c0309082_129274.jpg


 4月22日から24日にかけて、アメリカのスポケーンにおいて初開催となるチームチャレンジカップ2016が行われました。今大会が記念すべき第1回目となるチームチャレンジカップは北米、欧州、アジアの大陸別団体戦。しかも、男女シングルのみのショートプログラムと、男女シングル、ペア、アイスダンスのフリーと、それぞれで優勝チームを決めるという多少ややこしいシステムとなっていて、初開催ならではの独特な雰囲気もあり、また、世界選手権後というスケジュールの厳しさもありましたが、その中でも好演技ありサプライズありの試合内容となりました。この記事では日本選手の結果を中心に、印象に残った外国選手についても書いていきたいと思います。

2016 Team Challenge Cup この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 まずはこの大会のルールについて説明していきます。
 大前提としてこの大会は北米、欧州、アジアの大陸対抗の団体戦です。1チームは元選手のキャプテン1人、男子選手3名、女子選手3名、ペア2組、アイスダンス2組で構成されます。世界ランキングなどを基にまず男女シングルのそれぞれ2名、ペア、アイスダンスのそれぞれ1組ずつが選ばれた上で、男女シングルの残り1名ずつが公式サイトで行われるファン投票によって選ばれるというシステムで、私も実際に投票しました。
 試合のルールとしてはまず1日目に男女シングルのSPを行います。3チーム合わせて男女それぞれ9選手ずつが出場することになるわけですが、それを3人ずつの3グループに分けて演技をし、各グループの1位が12点、2位が10点、3位が8点というふうに各選手に与えられたポイントがチームに加算され、その合計ポイントによってSPの優勝チームが決定されます。
 そして、2日目はペア、アイスダンスも含めて全カテゴリーでフリーを行います。ショートの時とは違い、各選手のフリーのスコアをそのまま足し算し、最も合計得点の高かったチームが総合優勝となります。ただ、男女シングルは各チームの上位2選手のスコアのみ、ペア、アイスダンスは各チームの上位1組のスコアのみが採用されるので、実質的にはチーム内で最下位の選手・組の得点はチームのポイントには反映されないことになります。

 こうした少し複雑なルールの下で行われたチームチャレンジカップ2016。SPで優勝したのはチームアジアで64ポイント、2位はチーム北米で62ポイント、チーム欧州は54ポイントで3位となりました。
 そして2日目ののフリーを制し総合優勝となったのは892.42点を獲得したチーム北米。2位はチーム欧州で848.06点、3位はチームアジアで820.22点となりました。
 ここからはチームごとに内容を見ていきます。



●チームアジア


c0309082_2475296.jpg

c0309082_2435596.jpg


 初日の男女ショートプログラムで優勝したチームアジア。キャプテンはトリノ五輪金メダリストの荒川静香さん、女子は宮原知子選手、エリザヴェート・トゥルシンバエワ選手、本郷理華選手、男子はデニス・テン選手、宇野昌磨選手、金博洋(ジン・ボーヤン)選手、ペアは王雪涵(ワン・シュエハン)&王磊(ワン・レイ)組、須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組、アイスダンスはレベッカ・キム&キリル・ミノフ組、王詩玥(ワン・シーユエ)&柳鑫宇(リュー・シンユー)組という面々で構成されました。

 チーム内で最も活躍したと言えるのは何といっても歴史的快挙を成し遂げた宇野選手でしょう。ショート、フリーともに世界初の4フリップ成功。スコアも非公式ながらショートで歴代2位にあたる105.74点、フリーで歴代4位にあたる192.92点をマークし、チームに大いに貢献しました。4フリップは悔しい7位に終わった世界選手権の後、本格的に練習を始めたばっかりだったとのことで、練習でも決して確率は良くなかったようですが、この大会だからこそ思い切ったチャレンジができたのでしょうね。涙に暮れた世界選手権での姿からは想像もつかない今大会の劇的な挑戦、ドラマチックな展開で、シーズン前半から想像を上回る活躍を見せ続けてくれた宇野選手ですが、シーズンの最後に最大かつ最高のサプライズを届けてくれましたね。また、4フリップ以上に驚かされたのがフリーのジャンプ構成で、後半に4トゥループ2本に加え、最後に3アクセル+1ループ+3フリップというこれも史上初めての組み合わせのコンビネーションに挑戦、成功させていて、宇野選手自身の無限の伸びしろを予感させるとともに、フィギュアスケートのさらなる可能性を感じさせて、来季は一体どんな構成で実際に臨むことになるのか、今から楽しみでなりません。もちろん宇野選手本来のスケートの魅力、繊細な表現力は今までどおり大切にして、頑張ってほしいなと思います。
 女子のエースとしてチームを引っ張ったのは宮原選手。ショートでもフリーでもいつもどおりの正確無比なジャンプ、スピン、精緻なスケーティングで、シーズンラストまで“ミス・パーフェクト”の名にふさわしい演技を見せ続けてくれましたね。今季前半はかつてのエース・浅田真央選手が復帰するということでそちらに注目が集まりがちでしたが、そんな中でも宮原選手は自らのペースを崩すことなく自分らしさを貫き通し、NHK杯で浅田選手を上回って初優勝すると、GPファイナルでも銀メダルを獲得。全日本選手権でも他を寄せつけず2連覇を果たし、日本のエースとしての地位を確固たるものにしました。強力なロシア勢、アメリカ勢との熾烈な戦いは来季はさらに厳しさを増すでしょうが、技術面でも表現面でも全く引けを取るところはないので、自信を持って立ち向かっていってほしいなと思いますね。
 ファン投票によって出場が決まった本郷選手。ショート、フリーともに本郷選手らしからぬミスもありながらも、表現の幅を広げる記念碑的なプログラム「キダム」と「リバーダンス」を終始躍動感たっぷりに演じ切りました。他の日本選手と違って出場決定が遅めだったので調整の難しさもあったと思うのですが、シニア1年目とはまた違う苦労を味わった2年目のシーズンを、世界選手権も含めて笑顔で締めくくれてよかったですね。来シーズンは全日本ジュニア女王の樋口新葉選手がシニア参戦するということで、日本女子はさらに層が厚くなって、その分当事者の選手たちにとっては競争が一段と激しくなって大変だと思うのですが、今季得た収穫を活かして国内のレースを勝ち抜き、世界の舞台でも輝いてほしいなと思います。
 フリーのみの演技となったペアの須藤&ブードロー=オデ組は100.78点で今季2度目となる100点超えをマーク。ミスはいくつかありましたが、ツイストやスピン、リフトなど堅実にエレメンツをこなし、世界選手権では披露できなかったフリーをしっかり滑り切りました。ペア結成2年目となる来季のさらなる飛躍を期待したいですね。

 世界選手権から間もない開催とあって、ほかの選手たちからは疲労の色がうかがえジャンプミスも続出しましたが、その中でもそれぞれの個性を発揮しました。
 テン選手はSPでほぼ完璧な演技を見せ、シーズンベストに迫る高得点をマーク。フリーは世界選手権同様に2種類の4回転に挑みましたが、残念ながら成功はならず。ただ、そのほかの部分ではさすがソチ五輪メダリストという厚みのある表現を見せつけ、特にステップシークエンスはレベルこそ2という判定でしたが、音の緩急に身体の動きの緩急もピッタリ合わせていて、ステップで観客を沸かせられる数少ない選手だなというのを改めて感じさせられました。今シーズンは負傷に加え、世界選手権では羽生結弦選手との練習中のトラブルに端を発するヘイトメールがテン選手の元に押し寄せるなど、いろいろと苦しいシーズンだったと思いますが、来季は五輪プレシーズンなので、テン選手もさらにギアを上げてレベルアップしてくるんじゃないかなと楽しみですね。
 同じカザフスタンの新星トゥルシンバエワ選手はSP、フリー両方で自己ベストを上回る得点をマーク。細かなミスはありましたが、世界選手権に続いて安定感を発揮し、来季の進化を今から予感させる演技でした。
 そして今シーズン男子フィギュア界の潮流を変えた立役者である金選手は、代名詞である4ルッツやそのほかの4回転にミスが相次ぎ、シニア1年目の快進撃もさすがにここに来てスタミナ切れだったかなという印象ですが、それでも一つも回転不足やパンクはなく、異次元ジャンパーとしての凄味を見せつけました。上述したように宇野選手が4フリップを成功させたことで、来季は同い年の二人による4ルッツVS4フリップの対決も見られるかもしれず、次世代の世界王者争いをリードするであろう二人の切磋琢磨を楽しみにしたいですね。



