旅のラゴス (新潮文庫)



 夏もいよいよ終わりに近づき、徐々に秋の足音が聞こえ始めている今日この頃ですが、8月30日は冒険家の日だそうです。なぜ8月3日が冒険家の日かというと、1965年に同志社大学の南米アンデス・アマゾン遠征隊がアマゾン川の源流から130キロを世界で初めてボートで川下りし、1989年に冒険家の堀江謙一さんが小型ヨットで太平洋の単独往復を達成したのが8月30日だからということで、誰が決めたのかはよく分かりませんがこの日が冒険家の日になったということです。
 そんな記念日にちなんで、今回は冒険を描いた小説を特集します。ジャンルとしての“冒険小説”は、『トム・ソーヤーの冒険』や『宝島』のような、危険を犯して海やら秘境やらを冒険するといったものですが、今回取り上げるのは幅広い意味での冒険を描いた小説なので、いわゆる冒険小説とは違うものもありますが、それはそれ、これはこれとしてご容赦ください。



 まずは定番といっても過言ではない、冒険を描いた小説3冊です。


羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

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【あらすじ】
 1978年7月、妻が家を出て行き、大学時代に付き合っていた女の子が交通事故で死んだ。8月、「僕」は21歳の耳専門のモデルの女の子と知り合い、新しいガールフレンドとなった。そして9月、仕事を休んでガールフレンドとベッドの中にいると、彼女は「あと10分で大事な電話がかかってくる」と言い、またそれは羊に関係することだとも言う。そんなある日、「僕」が経営する広告代理店にある右翼の大物の秘書が訪れて――。

 国際的な人気作家・村上春樹さんの『羊をめぐる冒険』。言わずもがなの名作ですが、村上さんのデビュー作『風の歌を聴け』、デビュー2作目の『1973年のピンボール』に続く“鼠三部作”といわれるシリーズの完結編です。
 ストーリーについて文章で説明するのは難しく、また、私のつたない言葉で説明しきれそうもないので省きますが、タイトルのとおり、ある謎めいた羊と、主人公の旧友“鼠”を追って主に北海道を冒険します。日本を舞台にしているとは思えないような村上さん特有のドライでミステリアスな空気感をあますことなく楽しめる作品です。なお、村上作品には他にも『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』、『1Q84』といった冒険小説と言える作品があり、どの冒険もそれぞれ唯一無二の世界観で、ほかにはない感覚を味わえますね。


深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

【あらすじ】
 26歳の「私」はある日、インドのデリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスだけで旅することを思い立ち、日本を飛び出した。まずは飛行機で香港に立ち寄った「私」だったが、混沌とする香港に魅せられ思いがけず長居をしてしまい――。

 ノンフィクション作家、沢木耕太郎さんの代表作『深夜特急』。実際にバックパッカーとして放浪の旅をした沢木さんの実体験に基づく小説で、新潮文庫から全6冊で出ています。
 この作品に関してはほかの記事にも書きましたのでこちらもご参考いただきたいのですが、なんといっても東アジアからユーラシア大陸を横断してヨーロッパの端っこへという旅が単なる旅行、観光などではなくて、THEバックパッカーといった感じの旅らしい旅をしていて、臨場感たっぷりで自分がその国のその地域に本当に立っているような感覚に陥ります。旅の中で主人公は怪しいホテルに泊まったり、カジノでギャンブルにのめり込んだりとかなり危ない経験もしていて、秘境を旅したりというのとは違いますが、まさに冒険。飛行機や鉄道を基本的に使わず、バスでゆっくりゆっくり地を這うような形で西に向かっていくのもさらに冒険感を高めていますね。


旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

【あらすじ】
 高度な文明を失った代わりに人間たちが超能力を獲得した世界。その世界で何かを求めて旅をする男・ラゴスはある日、“集団転移”をしようとするグループと出会って――。

【収録作】
「集団転移」
「解放された男」
「顔」
「壁抜け芸人」
「たまご道」
「銀鉱」
「着地点」
「王国への道」
「赤い蝶」
「顎」
「奴隷商人」
「氷の女王」

 日本を代表するSF作家・筒井康隆さんの連作長編『旅のラゴス』。高度な科学はないものの(かつてはあったことを匂わせる)、超能力が発達しているという設定の世界を主人公が放浪する物語です。収録作は1作1作が独立したエピソードとなっているのですが、それらを連続して繋げて読むことによって壮大な世界が浮かび上がってくるという仕組みになっています。異世界ファンタジーっぽい雰囲気もあるのですが、あらすじにも書いたように集団転移(集団で同じ場所のイメージを強く思い浮かべることで集団ごとテレポーテーションする移動方法)のような科学的な感じもあって、SF作家の筒井さんならではのSFとファンタジーがバランス良く混じり合ったような空気感が魅力的です。雰囲気的には宮崎駿さんの『風の谷のナウシカ』に似た感じもあって、退廃的な世界観、失われた科学文明と、一方で進化した超現実的かつ一種独特な科学といったモチーフが好きな人にはたまらない作品ではないかなと思います。
 ちなみにこの『旅のラゴス』は筒井さんの作品の中ではそんなに有名ではなかったのですが、これといって特別な理由もないのに、なぜか2014年から今年にかけて売れ行きが急激に伸びて、今まで毎年3000~4000冊くらいだったのがこの1年ほどで10万冊も増刷となったということがちょっとした話題になっていて、筒井さんの新たな代表作として浸透しつつあると言えるのかもしれません。この作品に関してはこちらの記事でもピックアップしていますので、ぜひご覧ください。


 続いては子どもを主人公にした冒険ファンタジー4作です。


裏庭 (新潮文庫)

裏庭 (新潮文庫)

【あらすじ】
 昔はイギリス人の別荘だった荒れ放題の洋館、バーンズ屋敷。今は近所の子どもたちの格好の遊び場となっている。6年前に双子の弟を亡くした少女・照美は、弟が亡くなって以来久しくバーンズ屋敷に近づいていなかったが、友達の綾子のおじいちゃんにかつてのバーンズ屋敷の話―住んでいた姉妹や秘密の裏庭のこと―を聞き、ある日バーンズ屋敷を訪れる。そして、綾子のおじいちゃんが“裏庭”の入り口だと話したホールに掛かった大鏡に照美が触れると、突然「フーアーユー」という声が響き――。

 梨木香歩さんの『裏庭』は、古い洋館に秘められた謎の“裏庭”を巡って、孤独を抱えた少女が冒険するファンタジーです。『秘密の花園』や『トムは真夜中の庭で』に代表されるように、“庭”は児童文学に付き物のシンボリックで重要なモチーフですが、この『裏庭』も庭文学の傑作と言えます。
 魔法やアクションなどの登場する派手な冒険物語ではありませんが、主人公の少女が異世界に迷い込むことで自分自身の心の傷と向き合い、乗り越えていくさまが繊細に書かれていて、児童文学ではありますが子どものみならず大人にとっても奥深い作品となっています。また、照美の心の世界だけではなく、照美と母、照美の母と祖母、照美と綾子のおじいちゃん、綾子のおじいちゃんとバーンズ屋敷に住んでいたイギリス人の姉妹、そして照美と亡くなった弟など、多様な人間関係が場所や時を超えてダイナミックに描かれていて、一人の少女の成長物語にとどまらない広がりを見せています。思春期の少女が自分の心を真正面から見つめるというものすごく過酷な体験を、秘密の裏庭への旅という形で鮮やかに描き出した傑作ファンタジーです。


