人気ブログランキング | 話題のタグを見る

あさきゆめみし 完全版1


 フィギュアスケートシーズン真っ只中ですが、久しぶりのフィギュア以外の記事となります。今回取り上げるのは漫画家・大和和紀さんの代表作である『あさきゆめみし』。大和さんの誕生日が3月13日ということで、それに合わせてこの名作をフィーチャーしたいと思います。

 『あさきゆめみし』は紫式部が書いた古典の名作「源氏物語」を漫画化したもの。平安の貴族世界を舞台に繰り広げられる主人公・光源氏のめくるめく恋愛遍歴を華麗かつ圧倒的な画力で見事に描き切っています。「源氏物語」について光源氏という男が主人公の恋愛小説だと知っている人は多くいると思いますが、改めて手に取って読もうという人はそうそういないでしょう。なんといっても超大作の古典だし、現代語訳もいろいろあるけれどどれがいちばん読みやすいのか分からないし、長さからいってもハードルが高いことに変わりはない。そんな“源氏物語ビギナー”にとって、『あさきゆめみし』はかっこうの取っ掛かり。漫画ということで原作と比べても取っつきやすく、「源氏物語」へのハードルをぐっと引き下げてくれる。かくいう私も「源氏物語」に興味はありつつもなかなか手が出せず、『あさきゆめみし』から入ってのちに現代語訳へと広がっていきました。
 ただし、『あさきゆめみし』は「源氏物語」の単なるコミカライズかというとそうではないし、原作の代役とか入門書とかいう見方だけで読んでしまってはもったいない、漫画ならではの表現方法が存分に生かされたオリジナリティー溢れる「源氏物語」となっています。

 ここで話はちょっと逸れますが、「源氏物語」を分析した評論に、2007年に亡くなった日本を代表する心理学者・河合隼雄さんが著した『源氏物語と日本人 紫マンダラ』という本があります(単行本で出版された当初の題名は『紫マンダラ 源氏物語の構図』)。この中で河合さんは、「源氏物語」において主人公であるはずの光源氏の存在感が希薄であると前置きした上で、「源氏物語」は光源氏を描いているのではなく、紫式部が自らの分身としてさまざまな女性を登場させることで、女性の内的世界の多様性を描いたのだ、というおもしろい指摘をしています。

 『源氏物語』を読んでいるうちに筆者が感じたのは、源氏の周りに現われてくる女性たちが、すべて作者、紫式部の分身である、ということであった。彼女は自分の人生経験をふり返り、自己の内面を見つめているうちに、自分の内界に住む実に多様で、変化に富む女性の群像を見出した。(中略)この多様で豊かな「世界」を描くにあたって、彼女は一人の男性を必要とした。その男性との関係においてのみ、内界の女性たちを生きた姿で描くことができた。内界の女性は無数に近かった。しかし、それは紫式部という一人の女性のものであるという意味で、彼女たちは何らかの意味でひとつにまとまる必要があった。そのため、彼女たちすべての相手を務めるのは、一人の男性でなくてはならなかった。それが光源氏である。(河合隼雄『源氏物語と日本人 紫マンダラ』講談社、2003年10月)

 確かに源氏の行動を見ると当時の貴族の男性は一夫多妻が常とはいえ、尋常でないくらい次から次へといろんな身分の女性に手を出す一貫性のない姿は一人の男性のそれというよりも、各々の女性に対するごとに人間が変わっているとさえ感じられるほど。そんな源氏と比べると登場する女性たちは皆血が通った人間としてのリアリティを漂わせています。
 そういった源氏を巡る女性たちを河合さんは母、妻、娼、娘の4つに分類し、それらを以下のような世界観を統合的に形にした“女性マンダラ”として図形化。「源氏物語」における女性の在り方の多様さを示しました。