●チーム北米


c0309082_1883335.jpg


 2日目のフリーで総合優勝を果たしたチーム北米は、キャプテンがアルベールビル五輪金メダリストのクリスティ・ヤマグチさん、女子はグレイシー・ゴールド選手、ガブリエル・デールマン選手、アシュリー・ワグナー選手、男子はジェイソン・ブラウン選手、ナム・グエン選手、アダム・リッポン選手、ペアはメーガン・デュハメル&エリック・ラドフォード組、アレクサ・シメカ&クリス・クニーリム組、アイスダンスはケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェ組、マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組となりました。

 チーム北米は北米開催の大会とあって全体的に好演技が多く、特にホスト国であるアメリカの選手たちは皆魅せてくれましたが、中でも一番印象に残ったのはワグナー選手ですね。太ももにテーピングを施していて万全のコンディションではありませんでしたが、ショートで完璧な演技を見せ、ミスのあったフリーでも前半で跳べなかった3+3を後半で再度挑み着氷させるなど、ワグナー選手らしいガッツに満ち溢れた素晴らしい滑りでした。そして演技内容以上に、ショートのスピンの最中に手を叩いて観客の手拍子を促したり、つなぎの部分でも観客を煽るような仕草を見せたりと、ただ自分の演技に集中するだけではなく、同時に観客を楽しませよう、大会を盛り上げようという意思がところどころでうかがえて、ベテランのワグナー選手ならではの、ホスト国の選手としての責任感みたいなものが感じられましたし、いろんなことを経験してきた大人の選手だからこその強さを今回改めて感じましたね。
 同じくアメリカのベテラン、リッポン選手は挑戦し続けている4ルッツの成功こそ叶いませんでしたが、こちらもホスト国の選手として大いに観客を盛り上げていましたね。正統派の美しいスケーティングを持ち味としながらも、表現面ではほかの誰にも真似できない特徴的な個性の持ち主でもあって、今季はそこにジャンプの安定感も加わって、ベテランながらも毎シーズン成長しているなと思いますね。

 世界選手権に出場した他の選手たちとは対照的に、これが久しぶりの試合となったのはブラウン選手。腰痛の影響でシーズン中盤以降の大会を全て欠場することとなりましたが、今大会で久方の競技復帰。ショートは来季用のプログラムを早々と初お披露目し、フリーは2季持ち越しとなる「愛の香気」をさらにブラッシュアップした形で披露。ブラウン選手はトップスケーターとしては珍しく持ち技に4回転がない選手ですが(挑戦はしているものの未成功)、大技がなくとも表現で観客を魅了できるということを今回証明していたと思います。ただ、勝負ということを考えるとやはり4回転なしで戦っていくのは厳しいので、来季ブラウン選手が4回転を自分のものにするのか、どんな戦略を採るのか、注目ですね。



●チーム欧州

c0309082_16381231.jpg


 ショート、フリーともに2位となったチーム欧州は、サラエボ五輪金メダリストのクリストファー・ディーンさんがキャプテン、女子はロベルタ・ロデギエーロ選手、エフゲニア・メドベデワ選手、エレーナ・ラディオノワ選手、男子はセルゲイ・ボロノフ選手、ミハル・ブレジナ選手、ミハイル・コリヤダ選手、ペアはクセニア・ストルボワ&ヒョードル・クリモフ組、ニコル・デラモニカ&マッテオ・グアリーゼ組、アイスダンスはアンナ・カッペリーニ&ルカ・ラノッテ組、ペニー・クームズ&ニコラス・バックランド組となりました。

 チームをリードしたのはやはり新世界女王となったばかりのメドベデワ選手ですね。SP、フリー通して相変わらずの安定感、シーズン終盤の疲れもほとんど見せず、最後まで怒濤の快進撃を続けました。来シーズンのメドベデワ選手がどんな進化を見せてくれるのか、“メドベデワ旋風”はまだまだ続くのか、期待したいと思います。
 男子選手はジャンプミスが目立ったのですが、その中でも来季に向けての注目は伸び盛りのコリヤダ選手です。今大会は今シーズン安定感抜群だった4回転に乱れがありましたが、それでも演技構成点は良い評価をもらえていて、まずまずの演技でした。来シーズンは彼がロシア男子の中でどういったポジションになるのかというところがポイントで、ロシアのエースになるためにはここからの更なる積み重ね、もう一段階段を上がることが必要だと思うので、来季のコリヤダ選手が良い意味でどう変貌するのか、楽しみですね。



 初開催となったチームチャレンジカップ2016。世界選手権のあとの試合で、得点も公式記録にはならないということで、選手にとってはモチベーションを見出すのが難しい部分もあったんじゃないかなと想像しますが、世界選手権で納得の演技ができなかった選手にとっては来季に向けて切り替えられる良い機会でもあったのではないかと思います。何といってもここで世界初の4フリップが見られるとは夢にも思わず、プレッシャーのない大会だからこその思い切った演技が多々見られて楽しい気分でファンとしてもシーズンを締めくくれました。
 これでトップ選手たちの15/16シーズンも幕を閉じオフシーズンとなりますが、オフのあいだもアイスショーへの出演やプログラム作りなど、トップスケーターたちは休む間もありません。体にだけは気をつけて、充実したオフシーズンを送れることを祈っています。


:記事冒頭のチーム北米の表彰の写真はIcenetworkが2016年4月24日に配信した記事「We the north: U.S., Canada join forces to take title」から、チームアジアの表彰の写真はIcenetworkが2016年4月23日に配信した記事「Uno's sterling skate lifts Team Asia to singles crown」から、そのほかの写真は全て、チームチャレンジカップ2016のアメリカフィギュアスケート連盟の公式フェイスブックページから引用させていただきました。
[PR]
by hitsujigusa | 2016-04-26 21:37 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

c0309082_1350223.jpg


 世界選手権2016の女子とペアに関する記事の後編です。前編をお読みでない方はこちらからご覧ください。

ISU World Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 6位となったのは前年の銅メダリスト、ロシアのエレーナ・ラディオノワ選手です。

c0309082_1357208.jpg

 SPは冒頭の3ルッツ+3トゥループをクリーンに下りますが、後半に組み込んだ3フリップの着氷で前のめりになったため減点。最後の2アクセルは確実に決め、ステップシークエンス、スピンは全てレベル4。ミスを最小限に抑えた演技で、パーソナルベストに極めて近い71.70点で5位となりました。
 フリーも冒頭は3ルッツ+3トゥループ、これをしっかり着氷すると、ショートで小さなミスがあった3フリップもクリーンに成功。続く3ルッツはこらえた着氷になりますが、後半の3+1+3、3+2など、全てのジャンプをクリアし、演技を終えたラディオノワ選手は控えめなガッツポーズで喜びを表しました。得点はこちらも自己ベストに迫る138.11点でフリー5位、総合6位で大会を終えました。
 上位陣のノーミス続出で前年よりは順位を下げる結果になりましたが、ショート、フリー通じてジャンプの着氷でこらえる場面があっただけのほぼノーミスの内容で素晴らしかったですね。ただ、ロシア国内の競争という観点で見ると、13/14シーズンにシニアに参戦して以降、表彰台を逃すことがほぼなかったラディオノワ選手が今回はロシア勢の3番手に終わったことで、国内の勢力図がさらに混沌としてきそうな感じがします。ですが、シーズン前半は成長期の問題でジャンプに苦しみながらも、シーズンを追うごとにしっかり修正し揺るぎないメンタルの強さも証明したラディオノワ選手ですので、この世界一厳しい競争の中を勝ち抜くのは容易なことではないと思いますが、来季もきっと彼女らしい演技を多く見せてくれるんじゃないかなと思いますね。


