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 世界国別対抗戦2015、最後の記事は女子フリー&ペアフリーです。この大会の出場国、システム等については、こちらの記事をご参考下さい。

ISU World Team Trophy 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 女子フリーで1位になったのはロシアのエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手です。

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 冒頭はショートでは転倒に終わった大技3アクセル、これを文句なしのパーフェクトに決め最高のスタートを切ります。続く3ルッツからの3連続ジャンプは最後のジャンプが1回転になりますが、次の3フリップはしっかり成功させます。後半に入り最初の3トゥループ+3トゥループもクリーンに着氷し1.4点の高い加点を得ますが、直後の3ループは珍しくすっぽ抜けて1回転に。しかし、その後はミスらしいミスなくエレメンツをこなし、演技を終えたトゥクタミシェワ選手は納得したように頷きました。得点は134.21点と世界選手権より高い得点をマークしました。
 世界選手権ではSPのみの挑戦だった3アクセルですが、今大会はフリーでも挑み、見事に完璧に成功させましたね。たぶん本来ならフリーで3アクセルを跳ぶ予定はなかったのでしょうが、ショートで失敗したことによってフリーでもう一度やろうということになったのだろうと思います。直前の6分間練習では必ずしもきれいには決まっていませんでしたが、本番ではお手本のような3アクセルで、GOEでは多くのジャッジがプラス2、一人のジャッジがプラス3を付けるほどの素晴らしい出来でした。
 来シーズン、トゥクタミシェワ選手がどのような形でプログラムに3アクセルを取り入れていくのか、そして世界女王として君臨し続けるのか、楽しみです。


 2位は同じくロシアのエレーナ・ラディオノワ選手です。

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 まず得点源の3ルッツ+3トゥループをクリーンに降りて1.2点の高い加点を得ると、続く3フリップは踏み切りのエッジが不正確と判定され若干減点されたものの確実に着氷。続く単独の3ルッツも問題なく成功させます。後半は疲れからかスピードが落ち、着氷が乱れるジャンプやスピンでバランスを崩す箇所もありましたが、大技の3+1+3の3連続ジャンプを決めるなど、演技を丁寧にまとめました。得点は129.73点と130点に迫るハイスコアをマークしました。
 比較的スタミナのあるタイプのラディオノワ選手ですが、さすがに今回は疲労困憊の様子が演技にも表れてしまいましたね。来季に向けてということを考えると、オールラウンダーでどのエレメンツもそつなくこなすラディオノワ選手ですが、フリーの終盤のジャンプでは勢いが途絶えて加点があまり伸びない場面がよく見られるので、そのあたりが改善されるとさらに得点が伸びていくのではないかと思います。また、成長期による身体の変化にラディオノワ選手がどう対応して乗り越えていくのかという点も個人的には注目ですね。


 3位は日本の宮原知子選手です。

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 世界選手権同様、3+3は外し、演技後半に基礎点の高い連続ジャンプを2本組み込む構成で臨んだ宮原選手。冒頭の3+2+2の3連続ジャンプはノーミスできれいに着氷しましたが、流れが詰まり気味になったためかわずかに減点されます。続く3フリップも回転不足でマイナスとなりますが、次の3ループは確実に成功させ加点を稼ぎます。後半に入って最初の3ルッツは世界選手権でステップアウトしたジャンプでしたが、今回はきっちり回り切って着氷。そして、続く2アクセル+3トゥループ、3サルコウを成功させると、演技最終盤の2アクセル+3トゥループもパーフェクトに決め、ほぼノーミスとなる会心の演技を披露しました。得点は129.12点で世界選手権でマークした自己ベストを更新しました。
 ほかの選手たちがシーズン最後の試合で疲労を色濃くうかがわせる中、疲れの影響をほとんど感じさせない素晴らしい演技でしたね。体格的には人一倍華奢な宮原選手ですが、見た目の印象に相反して体力は相当あって、フリーのフィニッシュ後でも肩で息をするような姿は全く見られません。これという大きな武器こそ持たない宮原選手ですが、苦手なものがない万能ぶりとどんな時も平均以上の演技ができるタフさが何より武器になっているんだなと改めて感じました。
 世界選手権メダリストとして迎える来シーズン、今までに経験したことのない立場で臨むことになるでしょうが、マイペースで宮原選手らしく頑張ってほしいと思います。


 4位はアメリカのアシュリー・ワグナー選手。

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 冒頭はまず得意の2アクセルから入り、これをクリーンに決めて良い流れを作ります。続いて得点源の3ルッツ+3トゥループでしたが、2つ目のジャンプが回転不足となって大幅な減点を受けます。その後も、3+1+3での回転不足や3ルッツでのステップアウトなど細かいミスはあったものの、演技全体のスムーズな流れを途切れさせることなく、ワグナー選手らしいダイナミックかつ勢いのある滑りを最後まで貫きました。得点は126.96点となりました。
 惜しくもSPに続いての3+3成功とはなりませんでしたが、プログラムのそこここにワグナー選手にしか出せない味わいが織り込まれていて、魅せてくれる演技だったと思います。歌詞入りプログラムが解禁された今シーズンは多くの選手が積極的にそれを用いたわけですが、ほとんどの選手はあくまでプログラムの一部にという使い方が目立ったのに対し、ワグナー選手はこのフリーで全面的にボーカルの入ったプログラムを選びました。最初は見ていて違和感があったのですが、ワグナー選手自身が滑り慣れてきたこともそうですし、見ているこちらが見慣れてきたこともあると思いますが、ボーカルの力強さとワグナー選手のスケートのパワフルさがシーズン後半にはしっかり融合したんじゃないかなと感じますね。
 10代の選手たちが席巻する女子フィギュア界ですが、来季も20代のワグナー選手にはぜひベテランならではの表現や世界観で存在感を示してほしいなと思います。


 5位は同じくアメリカのグレイシー・ゴールド選手。

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 冒頭はショートで完璧に決めた3ルッツ+3トゥループでしたが、ファーストジャンプで転倒してしまいコンビネーションジャンプにはなりません。しかし、続く2アクセル+3トゥループ、3ループと立て続けにクリーンに決め、すぐに挽回します。ですが中盤になると、得意のフライングキャメルスピンでバランスを崩したり、3フリップと3ルッツでステップアウトしたりとミスが相次ぎます。終盤は再び立て直しましたが、複数のミスが響き、得点は124.29点と伸び切りませんでした。
 ショートのパーソナルベストから一転、精彩を欠いた演技内容となりましたね。やはり疲労というのもあるのでしょうが、ショートが素晴らしかっただけに惜しいなという感じがします。ゴールド選手はトータルの自己ベストでもすでに200点超えを達成していますし、ロシア勢を凌駕するほどの実力や総合力を十分持っていると思うのですが、にもかかわらずショートとフリーがなかなか揃わないがために、あと少しのところで世界のメダリストの仲間入りを取り逃がしているような印象で、もったいないなと思ってしまいます。そういう意味で、まだ本当の開花、開眼はしていないような気がします。来季はゴールド選手にとって大ブレイクの年となるのか、注目したいと思います。


 6位は日本の村上佳菜子選手です。

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 冒頭はまず3ループから、確実に降りましたがアンダーローテーション(軽度の回転不足)と判定されます。しかし、続く2アクセル+3トゥループはクリーンに成功させ、1.3点の高い加点を得ます。さらに3フリップ+2トゥループもしっかり着氷し、前半は好調な滑り出しとなりました。ですが、後半に入り最初の3ループが2ループになると、得意のレイバックスピンでバランスを崩し、3フリップが1回転にとミスが続きます。終盤は巻き返しましたが、フィニッシュした村上選手は悔しそうに顔を歪めました。得点は113.32点となりました。
 前半は目立ったミスもなく良い内容で、これまでなかなか決まらなかった2アクセル+3トゥループもきれいに入って今度こそこのままいけるかなと思ったのですが、後半の失敗したジャンプは変な力みが入ってしまったのかなという感じでしたね。
 今シーズンは村上選手にとってシニアに上がってから一番苦しいシーズンだったかもしれませんが、その中でもシーズン最後に調子を上げてきたことは誇っていいことだと思いますし、自信に繋げてほしいですね。SPとフリー、両方で一つの「オペラ座の怪人」が完成しなかったのは残念ですが、今季の試みや苦労が来季に向けて良い肥料となることを願っています。



 さて、女子フリーは以下のような結果、ポイント獲得となりました。


《女子フリー》

1位:エリザヴェータ・トゥクタミシェワ(ロシア)、12ポイント
2位:エレーナ・ラディオノワ(ロシア)、11ポイント
3位:宮原知子(日本)、10ポイント
4位:アシュリー・ワグナー(アメリカ)、9ポイント
5位:グレイシー・ゴールド(アメリカ)、8ポイント
6位:村上佳菜子(日本)、7ポイント
7位:李子君(中国)、6ポイント
8位:ガブリエル・デールマン(カナダ)、5ポイント
9位:ローリン・レカヴェリエ(フランス)、4ポイント
10位:マエ=ベレニス・メイテ(フランス)、3ポイント
11位:アレーヌ・シャルトラン(カナダ)、2ポイント
12位:趙子荃(中国)、1ポイント




 ここからはペアフリーです。
 フリーで1位となったのは現世界王者、カナダのメ―ガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組。演技前半はソロジャンプの3ルッツや大技のスロー4サルコウでの転倒といったミスがチラホラありましたが、それ以降は高難度の技を着実にクリアし、世界チャンピオンらしい風格のある演技を披露し、140.70点のハイスコアをマークしました。
 2位は中国の隋文静(スイ・ウェンジン)、韓聰(ハン・ツォン)組。中盤のペアコンビネーションスピンがレベル2になったのと3サルコウが2回転になった以外はミスらしいミスのない安定した演技を見せ、デュアメル&ラドフォード組に0.97点差という僅差で2位になりました。
 3位はアメリカのアレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組。演技冒頭で大技の4ツイストをパーフェクトに決めると、続く3サルコウも成功。2アクセル+2アクセルのシークエンスジャンプ、スロー3ループでミスは出てしまいましたが、後半はほぼノーミスに演技をまとめ、これまでの自己ベストを3点以上上回るスコアをマークしました。
 4位はロシアの川口悠子、アレクサンドル・スミルノフ組。冒頭はサイドバイサイドの3トゥループからでしたが、川口選手が回転不足で転倒してしまいます。しかし、次の2アクセル+2アクセルのシークエンスジャンプをクリーンに降りると、続くスロー4サルコウは不完全ながらもしっかり着氷します。その後もレベルの取りこぼしやスロージャンプでのミスはあったものの、最後までプログラムの世界観を表現し、演じ切りました。
 5位はフランスのヴァネッサ・ジェームズ、モルガン・シプレ組。スピンやリフトでは安定してエレメンツをこなしたものの、ソロジャンプやスロージャンプでは何かしらミスが生じてしまい、パーソナルベストからは遠い得点に留まりました。
 6位は日本の古賀亜美、フランシス・ブードロー=オデ組です。

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 ジャンプ系のエレメンツではパンクや着氷の乱れなど細かいミスはありましたが、それ以外では確実にレベルを獲得し、大きな取りこぼしなく演技を終えました。得点は88.42点で自己ベストまであと0.11点とわずかに及びませんでしたが、ショートとの合計ではパーソナルベストを更新しました。
 これがシニアデビューとなった古賀&ブードロー=オデ組ですが、ミスがある中でも二人の持ち味をしっかり生かした演技ができていたのではないかと思います。もちろんシニアのペアと比べるとまだまだ差はあるのですが、今後に期待が持てるペアだなと感じました。来シーズンから本格的にシニアに参戦する予定とのことですが、まだ結成2年目のペアですし、二人の調和やコンビネーションもこれから時間をかけていけばさらに洗練されていくでしょうから、ゆっくり前進していってほしいですね。



《ペアフリー》

1位:メーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組(カナダ)、12ポイント
2位:隋文静、韓聰組(中国)、11ポイント
3位:アレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組(アメリカ)、10ポイント
4位:川口悠子、アレクサンドル・スミルノフ組(ロシア)、9ポイント
5位:ヴァネッサ・ジェームズ、モルガン・シプレ組(フランス)、8ポイント
6位:古賀亜美、フランシス・ブードロー=オデ組(日本)、7ポイント




 さてさて、これで世界国別対抗戦2015、全ての種目の競技が終了しました。女子、男子、ペア、アイスダンスそれぞれのショートとフリーで各国が獲得したポイントを合計した総合結果はこのようになりました。


《総合結果》

1位:アメリカ、110ポイント
2位:ロシア、109ポイント
3位:日本、103ポイント
4位:カナダ、82ポイント
5位:中国、77ポイント
6位:フランス、59ポイント