扉のむこうの物語 (名作の森)

扉のむこうの物語 (名作の森)

【あらすじ】
 母親のいない小学6年生の少年・行也はある日父親が勤務する小学校を訪れる。暇を持て余した行也はひとりでぶらりと物置に入るが、そこでアフロヘアの風変わりな女の人と出会う。女の人はこの小学校の卒業生だと言い、二人は物置にあったひらがな五十音表を使って、言葉を作る遊びを始める。すると突然不思議な扉が現れ、二人が扉を開けるとそこは現実とは違うちょっとおかしな世界で――。

 児童文学作家・岡田淳さんの『扉のむこうの物語』。ひまつぶしの言葉遊びをきっかけに不思議な異世界に導かれてしまう男の子の話で、上述した『裏庭』が少女の内界を巡る物語だったのとは対照的に、こちらは少年の成長を取り上げていて、よりユーモア色が濃くなっています。
 何より魅力的なのが冒険の筋立て。行也たちが異世界に足を踏み入れるきっかけとなるのがひらがなの五十音表を使ったゲームで、これは一度使ったひらがなはもう使えず、残ったひらがなで新たな言葉を作るというルール。ここで行也とアフロヘアのおばさんが作った言葉が後々異世界で重要な役割を果たすのですが、文字や言葉が物語を生むという言葉のおもしろさを体現するようなストーリーになっていて、文学の醍醐味を存分に味わえる作品になっています。そういったアイテムづかいがとても秀逸で、それだけでもワクワクドキドキするのですが、物語のところどころにクラシック音楽が散りばめられていて色を添えていたり、異世界では人間を分類するというシステムがあったりと、子ども向けにしてはけっこう渋いモチーフが使われたりシビアな不条理さが描かれていたりして、考えさせられる部分も多く、大人でも十分楽しめる作品だと思います。


これは王国のかぎ (中公文庫)

これは王国のかぎ (中公文庫)

【あらすじ】
 中学3年生の上田ひろみは15歳の誕生日に失恋。泣き疲れて眠り、目覚めるとそこは自分の部屋ではなくアラビアンナイトの世界だった。そしてひろみが出会ったターバン姿の青年はひろみのことを磨神族“ジン”だと言う。こうしてひろみはなぜか不思議な力を持つジンとして異世界を旅することになってしまい――。

 児童文学作家、ファンタジー作家である荻原規子さんの『これは王国のかぎ』は、アラビアンナイトの世界を舞台にしたファンタジー作品。日本神話を題材にした「勾玉三部作」や中世ヨーロッパ風の異世界を舞台にした「西の善き魔女シリーズ」など、多くのシリーズ作品を手がけている荻原さんですが、この作品は1冊で完結する話で、また、主人公のひろみのあっけらかんとしたキャラクターや陽気でユニークな世界造形なども手伝って、荻原さんの小説を読んだことがない方にも手に取りやすい作品ではないかと思います。
 物語の世界観的にも魔法が生きるアラブ世界でイメージしやすいですし、ファンタジーのセオリーを踏襲した内容なのですいすいと読み進められます。また、思春期の少女を主人公にした小説に長けた荻原さんらしく、この作品も少女小説や少女漫画っぽい雰囲気があり、ほのかな恋愛も描かれていたりして、そういった感じの物語が好きな人も大いに楽しめます。ちなみに物語としては完全に別なものの、同じく上田ひろみが主人公の『樹上のゆりかご』という作品もあり、ファンタジー要素は皆無ですが学園の謎を巡るミステリーとなっていて、こちらもおもしろいです。


七夜物語(上) (朝日文庫)

七夜物語(上) (朝日文庫)

【あらすじ】
 母とふたり暮らしのさよは小学4年生。ある日、さよは町の図書館で『七夜物語』というタイトルの本を見つける。なぜか『七夜物語』に惹かれるさよだったが、ある夜、ひょんなことから同級生の灰田くんと一緒に近所の高校に忍び込むことに。そこで出会ったのは人間ほどもある大きなネズミで――。

 川上弘美さんの『七夜物語』。普段は大人向けの小説を書いている川上さんが初めて手掛けた本格的な児童文学です。ひょんなことから奇妙で不気味な夜の異世界に迷い込んでしまった女の子と男の子の冒険を描いていて、子どもにとっての教訓的な部分もありつつ、それを押しつけるのではなく、子ども自身の心から生まれる怒りや喜び、悲しみといった感情に基づいて描写していて、かつて子どもだった大人にとっても身に沁みるような作品となっています。『七夜物語』に関しては、当ブログの夜に読みたい小説・私的10撰という記事でも取り上げましたので、ぜひそちらもお読みください。


 さて、最後は冒険を描いた海外の小説3冊で締めくくります。


クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))

クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))

【あらすじ】
 退屈な日々を送る12歳の少女クローディアは家出をすることに決め、パートナーとして弟のジェイミーを連れてニューヨークのメトロポリタン美術館を家出先に選ぶ。クローディアとジェイミーは美術館に隠れ住んでいることがばれないように閉館時間はバスルームに潜んだり、開館中は子どもたちのグループに紛れて展示物を観賞したり、夜はアンティーク・ベッドで眠ったり、家出を満喫。そんな時、作者の分からない天使の大理石像が新しい展示物として美術館にやってきて――。

 アメリカを代表する児童文学作家、E・L・カニグズバーグさんの代表作『クローディアの秘密』。姉弟が世界最大級の美術館であるメトロポリタン美術館にこっそり住むという想像しただけでもワクワクする物語で、美術館で生活するというリアリティにぐいぐい引き込まれます。
 作者のカニグズバーグさんは大人から見た子どもではなく、本当の意味で子どもらしい子どもを描く作家として有名で、この『クローディアの秘密』でも主人公たちは自由奔放、はた目から見たら勝手に美術館に住んでしまうとんでもない悪ガキとも言えますが、逆に言えば自らの力で人生を切り拓いていこうというたくましさに満ちていて、読んでいて痛快です。そんな子どもたちがミケランジェロ作と疑われる天使像の謎に迫っていくのですが、自分の頭で考え自分の身体で行動することによって、揺るぎない“自分”というものを獲得していくさまを鮮やかに描いています。家出というのが子どもにとって単なる嫌悪する日常からの忌避じゃなくて、自分自身を発見するために欠かせないイニシエーションなんだというのを実感させられる作品です。


闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))

闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))

【あらすじ】
 エクーメン連合の使節ゲンリー・アイは外交のため両性具有の人々が住む惑星ゲセンを訪れる。ゲセンには複数の国があるが、アイはまずその中の一つカルハイド王国で活動し始め、国王と接触しようとするが、感触は思わしくない。そのため今度はカルハイドの隣国であるオルゴレインに場所を移し、順調に外交を進めるが、国政の争いに巻き込まれ囚われの身に。そんなアイを助けてくれたのはかつてカルハイドの宰相だったエストラーベンで――。

