ以上ない好スタートですね。

ネーベルホルン杯2013 男子ショートプログラム 採点表
ネーベルホルン杯2013 男子フリースケーティング 採点表

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 一方、女子では3シーズンぶりに復帰した安藤美姫選手が銀メダルを獲得しました。

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 ショート2位、フリー4位で総合2位となった安藤選手ですが、ショートは演技時間が短いこともあってある程度まとまっていましたが、フリーはさすがに練習不足、体力不足でミスが複数ありました。スピン、ステップもレベル1、2が目立ちましたし、まだまだ本来の姿には遠いのかなと感じます。ですが、転倒のような大きな失敗はなく、とにもかくにも4分間滑り切ったということが大きいですし、練習を重ねていくことで減っていくようなミスだと思うので、次の関東選手権もまた注目ですね。

ネーベルホルン杯2013 女子ショートプログラム 採点表
ネーベルホルン杯2013 女子フリースケーティング 採点表

*****

 ペアでの五輪出場枠をかけて臨んだ高橋成美、木原龍一組はショートで8位につけたものの、フリーで13位と崩れてしまい、五輪出場枠のかかったペアの中で5位と、出場枠獲得はなりませんでした。

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 うまくいかなかった悔しさはあるでしょうが、結成して1年にも満たない、特に木原選手はペア経験がないという中で、よくぞここまでと思います。これからに期待の持てる演技でしたし、五輪団体戦出場の条件は揃いましたからソチで二人の演技を見たいなと思いますね。

ネーベルホルン杯2013 ペアショートプログラム 採点表
ネーベルホルン杯2013 ペアフリースケーティング 採点表

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 そして、同じく五輪出場枠のかかったアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード組は総合7位、出場枠をかけた組の中で4位、出場枠5の中に入り、見事出場枠を獲得しました。

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 演技のこと云々よりも、プレッシャーのかかる中で演技して、結果に結び付けたというのが素晴らしいです。特にクリス選手は膝の怪我をかかえ、薬やケアで痛みと闘いながら練習を続けていたそうです。そんな困難のなかでこうして滑り切ったわけですから、クリス選手そしてキャシー選手には感服です。
 ネーベルホルンの後、クリス選手は1週間休養を取って、7日から練習を再開。さっそく、来週末のスケートアメリカに出場しますが、二人らしく頑張ってほしいですね。

ネーベルホルン杯2013 アイスダンスショートプログラム 採点表
ネーベルホルン杯2013 アイスダンスフリースケーティング 採点表



《オンドレイネペラトロフィー》

 10月2日から5日にスロバキアのプラチスラヴァにて開催されたオンドレイネペラトロフィー。日本からは男女2人ずつが出場しました。
 女子シングルで優勝したのは今井遥選手。採点表を見ますと、ショートとフリー合わせてもGOEで減点されているのは2つのエレメンツだけ、ジャンプの転倒やパンクのような大きな失敗はなく、非公式ながらもフリーと総合で自己ベストを上回る得点となっています。今季のGPシリーズは残念ながら1試合のみのエントリーとなっていますが、ぜひ今井選手らしい演技をまた見せてくれたらなと思います。
 総合16位に入った西野友毬選手は、ショートでジャンプのミスが相次ぎ19位、フリーでもミスが重なりましたが12位となり、最終的には16位と順位を上げました。
 男子では無良崇人選手が2位、銀メダルを獲得しました。ショートでは1位、フリーでトマシュ・ベルネル選手に逆転されて準優勝となってしまいましたが、採点表を見る限りそれなりにまとまった演技内容だったようですね。得点的にもパーソナルベストに迫る高得点となっています。4回転はショート、フリーともに決まらなかったようですが、次のスケートカナダに向けて悪くない滑り出しと言えそうです。
 同じく男子の佐々木彰生選手は、非公式ながらもショート、フリー、総合と全てで自己ベストを上回る得点で総合5位となっています。

オンドレイネペラトロフィー2013 男子ショートプログラム 採点表
オンドレイネペラトロフィー2013 男子フリースケーティング 採点表
オンドレイネペラトロフィー2013 女子ショートプログラム 採点表
オンドレイネペラトロフィー2013 女子フリースケーティング 採点表



《フィンランディア杯》

 10月3日から6日にかけてフィンランドのエスポーで行われたフィンランディア杯。男子では羽生結弦選手が優勝、中村健人選手が8位、女子では鈴木明子選手が2位、庄司理紗選手が8位となりました。

