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 フィギュアスケーター衣装コレクション第6弾。今回はこのシリーズ初めての男性スケーター、ブライアン・ジュベール選手をフィーチャーします。
 1度の優勝を含む6度の世界選手権でのメダル獲得、3度の欧州選手権優勝という輝かしい成績を残してきたブライアン・ジュベール選手。13/14シーズン限りでの現役引退を発表していましたが、その後、ロシアのカタリナ・ゲルボルト選手と組んでペアに転向すること、ロシアに所属を移して競技人生を続ける予定であることが発表されました。このニュースは正直とてもびっくりしましたが、今までとはまた違った形で彼のスケートが見られるというのは嬉しいですね。
 そんなジュベール選手。4回転ジャンパーとしても有名でしたが、独特の個性を持ったオリジナリティー溢れる演技、そしてプログラムの世界観を反映した独創的なコスチュームも印象的なスケーターでした。ジュベール選手の素敵な衣装の数々をごく一部ではありますが見ていきたいと思います。

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by hitsujigusa | 2014-07-28 20:19 | フィギュアスケート(衣装関連) | Trackback | Comments(0)

海がきこえる (徳間文庫)


【あらすじ】
 大学入学を機に高知から上京した杜崎拓。引っ越しの荷物の中から偶然見つけたのは、高校2年の修学旅行で撮られた里伽子の写真だった。それをきっかけに拓は里伽子と過ごした日々を回想する。高校2年の秋、拓の通う私立高校に編入してきた武藤里伽子は美人で成績優秀だったが、馴れ合いを好まず周囲から浮いた存在となっていて――。


 7月21日は海の日。ということで、タイトルに“海”がつく小説、氷室冴子さんの『海がきこえる』を今回は取り上げます。
 『海がきこえる』は雑誌『アニメージュ』に1990年から1992年に連載され、その後スタジオジブリによってアニメーション化されたことでも有名である。

 ストーリーは実にシンプル。地方都市に住む主人公の少年が東京から転校してきた美少女と出会う。その美少女に主人公の親友が片想いするが美少女にその気はなく、3人は微妙な三角関係となっていく……というのがあらすじ。それを回想するという形で主人公の現在=大学生活も描かれていて、ちょっと昔を懐かしく思い出すという物語になっている。
 こうしてあらすじだけ見ればこの作品は本当に青春小説の王道で、何の変哲もないよくある話のように思われるかもしれない。実際、10代の少年少女特有の青臭さ、甘酸っぱさ、ほろ苦さが作品全体に漂っていて、青春小説らしい雰囲気を存分に味わうことができる。
 作者の氷室冴子さんは元々コバルト文庫で活躍した作家で、少女小説、少女漫画っぽい小説を得意としてきた。『海がきこえる』にも少女漫画っぽい設定(ちょっと頼りない主人公、ツンデレの美少女)やお約束の展開(修学旅行や文化祭といったイベントでの事件)が用意されており、ゆえにストーリー自体には目新しさはないしそれだけを取り上げれば古典的なお話しと言える。
 にもかかわらず、不思議とこの作品にはライトな青春モノにありがちな甘ったるさみたいなものがない。ノスタルジックな風情はあるが、変にべたついた感じ、湿っぽい感じはなく、どこまでもサラッとしている。

 そうさせている理由の一つは、物語の語り手である主人公・拓の語り口調だろう。どこか冷めた目線で淡々と起こった事実を述べていく拓の語りは読者を一歩引かせて、どっぷり感情移入したり感傷的になったりさせない。青春ど真ん中といった感じの物語だから文章まで濃い目だと甘々になり過ぎるきらいがあるが、拓の淡々とした目で語られることによって絶妙なバランスを獲得している。
 さらに、小説の構成の効果も大きいと思う。作品は前半部が主に拓の高校時代、後半部が現在(大学生活)の話になっている。前半は大学生の拓が高校時代を振り返るというつくりになっているわけだが、今の目で昔を見ることによって拓自身が冷静に分析している感じがあって、それがほどよいクールさを醸し出しているのだ。また、昔といっても10年も20年も昔でないのが良い。10年以上昔だと懐かしさが前面に出て思い出に浸るような雰囲気になりそうだが、1、2年前だと懐かしいというほどでもなく、それでいて冷静に振り返ることができるくらいの時間は経っている。その昔過ぎない設定が単に昔を懐かしむだけの作品とは一味違う新鮮味を生んでいるように思う。