 「ゲド戦記シリーズ」などファンタジー作品でも知られるSF作家アーシュラ・K・ル=グウィンさんの代表作の一つ『闇の左手』。同じ世界観の下に書かれた「ハイニッシュ・サイクルシリーズ」の1作ですが、単独で完結している話なので、ほかの作品を読まずとも理解できます。
 文化人類学に基づいた作品を多く書いているル=グウィンさんですが、『闇の左手』でも異文化交流の難しさが徹底的に掘り下げられます。舞台となる惑星ゲセンの特徴は何といっても人々が皆両性具有(男性でもあり女性でもある)ということで、主人公の男性アイは戸惑いつつも、同盟を結ぶため外交を続ける。物語のハイライトは更生施設から逃亡したアイとエストラーベンが追っ手に見つからないように大氷原を横断して逃避行するところ。一歩間違ったら即死に繋がりかねないという極寒の地のシーンが長々と続くのですが、文化や習慣が違うどころか身体の生態そのものが全く別物という異星人同士の二人は、当然最初は大きな距離があるものの、運命共同体であることによって必然的に絆を強めていきます。SF作品ではあるのですが、そうしたSFらしさ以上に全く異質な他者とどう関係性を築いていくかという心の問題を追求していて、理解するということ、受け容れるということの本質が描かれます。また、ゲセン人が両性具有であるという設定もここで活かされていて、単純な男と男の友情でもなく、男と女の恋愛感情でもなく、名前を付けようのない関係、一個の人間と人間との純粋な関係になっていて、印象深いです。
 全体的に淡々として起伏の少ない展開、語り口なので、決してとっつきやすい作品ではないのですが、SFを普段読まない方にもぜひ読んでみてほしい名作です。


スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

【あらすじ】
 主人公ゴードン・ラチャンスは小説家。ある日子どもの頃からの親友が死んだことをきっかけに、ふとキャッスルロックという小さな町に住んでいた12歳の時のことを思い出す。12歳の夏休み、森の奥に子どもの死体があるという噂を聞いたゴードンを始めとする少年たちは、死体探しの旅に出て――。

【収録作】
「スタンド・バイ・ミー」
「マンハッタンの奇譚クラブ」

 言わずと知れたスティーヴン・キングの名作「スタンド・バイ・ミー」。「恐怖の四季」と題した春夏秋冬それぞれを舞台にした4つの中編を収録した作品集の中の1作で、映画化作品も有名です。
 あらすじのとおり、少年たちのひと夏の冒険のドラマで、あまりにも知られているので私がわざわざここで紹介するまでもないくらいですね。「スタンド・バイ・ミー」についてはこちらの記事でも取り上げていますので、ご参考ください。



 さて、以上が冒険を描いた小説の私的10撰です。ファンタジックな異世界を冒険するものもあり、現実の地球を横断するものもあり、身近な場所を探検するものもあり、どれもおもしろい作品ばかりです。少しでも興味をそそり、本選びの手助け、参考になればいいなと思います。では。


:『羊をめぐる冒険(上)』の書影は講談社の公式サイトから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
旅に出たくなる本・私的8撰(海外編) 2013年10月18日  沢木耕太郎『深夜特急』を記事内で取り上げています。
SF小説・私的10撰 2013年10月6日  筒井康隆『旅のラゴス』を記事内で取り上げています。
夜に読みたい小説・私的10撰 2014年9月16日  川上弘美『七夜物語』を記事内で取り上げています。
夏に読みたい小説・私的10撰 2014年7月8日  スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』を記事内で取り上げています。
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by hitsujigusa | 2015-08-29 16:06 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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 フィギュアスケーター衣装コレクション第9弾は先日現役引退されたスウェーデンのヴィクトリア・ヘルゲソンさんです。
 ヴィクトリアさんが本格的にシニアの国際大会に参戦したのは08/09シーズン。初出場した世界選手権2008は18位、2年目の2009年は27位と成績は芳しくありませんでしたが、3年目の2010年大会では10位と好成績を収め、スウェーデン選手として歴史を作りました。翌シーズンからはGPシリーズにも参戦し、2011年のスケートアメリカでは3位に入り、スウェーデン選手として初めてGPシリーズのメダルを手にしました。その後もスウェーデンのエースとして活躍し、ソチオリンピックにも出場。また、妹のヨシ・ヘルゲソン選手とともに美人姉妹としても知られ、地元スウェーデンで開催された2015年の欧州選手権ではヨシ選手4位、ヴィクトリアさん5位と姉妹揃って素晴らしい成績を残しました。この結果もあって世界選手権2015のスウェーデン代表にはヨシ選手の方が選ばれ、そして2015年4月8日、自身の公式サイトで現役引退を発表しました。
 美しく伸びやかなスケーティングとエレガントな表現力でフィギュアファンを魅了したヴィクトリアさん。今回はそんな彼女のコスチュームをおさらいしたいと思います。

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by hitsujigusa | 2015-08-19 00:08 | フィギュアスケート(衣装関連) | Trackback | Comments(0)

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 アイスショーシーズンもそろそろ終盤に突入し、現役選手たちは試合モードに入りつつあると思いますが、日本の選手を始めとするスケーターたちの新プログラム情報をお届けします。



 まずは上の写真でもお分かりのとおり、無良崇人選手のプログラムについてです。無良選手は6月に行われたアイスショー「Dreams on Ice」で新ショートプログラム「黒い瞳」を披露しましたが、フリーに関しては未発表のままでした。ですが、8月に行われた浅田真央選手がホストのアイスショー「THE ICE」にて新フリーを発表。プログラムはシルク・ドゥ・ソレイユの「O」であることが分かりました。
 「O」といえば鈴木明子さんがパーソナルベストをマークした代表作として知られていますが、あの壮大でファンタジックな音楽を男らしく硬派なイメージの強い無良選手がどう演じるのか楽しみですね。SPの「黒い瞳」もそうですが、これまでの無良選手のイメージを良い意味で裏切る、新たな分野に挑戦しようとしているんだなというのが選曲から伝わってきます。プログラムの振り付け師もSPがアイスダンスの五輪チャンピオン、チャーリー・ホワイト選手ですし、フリーはあのジェフリー・バトルさんということで、全く新しいコラボレーションですから、今までと一味違った無良選手の姿が見られるでしょうね。


 そして、昨シーズン大きく飛躍した村上大介選手も新プログラムを発表しています。

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 村上選手も「Dreams on Ice」で新プログラムを初披露し、その際の記事で新フリー「彼を帰して ミュージカル『レ・ミゼラブル』より」を発表、というふうに書いてしまったのですが、正しくはこちらはショートプログラムで、フリーはミュージシャンのYOSHIKIさんの「Anniversary」であることを7月に村上選手自身が公式サイトで発表しています。「Anniversary」はYOSHIKIさんが1999年の今上天皇の即位10年を祝う祭典のために作曲した奉祝曲。私自身は聴いたことがないのでどういう曲かよく知らないのですが、ネット上にアップされている練習動画を見ると、ピアノ曲でドラマチック&ダイナミックな良いプログラムになりそうですね。SPの「彼を帰して」もバラード曲ですから、ショート、フリーともに比較的エレガンスな感じで、村上選手の活発なイメージと比べると新鮮味があります。楽しみですね。


