c0309082_14423994.jpg


 3月14日から20日にかけて、ハンガリーのデブレツェンにおいて世界ジュニア選手権2016が開催されました。優勝候補、メダル候補が次々と欠場、棄権する異例の大会となりましたが、そのぶん予想外のことも多くあり、おもしろい試合内容となりました。

ISU World Junior Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

《女子シングル》


 まずは女子の結果から。優勝したのは日本の本田真凛選手です。村上佳菜子選手以来実に6年ぶり、女子では7人目の優勝者となりました。
 今大会の女子は大会開幕後にさまざまなアクシデントがあり、SPの前に圧倒的な優勝候補であったロシアのポリーナ・ツルスカヤ選手が練習中に右足首を捻挫して棄権。そしてフリーの前にはSPで首位に立った同じくロシアのアリサ・フェデチキナ選手がこちらは陸上トレーニングで右足首を捻挫して棄権。有力選手のまさかの棄権続出でしたが、そのぶんしばらくロシア勢に押され気味だった日本勢にとっては追い風が吹きましたね。
 そのまたとないチャンスをモノにしたのが本田選手です。SPでパーソナルベストをマークし、フェデチキナ選手と同点の2位(同点の場合は技術点で上回った方が上位となります)につけると、フリーでも全てのジャンプを予定どおりに下りる非の打ちどころのない演技で自己ベストを更新。トータルでも大台の190点台を超え、初出場にして初優勝を果たしました。ショート、フリー通じて唯一減点の一つもない本当にパーフェクトな出来で、SPも得点的には1位の選手と同点でしたから、完全優勝といっても過言ではないですね。今季の本田選手はショートで好位置につけてもフリーの特に後半で崩れてしまうシーンがしばしば見られ、全日本ジュニアやシニアの全日本ではその脆さが感じられたのですが、一方でジュニアGPファイナル、そして今大会と世界の大舞台では結果を残していて、ジュニア1年目だからこそ、国際試合ではあまり欲を持たずに思い切って挑戦できたのが功を奏したのかもしれませんね。来シーズンは打って変わって、日本女子のジュニアのエースとして結果を求められるシーズンになると思いますから、来季も今季と同じようなメンタルで臨めるかがカギとなってきそうです。
 銀メダルを獲得したのはロシアのマリア・ソツコワ選手。ショートはスピンのレベルの取りこぼしが響いて自己ベストに0.04点届かず3位発進。フリーでも終盤で細かいミスがありましたが自己ベストをマークし、世界ジュニア初の表彰台となりました。ソツコワ選手はすでにジュニア3年目で、1年目でさっそくジュニアGPファイナルを制したものの、世界ジュニアは負傷で辞退。昨シーズンはジュニアGPで好成績を収めましたが、ファイナル、世界ジュニアともに同じロシアのライバルの後塵を拝してメダルには届きませんでした。そういった意味でエリートでありながら苦労人という印象もあり、今大会も惜しくも頂点に届きそうで届きませんでしたが、シニアを見据える上で、この銀メダルは彼女にとって自信に繋がるんじゃないかなと思いますね。
 そして2年連続で銅メダルを手にしたのは樋口新葉選手。SPで得意の3ルッツ+3トゥループでダウングレード(大幅な回転不足)で転倒という珍しいミスで、表彰台まで約6点差の5位と出遅れましたが、フリーではほぼノーミスの演技で自己ベストを更新し2位、総合3位としっかり立て直し前年のメダリストの底力を見せました。今季の樋口選手はシーズン前に腰痛を発症した影響もあってシーズン序盤はかなり苦戦しましたが、全日本ジュニアで優勝し2連覇を達成すると、シニアの全日本では前年を上回る2位とどんどん調子を上げ、今大会は前年以上の順位を狙っていました。それだけにショートで出遅れてしまったのはもったいなかったですが、そこで諦めずフリーで果敢に積極的に挑んだことが2年連続のメダルに繋がりましたね。樋口選手のジャンパーとしての能力の高さ、総合力の高さ、また、熾烈な全日本ジュニアで連覇し、シニアの全日本でも実力者たちを押しのけて銀メダルを獲得したことを鑑みても、日本国内ではもちろん、世界でもジュニア女子の中で抜きんでた才能の持ち主であることは間違いなく、ジュニアでトップに立てなかったのは悔しさもあると思うのですが、能力の高さが必ずしも成績に直結しないのがフィギュアの難しさですね。来季はシニアに上がるそうなので、山あり谷ありだった今季の経験を活かして、シニアでも思いっきりぶつかっていってほしいと思います。

 4位に入ったのは日本の白岩優奈選手。ショートは得点源の3+3が入らず8位となりましたが、フリーでは冒頭で3+3を2つ組み込んだアグレッシブな演技を大きなミスなくまとめ、総合4位と大きくジャンプアップしました。惜しくも表彰台には及ばなかったですが、ジュニア1年目で4位は申し分ないですね。ジャンプ構成的にも際立って難しいチャレンジをしていて、来シーズンに向けて今から飛躍の可能性を大いに感じさせる、楽しみな内容でした。無限の伸びしろを持った選手だと思いますから、同じ濱田美栄コーチ門下生の本田選手と一緒に、切磋琢磨してお互いを高め合ってほしいなと思いますね。

 5位は今季からシニアに上がったカザフスタンのエリザヴェート・トゥルシンバエワ選手です。SPで演技途中に鼻血が出てしまうアクシデントがあり、そのため演技を中断して鼻に詰め物をして演技を再開しましたが、ジャンプミスや演技を中断したことによる減点5(10秒につき減点1)が響き、まさかの14位と出遅れました。ですが、フリーでは目立ったミスなく演技をまとめ上げパーソナルベストをマークしてシニア選手の実力を示し、14位からの5位と見事に挽回しました。
 以下、6位はアメリカのタイラー・ピアース選手、7位はシニアでも活躍するラトビアのアンゲリーナ・クチヴァルスカ選手、8位は地元ハンガリーのトース・イヴェット選手となっています。