 もう一つ、『海がきこえる』の魅力はほぼ全編に渡って土佐弁が登場することだ。青春モノでこれだけ方言満載な小説も珍しいと思うが、これが標準語だとだいぶ印象が変わってくるだろう。
 たとえば、拓と親友の松野が会話を交わすこんな場面。

「おまえら、ふたりでデートしよったとき、ぼくを見かけたがやってにゃ」
「デートじゃないよ」
 松野もとなりの籐椅子に座りながら、心からびっくりしたように笑った。
「たまたま、正月明けの帯屋町で、ばったり会うてよ。どうせダメモトで映画さそったら、すんなりOKで、こっちのほうが驚いたぞ」
「ふーん」
「なに話してえいかわからんし、おたおたしよったら、おまえが『いわさき』の裏のほうで、ポリバケツ洗いゆうが見えたき、もうちょっとで声かけるとこやった」
「なんで、声なんかかけんだよ。ふたりきりで、えいやんか」
「いや、ああいうのはほんと、気後れするで。ふたりよか、3人のほうがまだ助かる」


 これを標準語に変換するならば……。

「おまえら、ふたりでデートしてたとき、ぼくを見かけたんだってな」
「デートじゃないよ」
 松野もとなりの籐椅子に座りながら、心からびっくりしたように笑った。
「たまたま、正月明けの帯屋町で、ばったり会ってさ。どうせダメモトで映画さそったら、すんなりOKで、こっちのほうが驚いたよ」
「ふーん」
「なに話していいかわからないし、おたおたしてたら、おまえが『いわさき』の裏のほうで、ポリバケツ洗ってるのが見えたから、もうちょっとで声かけるとこだった」
「なんで、声なんかかけるんだよ。ふたりきりで、いいじゃないか」
「いや、ああいうのはほんと、気後れするぜ。ふたりよりか、3人のほうがまだ助かる」


 という感じだろうか。実際は標準語でももっとくだけた喋り方をするだろうが、きっちり訳すとしたらこんなふうだと思う。
 こうして見てみると同じ内容でも方言と標準語では全く雰囲気が違う。標準語のほうが何となくスマートというかきれいさはあるが、言葉の温度みたいなものはあまり感じられない。一方、方言は田舎臭さはあるかもしれないが、喋る人間の実在感、生活感、生々しさが感じられる。
 方言という土着的なもので繰り広げられることによって、小説に土の匂いが加わる。登場人物たちが本当に実在しているんじゃないかと思わせられるようなリアリティ、彼らのことを知っているかのような懐かしさ。現実離れ感がしがちな青春ラブストーリーが、方言によって日本の普通の若者たちの日常の物語となっているのである。

 少女漫画チックでありながらキラキラ感はさほどない『海がきこえる』。よくある青春モノとはまた違ったおもしろさを味わえる。青春モノが好きな人はもちろん、そうでない人にもぜひ手に取ってみてほしい良作です。
 ちなみに、続編の『海がきこえるⅡ アイがあるから』もまた良し。アニメ版の『海がきこえる』も原作の雰囲気を忠実に再現していて素晴らしいのでこちらもおすすめ。


:記事内の緑色の部分は氷室冴子著『海がきこえる』(徳間書店、1999年6月)から引用させていただきました。


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by hitsujigusa | 2014-07-19 02:00 | 小説 | Trackback | Comments(2)

すいかの匂い (新潮文庫)



 7月に入り、いよいよ夏めいてきました。ということで、夏に読みたい小説の私的10撰をご紹介したいと思います。(ランキングではありません)


 最初にピックアップするのは夏の小説の大定番であるこちら。


夏の庭―The Friends (新潮文庫)

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

【あらすじ】
 人の死に興味を持った小学6年生の“ぼく”=木山諄は、友だちの河辺、山下とともに町はずれに住む今にも死にそうなおじいさんを観察することにする。観察されていることに気づいたおじいさんに3人は怒られるが、いつしか3人とおじいさんは打ち解け、その交流は日に日に深まっていき――。