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 羽生選手はショートで3アクセルがシングルになるミス、フリーでは小さなミスがいくつかあったものの、計3本の4回転ジャンプはすべて成功させ、参考記録とはなりますがフリー、総合のパーソナルベストを上回る得点で優勝しました。昨シーズン、羽生選手は4トゥループに関しては安定して跳べていましたが、4サルコウは多くが失敗に終わりました。しかし、今季初戦でさっそく4サルコウを決められたというのは大きいのではないでしょうか。羽生選手は昨季もフィンランディア杯に出場して4サルコウを決めてるんですよね。でも、そのあとが続きませんでした。今季こそは、4サルコウも安定して跳べることを願っています。
 中村選手はショートで5位につけたものの、フリーで8位となり、順位を落としてしまいました。中村選手はフリーで4トゥループ1本を入れていますが、その4回転や3アクセルなどでミスが続いてしまったようです。
 女子で2位となった鈴木選手はトリプルジャンプがダブルやシングルになるといったミスがあったようですが、GOEではさほどの減点とはなっていません。小さなミスが重なって点が伸びなかったという感じですね。フリーでは新しい挑戦として3フリップ+1ループ+3サルコウのコンビネーションジャンプを組み込んでいて、昨季よりさらに進化した鈴木選手が見られそうで楽しみです。
 庄司選手はショート、フリーともに8位。残念ながらミスが重なってしまったのですが、少し気になるのはダウングレードされたジャンプが目立つこと。アンダーローテッドならまだ良いのですが、ダウングレードだとせっかくトリプルを跳んでもダブルの判定になってしまうのでかなり点をロスしてしまいます。転倒は一つもないだけにちょっともったいないですね。

フィンランディア杯2013 男子ショートプログラム 採点表
フィンランディア杯2013 男子フリースケーティング 採点表
フィンランディア杯2013 女子ショートプログラム 採点表
フィンランディア杯2013 女子フリースケーティング 採点表 



:冒頭の写真はスポーツナビのフィギュアスケートフォトギャラリーから、ジャパンオープンの日本チームの写真はAFPBB Newsが2013年10月5日の08:20に配信した記事「日本が優勝飾る、地域対抗戦ジャパンオープン」から、織田信成選手の写真は国際スケート連盟の公式サイトのレビュー「Nebelhorn Trophy - Olympic Qualifying Event」から、安藤美姫選手の写真は国際スケート連盟の公式フェイスブックページから、そのほかの写真はInternational Figure Skatingの公式フェイスブックページから引用させていただきました。
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by hitsujigusa | 2013-10-11 17:57 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

SF小説・私的10撰

夏への扉[新訳版]



 秋に読みたい絵本・私的10撰に続いて、SF小説の私的なベスト10をご紹介します。
 なぜ唐突にSF小説なのかと申しますと、10月4日から10月10日というのが世界宇宙週間だからなんですね。世界宇宙週間というのは、ソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた1957年10月4日から、宇宙条約ができた1967年10月10日までの1週間を記念して制定された国際週間です。(fromウィキペディア)それに便乗して当ブログでも宇宙関連の記事を、と思い立ったわけです。

 ということで、私的なSF小説10撰について、長々と書いていきたいと思います。なお、ランキングではありません。
 また、最初に断わっておかなければならないのですが、私はSF好きではあるのですが専門的・難解・高度なSF小説はあまり得意ではありません。なのでこれから挙げる10冊も易しめな10冊、初心者向きの10冊と言えると思います。さらに、ファンタジー好きでもあるのでファンタジーっぽいSFもけっこう含まれてます。
 あんまりSF読んだことないけど読んでみたいな~という方におすすめしたい10冊となっていますので、その点はご留意ください。

 まずはSFといったらすぐに名前が挙がるであろう3作。


火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

【あらすじ】
 地球から火星にやってきた探検隊は火星人たちと出会う。しかし、火星人たちは地球から来たと言う探検隊の言葉に取り合わず、事態は思わぬ方向へ――。そんな困難を乗り越え地球人たちはどんどん火星に移住。一方、火星人たちは追い込まれていき――。

