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 いよいよクライマックス。王者が決まる男子フリーと、他種目に先駆けて競技を終えたペアについて書きたいと思います。
 男子シングルを制したのはソチ五輪チャンピオン、羽生結弦選手。グランプリファイナル、オリンピック、世界選手権の主要3大会で全て優勝する3冠を達成しました。銀メダルを獲得したのは初めての世界選手権出場となった町田樹選手。3位には昨年の銅メダリスト、ハビエル・フェルナンデス選手が入っています。
 また、ペアではソチ五輪銅メダルのアリオナ・サフチェンコ、ロビン・ゾルコビー組が2年ぶりの世界選手権優勝を果たしました。

ISU World Championships 2014 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 ショートプログラム3位からの逆転優勝をつかんだのは羽生結弦選手です!

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 冒頭は今シーズンほとんどクリーンな成功がなかった大技4サルコウ。これをこらえながらも何とか成功させます。続く4トゥループは前日転倒したジャンプ。しかしこれも完璧な回転とランディング。3フリップはロングエッジ(踏み切り違反)で若干の減点を受けたものの着氷。後半に入っても勢いは衰えず、2つの3アクセルからの連続ジャンプ、3+1+3など、着氷で詰まる部分もありつつも次々にジャンプを成功。終盤まで気持ちのこもった攻めの演技を見せました。得点は191.35点、パーソナルベストには届きませんでしたが190点超のハイスコアでフリー1位、トータル282.59点で逆転総合優勝となりました。
 ところどころでジャンプに粗さがあったのでパーフェクトな演技ではなかったのですが、力強さの満ちた良い演技でした。何よりもショートで珍しいミスを犯して、予想外の出遅れとなったことで、やってやるぞというアグレッシブかつ強い気持ちが演技全体から滲み出ていたと思います。
 これでグランプリファイナル、オリンピック、世界選手権と、主要国際大会3つを制覇した羽生選手ですが、19歳にして頂点を極めてしまった感があり、来季以降どうなるのか少し怖いですね。ですが、羽生選手の向上心、野心はまだまだ尽きることなく高みを目指しているので、成績的にはこれ以上ないというシーズンを経験した彼が、これからどう進化していくのかいろんな意味で楽しみです。
 1シーズンを怒濤のごとく走り切った羽生選手。相当疲労も溜まっているでしょうし、腰や膝にも痛みがあるそうなので、まずはゆっくり休んでほしいですね。世界選手権初優勝、おめでとうございました!


 惜しくも2位となったのは町田樹選手です。

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 冒頭の4トゥループは着氷で少し体勢を崩しますがこらえて成功。さらに4トゥループ+2トゥループのコンビネーションジャンプも完璧な跳躍を見せ、3アクセル+3トゥループも決めます。後半1発目の3アクセルはこらえ気味の着氷となったものの、動き自体に乱れはなくエレメンツを1つ1つ丁寧にこなします。終盤に来ても疲れの見えない軽やかな滑りで、まさに“火の鳥”のごとくリンクを飛翔。演技を終えた町田選手はホッとしたような、解き放たれたような穏やかな表情で観客の声援に応えました。得点は184.05点、自己ベストを10点近く更新。総合282.26点で惜しくも1位の羽生選手には及びませんでした。
 2シーズン続けた「火の鳥」のラストにふさわしい見事な演技でした。ショートで98点というハイスコアを叩き出し首位に立ったことで、町田選手の心に葛藤が生まれたといいます。アーティストとして作品を完成させたいという思い、その一方で目の前に競技者としての頂点がちらつくという難しさ。そんな中でも、アスリート“町田樹”の魅力、アーティスト“町田樹”の魅力、その両方ともが存分に発揮されていたと思います。
 今シーズン前半は、アスリートとしては今季が最後、ソチ五輪が最初で最後の五輪といった意思を示していた町田選手ですが、オリンピック、世界選手権を通じて徐々に変化が表れてきていますね。「平昌五輪もあるかも」と言ったり、羽生選手の金メダルを指して「来年はこれを目指します」と言ったり。ソチ五輪であともう一歩で表彰台というところまで行き、世界選手権でも超僅差で頂点に届かなかったという経験をしたことによって、良い意味で欲が出てきたのだと思います。自分はこれだけ出来るのだ、もっと出来るのだという自信、野心が町田選手を突き動かしているのでしょうね。
 これまでとはまた違った“欲”を得た町田選手が、アーティストとして、アスリートとして、来シーズンどんな活躍を見せてくれるのか今から楽しみです。銀メダル獲得、おめでとうございました。


 銅メダルを獲得したのは、スペインのハビエル・フェルナンデス選手。

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 まずは4トゥループを完璧に成功させて良い滑り出し。しかし次の4サルコウからのコンビネーションジャンプは2つのジャンプのあいだにターンが入って減点されます。その後は3アクセル、後半の4サルコウと安定したジャンプを見せましたが、3ルッツがシングルになるなどのミスもあり、会心の出来とはならず。その中でも、コミカルさとセクシーさの入り混じるプログラムの世界観を見事に表現し、まずまずといった表情。得点は179.51点、トータル175.93点で、2年連続の総合3位となりました。
 いくつかミスが出てしまったのは残念でしたが、大崩れはしない強さ、強豪ひしめく中でも2年連続でメダルを取れる安定感が光りましたね。来季フェルナンデス選手がさらに頂点に近づくためには、もう一皮剥ける必要があるのでしょうが、4回転は誰にも負けないものを持っているので、あとは簡単なジャンプでミスしないことでしょうか。演技構成点は安定して高いですから、技術的にさらに安定してくると今以上に怖い存在になりそうです。
 来シーズンは自国スペインのバルセロナでGPファイナルが開催される予定とのこと。そちらも含め、フェルナンデス選手のさらなる躍進を楽しみにしています。銅メダル獲得、おめでとうございました。


 4位にはロシアの新星、マキシム・コフトゥン選手が入りました。

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 冒頭はまず大技4サルコウからでしたが、踏み切りでバランスを崩してしまいシングルになる乱調の出だし。しかし直後の4トゥループは落ち着いてしっかりまとめました。3+3も決めて後半に。3アクセル、3アクセル+2トゥループの難しいジャンプ要素をこなすと、その後も次々とジャンプを着氷。ステップシークエンス、スピンも全てレベル4で揃え、終わってみれば最初のパンクした4サルコウ以外は、全てのエレメンツに加点が付く好演技を披露しました。得点は162.71点でフリー5位、総合4位で大会を終えました。
 いきなり思いがけない形で4サルコウを失敗して、このあとどうなるんだろうとハラハラしましたが、よく立て直しましたね。演技そのものもエネルギッシュで迫力もあって良かったと思います。
 ロシア選手権を制しながらソチ五輪代表からは外れて、多少なりとも悔しさはあったでしょうが、その分も挽回する充分なアピールとなったのではないでしょうか。今年の世界選手権はトップスケーターの何人かが出場しておらず、若手が上位に食い込むチャンスが多分にある大会ではありましたが、それでも4位という結果は素晴らしいですし、自信にしていってほしいですね。間違いなく、羽生選手やデニス・テン選手、閻涵(ヤン・ハン)選手などとともに、新しい時代をリードしていく選手の一人だと思います。
 来シーズンもまた楽しみにしています。