《男子シングル》


c0309082_16561730.jpg


 女子もショートからフリーへと順位変動の大きい試合内容でしたが、男子はそれ以上に劇的な試合となりました。
 優勝したのはイスラエルのダニエル・サモヒン選手です。SPでは2つのジャンプミス、スピンのミスが相次ぎ、9位に沈みます。しかし、フリーは3度の4回転を全て完璧に成功させる会心の演技で巻き返し、イスラエル史上初の世界ジュニア優勝を成し遂げました。すでにチャレンジャーシリーズや欧州選手権など、シニアの国際大会で活躍しているサモヒン選手。まだ高難度ジャンプの精度だったり演技の完成度にばらつきはあるのかなと思いますが、爆発力はある選手ですね。今までフィギュアが盛んではなかったイスラエルからの新興勢力で、同国のアレクセイ・ビチェンコ選手とともに目が離せないおもしろい存在だなと思います。
 2位はカナダのニコラ・ナドゥー選手です。ショートは全てのジャンプを予定どおりにこなしたものの、スピンで細かなミスが出て自己ベストに遠く及ばず、8位に留まります。フリーも4回転などジャンプミスは複数ありましたが、2本の3アクセル含め成功させたジャンプではおおむね高い加点を得て、こちらも大幅に順位を上げました。昨季からジュニアGPに参戦しているナドゥー選手。すでに18歳で身長も180cmとシニア並みの選手なのですが、今季はジュニアGPで初めて表彰台に乗るなど力をつけてきていますね。今大会の内容でも分かるように、恵まれた体格を活かしたジャンプが決まれば高い加点がもらえる選手なので、あとは4回転の習得と確実性が課題になるでしょうね。
 3位はアメリカの樋渡知樹選手。ショートは全てのエレメンツを予定どおりにクリアし自己ベストで6位と好発進。フリーは1つジャンプの跳び過ぎで0点になるミスはありましたが、それ以外はミスらしいミスなくショートに続き自己ベストを更新し、初出場にして銅メダルを獲得しました。優勝候補筆頭であったネイサン・チェン選手の負傷により、補欠からの繰り上がりでの出場となった樋渡選手ですが、与えられたチャンスを見事に活かしましたね。世界的にはほぼ無名といっていい選手だと思いますが、今季は初参戦のジュニアGPで表彰台に立ち、全米ジュニア選手権を制するなど飛躍を遂げています。まだ16歳と若く、身長も154cmと小柄なので、これからフィジカル的にも技術的にもまだまだ伸びていきそうで、楽しみな存在ですね。

 4位はロシアのアレクサンドル・サマリン選手。SPで自己ベストを更新する好演技で2位につけましたが、フリーでは4回転や3アクセルなど大技でことごとく失敗してしまい、表彰台を逃しました。
 5位はアメリカのヴィンセント・ゾウ選手。ショートは自己ベストをマークして好発進しましたが、フリーでは3度の4回転に挑みながらも全てが不発となり、順位を上げられませんでした。
 6位のロシアのドミトリー・アリエフ選手はSPで自己ベストを大幅に更新し首位に立ちましたが、フリーは4回転や3アクセルなど基礎点の高いジャンプのミスが相次ぎ、ショートから大きく順位を落とす結果に。
 7位の韓国のチャ・ジュンファン選手はショートで自己ベストを更新し7位につけたものの、フリーでは細かなミスが重なりショートから順位は変わらず。
 8位のラトビアのデニス・ヴァシリエフス選手はショートで3位と好発進しましたが、フリーで大崩れし9位とメダルから遠のきました。

 優勝候補のアメリカのネイサン・チェン選手、前年の銅メダリストである日本の山本草太選手がともに怪我のため欠場し、誰が優勝してもおかしくない混沌とした状況になった男子でしたが、その状況をまさに体現するような予想のつかないショートからフリーの流れでしたね。
 ショートのトップスリーが全員フリーで崩れ表彰台落ちし、逆にフリーで上位になった選手たちが逆転で表彰台に乗るというまさにジュニアらしい試合経過だったなと思うのですが、SPで1位から10位までがおよそ10点差という僅差の戦いだったことが、このドラマチックな流れを生みましたね。
 思えば1年前の世界ジュニアでは現在シニアで大活躍している日本の宇野昌磨選手と中国の金博洋(ジン・ボーヤン)選手が覇権を争っていて、この二人が実績的にも実力的にも図抜けていたと思うのですが、今年はそういったずば抜けた存在というのがいませんでした。この実力の拮抗した中から、誰が抜け出るのか、今から来季が楽しみですね。


《ペア》


c0309082_2113740.jpg


 ペアを制したのはチェコのアナ・ドゥシュコヴァ&マルティン・ビダジュ組。SPで全てのエレメンツをコンスタントに揃えて首位に立つと、フリーもミスを最小限に抑えてパーソナルベストをマークし、完全優勝を果たしました。ジュニアGPやファイナル、ユースオリンピックなどほとんどの大会で銀メダルどまりだったドゥシュコヴァ&ビダジュ組ですが、シーズン最後の大舞台でとうとう頂点に立ちましたね。自己ベストも大きく更新して、持ち前の安定感が存分に発揮されたのではないかと思います。
 2位に入ったのはロシアのアナスタシア・ミーシナ&ウラジスラフ・ミルゾエフ組。ショート、フリーともに大きなミスなく演技をまとめ、初出場にして銀メダルを手にしました。今季初参戦のジュニアGPでは1大会で5位と決して目立った成績を残してはいませんが、年明け後はロシアジュニア選手権で優勝するなど急成長していました。その勢いのままに今大会も力を出し切りましたね。
 そして3位となったのはジュニアGPファイナル優勝、ロシアのエカテリーナ・ボリソワ&ドミトリー・ソポト組。SPでジャンプの転倒があり4位と出遅れましたが、フリーでは立て直して追い上げ、銅メダルを獲得しました。今季はジュニアGPファイナル、ユースオリンピックとジュニアの主要大会を全て制して今大会も優勝候補筆頭だったボリソワ&ソポト組ですが、ほかのペアがシーズン前半からの上積みを見せる中、ボリソワ&ソポト組はピークを持ってこれなかったことが頂点に届かなかった理由かなと思いますね。


《アイスダンス》


c0309082_14372033.jpg


 優勝したのは優勝候補の一番手に挙げられていたアメリカのロレイン・マクナマラ&クイン・カーペンター組です。SDはパーソナルベストと同点で2位発進すると、FDもほぼノーミスの演技でジュニアの歴代最高得点をマークし、逆転優勝となりました。女子、男子、ペアを見てもそうですが、優勝候補が順当に優勝するとは限らないのが競技の世界です。その中で予想どおりに優勝を勝ち取ったマクナマラ&カーペンター組は本当に実力あるカップルなのだなと思いますね。
 2位はマクナマラ&カーペンター組と同じコーチの下で練習するレイチェル・パーソンズ&マイケル・パーソンズ組。SDで自己ベストを更新して堂々の首位発進し、フリーはマクナマラ&カーペンター組に逆転されたもののこちらも自己ベスト更新で見事に銀メダルを獲得しました。
 3位はロシアのアッラ・ロボダ&パヴェル・ドロースト組。ジュニアGPファイナル2015では2位と実力者のロボダ&ドロースト組ですが、SDのステップの途中で女性のロボダ選手が転倒するまさかのミスがあり、6位と出遅れてしまいます。ですが、フリーでは減点の一つもない完璧な演技を披露して自己ベストをマークし、3位でフィニッシュしました。