【収録作】
「2030年1月 ロケットの夏」
「2030年2月 イラ」
「2030年8月 夏の夜」
「2030年8月 地球の人々」
「2031年3月 納税者」
「2031年4月 第三探検隊」
「2032年6月 月は今でも明るいが」
「2032年8月 移住者たち」
「2032年12月 緑の朝」
「2033年2月 いなご」
「2033年8月 夜の邂逅」
「2033年10月 岸」
「2033年11月 火の玉」
「2034年2月 とかくするうちに」
「2034年4月 音楽家たち」
「2034年5月 荒野」
「2035-36年 名前をつける」
「2036年4月 第二のアッシャー邸」
「2036年8月 年老いた人たち」
「2036年9月 火星の人」
「2036年11月 鞄店」
「2036年11月 オフ・シーズン」
「2036年11月 地球を見守る人たち」
「2036年12月 沈黙の町」
「2037年4月 長の年月」
「2037年8月 優しく雨ぞ降りしきる」
「2037年10月 百万年ピクニック」


 SF界の巨星、2012年に亡くなったレイ・ブラッドベリの代表作『火星年代記』。火星を舞台に、移住してきた地球人たち、元々住んでいた火星人たちなど、さまざまな人々が織りなす人間模様をオムニバス形式で描いた長編です。
 上に示したように年代順に火星での出来事が綴られていって、まさに“年代記”。火星というひとつの星の変遷が、時におもしろおかしく、時にホラー、時にファンタジックに、時にヒューマニスティックに描かれます。
 長編といっても連作形式、その上1話1話違った雰囲気なので読みやすいと思います。27篇もあるので、人によってどの話が好きとか特に印象に残ったとか結構違ってくるでしょうね。ちなみに私は、「地球の人々」「月は今でも明るいが」「火の玉」「長の年月」が印象的でした。
 ところで、この本の初版は1950年なのですが、その時は「1999年1月 ロケットの夏」というように、現在の版より31年前の設定でした。現在の版は1997年に出たもので、年月の経過に合わせて31年未来にしたわけですね。最近でも2030年代の火星旅行の実現を目指すというニュースがありました。まさに“火星年代記”的に世界は進んでいるようです。そう考えると今から60年以上前にこれを書いたブラッドベリさんはすごいなーと改めて思います。



夏への扉[新訳版]

夏への扉[新訳版]

【あらすじ】
 1970年、ロサンゼルス。発明家のダンは親友マイルズと会社を興し成功、秘書のベルとも良い関係でなにもかもがうまくいっていた。ところが会社の経営を巡ってダンはマイルズと対立、マイルズを裏で操るベルの画策もあって会社を追い出されショックを受けたダンは、コールド・スリープで30年間の眠りにつこうとするが――。

 こちらもSF界を代表する作家の一人であるロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』。いわゆるタイムトラベルものですね。
 ロボットとかコールド・スリープとかSFらしいアイテムは出てきますが、そこまで難しいものではないので初心者向きのSFと言えるでしょう。何より、キャラクターの個性、プロットのおもしろさ、ストーリー展開など、読んでいて明快なのが良いですね。タイムトラベルによる矛盾―タイム・パラドックス―というテーマはSFの大定番ですが、それを実にわかりやすく扱っていますし、時間移動することによってどんな変化が起こるか、どのように未来に手を加えるかなど、ミステリーめいた工夫もあって読みごたえがあります。
 ところで、書影では新訳版を挙げましたが、これは私が読んだのがこのバージョンだったからで、旧訳の文庫もあるのでこれは好みかと思います。



アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

【あらすじ】
 主人公チャーリイ・ゴードンは知的障害があり、実年齢は32歳だが知能は6歳並みだった。そんなある日、チャーリイは知己の大学教授から知能レベルを上げる脳手術を受けることを勧められる。すでにその手術を受けたハツカネズミのアルジャーノンはチャーリイとの迷路実験でチャーリイに勝利する。それを見たチャーリイは手術することを決め、そして無事手術は成功するのだが――。