 また、すでにフリープログラムを発表している羽生結弦選手は練習拠点のトロントで練習の模様を公開し、その場でショートプログラムの演目を発表。14/15シーズンのSP「バラード第1番」を引き続き使用することを明かしました。
 個人的にはショートも新しいプログラムを見たかったなと思いますが、羽生選手は「パリの散歩道」を2季続けて演じることでプログラムを磨き上げていった過去がありますし、今回もそういったパターンなので驚きはないですね。昨シーズンは初戦の負傷によって当初の予定のジャンプ構成が組めなかったということもありますし、今季こそ本来の形の「バラード第1番」をということなのかもしれません。振り付けなど変更される部分があるのかどうかはまだ分かりませんが、さらに洗練されて昨季以上のプログラムになることを願っています。


 ここからは海外選手の新プログラムについての情報です。

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 1発目はソチ五輪女王のロシアのアデリナ・ソトニコワ選手。SPは「Latina」、フリーは「Je suis malade」です。
 ショートの「Latina」は「THE ICE」で披露されたプログラムで、私自身はまだその演技を見ていないのでどういう音楽かは知らないのですが、タイトルから想像するに情熱的な感じなのでしょうか。
 一方、フリーはフランスの歌手セルジュ・ラマが1973年に発表したフランス語の楽曲で、のちにさまざまな歌手にカバーされています。ソトニコワ選手が使用するのはベルギー出身の歌手ララ・ファビアンが歌うバージョンで、本来は14/15シーズンに予定していたものを持ち越すということになります。この曲は日本ではそこまで知られていませんが、かつては皇帝エフゲニー・プルシェンコ選手もエキシビションで使用していますし、ヨーロッパではスタンダード・ナンバーなんですね。“Je suis malade”=私は病気というタイトルのとおり、恋の病に苦しめられる様子を描いた大人の恋の歌で、昨季の負傷休養から復帰するソトニコワ選手がこの新しいプログラムでどんなものを表現してくれるのか、今からわくわくしますね。


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 現世界王者、スペインのハビエル・フェルナンデス選手はSPが「マラゲーニャ」、フリーが「映画『野郎どもと女たち』より」だそうです。
 「マラゲーニャ」はフィギュアファンにとってはもうおなじみ中のおなじみの楽曲。キューバ出身の音楽家エルネスト・レクオーナが作曲したスペイン風楽曲で、異国情緒漂う世界観が魅力的です。スペイン人のフェルナンデス選手が演じるのにまさにぴったりな選曲と言えます。ただ、オーソドックスな「マラゲーニャ」ではなく、スペインを代表するギタリスト、パコ・デ・ルシアとスペインを代表するテノール歌手、プラシド・ドミンゴが演奏、歌唱するバージョンだそうで、今まで見たことのない新しい、フェルナンデス選手ならではの「マラゲーニャ」になりそうですね。
 フリーはブロードウェイ・ミュージカルを映画化した作品のサウンドトラックを使用したプログラム。ニューヨークを舞台に賭博師たちの賭けを描いたコメディで、映画版ではマーロン・ブランドやフランク・シナトラなどそうそうたる面々が出演しています。これまでも「チャップリン・メドレー」や「Satan Takes a Holiday」などコミカル色の強いプログラムをたびたび演じてきたフェルナンデス選手ですが、この新フリーもそういった系統に位置しているのかもしれません。これまでのコミカル系のプログラムとどういった感じで違っているのか、どんな空気感の違いがあるのか、注目して見たいなと思います。


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 現アメリカ女王のアシュリー・ワグナー選手はSPが「Hip Hip Chin Chin」、フリーが昨季と同じ「映画『ムーラン・ルージュ』より」であることを自身のツイッターなどで明かしています。どちらも振り付けはシェイ=リン・ボーンさんです。
 ショートはサンバ。作詞・作曲はドイツ出身のジャズ・バンド、クラブ・デ・ベルーガで、You tubeで聴いてみたのですが、太鼓やドラムのリズムがとてもノリノリで、サンバというのは珍しいですし、ワグナー選手にとっても新しいジャンルの曲ですが、リズム感の良いワグナー選手なら滑りこなせそうな音楽だなと思います。また、大人のための音楽という印象もあって、ベテランの彼女にぴったりだなと感じますね。ボーカル入りの曲ですが、全面ボーカルというよりタイトルにもなっている“Hip Hip Chin Chin”というフレーズをところどころで繰り返すという感じなので、たぶんそのままボーカル入りを用いるのではないかと思います。
 フリーは昨シーズンと同じですが、さらにブラッシュアップできると判断しての選曲なのでしょうね。昨シーズンの序盤でこのフリープログラムを見た時は、見ているこちらがボーカル入りプログラムにまだ慣れていないということもあってしっくり来ませんでしたが、シーズンの終盤では見事に自分のものにして歌声とも一体化していました。ワグナー選手にとてもよく合っているプログラムだと思いますので、さらなる進化を期待したいですね。


 中国のエース、閻涵(ヤン・ハン)選手はショートがジャズのスタンダード・ナンバー「シング・シング・シング」、フリーが「映画『ロミオ+ジュリエット』より」であることを発表済みです。SPはジャズとのことですが、昨季のフリーもジャズの「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」だったので得意分野と言えるでしょうか。ただ、新鮮味はあまりないので、同じジャズでもどう演じ分けて新鮮味を感じさせるかがポイントとなりそうですね。そして、フリーは1996年公開のレオナルド・ディカプリオ主演の『ロミオ+ジュリエット』のサントラ。かつて羽生結弦選手が演じ、初めての世界選手権のメダルを取ったことで有名な伝説的プログラムですが、そのあまりにもインパクトの強い作品をどう閻選手が自分のものにするか楽しみです。失礼ながらロミオのイメージと閻選手のイメージがうまく結びつかないのですが、閻選手のインタビューによると「新しいものにトライしたい」ということのようですし、今までと違うことをやろう、新境地を開拓しようとする閻選手の気持ちはよく分かりますね。未知数ではありますが、楽しみにしています。


 カナダの現チャンピオン、ナム・グエン選手はSPが「映画『キリング・フィールド』より」、フリーがバッハの「パッサカリアとフーガ」という、こちらも新たなチャレンジを見せています。SPの映画はシリアスな戦争映画ですし、フリーはバロック音楽の巨匠バッハの重厚な楽曲ですから、昨季とは全く違った選曲ですね。昨シーズンはシニア1年目ということもあって等身大の明るさや元気の良さを前面に押し出していた感じがしましたが、今季は2年目ということでがらりとイメージを変え、思い切って大人路線にチャレンジしてきた印象があります。1年目から十分な活躍を見せたグエン選手ですが、2年目は一体どんなシーズンを送るのか、とても楽しみですね。