 大会前の有力者の欠場、そして大会開幕後も棄権者が続出し、波乱含みだった今年の世界ジュニア。ですが、来季のジュニア界、そしてシニア界を展望する上でも、将来性豊かな選手たちが揃っていておもしろい試合でしたね。
 さて、フィギュアシーズンもいよいよクライマックス。3月末からは世界選手権が始まります。4月にはチームチャレンジカップという新しい大陸別団体戦の大会も開催が決まっていて、日本からはアジアのチームキャプテンとして荒川静香さんがチームを率い、アジア代表選手として宇野昌磨選手、宮原知子選手、ペアの須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組の参加が決定しています。今まで行われていたワールド・チーム・トロフィーとはまた別のシステム、ルールの大会になるそうで、こちらも楽しみですね。では。


:女子のメダリスト3選手の写真は、ペアメダリスト3組の写真、アイスダンスメダリスト3組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、男子メダリスト3選手の写真は、写真画像サイト「ゲッティイメージズ」から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
ジュニアグランプリシリーズ15/16について 2015年10月23日
ジュニアグランプリファイナル2015について 2015年12月18日
[PR]
by hitsujigusa | 2016-03-23 15:23 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

c0309082_18181016.jpg



 2016年3月15日、長らく日本のフィギュア界をリードしてきたトップスケーターの一人である小塚崇彦選手が現役引退を発表しました。

◆◆◆◆◆

【フィギュア】小塚引退、所属トヨタ自動車で社業専念「新たな人生歩む」

 フィギュアスケート男子の2010年バンクーバー五輪代表で、11年世界選手権銀メダリストの小塚崇彦(27)=トヨタ自動車=が3月末で現役を引退すると、日本スケート連盟が15日に発表した。昨年末の全日本選手権で5位に終わって世界選手権の代表を逃していた。中京大大学院を今春修了し、4月からトヨタ自動車で社業に専念する。

小塚は「5歳から始めたスケートを今まで楽しく続けてこられたのは、多くの方々のおかげだと感謝しています。氷上を去ることになりますが、これまでの経験を生かしてトヨタ自動車の従業員として新たな人生を歩むことに致しました」とコメントした。4月17日のアイスショー「スターズ・オン・アイス」(国立代々木競技場)に出演し、ファンに別れを告げる。

スポーツ報知 2016年3月16日 7:06 一部抜粋

◆◆◆◆◆

 このニュースを聞いた時、寂しい感情が押し寄せる一方で、とうとうこの時が来てしまったのかという感慨も覚えました。
 小塚選手はジュニア時代、ジュニアグランプリファイナル、世界ジュニア選手権と主要大会を全て制し、鳴り物入りでシニア参戦したデビューシーズン、NHK杯で銅メダルを獲得し早々に実力を発揮。翌07/08シーズンはGPでの表彰台こそなかったものの全日本選手権で2位となり初表彰台&初めての世界選手権代表を経験。そして08/09シーズンはスケートアメリカでGP初優勝を果たすと、初出場のGPファイナルでも銀メダルを獲得。全日本選手権では2年連続の2位、四大陸選手権では銅メダル、世界選手権では6位入賞と、飛躍のシーズンとなりました。09/10シーズンは全日本選手権で3位となり初の五輪代表に選出。そのバンクーバー五輪では8位入賞と好成績を収めました。そして小塚選手の競技人生のハイライトとなった10/11シーズン、GP2大会で優勝すると、GPファイナルでは銅メダル。全日本選手権で初優勝すると、世界選手権でも銀メダルを獲得し、シーズンを通してほぼ全ての大会で表彰台に乗る最高のシーズンとなりました。11/12シーズンはGP2大会で表彰台に上がり全日本選手権は2連覇こそならなかったものの2位になるなど好調なシーズン前半を送りましたが、2年連続のメダルを狙った世界選手権ではミスが相次ぎ11位に。12/13シーズンはスケートアメリカで優勝し2季ぶりのGPのタイトルを獲得し、GPファイナルにも出場しましたが、全日本選手権で5位となり、シニアデビューシーズン以来、6季ぶりに世界選手権出場を逃しました。
 節目となったのは13/14シーズン。シーズン序盤のGPで成績が伸びずほかの日本男子選手に後れを取りますが、代表選考会である全日本選手権では3位に入り、逆転でのオリンピック代表入りに一歩前進。しかし、GPでの成績を理由に惜しくも代表には選ばれず。ですが、2位となった四大陸選手権、6位となった世界選手権と存在をアピールしました。14/15シーズンは負傷を抱えた中でのGPは振るわなかったものの、世界選手権出場を懸けた全日本選手権では前年の再現となる見事な復活劇で2年連続の3位。しかし、世界選手権では12位と自身最低順位に終わりました。
 そして今シーズン、GP初戦の中国杯を右足首の怪我で辞退すると、負傷の影響が残る中出場したロステレコム杯では9位、最後の試合となった全日本選手権でも本領発揮とはならず5位となり、世界選手権出場には届きませんでした。

 振り返ってみればピークとなった10/11シーズン以降、特に2012年以降は股関節の痛みというのが小塚選手にとって大きなネックとなっていて、満足に練習を詰めない時期もあり、少しずつ成績も落ち気味になっていました。
 とはいえ、ずっと“低迷”し続けていたかというとそうではなくて、確かに10/11シーズンが最高潮だったという印象が個人的にはあるのですが、その後も必ずしも“低迷”のイメージには当てはまらない、ここぞという時に強さを見せる選手でした。
 何といってもその強さが発揮されたのはソチ五輪出場権を懸けた2013年の全日本と世界選手権出場権を懸けた2014年の全日本でしょう。特に2014年はショート6位と出遅れたところから、フリーは全てのジャンプを予定どおりに着氷する久々の会心の演技で、フィニッシュ後に拳を2度空中に突き上げて喜びを爆発させたあのシーンは忘れられません。小塚選手はシニア移行後は10度全日本に出場していますが、そのうちメダルを逃したのは3度だけ。日本スケート連盟の公式プロフィールに冗談半分に“特技:全日本選手権”と書いているくらい全日本に強く、股関節の持病があって国際試合でなかなか本来の力を発揮できないながらも層の厚い日本男子の中で存在感を示し続けられたのは、やはりこの全日本での印象が強烈だったからですし、成績やスコアだけ見るならば近年の小塚選手は“低迷”していたのかもしれませんが、その演技は最後まで輝きを放ち続けていたと思います。