 湯本香樹実さんの代表作『夏の庭 The Friends』。3人の少年とおじいさんというかなり世代間のあるふれあいを描いていて、ほんわかと優しい気持ちになれる小説です。
 おもしろいのはやはり、少年たちが“死”を見るためにおじいさんに近づくという動機。“死”というものをよく知らない子どもゆえの怖いもの知らずさですが、ちょっとドキッとする部分ですね。そんな理由でおじいさんの観察を始めたものの、あっという間におじいさんに気づかれて計画はあえなく失敗。しかしそこからおじいさんとの交流が始まり、相当な年の差がある3人とおじいさんが仲良くなっていく姿は微笑ましく、また、3人とおじいさんとの関係性も、疑似的な祖父と孫というよりもまるで友達のような親しさで素敵です。
 そして3人と出会う前は生ける屍のようだったおじいさんも、少年たちと触れ合ううちに生き生きとし始めます。人と人とが出会うことの尊さ、不思議、奇跡がじんじんと伝わってきます。
 “死”の観察を目的におじいさんと知り合った少年たち。当初の想定とは違った意味で“死”を知り、肌身で感じます。“死”と触れることによる少年たちの成長が、眩しく、切なくもある小説です。


 こちらは夏をテーマにした短編集。

すいかの匂い (新潮文庫)

すいかの匂い (新潮文庫)

【収録作】
「すいかの匂い」
「蕗子さん」
「水の輪」
「海辺の町」
「弟」
「あげは蝶」
「焼却炉」
「ジャミパン」
「薔薇のアーチ」
「はるかちゃん」
「影」

 江國香織さんの短編集『すいかの匂い』は、夏の風景を描いた11作品が収録されています。短編の名手といわれる江國さんらしく、ひとつひとつはとても短いのにその中に世界がぎゅうっと凝縮されていて、どこか心のすみっこをくすぐるような作品集となっています。
 11作品の主人公は全員少女。少女たちが経験するのは決して大事件ではない、とりとめもないひと夏の出来事。ですが、そんな何気ない物事を江國さんは淡々とした筆致で、鮮烈に描き出します。体が繋がった結合双生児の兄弟、工場のおばさん、弟とのお葬式ごっこ、新幹線での誘拐、年上の男の子との恋。少女たちが出会う人々、物事は日常なんだけれども微妙に日常から外れたような雰囲気が漂い、読んでいるとふっとあちらの世界に片足を突っ込んでいるような気にさせられます。それと同時に、もしかしたら自分も子どもの頃にこんな経験をしているんじゃないか、この人たちと出会っているんじゃないか、そう思わせる普遍的な何かも感じられるのです。
 収録作はそれぞれの色を持っていますが、共通しているのは常に死の匂いがすること。あからさまな死というのとは違うのですが、そこはかとなく漂う滅びの匂いとでもいうのでしょうか。それが生命みなぎる夏の、若さ溢れる少女たちの物語だからこそ、強烈に浮かび上がって見えます。


 続いても少女たちのひと夏の物語です。

蛇行する川のほとり (集英社文庫)

蛇行する川のほとり (集英社文庫)

【あらすじ】
 高校生の毬子は憧れの美術部の先輩・香澄と芳野に、夏の終わりの演劇祭で使う舞台背景をつくるための合宿に誘われる。合宿が行われるのは“船着場のある家”と呼ばれる香澄の家。蛇行する川のほとりに建つその家はかつてある事件が起こったいわくつきの家だった。毬子は憧れの先輩たちとの夏休みに胸を躍らせるが――。