 こちらも本格的なシニア参戦としては2年目となるアメリカのポリーナ・エドマンズ選手は、SPにベートーヴェンの「ピアノソナタ第14番」、フリーに「映画『風と共に去りぬ』より」を使用することが判明しています。ショートの「ピアノソナタ第14番」はいわゆる「月光ソナタ」で、ベートーヴェンのピアノソナタの中でも特に有名なものの一つ。フリーもアメリカ映画の代表選手という感じで、今までのエドマンズ選手の可愛らしかったりダンサブルだったりというのとはまた違った、大人っぽい選曲となっていますね。「月光ソナタ」はしっとりと悲哀を感じさせますし、一方で「風と共に去りぬ」はオーケストラが奏でる壮大な曲想が印象的な作品で、それぞれに全く異なるイメージで、エドマンズ選手の演じ分けに注目です。


 負傷によって14/15シーズンはフル休養したカナダの前女王、ケイトリン・オズモンド選手は、SPがシンディ・ローパーが歌う「ラ・ヴィ・アン・ローズ」、フリーが「アストル・ピアソラ・タンゴ・メドレー」という14/15シーズンに予定していたものと同じプログラムです。シャンソンの名曲「ラ・ヴィ・アン・ローズ」は定番中の定番ですが、シンディ・ローパーが歌うバージョンということでエディット・ピアフバージョンやルイ・アームストロングバージョンとも違う独特な雰囲気があるでしょうから、楽しみですね。フリーはピアソラのタンゴ・メドレーで、これまでも抜群のリズム感を活かしたノリノリ系のプログラムを多く演じてきたオズモンド選手らしく、ダンス能力を十二分に発揮できるプログラムでしょうね。ただ、マンボやミュージカル音楽とは異なる大人の哀愁を漂わせるのがタンゴですから、1年の負傷休養を経て復帰する彼女がどんなふうに変化しているのか、期待したいと思います。


 同じくカナダのアレーヌ・シャルトラン選手はSPが「映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』より」、フリーは「映画『風と共に去りぬ』より」とのことです。SPで使用されるサントラの映画は、ドイツ出身のコンテンポラリー・ダンスの振付家ピナ・バウシュの姿を追ったドキュメンタリー作品。フィギュア界ではまだそんなに使用頻度は高くないですが、13/14シーズンにアメリカのジェレミー・アボット選手がSPで劇中曲を使用したのが個人的には印象に残っています。クラシックでもなくミュージカルでもなく、コンテンポラリー・ダンスらしい音楽だと思うので、シャルトラン選手にとっても新しいジャンルですね。そしてフリーは『風と共に去りぬ』のサントラを使用ということで、エドマンズ選手と丸かぶりですが、選手には申し訳ないですがそれぞれを比べながら見る楽しみもありますし、全く異なる個性を持った選手が同じ作品・テーマの下に表現したらどうなるんだろうという楽しみ方もあるので、注目ですね。


 アメリカの実力者、コートニー・ヒックス選手はSPで「奇跡の始まり」、フリーで「映画『エリザベス:ゴールデン・エイジ』より」を演じるそうです。ショートはイギリス出身のロック・ミュージシャン、ピーター・ガブリエルの楽曲で、頻繁にというほどではありませんが、しばしばフィギュア界でも使われていますね。フリーはエリザベス1世を描いた映画のサントラ。昨季のフリーも映画音楽だったヒックス選手ですが、ダイナミックさや重厚さの表現に長けている選手ですから、エリザベス1世をうまく演じるんじゃないかと思います。


 シニア参戦2年目となるロシアのアディアン・ピトキーエフ選手は、SPが「Pain/Appassionata」、フリーが「映画『ミッション』より」という演目。SPは日本の作曲家、はまたけしさん制作の楽曲と、ニューエイジ・ミュージックのデュオ、シークレット・ガーデンの楽曲を組み合わせたプログラム。フリーはフィギュア界定番の映画音楽で、決して若いスケーターが表現するのに容易い作品ではないと思いますが、男子選手ながら優雅かつ繊細なオーラを漂わせるピトキーエフ選手のイメージには何となくしっくり来ますね。


 さて、ここからは今シーズン本格的なシニア参戦を果たす4名の新プログラム情報を一気にご紹介。
 まずは2015年世界ジュニア女王のロシアのエフゲニア・メドベデワ選手。SPは「映画『白夜の調べ』より」、フリーは「Dance For Me Wallis 映画『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』より/Charms 映画『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』より」です。ショートは1978年に公開された日本とロシアを舞台にした日本映画のサントラで、若い選手が演じるにしては珍しいマニアックな選曲ですね。フリーも映画音楽ですがこちらは2012年公開の最近のもの。歌手のマドンナが監督を務めた映画で、イギリス国王と一般のアメリカ人女性との恋の実話を描いています。ロマンティックな恋愛映画ですから、初々しくて可愛らしいメドベデワ選手にはぴったりでしょうね。


 カザフスタンの有望株、エリザヴェート・トゥルシンバエワ選手のSPは「悲しみのクラウン」、フリーは昨季と同じ「パパ、見守ってください 映画『愛のイエントル』より」。SPは韓国のキム・ヨナさんがソチ五輪シーズンのSPに使用したことで記憶に新しい楽曲。15歳のトゥルシンバエワ選手には少し大人っぽい気もしますが、あえて背伸びしてということなのでしょう。その一方、フリーは昨季からの持ち越しで滑り慣れているものを使用することで最初から安心感や自信を持って演じられるでしょうから、ショートとフリーでうまくバランスを取っているんですね。


 初挑戦の2015年全米選手権でいきなり3位に入り一躍脚光を浴びたカレン・チェン選手は、SPが「誰も寝てはならぬ オペラ『トゥーランドット』より」、フリーが「ミュージカル『レ・ミゼラブル』より」だそうです。ショートは王道のオペラの劇中曲でかなり重厚で、しかもテノール歌手ルチアーノ・パバロッティのボーカル入り。ベテランの選手でも表現するのはそれなりに難しい楽曲だと思いますが、思い切った背伸びですね。フリーはとても親しみやすいミュージカル音楽なので、演じるにあたってもやりやすいのではないかなと思います。


 最後は同じくアメリカのハンナ・ミラー選手、18歳。SPは「Rich Man's Frug 映画『スイート・チャリティー』より/Big Spender 映画『スイート・チャリティー』より」、フリーは「プッチーニ・メドレー」とのことです。SPは以前オズモンド選手が演じていて、けっこうノリノリな感じのアクティブな楽曲でしょうか。フリーはイタリアの作曲家ジャコモ・プッチーニのメドレーで、どの作品・楽曲が用いられるか詳細は分かりません。ジュニア時代はジュニアGPファイナルの出場経験もあり、期待されながらもシニアではなかなか芽が出なかったミラー選手ですが、満を持してのシニアGP参戦という感じで楽しみですね。



 ということで、この記事は以上になります。ざっと今回の記事に限らず新プログラムを見渡して見て気付いたのは、今季はプッチーニが特に人気ということでしょうか。浅田真央選手のフリー「蝶々夫人」を始め、宇野昌磨選手のフリーも「トゥーランドット」ですし、アメリカのマックス・アーロン選手のSPも「トゥーランドット」。この記事内で紹介したチェン選手はSPが「トゥーランドット」、ミラー選手はフリーがプッチーニのメドレーということで、例年よりもプッチーニ作品が多いような気がします。名作を多く残しているプッチーニは元々フィギュア界の大定番ですが、今季はそれと比べても多めな感じがして、14/15シーズンは「オペラ座の怪人」が一大ブームでしたが、15/16シーズンは“プッチーニ・ブーム”と言えそうですね。
 今後もまだプログラムを発表していない選手の新プログラム情報をまとめてお伝えしたいと思います。では。