 7位となったのは日本の浅田真央選手です。

c0309082_15135345.jpg

 SPの冒頭は代名詞の大技3アクセルでしたが、アンダーローテーション(軽度の回転不足)で下りてきてしまいステップアウトします。しかし、直後の3+2はクリーンに着氷。後半の3ループは着氷で詰まり気味となり減点されますが、ステップシークエンス、スピンは全てレベル4を揃え、つなぎの部分でも存分に魅せる滑りを披露しました。得点は65.87点で9位となります。

c0309082_16355335.jpg

 フリーもまずは3アクセルから、惜しくも再び回転不足となりますが、しっかりと片足で着氷します。続いてこちらも大技3フリップ+3ループはセカンドジャンプがわずかに回転不足の判定。次の苦手としている3ルッツはタイミングが合わず2回転となります。後半に入り最初の2アクセル+3トゥループもセカンドジャンプが回転不足となりますが、その後は3サルコウ、3+2+2、3ループと、全てのジャンプをクリーンに着氷。終盤の曲調が変わるステップシークエンスではメリハリのある動きで壮大な女性ソプラノと調和した滑りを見せ、フィニッシュした浅田選手はほっとしたように微笑み、拍手喝采に応えました。得点はシーズンベストとなる134.43点、トータルでは今季初の200点超えをマークし、2年ぶりの世界選手権を7位で終えました。
 今大会の浅田選手の表情や言葉は昨年末の全日本選手権までとはかなり違っていて、何か吹っ切れたような、清々しささえ感じさせるような姿が印象的でした。年明けから左膝を痛めていていつもの練習量を詰めなかったということも影響してか、今できることをしようというどっしりと腹の据わったような感じがしましたね。
 ただ、その中でもフリー翌日のエキシビションの際のインタビューでは、「1日経って悔しさが出てきた」と話したり、帰国後の空港でのインタビューでも「選手である以上は結果を求めていく」と語ったり、勝負師としての顔を見せました。個人的には順位や結果にとらわれず、ただただ楽しんで滑ってくれればと思いますが、最初から結果にこだわらないというのは浅田選手にとって妥協であり、一切の妥協を許さないのがまさに浅田選手らしさであって、それでこそ“浅田真央”なんだなと改めて思い知らされましたね。今シーズンは復帰1季目とあって試合勘を取り戻すのにも時間がかかり、手探りの部分もあって自身の心技体を整えることにいっぱいいっぱいだったと思うのですが、今まで味わったことのない苦しみを経験した浅田選手だからこそ、来季はまた今までとは質の異なる強さを手に入れて試合に臨めるのではないでしょうか。まずは長かった復帰シーズンの疲れを、ゆっくり癒やしてほしいですね。


 8位は日本の本郷理華選手です。

c0309082_1725993.jpg

 SPは四大陸選手権から構成を変更し、まずは得意の3フリップを確実に着氷させます。続く2つのスピンはしっかりレベル4を取り、後半の鍵となる3トゥループ+3トゥループ、これを抜群の高さとスピードで跳び切り1.2点の加点を獲得。最後の2アクセルも決め、終盤のステップシークエンス、スピンもレベル4と実力を出し切り、妖しげな「キダム」の世界観をのびやかに表現しました。得点はパーソナルベストを4点以上更新する69.89点で7位発進となりました。

c0309082_12492491.jpg

 フリーはショートより難度を上げた3+3から、滞りのない流れで成功させますがセカンドジャンプが回転不足となります。しかし、次の3サルコウ、3ルッツは続けて成功させミスらしいミスなく前半をクリアします。後半に入っても勢いは衰えず、2アクセル+3トゥループ+2トゥループ、3ループ、3フリップと相次いでクリーンに着氷。最後の2アクセル+2トゥループは勢いあまってセカンドジャンプの着氷が不完全となりますが、最後まで躍動感いっぱいに「リバーダンス」を演じ切りました。得点は129.26点と自己ベストにはわずかに及ばなかったものの、トータルでは自己ベストを更新し8位で2度目の世界選手権を終えました。
 フリーではちょっとしたミスがありましたが、大会通して表情の明るさ、元気の良さが印象に残りましたね。初出場だった昨年もそうですが、大舞台に全く臆することなく自分の演技を楽しむ余裕さえあるような感じで、本当にメンタルの強い選手だなと改めて思いました。今季の本郷選手は注目度の低いところから一気に飛躍した昨季とは違って、最初から期待される立場でのシーズンということで2年目の難しさに直面しているのかなという印象もありましたが、本郷選手らしからぬ慎重さのあった全日本、四大陸からシーズンラストにしっかり立て直しましたね。
 シニア3年目となる来季はどんな姿を見せてくれるのか、今から楽しみにしています。



 さて、ここからはペアについてです。


c0309082_13255839.jpg


 世界王者の座を勝ち取ったのはディフェンディングチャンピオン、カナダのメ―ガン・デュハメル&エリック・ラドフォード組。SPは冒頭のツイストリフトがレベル2になる取りこぼしはありましたが、目立ったミスなく演技をまとめ、78.18点のパーソナルベストで2位発進します。フリーもツイストはレベル2でしたが、大技の4スローサルコウ、3スローフリップなど、全てのエレメンツをクリーンに決め、ハイレベルな内容をノーミスでまとめ上げました。得点は自己ベストを大幅に更新する153.81点、トータル231.99点で逆転優勝を果たしました。
 昨季は出場した全ての試合で優勝するという圧倒的な強さを誇ったデュハメル&ラドフォード組ですが、今季はGPファイナルで2位となり連勝記録が途絶えたり、四大陸ではデュハメル選手の体調不良によりフリーを棄権したりと必ずしも順風満帆ではありませんでした。それに加えてソチ五輪王者であるタチアナ・ボロソジャー&マキシム・トランコフ組、新たなパートナーとの新ペアで復帰した元世界王者のアリオナ・サフチェンコ&ブリュノ・マッソ組など、実力者の競技復帰もあり、世界選手権連覇への道は予断を許さないものだったと思うのですが、最後の最後にベストを出し尽くす底力はさすが世界王者でしたね。来季もペア界の熾烈な競争は続きそうですが、デュハメル&ラドフォード組が他のペアの追随を突き放すのか、それとも今季以上に混戦状態になっていくのか、ペア界から目が離せませんね。世界選手権2連覇、おめでとうございました。
 銀メダルを獲得したのは中国の隋文静(スイ・ウェンジン)&韓聰(ハン・ツォン)組です。ショートは全てのエレメンツで1点以上の加点を引き出す完璧な演技で、SP世界歴代2位の得点をマークし首位発進。フリーはジャンプやスピンのミスがありトップを守りきれませんでしたが、それでもわずかにパーソナルベストを更新して前年と同じ2位となりました。
 今季はGPファイナルを隋選手の怪我で辞退するなど、こちらも順風満帆ではなかった隋&韓組。ただ、年明け以降は四大陸で圧勝し、着実に万全の準備をして今大会に臨めた印象ですね。フリーではデュハメル&ラドフォード組に差を広げられてしまいましたが、ショートでは史上2組目となる80点台をマークして、世界王者をおびやかす力があることを示しました。まだ20歳と23歳のペアということもあって伸びしろも無限なので、デュハメル&ラドフォード組にとっては年々怖い存在になってきていますね。
 3位はこのペアとしては初出場のドイツのアリオナ・サフチェンコ&ブリュノ・マッソ組。SPはスロージャンプのミスがありましたが、上位と僅差の4位につけます。フリーでもジャンプの細かなミスがあったものの、成功させたエレメンツでは取りこぼしなく十分に加点も積み重ね、総合3位と順位を上げ、初めてのメダルを手にしました。
 かつてロビン・ゾルコビーさんとのペアで世界選手権を5度制したサフチェンコ選手と、フランス出身のマッソ選手との新ペアですが、初出場とは思えない完成度ですね。競技会デビュー1年目にして結果を出した二人が、これからペア界でどんな地位を築いていくのか、楽しみですね。


 日本代表の須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組はSP22位でフリーに進出することはできませんでした。

c0309082_14304421.jpg

 ショートは7つのエレメンツのうち4つでミスが出てしまい、自己ベストの52.70点に遠く及ばない38.50点で最下位に沈み、フリー進出は叶いませんでした。
 本来の演技ができれば上位16位に入れる可能性もあったので残念でしたね。ジャンプだけではなく普段クリーンにこなせるステップやデススパイラルなどでもミスが連鎖してしまい、初出場の緊張が影響したのかもしれません。まだまだ技術的な課題は多いと思いますが、国際大会で160点台をマークするなど可能性も感じさせるシーズンでしたので、来季の成長を期待したいですね。