 恩田陸さんの長編小説『蛇行する川のほとり』。少女たちのひと夏のある出来事を描いた作品で、恋愛・友情など青春小説的な面もありながら、過去の事件を巡るミステリー小説の面もあり、重層的な物語となっています。
 恩田陸さんといえばミステリー、SF、ファンタジー、ホラー、青春ものなど多彩なジャンルを扱う小説家ですが、その中でも少年少女の心の揺らぎ、繊細な機微を描いた青春小説は格別だと個人的には思っています。この『蛇行する川のほとり』もまさに青春小説の王道というべき要素が多分に含まれていて、存分に楽しませてくれます。
 毬子はどちらかというと目立たない大人しい女の子。そんな毬子がなぜか華のあるタイプの香澄、芳野という先輩に誘われ、ふたりとともに夏休みを過ごすことに。という最初からミステリアスな展開を匂わせる導入ですが、合宿の舞台となる“船着場のある家”もまた、ある事件の舞台となった場所。さらに少女たちの輪にふたりの美少年=月彦と暁臣が加わることで、話は複雑に絡み合っていきます。
 美少女と美少年、風情のある古びた洋館、謎めいた事件、夏。登場するモチーフはおなじみのものばかりで、ひとつ間違えばどこにでもあるありきたりの物語になってしまうところですが、そうさせていないのは恩田さんの描写力のなせる業でしょうか。痛々しく息苦しいほどに迫ってくる少女たちの心理描写は“少女である”ということの難しさ・悲哀をひしひしと感じさせますし、夏の終わりに向かっていく物語の進行と少女時代の終わりとが重なり、切ないです。そして、否が応でも雰囲気を盛り上げるのが恩田さんの真骨頂といえる風景描写の巧みさ。知らないはずの風景なのに不思議と懐かしい。そんなノスタルジーを誘います。
 かつて少女だった人でもこの作品のようなロマンティックな経験というのは現実にはありえないでしょうが、作中の少女たちが抱く感情は、色を変え形を変え、少女という存在の底流に流れているもののような気がします。


 一方、こちらは少年たちの夏を描いた作品。

夏を拾いに (双葉文庫)

夏を拾いに (双葉文庫)

【あらすじ】
 平成19年の夏、サラリーマンの文弘は大阪への転勤を言い渡される。息子の由伸は小学5年生ですでに中学受験に向けて塾に通っていて、家族で引っ越しなどできそうもない。単身赴任を考える文弘は夏休みの旅行を由伸に提案するが、ゲームに夢中の息子は素っ気ない。そんな由伸に文弘は、自分の小学5年生の時の思い出を語り――。

 作詞家でもある森浩美さんの長編『夏を拾いに』。父親が息子に自らの少年時代を話して聞かせるという設定で、主に昭和46年の夏が舞台になっています。
 この作品のいちばんの魅力は、やはり昔懐かしい昭和の時代描写。男の子たちが野山を駆け回り、どこかに埋まっているという不発弾を探す。典型的な少年たちの冒険物語ではあるのですが、だからこそ読んでいて安定感があり落ち着いて読めますね。上述した『夏の庭 The Friends』とも似ていますが、『夏を拾いに』の方がよりアクティブで明るい感じ。昭和の子どもたちのエネルギーに満ち満ちています。
 また、昭和の話なだけに読む人の世代によっても感想は変わってくるでしょうね。昭和46年頃を知っている人にとっては懐かしく童心をくすぐる小説。では、その時代を知らない人は楽しめないかというとそんなことはなく、読んでいるとなぜかその時代を知っているような、知らないのにほっとするような懐かしさを覚えるのではないかと思います。本書に限りませんが、昭和を描いた作品というのは昭和を知らない人間にとっても郷愁を誘う何かがあって、それは昭和だからというよりは、現在は失われてしまったもの=懐かしいという誰もが持つ感情なのかなとも感じます。もちろん、昭和ってこんなだったんだ!という新鮮味もあります。


 そして、こちらは京都の夏を描いた作品です。

宵山万華鏡 (集英社文庫)

宵山万華鏡 (集英社文庫)