 また、近年の小塚選手の演技からは若い頃にはなかった(今でも十分若いですが)大人の男性の色香や渋み、深みが感じられて、それがベテランとなった小塚選手の新たな魅力にもなっていました。ジュニアの頃から絶賛されてきたスケーティングにどんどん磨きがかかるのはもちろん、若手の頃は正統派であるがゆえに時に淡泊さも感じられた表現面も、年を重ねることによってどんどん大人の味わいというのが滲み出るようになってきて、昨季のSPのタンゴや昨季と今季のフリー「Io Ci Saro」、昨季のエキシビションナンバーをアレンジした今季のショートのフラメンコなど、今の小塚選手だからこそ演じられるほのかな色気とダークさ、ダイナミズムが溢れんばかりに表現されていて、今この段階でやめてしまうのはもったいないと正直思いますね。
 そして、かつての小塚選手は髙橋大輔さんや織田信成さんという先輩に囲まれて3兄弟の末っ子的なイメージがありましたが、最近は日本フィギュア界の年長者として頼もしさも感じさせていて、特に2014年の全日本の際には女子の採点に関して苦言を呈する場面もあり(こちらの記事の後半をご覧ください)、そういった意味でもキャプテン的存在の小塚選手がいなくなってしまうという寂しさもヒシヒシと感じます。
 これでバンクーバー五輪代表の男子選手3人が全員引退となり、トリノ五輪シーズンからフィギュアを見始めた私などからすると、青春を形成してきた1ピースがまた一つ欠けてしまったような、心にぽっかり穴が空いたような感じがします。ただ、小塚選手の身体のコンディションを考えるといつ引退してもおかしくなかったですし、昨季で引退という可能性もあったのが今シーズンも美しいスケーティングを見させていただき、今は本当に感謝の気持ちでいっぱいですね。
 今後小塚選手は所属しているトヨタの社員として活動していくとのことで、プロスケーターとしての活動、コーチ業などされていくのかは分かりませんが、大学院に進学して体育学を専攻するなどスポーツ科学の研究にも熱心な方ですから、どんな形であれフィギュアスケートに関わり続けて、あの唯一無二の素晴らしいスケーティング技術を次の世代に伝えていってほしいなと思います。プライベートでも2月に結婚されたばかりですから、奥さまとともに小塚選手の第二の人生が今まで以上に充実したものになることを心から願っています。
 長い間お疲れさまでした。そして美しい演技の数々をありがとうございました。


:小塚選手のポートレート写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から引用させていただきました。
[PR]
by hitsujigusa | 2016-03-17 17:05 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

それでも三月は、また



【収録作】
谷川俊太郎「言葉」
多和田葉子「不死の島」
重松清「おまじない」
小川洋子「夜泣き帽子」
川上弘美「神様2011」
川上未映子「三月の毛糸」
いしいしんじ「ルル」
J.D.マクラッチー「一年後」
池澤夏樹「美しい祖母の聖書」
角田光代「ピース」
古川日出男「十六年後に泊まる」
明川哲也「箱のはなし」
バリー・ユアグロー「漁師の小舟で見た夢」
佐伯一麦「日和山」
阿部和重「RIDE ON TIME」
村上龍「ユーカリの小さな葉」
デイヴィッド・ピース「惨事のあと、惨事のまえ」



 2011年3月11日に発生した大地震と津波、それに伴う東日本大震災、そして福島第一原発の事故から5年が経とうとしています。今回取り上げるのは2012年の2月に出版された、17人の小説家や詩人が書いた3.11にまつわる小説や詩を収録した作品集『それでも三月は、また』です。
 3.11にまつわる、といってもその中身はさまざま。3.11に直面した人間の心情をリアルに描いたものもあれば、ファンタジー仕立てもあり、衝撃的なSFもあり、アンソロジーならではの醍醐味が存分に味わえます。

 アンソロジーの幕を開けるのは谷川俊太郎さんの詩「言葉」。絶望的な状況においても立ち上がる“言葉”というものの強靭さを、非常にシンプルに短く、しかし説得力を持って伝えています。まさにこの詩自体が“言葉”が持つ力を体現しています。
 多和田葉子さんの「不死の島」は全17作品中、最も強烈で過激的な作品といえます。大震災と原発事故から6年経った日本、国際社会との交流は断絶し、日本政府は民営化され、文明は退化し、原発事故当時被爆した老人たちは異常な長命を得て死ねずにいる。そんな設定の下で語られる3.11以後の日本はあまりにも極端で、非現実的で、ありえなさすぎるように一見思えますが、その荒唐無稽さが必ずしも絵空事ではなくて、こういう日本がもしかしたらありえたかもしれないなと思えてしまうくらい、あの当時の日本は異常事態でどんな最悪なシナリオも考えられる状況でした。約5年経った今、この短編を通して当時を振り返ると、いろんなことを考えさせられます。
 一方、重松清さんの「おまじない」はハートウォーミングな作風が魅力的な重松さんらしい心温まる物語となっています。小学4年生の頃東北の海辺の町に住んでいた主人公の戸惑い、葛藤、そして希望のドラマをぎゅっと凝縮していて、ヒューマンドラマの名手である重松さんの真骨頂です。
 川上弘美さんの「神様2011」は、川上さんのデビュー作である「神様」をアレンジした異色の作品。「神様」は主人公が3つ隣りの部屋に引っ越してきたくまと散歩に行くという現実と非現実のあいだを漂うようなふしぎな世界観の作品ですが、「神様2011」はその基本設定は変わらず、ただ3.11以後という新設定が加えられています。なのでストーリーの大まかな展開は全く同じながらも、その中に“除染”、“被爆量”、“セシウム”といった単語がところどころに登場し、ファンタジックな雰囲気とファンタジックとは真逆の、あまりにも現実的すぎる背景設定とのギャップが、元となった「神様」とはまた違う奇妙な空気感を生み出しています。
 ファンタジックといえばいしいしんじさんの「ルル」もまた独特のファンタジーとなっています。犬の“ルル”の視点で被災した児童養護施設の子どもたちの姿を描いているのですが、あっと驚かされるしかけもあって、単純な感動話でもない、シンプルなファンタジーでもない、異彩を放つ作品です。
 古川日出男さんの「十六年後に泊まる」は2011年の5月に結婚16周年を迎えた福島出身の主人公が、16年前に結婚式を挙げた地元のホテルに宿泊し、半壊した実家で結婚記念日を祝うというある一日を描いた話ですが、長らく福島から離れていた主人公の故郷に対する複雑な感情と、震災・原発事故直後の福島の姿を淡々と、かつ、優しい目線で綴っています。
 明川哲也さんの「箱のはなし」は箱不足が深刻化し、箱の養殖方法が発明され、箱の増産計画が国策となり、国民一人一人が義務として箱を育てなければならなくなった日本の話。一見3.11と箱と何の関係もなさそうですが、箱があることが当たり前だった世界の変貌ぶりと、3.11以前、以後の日本の変貌ぶりとが重なって、シュールながら悲哀を漂わせる作品です。
 佐伯一麦さんの「日和山」は避難所暮らしをする男と被災を免れた友人との交流を描いていて、3.11からさほど日が経っていない被災地を舞台にしていることもあって被害に遭った当事者である人々が被災したという実感に乏しいままでいる姿にリアリティがあり、印象的です。