大和和紀『あさきゆめみし』―女性ドラマとしての「源氏物語」_c0309082_035265.jpg


 もちろん女性を4つのタイプに分類しているからといって女性を類型化・ステレオタイプ化しているわけではなく、男性との関係性に依って生きていかざるを得ない「源氏物語」の女性たち=平安の女性の実情を的確に反映していると思うのですが、振り返って考えてみると本質的なものは紫式部の時代もこの21世紀もそんなに変わっていないんじゃないかという気がします。昔と比べれば日本の女性もだいぶ社会進出は進んで、男性と同じように働く女性も、結婚しない女性も増えて生き方は多様になっていますが、男性との関係性で女性を位置づけるという点では未だに根本的な変化はないように思います。母であれ妻であれ娘であれ娼(恋人or愛人)であれ何かしらの役割を求められるという意味で、現代の女性が母でも妻でも娘でも娼でもない“個”の自分として生きていくには、まだまだ生き辛さがあるのかなという感じがしますね。

 そうして紫式部は自らの分身=男性との関係性の中で生きる女性たちの姿を鮮やかに描き切ったわけですが、さらに発展して“個”として生きようとする女性も描いていて、タイトルこそ「源氏物語」ですが、中身は徹底的に女性に迫った“女性のドラマ”と言えそうです。
 ですが、ビギナーが「源氏物語」を読む場合、女性たちそれぞれの心情だったり人間性だったり細かい部分を読み取るのはなかなか難しく、それ以前に古典文学という高いハードルが目の前にあり、“ドラマ”という感覚で楽しめるようになるまでには数回読み通すことが必要でしょう。
 そんなハードルを軽々と乗り越え、女性ドラマとしてのおもしろさを存分に堪能させてくれるのが『あさきゆめみし』です。
 特筆すべきはなんといってもそれぞれ異なる魅力を持った女性キャラクター。原作では情報が少なく、各女性キャラの個性を思い浮かべながら読み進めるのは困難ですが、漫画では全員黒髪&床まで伸びる長髪&十二単という制約の中で微妙な髪型の違いや目の大きさの違いなど姿かたちを絶妙に描き分け、個性を強調しています。
 感情表現、心理描写ももちろん原作より事細か。漫画ならではのセリフ、モノローグ、表情を巧みに駆使して描かれる女性たちは、源氏に翻弄されて泣いたり、怒ったり、嫉妬したり、喜んだり。その姿は現代の女性と何ら変わらない自分の周りにも普通に居そうなリアルさに満ちていて、これが1000年以上前に書かれた物語であることをすっかり忘れてしまうのです。

 そんなふうに『あさきゆめみし』は原作に書かれていることから想像したり、書かれていないことを補ったりして世界観が作り上げられていて、紫式部の「源氏物語」とはまた別の一つの作品と言えるかもしれません。でも、「源氏物語」の本質が壊されているかというとそんなことは決してなく、それどころか女性ドラマとして見ると、『あさきゆめみし』は紫式部が提示した女性の在り方の多様性をより鮮明にし、原作以上に女性という存在の本質を際立たせていると、個人的には思います。
 それが最もよく表れているキャラクターが源氏の最愛の人・紫の上です。上の女性マンダラを見て気付かれた方もいるかもしれませんが、女性マンダラの中に紫の上の名前はありません。なぜなら紫の上は、幼くして源氏に見初められて引き取られる=娘、源氏と結ばれて正妻格となる=妻、明石の御方の娘を引き取って育てる=母、源氏が新たな正妻を迎える=娼と、唯一4つの役割を全て経験する女性だからです。
 理想の女性になるよう源氏に育てられ、成長してからは理想の妻、養女の明石の姫君にとっては理想の母と、女性として最高の人生を歩む紫の上は、途中までは完全に源氏=男性との関係性の中でのみ生きる女性と言えます。しかし、源氏が内親王である女三の宮を正妻に迎えたことによって紫の上の自信は揺らぎ、それまでの紫の上の成長―少女からレディへ、レディからマダムへ―を紙上でずっと見守り続けてきた気分のこちらにも、紫の上の受けた衝撃の大きさがヒシヒシと伝わってきます。そんな事件をきっかけに紫の上は源氏に身をゆだねてきたことに疑問を抱きはじめるわけですが、彼女のそうした変化はのちに登場する個として生きようとする女性の嚆矢、前兆となっていきます。
 そして、紫の上以外の女性たちに関しても、原作よりもずっと“個”として生きているような印象があります。もちろん源氏との関係性においてのみ語られるという点には変わりないので、本来の“個”の意味とは違うのですが。でも、どの女性もしっかりキャラ立ちしていて、人間臭くて、源氏の母、妻、娼、娘であるという位置付けを超越して、源氏のいないところで生きる姿もちゃんと想像できるような、そんな女性たちばかりなのです。
 よく、キャラクターが勝手に動きだすと言いますが、『あさきゆめみし』は原文、現代語訳以上に、女性たちが自由に生き生きと、自分自身の意思で動いているように感じられる、女性ドラマとしてのおもしろさを最もよく伝える「源氏物語」だと思います。