 5位は今大会をもって引退する、アメリカのジェレミー・アボット選手です。

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 冒頭は最近なかなか成功がない4トゥループでしたが、これをクリーンに着氷。続く3アクセル+2トゥループは少し詰まったものの何とかこらえます。ステップシークエンスでは壮大かつ重厚な音楽を全身で表現。後半もほとんどミスらしいミスはなく、アボット選手の動きもどんどん力強さを増していきます。スピンでラストダンスを締めくくったアボット選手は感極まり、信じられないという表情。観客も万雷の拍手を送り、アボット選手最後の、至高の演技を称えました。得点は166.68点。思ったほどの得点ではなかったのかアボット選手は残念そうに首を横に振りましたが、それでもパーソナルベストで競技者人生の幕を閉じました。
 羽生選手の演技も、町田選手の演技ももちろん素晴らしかったですが、そういった優勝争い、勝ち負けとは別のところで、アボット選手の演技は心に残りました。世界トップレベルのスケーティング技術を持ちながらも、決して“強い”選手ではなく、世界選手権やオリンピックのメダルを手にすることはついぞありませんでした。しかし、控えめで、繊細で、音を引き立てるような彼のスケートは、誰にも真似できない唯一無二のものでした。そんなアボット選手らしさが、最後の最後のこのフリーには全て詰まっていたと思います。フィギュアスケートの神様はアボット選手に対して意地悪な時もあったけれど、これ以上ない素敵な結末を用意してくれましたね。
 これからのアボット選手のさらなる活躍を願っています。長い間、お疲れさまでした。


 6位は小塚崇彦選手です。

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 まずは4トゥループから、回転不足にはならなかったものの両足着氷気味でマイナス判定。続く3アクセル、3ルッツからの連続ジャンプでもミスが出てしまいます。スピン、ステップシークエンスは小塚選手らしく丁寧かつ端正に。後半は練習不足の影響で疲労が色濃くなってしまいましたが、その中でも大崩れせず、ジャンプはしっかりまとめました。フィニッシュした小塚選手は苦笑しつつも、すっきりした表情。得点は152.48点でフリー6位、トータルでもショートと変わらず6位となりました。
 準備期間3週間しかない突貫ということで、後半はスピードも落ちて動きにキレがなくなってしまいましたが、最後まで諦めない姿勢、演技をまとめる実力は、さすが小塚選手だなと思いました。演技後のインタビューで小塚選手は、「この大会が来季に向けて奮起する要因になった」と話しましたが、技術的には世界トップレベルのものを持っている選手ですので、シーズン全体での波を小さくして安定感を取り戻せれば、もっともっと本来の小塚選手の姿が見られるようになるのではないかと思います。
 長いシーズンお疲れさまでした。また来季楽しみにしています。


 7位は中国の閻涵(ヤン・ハン)選手です。

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 冒頭は得意の3アクセル、これをパーフェクトに成功させます。が、次の4トゥループが珍しくダブルになるミス。続いて今季はこれまで取り入れていなかった2つ目の3アクセルに挑みましたが、大幅に回転が足りずあえなく転倒。後半はチラホラとミスが出たものの、大きな乱れはなく演じ切りました。得点は145.21点、フリー11位。総合7位入賞となりました。
 今回は新たなチャレンジとしてフリーに3アクセルを2つ組み込んだ閻選手。残念ながら成功とはなりませんでしたが、決まった時は誰よりも美しい3アクセルを跳ぶ選手ですので、これからもこの挑戦を続けてほしいですし、それが彼自身の成長にも繋がるのではないかと思います。
 来シーズンの活躍をまた期待しています。


 8位となったのはアメリカのマックス・アーロン選手。

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 序盤はまず2つの4サルコウ。1つ目の4サルコウ+2トゥループは体勢を崩し、2つ目の単独の4サルコウもクリーンなジャンプとはならず。ステップシークエンスとスピンを挟んだ後半は、6つのジャンプ要素を固める難度の高い構成。しかし2つの3アクセル、3+1+3など、ほとんどのジャンプでミスが出てしまいました。得点は147.34点で伸びませんでしたが、ショートから順位を上げて8位でフィニッシュしました。
 かなり攻撃的なジャンプ構成で臨んだアーロン選手。それだけ体力に自信があるというのもうなずけるスピード感を終始保っていました。ですが、いかんせんジャンプにミスが多かったですね。もっとまとまれば相当点数が出るプログラムだと思うので、残念でしたね。
 しかし、このスピード感、凄まじいまでに勢いを感じさせる演技というのは彼にしかない魅力ですから、来季もアーロン選手らしく頑張ってほしいと思います。



 ここまで男子シングル入賞の8選手についてお伝えしました。
 ここからはペアについて、簡潔にではありますが書いていきます。
 ペアを制したのはドイツのアリオナ・サフチェンコ、ロビン・ゾルコビー組です。ショートプログラムは全てのエレメンツに加点が付くほぼ完璧な出来で首位発進。フリーはレベルを取りこぼす技もありましたが、ミスらしいミスのない素晴らしい演技でフリーも1位。完全優勝で5度目の世界選手権優勝を飾りました。
 また、今シーズン限りでの現役引退が噂されていたサフチェンコ&ゾルコビー組でしたが、競技後、サフチェンコ選手によって、ゾルコビー選手が引退するためペアを解消すること、その上で、サフチェンコ選手が新たなパートナーと組んで2018年の平昌五輪を目指すことが発表されました。そのお相手とは、現在ペアのフランス代表のブリュノ・マッソ選手。ロシア人のダリア・ポポワ選手とのペアで今大会にも出場、15位となっています。予想外のニュースで驚きましたが、ベテランのサフチェンコ選手と、若いマッソ選手との2人が、どのようなペアを作っていくのか楽しみですね。
 銀メダルを獲得したのはロシアのクセニア・ストルボワ、ヒョードル・クリモフ組。ショートはツイストやデススパイラルでレベルの取りこぼしがあったものの、ソチ五輪でマークした自己ベストを上回って3位。フリーはスロー3フリップやスピンでミスがありましたが、ほかのジャンプやリフトをまとめてフリー2位、総合2位に上がりました。
 銅メダルはカナダのメーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組。ショートは全てのエレメンツに高い加点が付く会心の出来。これまでの自己ベストを3点以上更新し、2位発進となります。フリーではジャンプでの転倒といったミスがあり完璧とはならず。ですが、こちらも3点近く自己ベストを上回りフリー4位。2年連続の3位となりました。
 日本の高橋成美、木原龍一組は、ショート17位で惜しくもフリー進出は叶いませんでした。

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 冒頭の3サルコウは高橋選手が着氷でバランスを崩してしまい、減点。ですが、その後は立て直し、リフト、スロージャンプなどエレメンツを大きなミスなくクリアしました。得点は49.54点、NHK杯と同点での自己ベストをマークしました。
 16位以上がフリー進出の条件でしたが、一歩届かず……。しかしスコア的にはパーソナルベストということで、充分実力を発揮できたのではないでしょうか。高橋選手、木原選手自身も、練習以上、いつも以上の力が出せたとコメントしていますし、シーズン最後に満足いく演技ができて良かったですね。
 こうして高橋&木原組の1年目が終わったわけですが、私個人としては予想以上の活躍を見せてくれたなと感じます。2013年始めに結成したばかり、ましてや男性の木原選手は全くのペア初心者ということを考えても、ここまでやるとは凄いなと毎試合驚かされてばかりでした。また、そういったことを考慮から外しても、この高橋&木原組というペアは、実に息の合った、2人の融合が美しいペアだと思います。この2人で良かったな、この2人だからこそなんだなと、シーズン中は何度も感じました。来季も2人らしく、自分たちのペースでじっくり成長していってほしいですね。長いシーズン、お疲れさまでした。



 さて、男子シングル、ペアに関する記事は以上ですが、最後に来年2015年の世界選手権における各国の出場枠をざっくり整理してみたいと思います。

《男子》
3枠:日本、アメリカ
2枠:スペイン、ロシア、中国、フランス、チェコ、カナダ

《ペア》
3枠:ロシア、カナダ、中国
2枠:ドイツ、イタリア、フランス、アメリカ



 男子では日本が変わらず3枠を確保。アメリカはアボット、アーロン両選手の頑張りによって、2011年大会以来の3枠を奪取。ロシア、中国は1枠から2枠に増やし、スペイン、フランスは元々2枠あったところ1名のみの出場となりましたが、2枠を確保しました。カナダはエースのパトリック・チャン選手の不在が響き、3枠から2枠に減らすことに。
 ペアはロシア、カナダが変わらず3枠確保し、ペア大国である中国も枠を増やしました。2枠を得た国々の顔ぶれにも変化はありません。