 17作の中から特に印象的だったものをピックアップして紹介しましたが、全体を通して感じることは5年という年月の着実な流れです。この本が出版されたのは震災から約1年後の2012年2月。17作の中にはこの作品集のための書き下ろしもあれば、すでに文芸誌に発表済みのものもありますが、ほぼ全てが2011年に執筆されたものということになります。私は出版されてからわりとすぐにこの本を読みましたが、5年が経つ今改めて読み返すと、やはり印象は以前と違っています。
 震災・原発事故が起きたまさにその当年に書かれたからこその、戸惑い、怒り、哀しみ、驚きなど、3.11の現実を目の当たりにした作家たちのありのままの心情が作品には表れています。そこには作家・創作者であるという以前に、未曾有の出来事に相対した一人の人間としての3.11との向き合い方が反映されているように思います。
 約5年が経った今、17人の作家たちが各々全く同じ作品をもう一度書くとしても、やはり同じものにはならないでしょう。5年という歳月は短いようで長いですし、被災地の惨状をテレビや現場で目にした2011年の衝撃や動揺も2016年になれば薄れるのが自然です。それは読者も同じこと。この作品集を2012年に読むのと、2016年に読むの、さらに2021年に読むのとでは、抱く感想も変わってくるでしょう。
 だからこそ、この本に限らず、3.11直後に書かれた“3.11文学”を時間を置いて読み返すことには、いろんな意味で良い作用があるように思います。作用などという言葉を使うと語弊があるかもしれませんが、自らの中の記憶を呼び起こすこと、当時の自分が抱いたリアルな感情を蘇らせること、3.11を自分のそばに引き寄せること。かつて関東大震災に遭った文豪たちが体験を小説や随筆に書き残し、現代にその記憶を引き継いでいるように、3.11を経験した現代の作家たちも自らの記憶を文章化することで、2011年を生きていた人々にもう一度3.11を思い出させてくれるのみならず、3.11を知らない未来の世代にも、3.11にまつわる生々しい手づかみの感情を伝えてくれるのではないかと思います。
 それは二つとして同じもののない個人個人の経験や感情を一個一個書き記した記録でもあり、テレビの震災特集番組や、新聞の記事や、ノンフィクションの記事などでは取りこぼされてしまうものを丁寧にすくい取っています。言葉にしなければ消えてしまうようなささやかな記憶や感情を物語にすることこそが文学なんだと、この本は改めて教えてくれます。

 5年経つから、と数字で区切ることに意味はないのかもしれませんが、この節目に未読の方はもちろん、既読の方にももう一度読んでほしい作品集です。


それでも三月は、また
谷川 俊太郎 多和田 葉子 重松 清 小川 洋子 川上 弘美 川上 未映子 いしい しんじ J.D・マクラッチー 池澤 夏樹 角田 光代 古川 日出男 明川 哲也 バリー・ユアグロー 佐伯 一麦 阿部 和重 村上 龍 デイヴィッド・ピース
講談社
売り上げランキング: 80,194

[PR]
by hitsujigusa | 2016-03-09 22:59 | 小説 | Trackback | Comments(0)

c0309082_0462349.jpg


 四大陸選手権2016の男子とペアの結果について、前回に引き続き書いていきます。前編をお読みでない方は、こちらからご覧ください。

ISU Four Continents Championships 2016 今大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 6位となったのは日本の田中刑事選手です。

c0309082_0502589.jpg

 SP冒頭は大技の4サルコウでしたがパンクして3回転になってしまいます。ですが、直後の3アクセルはクリーンに下りてしっかり加点を獲得。後半の3+3は着氷で乱れがあり減点されましたが、ステップシークエンスやスピンは確実にレベルを取り、パーソナルベストととなる74.82点をマークして7位につけました。

c0309082_14512939.jpg

 フリーも冒頭は4サルコウ、パンクはしませんでしたがアンダーローテーション(軽度の回転不足)で着氷し転倒します。しかし、続く3アクセルをクリーンに決めると、3+3も完璧に成功。後半に入り2本目の3アクセルはパンクして1回転となってしまいますが、3ルッツ、3+2+2、3+2、3フリップとジャンプ構成を変更する機転も利かせつつ、取りこぼしを最小限に演技をまとめ上げました。得点は147.88点でフリー7位、総合6位で四大陸自己最高位で大会を終えました。
 得点源となる4サルコウがクリーンに決まらず残念でしたが、大技の失敗に引きずられず確実に跳べるジャンプをしっかりこなしていて、2年前に17位になった時とは比べものにならないくらい成長を感じる試合でしたね。世界一層の厚い日本男子勢の一角として、今はまだ羽生選手や宇野選手、無良選手らトップ選手とは実績でもスコアでも差がありますが、まだまだ技術面でも表現面でものびしろがたくさん残されているように思えますので、来シーズンは彼らの間に割って入るくらいの飛躍を期待したいですね。


 7位はアメリカの実力者、マックス・アーロン選手です。

c0309082_15401521.jpg

 SPはまず大技4サルコウに挑みますが、ランディングでステップアウトし予定していたセカンドジャンプを付けられません。直後の3アクセルは完璧に成功させて切り替えますが、後半の3ルッツでも転倒。スピンも全てレベル2になるなど全体的に精彩を欠き、69.48点で8位に留まりました。
 フリーは4回転2本、3アクセル2本を含む難しい構成で臨み、まずはショートで失敗した4サルコウでしたが、着氷で片手を付きまたもやミスとなります。ですが、次の3アクセルからの連続ジャンプ、3ループはクリーンに下りて立て直しを見せます。後半に入り鍵となる2本目の4サルコウ、こちらもステップアウトでコンビネーションにはできません。さらに続く3アクセルは1回転となり、その後のジャンプは全て決めて意地を見せたものの、基礎点の高いジャンプのミスが響き、得点は151.46点と自己ベストには遠く及ばず6位、総合では7位に終わりました。
 1月の全米選手権ではことごとく決まったジャンプに苦労しましたね。演技自体もアーロン選手らしい勢いや躍動感に欠けて大人しめだったように感じます。アーロン選手に限ったことではありませんが、北米の選手にとっては1月に国内選手権を行ったばかりで、それから1か月ない中での今大会ですから、やはり日程的に厳しいものがありますね。アーロン選手始め今回歯車が噛み合わなかった北米の実力者たちには、うまく切り替えて世界選手権に向かってほしいと思います。