 ここまで女性キャラのことしか書かなかったので、主人公である光源氏についても最後にちょっと付け加えておきますと、『あさきゆめみし』は女性たちが生き生きする漫画であると同時に、光源氏が生き生きする漫画でもあります。「源氏物語」で描かれた人間であって人間でないような源氏の薄っぺらさに『あさきゆめみし』では血や肉が加わり、“個”の人間・光源氏として立ち上がっているような感じがします。だからこそ、『あさきゆめみし』の源氏はマザコンで女たらしですが、女性たちがほっとけなくなるのも分かるような、ちゃんと魅力ある主人公と感じられます。源氏の人間臭さを楽しむという観点でも、『あさきゆめみし』は優れたドラマになっていますね。


注:記事内の女性マンダラの写真は、河合隼雄著『源氏物語と日本人 紫マンダラ』(講談社、2003年10月)から引用させていただきました。


あさきゆめみし 完全版1
大和 和紀
講談社
売り上げランキング: 51,975

あさきゆめみし(1) (講談社漫画文庫)
大和 和紀
講談社
売り上げランキング: 24,603


# by hitsujigusa | 2015-03-12 16:59 | 漫画

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_16555624.jpg


 四大陸選手権2015、女子とペアの後編です。前編はこちらをご覧ください。また、男子とアイスダンスの結果についてはこちらの記事をご参考下さい。

ISU Four Continents Figure Skating Championships 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 6位は今大会がシニアの国際大会デビューとなった日本の永井優香選手です。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_1784762.jpg

 SPは「エデンの東」。まずは得点源の3トゥループ+3トゥループからでしたが、セカンドジャンプの着氷でバランスを崩し、マイナスとなります。しかし、次の3ルッツを成功させると、後半の2アクセルもきっちりこなして、序盤のミスを引きずることなく演技を立て直しました。得点は56.94点で7位発進となります。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_15173799.jpg

 フリーはサン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」。冒頭はショートより難度を上げた3ルッツ+3トゥループでしたが、セカンドジャンプがすっぽ抜けて1回転になってしまいます。しかし、続く3ルッツ+2トゥループのセカンドジャンプを急遽3トゥループに変えて見事に成功させ、最初のジャンプのミスを取り返します。後半に入ると2アクセル+3トゥループ+2トゥループの難しい3連続ジャンプをクリーンに決め、次の3ループは1回転になったものの、その後は冷静な切り替えを見せてエレメンツを着実にこなし、フィニッシュまでエネルギッシュに演じ切りました。得点は111.15点でパーソナルベスト、総合6位に順位を上げました。
 ショート、フリーともにいくつかミスがありベストを出し切ることはできなかったかもしれませんが、初めてのシニアの国際大会ということを考えると、とても落ち着いて地に足のついた演技ができていて素晴らしかったと思いますね。緊張が強いと一つのミスが連鎖してしまうこともままありますが、今大会の永井選手はミスを犯した直後にすぐにリカバリーしていたので、シニアの国際大会という慣れない環境に惑わされることなく、きちんと自分自身をコントロール出来ていたのでしょうね。
 この経験は3月の世界ジュニア選手権でも大いに活きてくると思いますから、初めての世界ジュニアでも永井選手らしくリラックスして臨んで、満足のいく演技をしてほしいですね。


 7位にはカナダ女王のガブリエル・デールマン選手が入りました。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_15482113.jpg