:無良選手の写真、フェルナンデス選手の写真は、フィギュアスケート専門誌「International Figure Skateing」の公式フェイスブックページから、村上選手の写真は村上選手の公式インスタグラムから、ソトニコワ選手の写真、ワグナー選手の写真は、フィギュアスケート情報ウェブサイト「Absolute Skating」の公式フェイスブックページから引用させていただきました。

【参考リンク】
Skating's biggest stars heat up Asada's 'THE ICE' 「THE ICE」について報じた記事で、無良選手、ソトニコワ選手、ワグナー選手のプログラムについての言及があります。
Han Yan aims to make history for China 閻選手の近況について報じた記事です。
Nguyen adds maturity, second quad to arsenal グエン選手の近況について報じた記事です。
Edmunds to channel iconic O'Hara in new free skate エドマンズ選手の近況について報じた記事です。
Welcome back: Osmond returns after lost season オズモンド選手の近況について報じた記事です。

【ブログ内関連記事】
羽生結弦選手、15/16シーズンのフリープログラムを発表&新プログラム情報① 2015年6月19日
浅田真央選手、15/16シーズンのプログラムを発表&新プログラム情報② 2015年7月2日
各選手の15/16シーズンの新プログラムについて・その④ 2015年9月27日
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by hitsujigusa | 2015-08-13 01:25 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(2)

花図鑑 1 (ハヤカワ文庫JA コミック文庫)


 8月に入りますます暑さ厳しくなってきていますが、もうすぐやって来る8月8日は少女漫画家・清原なつのさんの誕生日です。ということで、清原さんの代表作で、私が清原作品の中で個人的にいちばん好きな『花図鑑』を取り上げたいと思います。なお、清原作品についてはこちらの記事でもう一つの代表作「花岡ちゃんシリーズ」をピックアップしていますので、ご参考ください。

 まず始めに『花図鑑』についてざっくりと説明しますと、女性の恋と性をテーマにしたオムニバス作品集です。早川書房から全2巻で出版されており、全20話(1巻に10話ずつ)で毎作ひとつの花や植物がモチーフになっていますが、それぞれ別個の話で繋がりはなく(一部繋がってる話もあります)、しかし一貫して女性の性の問題を描いています。といってもそんな堅苦しいものではなく、喜劇あり、ファンタジーあり、時代劇あり、SFあり、青春ドラマあり、一作一作趣向を変えながら“性”を巡る女性の心理を繊細に描写していて、一見可愛らしい絵とは裏腹な鋭さ、ドキッとするような視点で、タブー化している女性の性のリアルに大胆に突っ込んでいます。
 ここから一話ずつ簡単なあらすじとともに内容を紹介。


第一話「聖笹百合学園の最期」
 男子禁制の女子校・聖笹百合学園。生徒は年々減る一方で、来年度からの共学化が決定していた。男嫌いで学園の伝統を愛する教師・有栖川は強固に反対するが、生徒会長の花菱松子はどうせ共学になるなら今すぐに校則を改正して男子禁制をやめるべきだと主張して――。
 純潔をモットーにする女子校を舞台に、断固として潔癖を守ろうとする教師と異性交際を認めさせ自由を勝ち取ろうとする(実はこっそり男子と付き合っている)生徒会長とのおかしな攻防を描いた喜劇。おもしろいのは有栖川先生を始めとする“保守派”の裏の顔で、潔癖過ぎるあまりに逆に不純な方向(通学路の監視、少女愛etc)に流れていく姿がシュールかつ皮肉めいていて、でも本人たちは大真面目ゆえにおかしみを誘っていて、ある一方から見ると悲劇、別の一方から見ると喜劇というお手本のようなコメディと言えるかもしれません。

第二話「ばら色の人生」
 女子大生・山科まりこは大学入学を機に、高校時代の予備校講師・佐久間先生と同棲を始める。そんな二人の家にまりこのクラスメイトでおかまの志田君がやってくる。乱暴な彼氏から逃げてきたという志田君は、自分をここに置いてほしいと言い――。
 ちょっと奇妙な三人の同居生活、三角関係を描いたラブストーリー(?)。キーとなるのはおかま(といっても見た目は普通で女装などしているわけではないイケメン風好青年)の志田君で、清原作品にはゲイに限らず中性的な男子がしばしば登場しますが、性別というものが意外に確固たるものではなく、恋という場面においてはあまり関係ないものなんだということを実感させられる。

第三話「雨のカトレア産婦人科」
 重い生理痛に苦しむ川上舞世は小説家志望の書店員。ある日不正出血で産婦人科を訪れた舞世は、医師になっていた幼なじみの山下晶生と再会する。初恋の人との感動の再会もつかの間、診察で舞世は晶生にあそこを見られてしまう。初恋の人に見られたくない部分を見られたショックで舞世は動揺し――。
 あらすじでお分かりのとおり、物語冒頭から久しぶりに会った初恋の人に内診で女子の大事なところを見られてしまうという衝撃的な作品ですが、主人公の揺れる心を通して女性にとっての大切なことを描いていて、コミカルさが前面に出ているものの、けっこうハッとさせられるマジメさもあります。

第四話「いばら姫の逆襲」
 ある城で魔女の呪いによって百年の眠りについた二人のお姫様。眠りから覚めた二人が眠っているあいだの映像を見ると、幾人もの王子たちが二人が目覚めないのをいいことに思うがままに弄んでいた。ショッキングな事実に怒った二人は王子たちを殺す復讐の旅に出て――。
 ヨーロッパ風の世界を舞台にしたファンタジー風作品で(しかしSF風のホログラムも出てくる)、「眠りの森の美女」(グリム童話ではその名も「いばら姫」)を下敷きにしています。お姫さまが眠っているあいだに実は……と、原作で描かれない睡眠中のストーリーを付け加え、見事な発想の転換で元々の物語とは全く違う復讐物語に仕上げてます。

第五話「水の器」
 女子高生・多麻子の悩みの種は父親が海外赴任になったため同居している同い年のいとこ・喜久子だ。真面目で地味な多麻子に対し、美人の喜久子は複数の男と同時に付き合う魔性の女。自分とは正反対の喜久子にイライラを募らせる多麻子だったが、ある日喜久子が妊娠したかもしれないと言いだし――。
 女子高生の妊娠という、『花図鑑』の中でも比較的シンプルなモチーフをストレートに扱った作品。しかし描き方は清原漫画らしく決して感傷的にならず、デリケートな問題として取り上げられやすいテーマをライトかつドライに、しかし鋭く真理を突いてます。“水の器”=子宮のことだと思われますが(たぶん)、女性特有の女性同士でしか理解できないであろう皮膚感覚みたいなものを巧みにとらえていて、女の怖さみたいなものも感じられる。