 8位は同じくアメリカのグラント・ホフスタイン選手です。

c0309082_1742399.jpg

 SPはまず大技の4トゥループ、回転は十分だったものの転倒となります。続く3アクセルも着氷で大きく乱れ、前半はミスが目立つ内容に。しかしその後は3+3含め、ステップシークエンス、スピンを丁寧にこなし、自己ベストとなる75.79点で6位と好位置につけました。
 フリーも冒頭は4トゥループでしたが、ショート同様に転倒します。さらに3アクセルも1回転となり序盤は波乱の展開に。ですが、以降は細かいミスがありつつも大崩れすることなく滑り切りました、ただ、大技のミスが影響し得点は伸びず、140.55点でフリー10位、総合8位と順位を落としました。
 シーズン前半はGP2大会とも4位、全米選手権も4位と順調にシーズンを進めてきたホフスタイン選手ですが、やはり上述したアーロン選手同様、全米選手権の疲れが残っていたかなという印象でしたね。ですが、大技以外の部分では比較的よくまとまっていたように思いますし、初の世界選手権に向けてこれも良い経験、成長の一過程でしょうから、ぜひ頑張ってほしいですね。



 さて、ここからはペアについてです。


c0309082_2229364.jpg


 頂点に立ったのは中国の隋文静(スイ・ウェンジン)&韓聰(ハン・ツォン)組。SPはソロジャンプ、スロージャンプ始め、ステップシークエンス以外のエレメンツ全てレベル4を獲得するなどノーミスの演技を披露し、自己ベストで2位に6点差以上つけての首位に立ちます。フリーは3サルコウでの転倒はありましたが、大技スロー4サルコウを完璧に決めて2.29点の高い加点を得るなどハイレベルな内容で、こちらも自己ベストをマーク。圧倒的な大差で四大陸3度目の優勝に輝きました。
 隋選手の足首の怪我によって12月のGPファイナルを辞退した隋&韓組。今大会は久しぶりの国際大会となりましたが、不安を払拭する素晴らしい出来でした。得点的にも221.91点と今季のシーズンベストランキング3位のハイスコアで、それでもまだ今回はジャンプの転倒があった中でのこの得点ですから、まだまだ内容もスコアも伸びていくと思うと、世界選手権は2年連続の表彰台はもちろん、さらにはその真ん中に立つ可能性も十分にあるでしょうね。そのためにはやはり大技スロー4サルコウの成功、そしてそれ以外のエレメンツで取りこぼさないことが重要だと思うので、今大会以上の完成度を楽しみにしたいと思います。四大陸選手権優勝、おめでとうございました。
 銀メダルを獲得したのはアメリカのアレクサ・シメカ&クリス・クニーリム組。SPはジャンプ系エレメンツで細かなミスがありクリーンプログラムとはなりませんでしたが、パーソナルベストに迫る得点で3位と好発進します。フリーは冒頭で大技の4ツイストをパーフェクトに成功させてレベル4に加え1.43点の高い加点を得ると、その後も全てのエレメンツを予定どおりにクリーンに決め、自身初の140点台をマーク。総合2位に順位を上げました。
 1月の全米選手権ではショート、フリーともにミスが相次ぎ優勝を逃したシメカ&クニーリム組。今大会は全米で表面化した課題を修正し世界選手権に向けて立て直しを図る試合だったと思うのですが、これ以上ない弾みになりましたね。さらに世界選手権でワンランクアップするためにはSPで大台の70点台に乗せること、フリーで今大会のように140点台を出せれば、昨年以上の順位が望めるのではないかと思いますね。
 3位は中国の于小雨(ユー・シャオユー)&金楊(ジン・ヤン)組です。ショートは冒頭の3トゥループで転倒、また演技時間超過による減点もありましたが、おおむねコンスタントにエレメンツをまとめて4位につけます。フリーは序盤のソロジャンプ、スロージャンプで3つ失敗が重なるミス連発の滑り出しとなりましたが、中盤以降は目立ったミスなく巻き返し、初めての四大陸で銅メダルを獲得しました。
 そして、現世界王者、カナダのメーガン・デュハメル&エリック・ラドフォード組はSPで2位となった後、デュハメル選手のウイルス性胃腸炎を理由にフリーを棄権しました。デュハメル選手はショートの前から体調不良だったようで少し無理してしまったのかなと思いますが、2連覇の懸かる大切な世界選手権に向けて、ゆっくり休んでほしいですね。


 日本の須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組は9位となりました。

c0309082_1142946.jpg

c0309082_1163977.jpg

 SPは細かく減点を取られるエレメンツもありましたが、大きなミスなく滑り切り、パーソナルベストをマーク。フリーは12あるエレメンツのうち6つで減点がありましたが、一つ一つの減点の幅を小さく抑え、自己ベストを更新しました。
 今季ペアを結成した須藤&ブードロー=オデ組。1月にポーランドで行われた国際大会では優勝するなど着実に歩みを進めていて、今回はその試合よりもミスの数としては多かったかなと思うのですが、世界選手権の前に大きな国際大会の雰囲気を味わえたのは良かったと思うので、世界選手権では二人の今できる全てを出し切ってほしいですね。



 ということで、四大陸選手権2016に関する記事は以上で全てです。
 男子は初めて表彰台を中国系の選手が独占し、改めて日本以外のアジアもレベルが上がっていることを実感させられました。一昔前の四大陸なら、日本の選手がメダルを取るのは当たり前、特に日本男子の層が厚くなったバンクーバー五輪以降は2人が表彰台に乗るのも珍しくないという状況でしたが、これで初めて2年連続で日本男子は表彰台を逃す結果となりました。ただ、これは日本男子勢のレベルどうこうではなく、それだけアジア全体が底上げされているということだと思います。元々強かった中国はもちろん、カザフスタンのデニス・テン選手、ウズベキスタンのミーシャ・ジー選手、フィリピンのマイケル・クリスチャン・マルティネス選手など、フィギュアスケートが盛んではない国からもレベルの高い選手が現われてきていて、アジア全体が北米やヨーロッパにも引けを取らないほどハイレベルになって、日本男子といえども簡単には四大陸の表彰台に上がれないほどの現在の状況になっているんだと思いますね。もちろん日本男子にはアジアをリードし続ける存在であってほしいですが、アジアのいろんな国でフィギュアが活発になって、その結果四大陸が欧州選手権に負けないくらいレベルの高い大会になるのは、とても嬉しいことですね。
 次の大きな国際大会は3月14日に開幕する世界ジュニア選手権。日本勢の活躍を心から願っています。では。