 SPは冒頭の3トゥループ+3トゥループを完璧に決め、1.3点の高い加点を得ますが、単独の3ルッツが2回転となり、規定の回転数を満たしていないため無得点となる痛いミス。最後の2アクセルはきれいに成功させたものの、3ルッツのパンクが響いて得点は55.25点、8位に留まります。
 フリーはまず3ルッツ+2トゥループ+2ループの3連続ジャンプから、ファーストジャンプの着氷でこらえる部分はありましたが、これをしっかり3連続に繋げて好スタートを切ると、続く2アクセル+3トゥループもクリーンに成功。単独の3ルッツがSP同様に2回転になるミスはあったものの、それ以外は予定どおりにジャンプを跳び、最後までスピード感溢れる力強い滑りを見せ、演技を終えたデールマン選手はガッツポーズで喜びを表しました。得点は111.84点でパーソナルベスト、トータルでも自己新となりました。
 フリーが良い演技だっただけに、ショートの出遅れが少しもったいなかったですが、その分フリーで開き直ってデールマン選手らしい思い切りのよいアグレッシブな演技ができたのでしょうね。特に持ち味のダイナミックなジャンプは見ていて痛快なほど見応えのあるジャンプなので、そのバネのあるジャンプとしなやかな身体づかいが相まって、デールマン選手特有の迫力と優雅さという魅力が存分に表現されていたと思います。
 世界選手権ではショートとフリーを両方揃えて、今大会より納得のいく演技となることを願っています。


 8位はアメリカのサマンサ・シザリオ選手です。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_16185399.jpg

 ショートは冒頭に大技の3ループ+3ループに挑み着氷しますが、セカンドジャンプがアンダーローテーション(軽度の回転不足)となり減点を受けます。後半に入り最初の2アクセルは問題なく決めましたが、続く3フリップはこちらもアンダーローテーションでマイナス。致命傷となるようなミスこそなかったものの、細かいミスが複数重なり、得点は54.95点と伸びず、9位と出遅れます。
 フリーは3+3を外し、まずは3ループ+1ループ+3サルコウのコンビネーションジャンプでしたが、3サルコウがアンダーローテーションとなります。しかし、続く3トゥループ、3フリップは確実に回り切って着氷し、中盤の3ルッツがロングエッジ(不正確なエッジでの踏み切り)で大幅に減点された以外は全てのジャンプをクリーンに成功。実力者らしいまとまりのある演技を披露しました。得点は111.81点でフリー7位、総合8位で大会を終えました。
 3+3の2つ目に3ループを持ってくることで知られているシザリオ選手ですが、今大会は2連続3ループという難しい組み合わせにチャレンジしてきましたね。全米選手権2015のSPでは同じジャンプを跳んで2つ目がダウングレード(大幅な回転不足)となり大きく出遅れてしまったのですが、この四大陸は失うものがなく思い切った挑戦がしやすい大会なので、同じ3ループ+3ループに再び挑んだわけですね。惜しくも回転は認定されませんでしたが、そこよりももったいなかったのは単独の3フリップの回転不足で、ショートで良い流れを作ることができればフリーもさらに勢いが増すでしょうし、総合得点では6位の永井選手と1点差ほどしかなかったので、細かなジャンプミスが惜しかったなと感じますね。
 今シーズンは目立った成績を収めることはできなかったシザリオ選手ですが、全体的に見て波の少ない、ミスがある中でも一定以上のレベルでまとめられる安定感が印象に残りました。この安定感を来季はさらなる飛躍に繋げてほしいなと思います。



 ここからはペアの競技内容についてです。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_17323667.jpg