 女子&ペアの記事は以上です。
 女子はSPで70点台が6人、トータルで200点超えが7人という史上稀に見るハイレベルな戦いとなりました。昨年はSP70点台は首位のエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手一人、総合200点超えもトゥクタミシェワ選手のみだったことを考えると、今年は異常事態といってもいいくらいの得点傾向でしたね。もちろん1年で女子の技術レベルが急激にアップしたわけではありませんが、それだけ上位はミスの少ない素晴らしい演技の連続でしたし、それぞれがそれぞれの全力を出し切って個性を見せつけたおもしろい試合内容で、本当に見ごたえたっぷりで楽しませてもらいました。
 日本女子は2006年以降継続してきたメダル獲得が途絶えましたが、当然こうした記録はいつか途切れるものですし、そもそも10年間続いてきたということ自体がもの凄いことなので、すでに引退した元選手含め、今まで記録を受け継いできた皆さんに改めて拍手を送りたい気持ちですね。今大会はロシア、アメリカの後塵を拝したということで、今後の日本女子を不安視する向きもあるようですが、ジャンプのレベルに関してはトップ選手の実力はほぼ横並び状態です。女子のトップ選手の武器といえば3+3で、ほとんどの選手がショートで3+3を1つ、フリーでは3+3が1つに加え、2アクセル+3トゥループや3+1+3といった2つ目や3つ目に3回転を跳ぶコンビネーションを1つという構成がほとんどです。実際今回の上位陣のフリーの基礎点の合計は、回転不足やパンクといった基礎点からの失点が皆無だったメドベデワ、ポゴリラヤ、宮原、ラディオノワの4選手が62点台、基礎点から失点するミスがあったワグナー、ゴールド、浅田、本郷の4選手が58~59点台と、大きな差はありません。しかも、フリーで3+3を跳んでいない宮原選手の基礎点が3+3を2回跳んだメドベデワ選手の基礎点を上回っているくらいで、コンビネーションの組み合わせをどうするか、基礎点が1.1倍になる後半にいくつ3回転を跳ぶかといった細かな戦略による小数点刻みの争いとなっていて、その中で基礎点で頭一つ抜け出せるのは3アクセルジャンパーである浅田選手と今大会は不出場のトゥクタミシェワ選手だけなんですね。そうした大技を持たない選手たちは基礎点で差がつかない分、加点でいかに稼ぐかというGOEの争いにならざるをえないわけですが、メドベデワ選手は半分のジャンプで片手を上げて跳んでいて、まさにGOE戦略の象徴的な存在と言えます。そういった加点の稼ぎ方が巧いロシア勢に日本勢がどう対抗していくかと考えると、同じような戦略を採るか、基礎点で優位に立つために3アクセルや4回転の習得を目指すかの2つの方向に絞られてきます。もちろん大技を跳んだ上で加点も狙うというのが最高の理想ですが、男子ほど技術的には進化していない女子フィギュア界がこれからどういう方向に向かっていくのか、個人的にはやはり3アクセルや4回転の若い使い手が現われるといいなと期待しますね。


:記事冒頭の女子メダリスト3選手のスリーショット写真、浅田選手のフリーの写真、本郷選手のSPの写真、ペアメダリスト3組の写真、須藤&ブードロー=オデ組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、ラディオノワ選手の写真、浅田選手のSPの写真、本郷選手のフリーの写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
世界選手権2016・男子&アイスダンス―ハビエル・フェルナンデス選手、圧巻の2連覇(前編) 2016年4月4日
世界選手権2016・男子&アイスダンス―ハビエル・フェルナンデス選手、圧巻の2連覇(後編) 2016年4月6日
世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(前編) 2016年4月7日
[PR]
by hitsujigusa | 2016-04-08 17:01 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

c0309082_1546493.jpg


 アメリカのボストンにて行われた世界選手権2016。今回は女子&ペアについてお届けします。男子とアイスダンスについてはこちらをご覧ください。
 女子を制したのは今シーズン快進撃を続けるロシアの新星エフゲニア・メドベデワ選手。フリーでは女子の世界歴代最高得点を更新する圧巻の滑りで、2006年のキミー・マイズナーさん以来となる初出場初優勝の快挙を成し遂げました。2位にはアメリカのベテラン、アシュリー・ワグナー選手が入り、こちらは初表彰台となりました。3位はロシアのアンナ・ポゴリラヤ選手で、こちらも初めてのメダルを獲得しています。
 一方、ペアはカナダのメ―ガン・デュハメル&エリック・ラドフォード組が世界歴代2位のハイスコアで2連覇を達成しました。

ISU World Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 新世界女王となったのはロシアのエフゲニア・メドベデワ選手です。

c0309082_1632363.jpg

 SPは前半はスピンとステップシークエンスのみで、後半に全てのジャンプを固めた構成。まずは3フリップからでしたが、着氷で若干乱れて予定していたコンビネーションにはなりません。しかし、続く2アクセルを決めると、最後の3ループに急遽3トゥループを付けて冷静にリカバリーし、丁寧に滑り切りました。得点はパーソナルベストに迫る73.76点で3位と好発進しました。
 フリーの冒頭はショートで決められなかった3フリップ+3トゥループをパーフェクトに決めると、続く3ルッツも問題なく成功。後半に入っても3フリップ、3ループ、2アクセルからの3連続ジャンプと危なげなく着氷を続け、得点源となる3サルコウ+3トゥループもクリーンに成功。最後の2アクセルも下りると、“愛が世界を救う”というタイトルを掲げた深遠な雰囲気のプログラムをエモーショナルに演じ切り、フィニッシュしたメドベデワ選手は等身大の16歳らしく満面に笑みを浮かべました。得点は自己ベストを上回る150.10点、バンクーバー五輪で韓国のキム・ヨナさんがマークした女子フリーの世界歴代最高点を更新し、大差で初優勝を果たしました。
 ショートではちょっとしたつまずきがありましたが、それでも全体的に初出場の萎縮は感じられず、余裕を持って演技しているように見えましたね。ジャンプの安定感はもちろん、シニア1年目にしては難解な印象のあるプログラムについてもしっかり理解して滑りこなしているように感じました。演技構成点に関してはシーズンを追うごとにニョキニョキと伸びていて、やっぱりちょっと急激すぎるかなという印象は否めませんが、16歳らしからぬ大人びた表現力や身のこなしの巧さは確かに素晴らしいなと思います。
 これからまだまだ身長も伸びるでしょうし、成長期の壁にもぶち当たるでしょうから、これでメドベデワ選手の優位が確固たるものになったとはまだ言えないですが、来シーズンも女子フィギュア界をリードする存在であることは間違いなさそうですね。世界選手権初優勝、おめでとうございました。


 2位はアメリカのアシュリー・ワグナー選手です。

c0309082_17553542.jpg

 ショートはまず3フリップ+3トゥループを完璧に回り切って着氷すると、後半に固めた2アクセル、3ループもきれいに成功。ステップシークエンスはレベル3でしたが、スピンはレベル4を揃え、演技を終えたワグナー選手は嬉しそうに飛び跳ねすぎて尻もちをつくご愛嬌を見せました。得点は自己ベストを更新し73.16点で4位と好位置につけます。
 フリーの冒頭は得意の2アクセルを決めてスタートを切ると、続く3+3はセカンドジャンプがアンダーローテーション(軽度の回転不足)と判定されたものの着氷。直後の2アクセル+2トゥループをしっかり成功させます。2つのスピンを挟んだ後半、得点源の3+1+3の難しい3連続ジャンプ、これをきっちり回り切って着氷し1.2点の高い加点を獲得。続く3フリップはアンダーローテーションでしたが、その後は3ループ、3ルッツと全てのジャンプを成功させ、大喝采を浴びながらフィニッシュしました。得点は142.23点でパーソナルベストをマーク、総合2位に順位を上げ、6度目の出場にして初めてメダルを手にしました。
 いつメダルを取ってもおかしくない実力はありながら、今まではショートで出遅れることが多かったワグナー選手ですが、今回は点差の詰まったショートでメダルが目の前に見えるポジションにつけ、しかもフリー次第で良い方にも悪い方にも転ぶ可能性が大いにある中での最終滑走でしたが、何が何でもやってやるんだという気迫に満ちた演技でした。ワグナー選手は必ずしもスポットライトを浴び続ける競技人生を送ってきたわけではなく、10代の頃は国内のライバルの陰に隠れがちでしたが、少しずつ少しずつ力をつけ、徐々にジャッジの評価も上げ、24歳にしてようやくここまでたどり着きました。ミドルティーンからうなぎ上りにトップ街道を駆け上がるタイプの選手も多くいますが、時間がかかってもゆっくり着実に上り詰める方法があるんだということをワグナー選手の人生がまさに証明していますね。来季もまたワグナー選手にしか醸し出せない味わいのある演技を見せてほしいと思います。