:記事冒頭の男子メダリスト3選手のスリーショット写真、ホフスタイン選手の写真、ペアメダリスト3組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、田中選手の写真、アーロン選手の写真、須藤&ブードロー=オデ組の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
四大陸選手権2016・女子&アイスダンス―宮原知子選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(前編) 2016年2月25日
四大陸選手権2016・女子&アイスダンス―宮原知子選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(後編) 2016年2月26日
四大陸選手権2016・男子&ペア―パトリック・チャン選手、4年ぶり3度目の優勝(前編) 2016年3月1日
[PR]
by hitsujigusa | 2016-03-02 01:44 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

c0309082_16393026.jpg


 台湾の台北にて2月16日から21日にかけて行われた四大陸選手権2016。この記事では男子とペアの結果について書いていきます。なお、女子とアイスダンスについてはこちらをご覧ください。
 男子の優勝者は元世界王者、カナダのパトリック・チャン選手。フリーでパーソナルベストをマークし、SP5位からの逆転で優勝を勝ち取りました。2位は中国の新星、金博洋(ジン・ボーヤン)選手。国際大会初の3種類4度の4回転をフリーで成功させ、史上初の快挙を達成しました。3位は同じく中国の閻涵(ヤン・ハン)選手となっています。
 ペアは中国の隋文静(スイ・ウェンジン)&韓聰(ハン・ツォン)組が自己ベストでこちらも3度目の優勝となりました。

ISU Four Continents Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 金メダルを獲得したのはカナダのベテラン、パトリック・チャン選手です。

c0309082_1721485.jpg

 SPはまず4トゥループ+3トゥループのコンビネーションジャンプからでしたが、4回転の着氷で手を付きコンビネーションになりません。さらに苦手としている3アクセルも着氷ミス。後半の3ルッツに2トゥループを付けて確実に連続ジャンプにはしましたが、スピンが1つレベル1になるなどらしからぬ演技で、86.22点の5位と出遅れました。
 フリーはカナダ選手権から難度を上げ、3アクセルを2本組み込む意欲的な構成。冒頭はショートで失敗した4トゥループ+3トゥループ、今度はこれを完璧に成功させます。さらに続く2本目のジャンプは鬼門の3アクセルでしたが、こちらもクリーンに着氷。単独の4トゥループも申し分ない美しい出来で、最高の前半となります。ステップシークエンスとスピンを挟んだ後半、初挑戦となる2本目の3アクセルはコンビネーションでしたが、これまでの苦心が嘘のようにきれいに成功。その後も3ルッツからの3連続ジャンプ、3ループ、3サルコウ、3フリップと全てのジャンプに加点が付く怒濤の演技を披露。フィニッシュしたチャン選手は力強く握り締めた拳を振り上げ、喜びと達成感を露わに破顔しました。得点は世界歴代2位となる自己ベスト203.99点を叩き出し、SP5位からの逆転優勝を果たしました。
 とにもかくにも素晴らしいとしか言いようのない演技でしたね。ショートで5位に沈んだあとはインタビューで氷に対する不満をあからさまにしていて、コンディション的にもメンタル的にもベストな状態ではなさそうだなという印象だったのですが、そこから1日挟んでのフリーはまるで別人で、改めてチャン選手の強さを再認識させられましたね。
 ただ、その強さというのは世界選手権を3連覇していた頃の強さとは異質なもののような気がします。あの頃のチャン選手は無敵状態で、3アクセルを除けばほぼ完全無欠な選手という感じでした。その一方で圧倒的なスケーティング技術や正確なジャンプばかりが前面に押し出されてしまって、芸術作品として、もしくはエンターテインメントとしてのプログラムの印象が薄く、心にあまり残らないなと個人的には感じていました。ですが、今大会のチャン選手のフリー演技からは溢れんばかりの感情が滲み出ていて、それが音楽の曲想、緩急とピタリと合わさって、技術に圧倒させられるだけではなく、プログラムとしての美しさや凄味を感じられました。アスリートとしてはもちろん、表現者としてもワンランクレベルアップして、ある意味世界王者に君臨していた頃よりも、より強く、魅力的なスケーターになっているのではないかと思います。
 羽生結弦選手、ハビエル・フェルナンデス選手らとぶつかる世界選手権は一体どんな演技を見せてくれるのか、そしてどんな結末を迎えるのか、楽しみにしています。四大陸選手権優勝、おめでとうございました。


 銀メダリストとなったのは今季がシニアデビューの中国の金博洋(ジン・ボーヤン)選手です。

c0309082_1525715.jpg

 SPはまず代名詞の4ルッツ+3トゥループ、これをいつもどおり完璧に決めて好スタートを切ると、続く3アクセルもクリーンに成功。後半に組み込んだ4トゥループもさらりと下りて、スピン、ステップシークエンスも全てレベル4に揃える隙の無い内容。得点は世界歴代4位となる98.45点をマークし、堂々の首位発進となりました。
 フリーも冒頭は大技4ルッツをパーフェクトに着氷。続く4サルコウも美しく成功。3アクセル+1ループ+3サルコウは若干着氷で乱れたため減点されますが、後半は2本の4トゥループ(1つはコンビネーション)を皮切りに3+3、3アクセル、3ルッツと難度の高いジャンプを次々予定どおりにクリア。スピンでは取りこぼしもありましたが、国際大会史上初の4度の4回転を成し遂げる歴史的演技で会場はスタンディングオベーションの嵐となりました。得点は世界歴代5位となる191.38点でフリー2位、トータルではチャン選手に0.38点届かず惜しくも優勝は逃しましたが、見事に銀メダルを獲得しました。
 なんといってもフリーの4回転4本、ショート、フリー合わせての4回転6本、圧倒されましたね。上述したチャン選手とは対照的に、プログラムの印象うんぬん以上にジャンプのイメージが強烈で、シーズン序盤から4ルッツの安定感は抜群でしたが、シーズンを追うごとにそのほかのジャンプもどんどん精度を増してきて、この数か月の短い間でもぐんぐん成長しているんだなということを思い知らされました。
 今は怖いものなしの状態だと思うので、世界選手権でも間違いなく台風の目になるでしょうから、どこまで強豪たちのあいだに割って入って順位を引っ掻き回すか、期待したいですね。