 優勝はカナダのメーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組。SPは難しい3ルッツのサイドバイサイドジャンプや3ルッツのスロージャンプを完璧に決めると、そのほかのエレメンツもツイスト以外は全てレベル4に揃える貫録の演技。パーソナルベストに迫る高得点をマークし、断トツの首位に立ちました。フリーはサイドバイサイドの3ルッツの着氷が乱れるミスはありましたが、高難度のスロー4サルコウを成功させるなどショートに引き続き圧巻の滑り。下位をさらに引き離す圧倒的な大差をつけ、2年ぶりの四大陸優勝となりました。
 正直、あまりの強さに言葉が出ないという感じですね。毎回毎回もの凄い演技を見せられているのですが、これだけ毎回だと慣れてしまってこれが当たり前のような気さえしてきますね。もちろん全く当たり前などではなく、ものすごく難しいことをサラッとやってしまっているからそう見えるだけなのですが。これでデュアメル&ラドフォード組は今シーズン出場した大会をすべて制し、チャンピオンロードを突き進んでいます。最後までこの破竹の勢いが持続されるのか、さらに楽しみが増しましたね。四大陸選手権優勝、おめでとうございました。
 2位は中国の彭程(ペン・チェン)、張昊(ジャン・ハオ)組です。ショートは全てのジャンプを確実に決めましたが、最後のスピンで珍しく小さなミスがあり、2位発進となります。フリーは冒頭で高難度の4回転ツイストを成功させ、2.57点という高い加点を得て上々の滑り出しを見せたものの、続く2つのサイドバイサイドジャンプでミスを連発。しかし、後半は実力者らしく立て直しパーソナルベストをマーク、トータルでも自己ベストで銀メダルを獲得しました。
 3位は中国の龐清(パン・チン)、佟健(トン・ジャン)組。ショートはサイドバイサイドジャンプとスピンでミスがあり得点を伸ばすことができず4位。フリーも同じくソロジャンプで複数ミスを犯したものの、スロージャンプやリフトなど高難度の技を確実にこなしフリー2位、SPから順位を上げて四大陸では9個目となるメダルを手にしました。
 ソチ五輪で4位となった後、一度は引退していたベテランの龐&佟組ですが、3月に地元中国で行われる世界選手権に出場するため、今回約1年ぶりに現役復帰を果たしました。久しぶりの実戦とあってジャンプなど細かいミスは散見されましたが、それでも一つ一つのエレメンツの完成度やクオリティーの高さはさすがのベテランらしさが表れていましたね。ほかのペアと比較すると今季はこの四大陸以外は試合を経験していないわけなので、この実戦感覚の薄さが世界選手権でどう出るかは未知数なのですが、この二人にしか出せない表現、世界観を楽しみにしたいですね。


 以下、4位は中国の隋文静(スイ・ウェンジン)、韓聰(ハン・コン)組、5位はアメリカのアレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組、6位はカナダのリュボーフ・イリュシェチキナ、ディラン・モスコヴィッチ組、7位はアメリカのヘイヴン・デニー、ブランドン・フレイジャー組、8位はアメリカのタラ・ケイン、ダニエル・オシェア組となっています。


 日本の高橋成美、木原龍一組は10位となりました。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_19441322.jpg

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編)_c0309082_19442293.jpg

 SPは冒頭の3サルコウで高橋選手が転倒してしまいますが、その後はスロー3サルコウなどエレメンツを丁寧にこなし、滑り切りました。フリーも冒頭で3サルコウに挑みましたが、回転不足で転倒。その後、ツイストやリフトにも細かなミスがあり序盤は粗さが目立ちましたが、以降はスロー3ループ、スロー3サルコウと得点源となるスロージャンプを確実に決め、序盤のミスを挽回しました。
 内容的にはシーズンベストを更新することはできませんでしたが、スロージャンプに関してはだいぶ安定感が出てきて、安心して見られるというところまではまだいかないですが、精度が高まってきたのかなという感じがします。3月には2度目となる世界選手権が待っていますが、フリー進出目指して二人らしい溌剌とした演技を期待したいですね。