 優勝したのはアメリカチームです。

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 わずか1ポイント差での3度目の優勝、そして2連覇となりました。男女シングル、ペア、アイスダンス、どの種目においても誰かが必ず10ポイント以上を獲得するという層の厚さ、フィギュア大国の底力を見せつけましたね。いちばん優勝に貢献した種目というと、やはり女子ということになるのでしょうが、男子のブラウン選手がショートで3位、フリーで2位となったのはとても大きかったと思いますね。また、ペアのシメカ&クニーリム組がフリーでロシアの川口&スミルノフ組をギリギリの点差でかわして3位に入ったのも、この優勝という結果に大きく結びついたのではないでしょうか。


 1点差で惜しくも2位に甘んじたのは、ソチ五輪の団体戦で優勝したロシアチームです。

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 ロシアも女子でだいぶポイントを稼ぎまくりましたが、男子とペアが少し誤算だったかなという感じですね。男子はコフトゥン選手が8位&6位、ボロノフ選手が5位&5位という結果で、フリーはともかくSPでもう少し上位に食い込めたんじゃないかなと思います。また、ペアの川口&スミルノフ組も本来の力を発揮できれば1、2位に入ることは十分可能だったでしょうから、本当に紙一重の銀メダルでしたね。


 銅メダルを獲得したのは日本チームです。

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 日本は何といってもショートとフリー両方で1位となったエースの羽生選手の活躍が大きいですが、世界選手権では不本意な演技と結果に終わった無良選手も4位&3位としっかりポイントを稼いで、チームキャプテンとしての役割を十二分に果たしてくれましたね。そして、女子では宮原選手がSPこそ6位と後れを取ったものの、フリーはロシア勢二人に続く3位と世界選手権銀メダリストの実力どおりの演技をし、チームに貢献しました。余談ですが、普段はシャイで大人しい宮原選手が、チームの応援ブースやキス&クライで他の日本選手と一緒になって小さな身体を目いっぱい動かして応援したり、フリーの演技後に日本チームの選手たちに向かってガッツポーズをしたりと、いつになく張り切ってチームを盛り上げよう、貢献しようとする姿が微笑ましく、改めてチーム戦っていいなと感慨深くなりました。



 ということで、今年の世界国別対抗戦はアメリカが制し、ロシア、日本と実力のある国々が順当にメダルを獲得しました。
 そして、14/15シーズンも今大会をもって実質的に終了。当ブログの今季のフィギュア記事もこれで最後となりますが、衣装関連の方ではオフシーズン中に記事をアップしていきますので、よろしければそちらもご覧下さい。では。


:記事冒頭のメダリスト3チームの写真、ワグナー選手の写真、ゴールド選手の写真、村上選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、トゥクタミシェワ選手の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、ラディオノワ選手の写真は、フィギュアスケート情報ウェブサイト「Absolute Skataing」から、宮原選手の写真、古賀&ブードロー=オデ組の写真、日本チームの写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年4月16日に配信した記事「写真特集:2015フィギュア世界国別対抗戦 羽生エースの決意」から、アメリカチームの写真、ロシアチームの写真は、フィギュアスケート情報誌「International Figure Skating」の公式フェイスブックページから引用させていただきました。

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世界国別対抗戦2015―アメリカ、僅差で2連覇(女子SP&アイスダンスSD) 2015年4月20日
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世界国別対抗戦2015―アメリカ、僅差で2連覇(男子フリー&アイスダンスフリー) 2015年4月23日
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by hitsujigusa | 2015-04-25 20:52 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)2015、男子フリーとアイスダンスフリーの記事です。女子SPとアイスダンスSDはこちら、男子SPとペアSPはこちらをご覧下さい。

ISU World Team Trophy 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 男子フリーで1位になったのは日本の羽生結弦選手です。

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 冒頭、今季はGPファイナルで1度成功させたのみの大技4サルコウ、これを完璧に回り切って着氷し、2.57点の高い加点を得ます。続いて得点源の4トゥループでしたが、3回転となってしまいます。しかし、次の3フリップを決めると、後半の2つの3アクセルからの連続ジャンプ含め、全てのジャンプをただ成功させるだけではなくクリーンに着氷。スピン、ステップシークエンスも全てレベル4を揃え、一つミスがあったとはいえ、圧巻の演技で今シーズンを締めくくりました。得点はパーソナルベストをマークする192.31点、大差で1位となりました。
 1発目の4サルコウがパーフェクトに決まって、出だしから神演技を予感させましたが、より成功率の高い4トゥループが思いがけずパンクとなるミスがあり、完全無欠のフリーとはなりませんでした。ですが、そんなミスさえ些細なことに思えるくらい、その後が素晴らしかったですね。後半の3アクセル+3トゥループの予定のところを3アクセル+2トゥループに変えて、トリプルジャンプの跳び過ぎ違反を防ぐ機転を利かせる場面もあり、普段あまりない形のミスがありながらも終始自分をコントロールしていましたね。
 これで羽生選手の波乱万丈な14/15シーズンは幕を閉じますが、羽生選手は来季に向けてさっそく、当初今シーズン滑るはずだったフリー4回転3本に意欲をのぞかせていて、今季の苦い経験さえも糧にしてさらに進化するんだろうなと感じさせます。個人的には技術面はもちろんなのですが、表現面でも羽生選手にしかできない、羽生選手ならではの独創性がより濃く表れたプログラムを期待したいですね。なにはともあれ、大変なシーズン、お疲れさまでした。


 2位はアメリカのジェイソン・ブラウン選手です。

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 まずは得点源となる3アクセル+2トゥループの連続ジャンプをしっかり決めてスタートを切ると、2本目の3アクセルも着氷。そして後半は怒濤のジャンプ6連続。最初の3ループは着氷が若干こらえ気味になりますが、続く3ルッツ、3フリップ+3トゥループ、3ルッツ+1ループ+3サルコウと次々クリーンに着氷。終盤の2つの2アクセルも難なく降り、ステップシークエンス、スピンも全てレベル4と安定感抜群。最後まで勢いを衰えさせることなく、フィニッシュしました。得点は176.69点となり、2月の四大陸選手権でマークした自己ベストを9点以上更新、チームに大いに貢献しました。
 最終グループの4番手として登場したブラウン選手。その直前には無良選手が素晴らしい演技で会場を盛り上げていて、そうした空気の中で滑ることとなったわけですが、ブラウン選手の演技によってまた一気に空気が変わりましたね。悲恋の物語である「トリスタンとイゾルデ」を隅々までエモーショナルに演じていて、指先からも感情が伝わってくるような感じがしました。4回転こそないブラウン選手ですが、ジャンプ構成を確実性の高いものにしてプログラムの完成度を追求することで演技構成点を高めていて、今回は5項目中2項目で9点台をマークしました。ショートとフリーで全く違った顔を見せてくれるブラウン選手が来シーズンはどんなプログラムを用意してくれるのか、今から楽しみですね。


 3位は日本の無良崇人選手です。

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 冒頭は4トゥループからのコンビネーションジャンプでしたが、4回転がアンダーローテーション(軽度の回転不足)で両足着氷となり単独ジャンプに。しかし、続く2本目の4トゥループに2トゥループを付け、しっかり連続ジャンプにします。そして直後の3アクセルは無良選手らしい高さ抜群の跳躍で加点2の高評価。後半に入り、いくつか細かいミスはありましたが、3アクセル+3トゥループをパーフェクトに決めて2.29点の加点を得るなど十分に本領発揮し、演技を終えた無良選手は嬉しそうに破顔しました。得点は165.40点で自身今シーズン2番目のハイスコアをマークしました。
 GP初戦でパーソナルベストをマークした後はしばらく長いトンネルに入ってしまっていた無良選手ですが、シーズン最後の試合でようやくトンネルを抜け出したかなという演技でしたね。何より世界選手権では苦しんだ3アクセルがきれいに決まったのが大きかったと思いますし、それによって演技が進むにつれてどんどん自信が無良選手の身体からほとばしっていくような感じがしました。今シーズンの苦難、そして今大会でのリベンジが来季に良い形で繋がることを願っています。


 4位は中国の閻涵(ヤン・ハン)選手です。

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 冒頭は得意の3アクセルからの2連続3回転、ファーストジャンプはミスなく着氷しましたが、微妙に勢いが途切れたためかセカンドジャンプは2回転に抑えます。続いて4トゥループ+2トゥループの難しいコンビネーションジャンプは、2つ目を急遽3トゥループに変えて跳んだものの回転不足でマイナスとなります。さらに予定のジャンプ構成では3アクセルのところを4トゥループに変更して攻めの姿勢を見せましたが、こちらは転倒となります。後半も3アクセルで大幅な減点を受ける場面はありましたが、その後は大崩れすることなく演技を手堅くまとめました。得点は163.14点でこちらもシーズンで2番目に高い得点を獲得しました。
 閻選手はこれまでフリーでは4回転は1本にとどめていましたが、今回思い切って2本挑戦してきましたね。残念ながらその試みは成功しませんでしたが、ショート、フリー合わせて4回転3本が当たり前の時代ですから、来季に向けても意義ある挑戦だと思います。閻選手も今シーズンは開幕早々大きなアクシデントがあって当初の予定を変更せざるを得なかったでしょうが、来シーズンはまた新たなチャレンジやさらなる進化を楽しみにしたいですね。


 5位はロシアのセルゲイ・ボロノフ選手。

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 まずはSPではすっぽ抜けてしまった4トゥループから、こらえ気味ながらもなんとか成功させます。続く3アクセル+2トゥループ、3ルッツ+2トゥループ、単独の3ルッツと、前半のジャンプを全てクリーンに降り、ほぼノーミスの出だし。後半も3連続ジャンプのセカンドジャンプが1回転になった以外は目立ったミスなく確実にエレメンツをこなし、基礎点と加点を積み重ねました。得点は161.92点とシーズンベストをマークしました。
 世界選手権では膝に痛み止めを打ちながらの出場で13位に終わったボロノフ選手ですが、今大会はだいぶ回復したようでいつものボロノフ選手らしい演技を見せてくれましたね。ボロノフ選手の今季を振り返ると、ほとんどの大会でパーソナルベストからさほど遠くない得点をマークしていて、“神演技”というのはあまりなかったかもしれませんが、常にコンスタントに自分の実力どおりの演技をするという点が印象に残りました。実際に団体戦の今大会を除いても8試合中6試合で表彰台に立っているわけで、選手としては高年齢の27歳にして全盛期を迎えています。来季は同じロシアのエフゲニー・プルシェンコ選手が競技復帰する予定と表明していて、ロシア男子は今シーズン以上に激しい争いになるかもしれませんが、頑張ってほしいなと思います。


 6位は同じくロシアのマキシム・コフトゥン選手。

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 冒頭は大技の4サルコウ、これをパーフェクトに決めて加点2を得ます。続く4トゥループはパンクして2回転となったものの、次の4サルコウ+3トゥループの高難度の連続ジャンプをきれいに成功させ、前半はまずまずの内容。後半は3アクセルからの3連続ジャンプや3サルコウで乱れる部分がありつつも、大きな取りこぼしなく演技をまとめ、得点は158.91点をマークしました。
 ショートは4サルコウと3アクセル両方で大きなミスがあり8位に留まったコフトゥン選手ですが、フリーは4回転を2本クリーンに決め、存在感を示しました。特に4サルコウからの3トゥループというコンビネーションジャンプは、他の4サルコウの使い手でもあまり見ないハイレベルな組み合わせですから、来季に繋がる成功だったのではないかと思いますね。その一方でいまひとつ殻を破り切れていないような印象もコフトゥン選手からは受けます。確かに安定した成績を残していますし、大崩れしない強さもあるのですが、爆発的な演技みたいなものがあれば、若手の中でも図抜けた存在になれるのかなという気もしますね。とはいえまだ19歳、来季でようやく20歳で伸びしろはたくさんあるでしょうから、今後の成長をまた楽しみにしたいと思います。



 男子のフリーの結果とそれぞれの獲得ポイントをまとめますと、以下のようになります。


《男子フリー》

1位:羽生結弦(日本)、12ポイント
2位:ジェイソン・ブラウン(アメリカ)、11ポイント
3位:無良崇人(日本)、10ポイント
4位:閻涵(中国)、9ポイント
5位:セルゲイ・ボロノフ(ロシア)、8ポイント
6位:マキシム・コフトゥン(ロシア)、7ポイント
7位:ナム・グエン(カナダ)、6ポイント
8位:マックス・アーロン(アメリカ)、5ポイント
9位:ジェレミー・テン(カナダ)、4ポイント
10位:宋楠(中国)、3ポイント
11位:フローラン・アモディオ(フランス)、2ポイント
12位:ロマン・ポンサール(フランス)、1ポイント