【収録作】
「宵山姉妹」
「宵山金魚」
「宵山劇場」
「宵山回廊」
「宵山迷宮」
「宵山万華鏡」

 森見登美彦さんの『宵山万華鏡』は京都を舞台にしためくるめく連作ファンタジー。一つ一つの話が独立していて短編集としても読めますし、それぞれがリンクして一つの壮大な物語のようにもなっているので長編同様の楽しみ方もできます。
 全作品を貫くモチーフは宵山。宵山は京都の伝統的な祭り、祇園祭の数ある行事のひとつで、飾り付けた山鉾を見物したり、流れる祇園囃子の中で露店を見て回ったりする行事。特に、提灯が灯されて幻想的な雰囲気になった夜の山鉾の光景が有名です。そんな宵山の中でふと異界に足を踏み入れてしまった人々の不思議な体験が各短編で描かれています。
 なんといってもこの作品の魅力を決定づけているのは“宵山”でしょう。宵山の風景、街並み、風情、祭りに沸き立つ人々のざわめく空気感。そういったものが情緒たっぷり、臨場感たっぷりに描写されていて、宵山特有の雰囲気を追体験できます。と同時に、“宵山”という非日常の時間・場所ならではの妖しげな匂いもありありと伝わってきます。現実と幻想が境目なく混じり合うファンタジックな世界観も、不思議と宵山だったらこんなことがあってもおかしくないなと思えてしまいます。それが美しいまでの妖しさを持つ“宵山”の効果なんだろうなと思いますし、その宵山特有の雰囲気を細部まで見事に描き出した森見さんもさすがですね。
 そんな宵山を巡って現実とは微妙にずれた世界に迷い込んでしまった人々―小学生の姉妹やへっぽこ大学生など―の一日が各短編でそれぞれ描かれ、少しずつそれらが交錯し重なり、ひとつに収斂されていくさまはまさに万華鏡。すれ違う人々の想い、多層的な世界の連なりを、宵山を通して描いた良質なファンタジーです。


 こちらの作品はさまざまな夏の風景を描いた短編集です。

夏の葬列 (集英社文庫)

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【収録作】
「夏の葬列」
「待っている女」
「お守り」
「十三年」
「朝のヨット」
「他人の夏」
「一人ぼっちのプレゼント」
「煙突」
「海岸公園」

 山川方夫さんの短編集『夏の葬列』。表題作を始め、夏を描いた短編集が複数収録されています。
 この作品は以前にも取り上げたことがあるので詳しいことはそちらのリンクをご覧いただきたいと思いますが、収録作品の中で最も注目すべきはやはり、表題作の「夏の葬列」ですね。戦時中、学童疎開で暮らしていた町を久しぶりに訪れた男の数奇な一日を書いています。ほかにも「十三年」「朝のヨット」「他人の夏」が、爽やかでありながら仄かな暗さ漂う独特な夏の光景を描いた作品となっていて、夏の雰囲気を存分に味わうことができる短編集となっています。


 続いての2冊は夏を描いた海外小説です。

スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

【あらすじ】
 主人公ゴードン・ラチャンスは小説家。ある日子どもの頃からの親友が死んだことをきっかけに、ふとキャッスルロックという小さな町に住んでいた12歳の時のことを思い出す。12歳の夏休み、森の奥に子どもの死体があるという噂を聞いたゴードンを始めとした少年たちは、死体探しの旅に出て――。

【収録作】
「スタンド・バイ・ミー」
「マンハッタンの奇譚クラブ」

 スティーブン・キングの名作『スタンド・バイ・ミー』。映画化もされていてあまりにも有名なので、私があえてこの作品の素晴らしさを書くようなこともないと思うのですが、やはり夏の小説の定番中の定番ですので挙げさせていただきました。
 物語の舞台はアメリカの田舎町。やんちゃな少年たちのひと夏の経験を描いています。「スタンド・バイ・ミー」は春夏秋冬を描いた中編作品集『恐怖の四季』のひとつ。ほかに春の「刑務所のリタ・ヘイワース」、夏の「ゴールデンボーイ」、冬の「マンハッタンの奇譚クラブ」があり、「スタンド・バイ・ミー」は秋の物語にあたります。ですが実質的には夏を舞台にしていて、ねっとりとまとわりつくような暑気、滲み出る汗、生ぬるい淀んだ空気など、夏の匂いが生々しく伝わってきます。そうした舞台を背景に繰り広げられる少年たちの冒険も、決して少年だからといって爽やかなものなどではなく、うんざりするような夏の雰囲気とも相まってさらに薄気味悪さを盛り上げていますね。


夏への扉[新訳版]

夏への扉[新訳版]

【あらすじ】
 1970年、ロサンゼルス。発明家のダンは親友のマイルズと会社を興し成功。秘書のベルとも良い関係で何もかもがうまくいっていた。ところが会社の経営を巡ってダンはマイルズと対立。マイルズを裏で操るベルの画策もあって会社を追い出されショックを受けたダンは、コールド・スリープで30年の眠りにつこうとするが――。