 ということで、史上初のワンツーフィニッシュを果たした日本男子勢。改めて層の厚さを示す大会となりました。それと同時に、コフトゥン選手や閻選手、12位に入った2014年世界ジュニアチャンピオンのナム・グエン選手など、若い10代選手の躍進も印象に残りました。一方で、アボット選手、ベルネル選手といった、時代を彩ってきたベテラン選手の引退もあり、オリンピックシーズンならではの風景が多く見られました。
 ペアのサフチェンコ&ゾルコビー組も然り。8年連続で世界選手権の表彰台に立ち続けるという快挙を達成し、長年ペア界をリードしてきたこの2人のペアもこれが見納めとなりました。
 男子もペアも、来季は今季とはまた少し違った勢力図が見られることとなるでしょう。選手の皆さん、お疲れさまでした。


:記事冒頭のメダリスト3選手のスリーショット写真、アボット選手の写真、閻選手の写真、アーロン選手の写真、高橋&木原組の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、羽生選手の写真、フェルナンデス選手の写真、コフトゥン選手の写真、小塚選手の写真は、世界選手権2014の公式ウェブサイトから、町田選手の写真はエンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から引用させていただきました。


【ブログ内関連記事】
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by hitsujigusa | 2014-03-30 02:17 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 世界選手権2014、女子のショートプログラムについて書いていきます。
 首位に立ったのは浅田真央選手。世界歴代最高得点をマークしての1位です。2位はソチ五輪銅メダリストのカロリーナ・コストナー選手、3位はソチ五輪5位のユリア・リプニツカヤ選手となっています。

ISU World Championships 2014 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 ショート1位となったのは浅田真央選手です!

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 冷静な面持ちでリンク中央に立った浅田選手。冒頭は代名詞のトリプルアクセル。ちょうどよいスピード、カーブでジャンプの軌道に入ると、勢いよく氷を蹴り軽やかに跳躍。回り切って着氷するとランディングも自然な流れ。高さ、スピード、飛距離ともに完璧なトリプルアクセルを成功させ、1.86点という高い加点を得ました。続く3フリップもスムーズな回転と着氷、2つのスピンを挟んだ後半の3ループ+2ループも勢いよく決めました。クライマックスのステップシークエンスはゆったりとした動きに始まり、ピアノがテンポアップしていくにつれどんどん力強さを増し、しかしパワーを感じさせないなめらかな滑り。ビールマンスピンで作品を締めくくった浅田選手は、柔らかな笑みを浮かべました。得点は78.66点、自己ベストであるとともに世界歴代最高得点をマークし、浅田選手は喜びを露わにしました。
 とにかく美しい演技でした。グランプリファイナルの時もほぼパーフェクトな素晴らしい「ノクターン」だったのですが、それを超える間違いなくベストの「ノクターン」でしたね。3アクセルという女子選手史上最高レベルのジャンプを跳んでいるにもかかわらず、これが競技、スポーツであるということを忘れてしまいました。それくらいアスレチックなにおいのない、ただただ美しい純粋な芸術作品を見た気分です。
 その中でも、浅田選手が今までに見たことないくらい楽しそうな、幸せそうな笑顔で滑っていたのが印象に残りました。ソチ五輪では団体戦でも個人戦でもショートで苦労して、相当な悔しい思いをしていたでしょうから、それを経た上での、心からの幸福なスマイルだったのだと思います。
 フリーでもぜひこのような笑顔が見られることを願っています。


 2位はイタリアのカロリーナ・コストナー選手。

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 冒頭はソチ五輪と同じく3フリップ+3トゥループに挑戦、これをパーフェクトに決め波に乗ります。次の3ループもほとんど構え、助走のない中からすっと跳び上がり柔らかく着氷。後半の2アクセルもしっかりとまとめ、見どころのステップシークエンスではコストナー選手の手足の長さを存分に生かした壮大な滑りと、細やかなエッジワークとを見せました。フィニッシュしたコストナー選手は満足そうな笑顔で、観客の声援に応えました。得点は77.24点、ソチ五輪でマークした自己ベストを約3点上回りました。
 実はソチ五輪より緊張していたというコストナー選手。そこで、本来なら2011年に東京で世界選手権を開催するはずだったのに震災の影響でできなかったこと、日本のファンは待っていてくれたんだということを思い起こし、落ち着きを取り戻したのだそうです。そんなふうに、海外のスケーターが日本のことに想いを寄せてくれるというのは嬉しいですね。
 今季のコストナー選手は、シーズン前半こそ少し調子が上がってこないなという時期がありましたが、シーズン後半プログラムを変更してからは本当に安定していました。このショートの「アヴェ・マリア」はまさにコストナー選手そのものといった感じの清らかな作品で、彼女の代表作の一つといって良いでしょう。今大会限りで現役引退するコストナー選手。最後のフリーも笑顔で終われることを祈っています。


 3位にはロシアの新星、ユリア・リプニツカヤ選手が入りました。

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 まずは高難度のコンビネーションジャンプ、3ルッツ+3トゥループから。これをいつもどおりの安定感できっちり成功。2アクセルも難なく決め、ソチ五輪ではミスのあった3フリップもクリーンに着氷しました。代名詞のスピンではもちろん全てレベル4を獲得、ステップシークエンスも丁寧にこなしレベル4。GOE(出来栄え点)では、2アクセル以外の全てのエレメンツで1点以上の加点を得るなど、充実の演技となりました。得点は74.54点、こちらもパーソナルベストとなりました。
 ソチ五輪個人戦では自国のプレッシャーに押しつぶされてしまったリプニツカヤ選手でしたが、今回はよりのびのびと思い切りよく滑れていましたね。フリーでもリプニツカヤ選手らしく頑張ってほしいと思います。


 4位は今大会での引退を表明している鈴木明子選手です。

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 冒頭はソチ五輪で決められなかった3トゥループ+3トゥループ。完璧な回転とランディングで見事に成功させます。苦手としている3ルッツも正確なエッジで踏み切り加点を獲得。全スピンをレベル4で揃え、代名詞のステップシークエンスは全身を大きく使った情熱的な身のこなしと精密なフットワークが美しく溶け合います。演技を終えた鈴木選手は、感激を隠せないといった表情。得点は71.02点で国際大会初の70点超え、自己ベストを記録しました。
 鈴木選手の心がそのまま表れたような、そんなエモーショナルな演技でした。クリーンに3+3が決まったのもそうですが、それ以上に競技人生の最後にふさわしい鈴木選手らしさの溢れた滑りで、見ているこちらも感極まりましたね。鈴木選手のラストダンスがどんなフィナーレを迎えるのか、ゆっくり見届けたいと思います。


 5位となったのはアメリカ女王、グレイシー・ゴールド選手です。

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 冒頭の3ルッツ+3トゥループは抜群の安定感できれいに成功。後半に固めた2つのジャンプ要素のうち、3ループは少し乱れましたが、2アクセルはまとめました。そのほかのステップシークエンス、スピンでも取りこぼしなく、グリーグの「ピアノ協奏曲」の優雅かつダイナミックな旋律に合わせ華麗な滑りを披露。得点は70.31点でこちらもパーソナルベスト、5位という好位置につけました。
 ゴールド選手はシーズンを追うごとにぐんぐん安定感が増して、若手特有の危なっかしさがなくなってきましたね。それと同時に、アメリカ女王の貫録も出てきたように思います。これまではアシュリー・ワグナー選手が担ってきたアメリカのエースという役目を、ゴールド選手が担うようになったことによって風格が備わってきた気がします。役目が人を育てるというのもやはりあるのでしょうね。今年の全米選手権を潮目に両者の得点傾向も逆転しつつあるように感じますし、安定して高得点をもらえることで自信も生まれるでしょう。
 フリーも好演技を期待しています。