 続いて、アイスダンスフリーについてです。
 1位になったのはフランスのガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組。2つのステップシークエンスがレベル3だった以外は全てレベル4を揃え、技術点、演技構成点ともにトップで1位となりました。ショートこそ3位でしたが、フリーはさすがに世界チャンピオンの実力を発揮しましたね。
 2位は世界選手権銅メダリスト、カナダのケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組。こちらもステップシークエンス以外のエレメンツは全てレベル4というハイレベル、ハイクオリティーな演技を披露し、パーソナルベストまで0.01点と迫る高得点をマークしました。
 3位は世界選手権銀メダリスト、アメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組。こちらも大きな取りこぼしなく安定した演技を披露しましたが、後半のステップシークエンスの途中で男性のベイツ選手が珍しく転倒する場面があり、得点を伸ばし切ることはできませんでした。
 4位はロシアのエレーナ・イリニフ、ルスラン・ジガンシン組。前半のステップシークエンスがレベル2となり、レベル3、4を取ることはできませんでしたが、そのほかではおおむね安定してエレメンツをこなし、パーソナルベストに近いスコアを獲得しました。
 5位は中国の王詩玥(ワン・シーユエ)、柳鑫宇(リュー・シンユー)組。多くのエレメンツでレベル3もしくは4を揃えるまとまった演技を見せ、SDに続き自己ベストを更新しました。
 6位は日本のキャシー・リード、クリス・リード組です。

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 序盤のリフト、ステップシークエンスでは確実にレベルを取り、上々の滑り出しを見せましたが、中盤のツイズルで2人の動きがずれたり、ステップシークエンスでキャシー選手が転倒したりするミスもあり、完璧な演技とはなりませんでした。しかし、その後も気持ちのこもった滑りで丁寧にエレメンツをクリアし、演技を終えたキャシー選手は感極まったように大粒の涙を流しました。
 世界選手権ではフリーに進出することができず、久しぶりのお披露目となったフリープログラムでしたが、ミスはあったものの二人の醸し出す雰囲気やピッタリ合わさったユニゾンを存分に堪能することができました。
 そして、ご存知の方も多いと思いますが、エキシビションが行われた19日、姉のキャシー選手が現役引退を発表しました。引退の理由についてキャシー選手は、2月の頃から気持ちに変化が起こり始めたこと、世界選手権の時もその違和感が拭えなかったことを明かしました。今季はシーズン前に弟のクリス選手の膝の手術があり、出場する予定だった試合をキャンセルするのみならず、普段の練習でも100%のトレーニングができない時もあるなど難しいシーズンだったと思います。そうした中で、キャシー選手の競技に対する情熱に変化が生まれてしまったのでしょう。正直とても驚きましたし、今季はマリナ・ズエワさんという名コーチの下に移って新たなスタートを切ったばかりですから残念な気持ちが強いのですが、それだけいっぱいいっぱいの中で頑張ってきたのだろうと思いますし、競技者として限界までやり切った上での今回の引退の決断なのだと想像します。
 一方、クリス選手は現役を続行し、日本スケート連盟が行う選考会(トライアウト)で新たなパートナーを探すとしています。お姉さんに匹敵するくらいの良いパートナーを見つけるのはそう簡単なことではないでしょうが、幾度の手術とリハビリを経験しながらも諦めることなく壁を乗り越えてきたクリス選手にとって、来シーズンが明るいものになることを心から祈っています。
 キャシー選手とクリス選手の姉弟ならではの素晴らしいユニゾンがもう見られなくなるのは淋しいですが、これからも二人を応援しています。キャシー選手、長い間日本のアイスダンス界を引っ張り続けてくれて、ありがとうございました。



《アイスダンスフリー》

1位:ガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組(フランス)、12ポイント
2位:ケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組(カナダ)、11ポイント
3位:マディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組(アメリカ)、10ポイント
4位:エレーナ・イリニフ、ルスラン・ジガンシン組(ロシア)、9ポイント
5位:王詩玥、柳鑫宇組(中国)、8ポイント
6位:キャシー・リード、クリス・リード組(日本)、7ポイント




 さて、この世界国別対抗戦2015シリーズも次の記事でようやく最後です。そちらの記事アップまでもう少しお待ちください。


:記事冒頭のメダリスト3チームの写真、閻選手の写真、リード&リード組の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、羽生選手の写真、ブラウン選手の写真、無良選手の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、ボロノフ選手の写真、コフトゥン選手の写真は、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから引用させていただきました。

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世界国別対抗戦2015―アメリカ、僅差で2連覇(女子フリー&ペアフリー) 2015年4月25日
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by hitsujigusa | 2015-04-23 16:27 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 前記事に引き続き、世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)2015についてお伝えしていきます。今回は男子ショートプログラムとペアショートプログラム編です。なお、この大会のルール、システムについてはこちらの記事をご覧ください。

ISU World Team Trophy 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 男子SPで1位となったのは日本の羽生結弦選手です。

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 冒頭は大技の4トゥループ、これをパーフェクトに成功させて2.71点の高い加点を得ます。続く2つのスピンは最高難度のレベル4を獲得した上に1点以上の加点。後半に入り最初の3アクセル、こちらも問題なくクリーンに決めます。そして今シーズン苦しんでいる3ルッツからの2連続3回転でしたが、ファーストジャンプの着氷で詰まり、強引に3トゥループを付けたものの回転不足で転倒となります。しかしそこからすぐ立て直し、ステップシークエンス、スピンはレベル4。ショパンの「バラード第1番」を緩急豊かに演じ切りました。得点は96.27点でシーズンベストを更新、1位に立ちました。
 4トゥループ、3アクセルは申し分のない美しいジャンプでしたが、今季鬼門となっている3ルッツがまたもや壁となってしまいましたね。先月の世界選手権では完璧に成功させていて、会場入りしてからもほとんど失敗がなかったということでしたが、羽生選手はミスの原因についてスピードの問題を挙げ、ジャンプを跳ぶ前にターンやクロスが入っているためスピードを上げる機会が3歩しかなく、少ない歩数でトップスピードに持っていく技術がまだないと話しました。すごく論理的な説明でとても分かりやすいのですが、こうした技術的なことを聞くと、ひとえにジャンプを跳ぶといっても素人目には分からないような工夫がさまざま施されていて、ものすごく難しいことをしているんだなと改めて実感しますね。


 2位は中国のエース、閻涵(ヤン・ハン)選手です。

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 まずは代名詞の3アクセル、これをいつもどおりの猛スピードと飛距離で跳び、加点2.29点の高評価となります。続いて大技の4トゥループでしたが、こちらは着氷が乱れて大幅に減点。しかし、後半の3+3は確実に決めて、大きな取りこぼしなく演技を終えました。得点は87.13点で2位となりました。
 羽生選手にとって3ルッツが鬼門なように、閻選手にとっては4トゥループが泣きどころとなっていますね。回転不足というのはほとんどないにもかかわらずミスしてしまうというのは、着氷のタイミングや感覚の問題なのでしょうか。もちろんシーズン初戦のアクシデントの影響もあるでしょうが、これが決まると自己ベスト更新も十分に可能だったと思うので惜しかったですね。


 3位はアメリカチャンピオンのジェイソン・ブラウン選手です。

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 冒頭は得点源となる3アクセル、着氷で若干詰まり気味になりますがミスなくまとめます。続く3フリップ+3トゥループもしっかりクリア。後半の3ルッツも難なく決めました。ステップシークエンス、スピンは全てレベル4を揃え、特に得意のステップシークエンスは独創的なフットワーク、振り付けと抜群のリズム感で会場を盛り上げ、全選手中トップとなる1.7点の加点を獲得しました。得点は86.48点、ソチ五輪でマークした自己ベストを上回りました。
 ブラウン選手らしい、ユーモア溢れる軽快な演技でした。その中でも多彩なつなぎがプログラム全体に散りばめられていて、最初から最後まで目が離せない見どころ満載のプログラムで、この半年間毎回楽しませてもらいましたね。


 4位は日本チームのキャプテン、無良崇人選手。

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 まずは大技の4トゥループ+3トゥループから、4回転の着氷で片手を氷に付きますが、何とか3回転をつけて予定どおりの連続ジャンプにします。続く3アクセルも着氷で乱れたもののかろうじて成功。後半の3ルッツはきれいに降り、ところどころミスはありつつも、大崩れすることなく手堅く演技をまとめました。得点は82.04点となりました。
 世界選手権ではまさかの演技で際どいフリー進出となった無良選手。今大会はそれから3週間ほどしかない短期間での調整となったわけですが、不完全ながらもリベンジできたんじゃないかなと思います。表現的にも縮こまった感じがなく、無良選手らしい豪快さが表れていましたね。


 5位はロシアのベテラン、セルゲイ・ボロノフ選手です。

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 冒頭は今季高い確率で成功させている4トゥループ+3トゥループの連続ジャンプでしたが、ファーストジャンプが3回転となり、3+3となります。後半の3アクセル、3ループは確実に決めましたが、4回転のミスが響き、79.09点とスコアは伸び切らず、5位に留まりました。
 4回転が入らないミスこそありましたが、プログラムの流れとしては途切れることなく世界観を存分に見せてくれましたね。この「死の舞踏」もこれで見納めになると思いますが、ボロノフ選手の雰囲気にハマっていて私はとても好きでした。そもそも「死の舞踏」という曲自体が好きなのでえこひいきが入ってるかもしれませんが、特徴的な振り付けで奇怪な空気感をうまく作り出していて、ロシアのスケーターならではの影を湛えた感じが音楽とピッタリ合わさっていたように思いますね。


 6位はカナダ王者のナム・グエン選手。

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 冒頭の3アクセルは完璧な跳躍とランディングでしっかり加点を稼ぎます。後半に2つのジャンプ要素を組み込み、3ルッツ+3トゥループはルッツのエッジが不正確とされ若干減点を受けますが、3フリップは問題なく成功。ただ、スピンでもマイナスとなる部分があり、得点は77.42点とわずかに自己ベストに及びませんでした。
 演技内容は良かっただけに細かな取りこぼしがもったいなかったですね。パーソナルベストは77.73点でしたから、あと本当にちょっとでした。世界選手権でもすでに証明済みなように、試合の雰囲気に飲まれない度胸だったりメンタルの強さはあるので、さらに隙の無い演技ができるようになってくると、一皮も二皮も剥けて手強い選手になりそうだなと感じます。



 ということで、男子SPの順位とポイントをまとめますと、このようになります。


《男子SP》

1位:羽生結弦(日本)、12ポイント
2位:閻涵(中国)、11ポイント
3位:ジェイソン・ブラウン(アメリカ):10ポイント
4位:無良崇人(日本):9ポイント
5位:セルゲイ・ボロノフ(ロシア):8ポイント
6位:ナム・グエン(カナダ):7ポイント
7位:マックス・アーロン(アメリカ):6ポイント
8位:マキシム・コフトゥン(ロシア):5ポイント
9位:フローラン・アモディオ(フランス):4ポイント
10位:ジェレミー・テン(カナダ):3ポイント
11位:ロマン・ポンサール(フランス):2ポイント
12位:宋楠(中国):1ポイント




 続いてはペアのショートプログラムです。
 1位となったのは世界選手権銀メダリスト、中国の隋文静(スイ・ウェンジン)、韓聰(ハン・ツォン)組。冒頭の3トゥループを2人そろってクリーンに決めると、続くスロー3フリップも完璧な跳躍とランディングで1.8点の高い加点。その後のエレメンツもそつなくこなし、71.20点をマークしました。普段私はペアをじっくり見ることがないのでこのSPを見るのも実は今回が最初で最後なのですが、良い意味でペア大国中国の正統派とは違う魅力があっておもしろいですね。ロカビリーバンドのアップテンポな曲を終始ノリノリで演じていて、見ているこちらも楽しくなりました。
 2位は世界チャンピオンのカナダのメーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組です。全体的にまとまりのある演技を見せましたが、3ルッツが2回転になるミスがあり、68.68点と得点を伸ばすことができませんでした。
 3位はロシアの川口悠子、アレクサンドル・スミルノフ組。序盤のソロジャンプ、ツイストが本来の出来ではなく予定した基礎点を稼げませんでしたが、その後は安定してエレメンツをクリーンにこなしました。
 4位はアメリカのアレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組。ソロジャンプの3サルコウとスロージャンプの3フリップでの小さなミスはありましたが、演技をしっかりまとめ、自己ベストに迫る得点をマークしました。
 5位はフランスのヴァネッサ・ジェームズ、モルガン・シプレ組。序盤のソロジャンプでミスがあった以外に目立ったミスはありませんでしたが、終盤のデススパイラルで減点される場面があり、パーソナルベストからは遠い得点となりました。
 6位は今大会がシニアデビューとなった日本の古賀亜美、フランシス・ブードロー=オデ組です。

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 まず最初のエレメンツの2ツイストをきちんと成功させると、続くスロー3ループもクリーンに降ります。ソロジャンプやスピンで減点される部分はありましたが、決めた技では加点もしっかり得て、自己ベストに迫る46.87点をマークしました。
 シニアの日本代表だった高橋成美、木原龍一組のペア解消によって急遽チャンスが回ってきたわけですが、そうした慣れないシチュエーションの中でも落ち着いて安定した演技ができていたと思います。プログラムも日本を舞台に日本人の女性と西洋人の男性のカップルを描いた作品ですから、二人の醸し出す雰囲気とよくマッチしていて良かったですね。