第六話「菜の花電車」
 家を出て下宿生活をすることにした高校生・吉岡。下宿屋には謎めいた大学生・橋場、そしてうら若き未亡人の大家・美千子がいた。かつて16歳の時に60歳の男と財産目当ての結婚をしたというミステリアスな美千子に惹かれていく吉岡だったが――。
 花畑の中にぽつんと建つ洋館の下宿屋、若くして年上の夫を亡くした美女、家庭の事情から逃げてきた少年というノスタルジックかつ古典的な設定で、『花図鑑』の中では異質な感じですが、リリカルさという点では清原さんの真骨頂でもあって、一方でそのリリカルさを客観的な目で見つめるドライな視点というのも確実にあって、そういったバランス感覚の良さが際立って発揮されてる作品ですね。

第七話「金木犀の星」
 不正入試のアルバイトをする17歳の少年・岩村香南(かなん)。ある日一人暮らしをする部屋に間違い電話らしい電話がかかってくる。声の主は若い女性で、次の日も同じ女性から電話がかかってきて――。
 主人公の少年と電話の向こうの謎の女性との会話でほぼ構成されていて、セクシュアリティな色は薄め。“電話”、“声”というモチーフを効果的に用いていて、顔が見えない会話劇のみで成立する恋愛を描いてます。

第八話「桜守姫秘聞」
 昔々あるところに桜守姫という笑わないお姫様がいた。心配した父親は姫に喜びを教えた者を結婚相手にするというおふれを出す。おふれを受けて由緒正しい家柄の若者たちが大勢集まり、体力テストや知恵比べを経て一人の若者に絞られるが――。
 『花図鑑』唯一の時代劇。わがままな姫を巡る話ですが、女性にとっての幸せとは何か、という哲学的な問いを問いかける物語でもあります。桜が重要なモチーフとして登場し、民俗学的なロマンもふんだんに盛り込まれてます。

第九話「かえで物語」
 レスリング部に所属する女子高生・佐田るちあの初恋は小学生の頃何度も対戦した紅葉かえでという少年。かえではその後海外に引っ越してしまい一度も会っていない。そんなある日初恋の少年と同姓同名の転入生(美少女)がレスリング部に入部してきて――。
 ネタバレしてしまうとるちあの初恋の少年と転入生の美少女は同一人物なのですが、その種明かしはぜひ読んでみてください。女と女、女と男の性別を巡る複雑な心理を描いた話です。

第十話「世界爺―セコイア―」
 健康器具メーカーの社長・山ノ原政己(56)は毎日のように世界が滅びる夢にうなされていた。そんなある日山ノ原は19年前に亡くなった妻に瓜二つの少女に出会い一目ぼれする。久しぶりに参加した俳句サークルで祖母の代理で来ていた少女=鈴木ひとみ(19)と再会すると、山ノ原の気持ちはますます高まって――。
 いい年したおじさんの恋を描いた話ですが、年老いていく男の悲哀がメインテーマとも言えます。60歳と19歳の恋愛という一見ありえなさそうな設定ですが、現実にもこれくらいの歳の差婚があることを思うと、やけにリアルな感じもします。

第十一話「カサブランカダンディ」
 女子大生の村井季楽は会社員の小田切と結婚することが決まり、着々と結婚式の準備を進めていた。その結婚式で使うブーケを小田切の高校時代の友人であるフラワーデザイナー・奥平阿州が作ってくれることになり、季楽は奥平と顔合わせをするが――。
 マリッジブルーに悩まされるヒロインがフィアンセの友人と出会って……というあらすじだけ聞くとありきたりにも思えますが、ブーケが全編に渡って重要なモチーフとなっていて、新鮮なアイテムづかいが光る作品です。

第十二話「レディーズ・ベッドストロウ」
 大学生の馨、高志、かれんの三人は仲の良い友達だったが、卒業前にかれんが馨と高志のどちらを選ぶか決めることになっていた。しかし馨はそんなかれんのはっきりしない態度に焦れて強引に肉体関係を迫ってしまう。翌日、登山へ出かけた三人だったが、その途中でかれんが滑落してしまい――。
 女一人、男二人の三角関係を描いたものですが、ヒロインは早々に事故で植物状態になり、本心を確かめることができなくなってしまう。レイプまがいのことをした男の心情をメインに話は進み、セックス、リハビリ、料理と“からだ”にまつわることを描きつつ、“こころ”の問題に迫っていきます。

第十三話「雨のカトレア産婦人科Ⅱ」
 産婦人科医の夫・晶生と結婚した小説家志望の主婦・舞世の妊娠が判明し、舞世はさっそく地中海でイルカと泳ぎながら出産したいと言い晶生を困らせる。どうしても地中海で出産したい舞世は晶生にスキューバダイビングのライセンスと船舶免許とイルカと仲良くする方法を身につけることを求めるが、実は晶生は水が苦手で――。
 第三話「雨のカトレア産婦人科」の続編。夫婦となった二人ですが、想像力(妄想力?)豊かな舞世に振り回される晶生。かなりはちゃめちゃだけど、なんだか憎めないキャラクター描写がおみごとです。

第十四話「梨花ちゃんの田園のユウウツ」
 受験を目前に控えた女子高生・真田梨花。家では両親、兄夫婦と同居しているが、兄夫婦はなかなか子どもを授からず家の中は微妙な雰囲気に。窮屈さと苛立ちを募らせる梨花は図書館で勉強することにするが、机の下でペッティングする高校生のカップルを目撃して――。
 同じ屋根の下で子作りに励む兄夫婦、図書館でひそやかに性交にふけるカップル。周囲の“性的なモノ”に対して違和感、嫌悪感を抑えきれない梨花が、さまざまな出来事を経て“性”を受け入れ、自分のものにしていくさまを描いています。ちなみに、梨花の家は梨農家で、梨を人工授粉させる場面がテーマともうまく絡んで色を添えます。

第十五話「梨花ちゃんの都会のユウウツ」
 大学に進学した真田梨花は実家を出て寮暮らしをすることに。その大学でかつて地元の図書館でペッティングしていた赤星有実と再会を果たす。取りやすい単位や試験問題の情報収集を指示するマイペースな有実に振り回される梨花。図書館で会っていた彼氏とは別れたという有実だが――。
 第十四話の続き、大学生編です。十四話では脇役として登場したカップルの彼女の方が再登場し、梨花と親交を深め、あのペッティングの理由も明かされます。主人公は梨花ですが、有実がもう一人の主役的存在となって一風変わった恋のドラマが繰り広げられます。

第十六話「じゃんぼらん」
 女子高生の鈴菜は家庭教師の不破先生と付き合っているが、不破先生はぶらりとインドに旅立ってしまう。その後生理が遅れていることに気づいた鈴菜は妊娠を疑うが、先生とは連絡がつかない。同時期、鈴菜が所属する演劇部ではコンクールに出品するための作品を制作していて――。
 女子高生の妊娠というテーマは「水の器」と同じですが、こちらでは主人公が生命、生殖をテーマにした演劇を制作するという展開で、現実(鈴菜の妊娠)と非現実(演劇)の二重構造で進行しながら、少女の葛藤に迫ります。この演劇がなかなかにカゲキで実際にあったらおもしろいだろうなと思います。