 3位はロシアのアンナ・ポゴリラヤ選手です。

c0309082_22452420.jpg

 SPはまず大技の3ルッツ+3トゥループをしっかり決めて好調な滑り出しを図ると、続く3ループ、後半の2アクセルとジャンプを全てクリーンに成功。ヴァイオリンが奏でる独特なリズムに乗ったステップシークエンスでは長い手足をフルに使ってダイナミックに滑り、迫力のある演技を披露しました。得点はパーソナルベストとなる73.98点で2位と好発進しました。
 メダルを懸けたフリー、冒頭はショートでも決めた3ルッツ+3トゥループを再びクリーンに着氷します。続く得点源の3+1+3、単独の3ルッツも問題なく下り、前半は非の打ちどころのない出来となります。後半は単独の3フリップの踏み切り時のエッジが不正確とされたため加点は与えられませんでしたが、ミスらしいミスなく全てのエレメンツをパーフェクトに揃え、フィニッシュしたポゴリラヤ選手は全身で歓喜を爆発させました。得点は自己ベストにわずかに及ばない139.71点で残念そうに顔を曇らせましたが、終わってみれば総合3位と初めての表彰台をつかみ取りました。
 上述したワグナー選手ではありませんが、ポゴリラヤ選手も同国のライバルたちの後塵を拝してきた選手で、彼女自身も十分才能に溢れているのですが、2つ年上のアデリナ・ソトニコワ選手、エリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手、同い年のユリア・リプニツカヤ選手、1つ年下のエレーナ・ラディオノワ選手、そしてメドベデワ選手と、あまりにも華やかな活躍を見せる選手たちが周囲にいすぎて、常にロシアの3番手くらいから抜け出せずにいました。それに加え良い時は良いけれど悪い時は極端に悪いという好不調の波の激しさが目立ち、そういった意味でもロシア女子の中では埋もれがちだったのかなと思います。しかしその一方でシニア参戦後は世界選手権の切符を逃したことはなく、安定しているのか不安定なのか、なかなか読めない不思議なタイプの選手でもありました。その“読めなさ”のため、今大会もメダル候補に挙げられることは少なかったと思うのですが、見事に歯車が噛み合いましたね。
 来シーズン、ポゴリラヤ選手がロシア女子の中でどう存在感を示していくのか、期待したいと思います。


 4位は全米女王のグレイシー・ゴールド選手です。

c0309082_23435079.jpg

 ショートはまず3ルッツ+3トゥループを完璧な跳躍と着氷で成功させると、後半の3フリップは踏み切り時のエッジが不正確と判定されたもののクリーンな着氷で加点を獲得。最後の2アクセルも決め、艶やかなタンゴの情感をしなやかかつ情熱的な身のこなしで表現し切りました。得点は世界歴代5位となる76.43点で堂々の首位発進となります。
 最後から2番目の滑走となったフリー、冒頭は鍵となる3+3でしたが、セカンドジャンプの着氷でバランスを崩し両手をついてしまいます。しかし、その後の3ループ、2アクセルは問題なく決め、巻き返しを見せます。後半最初の2アクセル+3トゥループ+2トゥループ、続く3フリップ+2トゥループも成功させて良い流れのように見えましたが、次の3ルッツが2回転になるミス。「火の鳥」のエネルギッシュな曲想に合わせ力強い滑りで観客を魅了しましたが、ジャンプミスが影響し得点はフリー6位の134.86点、総合4位と惜しくも表彰台には届きませんでした。
 SPは母国開催のプレッシャーを感じさせないのびやかな演技、フリーも冒頭の3+3はファーストジャンプはきれいな着氷で問題ない流れでしたが、セカンドジャンプの着氷で少しいつもとは違うところに体重が乗ってしまい踏ん張れずに転倒とはなったものの、演技全体としては勢いもあってゴールド選手らしさが端々まで行き渡っていました。惜しむらくは後半の3ルッツの失敗で、今シーズンはこのジャンプのミスがしばしばあるので慎重になったのかもしれませんが、これが成功していれば3位のポゴリラヤ選手を上回れていた計算になるのでもったいなかったですね。ただ、これも一つの経験として再び同じシチュエーションになった時の強みになりますから、来季も(その前にチームチャレンジカップがありますが)ゴールド選手らしく頑張ってほしいですね。


 5位は日本のエース、宮原知子選手です。

c0309082_173838.jpg

 SPは高難度の3ルッツ+3トゥループで幕を開け、2つのスピンを挟んだ後半、3フリップは踏み切り時のエッジが不正確となった上、珍しくアンダーローテーションを取ら減点を受けます。しかし、最後の2アクセル、終盤のステップシークエンス、スピンとそのほかのエレメンツに取りこぼしはなく、いつもどおりの繊細かつダンサブルな演技で、70.72点の6位につけました。

c0309082_1174042.jpg

 フリーはまず3+2+2を確実に着氷して好スタートを切ると、3ループ、そしてショートで回転不足と判定された3フリップもクリーンに成功。後半に入っても3ルッツ、2アクセル+3トゥループ、3サルコウ、2アクセル+3トゥループと、いつもと変わらぬ正確無比な技術力で次々とジャンプを下り、ピアノ曲「ため息」のしっとりとしてエレガンスな世界観を演じ切りました。得点は139.89点で自己ベストには届かなかったもののフリー3位、総合5位と順位を上げました。
 SPでは3フリップの回転不足による減点があり、またフリーでもベストを尽くした演技ながらパーソナルベストに2.5点ほど及ばなかったということもあって、僅差の争いの中で5位に留まりました。しかし、ミスと言えるようなミスは今回も皆無で、上位陣が軒並み200点超えという異常事態といってもいい状況だったので、力を出し切った上での悔いなき5位なんじゃないかなと思います。残念だったのはフリーの演技構成点が四大陸の時よりも下がっていたことで、大体良い演技を2試合続けた時は点数がアップすることが多いと思うので個人的にはあれ?という感じだったのですが、その時その時のジャッジの裁量によるものなので、致し方ないですね。ですが、1年前とは比べものにならないくらい演技内容もスコアも急成長を遂げていますから、今までどおりの宮原選手の道を突き進んでほしいと思います。今季はまだあと1試合、チームチャレンジカップが残っていますので、そちらでも宮原選手らしい安定感抜群の演技を楽しみにしています。



 突然ですが、前編はここで終了です。続きは後編をお読みくださると幸いです。


:女子メダリスト3選手のスリーショット写真、ポゴリラヤ選手の写真、宮原選手のSPの写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、メドベデワ選手の写真は、AFPBB Newsが2016年4月3日の16:03に配信した記事「メドベデワが世界フィギュア制す、日本勢は宮原の5位が最高」から、ワグナー選手の写真、宮原選手のフリーの写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、ゴールド選手の写真は、AFPBB Newsが2016年4月1日の8:44に配信した記事「日本勢出遅れる、女子SPはゴールドが首位 世界フィギュア」から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
世界選手権2016・男子&アイスダンス―ハビエル・フェルナンデス選手、圧巻の2連覇(前編) 2016年4月4日
世界選手権2016・男子&アイスダンス―ハビエル・フェルナンデス選手、圧巻の2連覇(後編) 2016年4月6日
世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(後編) 2016年4月8日
[PR]
by hitsujigusa | 2016-04-07 01:58 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

c0309082_1718510.jpg


 世界選手権2016・男子とアイスダンスについての記事の後編です。前編はこちらをご覧ください。

ISU World Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 6位となったのはアメリカチャンピオンのアダム・リッポン選手です。

c0309082_17333958.jpg

 ショートは大技の4ルッツを外し完成度を狙った構成。まずは3+3を確実に決めると、続いて3アクセルも完璧に成功。後半の得意の3ルッツも難なく下り、安定した演技でSP自身最高位タイの7位発進となりました。
 フリーは冒頭に昨季から挑戦し続けている大技4ルッツに挑み、アンダーローテーション(軽度の回転不足)ではあったものの片足で着氷します。さらに3アクセル+2トゥループも成功し、3ルッツでは両手を上げて跳ぶ“リッポン・ルッツ”で高い加点を得ます。後半に入っても3アクセル、3+3、3+2+2など全てのジャンプを美しくパーフェクトに次々と下り、スピンでも高い加点を獲得。フィニッシュしたリッポン選手は全身で歓喜を爆発させました。得点はパーソナルベストを10点近く上回る178.82点をマークしフリー4位、トータル6位で自己最高位タイで大会を終えました。
 ショート、フリーともに実力を十二分に発揮した素晴らしい演技でした。惜しくも4ルッツは成功しませんでしたが、母国開催のプレッシャーもある中、全米王者として存在感を示しましたね。表彰台争いに絡むことはありませんでしたが、リッポン選手を始めとしてアメリカ勢の伸びやかな演技が大会を盛り上げたことは間違いないですし、4回転を数種類かつ複数回跳ぶ現在の男子フィギュア界の潮流とは一線を画す、プログラムで魅せるという点において、リッポン選手は際立っていたなと思います。26歳とベテランのリッポン選手ですが、これからが彼のキャリアにおいて最も輝かしい日々になっていくことを心から願っています。