《ペアSP》

1位:隋文静、韓聰組(中国)、12ポイント
2位:メ―ガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組(カナダ)、11ポイント
3位:川口悠子、アレクサンドル・スミルノフ組(ロシア)、10ポイント
4位:アレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組(アメリカ)、9ポイント
5位:ヴァネッサ・ジェームズ、モルガン・シプレ組(フランス)、8ポイント
6位:古賀亜美、フランシス・ブードロー=オデ組(日本)、7ポイント




 男子SP&ペアSP編はこれで終了です。男子フリー&アイスダンスフリー編に続きます。


:記事冒頭のメダリスト3チームの写真、閻選手の写真、ブラウン選手の写真、無良選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、羽生選手の写真、ボロノフ選手の写真、グエン選手の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、古賀&ブードロー=オデ組の写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年4月16日に配信した記事「写真特集:2015フィギュア世界国別対抗戦 羽生エースの決意」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2015-04-21 01:35 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 14/15シーズンを締めくくる世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)2015が、4月16日から19日にかけて東京にて開催されました。世界国別対抗戦は国別のポイント上位6か国が出場し競う団体戦です。以下にこの大会の出場国やチーム構成、システムなどをざっくりとまとめたいと思います。


◆出場国とチーム構成

ロシア(8517ポイント)、アメリカ(7641ポイント)、日本(6543ポイント)、カナダ(6400ポイント)、フランス(4993ポイント)、中国(4368ポイント)

 各チームは、男女シングル2名ずつ、ペア1組、アイスダンス1組で構成されます。

◆順位決定の方法

 これまでの大会では各種目ショートとフリーの得点を合わせた総合順位によってポイントが付与されていましたが、今大会からはショートごと、フリーごとにポイントが与えられるシステムとなりました。
 ポイントは1位の選手(組)が12ポイント、2位が11ポイントというふうに、順位が一つ下がるごとにポイントも一つ減っていきます。



 こうして行われた世界国別対抗戦2015、優勝したのはアメリカチームです。2位のロシアチームを1点差でかわしての2連覇となりました。ロシアは惜しいところまで迫りましたが、超僅差で頂点には届きませんでした。3位には日本チームが入り、4大会連続で表彰台に立ちました。
 この記事では競技初日の4月16日に実施された女子のショートプログラムとアイスダンスのショートダンスの結果を簡潔にではありますが、お伝えします。その後、男子SP&ペアSP、各種目フリー……という順に続けていきたいと思います。

ISU World Team Trophy 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 まずは女子ショートプログラムです。
 1位となったのはアメリカのグレイシー・ゴールド選手。

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 冒頭の3ルッツ+3トゥループを完璧に決め高い加点を得ると、続く2つのスピンでも1点以上の加点。後半の3ループ、2アクセルも確実に降り、ゴールド選手らしいエレガンスでありながら壮大さも併せ持った表現を出し尽くしました。得点は71.26点でパーソナルベストをマーク、1位となりました。
 SPでは久しぶりのノーミス演技でしたね。ジャンプが安定していたのはもちろんですが、スピンでこれだけ加点を稼げる選手というのはそうそういないので、改めてゴールド選手の総合力の高さを思い知らされた感じがします。世界選手権ではSPで大きく出遅れてしまったわけですが、こうしてエレメンツさえ揃えばロシア勢を凌ぐ力を持っている選手なので、調整やピーキングといった部分が来季に向けての課題になるのでしょうね。


 2位は世界女王、ロシアのエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手です。

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 世界選手権同様、大技3アクセルに挑んだトゥクタミシェワ選手。回転は十分でしたが、体重が後ろに乗りすぎてしまいあえなく転倒となります。しかし、直後の3ルッツはさすがの安定感。後半に組み込んだ3トゥループ+3トゥループも完璧に成功させ、世界チャンピオンとして堂々とした演技を披露しました。得点は70.93点で2位となりました。
 3アクセルは惜しくも転倒でしたが、回転はしているので紙一重の失敗という感じでしたね。トゥクタミシェワ選手は2月に行われたババリアンオープンから3アクセルをプログラムに取り入れていますが、成否は別として、その全てで回転を認定されているんですね。あれだけ難しいジャンプで一度も回転不足を取られていないというのは凄いことですし、完全に3アクセルを自分のものにしているんだなと感じます。


 3位は世界選手権銅メダリスト、ロシアのエレーナ・ラディオノワ選手です。

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 まずは得点源の3ルッツ+3トゥループをきっちり着氷すると、後半の3ループ、2アクセルも難なく成功。ジェニファー・ロペスのボーカルを取り入れた情熱的なフラメンコプログラムを終始キレッキレに演じ切り、自己ベストに迫る68.77点で3位に入りました。
 世界選手権の時は発熱があり、体調が万全ではない中で滑ったラディオノワ選手ですが、今回は本来の躍動感、快活さが戻っていたように感じました。あと、全然関係ないことなんですが、世界選手権の時とは違う髪の結い方をしたり真っ赤な口紅を塗ったりしていて、シーズン序盤と比べてもぐっと大人っぽく見えて、ちょっとドキッとさせられましたね。


 4位はアメリカ女王のアシュリー・ワグナー選手。

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 冒頭は難度の高い3ルッツ+3トゥループ、パーフェクトに回り切って降り加点を得ます。後半に入り、2アクセルは問題なく決めましたが、3フリップは回転不足と着氷の乱れがあり、大きく減点。しかし、最後まで表現力豊かに、エネルギッシュに滑り切り、得点はシーズンベストとなる64.55点をマークしました。
 今シーズン、全米選手権から取り入れている3ルッツ+3トゥループですが、なかなか完璧な跳躍というのはなく、クリーンに決まったのは全米のフリーだけだったんですね。それ以来の久しぶりの成功となりました。10代の選手たちに囲まれての演技でしたが、一味違う表現力、重厚さというのはやはり一際印象に残りましたね。


 5位は日本の村上佳菜子選手です。

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 冒頭の3トゥループ+3トゥループはパーフェクトな跳躍と回転で1.1点の高い加点を獲得。続く3フリップは回転不足でマイナスとなりますが、後半に入れた苦手の2アクセルはしっかり決めます。得意のステップシークエンス、スピンも丁寧にこなして全てレベル4。得点は62.39点となりました。
 回転不足を取られてしまった3フリップは少し慎重な入りだったかなと思いますが、そのほかの部分は思い切りの良さも安定感もあり、シーズン前半から好演を続けているSPならではの“こなれ感”が素晴らしかったですね。
 大会に会場入りしてからは来季の去就について「もう決めている」と話し、現役引退かと憶測を呼びましたが、その後村上選手自身が否定し、現役続行の意思を表明しました。村上選手は「引退」と受け止められたことについて驚きを隠しませんでしたが、正直私も「もう決めている」と聞いた時には、決めていてあえて明言しないということは引退なのかな……と思ってしまいました。ですが、単純に国別対抗戦が終わってから言いたかったということのようですね。とにもかくにも、現役続行を決めてくれてとても嬉しいです。ジャンプの安定に関してはまだまだ課題はあるでしょうが、練習の仕方や工夫によっても変わってくるでしょうし、また、表現面はこれからがさらに熟してくる年齢ですから、楽しみだなと思います。


 6位は世界選手権銀メダリスト、日本の宮原知子選手です。

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 まずは得点源となる3ルッツ+3トゥループからでしたが、ファーストジャンプが回転不足でステップアウトしてしまいコンビネーションジャンプにならず。しかし、後半の3フリップに急遽2トゥループを付けてリカバリーすると、ラストの2アクセルもきれいに成功。終盤のスピンとステップシークエンスでは1点以上の高い加点も得るなど、宮原選手らしい確実性のある演技を見せました。ただ、序盤のジャンプミスが響き、得点は60.52点と伸びませんでした。
 SPで予定どおりのジャンプが跳べないことはほとんど無い宮原選手にしては珍しい明確な形でのミスが出てしまいましたね。身のこなしも微妙にいつもより硬かったかなと感じました。世界選手権のメダリストとなって以来の日本での凱旋試合で、そのプレッシャーがあったかどうかは分かりませんが、演技前には宮原選手の登場を待つ観客の手拍子が起こるなど、今までにない雰囲気ではありましたね。その中でもミスを引きずらない冷静さ、立て直し方はさすがで、初めての国別対抗戦の一種独特な空気に飲まれず演技する姿は、シーズン前半よりずっと泰然として見えて、安心して見ていられました。


 1~6位までの選手は上記のようになりましたが、7位以下の選手も含めますと、以下のようなSPの最終順位、ポイント獲得となりました。


《女子SP》

1位:グレイシー・ゴールド(アメリカ)、12ポイント
2位:エリザヴェータ・トゥクタミシェワ(ロシア)、11ポイント
3位:エレーナ・ラディオノワ(ロシア)、10ポイント
4位:アシュリー・ワグナー(アメリカ)、9ポイント
5位:村上佳菜子(日本)、8ポイント
6位:宮原知子(日本)、7ポイント
7位:李子君(中国)、6ポイント
8位:ガブリエル・デールマン(カナダ)、5ポイント
9位:アレーヌ・シャルトラン(カナダ)、4ポイント
10位:ローリン・レカヴェリエ(フランス)、3ポイント
11位:マエ=ベレニス・メイテ(フランス)、2ポイント
12位:趙子荃(中国)、1ポイント




 ここからはアイスダンスのショートダンスです。
 1位になったのは世界選手権銅メダリスト、カナダのケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組。ツイズル、パーシャルステップシークエンス、ローテーショナルリフトでレベル4、非接触ミッドラインステップシークエンスとパソドブレでレベル3とハイレベルな演技を披露。得点は73.14点で自己ベストをマーク、演技構成点でも全5項目で9点台に乗せました。
 2位は世界選手権銀メダリスト、アメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組。こちらも実力者らしい安定感抜群の演技を見せ、自己ベストに迫る72.17点で2位となりました。
 3位は世界チャンピオンのフランスのガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組。明確なミスはありませんでしたが、レベルの取りこぼしや加点を十分に稼げないエレメンツもあり、3位に留まりました。
 4位はロシアのエレーナ・イリニフ、ルスラン・ジガンシン組。全体的にまとまりのある演技内容ではありましたが、2つのステップシークエンスがともにレベル2となる取りこぼしがあり、自己ベストよりは6点ほど低い63.09点となりました。
 5位は中国の王詩玥(ワン・シーユエ)、柳鑫宇(リュー・シンユー)組。非接触ミッドラインステップシークエンスはレベル2でしたが、そのほかは安定してエレメンツをこなし、パーソナルベストとなる55.32点をマークしました。
 そして、6位は日本のキャシー・リード、クリス・リード組となりました。

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 ツイズルやステップシークエンスでのレベルの取りこぼしや細かいミスはありましたが、パソドブレやローテーショナルリフトではレベル4も獲得するなど本領も垣間見せ、得点はシーズンベストにあともう少しと迫る49.99点をマークしました。


 この結果、アイスダンスSDのポイント獲得は下記のようになりました。


《アイスダンスSD》

1位:ケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組(カナダ)、12ポイント
2位:マディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組(アメリカ)、11ポイント
3位:ガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組(フランス)、10ポイント
4位:エレーナ・イリニフ、ルスラン・ジガンシン組(ロシア)、9ポイント
5位: 王詩玥、柳鑫宇組(中国)、8ポイント
6位:キャシー・リード、クリス・リード組(日本)、7ポイント




 さて、次の記事では男子ショートとペアショートについてまとめたいと思いますので、しばらくお待ちください。


:記事冒頭のメダリスト3チームの写真、ラディオノワ選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、ゴールド選手の写真、村上選手の写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年4月16日に配信した記事「写真特集:2015フィギュア世界国別対抗戦 羽生エースの決意」から、トゥクタミシェワ選手の写真は、AFPBB Newsが2015年4月17日の8:48に配信した記事「羽生が男子SP首位、日本は総合2位発進 フィギュア国別対抗戦」から、ワグナー選手の写真、宮原選手の写真、リード&リード組の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
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by hitsujigusa | 2015-04-20 00:39 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

百日紅 (上) (ちくま文庫)


【あらすじ】
 文化11年、江戸。葛飾北斎、55歳。世に名を馳せる人気絵師でありながら下町の長屋に住み、質素な暮らしを送っている。北斎と同居するのが娘のお栄、23歳。北斎の片腕として、また代筆として父にも劣らぬ才能を発揮する。そんな変わり者親子の周りには、女好きで春画を得意とする居候の池田善次郎、北斎の愛人で女弟子の井上政、対立する一門でありながら北斎を慕う売れっ子若手絵師の歌川国直、北斎に振り回される本問屋の主人ら、個性的な面々が集まる。北斎とお栄、そして二人を巡る人々の毎日はふしぎな出来事やちょっとした事件に満ちていて――。