 四大陸選手権2015の記事はこれで全て終了となります。
 女子はほとんどが10代の若手選手となり、全体的に実力の拮抗した争いとなりましたね。その中でダークホースのエドマンズ選手が他選手の隙を突いてまたとないチャンスをもぎ取りました。それだけに日本の宮原選手、本郷選手は惜しかったなという印象もありますが、世界選手権に向けて収穫も課題も価値あるものを得られたのではないかと思います。
 ペアはデュアメル&ラドフォード組の他を寄せ付けぬ強さが光りましたが、2、3、4位と中国勢が続いて、ペア大国中国の層の厚さを改めて思い知らされました。層の厚さではロシア勢も負けていないので世界選手権ではどんな表彰台の顔ぶれになるかは全く想像がつきませんが、中国で行われる大会ですから、地元の後押しを受けて中国勢がどれだけ活躍するか、注目ですね。
 シーズンのフィナーレを飾る世界選手権は3月の23日から29日にかけて中国の上海で開催される予定ですが、その前に3月2日からはエストニアのタリンにて世界ジュニア選手権が行われます。この大会についても当ブログで取り上げたいと思います。では。


:女子メダリスト3選手のスリーショット写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年2月13日に配信した記事「写真特集:4大陸フィギュア2015 華麗なる戦い」から、永井選手のSPの写真、デールマン選手の写真、シザリオ選手の写真、高橋&木原組のSPの写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、永井選手のフリーの写真、ペアメダリスト3組の写真、高橋&木原組のフリーの写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
四大陸選手権2015・男子&アイスダンス―デニス・テン選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(前編) 2015年2月18日
四大陸選手権2015・男子&アイスダンス―デニス・テン選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(後編) 2015年2月19日
四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編) 2015年2月22日
# by hitsujigusa | 2015-02-23 20:29 | フィギュアスケート(大会関連)

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_153692.jpg


 ヨーロッパ以外の4大陸の選手が参加する四大陸選手権2015が、韓国のソウルにて2015年2月9日から15日にかけて行われました。この記事では女子とペアの競技内容、結果についてお伝えします。男子とアイスダンスについてはこちらの記事をお読みください。
 女子はアメリカの若手、ポリーナ・エドマンズ選手が接戦を制し女王となりました。そして、2位には日本の宮原知子選手、3位にも同じく日本の本郷理華選手が入りました。
 ペアは世界選手権銅メダリストのカナダのメーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組が2度目の優勝を果たしています。

ISU Four Continents Figure Skating Championships 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 優勝はアメリカのポリーナ・エドマンズ選手です。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_1601721.jpg

 SPはまず3ルッツ+3トゥループの難しい連続ジャンプを確実に成功させますが、続く3フリップはエッジが不正確と判定され減点。しかし、最後の2アクセルは問題なく決めて、大きなミスなく演技をまとめました。得点は61.03点で上位と僅差の4位につけます。
 フリーもまずは3ルッツ+3トゥループからで、これを完璧な跳躍と着氷でショートよりも高い加点を得ます。続く高難度の3フリップ+1ループ+3サルコウは3フリップのエッジエラー(踏み切り違反)でマイナス1の減点となりますが、その後は目立ったミスなく次々とジャンプを成功。パーソナルベストに迫る122.99点をマークし、SP4位からの逆転優勝を成し遂げました。
 正直エドマンズ選手の優勝はとても意外な、予想していなかった結果でしたね。もちろん可能性だけで考えればエドマンズ選手も無名な選手ではありませんし、パーソナルベストも高いものを持っているので実力を100%発揮できれば優勝する可能性も大いにあったわけですが、今シーズンの演技内容を他の有力選手と比べると、優勝候補というには少し弱いかなと思っていたのですが……見事に裏切られましたね。
 決して今回もパーフェクトな演技だったわけではありませんが、減点されたジャンプは今シーズン頻繁にロングエッジ(踏み切り違反)を取られている3フリップだけなので、その癖をもう少し修正できるとさらに安定してきそうだなと思います。昨シーズンは今季ほど3フリップのロングエッジは取られていないので、今季になって身体が成長してジャンプのコントロールに苦闘する中で、元々持っていた悪い癖が再発してしまった感じなのかもしれません。でも、本来は比較的ルッツとフリップの跳び分けがしっかりできるタイプの選手だと思うので、世界選手権でもそのあたりがポイントになってくるでしょうね。
 世界選手権でもエドマンズ選手らしい若々しさあふれる演技が見られることを楽しみにしています。四大陸選手権初優勝、おめでとうございました。


 銀メダリストとなったのは日本の宮原知子選手です。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_1752786.jpg