 ダニエル・キイスさんの名作『アルジャーノンに花束を』。日本でもテレビドラマ化されていたのでSFを普段読まない人にも知られている(であろう)SFです。
 SFというとまさに『火星年代記』や『夏への扉』のような、宇宙とかタイムトラベルというのが思い付きますが、この作品は知的障害を持つ人の知能レベルを手術によって向上させるという医学的なSFです。しかし軸となるのは、手術の方法とか効果とかそういったサイエンティフィックなことよりも、人間の幸せとは何かという心の在り方に迫ったドラマとなっています。
 手術で知能レベルを上げるということ自体は私たちには無縁のことですが、知能レベルが上がることで物事を理論的に理解できるようになり、さまざまな知識を得ることができるようになる一方、自分と他者を比較して優越を感じたり、人の嫌な部分が目についたりしてしまうチャーリイの姿は、大人になることで理知的になり物質的にも豊かになる一方、子ども時代の純粋さを失ってしまう世間の大人たちの姿と重なります。そういった意味でも、共感し考えさせられることの多いSFと言えると思います。
 一作家一冊という前提で『アルジャーノン』を挙げましたが、ダニエル・キイスさんでは『タッチ』という作品もおすすめです。これは放射能汚染を題材にした作品なので、現代の日本人にとっては非常にリアルで他人事じゃない生々しさのあるSFですね。


 ここまでアメリカのSF作家の作品を列挙しましたが、続いてもアメリカの作家です。


なつかしく謎めいて (Modern & classic)

なつかしく謎めいて (Modern & classic)

【あらすじ】
 語り手「私」は、次元間移動を用いてさまざまな世界を旅した。あるところには植物まじり、動物まじりの人間がおり、あるところには夢を財産として共有する人々がおり、あるところには翼を持つ人間がいる。「私」はそんな人々と出会い、触れ合い、交流するが――。

【収録作】
「シータ・ドゥリープ式次元間移動法」
「玉蜀黍の髪の女」
「アソヌの沈黙」
「その人たちもここにいる」
「ヴェクシの怒り」
「渡りをする人々」
「夜を通る道」
「ヘーニャの王族たち」
「四つの悲惨な物語」
「グレート・ジョイ」
「眠らない島」
「海星のような言語」
「謎の建築物」
「翼人間の選択」
「不死の人の島」
「しっちゃかめっちゃか」


 アメリカを代表する女流SF作家、アーシュラ・K・ル=グウィンさんの連作短編集『なつかしく謎めいて』。これは語り手の「私」が次元の異なる世界を訪れて、その様子を日記のように書き留めたという設定となっています。ですので各話ごとに全く違う世界が描かれており、旅行記といった感じの小説です。
 ル=グウィンさんはSF作家ではありますが、スタジオジブリで映画化された『ゲド戦記』などファンタジーも多く書かれており、ファンタジー作家としての色も濃いです。SFの方にもその色は表れていて、ファンタジック・抒情的な雰囲気が特徴的です。この作品も次元間移動などSFらしいモチーフはいくつか登場しますが、全体にファンタジックな面が強いですね。また、社会の中で個々の人間はどう生きるべきかという、社会学や多様性にも関連する内容となっています。
 でも最も特徴的なのは、民族や文化の描き方でしょうか。ル=グウィンさんの父は著名な文化人類学者、母も文化人類学に造詣のある方で、ル=グウィンさん自身も文化人類学に相当詳しいようです。『なつかしく謎めいて』はその知識が存分に生かされていて、各民族・種族の文化や習俗、歴史など、本当にリアルに実在しているかのように描かれています。単なる空想ではなく、しっかりと地に足のついた、土のにおい、風のにおいがするような“風土”を描いているという感じがしますね。


 ここまでは海外のSF作家でしたが、ここからは日本の作家です。


旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

【あらすじ】
 謎の男ラゴスは、超能力が存在する世界を旅する。超能力をパワーとした集団転移をしたり、壁を抜ける不思議な男と出会ったり、奴隷になったり、さまざまな苦難を経験しながらもラゴスは旅することをやめない。ラゴスは何を求め、何を目的に旅をしているのか――。

【収録作】
「集団転移」
「解放された男」
「顔」
「壁抜け芸人」
「たまご道」
「銀鉱」
「着地点」
「王国への道」
「赤い蝶」
「顎」
「奴隷商人」
「氷の女王」


 日本を代表するSF作家筒井康隆さんの長編、というか連作短編集『旅のラゴス』。ある異世界を主人公ラゴスが旅し、見たもの出会ったもの経験したことが描かれます。その点では『なつかしく謎めいて』に似たところもありますが、こちらの方がより長編としての繋がりが強いですね。
 筒井康隆さんといえば、『時をかける少女』みたいなジュブナイルSFや、ナンセンス小説のイメージがありますが、それらとは全く違う雰囲気のファンタジーっぽい壮大なSFです。とはいえ、中にはナンセンス風味の話もあるんですが。
 超能力のある世界と書きましたが、近未来的なイメージではありません。中央アジアとか中東のような風情で、どちらかというと退廃的な雰囲気の世界です。なのでSFっぽくないんですが、集団が精神を集中させて転移先を強く思い描くことで同化して集団転移、つまりテレポーテーションするみたいなSFらしさもありおもしろいです。一篇一篇が独立して読めるのですが、全体を通して読むことでロードムービーを見ているような感覚になります。