 江戸という時代を圧倒的な画力と観察力で徹底的にリアルに描いた稀代の漫画家、杉浦日向子さん。1980年に漫画家としてデビュー、1993年に惜しまれつつ漫画家を引退、その後は江戸風俗研究家としてテレビでも活躍しましたが、2005年に下咽頭癌のため46歳の若さで亡くなりました。そんな杉浦さんの没後10年ということもあってか、今年2015年は杉浦さんの残した名作が次々と映像化されます。
 当ブログでも取り上げた『合葬』は秋に実写映画として公開予定、そして『百日紅』はアニメ映画として5月9日に公開されます。ということで、今回は『百日紅』について少し書きたいと思います。

 『百日紅』は1話完結型の長編作品です。「番町の生首」「ほうき」「恋」「木瓜」「龍」「豊国と北斎」「鉄蔵」「女弟子」「鬼」「人斬り」「四万六千日」「矢返し」「再会」「波の女」「春浅し」「火焔」「女罰」「酔」「色情」「離魂病」「愛玩」「綿虫」「美女」「因果娘」「心中屋」「仙女」「稲妻」「野分」「夜長」「山童」の全30話で、映画ではお栄が主人公ですが、漫画では各話ごとにフィーチャーされる人物が変わり(時には北斎ともお栄とも直接関係ない人物がメインになることも)、そうしたエピソードの連なりで一つの作品となっています。

 物語の鍵となるのはやはり北斎ですが、北斎の人生とか仕事をテーマにしているわけではなく(それもあるけど)、あくまで江戸の市井の人々の姿を特徴的なエピソードとともに描いた群像劇です。
 読んでいちばん印象に残ったのは、流れる空気がゆったりしていること。一部の例外を除いて誰も時間に追われていない。北斎やお栄には絵の注文の締め切りがあったりするけれど、にもかかわらずなんだかのんびりしている。仕事をサボってるとか雑にやってるとかではなくて(サボるときもあるけど)、やるときはやるんだけれどもやらないときはやらない、みたいな。ちゃんと自分で自分の時間をコントロールしていて、だから仕事に食われたり潰されたりすることもない。
 もうひとつ、いいなと思うのは風通しの良さ。人も町も風通しが良い。ベストな表現が思いつかないが、開放感、爽快感、大らかさとも言い換えられる。とにかく窮屈さがない。みんなのびのびしている。人と人とのあいだに適度な距離感があって、それはたとえ親子であっても師弟であっても他者の領域に土足でずかずか踏み込まない、ちょうどいい距離の取り方を心得ている。現代では家族間や会社内などで変なかたちの過干渉が流行ってますが(マザコン、モラハラ、パワハラ、セクハラ……)、『百日紅』の人々はそこんところの“好い加減”をしっかり分かっているんですね。お互いの個性を尊重して、なんてつもりは北斎やお栄たちにはさらさらないでしょう。でも、変わり者でも悪者でも温かく受け入れてくれる、かどうかは分からないけど、別にいてもいいよ、と存在を認めてくれるような器の大きさを感じるのです。

 そんな人々によって作られているから、江戸という町自体もどっしり坐って両腕広げている感じがします。ゆえに怪奇の類も生き生きと幅を利かせます。
 『百日紅』にはいくつか狐狸妖怪や非現実的な現象が登場するエピソードがありますが、その一つが第2話の「ほうき」です。

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 「ほうき」は亡くなった知人の死に顔の写生を引き受けた北斎が絵を描いていると、死人に魔が差して突然動きだす“走屍(そうし)”に出くわすという話。もちろんこんなことは頻繁に起こることではないので北斎も驚くが、吃驚仰天してあたふたしたりはせず、とりあえず絵を描き続ける。こんなふうに普通ありえないことが起こっても否定したり騒いだりするのではなく、走屍だからと肯定してしまうのが良いですね。これ以外にも北斎たちは摩訶不思議な出来事にたびたび出会いますが、どんな時もそういうもんだといわんばかりに泰然と受け容れます。そういった人知を超えたものを排除しない江戸の人々のスタンスがあるからこそ、不思議なモノやコトも人間の前に現れるのでしょうし、うまく共生できるんだろうなという気がします。個人的にはこういう一見無駄とも思える雑多なもので溢れた世界の方が、科学の力で統一された隙の無い世界よりも、好きだし楽しそうだなーと思いますね。

 もちろん江戸時代も楽しいことばっかりじゃありません。なんといっても死の問題があります。戦だらけの時代より改善されたとはいえ、殺人、武士の人斬り、病、身投げ、子どもの死、江戸の名物とも言われる火事など、まだまだ死は人々の身近にあり、『百日紅』の中でもしばしば死に関連する風景が描かれます。でも、その死さえも全体的にどこかさっぱりとしていて、湿っぽくはない。その描き方が、死が決して特別なものではなく生のすぐ隣りに在るものなのだと感じさせます。一方で、というか、だからこそ、生きている人たちのほとばしるような生の濃さが際立って印象に残ります。生と死、光と闇が区別なく曖昧に混じり合っているところが、なんとも言えない“お江戸”の魅力なのかもしれません。

 けれどその生きている人たちもただ生命を漲らせて明るさに満ちているかというとそんなことはなくて、孤独の影が常に付き添っています。メインキャラクターのみならず、1回こっきり出演の人たち、特に『男はつらいよ』のマドンナ的に登場する女性たちも、人と親しく付き合いはするけれどもベタベタはしてなくて、その独りで地に足つけてすっくと立ってる感じが、何ともかっこよくて美しい。でも別の言い方をすればそれは孤独ということでもあります。自分の人生は自分でどうにかしなければいけないという当たり前かつ意外に難しいこと。もちろん困ったときに人を頼ったり助けてもらったりすることはできるが、根本的な心の問題は自分自身で引き受けるより仕方ない。そういうふうに自分の孤独を自分のものとして自分の身で処理している姿が、使い古された言葉かもしれないですが、やっぱり粋だなと思うのです。

 『百日紅』で描かれる江戸の人々は、とても自由に見えます。実際は絶対的権力者もいるし、法律もあるし、身分もあるし、決して何もかもが自由というわけじゃありません。にもかかわらず、言論の自由も思想信条の自由も世界中好きなところへ行ける自由もある現代の日本人より、彼らの方が自由というものを存分に満喫しているように見えます。それは彼ら一人一人が、自由に伴う責任をちゃんと背負える本当の意味での大人だからなのでしょう。だからこそ、彼らはけっこうマイペースに生きてますが、ゆるさやテキトーさとは違って、見ていて胸がすくような気持ちの良さを感じずにはいられません。

 まだお読みでない方は、映画の方もいいですが、ぜひ『百日紅』を手に取ってみて下さい。


:記事内の絵は、杉浦日向子著『百日紅(上)』(筑摩書房、1996年12月)から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
杉浦日向子『合葬』―“身近な昔話”としての死と戦争 2013年6月10日


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by hitsujigusa | 2015-04-13 03:01 | 漫画 | Trackback | Comments(0)

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 世界選手権2015、男子フリー&アイスダンスの記事の(後編)です。(前編)はこちらをご覧ください。

ISU World Figure Skating Championships 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 7位はロシアチャンピオンのマキシム・コフトゥン選手です。

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 SPで16位と大きく出遅れたコフトゥン選手。フリーは4回転を3本組み込み、まずは1本目の4サルコウをパーフェクトに決めます。続く4トゥループは転倒となりますが、3本目の4サルコウ+2トゥループは成功し、序盤はまずまずの滑り出し。後半は3アクセル+1ループ+3サルコウの難しい3連続ジャンプを含めコンスタントにジャンプを降り、3サルコウが2回転に抜けるミスがあった以外は、大崩れすることなく演技をまとめました。得点は159.88点でフリー6位、SPから一気に順位を上げました。
 ショートでは完璧に大技の4+3を決めたものの、その後のジャンプ2つが2つとも無得点になるというあまりにも痛い失敗で16位と沈みましたが、1日で修正して見事に挽回しました。SPのミスの仕方はジャンプの調子うんぬんというよりも、4トゥループがすっぽ抜けて2回転になってしまって、その直後にすぐ3アクセルを跳ばなくてはいけなくて焦ったのかなという感じでしたね。コフトゥン選手のSPの構成は体力のある前半にジャンプを全部跳んでしまおうという戦略でしたが、休む間もなかったことが逆に裏目に出たのかもしれません。そういった点はまだ10代の若さゆえですね。ですが、立て直せる力はある選手なので、来シーズンはより安定感が増すと、もっと怖い存在になってきそうだなと思います。


 8位はアメリカのベテラン、アダム・リッポン選手です。

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 ショートは大技の4ルッツに挑んだもののダウングレード(大幅な回転不足)で点を伸ばすことができなかったリッポン選手。しかし、フリーでも冒頭に4ルッツに挑戦、ただパンクして2回転となってしまいます。しかし、続く3アクセルからの連続ジャンプは成功。得意の3ルッツでは両手を上げる“リッポンルッツ”で高い加点を稼ぎます。その後も次々とジャンプを決め、目立ったミスのない流れのある美しい演技を披露しました。得点は154.57点でフリー8位、総合8位となりました。
 全米選手権、四大陸選手権に続いて4ルッツに果敢にチャレンジしましたが、残念ながらその試みは結実しませんでした。ですが、四大陸の時は4ルッツの失敗を他のジャンプにも引きずっていたのが、今回はしっかり切り替えてほかのジャンプもほぼクリーンに跳べていたので良かったですね。何よりジャンプが揃ったことによってプログラムの壮麗さが際立って、リッポン選手の滑らかなスケーティング、身体の線の美しさを活かした表現が伝わってきました。4ルッツもSPではダウングレードではありましたが希望を感じさせるジャンプ内容ではあったので、また来シーズンも継続して挑戦してほしいなと思います。


 12位となったのは日本の小塚崇彦選手です。

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 冒頭の4トゥループは回転不足で着氷、転倒してしまいます。が、次の4トゥループは着氷で乱れたものの2トゥループを付けてしっかり連続ジャンプに。続く3アクセルは回転もランディングも完璧で1.57点の高い加点。その後も若干着氷でこらえたり回転が足りなかったりするジャンプはあったものの、大きなミスに繋げることなくまとまりのある演技を見せました。得点は152.54点でフリー9位、総合12位で7度目の世界選手権を終えることとなりました。
 SPで19位と出遅れ、挽回を図った小塚選手。4回転は不完全ではあったものの1本を確実に降り、3アクセルや3+3など、ある程度ジャンプは揃えられたと思います。年末の全日本選手権の再現とまではいきませんでしたが、小塚選手らしい華麗なフットワークやエッジワーク、壮大な音楽に負けない気迫に満ちた演技には引き付けられました。その一方で得意のステップシークエンスやスピンでレベル2と判定される部分もあり、また、第1グループの第1滑走という滑走順も影響して演技構成点もあまり伸びず、厳しい得点、結果となってしまいました。小塚選手は競技後、来季の進退について「このまま自分のスケートを終わらせたくない」「戦う意志があるなら続けるし、ないなら辞める」と話し、明言はしませんでした。小塚選手は股関節の持病も抱えていますし、大学院に復学するということもあり、競技を続けるにはいろんな面で難しい問題があるかもしれませんが、こういった形で彼の選手人生が幕を閉じてしまうというのはあまりにも淋しく、願わくば世界の舞台で小塚選手が輝くシーンをもう一度見たいです。どちらにしろ、小塚選手自身がすっきり悔いなく自らピリオドを打てればそれがいちばんだと思うので、ゆっくりと時間をかけて考えてほしいですね。


 日本の無良崇人選手は16位となりました。

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 こちらもSPでミスが複数あり23位と際どいフリー進出となった無良選手。冒頭の4トゥループをパーフェクトに成功させると、続く2本目の4回転は回避して3ルッツ+3トゥループを問題なく降ります。しかし、得意としている3アクセルはすっぽ抜けて1回転に。後半に入り最初の3ループを決めると、2本目の3アクセルをしっかり回り切り連続ジャンプにします。その後は細かなミスがいくつか出てしまいましたが、最後まで丁寧に演じ切りました。得点は146.81点でフリー12位、総合16位となりました。
 4回転を1本減らして臨み、完璧とはなりませんでしたが、無良選手の意地を感じられたフリーでした。代名詞の3アクセルが絶不調に陥ってしまい、フリーの後半の3アクセルの場面では、ここで跳ばなかったら自分は終わると思って跳んだそうですが、それくらい苦しかったのでしょうね。四大陸選手権後の怪我の影響に加え、ショートであのような演技になってしまったことでさらに追い詰められたのではないかと思いますが、その伸し掛かってくるものを、全てではないかもしれませんが多少は跳ね除けられたんじゃないかと、無良選手の演技を見て私は感じました。
 今シーズンの無良選手はGP初戦でパーソナルベストの演技をして好いスタートを切りましたが、好発進がその後のシーズンに必ずしも良い影響ばかり与えるわけではないのだということを、彼のスケートからヒシヒシと痛感させられました。無良選手は「シーズンを通して成績を残すプレッシャーを感じた」とも話していて、トラウマではないですけれど、最高の演技が重荷になってしまうこともあるのですね。ですが、無良選手はすでに来季へと前向きな言葉を発していて、この苦すぎる経験さえも肥やしにしてくれるのではないかと思います。