 7位はGPファイナル2015銅メダリスト、日本の宇野昌磨選手です。

c0309082_1853164.jpg

 ショートはまず冒頭の4トゥループをきっちり決め好調な滑り出し。続く2つのスピンはしっかりレベル4を取り、後半に組み込んだ3アクセルも完璧な着氷で2.29点の高い加点。最後のジャンプは3+3でしたが、珍しくファーストジャンプの着氷で乱れセカンドジャンプが2回転となります。ですが、終盤のステップシークエンス、スピンもレベル4を揃え、最小限のロスで演技をまとめ上げました。得点は90.74点と2月の四大陸選手権でマークした自己ベストにはわずかに及ばないものの、ハイスコアで4位と好発進しました。

c0309082_2343362.jpg

 フリーは四大陸選手権からジャンプ構成を大幅に変え、後半に3アクセル2本を跳ぶチャレンジングな内容。まずは大技の4トゥループでしたが、着氷で乱れクリーンな成功とはならず。しかし、直後の2アクセル+1ループ+3フリップの難しい3連続ジャンプは確実に決め、苦手としている3ルッツも踏み切り時のエッジが不正確とされ加点は付かなかったものの減点なくクリアします。そして勝負の後半、3ループ、3サルコウといった難度の低いジャンプを難なく下り、連続ジャンプにしたい4トゥループでしたが、激しく転倒してしまいます。ですが、次の3アクセル、3アクセル+3トゥループは大きなミスなくこなし、力強くフィニッシュしました。得点は173.51点でフリー6位、総合7位で初めての世界選手権を終えました。
 ショートプログラムの前からあまり4回転や3アクセルの調子が良くなかったようで、ショートは不調が嘘のようにハマったのですが、フリーは4回転に苦しめられましたね。ただ、終盤のあの苦しい時間帯に3アクセルを2本跳ぶという勇敢さは素晴らしいですし、滑り慣れた構成をあえて変更してまで進化を目指した向上心には感嘆します。演技を終えた直後、氷上の宇野選手は魂が抜けたかのような呆然とした表情で、心ここにあらずという感じでした。そしてキス&クライやインタビューでは涙が止まらず、練習の成果を本番で発揮できなかった悔しさを隠しませんでした。ショートでもフリーでも演技前の宇野選手の表情はこれまでの大会より厳しさを増しているような印象で、もちろん初めての大舞台特有の緊張感というのもあったでしょうし、特にフリーはフェルナンデス選手のあまりにも凄すぎる神演技の直後の滑走という、ベテランの選手でさえキツいだろうというシチュエーションだったのですが、そうした心の変化が影響を与えたのか、表情は終始硬く、いつもより演技は小さく控えめで本来の迫力に欠けていたように感じました。もちろん世界選手権デビューということを考えれば、大崩れしたわけでもなく十分称賛に値する内容だったと思うのですが、シーズン前半のもっと素晴らしい演技を見ているからこそ、まだまだ宇野選手はこんなもんじゃないというのも感じましたね。
 宇野選手の悔しがりぶりを見ても、相当この大会に懸ける思いが強かったことが伝わってきましたし、四大陸から今大会までというのは競技人生でも最も努力した期間だったのだろうと思います。宇野選手にとって今大会は辛い思い出になったかもしれませんが、シニアの競技人生の原風景として、この忘れがたい敗北感がこれからの彼を作っていくのではないかと思いますし、キス&クライであれだけ悔しがって涙を流して、それでもうつむくことなく前を見続けていた彼の姿からは、逆に頼もしさを感じました。
 来季に関してはすでに4ループの挑戦を明言している宇野選手ですが、今季はまだ団体戦のチームチャレンジカップも残っています。連戦で大変でしょうが、身体のケアをしながら次戦も頑張ってほしいですね。


 8位はアメリカのマックス・アーロン選手です。

c0309082_1523183.jpg

 SPはまず大技の4サルコウからでしたが、着氷で大きく乱れ減点となります。しかし、続く3アクセルはパーフェクトな跳躍で2点の高い加点を獲得。後半の3+3も確実に成功させ、ステップシークエンスやスピンでは取りこぼしもありましたが、まずまずの内容で81.28点の8位につけました。
 フリーも冒頭は4サルコウを含む連続ジャンプから、これを完璧に決めて好スタートを切ります。さらに3アクセル+2トゥループ、3ループと前半のジャンプは全てクリーンに成功させます。そして後半に組み込んだ2本目の4サルコウ、これもしっかりと着氷し、直後の3アクセルもクリーンな出来。その後は最後の2アクセルで着氷ミスがあり完全なクリーンプログラムとはならなかったものの、全体的に躍動感に満ち、まとまりのある演技を見せ、フィニッシュしたアーロン選手は嬉しそうに破顔しました。得点は自己ベストを更新する172.86点でフリー7位、総合では8位となりました。
 今シーズンは新たに名振り付け師のフィリップ・ミルズさんとタッグを組んで表現面を強化してきたアーロン選手ですが、やはりジャンプが決まることによって滑りの迫力も際立ってきて、とても良かったですね。ただ、惜しかったのはショート、フリーともにステップがレベル2どまりだったことやスピンの取りこぼしが多かったことで、来季はこのあたりもさらにクオリティーが良くなることを期待したいですね。



 さて、ここからはアイスダンスです。


c0309082_203924100.jpg


 優勝したのはフランスのガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組です。SDで自己ベストを更新して2位と僅差ながら首位に立つと、FDでも全てのエレメンツで最高難度レベル4を揃えて自己ベスト、2位に約6点差をつける圧勝で2連覇を達成しました。
 今季のパパダキス&シゼロン組は夏の練習中にパパダキス選手が転倒し脳振とうを起こした影響でシーズン前半はほぼ試合に出られず、その中でも欧州選手権を制して迎えた今大会でしたが、シーズン前半の出遅れがなかったかのような完成された内容でしたね。昨年の世界選手権はSP4位からの逆転優勝でしたが、今回は完全優勝。チャンピオンというポジションを揺るぎないものにしたような感じがします。来季はバンクーバー五輪王者のカナダのテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア組が復帰する予定ですが、その中でもパパダキス&シゼロン組が自分たちの時代を作っていけるかどうか、今から楽しみですね。世界選手権2連覇、おめでとうございました。
 銀メダリストとなったのはアメリカ王者のマイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組。SDで自己ベストをマークして首位に迫る2位と好発進すると、FDでは自己ベストを5点近く更新し、2011年以来となるメダルを獲得しました。
 アイスダンスというのはシングルやペアと違ってジャンプがない分、技術面でミスが出にくく、そのため演技構成点の格付けというのがそのまま順位に反映されやすい種目です。そうした中でここ数年国内のライバルであるチョック&ベイツ組に次ぐ位置付けだったシブタニ&シブタニ組が、今シーズンその格付けをひっくり返し、チョック&ベイツ組とポジションを逆転させたことは、私にとって非常に驚きでした。この世界選手権銀メダルという結果も米国の2番手からチャンピオンに上り詰めたことによって引き寄せられたものだと思いますし、なかなか全米王者に届かない中でも、世界随一といわれる技術力を磨き続けてきた二人のたゆまぬ努力の賜物に違いないですね。
 3位は同じくアメリカのマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組です。ショートダンスはそつなくまとめたものの5つのエレメンツのうち2つがレベル3となり自己ベストに及ばず3位発進。しかし、フリーでは全てのエレメンツでレベル4を獲得し、自己ベストも5点以上更新して2年連続で表彰台に立ちました。