 SPは得点源となる3ルッツ+3トゥループから、着氷が若干ギリギリになりますが、回転は認定され加点も付きます。2つのスピンを挟んで後半、3フリップは正確なエッジできっちり成功、最後の2アクセルもクリーンに降りてジャンプは全て完璧に決めます。得意のスピンもレベル4を揃え、オペラ「魔笛」の華麗で優雅な世界観を繊細に、細部まで丁寧に表現しました。得点は64.84点でパーソナルベスト、上々の首位発進となりました。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_1454189.jpg

 フリーは3+3を外し、基礎点が1.1倍になる後半に難しいコンビネーションジャンプを固める構成で臨んだ宮原選手。まずは3+2+2の3連続ジャンプからでしたが、最後のジャンプでわずかに着氷が乱れ減点されます。さらに続く3フリップでは跳び急いだのか、着氷でステップアウト。序盤に珍しくミスを連発します。次の3ループは成功させ、そして勝負の後半に入りますが、3ルッツは回転不足となり転倒。ですが、続く2アクセル+3トゥループはパーフェクトに成功。続いて3サルコウ、最終盤に組み込んだもうひとつの2アクセル+3トゥループもしっかり決めて巻き返しを見せましたが、前半から中盤にかけてのミスが響き、得点は116.75点とあまり伸びず、トータル181.59点、惜しくも初の頂点には届きませんでした。
 ショートはいつもの宮原選手らしい落ち着きぶりで、特別な緊張の色などはうかがえなかったのですが、フリーは安定感が持ち味の宮原選手にしては稀なミスの多さで、特に転倒には驚きましたね。シニアに上がってからの宮原選手は本当にミスらしいミスというものがほとんどない選手で、細かい回転不足を取られることはよくあるのですが、転倒に関しては2014年3月のガルデナスプリング杯という小さな大会のフリーで珍しく2度転倒した以外は皆無で、宮原選手が転倒する姿を目にするのは私は今回が初めてでした。
 何が宮原選手を平常心でいられなくさせたのかと考えると、今大会の宮原選手は当初から優勝を目標に掲げて試合に臨み、その中でSP首位というこれ以上ない優勝まで最短距離のベストポジションに立ったわけですが、優勝がすぐ目の前に見えているからこそ、逆に完璧にやらなければいけないと意識しすぎてしまったのでしょうね。宮原選手がシニアに移行してからSPで首位発進するというのは今大会で4度目ですが、ISU主催の大きな大会では初めてということで、今までにない緊張感、プレッシャーを実感したのではないかと思います。ですが、今大会も通過点に過ぎませんし、今後同じようなシチュエーションになった時に今回の経験が活きてくるでしょうから、その際はショート首位になってノーミスを意識するのではなく、ショート首位だから多少ミスしても大丈夫くらいの余裕を持てるようになると良いかもしれませんね。
 3月には初の世界選手権に挑む宮原選手。全日本女王ではありますが、あくまで一スケーターとして順位や結果を意識せず、思いっきりぶつかっていってほしいなと思います。


 3位は日本の本郷理華選手が入りました。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_15534839.jpg

 ショートの冒頭は今季ノーミスの3トゥループ+3トゥループ、これを今回も完璧に成功させて加点1の高評価を得ます。さらに後半に固めた3フリップ、2アクセルも難なく決めて、普段どおりの安定感抜群の演技を披露しました。得点は61.28点、パーソナルベストを更新して3位につけました。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_14404778.jpg