音楽の在りて

音楽の在りて

【収録作】
「ヘルマロッド殺し」
「子供の時間」
「おもちゃ箱」
「クレパス」
「プロメテにて」
「音楽の在りて」
「闇夜に声がする」
「マンガ原人」
「CMをどうぞ」
「憑かれた男」
「守人たち」
「美しき神の伝え」
「左利きのイザン」


 日本漫画界を代表する少女漫画家、萩尾望都さんの短編集『音楽の在りて』。作者は漫画家さんではありますがもちろん小説です。
 萩尾望都さんは少女漫画界の巨星、男子校を舞台にした『トーマの心臓』のような人間ドラマ、不死のバンパイアを描いた『ポーの一族』のようなファンタジーなど多彩ですが、SF漫画でも有名です。『11人いる!』『A-A´』のようなオリジナルを始め、レイ・ブラッドベリや光瀬龍さんの小説を漫画化したものなど、SF作品を多く発表しています。そんな萩尾さんが書いたSF小説が収められたのがこの『音楽の在りて』です。
 内容的にはそれぞれ独立した短編集ですが、古代の遺跡や仏像など、古いものと近未来的なものをうまくミックスさせたロマンティックさが特徴的です。クローンや宇宙船といった、一見すると非常に科学的で無機質な感じのするモチーフを扱っていても、情緒のある独特の雰囲気が作品に漂っています。
 ちなみに、SF小説だけが収録されているわけではなく、エッセイ風のものもありますし、最後に収められている「左利きのイザン」は、最初に入っている「ヘルマロッド殺し」と対をなすSF漫画です。SF作家としての萩尾望都さんの魅力が詰まった一冊です。



おもいでエマノン (徳間デュアル文庫)

おもいでエマノン (徳間デュアル文庫)

【あらすじ】
 長い髪にすらっとした身体、彫りの深い顔立ちとそこに浮かぶそばかすの美少女。“NO NAME”の逆さ綴り、エマノンと名乗る不思議な少女は一見すると普通の女の子。しかし彼女には、地球に生命が誕生してから現在までの全ての記憶があった――。

【収録作】
「おもいでエマノン」
「さかしまエングラム」
「ゆきずりアムネジア」
「とまどいマクトゥーヴ」
「うらぎりガリオン」
「たそがれコンタクト」
「しおかぜエヴォリューション」
「あしびきデイドリーム」


 SF作家、梶尾真治さんの連作短編集『おもいでエマノン』。“エマノンシリーズ”の第1作目で、その後『さすらいエマノン』『かりそめエマノン』『まろうどエマノン』『ゆきずりエマノン』と続きます。どれも良いのですが、初めて読んだ時の衝撃度という意味で『おもいでエマノン』を挙げました。
 内容としては、地球に生命が誕生して以降の記憶を持つ謎の少女エマノンが、キーマンとしていろんな場所に現れるという連作です。30億年分の記憶を持っている少女という設定がまず驚かされるところですが、エマノンは別に不死というわけじゃなく、彼女の娘から娘(顔は同じ)へと記憶が受け継がれていくんですね。それによって、ある出来事の目撃者となってそれを千年後に伝えたり、生態系のシステムに関わったり、全ての地球生命体の代表者のような役割を担うわけです。
 こう書くとどんな壮大な話かと思われそうですが、(壮大は壮大なのですが)あくまでエマノンというひとりの人間をフィーチャーすることで、ぐっと自分の隣に話が引き寄せられるというか、現実味のある物語にしています。SFというのはともすれば荒唐無稽になってしまいますが、もしかしたら自分もエマノンに会っているんじゃないかと思わせるようなエマノンの存在感によって、このシリーズは絶妙なリアリティを獲得しています。



蒲生邸事件 (文春文庫)

蒲生邸事件 (文春文庫)