 6位は今季シニアデビューしたロシアのアンナ・ポゴリラヤ選手。

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 冒頭は大技3ルッツ+3トゥループ、これをしっかり決めて高い加点を得ます。続く3ループ、2アクセルといったジャンプ要素も全て問題なく成功。ステップシークエンスでもレベル4と高評価を獲得し、初めての世界選手権ショートプログラムをほぼノーミスで終えました。得点は66.26点、これまでの自己ベストを6点以上更新し最高のスタートとなりました。
 テレビの生中継は後半グループからの放送で、前半グループで滑ったポゴリラヤ選手を見ることはできなかったので、演技については何とも言えないのですが、初めての世界選手権でフリー最終グループに入ってくるとはさすがロシア女子、強いですね。ソチ五輪で金メダルを獲得したアデリナ・ソトニコワ選手の欠場で得た絶好のチャンスですから、ぜひ頑張ってほしいなと思います。


 7位はアメリカの実力者、アシュリー・ワグナー選手です。

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 まずは3フリップ+3トゥループの連続ジャンプ。きれいに成功したかに見えましたが、セカンドジャンプが大幅に回転不足となり減点を受けます。しかしその後はミスらしいミスなく、ジャンプ、スピン、ステップと確実に技をこなしていきました。演技後、ワグナー選手はまずまず納得したような表情を見せたものの、得点は3+3のミスが響き63.64点、伸び切りませんでした。
 3+3がアンダーローテーション(1/2以内の回転不足)ではなく、ダウングレード(1/2以上の回転不足)を取られたのが痛かったですね。表彰台まではかなり点差があるのでメダルは難しいのかなという感じがしますが、ワグナー選手がどれだけ本来の実力を発揮して、フリーでステップアップするのか楽しみにしています。


 8位となったのはカナダ女王、ケイトリン・オズモンド選手。

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 冒頭の3フリップ+3トゥループはクリーンな着氷。次の3ルッツは踏み切り違反でマイナス判定となりますが、2アクセルはしっかり降りました。レイバックスピンでレベル1よりも低いレベルBの判定を受けるなど取りこぼしもありましたが、全体的に大きなミスのない演技を見せました。得点は62.92点でシーズンベスト更新となっています。
 オズモンド選手に関しても演技を見られていないので感想は言えないのですが、3ルッツは仕方ないにしても、レイバックスピンでのミスがもったいなかったですね。レベル判定がBだと基礎点1.2点、そこからGOEで減点されてるわけなので、ほぼ点数が無いに等しいんですね。こういったところでもそつなく点を積み重ねていけるとさらなる躍進が期待できるのではないかと思います。フリーでもオズモンド選手らしい演技が見られることを祈っています。


 村上佳菜子選手は10位発進となりました。

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 得点源となる3トゥループ+3トゥループは良い形で跳躍に入りましたが、フェンスに近づきすぎたためかセカンドジャンプが詰まり気味の着氷で回転不足に。後半の3フリップも勢いよく跳んだように見えましたが回転不足。終盤は激しくエネルギッシュなステップシークエンスをキレキレで滑り切り、フィニッシュでは満足げに拳を握り締めました。しかし、細かなミスの重なりが影響し、得点は60.86点で厳しめのスコアとなりました。
 得点が発表された途端、会場からは不満を表す「えーっ」という声が上がり、村上選手自身も残念そうな表情を見せ、「もう少し点数はほしかった」という本音も漏らしました。ただ、ジャンプの回転不足があったこと、スピンも完璧ではなかったことなど、問題点は解った上でさほど落ち込んではいないようなのでホッとしました。今回は技術点が伸びなかったですが、演技構成点はシーズンベストをマークした四大陸選手権よりも高いですから、フリーで充分挽回できると思います。シーズンラストを完全燃焼で締めくくれるように願っています。



 浅田選手3度目の優勝か、コストナー選手2度目の優勝か、鈴木選手初の栄冠か、または若手リプニツカヤ選手、ゴールド選手の追い上げか……。女子フリーは29日です。


:記事冒頭の女子ショート上位3選手のスリーショット写真は、「International Figure Skating」の公式フェイスブックページから、浅田選手の写真、コストナー選手の写真、リプニツカヤ選手の写真、鈴木選手の写真、村上選手の写真は、毎日新聞のニュースサイト内の写真特集「世界フィギュア2014」から、ゴールド選手の写真、オズモンド選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、ポゴリラヤ選手の写真はエンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、ワグナー選手の写真はAFPBB Newsが2014年3月28日の7:10に配信した記事「女子SPで7位のワグナー、世界フィギュア」から引用させていただきました。


【ブログ内関連記事】
世界選手権2014、出場選手&欠場選手について 2014年3月9日
世界選手権2014・男子ショート―町田樹選手、パーソナルベストで首位 2014年3月27日
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世界選手権2014・女子フリー&アイスダンス―浅田真央選手、自身3度目の金メダル獲得 2014年4月2日
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by hitsujigusa | 2014-03-28 18:36 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 世界選手権2014inさいたま、始まりました! この記事では男子ショートの模様についてお伝えしたいと思います。
 男子シングル、ショート首位となったのは町田樹選手。これまでのパーソナルベストを大きく上回る高得点で、初めての世界選手権をショート1位で折り返すこととなりました。2位はスペインのハビエル・フェルナンデス選手、3位はソチ五輪金メダリスト、羽生結弦選手となっています。

ISU World Championships 2014 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 ショート1位は町田樹選手です!

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 本っ当に素晴らしい演技でした。初めての世界選手権ということで変に緊張していないかな?と余計な心配をしてしまったのですが、全くの杞憂でしたね。
 冒頭の4トゥループ+3トゥループは完璧としか言いようのないパーフェクトなコンビネーションジャンプ。高い加点を得ます。続く得意の3アクセルもいつもどおりの安定感、かつ、いつも以上に美しいランディング。ソチ五輪では珍しくミスしてしまった後半の3ルッツも難なく決めると、クライマックスのステップシークエンスはスケーティングもよく伸びて、滑らかで柔らかさをそなえつつも、力強い滑り。終始スピードに乗った演技を披露しました。フィニッシュした町田選手は微塵も顔色を変えることなく、押し寄せる感情をじっくり噛み締めるような表情でしたが、リンクから上がり大西勝敬コーチと抱き合うと喜びを爆発させました。得点はこれまでの自己ベストを7点以上更新する98.21点。世界歴代3位の高得点で1位となりました。
 演技後、町田選手はインタビューに対し、「町田樹史上最高傑作を、最高傑作の形でお届けできた」と答えましたが、シーズン最後の大舞台で紛れもなくベストの「エデンの東」を見せてくれましたね。町田選手の仕草、動きのひとつひとつがとても美しく、また、心が溢れ出るような演技に、琴線と涙腺が揺さぶられました。
 そして、ソチ五輪以来の「エデンの東」を見て、改めて美しい選手だなと思いました。オリンピックの時はジャンプでミスしませんようにと祈ったり、大丈夫かなとドキドキしたりで冷静に演技を見られなかったのですが、久しぶりに落ち着いてこのプログラムを拝見して、腕や脚、腰などの動かし方、頭の先から指先までひとつの流れとなった繊細な身のこなしの美しさは、やはり格別だなと感じ入りました。こんなに一挙手一投足や佇まいが美しい選手は、トップスケーターの中でもそう多くはいないですね。
 初の世界選手権でショート首位になるという予想以上の滑り出しで、逆にプレッシャーになっちゃうんじゃないかなという心配もありますが、何はともあれシーズン最後の演技なので、何にもとらわれることなく、町田選手らしく「火の鳥」を演じてほしいなと思います。


 2位となったのは昨年のメダリスト、スペインのハビエル・フェルナンデス選手です。

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 こちらもよくまとまったフェルナンデス選手らしい演技でした。冒頭の4サルコウは力みのないスムーズな入りと跳び上がりで完璧な着氷。3アクセル、3ルッツ+3トゥループをきれいに決め、ステップ、スピンは全てレベル4。軽快なリズムに乗って表情豊かに音楽を表現し、納得の笑み。得点は96.42点、自己ベストを4点以上上回り2位となりました。
 ソチ五輪では2つのジャンプでミスがあったフェルナンデス選手ですが、しっかりと今大会に合わせてきましたね。特に4サルコウはソチでのものよりも軽やかで、“らしい”4回転でした。フリーも楽しみにしています。