 ここからはアイスダンスです。

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 優勝したのはフランスのガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組。SDは自己ベストをマークしたものの僅差の4位発進となります。しかし、FDはパーフェクトな演技で世界歴代3位となる高得点を獲得、トータルでも世界歴代3位となり、シニア2年目で優勝という快挙を達成しました。
 私はあまりアイスダンス事情については詳しくないので演技内容だったり技術的なことに関しては何も言えないのですが、シニア2年目で世界を制するというのはやはり珍しいことのようですね。昨シーズンまではアメリカのメリル・デイビス、チャーリー・ホワイト組とカナダのテッサ・ヴァーチュー、スコット・モイヤー組という2組が圧倒的な力の差を誇って君臨していたわけですが、彼らの不在によって今季は実力の拮抗した予想の難しいシーズンとなりました。その中で最終的に頂点に立ったのは今季大飛躍を遂げた若きカップルで、アイスダンス界の新時代の幕開けを告げるような大会になったのではないかと思いますね。その象徴であるパパダキス&シゼロン組がデイビス&ホワイト組、ヴァーチュー&モイヤー組のように君臨する存在となるのか、それともまだしばらく接戦が続いていくのか、楽しみです。世界選手権初優勝、おめでとうございました。
 銀メダルを獲得したのはアメリカ王者のマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組です。SDでは全てのエレメンツでレベル4を獲得、パーソナルベストで首位発進すると、フリーも同様にハイレベル、ハイクオリティーな演技を見せ自己ベストを更新しましたが、惜しくも表彰台の真ん中には届かず。しかし、世界選手権初の表彰台となりました。
 3位はカナダのケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組。SDはパソドブレがレベル2となる取りこぼしはあったものの自己ベストで2位につけると、フリーもほぼノーミスの演技で自己ベストに迫る高得点をマークし、前年に引き続きメダルを手にしました。
 以下、4位は前年の覇者、イタリアのアンナ・カッペリーニ、ルカ・ラノッテ組、5位はアメリカのマイア・シブタニ、アレックス・シブタニ組、6位はカナダのパイパー・ギレス、ポール・ポワリエ組、7位はロシアのエレーナ・イリニフ、ルスラン・ジガンシン組、8位もロシアのクセニア・モンコ、キリル・ハリャービン組となりました。


 日本のキャシー・リード、クリス・リード組はSD22位となり、残念ながらフリー進出を逃しました。

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 SDは序盤のツイズルでレベル4と良い滑り出しを見せたのですが、そのあとのステップシークエンスでキャシー選手が転倒する滅多にないミス。以降は落ち着いて立て直したものの、ミスが響いて得点は48.32点と伸びず、20位以上が進めるフリーに届きませんでした。
 今シーズンはクリス選手の膝の問題もあり、なかなか本来の実力を発揮できなかったリード姉弟ですが、オリンピックの次のシーズンであり、新たなコーチ、新たな拠点に移って1季目というフレッシュなシーズンでもありました。まだリスタートしたばかり、二人の再出発も始まったばかりですから、じっくりと歩んでいってほしいですね。



 さて、これで世界選手権に関する記事は全て終了となります。ここで男子とアイスダンスの来年の世界選手権の出場枠をまとめます。


《男子シングル》

3枠:スペイン、アメリカ
2枠:日本、カナダ、ロシア、フランス、中国、カザフスタン、ウズベキスタン

《アイスダンス》

3枠:フランス、アメリカ、カナダ
2枠:ロシア、イタリア



 男子はフェルナンデス選手が優勝したことによってスペインが一気に1枠から3枠に増加。アメリカはブラウン選手とリッポン選手の順位の合計が12ということで、ギリギリではありましたがしっかりと3枠をキープしました。一方キープできなかったのが日本。羽生選手と小塚選手の順位の合計が14となり、13ポイント以内という条件をクリアできず、惜しくも2枠に減らしてしまいました。3枠でも足りないと言われるくらい層の厚い日本男子の枠がさらに減って2となってしまったのは痛いですが、層が厚いからこそ、狭き門をくぐり抜けて代表に選ばれた選手は本当にレベルの高い二人となるはずですし、その2選手が普通に演技できれば3枠を取り戻すのもそう難しいことではないと思います。とはいっても今回のような予想外の展開もありうるわけで、来年はそうならないことを祈るだけですね。そしてカザフスタン、ウズベキスタンはテン選手、ジー選手の頑張りによって1枠から2枠に増やしました。
 ペアでも唯一のフランス代表であるパパダキス&シゼロン組が優勝したため出場枠は1から3に。強豪のアメリカ、カナダも問題なく3枠を確保しました。他方でロシアは出場した3組が7、8、9位となり、枠を一つ減らすこととなりました。ロシアのアイスダンス界も層が厚いですから、来季はさらに厳しい争いになりそうですね。



 ソチ五輪のネクストイヤーということもあり、4種目すべてで新しいチャンピオンが誕生した今年の世界選手権。来シーズンは休養から復帰してくる元王者や強豪もいるでしょうから、新旧の対決も今から楽しみです。
 さて、例年ならこれでシーズンはおしまいというところですが、今年は2年に1度のワールド・チーム・トロフィー(世界国別対抗戦)が4月にあります。世界選手権に照準を合わせてきた選手は疲労も溜まりに溜まっていて大変だと思いますが、世界選手権とはまた違った心境で、楽しんで滑ってほしいなと願っています。では。


注:記事冒頭の男子メダリスト3選手のスリーショット写真は、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、コフトゥン選手の写真、アイスダンスメダリスト3組の写真は、フィギュアスケート情報ウェブサイト「Absolute Skating」から、リッポン選手の写真、小塚選手の写真、無良選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、リード&リード組の写真は、アイスダンス情報ウェブサイト「Ice-dance.com」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2015-04-04 02:06 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 世界選手権2015in上海、女子SP、男子SP、女子フリー&ペアに続いて、男子フリー&アイスダンスの記事です。
 男子を制したのはスペインのハビエル・フェルナンデス選手。SP、フリーと最も安定した演技を見せ、スペイン選手として初めて金メダルを獲得するという快挙を成し遂げました。2位は前年の覇者、日本の羽生結弦選手、3位は四大陸選手権2015の覇者、カザフスタンのデニス・テン選手となりました。
 アイスダンスでは欧州チャンピオンのフランスのガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組がこちらも初優勝しました。

ISU World Figure Skating Championships 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 優勝はハビエル・フェルナンデス選手です。

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 得点源となる4回転を3本組み込む攻撃的な構成で臨んだフェルナンデス選手。まず1本目の4トゥループをパーフェクトに決めて、2.29点という高い加点を得ます。続いて4サルコウでしたが、こちらは転倒となります。しかし、比較的苦手としている3アクセルをきっちり降りると、後半に入って最初の4サルコウを連続ジャンプにし、しっかり成功。その後もミスらしいミスなく、母国スペインを舞台にした歌劇『セビリアの理髪師』をユーモアたっぷりかつエネルギッシュに演じ切り、観客から万雷の拍手を浴びました。得点は181.16点でシーズンベスト、トータルでも自己ベストに近いハイスコアをマークし、初の栄冠に輝きました。
 SP上位3人の中で最後に滑走したフェルナンデス選手ですが、キス&クライで自分がトップに立ったことが分かった瞬間、信じられないというふうに両手で頬を押さえ、驚きを露わにしました。フェルナンデス選手は天才肌と評されますが、決して最初からその才能を充分に発揮できていたわけではなく、2006年から出場している世界選手権の最初の2年は35位、30位とフリーに進出することさえできませんでした。3年目にようやくフリー進出し19位となると、12位、10位、9位と少しずつトップレベルに近づいていき、2013、2014年は銅メダル、そしてとうとう頂点へと辿りつきました。初めはフリーにも進出できなかった選手が時間をかけて地道に地力をつけここまで到達したということが凄いですし、それ以上にフィギュアスケート文化のない国でフィギュアを始め、そこから自らの力で誰も通ったことのない道を切り開いてきたことに尊敬の念を覚えます。世界選手権初優勝、本当におめでとうございました。


 銀メダルを獲得したのは日本の羽生結弦選手です。

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 冒頭は大技の4サルコウ、しかしパンクして2回転となります。続いて4トゥループでしたが、こちらは回転は足りていたもののあえなく転倒。ですが、次の3フリップ以降は後半の3アクセルからの連続ジャンプ二つを含め、ほぼ完璧な内容。終盤は多少疲れからスピードが落ちましたが、最後まで丁寧に滑り切りました。得点は175.88点、トータル271.08点で2位となりました。
 練習の時からなかなか4回転が噛み合っていなかったようで、それがそのまま本番にも表れてしまいましたね。ただ、ミスをしてからの粘りが羽生選手の真骨頂で、準備期間の短さを考えれば十分な演技だったと思います。一方でちょっと気になったのは演技構成点で、羽生選手にしては思ったより低めでした。その点に関してコーチ兼ISUテクニカルスペシャリストの岡崎真さんがスポニチの「羽生 連覇逃した背景…ジャッジにも見透かされていた“手抜き” 」という記事の中で「厳しい言い方をすれば、問題は演技の要素と要素の間の“手抜き”だ。(中略)これを物語ったのが5項目の演技点。ジャンプの失敗があっても五輪王者として演技点ではトップを守ってきたが、この日はフェルナンデスに劣った」と指摘していて、私も同じように感じました。少し辛めの言葉を使われていますが、“手抜き”というのは羽生選手が適当に演技したなどという意味ではなく、つなぎの部分の動きが少なく、プログラム全体の密度が薄かったということの一種の比喩ですね。今季の羽生選手は衝突事故、外科手術、ねんざとトラブル続きで練習もままならず体力も落ちてしまい、まずはプログラムを滑り切ることが最優先となり、必然的につなぎなど細かい部分を変更したり省略したりせざるを得なくなったのだと思います。本来の羽生選手なら序盤で大きなミスが2つあっても後半であれだけノーミスならもっと良い演技構成点が出るでしょうし、フェルナンデス選手より低い得点になることはないと思うのですが、やはりプログラムとしての完成度や密度というところが影響したのだと考えられます。
 ですが、この敗北は羽生選手にとって良いことだと私は思います。もちろん羽生選手はものすごく悔しいでしょうし、失敗して良かったということではないのですが、彼自身が納得していない演技であっさり2連覇を達成してしまうよりも、悔しい演技で2位になって、その悔しい気持ちをバネにしてまた上を目指して這い上がるという方が、壁を目の前にして燃えるタイプの羽生選手にとってはシンプルでやりやすいのではないかという気がします。また、負けた相手が同門のフェルナンデス選手というのもより奮起する理由になりそうな感じがして、彼で良かったなとも思います。何にしろ、羽生選手というのは失敗や悔しさから必ず何か学んで、自分の糧にする選手なので、さらに来シーズンが楽しみになりました。銀メダル獲得、おめでとうございました。


 銅メダルを手にしたのはカザフスタンのデニス・テン選手です。

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 まずは4トゥループからでしたが、着氷で乱れ大きく減点となります。しかし、続く2本目の4トゥループは完璧に着氷し、さらに3トゥループをつけてしっかりコンビネーションジャンプとします。その後も、3アクセルでミスする場面はありましたが、もう1本の3アクセルや3+1+3などクリーンに決め、終盤の見どころであるステップシークエンスではレベル4に加え、1.9点という全選手中トップの加点も獲得。ソチ五輪銅メダリスト、そして四大陸王者らしい風格に溢れた演技で観客を魅了しました。得点は181.83点でフリー1位、総合3位で2年ぶりとなる世界選手権の表彰台に立ちました。
 SPは思わぬ音楽のアクシデントがあって羽生、フェルナンデス両選手に後れを取りましたが、フリーではさすがの演技でしたね。特に表現面は正統派のきれいなエッジワークに独創的な振り付け、舞踏を想起させる軽快なフットワークが相まってテン選手にしか表現できない世界観を作り出していたと思います。テン選手も四大陸選手権の後に足を負傷したそうで、今回の演技内容、銅メダルという結果は心から望んだものとは違ったかもしれませんが、今後チャンピオンを目指すにあたって羽生選手や来季以降復帰してくるであろうパトリック・チャン選手と肩を並べる存在として、本当に楽しみだなと思います。銅メダル獲得、おめでとうございました。