【あらすじ】
 主人公尾崎孝史は予備校受験のため東京にやってくる。しかし、宿泊していたホテルで火事が発生、危ないところを同じホテルに泊まっていた謎の男、平田に助けられる。が、九死に一生を得た孝史がいたのはホテルの外ではなく、二・二六事件の只中の東京。孝史はタイムスリップしていたのだった――。


 ミステリー、時代小説と多彩な才能を見せる宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』。タイムトラベルものなのでSFはSFですが、明治を舞台にした時代小説でもあり、謎解きのあるミステリーでもあります。
 時間移動することで過去を変えてしまうかもしれない、歴史に手を加えてしまうかもしれないというテーマはSFの王道です。が、本来ミステリーを得意としている宮部さんだけあって、タイムトラベルで起こる問題を描くSF面と過去で発生した事件を解決するというミステリー面をうまく融合させ、さらにヒューマンドラマとしても読みごたえたっぷりです。
 余談ですが、タイムトラベルと二・ニ六事件という点で共通している小説として、恩田陸さんの『ねじの回転』というのがあります。こちらはまた違った角度からタイムトラベル、二・ニ六事件を描いているので、併せて読むとおもしろいと思います。



新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

【あらすじ】
 科学文明が失われた1000年後の日本。超能力を得た人間は平和に暮らしていた。神栖66町に住む12歳の少女、渡辺早季もまた、平凡ながら幸せに暮らしていた。ある日、同級生たちとともに町の外に出た早季は、謎の生物“ミノシロモドキ”を発見する。国立国会図書館つくば館の自律・自走型端末機であるというミノシロモドキによって、先史文明が崩壊した理由、現在の社会が構築された経緯など、早季たちは禁断の情報を知ってしまい――。


 貴志祐介さんの長編『新世界より』。1000年後の未来を描いたSFです。
 未来を舞台にしたSFというのは数多ありますし、科学文明が失われてしまった世界というのもよくありますが、そんな中でもこの小説の世界観というのは一種独特なもののように思えます。それを最も印象強く決定づけるのが“バケネズミ”の存在です。バケネズミはハダカデバネズミから進化したとされ、身体は人間の子ども並み、固有の言語を持ち、人間の支配下に置かれた生物です。しかし賢い者は人間の言葉を話すこともでき、知能も人間とさほど変わらない者として描かれています。見た目は毛のないネズミ、しかし人間ほどのサイズで言葉も話すというこの存在感が、ある種の気持ち悪さ、違和感を生み出しています。バケネズミのことだけではなく、ネコダマシ、ミノシロなどの奇妙な生物、1000年後の未来とは思えない人々の生活、原始的なにおいのする“呪力”と呼ばれる超能力……、未来という設定と未来らしからぬ世界観が相まって、読んでいても落ち着かない怖さ、ぬるっとした不気味さを感じる小説です。



図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

【あらすじ】
 公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる「メディア良化法」が存在する2019年。不適切な本の取り締まりのためには武力も辞さない「メディア良化隊」と、本と利用者の自由のために自ら武装した図書館組織「図書隊」は、長く抗争を繰り広げていた。そんな中、自分を助けてくれた図書隊員に憧れて図書隊に入隊した主人公笠原郁は、精鋭部隊といわれる図書特殊部隊配属となるが……。


 最後は有川浩さんの近未来SF『図書館戦争』、こちらもシリーズですね。映画化もされているので知っている方は多いと思いますし、当ブログでもすでに『図書館戦争』関連の記事を2つも書きましたので、改めてここで書くこともないですね。以下にリンクを張っておきますので、そちらを読んでいただけると幸いです。



 ということで、以上がSF小説・私的10撰となります。1年に1度の世界宇宙週間、この機会にSF小説を手に取ってみてはいかがでしょうか。


【ブログ内関連記事】
有川浩『図書館戦争』―現実の延長としての“図書館戦争” 2013年5月17日
有川浩『図書館革命』―2013年の“図書館革命” 2013年6月22日
夏に読みたい小説・私的10撰 2014年7月8日  ロバート・A・ハインライン『夏への扉』を記事内で取り上げています。
冒険を描いた小説・私的10撰 2015年8月29日  筒井康隆『旅のラゴス』を記事内で取り上げています。
萩尾望都『A‐A´』―ノスタルジックな宇宙の風景 2015年9月12日
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by hitsujigusa | 2013-10-06 03:42 | 小説 | Trackback | Comments(0)