 3位はソチ五輪王者、羽生結弦選手です。

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 冒頭は抜群の安定感を誇る4トゥループでしたが、軸が空中で斜めになってしまい転倒、アンダーローテーション(1/2以内の回転不足)判定となります。しかしその後は崩れることなく、スピンは確実にレベルを獲得。後半の3アクセル、3ルッツ+3トゥループもクリーンに決めて、ステップシークエンスもいつもどおりにこなしました。演技を終えた羽生選手は苦笑い、悔しそうに顔を歪めました。得点は91.24点、ソチ五輪でマークした自己ベストには大きく及ばないものの、高得点で頂点を狙える好位置につけました。
 それにしても4トゥループの失敗は驚きました。羽生選手の発言からすると、演技前は特に過信はなくいつもどおりに臨んだようですが、4トゥループは練習からほとんど失敗らしい失敗がなかったからこそ油断してしまったのかもしれません。今シーズン、絶対的といっても良いほどショートはミスが無かったので、この演技内容、結果は意外でしたが、ほんのちょっぴりの心のブレが大きなミスに繋がってしまうのが4回転の難しさなんでしょうね。ですが、シーズンの中で一度や二度落ちる時はあるので、たまたまそれが世界選手権だったということではないかと思います。今まではショートで優位に立ってフリーで守るというパターンが多かったですが、今回はショートで追いかける立場となったことで、フリーでは思い切り攻めていけるでしょうから、また一味違ったフリーが見られるかもです。
 気になった点としては2つあり、1つは4トゥループの回転不足。映像で見る限り、回り切っていたように見えたのですが判定はアンダーローテーション。テレビ中継の実況でも回転不足判定が厳しめだと言っていましたが、確かに厳しかったですね。
 もう1つは羽生選手の言葉。演技後のコメントで羽生選手は、「4回転をミスしてしまいましたが、そのあとはしっかりとGOE(出来栄え点)を取れば90点台に乗せられると思ったので、やっぱGOEというのが、今回のプログラムで一番点数を稼げるところだと思っていました」と話しました。得点計算を頭に入れながらの演技というのは、エレメンツを機械的にこなしている感じになるというか、プログラム全体の音楽表現というより技を消化していく演技みたいになってしまうのではないかと思うので、少しどうなのかなと感じました。
 ソチではフリーで大きな悔しさを背負った羽生選手。その分もぶつけて、満足のフリーとなることを願っています。


 4位発進となったのはチェコの実力者、トマシュ・ベルネル選手です。

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 今大会限りでの現役引退を発表しているベテランのベルネル選手。最近なかなかクリーンに決まらなかった4トゥループをまずきっちりと成功させると、続く3アクセルも完璧。後半の3+3も問題なく着氷し、ステップシークエンスでは全身を大きく使った元気いっぱいの滑りを披露。フィニッシュしたベルネル選手は歓喜が大爆発、氷上に身を横たえ満面に笑みを浮かべました。得点は89.08点でこちらもパーソナルベストを5点以上更新しました。
 久しぶりの会心の出来でしたね。曇りのないすっきりした表情のベルネル選手を見て、こちらも嬉しくなりました。今季はグランプリシリーズにこそ参戦せず、ほとんどがB級大会だったものの、出場した大会では軒並み80点を超えていて1月の欧州選手権でも自己ベストをマークしていました。一流国際大会への出場が少なかったためにあまり目立ってはいませんでしたが、バンクーバー五輪以降では最も調子の良いシーズンだったのではないかと思います。それがシーズン最後に結実した形となりましたね。これが現役最後の競技会になってしまうなんてとても寂しいですが、納得のいく終わり方ができるよう祈っています。


 5位は中国の新星、閻涵(ヤン・ハン)選手。

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 冒頭は代名詞ともいえる得意の3アクセル。これを普段どおりの安定感でパーフェクトに決めて波に乗ると、次の4トゥループもしっかりまとめます。後半の3+3はファーストジャンプの着氷で詰まったために、セカンドジャンプがダブルになりましたが、ステップ、スピンは全てレベル4を揃えるなど落ち着いた演技を見せました。得点は86.70点、5位につけました。
 3アクセルと4回転がお見事だっただけに、後半のジャンプミスがもったいなかったですね。今季はこういった形でのミスが何度かあるので、そつなくエレメンツを揃えられるようになると、巧いだけではなく強い選手になるんだろうなと思います。フリーも期待しています。


 6位となったのは小塚崇彦選手です。

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 緊張した面持ちでリンク中央に立った小塚選手。冒頭の4トゥループは回転不足とはならなかったものの、両足着氷で減点。3アクセルも回転がギリギリで降りてきてしまい危うい着氷に。しかし後半は立て直し、3+3、スピンを丁寧にクリア。終盤のステップシークエンスでは小塚選手らしい淀みない自由自在のスケーティングを披露。7拍子の独特のリズムに合わせクールで端正な小塚選手の世界を存分に表現しました。得点は85.54点、シーズンベストをマークしました。
 高橋大輔選手の欠場で繰り上がりの出場となった小塚選手。3週間しかない調整期間の中で見事に仕上げてきました。こういった落ち着きというか、自分のペースを持っているというのはさすが経験豊富な実力者らしいところですね。フィニッシュでは控えめながらもガッツポーズを見せましたが、まだまだ余力が残っていそうな、そんなちょうど良い具合に力の抜けた演技でした。フリーも小塚選手らしく頑張ってほしいと思います。


 7位はロシアチャンピオン、マキシム・コフトゥン選手。

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 ショートでは2つ、2種類の4回転を組み込んだコフトゥン選手。1本目の4サルコウは体勢を崩しながら着氷しましたがアンダーローテーションの判定。しかし、2本目の4トゥループ+2トゥループは回転し切って降り、3アクセルもきっちり成功させるなど、全体的にまとまった演技を見せました。得点は84.66点で7位発進となりました。
 ロシア選手権ではかの皇帝プルシェンコを破って優勝したものの、欧州選手権ではフリーでミスが複数出て順位を落とす結果に。今大会もショートはまずまずの内容、位置なので、フリーで挽回できることを願っています。


 8位となったのはアメリカ王者、ジェレミー・アボット選手。

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 冒頭の4トゥループはそんなに悪くない形で着氷しましたが、惜しくも回転不足で転倒。ですが3+3、3アクセルはクリーンに成功させ、コンテンポラリーな雰囲気の音楽に乗ったステップシークエンスでも、細かさと雄大さが融合したフットワーク、エッジワークで魅せました。得点は79.67点でシーズンベストをマーク。
 今大会をもって引退するアボット選手とあって、会場の声援、盛り上がりも日本選手と変わらないくらいひときわのものがありましたね。どれだけ彼が日本のフィギュアファンに愛されているかというのが改めてよく分かりました。他の選手が4回転をバンバン決める中、残念ながらその点で出遅れてはしまいましたが、そんなことを忘れさせるくらいスケートが美しく、アボット選手にしかできない魅せ方、演技をしていたと思います。現役ラストとなるフリー、楽しみにしています。



 90点台の選手が3人とハイレベルな戦いとなった男子ショート。初出場の町田選手が初の栄光に輝くのか、フェルナンデス選手のヨーロッパ選手として久しぶりのタイトル獲得となるのか、ソチ五輪チャンピオン羽生選手の逆転優勝か、はたまた……。28日のフリーを待ちたいと思います。では。