 ロバート・A・ハインラインの名作SF『夏への扉』。こちらも以前当ブログで取り上げていますので、簡潔に書いていきます。
 『夏への扉』はSFではありますが、SFらしからぬあっけらかんとした明るさとか抒情性があるのが特徴的です。また、友情や恋愛、猫愛など、人間関係(もしくは人間と動物関係)のあれこれがメインなので難しくなくさらっと読めますね。夏の雰囲気を前面に押し出した作品とは言えませんが、タイトルとなっている“夏への扉”の意味が深く、読み応えのある物語となっています。


 再び日本の小説に戻って、次は終戦直前の夏を描いた作品。

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

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【あらすじ】
 終戦直前、暗号兵である”私”こと村上は鹿児島の坊津から桜島への赴任を言い渡される。米軍上陸に備えて緊張感の高まる桜島で、“私”は敗戦と死を覚悟していて――。

 梅崎春生のデビュー作「桜島」。梅崎自身、徴兵されて暗号兵として鹿児島に赴任していたという過去があり、この「桜島」にはそんな彼の経験が反映されているものと思われます。
 戦争文学、その中でも終戦直前の夏を舞台にした小説は多くありますが、この作品も戦時下の緊迫した雰囲気をひしひしと伝える内容となっています。終戦前夜(もちろん登場人物たちはもうすぐ終戦するなどと思ってもみないわけですが)の桜島の独特の空気感―どこか退廃的な香り、死の気配―が臨場感を伴って描かれます。もちろん戦時下の兵士たちの話なのでピリピリした感じや気迫みたいなものも感じられるのですが、空襲や米軍と相対するといった場面はほぼなく、桜島の中でやがてやって来る危機に備えて淡々と日常が過ぎていくさまは、ある意味穏やかでのんびりしているとさえ言えます。
 しかしそれはあくまで外的状況であって、主人公の心理状態は迫り来る死の影を前にこれ以上ないというほど追い詰められていきます。その合間に挟まれる桜島の自然描写が主人公の心情描写と相まって印象に残ります。終戦という特別な夏の雰囲気を知ることができる名作です。


 最後は夏を描いたファンタジー児童文学です。

時計坂の家

時計坂の家

【あらすじ】
 夏休み、フー子はいとこのマリカから手紙で誘われ、母の故郷で今も祖父が住む港町・汀舘を訪れる。祖父の家は煉瓦造りの時計塔がそびえていることからそう呼ばれる時計坂にあった。独特な雰囲気を持つ祖父とお手伝いさんのリサさんに戸惑う中、ある日フー子は階段の踊り場の変な位置に設置された窓に目を止める。外には普通の風景が広がる何の変哲もない窓。しかし、フー子が再び目をやると窓の外には緑あふれる庭が出現していた――。

 高楼方子さんの『時計坂の家』。函館を思わせる異国情緒漂う町を舞台に、少女が不思議な経験を通して光も闇も知っていく成長譚です。この作品もすでに当ブログで記事にしましたので、詳しくはリンクをご参考下さればと思います。



 夏に読みたい小説・私的10撰、いかがでしたでしょうか。けっこう定番ものが多いのであんまり新鮮味がないかなと自分でも思うのですが、今の時点ではこれが私のベスト10ですね。少しでも小説選びの手助けになれば幸いです。


:山川方夫『夏の葬列』の書影は集英社の公式ウェブサイトから、梅崎春生『桜島・日の果て・幻化』の書影は講談社の書籍情報ウェブサイト「講談社BOOK倶楽部」から引用させていただきました。


【ブログ内関連記事】
山川方夫『夏の葬列』―非日本的な夏の風景 2013年8月14日
冒険を描いた小説・私的10撰 2015年8月29日  スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』を記事内で取り上げています。
SF小説・私的10撰 2013年10月6日  ロバート・A・ハインライン『夏への扉』を記事内で取り上げています。
高楼方子『時計坂の家』―“場”のファンタジー 2013年8月30日
森見登美彦『宵山万華鏡』―宵山の誘惑 2016年7月14日
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by hitsujigusa | 2014-07-08 00:20 | 小説 | Trackback | Comments(0)