 4位となったのはアメリカ王者のジェイソン・ブラウン選手です。

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 最終滑走者として登場したブラウン選手。SP同様4回転は組み込まず、まずは得意の3アクセルからの連続ジャンプを決めて好スタートを切ると、3ルッツ、3ループもしっかり成功。後半に入って最初の3アクセルはダウングレード(大幅な回転不足)判定でマイナスとなりますが、その後は3+3、3+1+3といった得点源となるジャンプを次々降り、演技を終えたブラウン選手は満足そうに笑みを浮かべました。得点は163.97点で2月の四大陸選手権でマークした自己ベストには及ばなかったものの、トータルではパーソナルベストを更新して、初出場の世界選手権で4位と大健闘しました。
 ブラウン選手はソチ五輪でもフリーの最終滑走者として滑って強烈に印象に残る演技を披露しましたが、最終滑走に縁があるのか今回もラストスケーターで、そういった難しいシチュエーションにもかかわらず硬くなることなく彼らしいのびのびとした演技を見せてくれましたね。そして彼はショート、フリー合わせて4回転なしという不利なジャンプ構成で臨んだわけですが、それでも4位という素晴らしい成績を残し、プログラムの完成度の重要性、ジャンプ偏重でなくプログラム全体で勝負することの意味を彼のスケートそのものによって示してくれました。だからといってブラウン選手が楽なジャンプ構成を組んだということではなく、フリーは8つのジャンプ要素のうち6つをスタミナが切れてくる後半に入れていますから、よくよく練られた作戦が功を奏したのだと言えます。ですが、その一方で3位のテン選手までは20点近い差があって、ブラウン選手がさらに上に行くことを考えるならば、やはり4回転は必須になってくるというのも強く感じさせられましたね。来季ブラウン選手がどんなプログラムを作ってくるのか、ジャンプの内容も含めて気になります。


 5位はカナダ王者のナム・グエン選手です。

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 SPは自己ベストをマークして9位発進したグエン選手。冒頭はショートでは回避した4サルコウ、これをパーフェクトに決めて1点以上の高い加点を得ます。さらに3アクセル+3トゥループの大技も完璧にこなし、前半をノーミスで折り返します。後半も勢いはとどまることなく3+2+2の3連続ジャンプを皮切りに相次いでジャンプをクリーンに成功。最後まで疲れを感じさせない演技で情熱的にフィニッシュしました。得点はパーソナルベストとなる164.86点でフリー4位、総合5位とSPから順位を上げました。
 フリーは高橋大輔さんが使用したことで有名な映画『道』のサウンドトラックですが、高橋さんとはまた一味違ったグエン選手らしいユーモアと、ちょっぴり甘酸っぱいような切なさ、ほろ苦さの感じられるプログラムになっていて、それをグエン選手が表情豊かかつダイナミックに表現していて素晴らしかったですね。そして何といってもグエン選手は羽生選手、フェルナンデス選手と同じブライアン・オーサーコーチの門下生ですから、教え子が1、2、5位と全員大活躍しましたね。羽生選手、フェルナンデス選手というもの凄い二人と練習することはグエン選手に間違いなく良い影響、刺激を与えるでしょうから、まだ16歳の彼がこれからどんな青年に成長していくのか、スケーターとしてどんな個性を身につけていくのか、本当にワクワクします。


 6位はウズベキスタンのミーシャ・ジー選手。

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 冒頭はまず得点源となる3アクセル+1ループ+3サルコウのコンビネーションジャンプから、これをきれいに着氷して加点を得ます。続く単独の3アクセルは着氷でこらえ気味に、3ルッツは不正確なエッジとされ若干の減点になりますが、最小限のミスで前半を終えます。後半も3ルッツのエッジのミスでマイナスとなる部分はありましたが、それ以外はパーフェクト。映画『シェルブールの雨傘』の世界を全身で情熱的に、時に穏やかにと緩急を使い分けて演じ、フィニッシュしたジー選手は感極まったように喜びを露わにし、感謝するように氷に口づけました。得点は156.37点と思ったほど伸びず自己ベストには惜しくも届きませんでしたが、世界選手権自己最高の6位で大会を終えました。
 今シーズン最も成長著しい選手の一人であるジー選手ですが、今大会の演技はまさにその成長を象徴していましたね。特に冒頭の3アクセルからの3連続ジャンプは今大会から組み込んだジャンプで、シーズン最後の大舞台でもさらにレベルアップするぞという意志が感じられました。
 ジー選手の今季の飛躍というのはサプライズの多かったシーズンの中でも特に印象的なことの一つで、難度の高いものも含めジャンプを安定させたことが何よりの理由だと思うのですが、それとともに彼本来のオリジナリティー溢れるアーティスト性というのも今までとは少し違ったアプローチではあるものの見事に両立させていて、アスリートとして挑戦しながらアーティストとしても挑戦しているというところが本当に素晴らしいなと思います。来シーズンはどんなプログラムを作ってくれるのか、今から楽しみです。



 さて、ここで突然ですが(前編)はここで終了となります。続きは(後編)となりますので、ご面倒をおかけして申し訳ないのですが、ぜひ(後編)の方もお読みくださると幸いです。


注:記事冒頭の男子メダリスト3選手のスリーショット写真は、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、フェルナンデス選手の写真、羽生選手の写真、グエン選手の写真、ジー選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、テン選手の写真は、AFPBB Newsが2015年3月29日の8:43に配信した記事「フェルナンデスが初優勝、羽生はミスが響き2位 世界フィギュア」から、ブラウン選手の写真はフィギュアスケート情報ウェブサイト「Absolute Skating」から引用させていただきました。

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世界選手権2015・男子フリー&アイスダンス―ハビエル・フェルナンデス選手、逆転で初優勝(後編) 2015年4月4日
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by hitsujigusa | 2015-04-03 03:07 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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※2015年4月4日、来年の世界選手権の女子の出場枠の中で2枠の韓国が抜けておりましたので訂正し追記しました。

 世界選手権2015、女子フリーとペアの結果をお伝えします。
 女子は優勝大本命のエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手がショートからの首位の座を守り切り、大差で金メダルを獲得しました。2位はSP3位から順位を上げた日本の宮原知子選手、3位はロシアのエレーナ・ラディオノワ選手となりました。
 一方、ペアは今シーズン出場した全ての大会を制しているカナダのメ―ガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組がこちらも予想どおりの優勝を果たしました。

ISU World Figure Skating Championships 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 新女王となったのはロシアのエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手です。

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 SPでは3アクセルに挑んだトゥクタミシェワ選手ですが、このフリーでは3アクセルは入れずいつもどおりの構成。冒頭は3ルッツからの3連続ジャンプでしたが、珍しく少々着氷が乱れる場面があり若干の減点。しかし、続く3ルッツ、3フリップと単独ジャンプをそれぞれ完璧にこなします。後半に組み込んだ3トゥループ+3トゥループも着氷でミスがありましたが、それ以外のジャンプは全て高い加点が付くクリーンなものを跳び、表現面でも異国情緒漂うアラビアンミュージックを情熱的かつ最後までスピード感たっぷりに演じ切り、フィニッシュしたトゥクタミシェワ選手は安堵したように笑みを浮かべました。得点は132.74点、トータルでは210.36点と1月の欧州選手権でマークした自己ベストにきわめて近いハイスコアを叩き出し、圧倒的な大差で優勝となりました。
 ショートで2位に大きなリードを作ってフリーに臨んだわけですが、そのトゥクタミシェワ選手でも優勝を目の前にするとやはり普段と違う感覚があったのか、細かなミスが2つありました。ですが、そういった世界選手権の魔物に左右されることのない、確固たる自信が演技全体から滲み出ていましたね。まさに女王の名にふさわしい、貫録に満ちた演技だったと思います。今大会はフリーでは3アクセルは跳びませんでしたが、来シーズンはフリーでも3アクセルをやりたいとすでに話していて、さらなる進化を志す彼女の挑戦が今から楽しみです。
 シーズン前には想像もつかなかったトゥクタミシェワ選手の華麗なるカムバックと快進撃、そして勇気ある3アクセルへのチャレンジにどれだけ拍手をしても足りないくらいです。世界選手権初優勝、本当におめでとうございました。


 銀メダルを獲得したのは日本の宮原知子選手です。

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 冒頭はショートで跳んだ3+3を回避し、3+2+2の3連続ジャンプを確実に成功させます。続く3フリップは少し苦手としているジャンプですがクリーンな着氷で高い加点。さらに3ループも決めて、前半はパーフェクトな出来となります。ステップシークエンスとスピンを挟んだ後半、単独の3ルッツは勢いが足りず回転不足でステップアウトとなりますが、得点源となる2アクセル+3トゥループはしっかり成功。さらにプログラム最終盤に組み込んだもう一つの2アクセル+3トゥループも完璧に降りて、演技を終えた宮原選手は納得したように笑顔を見せました。得点はSPに続き自己ベストとなる126.58点。フリー順位は4位でしたが、総合では2位となり、初出場で銀メダルという快挙を達成しました。
 最終グループの2番目に滑走した宮原選手。演技後の時点で暫定1位となり表彰台を大きく引き寄せましたが、次に滑ったSP2位のラディオノワ選手が振るわなかったため宮原選手を上回ることができず、少し予想外の形で銀メダルが飛び込んできました。ショート終了時は充分に銅メダルを取れるなと思ったのですが、さらに一段上ったのですから驚かされました。しかも女子フィギュア界を席巻しているロシア勢の間に割って入ったわけですから、本当に凄いことだと思います。思えば宮原選手は2012年の全日本選手権で中学生ながら3位になったり、今シーズンの全日本でも接戦を勝ち抜いて優勝したりと、ここぞという試合でチャンスが巡ってきた時には確実にものにしていて、よくチャンスの女神には前髪しかないというたとえがありますが、またとない好機にその前髪をつかみ取れる鋭さみたいなものが宮原選手にはあるんだなと感嘆しました。そしてもちろん、宮原選手の普段の練習が何よりもの理由で、決して体格に恵まれているわけでもなく、天才肌というわけでもない選手が努力の末にこうして結実するというのは、彼女と同じように小柄だったり華奢だったりというジュニアの女子選手にも勇気を与えるんじゃないかなと思います。
 今後は世界選手権メダリストとして今までとは注目のされ方や扱われ方も変わってくるでしょうし、それによってジュニア時代も含め世界レベルでは目立つことの少なかった宮原選手にとって未知の領域に足を踏み込むことになるでしょう。ですが、宮原選手なら大丈夫だろうとなんとなく思います。銀メダル獲得、おめでとうございました。


 3位となったのはロシア女王のエレーナ・ラディオノワ選手です。

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 まずは得点源となる3ルッツ+3トゥループからでしたが、ファーストジャンプの着氷でこらえる感じとなり、セカンドジャンプに繋げられません。次の3フリップはエッジが不正確とされ加点が付きませんでしたが、続く3ルッツに3トゥループを付け、冒頭のミスをリカバリーします。後半も3連続ジャンプの回転不足や3ループのパンクなど、ラディオノワ選手らしからぬミスがいくつかありましたが、ラフマニノフの壮大な曲想に合わせて最後までエネルギッシュに演じ切りました。得点は121.96点でフリー6位、総合3位でショートから順位は落としましたが、初出場で素晴らしい銅メダルを獲得しました。
 SPの時から少々いつもより動きが大人しめかなと感じられたラディオノワ選手ですが、ショートの前に高熱があったようで、フリーも病み上がりで万全ではない体調だったみたいですね。ラディオノワ選手にとっては不運な状態での世界選手権となってしまいましたが、本来のジャンプが整わない中でも、お客さんやジャッジに自分の演技を届けよう、表現を伝えようという強い気持ちが迫力になって表れていましたし、どれだけジャンプのミスがあっても始終笑顔で滑り切る姿は、まだ16歳ですが本当にベテランと見まごうようなプロフェッショナルだなと感じました。銅メダル獲得、おめでとうございました。