第十七話「野アザミの食卓」
 女子高生の桂と幼なじみの享(きょう)は子どもの頃から自然と付き合っている。自分の将来に漠然と不安を感じる享とそんな彼氏の異変に気づく桂。そんなある日、陸上部の萩原君が県大会で桂のために走ると告白してきて――。
 子どもの頃から付き合い続けてマンネリを迎えた幼なじみカップルの話。といってもシリアス系じゃなくて思いっきりコミカル調で、主役二人のキャラクターによって『花図鑑』の中では珍しい明るさ全開という雰囲気です。

第十八話「風の娘―アネモネ―」
 高校1年生の木崎あんぬは入試でトップだったことが災いし、周囲の同級生たちから一目置かれてしまい入学から1か月経っても友達ができない。そんな頃盲腸で入院していて入学に間に合わなかった高津有人が初登校し、あんぬの隣の席に。底抜けに明るい高津に最初は警戒していたあんぬも徐々に打ち解けていって――。
 大人しい少女とあけっぴろげな少年の恋物語。人付き合いにも恋にも臆病な女の子が男の子の力によって変わっていき、表現古いですが大人への階段を上っていくドラマを、40ページ弱にギュッと凝縮していて、短編ながらも長編のような趣き、読みごたえがあります。

第十九話「チューリップの王様」
 17世紀、オランダ。貧しい青年ヤンは裕福な家の娘ピアレットと結婚したかったが、貧乏なため父親に認めてもらえない。そこでヤンは高値で取引される珍しいチューリップの球根を求め、東インド会社の船でオリエントに向かう。しかし、途中で海賊に捕らえられ、ヤンは奴隷としてアラブの王様に買われてしまい――。
 かつてオランダでチューリップ狂時代なるものがあり、チューリップが高価な花としてもてはやされたことはご存知の方も多いでしょうが、そんな時代を背景に、アラブの千夜一夜物語を組み合わせた異国情緒溢れる物語。アラブのハレム(女性が住まう後宮)なんかも出てきたりして、清原漫画特有の抒情性が美しいです。

第二十話「ノリ・メ・タンゲレ」
 多貴子には正人という気の合う恋人がいたが、子どもの頃レイプされた経験によってうまくセックスすることが出来ずにいた。そんなある夜、多貴子とともに寝ていた正人の前に、子どもの姿の多貴子が現れる。子どもの多貴子は正人に自分がセックスできない理由を説明し、「私を愛して」「私を消して」と言い――。
 幼少期のレイプを扱った最終話。“ノリ・メ・タンゲレ”とはキツリフネという花の学名(正式にはインパチェンス・ノリ・タンゲレ)で、元々は聖書の言葉で“私に触れるな”という意味。そのキツリフネが咲き乱れる場所で幼い多貴子は犯されてしまったわけですが、実際に存在する花の名とレイプという出来事とを見事にクロスさせてます。清原さんはあとがき(『花図鑑1』に収録)で、「ノリ・メ・タンゲレ」を書くためにシリーズを書いていたのかもしれないと述べていて、『花図鑑』の集大成にふさわしい、象徴するような物語となっています。


 『花図鑑』には自らの中に潜む“性”に戸惑う少女、女性たちが大勢出てきます。女性にも性への興味、性欲というのは当然あるわけですが、現実には男と違って自らの性をオープンにできず、女子がそういう事柄への興味を示すだけでまるでいやらしいことをしているかのように思われがちです。が、『花図鑑』は真正面から堂々と女子の性を肯定します。いや、肯定というより当然普通にあるものとしてさらりと描いてくれます。そこにはヘンな熱さとか気負った感じはなくて、だからこそ読んでいるこちらも、あ、そういうスタンスでいいんだ、と、背負っていた荷物を地面に降ろした時のようにふっと心が軽くなります。
 また、「花岡ちゃん」の記事にも書きましたが、清原さんは金沢大学薬学部出身で、バリバリ理系の人です。理系の目で描かれる女性の身体の悩みやセックスは科学の話のようで、客観的な視点がところどころに差し挟まれることによって、独特の“清原節”みたいなものが生まれています。
 たとえば「雨のカトレア産婦人科」で主人公の舞世は初恋の相手に大事なところを見られたことに大きなショックを受けますが、しばらくして考え直してこんなふうに自分の気持ちを文章化します。


不思議な場所だった
いつも通る道に異次元世界への隠し扉があるのを示されたみたい
その辺りにあることは知っていたけど
なんとなく決めていた場所とはこころなしかずれていて
扉が開けられた時びっくりした

そこは永遠に皮膚であって体をとりまく壁だと思っていた
扉が叩かれた時そこじゃないっていう気がした
そこじゃないよ

そこは特別の部屋かもしれないけど
いつか だれか大切なお客様をもてなす部屋なのだから
きちんとしておくのは悪いことじゃないわ
部屋をととのえるために入ってもらった家具屋さんや壁紙屋さんガラス屋さんと恋に落ちる時もあるのかもしれない

(清原なつの『花図鑑1』早川書房、2004年3月、107頁)


 女性が自分の身体について(特にセックスに関わる部分について)まじまじと考えることはそうそうないもの。ショックな出来事を自分なりに解釈して前向きにとらえるあっけらかんぶり(タフさ)が印象的なモノローグです。
 また、「じゃんぼらん」では主人公たちが、男が絶滅した女だけの惑星で女一人でも妊娠できるようになるものの、無性生殖の弊害によってさまざまな問題が生じ、女王の娘たちも次々と原因不明の病気にかかり、人工的に作り出したY染色体で生まれた生殖能力を持つ男子と女王の娘とを結婚させようとする、というものすごいストーリーのシナリオを作りますが、ここでもY染色体、無性生殖、遺伝子、卵子と精子の減数分裂など、とても少女漫画らしからぬ専門用語が飛び交い、独自の世界観が展開されます。

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 「じゃんぼらん」に限らず、『花図鑑』はSF漫画かと見まごうくらい(SF漫画としての一面ももちろんあり)サイエンティフィックな要素に溢れてますが、あくまでどの作品もベースとなっているのは少女漫画らしいラブストーリーです。ただ、多くの少女漫画が心の問題の追求に集中する中で、清原さんはそこに体の問題をプラスします。手つなぎやらハグやらキスやらそしてその先の行為やら体の問題とは切っても切り離せないのが恋というもの。体の側からのアプローチだけでは心の問題を解き明かせないように、心の側からのアプローチだけでもきっと体の問題を解き明かせなくて、だからこそ体(=科学)と心(=非科学)の両方向からのアプローチが必要なんでしょう。キラキラして可愛らしい少女漫画に読み耽っているとついつい登場人物たちの肉体の存在を忘れてしまいがちですが、体を持たない人間は存在しないわけで、清原漫画というのは体と心を同等に、同じレベルで扱っているところが、やはり稀有だなと思うのです。

 『花図鑑』以外にも女子の性を取り扱った漫画を清原さんは複数書いてますが、その究極系とも言える『花図鑑』。少女漫画界のみならず、日本漫画界全体を見渡しても他に似るものなき、ジャンル分けできない傑作です。女性はもちろんのこと、ぜひ男性にも読んでほしい漫画です。


:記事内の絵は清原なつの『花図鑑2』(早川書房、2004年3月)から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
清原なつの『花岡ちゃんの夏休み』―みやもり坂があった頃 2013年5月19日




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by hitsujigusa | 2015-08-07 11:41 | 漫画 | Trackback | Comments(0)