:記事冒頭のショート上位3選手のスリーショット写真は、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、町田選手の写真は毎日新聞のニュースサイト内の写真特集「世界フィギュア2014」から、フェルナンデス選手の写真はAFPBB Newsが2014年3月27日の9:35に配信した記事「町田、五輪王者の羽生抑え男子SP首位 世界フィギュア」から、羽生選手の写真、閻選手の写真、小塚選手の写真、コフトゥン選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、ベルネル選手の写真、アボット選手の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から引用させていただきました。


【ブログ内関連記事】
世界選手権2014、出場選手&欠場選手について 2014年3月9日
世界選手権2014・女子ショート―浅田真央選手、世界歴代最高得点で首位 2014年3月28日
世界選手権2014・男子フリー&ペア―羽生結弦選手、日本男子2人目の金メダル獲得 2014年3月30日
世界選手権2014・女子フリー&アイスダンス―浅田真央選手、自身3度目の金メダル獲得 2014年4月2日
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by hitsujigusa | 2014-03-27 23:37 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

博士の愛した数式 (新潮文庫)


【あらすじ】
 ある家に派遣された家政婦の“私”が出会ったのは、記憶が80分しかもたない老数学者の“博士”だった。ほとんどのことに無関心で、数字に関することにしか興味を示さない博士に、最初は戸惑う“私”だったが、数字を通して徐々に心を通わせていく。そこに“私”の息子も加わるようになると、博士と“私”の関係にも変化が表れ始め――。



 3月14日はホワイトデーとして有名ですが、数学の日でもあります。それにちなんで、今回は小川洋子さんの長編小説『博士の愛した数式』をピックアップ。
 『博士の愛した数式』は雑誌『新潮』に掲載後、2003年に単行本で出版され、第55回読売文学賞を受賞。創設されたばかりだった第1回本屋大賞の大賞にも選ばれ、純文学としては異例のヒットを記録。2006年には映画化もされており、小川洋子作品の中では最もよく知られた小説だろうと思う。

 『博士の愛した数式』は、一見ファンタジックな小説である。固有名詞をできるだけ排除した基本設定に加え、記憶が80分しかもたない老数学者、偶然派遣される若き家政婦、博士の秘密を知る謎めいた義理の姉と、人物たちもファンタジーめいた要素を多分に含んでいるが、さらにストーリーも、博士、“私”、その息子(愛称はルート)の3人が疑似家族化していくというハートウォーミングな展開。生活に必要不可欠な生々しいにおいのない物語は、ある種の非日常性を漂わせる。
 その独特の空気感に彩りを添えるのが、この物語の影の主役ともいえる“数字”である。無機質でお堅いイメージのある“数字”が、この物語では実に魅力的なものとして描かれている。たとえば、“私”の誕生日2月20日の数字220と、博士の腕時計に刻まれた数字284の関係を、博士が“私”に教えるこんな場面。


 博士は記号を書き加えていった。

  220:1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=
     =142+71+4+2+1:284

「計算してごらん。ゆっくりで、構わないから」
 博士は私に鉛筆を手渡した。私は折り込み広告の余白に筆算した。予感と優しさに満ちた口調だったので、テストされている気分にならずにすんだ。むしろ、さっきまで陥っていた困った展開を脱し、正しい答えを導き出すのは自分しかいないのだ、という使命感がわいてくるのを感じた。

(中略)
「はい、できました」

  220:1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284
  220=142+71+4+2+1:284

「正解だ。見てご覧、この素晴らしい一続きの数字の連なりを。220の約数の和は284。284の約数の和は220。友愛数だ。滅多に存在しない組合せだよ。フェルマーだってデカルトだって、一組ずつしか見つけられなかった。神の計らいを受けた絆で結ばれ合った数字なんだ。美しいと思わないかい? 君の誕生日と、僕の手首に刻まれた数字が、これほど見事なチェーンでつながり合っているなんて」
 私たちはただの広告の紙に、いつまでも視線を落としていた。瞬く星を結んで夜空に星座を描くように、博士の書いた数字と、私の書いた数字が、淀みない一つの流れとなって巡っている様を目で追い掛けていた。
(小川洋子『博士の愛した数式』新潮社、2005年12月、31頁)


 このようにロマンさえ漂わせる“数字”がそこここに散りばめられ、かつ、神秘を帯びた数学という存在の効果もあって、『博士の愛した数式』は現実世界を舞台にした小説でありながらも、どこか現実から一歩離れたところのお話のようにも見える。“数字”だけなら、それだけで終わっていただろう。
 その“数字小説”の色濃い『博士の愛した数式』に、異なる色を加えたのが“野球”である。

 博士や“ルート”が野球好き(特に阪神タイガースのファン)ということもあって、作品には野球に関連する場面が数多く登場する。登場人物の名前や地名などの固有名詞がほとんどない中で、実在するチーム名や選手名といった野球に関する語句が、幻想的な物語に世俗的なにおいを与え、これが現実の物語であることを示す。
 極めつけは阪神タイガースの大エース、江夏豊である。江夏豊は博士が最も愛する野球選手だが、その江夏の現役時代の背番号がなんと完全数28なのである。完全数とはその数自身を除いた約数を足していくと、その数自身と等しくなるという類い稀なる数字のこと。その完全数28を、日本球界史上最高のピッチャーといってもよい完全なる投手江夏豊が背負っていたという事実。フィクションにまぎれもない現実が加わることによって、作者さえも意図し得ない強固なリアリティを、この物語は獲得したのだ。

 単行本が出版された2003年、長年下位低迷を続けていた阪神タイガースは18年ぶりのリーグ優勝を成し遂げた。伝説の名投手江夏豊が完全数を背負っていたという偶然は、フィクションだけでは得られなかった深みと重みを物語に与えたが、さらに本が出版されたその年にタイガースが優勝するという偶然の奇跡によって、予期せぬ感慨をこの作品は生み出したのではないかと思う。
 友愛数、双子素数、三角数、ルース=アーロン・ペア、メルセンヌ素数、完全数。葛西、亀山、中田、新庄、パチョレック、中込、八木、そして江夏。数字と野球という確固たる現実と、文学という非現実との素敵な邂逅が、何よりもこの作品にかけがえのない魅力を付与している。


【ブログ内関連記事】
小川洋子『妊娠カレンダー』―感覚で味わう“雨” 2013年6月29日
小川洋子『アンネ・フランクの記憶』―アウシュヴィッツと零戦 2013年7月25日
家族を描いた小説・私的10撰 2014年6月5日  記事内で小川洋子氏の『ミーナの行進』を取り上げています。
『それでも三月は、また』―2011年の記憶 2016年3月9日  記事内で取り上げている短編集に小川洋子氏の「夜泣き帽子」が収録されています。
小川洋子『凍りついた香り』―“死”を巡る心の軌跡 2016年9月30日


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by hitsujigusa | 2014-03-14 01:54 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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 13/14シーズン最大のイベント、ソチオリンピックが終わり、いよいよ今季も最終盤となりました。
 その最後を締めくくる世界選手権が3月24日から30日にかけて、日本のさいたまで行われるのを前に、国際スケート連盟によって世界選手権出場選手のエントリーが正式に発表されました。オリンピックの直後の世界選手権というのは、オリンピックのメダリストを始め欠場する選手も多くおり、オリンピックとはまた違った顔ぶれとなります。そのことも含め、出場する選手、欠場する選手について、簡単に記事にしたいと思います。

ISU World Championships 2014 世界選手権2014に出場予定の選手の一覧が見られます。

*****

 まずは、ソチオリンピックに出場した主な有力選手のうち、世界選手権を欠場する選手をざっくりとまとめます。(敬称略)

《男子》パトリック・チャン(カナダ)、デニス・テン(カザフスタン)、高橋大輔(日本)、ジェイソン・ブラウン(アメリカ)、ブライアン・ジュベール(フランス)、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)

《女子》アデリナ・ソトニコワ(ロシア)、金妍兒(韓国)、ビクトリア・ヘルゲソン(スウェーデン)

《ペア》タチアナ・ボロソジャー、マキシム・トランコフ組(ロシア)、龐清、佟健組(中国)、フェリシア・ザン、ネイサン・バーソロメイ組(アメリカ)