 4位はアメリカのグレイシー・ゴールド選手です。

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 冒頭はSPで失敗した3ルッツ+3トゥループ、これを完璧に成功させて高い加点を得ます。さらには2アクセル+3トゥループ、3ループも立て続けに降り、前半は上々の滑り出しとなります。後半は3フリップのエッジエラーや3ルッツの着氷ミスなど細かい乱れはありましたが、演技全体の流れを途切れさせることはなく、フィニッシュしたゴールド選手はガッツポーズで喜びを露わにしました。得点はシーズンベストとなる128.23点でフリー2位、トータルでも4位とSP8位から大きく挽回しました。
 ショートでは3つのジャンプのうち2つでミスがあり出遅れましたが、中1日で見事に立て直しましたね。今季はシーズン途中で疲労骨折という負傷があり、その影響が最後まで尾を引いた面もあるのかなと思うのですが、それでもフリーのみでは2位とさすがの底力も見せてくれて、演技構成点の高さ、ジャンプやスピンをクリーンにこなした時の加点の付き方は際立ったものがあるので、フィジカル面さえ問題なく整えばという印象を持ちました。特に来年の世界選手権はアメリカで開催されますから、ゴールド選手にとってはこれ以上ないチャンスと言えます。大舞台でのメンタルの強さはソチ五輪や今までの世界選手権で証明済みですし、2013年は6位、2014年は5位、2015年は4位と世界選手権で一つずつ階段を上がっていることを鑑みても、2016年はメダルを取れる可能性が高いんじゃないかななんて想像したりもします。などと今から言うと、鬼に笑われるかもしれませんが。
 今シーズンの経験を活かして、ぜひ来シーズンの飛躍に繋げてほしいなと思います。


 5位はアメリカ女王のアシュリー・ワグナー選手です。

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 全米選手権と同じ難度を上げたジャンプ構成で挑んだワグナー選手。冒頭は得意の2アクセルから入り、次に鍵となる3ルッツ+3トゥループを持って来ましたが、ルッツのエッジのミスとセカンドジャンプの回転不足でクリーンな成功とはならず。後半も3+1+3の回転不足など細々としたミスによる減点はありましたが、全体的にはまとまりのあるワグナー選手らしい躍動感にあふれた演技を披露しました。得点は127.20点で自己ベストに迫る高得点となり、総合5位とSP11位から一気に順位を上げました。
 SPで11位になった時には、ワグナー選手と世界選手権との相性の悪さについて改めて考えてしまいましたが、最終的にはしっかり巻き返すというのもワグナー選手の特徴と言えます。GPファイナルでは3年連続で表彰台に立っていて、世界選手権でももう一歩というところまで来ていて、実力も実績も充分なので、あとはシーズン最後の試合にいかにピークを持ってくるかということだけなのでしょうね。また、世界選手権ではショートで出遅れてフリーで挽回するというパターンが多いので、ショートの出来次第なのかもしれません。なんにせよ、10代の若い選手たちと互角に張り合える力はあるので、来シーズンも注目の選手ですね。


 6位に入ったのは日本の本郷理華選手です。

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 まずはSPから難度を上げた3フリップ+3トゥループ、これを完璧に回り切って降り、加点を得ます。今大会から取り入れた3ルッツ+2トゥループはルッツのエッジが不正確とされ減点となりますが、その後も順調にジャンプを着氷。細かなアンダーローテーション(軽度の回転不足)はありましたが、今シーズンの本郷選手を象徴するような安定感抜群の演技となり、満面の笑みで喜びを表しました。得点は122.41点でパーソナルベスト、トータルでも184.58点と目標としていた180点台に乗せ、初出場で堂々の6位入賞を果たしました。
 GPシリーズのスケートカナダからシーズンラストの大舞台まで、本当に目立ったミスのない素晴らしい演技を続け、宮原選手同様強い選手だなと頭が下がりますね。しかも今大会のフリーはジャンプ構成をレベルアップさせ、苦手な3ルッツの本数を増やした中でのベスト演技、パーソナルベストなので、自分をしっかりコントロールできる揺らがない強さが今回も光りました。そして表現面も、テレビで解説していた本郷選手の同門の先輩にあたる鈴木明子さんが涙ぐみながらおっしゃっていたとおり、シーズンが進むにつれ見違えるように成長して、見事に“カルメン”を演じ切りましたね。
 本郷選手は「まだまだ上の選手がいる。もっともっと上を目指さないと」とあくなき向上心をうかがわせていて、来シーズンに向けて今から頼もしさを感じますね。


 7位となったのは日本の村上佳菜子選手です。

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 フリーの最終滑走者として登場した村上選手。冒頭の3ループは一見きれいに着氷したかに見えましたが、回転不足を取られ若干マイナスとなります。続くジャンプは2アクセル+3トゥループの得点源となる連続ジャンプでしたが、2アクセルの着氷が乱れセカンドジャンプをつけられません。しかし、次の3+2はしっかり決めると、後半の3+2+2、3フリップも成功。終盤の3サルコウが一つ1回転にすっぽ抜けるミスはありましたが、ミスを連発させることはなく、丁寧に滑り切りました。得点は114.18点でシーズンベスト、総合7位で大会を終えました。
 SPでは笑顔と涙の会心の演技を見せた村上選手でしたが、残念ながらフリーも同様の満足度とはなりませんでした。ただ、今シーズンの中では間違いなくベストでしたし、一度ミスをすると立て続けにミスを続けてしまう負のスパイラルに陥ることもなく、演技中の冷静さ、切り替えは見られたので良かったんじゃないかなと思います。また、プログラムの表現としても、今シーズンでいちばん“ファントム”になりきっていたと思いますし、ジャンプミスに左右されることなく表現に集中しているように感じられたので、プログラムとして完成させることはできなかったかもしれませんが、とても引き付けられる演技でした。
 来季の進退について村上選手は明言していませんが、個人的にはやはり続けてほしいなと思いますね。今季も苦しいシーズンだったでしょうが、シーズン前半・中盤の不調からラストにしっかり立て直したのは事実ですし、この経験は村上選手にとって良い財産になると思いますから、私はまだ村上選手の姿を見ていたいですね。現役を続けることで得られる何かがあるなどという無責任なことは言えませんが、彼女は本当の意味で彼女の全てを出し尽くせてはいないと私は感じるので、本当に村上選手が完全燃焼して、納得するまでは引退してほしくないなと一ファンとして願っています。


 8位はアメリカのポリーナ・エドマンズ選手。

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 冒頭の3ルッツ+3トゥループをまずしっかり決めると、3+1+3も不正確なエッジと回転不足はありましたが着氷します。その後も見た目にはほぼクリーンなジャンプを相次いで降り、フィニッシュしたエドマンズ選手は拍手喝采を浴びました。しかし、複数のジャンプで細かく回転不足を取られ、思ったほど得点は伸びず116.12点、トータル177.83点で8位となりました。
 一見するとほとんどノーミスといってよい演技をしたエドマンズ選手でしたが、回転不足によって演技の印象とは少し異なる得点となってしまいました。優勝した2月の四大陸選手権のフリーでは一つも回転不足はなかったですから、その時より慎重さがあったのかは分かりませんが、ちょっと惜しかったですね。ただ、GPシリーズ時のエドマンズ選手のことを思えば、よくここまでジャンプを修正してきたなと思います。身体の成長によるものなのかGPではジャンプに苦労する場面が多々見られましたが、四大陸と今大会ではしっかり自分の本来のジャンプを跳んでいたように感じます。苦しみながらもある程度結果を出したことが、今後の彼女の成長に繋がっていくでしょうね。



 さて、ここからはペアです。

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 優勝したのはカナダのメーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組。SPは全てのエレメンツをパーフェクトにこなし、パーソナルベストに迫るハイスコアで首位に立つと、フリーは高難度のスロー4サルコウや珍しくスピンで小さなミスがあったものの、それ以外のほとんどの技で1点以上の高い加点を獲得。トータルで自己ベストをマークし、2位に7点以上の差をつける圧巻の優勝となりました。これでデュアメル&ラドフォード組は今シーズン出場した全ての大会で優勝という快挙を達成。圧倒的な力を持って、最後までチャンピオン街道を突っ走りましたね。世界選手権初優勝、おめでとうございました。
 銀メダルを手にしたのは地元中国の隋文静(スイ・ウェンジン)、韓聰(ハン・コン)組。SPで上位と僅差の3位につけると、フリーではデュアメル&ラドフォード組にも迫るような高得点&パーソナルベストをマークし、総合2位と初めて世界選手権の表彰台に上りました。元々ジュニア時代は無敵の強さを誇り、シニアでもコンスタントに成績を残してきた隋&韓組ですが、世界選手権でほぼクリーンな演技が揃えられたのはたぶん初めてですね。来季はスロー4サルコウをフリーに組み込む予定と隋選手は話していて、まだまだ伸びしろのある若いペアですので、さらに楽しみに思います。
 3位も中国の龐清(パン・チン)、佟健(トン・ジャン)組です。SPでトップの演技構成点をマークして2位発進すると、フリーはジャンプのミスがあり順位を落としはしましたが、自己ベストに近い高得点で世界選手権6個目となるメダルを獲得しました。母国で行われる世界選手権に出場するために2月の四大陸選手権で現役復帰した龐&佟組。実に16度目となる世界選手権だったわけですが、若手に全く劣らない若々しさ、そしてこの二人にしか出せない表現力で健在ぶりを示しましたね。ですが、復帰は今大会のためだけなので、今大会をもって再び引退となりました。龐&佟組は98/99シーズンから本格的に国際大会で活躍していますから、その経歴を見るだけで本当に凄いなと思います。長い間、おつかれさまでした。
 以下、4位は中国の彭程(ペン・チェン)、張昊(ジャン・ハオ)組、5位はロシアの川口悠子、アレクサンドル・スミルノフ組、6位はロシアのエフゲニア・タラソワ、ウラジミール・モロゾフ組、7位はアメリカのアレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組、8位はカナダのジュリアン・セガン、シャルリ・ビロドー組となりました。


 日本の高橋成美、木原龍一組はSPで19位となり、残念ながら念願のフリー進出は叶いませんでした。

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 ショートは冒頭のジャンプのミスに続き、今大会初めて挑戦した3ツイストでもミスが出てしまいます。その後もミスが相次ぎ、得点もパーソナルベストからは遠いスコアとなってしまいました。
 そして3月31日、二人は日本スケート連盟、また、自身の公式ブログを通じて、世界選手権限りでペアを解消したことを発表しました。31日は4月に行われるワールド・チーム・トロフィー(世界国別対抗戦)の日本チームの出場者発表の記者会見があり、その場で高橋&木原組のペア解消も明かされた形となりました。
 正直、唐突なペア解消という印象でとても驚いたのですが、ブログによれば数週間前、木原選手の方からペア解消の申し出があったということで、世界選手権前から決断した上でのことだったようですね。具体的な理由は分かりませんが、よりペア選手としてレベルアップするための、より良いスケートをするための前向きな解消なんだろうと思います。二人のコンビネーションはとても良く、久しぶりの日本人同士の日本代表ペアとして楽しく演技を見せてもらいましたが、その一方でペア結成2年目の今シーズンはなかなか思ったような結果がついてこず、結成1年目にマークした自己ベストを超えられないことに苦しさものぞかせていました。そうした困難な状況を打開するという意味での解消でもあるのかもしれません。
 今後は二人ともペア競技を続け、それぞれ新たなパートナーを公募するとのことです。ペア解消は残念ではありますが、高橋選手、木原選手両者にとって明るい未来に繋がる選択だと信じたいですね。



 ということで女子フリー&ペアについては以上です。この結果、来年の世界選手権の国別の代表枠は以下のようになりました。


《女子シングル》

3枠:ロシア、日本、アメリカ
2枠:中国、フランス、カナダ、韓国

《ペア》

3枠:中国、カナダ、ロシア
2枠:アメリカ、イタリア、フランス



 女子は女子フィギュア界では圧倒的に強い3国がしっかりと3枠をキープ。日本女子も大会前は危ぶまれていましたが、蓋を開けてみれば何の問題もなかったですね。そして、中国、フランスは、それぞれたった一人の代表であった李子君(リ・ジジュン)選手、マエ=ベレニス・メイテ選手が1枠から2枠に増やす条件である10位以内をクリアし、見事に枠を増やしました。
 ペアは今回地元ということもあって出場した3組が2、3、4位となった中国が楽々と3枠確保。ロシアは中国勢の壁に阻まれた感じにはなりましたが、それでも枠取りはきっちり果たしました。カナダはデュアメル&ラドフォード組の1位という最高の結果に加え、ジュニアのセガン&ビロドー組も充分に実力を発揮して8位と健闘して枠取りに大いに貢献しましたね。
 次の記事では男子のフリーとアイスダンスをお届けします。またしばらくお待ちください。それでは。


注:記事冒頭の女子メダリスト3選手のスリーショット写真、村上選手の写真は、AFPBB Newsが2015年3月28日の16:50に配信した記事「トゥクタミシェワが女子シングル制す、宮原が銀 世界フィギュア」から、トゥクタミシェワ選手の写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年3月26日に配信した写真特集記事「世界フィギュア2015 羽生は銀 女子は10年連続メダル」から、宮原選手の写真、ラディオノワ選手の写真、ゴールド選手の写真、ワグナー選手の写真、本郷選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、エドマンズ選手の写真は、フィギュアスケート情報ウェブサイト「Absolute Skating」から、ペアメダリスト3組の写真は、AFPBB Newsが2015年3月27日の9:18に配信した記事「デュアメル/ラドフォード組が堂々の優勝、世界フィギュア」から、高橋&木原組の写真は、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2015-04-01 02:57 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)