 3位は中国の実力者、閻涵(ヤン・ハン)選手です。

c0309082_15573196.jpg

 SPの冒頭は得点源となる4トゥループ、これをクリーンに下りて高い加点を得ます。レベル4のスピン2つをこなして後半、鍵となる代名詞の3アクセルは幅のある軽やかな跳躍で2.29点の高加点。次の3+3も確実に成功。演技を終えた閻選手は笑みを浮かべ手応えを噛みしめました。ただ、スピンが1つ無得点になったことが影響し、得点は89.57点で自己ベスト更新はならず、閻選手は残念そうに肩を落としました。
 3位で迎えたフリー、冒頭の3アクセル+3トゥループはセカンドジャンプの着氷でステップアウトし減点を受けます。しかし、続く4トゥループ+2トゥループ、単独の4トゥループはどちらもクリーンに着氷。後半に入っても2本目の3アクセルを始め、全てのジャンプをクリーンに成功。終わってみれば冒頭の3アクセル+3トゥループ以外は全てのエレメンツに加点が付くほぼノーミスの演技となりました。得点は181.93点で前年の四大陸選手権でマークしたパーソナルベストを大幅に更新し、ショートの順位を守り切りました。
 ショート、フリーともにほとんどミスのない出来で、シーズン前半の鬱憤を晴らすような内容でしたね。閻選手の場合、ジャンパーとしての能力も高いですし、スケーティングスキルも一流で、演技構成点の評価も高いのですが、なかなか肝心のジャンプが安定せずいまひとつ殻を破れずにいる印象がありました。今大会が閻選手にとってさらに一段階上に行くきっかくになると良いのですが、四大陸に関しては閻選手はとても相性が良く、3度出場して3度とも銅メダルを取っているんですね。昨年も四大陸での神演技のあとの世界選手権で四大陸ほどのパフォーマンスができなかったわけなので、今年こそ四大陸がピークではなく、世界選手権がピークになることを願いたいですね。


 惜しくも表彰台まであと一歩、4位となったのは日本の宇野昌磨選手です。

c0309082_17104782.jpg

 ショートは全日本選手権から構成を変えて臨み、後半に組み込んでいた4トゥループを冒頭に変更。その4トゥループは空中で軸が曲がって着氷で大きく乱れましたが転倒はせず最小限のミスに抑えます。続く2つのスピンはしっかりとレベル4を獲得。後半に入り、最初の3アクセルは完璧に下りて2.57点の高い加点。さらに3+3も問題なくこなして、終盤のステップシークエンス、スピンもレベル4を揃え、ミスがある中でも演技をまとめました。得点は自己ベストとなる92.99点で2位と好発進しました。

c0309082_173234100.jpg

 フリー冒頭はショートでミスした4トゥループでしたが、こちらも着氷で乱れてしまい予定していた連続ジャンプにはなりません。ですが、直後の3アクセル+3トゥループ、単独の3アクセルはパーフェクトに成功させ、冷静に立て直します。後半は3ループ、3サルコウと難度の低いジャンプを難なくこなし、続いて鍵となる2本目の4トゥループでしたが、ダウングレード(大幅な回転不足)で下りてきてしまいこちらも単独に。ですが、その後の3ルッツ、2アクセル+1ループ+3フリップはクリーンに決め、終盤のコレオシークエンス、スピンと勢いづく曲調に乗って熱狂的にフィニッシュしました。得点は176.82点でフリー5位、総合では3位の閻選手に1.74点及ばず、惜しくも4位となりました。
 ショート、フリー通して最後まで4回転がハマらずクリーンプログラムとはなりませんでしたが、そのほかのエレメンツの完成度に関しては全てのジャンプがクリーンでしたし、スピンとステップシークエンスは全部レベル4ということで、安定感は変わらずでしたね。シーズン前半の快進撃の頃から比べると、全日本、今大会と少し4回転のミスが目立ち、今はシーズンの中での落ち気味の時なのかなという印象ですね。宇野選手の実力を持ってすれば表彰台の可能性は高いと思ってましたので残念は残念でしたが、とんとん拍子に世界選手権に行くよりも、途中で一度立ち止まって改めて自分自身を見つめ直す時間を持てるのは良いことだと思うので、内容的にも結果的にも不満の残った今大会が、世界選手権に向けて奮起する強烈な動機づけになったんじゃないかなと思いますね。
 初出場となる世界選手権では何も守るものはないですから、宇野選手らしい攻めまくった演技で笑顔でシーズンを締めくくってほしいですね。


 5位は日本のベテラン、無良崇人選手です。

c0309082_1813284.jpg

 SPはまず冒頭の4トゥループをきっちり決めると、続く代名詞の3アクセルは抜群の高さで2.14点の加点。後半の3+3はセカンドジャンプがアンダーローテーション(軽度の回転不足)で若干の減点となりますが、終盤のステップシークエンスではダイナミックな全身の動きと小刻みなステップで1.7点の加点を獲得。フィニッシュした無良選手はガッツポーズで喜びを露わにしました。得点は89.08点で自己ベストをマークし、4位の好位置につけました。

c0309082_18142968.jpg

 フリーはまず4トゥループを完璧に下り2.14点の加点を得ると、続く4トゥループ+3トゥループも申し分ない出来で1.43点の加点。しかし次の3アクセルで着氷が大きく乱れて嫌な空気が漂います。ですが、直後の3サルコウですぐに立て直すと、後半の2本目の3アクセルは3トゥループを付けてパーフェクトな連続ジャンプに。3ループ、3+1+2、3ルッツと全てのジャンプをクリーンに着氷し、見事に前半のミスを取り返しました。得点は179.35点で自己ベストを更新しフリー4位。総合5位で大会を終えました。
 順位的には5位でしたが、内容的には現在の無良選手の100%に近いものが発揮されたんじゃないかなと思います。もちろんフリーでは得意の3アクセルのミスがありましたし、細かく見ればスピンのミスなどもあるのですが、無良選手らしい躍動感や迫力といったものが存分に伝わってきて、このレベルの選手が世界選手権に行けないのはもったいないと改めて残念に感じました。ですが、怪我による不振、そこからの立て直しという今シーズンの経験は無良選手をさらにたくましくしたように感じますし、来季は今季得た新たな表現をさらに進化させていくと思いますので、再び無良選手が世界の舞台で輝くのを楽しみに待ちたいですね。



 さて、この前編はここで終わりとさせていただきまして、後編に続けたいと思います。お手数ですが、続きは後編をお読みください。


:記事冒頭の男子メダリスト3選手のスリーショット写真、閻選手の写真、宇野選手の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、チャン選手の写真、金選手の写真、無良選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
四大陸選手権2016・女子&アイスダンス―宮原知子選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(前編) 2016年2月25日
四大陸選手権2016・女子&アイスダンス―宮原知子選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(後編) 2016年2月26日
四大陸選手権2016・男子&ペア―パトリック・チャン選手、4年ぶり3度目の優勝(後編) 2016年3月2日
[PR]
by hitsujigusa | 2016-03-01 00:12 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)