《アイスダンス》メリル・デイビス、チャーリー・ホワイト組(アメリカ)、テッサ・ヴァーチュー、スコット・モイヤー組(カナダ)




 このように、多くのオリンピックメダリストが欠場となったわけですが、ソチオリンピック6位の高橋大輔選手も、負傷を理由に世界選手権欠場を発表しました。
 日本スケート連盟の3月4日の発表によると、高橋選手の怪我は右脛骨関節軟骨損傷による慢性膝関節炎で、激しいスポーツは困難、5~6週間の安静加療が必要とのこと。ソチ五輪から帰国後に受けたメディカルチェックで判明したようです。
 高橋選手は以下のようにコメントを発表しています。

◆◆◆◆◆

髙橋大輔選手「世界フィギュアスケート選手権大会」欠場について

自国開催の世界選手権、選ばれたからには無理をしてでも、と悩みましたが、安静加療が必要なこと、今後も自分の膝とは長い付き合いをしていかなくてはいけないことから、大変残念ですが、欠場という結論に至りました。
ご心配とご迷惑をおかけしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいですが、一日でも早く皆様の前でスケートができるよう、日々の体の変化に対応しながら、治療に専念したいと思います。


公益財団法人日本スケート連盟 平成26年3月4日 一部抜粋

◆◆◆◆◆

 高橋選手は昨年の11月末に右脛骨骨挫傷という怪我をし、グランプリファイナルを欠場しています。そこから何とか怪我を乗り越えオリンピックの切符を勝ち取ったわけですが、完全に治ったということではなかったのでしょう。スケートができる状態とはいえ、オリンピックでも4回転に苦労する姿が見られ、万全ではないのがうかがえました。
 日本開催の世界選手権で高橋選手の演技が見られないのは残念ですが、4年に1回のオリンピックのために全力を尽くした結果だと思うので、ゆっくり休んでしっかり右膝を治してほしいですね。今後、高橋選手が再び競技の世界に戻ってくるのか、それとも引退かというのも今は分かりませんが、どんな形にせよ、高橋選手のスケートがまた見られることを楽しみにしています。
 そして、欠場の高橋選手の代役として、補欠だった小塚崇彦選手が代表入りとなりました。全日本選手権では五輪代表3枠目を高橋選手と争い、惜しくも及ばなかった小塚選手ですが、1月の四大陸選手権に出場し、現役続行の意思を表明していました。思いがけない形で出番が回ってきたわけですが、早速ブログでは意欲を見せてくれました。2年ぶりの世界選手権、今シーズン最高の演技ができるよう祈っています。


 同じ男子シングルでは、ソチ五輪銀メダリストのパトリック・チャン選手、銅メダリストのデニス・テン選手も欠場となっています。

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 AFPBB Newsが3月4日に配信した「大会3連覇中のチャン、世界選手権欠場を表明」という記事によるとチャン選手は、スケートに専念できる状態ではなく、一旦スケートから離れ未来を見据えることを決めたとのこと。その一方で、もう一度世界選手権で勝ちたいとも語り、いつか復帰する意思があることも示しました。
 ソチ五輪で目指していた金メダルに届かなかったとはいえ、チャン選手が世界トップの実力を持つ選手であるのは間違いないでしょう。だからこそオリンピックチャンピオンになれなかったショックは大きいのではないかと想像しますが、まだ23歳ですから、ぜひ再び競技の世界であの素晴らしいスケートを見せてほしいと思います。また、チャン選手の代役としては、15歳のナム・グエン選手の出場が決定。グエン選手は3月10日から16日にかけて行われる世界ジュニア選手権にも出場予定ですので、忙しくなるでしょうが、身体に気を付けて頑張ってほしいですね。
 テン選手は今シーズン、怪我やスケート靴の問題などいろいろありましたから、オリンピックでメダルを獲得するというこれ以上ない成果を収めたことによって、安心して休息を取れるのではないかなと思います。テン選手もまだ20歳ですからね、来季の活躍も楽しみにしています。
 一方、フランスのベテラン、ブライアン・ジュベール選手はソチ五輪を持って引退を表明。ロシアのエフゲニー・プルシェンコ選手も、4年後の平昌五輪への意欲を匂わせながらも、今のところは一応引退状態と言えます。それぞれ、ジュベール選手に代わってシャフィク・ベセギエ選手が、プルシェンコ選手に代わってロシアチャンピオンのマキシム・コフトゥン選手がエントリーしています。
 アメリカのジェイソン・ブラウン選手は元々世界選手権出場予定はなく、オリンピックのみのエントリーでしたので、厳密に言えば欠場というわけではありません。オリンピックでの見事な演技はまだ記憶に新しいところ、日本でブラウン選手が見られないのはちょっと残念な気もしますが、また来シーズン期待しています。世界選手権アメリカ男子代表は、オリンピックにも出場したジェレミー・アボット選手と、全米選手権3位のマックス・アーロン選手となっています。


 他方、女子シングルではソチ五輪金メダリストのアデリナ・ソトニコワ選手、銀メダリストの金妍兒(キム・ヨナ)選手が欠場。

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 金選手は引退ということでやはり欠場となりましたが、ソトニコワ選手に関しては、五輪競技後のインタビューでは世界選手権出る気満々といった感じの受け答えをしていました。ですが、最終的には他の選手にもチャンスをという形でソトニコワ選手は補欠となりました。代わりに15歳のアンナ・ポゴリラヤ選手が出場予定となっています。
 スウェーデンのビクトリア・ヘルゲソン選手は残念ながらオリンピックでは振るわず、ショート27位でフリーに進出できませんでした。それが影響したのか、それとも元々そう決まっていたのかは分かりませんが、世界選手権のスウェーデン女子代表は、妹のヨシ・ヘルゲソン選手となりました。お姉さんの分まで、ぜひ頑張ってほしいなと思います。


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 ペアではソチ五輪金メダリスト、タチアナ・ボロソジャー、マキシム・トランコフ組、4位の龐清(パン・チン)、佟健(トン・ジャン)組が欠場。ボロソジャー&トランコフ組は金メダリストですので、やはり休息を優先。龐、佟組はソチ五輪での現役引退を表明しています。それぞれ、ロシアは若手のユリア・アンチポワ、ノダリー・マイスラーゼ組、中国も同じく若手の隋文静(スイ・ウェンジン)、韓聰(ハン・コン)組にチャンスが与えられました。
 また、アメリカのフェリシア・ザン、ネイサン・バーソロメイ組は、全米選手権後の代表発表では世界選手権の代表にも名を連ねていましたが、今回の発表では補欠に回りました。代わりに補欠だったケイディー・デニー、ジョン・コフリン組が世界選手権代表に選ばれています。オリンピックの成績がこういうところに影響するものなのかどうかはよく分かりませんが、デニー&コフリン組も実力のあるペアですから、楽しみですね。


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 アイスダンスでも、ソチ五輪王者のメリル・デイビス、チャーリー・ホワイト組、銀メダリストのテッサ・ヴァーチュー、スコット・モイヤー組が欠場。バンクーバー五輪のシーズンからアイスダンス界をリードしてきた両カップルの不在は少し寂しいですが、体力的にも精神的にも疲労がたまっているでしょうから、じっくり疲れを取ってほしいと思います。
 それぞれの空いた枠には、アメリカはアレクサンドラ・オルドリッジ、ダニエル・イートン組、カナダはパイパー・ギレス、ポール・ポワリエ組が入りました。オルドリッジ&イートン組は本来は補欠2番手でしたが、補欠1番手だったマディソン・ハベル、ザカリー・ダナヒュー組のハベル選手が、股関節を負傷したということで、2番手のオルドリッジ&イートン組が繰り上がりで世界選手権代表となりました。