 世界選手権初出場の日本の村元哉中&クリス・リード組は15位となりました。

c0309082_241028.jpg

c0309082_284982.jpg

 SDはエレメンツをレベル3、4でしっかり揃え、パーソナルベストで16位発進となります。フリーではステップシークエンスがレベル2となる取りこぼしはありましたが、目立ったミスなく演技をまとめてショートに続き自己ベスト。初めての世界選手権を15位で終えました。
 まずはSDで20位以上に入ってFDに進出することが一つのハードルだったと思うのですが、全く問題なかったですね。フリーでも1つ順位を上げて、実力を出し切った素晴らしい演技だったと思います。まだまだ始まったばかりの村元&リード組ですが、すでにカップルとしての完成された雰囲気を醸し出していて、平昌五輪に向けて今から楽しみが増しました。期待としては、キャシー・リード&クリス・リード組がマークした世界選手権での最高位13位を超えてほしいなというのと、さらにその上も狙えるカップルだと思うので、日本のアイスダンスの歴史を変えるようなカップルになってほしいですね。



 男子&アイスダンスの記事は以上です。
 男子は4回転を4回も5回も跳ぶのが当たり前のようになってきて、間違いなく競技として進化を遂げているのは喜ばしいことだと思うのですが、その一方で4回転偏重になり過ぎてプログラムという芸術作品としての魅力、エンターテインメントとしての醍醐味がおろそかになりはしないかという心配も少々あります。確かに4回転を複数かつ数種類跳ぶと凄いなと圧倒はされますが、4回転だけ、ジャンプだけを見て感動することはありません。やはりプログラムの表現でいかに観客を引きつけられるかということに尽きるのと思うので、ジャンプの進化と芸術作品・エンターテインメント作品としての見応えを両立していってほしいですね。
 次は女子とペア編です。


:記事冒頭の男子メダリスト3選手のスリーショット写真、宇野選手のSPの写真、アイスダンスメダリスト3組の写真、村元&リード組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、リッポン選手の写真、宇野選手のフリーの写真、アーロン選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
世界選手権2016・男子&アイスダンス―ハビエル・フェルナンデス選手、圧巻の2連覇(前編) 2016年4月4日
世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(前編) 2016年4月7日
世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(後編) 2016年4月8日
[PR]
by hitsujigusa | 2016-04-06 13:59 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

c0309082_0375669.jpg


 シーズンのクライマックスとなる世界選手権2016がアメリカのボストンにて行われました。この記事では男子とアイスダンスの結果について書いていきます。
 男子を制したのはディフェンディングチャンピオン、スペインのハビエル・フェルナンデス選手です。羽生結弦選手優勝という大方の予想に反して、キャリアベストの演技で2年連続の王座をつかみました。そして2度目の優勝を狙った日本の羽生結弦選手は2位となりました。3位には中国の新星、金博洋(ジン・ボーヤン)選手が入り、中国男子として初めてメダルを獲得するという快挙を達成しました。
 アイスダンスはフランスのガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組が優勝し、こちらも連覇を成し遂げています。

ISU World Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 金メダルを手にしたのはハビエル・フェルナンデス選手です。

c0309082_0592192.jpg

 SPはまず4トゥループ+3トゥループの大技を確実に成功させ波に乗ったかに見えましたが、続く得意の4サルコウで転倒。しかし後半の3アクセルは完璧に決め、本格的なフラメンコのステップや振り付けを取り入れた終盤のステップシークエンスでは迫力に満ちた滑りを見せ、熱狂的にフィニッシュしました。得点は98.52点で2位につけます。
 フリーは欧州選手権同様、3アクセルを1本から2本に増やし、シーズン前半からレベルアップした構成。まずは単独の4トゥループをさらりと着氷し、加点3の最大評価を得ます。続く4サルコウ+3トゥループの高難度連続ジャンプも完璧。3アクセル+3トゥループも難なく下りて、最高のスタートを切ります。1.9点の加点を得たステップシークエンスを挟んだ後半も勢いは衰えるどころかますます加速し、2本目の4サルコウをパーフェクトに成功させると、3+1+3、2本目の3アクセル、3ルッツ、3ループと全てクリーンに着氷。一分の隙もない圧倒的な演技に、会場はスタンディングオベーションの嵐に包まれました。得点は100点を大幅に超える技術点はもちろん、パフォーマンスとインタープリテーションの項目で10点満点が与えられた演技構成点でも大きく点数を稼ぎ、世界歴代2位となる216.41点をマーク、トータルでも314.93点と驚異のハイスコアを叩き出し、世界王者のポジションを守り切りました。
 ショートは安定感抜群の4サルコウで珍しく転倒し、羽生選手に12点差付けられての2位発進となったフェルナンデス選手。右足のかかとの炎症を患っていたということで、公式練習でもあまり密度の濃い練習はできなかったようですが、フリーはその影響を全く感じさせない至上の演技。シーズンラストと割り切ったことが良かったのでしょうし、また、フェルナンデス選手の性格も功を奏したのではないでしょうか。チームメイトの羽生選手と比較するとその真逆さが分かりやすいのですが、羽生選手がわりとエキサイトしやすく感情表現の起伏が激しいのと対照的に、フェルナンデス選手は常ににこやかかつ穏やかで、良い演技の時も悪い演技の時も感情表現は控えめで淡々としているという印象です。もちろんどちらの性格が良い悪いということではなく、羽生選手のような激しさが良い結果をもたらすこともあれば、フェルナンデス選手のような穏やかさがあだとなることもあると思います。今回はそれが逆で、フェルナンデス選手の大らかな気質がこういう困難な状況において効果的に作用したのかなという気がしますね。
 パトリック・チャン選手以来の連覇、ヨーロッパの選手としてはスイスのステファン・ランビエールさん以来の連覇を成し遂げ、更なる進化を予感させてくれたフェルナンデス選手。昨年の優勝はアクシデント続きだった羽生選手の不調もあって、思いがけず転がり込んだという感じがフェルナンデス選手自身の言葉でもあったのですが、今年は彼自身が怪我を抱えた不利な状況の中で、羽生選手を逆転できたというまた違った形での勝利で、一段階レベルアップした強さを手に入れたなという感じがします。まずはゆっくり休んで怪我を治してほしいですが、来シーズンも楽しみにしています。世界選手権2連覇、本当におめでとうございました。


 2年連続で銀メダルを獲得したのは日本の羽生結弦選手です。

c0309082_095929.jpg

 SPは冒頭の4サルコウを完璧に下り、3点の高加点を得ると、続く4トゥループ+3トゥループはいつもより4トゥループの着氷で膝が深く曲がったものの、難なくセカンドジャンプに繋げて成功。後半の3アクセルも難しい入りからあっさりと着氷し、ステップシークエンスはレベル3どまりでしたが、全てのスピンでレベル4を獲得するなどそつのない演技を披露。フィニッシュした羽生選手は雄たけびを上げ、達成感と歓喜を爆発させました。得点は世界歴代最高得点の自己ベストにはわずかに及ばないものの、110.56点の高得点で断トツの首位に立ちました。