 オリンピック直後の世界選手権というのは、どうしても五輪メダリストのスキップというのが多く、その分例年より静かな大会になってしまうのかなという気はするのですが、次の4年間へのスタートとなる大会でもあります。欠場した選手の代わりに、若いスケーターが多くエントリーされているということもありますし、新たなヒーロー、ヒロインの活躍も楽しみです。
 今シーズン最後の大イベント、全ての選手が全力を出し尽くせるように、願っています。


:記事内の全ての写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から引用させていただきました。


【参考リンク】
大会3連覇中のチャン、世界選手権欠場を表明
ソチ五輪金メダリストのデイビス/ホワイト組、世界選手権を欠場

【ブログ内関連記事】
世界選手権2014・男子ショート―町田樹選手、パーソナルベストで首位 2014年3月27日
世界選手権2014・女子ショート―浅田真央選手、世界歴代最高得点で首位 2014年3月28日
世界選手権2014・男子フリー&ペア―羽生結弦選手、日本男子2人目の金メダル獲得 2014年3月30日
世界選手権2014・女子フリー&アイスダンス―浅田真央選手、自身3度目の金メダル獲得 2014年4月2日
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by hitsujigusa | 2014-03-09 02:37 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

雪と珊瑚と


【あらすじ】
 21歳の山野珊瑚は生まれたばかりの娘、雪をひとりで育てるシングルマザー。働くために雪を預けるところを探していると、ある一軒家に「赤ちゃん、お預かりします。」の貼り紙が。そこで出会ったのはミステリアスな雰囲気を漂わせる年配の女性、藪内くららだった。半信半疑ながら雪をくららに預けることになった珊瑚だったが、くららが作る健康的で美味しい料理に喚起され、“食”に興味を持ち始め――。



 3月5日は珊瑚の日。ということで、タイトルに“珊瑚”がつく、梨木香歩さんの小説『雪と珊瑚と』を紹介します。
 『雪と珊瑚と』は人によっていろんな読み方ができる小説だと思う。シングルマザーの奮闘記、人々の温かいふれあいを描いたヒューマンドラマ、主人公の総菜カフェオープンまでの日々を描いたサクセスストーリー……。そんな中でも私が惹かれたのは、作品に描かれた“食”である。
 この小説はプロの料理人を題材にしているわけでもないし、本格的なレストランを舞台にしているわけでもない。いたって普通の人々が、普通の料理を作り、食べる姿を描いているだけなのだが、それらが非常に魅力的に描写されている。
 たとえば、くららが珊瑚に油揚げと菜っ葉の和えものの作り方を教えるこんな場面。


「お鍋はね―薄すぎる鍋ではだめだけれど―低い温度でじっくり熱してからものを入れれば、そんなに焦げ付かないのよ。特に油揚げは、それ自体に油があるから、お湯で油抜きする代わりに、こうして油をひかずにじっくり熱くなった鍋底に並べれば、自分の油をじりじり出してくれるし、少しくらい焦げたにしても、手間をかけて火にあぶって焼いて入れたのと同じような風味になるの」
「へえ」
 菜箸で並べた油揚げを上から押さえつけ、じりじりと焼く。なるほど、油が染み出てくるようだ。くららはそこへ、
「じゃあ、菜っ葉を入れるわね」
 と、ざっと切り刻んだ小松菜と水菜の混ぜた物を入れた。鍋いっぱいになった。
「簡単に混ぜてください。ちょっとだけしゅんとするように」
 珊瑚が言われた通りにしていると、
「そこへ、みりん、おダシ、薄口しょうゆ、お塩ちょっぴり」
 歌うように言って、くららは調味料を入れていった。鍋いっぱいだった菜っ葉が、三分の一ほどになった。
(梨木香歩『雪と珊瑚と』角川書店、2012年4月、85頁)


 なんでもない料理の場面。だけど油揚げから油が滲み出る様子や、熱を帯びた菜っ葉が“しゅん”となっていく景色が目に浮かぶようで、何だか読んでいてウキウキとなってくる。まるで自分がこれからその料理を食べるかのように。『雪と珊瑚と』は、そんな幸せな“食”の風景が多々登場する小説だ。

 物語は娘をどこかに預けようとする珊瑚が、公立の保育園には満員と言われ、個人経営の託児所にも空きがないからと断られ、貯金もそろそろ底を突き、途方に暮れていた時、偶然「赤ちゃん、お預かりします」の貼り紙を見つけ、くららと出会うところから始まる。
 以前働いていたパン屋に再び雇ってもらい、何とか仕事復帰するが、パン屋がその年いっぱいで閉店すると知らされ、再び先のことを考えなければならなくなる珊瑚。そんな時、くららの家で饗された“おかず入りパウンドケーキ”の美味しさに衝撃を受け、単なる子どもを預ける親とベビーシッターとしての枠を超え、いろんな“食”のかたちを教わるようになる。アレルギーを持つ子どもでも食べられる、長芋と上新粉と蜂蜜で作る“メロンパンもどき”、キャベツの外葉を利用したベシャメル・ソース、大根の茹で汁をダシにしたスープ……。
 今まで知らなかった食の世界に触れた珊瑚は、そのおもしろさを追求するだけでなく、それを仕事にできればと思うようになり、テイクアウトもでき、イートインもできる総菜カフェを開くために動き始める――。
 
 とはいえ、主人公が夢を叶えるために四苦八苦する話かというとそうはならない。料理の先生ともいえるくららを始め、農業を生業とするくららの甥、その畑を共同運営する友人、パン屋の同僚で珊瑚を慕う女子大生など、さまざまな人が珊瑚を支え、実現のために実務的な手助けをする。野菜はくららの甥の畑から仕入れることとなり、カフェを開く理想的な土地、物件も早々と見つかり、開店資金も女性・若者向けの起業援助で融資を受けられることになる。そんなふうに珊瑚の夢はとんとん拍子で現実のものとなっていく。読んでいるうちに、こんなうまくいくわけない、素人がそんな簡単に開業できるわけがないとも思えてくる。ただその一方で、こういう現実もあるんじゃないか、こういう成功の仕方もあるんじゃないかと信じたくなってくる、妙な説得力がこの物語にはある。
 それは、一筋縄ではいかない登場人物たちの絶妙なリアリティのおかげもあるし、開業までの実務・背景がまるでハウツー本のようにリアルに細かく書かれているからでもある。
 しかしそれ以上に大きいのは、やはり描かれている“食”の説得力だろう。
 おかず入りパウンドケーキ、メロンパンもどき、ホコリタケのデュクセル、ほうれんそうのポタージュ、スパニッシュオムレツ……。作中に登場する料理すべてが美味しそうに描かれているのはもちろんだが、単なる味や見た目の良さだけで語られる“食”ではなく、生きていくために必要になる“食”、その上で心や暮らしを豊かにする“食”の在り方が、さまざまな料理を通して伝わってくる。アレルギーの幼子を持つ母親が、その心配をしなくてよいメロンパンもどきに救われたり、長時間労働して疲れ果てた人がたっぷりのコールスローで元気を取り戻したり。読み進めているうちに、“食”が人間に与えてくれるものの豊かさ、“食”の偉大さが、自分自身の体験とも重なって手に取るように解ってくる。
 起業のコンセプトを考えた珊瑚は、自分のやりたいことをこう言葉にする。「食べたものが、そのままその人の元気に繋がるような、そういう「食」を仕事にしたい。
 さまざまな“食”の風景が描写されることによって、それはきれいごとではなく実感を伴った言葉として、説得力を持って感じられる。

 “食”は、食べたその人の心、暮らし、果ては人生をも救い、支えてくれる。当たり前のことかもしれないが、日常の忙しさに紛れておろそかにしてしまいがちな食の本質を、『雪と珊瑚と』は新鮮な見方で改めて示してくれる。
 “食”に興味がある方も、ない方も、ぜひ一度読んでみてほしい良作である。


雪と珊瑚と
雪と珊瑚と
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梨木 香歩
角川書店(角川グループパブリッシング)
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by hitsujigusa | 2014-03-05 03:50 | 小説 | Trackback | Comments(0)