c0309082_0304563.jpg

 フリーは全日本選手権から構成を一部変更し、後半に4サルコウ+3トゥループを組み込む難度を上げた内容。冒頭はまずこれまでどおり単独の4サルコウからでしたが、着氷で大きく乱れ減点を受けます。しかし、続く4トゥループ、3フリップは確実に着氷し、すぐに立て直します。レベル4のスピンとステップシークエンスを挟み勝負の後半、鍵となる4サルコウ+3トゥループでしたが、ファーストジャンプで転倒となってしまいます。直後の3アクセル+3トゥループは完璧に下りますが、続く3アクセルからの3連続ジャンプは3アクセルの着氷でオーバーターンしてしまい、不完全な3連続に。最後の3ルッツでもミスがあり、演技を終えた羽生選手はがっくりと膝に手をつきました。得点は184.61点でフリー2位、総合も2位でフェルナンデス選手に逆転を許しました。
 ショートの完璧さからは想像もつかないフリーの演技、展開でしたね。羽生選手自身の言葉によると、「ずっと緊張していた」「緊張の質に対応できなかった」とのことですが、今季は初めてフリーで200点超え、トータルで300点超えを達成し、周囲も羽生選手自身も優勝を当然のものとして臨んだからこその、特殊な難しさがあったのかなと推測します。
 そして、今大会の羽生選手に関しては試合前から練習中のトラブルにも見舞われました。SP前の羽生選手の曲をかけた中での公式練習中、羽生選手のジャンプの進路上でデニス・テン選手が練習をしていたために羽生選手が進路を変えざるをえず、そうしたテン選手の行為について羽生選手が「故意だと思う」と妨害を示唆したことで日本のマスコミも大きく取り上げましたが、個人的にはテン選手の配慮が足りなかっただけなのか、それとも故意の妨害だったのかは分からないですね。その映像を見ていないので憶測でしか言えないのですが、わざと邪魔をしたからといってメリットがあるとは思えないですし、逆にそれでぶつかってしまったら相手だけではなく自分も怪我をする可能性があるので、最近も負傷を経験したばかりのテン選手がわざわざそんなことをするかな?という感じもします。また、フィギュアスケートというのはもちろん他選手と点数や順位を競う競技ではありますが、究極的には広いリンクの上でたった一人で演技するという自分自身との戦いの競技でもあります。ライバルの邪魔をしたからといってそれで単純に自分に有利に働くというものでもないと思いますし、やっぱり自分がいかに良いパフォーマンスをするかということに尽きるので、私は希望も含めて、“故意の妨害説”は採りたくないですね。また、実際にテン選手が羽生選手の練習の邪魔になっていたことは事実なのだとは思いますが、曲かけ練習中といっても6人の選手が同時にリンク上にいてお互いに配慮し合わなければいけないというシチュエーションに変わりはなく、曲をかけている選手に優先権があるといっても明文化されたルールではなくあくまで暗黙の了解的なマナーだそうなので、その優先の度合いの認識にもしかしたら選手個々で差異があるのかもしれませんし、テン選手は怪我あけということで余裕がなく自分のことに集中しすぎて周囲が見えていなかったのかもしれません。全て憶測でしかないですが、日本では一方的にテン選手が故意に妨害したという見方に染まって、すっかり“悪者”になってしまったのが、日本のフィギュアだけではなく、世界のフィギュア全体を愛する一ファンとしては残念ですね。
 話が本題から逸れましたが、羽生選手はこれでまた忘れられない悔しさを手に入れてしまったことと思いますが、この苦さがまた彼の肥料になることも間違いありません。来季についてすでにジャンプ構成の難度向上を明言している羽生選手。難しいジャンプを増やせば増やすほど身体への負担も大きくなってくるので心配もありますが、大きな怪我はしないよう気をつけて頑張ってほしいですね。


 3位は中国の金博洋(ジン・ボーヤン)選手です。

c0309082_158101.jpg

 ショートの冒頭は代名詞の4ルッツからのコンビネーションジャンプ、ファーストジャンプの着氷で多少乱れがありましたがきっちりセカンドジャンプに繋げます。続く3アクセルはクリーンに着氷。後半の4トゥループでも着氷ミスがありクリーンなジャンプを揃えることはできませんでしたが、全体的には最小限のミスに抑え、89.86点で5位と好位置につけました。
 フリーはいつもどおり3種類4本の4回転を組み込んだ攻めの構成。冒頭の4ルッツは珍しく着氷で大きく乱れ大幅に減点。しかし、続く4サルコウ、3アクセルからの3連続ジャンプを確実に下ります。後半に入り最初の4トゥループは若干ランディングが乱れましたが、4トゥループ+2トゥループ、3+3など、全てのジャンプを予定どおりに成功。致命的なミスなく無難に演技をこなし、181.13点でフリー3位、総合3位に順位を上げました。
 ショート、フリーともに得意の4回転の着氷で少しこらえたりぐらついたりする場面が多々あり会心の演技とはなりませんでしたが、回転不足やパンクといった基礎点から大きく取りこぼすミス、転倒のような印象の悪いミスがなかったことが初出場にして表彰台という快挙に結び付いたのかなと思いますね。
 誰にも真似できないジャンプ構成の安定感は申し分ないので、来季に向けてはジャンプやスピンなどの加点の上積み、表現面の強化を期待したいですね。特に表現面は大人のスケーターたちに交じるとやはり物足りなさを感じるので、シニア2年目のさらなる飛躍を楽しみにしたいと思います。


 惜しくも表彰台まであと一歩、4位はロシアの成長株ミハイル・コリヤダ選手です。

c0309082_14153038.jpg

 ショートはまず得点源の4トゥループ+3トゥループを決めると、3アクセルもパーフェクトに成功。後半の3ルッツも難なく下り、ステップシークエンス、スピンも全てレベル4。非の打ちどころのない演技で自己ベストを5点以上更新し、6位と好発進しました。
 フリーも冒頭は4トゥループから、これを完璧に決めて2.43点の高い加点を獲得します。続く単独の3アクセル、3アクセル+3トゥループの連続ジャンプを両方ともクリーンに着氷し、それぞれ1点、2点の加点を稼ぎます。その後も全てのジャンプをクリーンに下り、フィニッシュしたコリヤダ選手はガッツポーズで喜びを露わにしました。得点はこちらもパーソナルベストを10点ほど更新する178.31点でフリー5位、総合4位となりました。
 今シーズンはGPシリーズのロステレコム杯で5位、ロシア選手権で2位、欧州選手権で5位と躍進したコリヤダ選手ですが、世界選手権で4位に入るとは予想以上でした。初出場の緊張感、萎縮などは感じられず、とても冷静に生き生きと演技していましたね。コリヤダ選手は他のトップスケーターと比べても決して難度の高いジャンプ構成ではありませんが、一つ一つのジャンプの質が良く、高い加点が付きやすいのが特徴ですね。また、表現面でも独創性の高いプログラムをしっかり滑りこなしていて、今大会のフリーの演技構成点は全体の6位と高評価を得ています。同じロシアのエースのマキシム・コフトゥン選手が今大会18位と振るわなかったこともあって、来シーズンのロシア男子の勢力図はどうなるのか、コリヤダ選手がコフトゥン選手と肩を並べる形になるのか、今から楽しみですね。


 5位は元世界王者、カナダのパトリック・チャン選手です。

c0309082_15333790.jpg

 SPはまず4トゥループ+3トゥループを完璧に決めて2.57点の高加点を得ます。しかし、続く鬼門の3アクセルは転倒。後半の3ルッツはきっちり下り、得意のステップシークエンス、スピンで観客を魅了し、チャン選手らしさを発揮しました。得点はシーズンベストとなる94.84点をマークし、3位と好発進しました。
 フリーは苦手の3アクセルを2本組み込んだアグレッシブな構成。冒頭は4トゥループでしたが、回転が途中で抜けてしまい3回転になります。しかし、ショートで失敗した3アクセルはクリーンに成功。そして得点源となる4トゥループ+3トゥループでしたが、壁に近づきすぎてしまいセカンドジャンプの着氷で大幅に乱れます。後半も3アクセルが1回転になったり3フリップが2回転になったりとミスが相次ぎ、演技を終えたチャン選手は残念そうに肩を落としました。得点は171.91点でフリー8位、総合5位に順位を落としました。
 セカンドジャンプで壁にぶつかったフリーの4+3以外は、4回転はおおむね安定していたチャン選手ですが、やはり3アクセルが不安定でしたね。また、今大会はリンクの氷の状態が悪く、表面に水が浮いているような時もあり、そのためかどうかは分かりませんが、四大陸選手権の時ほど演技に集中し切れていないように感じました。久しぶりの世界選手権ということもあり、緊張をパワーに変えることができなかったのかなと思いますね。
 ですが、今季のチャン選手を見て、フェルナンデス選手や羽生選手とは別の道を行く姿には魅力を感じましたし、唯一無二のスケーティングも健在で、復帰2年目となる来シーズンは試合にも慣れてまたさらにレベルアップしたスケートを見せてくれるんじゃないかなと思います。



 さて、世界選手権2016・男子&アイスダンスの記事は一旦ここでおしまいにし、続きは後編に書きます。ご面倒をおかけしますが、後編をご覧ください。


:男子メダリスト3選手のスリーショット写真、羽生選手のSPの写真、チャン選手の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、フェルナンデス選手の写真、羽生選手のフリーの写真、金選手の写真、コリヤダ選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
世界選手権2016・男子&アイスダンス―ハビエル・フェルナンデス選手、圧巻の2連覇(後編) 2016年4月6日
世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(前編) 2016年4月7日
世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(後編) 2016年4月8日
[PR]
by hitsujigusa | 2016-04-04 17:00 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)