 フリーはショートより難度を上げた3フリップ+3トゥループ、きれいに着氷したかに見えましたが、セカンドジャンプがわずかに回転不足と判定されます。ですが、続く3ルッツは今季初めて正確なエッジで踏み切ったと認定されて加点が付きます。さらに3ループも確実に決めて前半は安定した内容。後半も2アクセル+1ループ+3サルコウで回転不足を取られる場面がありましたが、ミスといえるミスはなく、情熱的な「カルメン」の世界を表情豊かに演じ切りました。得点はパーソナルベストに迫る116.16点、総合177.44点で銅メダルを獲得しました。
 初めての四大陸となった本郷選手ですが、特別な緊張も見られず、いつもどおりの伸びやかな演技でしたね。本郷選手自身はトータル180点台を目指していたそうなので、あともう少しというところで惜しかったですが、内容的には今回もさすがの安定感で、見ていて本当に何も心配のない、どっしりとした存在感さえ感じられる演技だったと思います。スピンやステップシークエンスで多少レベルの取りこぼしがあったり、コンビネーションジャンプの回転不足があったりしましたが、細部の改善点を改めて確認できたという意味でも意義深い試合になったのではないでしょうか。
 今シーズンはGPファイナル、そして四大陸と大きな国際大会を経験して、その度にどんどん頼もしくなっていく本郷選手。シーズンの集大成となる世界選手権で今季積み重ねてきたものを全て出し切ってほしいなと思います。


 4位はアメリカのグレイシー・ゴールド選手です。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_15104980.jpg

 SPの冒頭は得意の3ルッツ+3トゥループから、ジャンプ自体はクリーンに決めますが、フェンスに近づきすぎ着氷が乱れてしまう珍しいミスを犯します。後半に入り、3ループはしっかりこなしたものの、2アクセルはすっぽ抜けて1回転に。スピン、ステップシークエンスは全てレベル4に揃え実力者らしくまとめましたが、2つのジャンプミスが響き、得点は62.67点と本来のゴールド選手からすると低い得点に留まり、2位発進となりました。
 挽回を狙ったフリー、まずはSPで予想外のミスとなった3ルッツ+3トゥループでしたが、タイミングが合わなかったのかファーストジャンプが1回転となり、1+2の連続ジャンプとなってしまいます。さらに、続く2アクセル+3トゥループも2+2となり、序盤にミスが重なります。その後は大崩れすることなく盛り返しを見せましたが、本領発揮はならず、演技を終えたゴールド選手は顔を曇らせました。得点は113.91点でフリー5位、トータルでも4位と表彰台を逃しました。
 NHK杯の後に疲労骨折が発覚し、GPファイナルを欠場、1月下旬の全米選手権で競技復帰を果たしたゴールド選手ですが、今大会の演技を見る限り、まだ負傷の影響は拭いきれていないのかなという印象を受けましたね。負傷部位に痛みが残っているということはないと思いますが、本来の自分のベストなジャンプの感覚だったり、演技を通しでやる感覚だったりが、完全には取り戻せていないのかなと感じました。メンタル的にも100%の自信を持って試合に臨めなかったのかもしれません。ですが、世界選手権まではまだ1か月以上ありますから、焦らずじっくりと課題に取り組んで、世界選手権ではゴールド選手らしい演技を見せてほしいですね。


 5位は中国の李子君(リ・ジジュン)選手です。

四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(前編)_c0309082_15431984.jpg

 SPはまず得点源の3フリップ+3トゥループでしたが、ファーストジャンプの着氷で詰まり気味になったため、無理に3回転を跳ぶことなく抑えて2トゥループに変更します。そのあとの3ループ、2アクセルは問題なくクリーンに成功させて、スピンも全てレベル4。完璧ではありませんでしたが、とっさの判断で失敗を成功に変える機転を利かせ、演技をしっかりまとめました。得点は60.28点、およそ1年ぶりに60点台をマークし、5位の好位置につけました。
 フリーはSPで跳べなかった3フリップ+3トゥループから、これを今度は完璧に成功させて加点を獲得。直後の2アクセル+3トゥループもクリーンな回転と着氷となり、上々の滑り出しを見せます。続く3ルッツはエッジエラーで大幅に減点を受けますが、それ以外に目立ったミスはなく、一つ一つのエレメンツを丁寧にクリア。フィニッシュした李選手は満面に笑みを浮かべました。ただ、得点は115.64点と思ったほど伸びず、フリー4位、トータル5位となりました。
 昨シーズンから身体の成長によってジャンプのコントロールに苦労している李選手ですが、今大会の演技は久しぶりに李選手らしさがよく表れた演技だったと思います。フリーの得点が予想したほど伸びなかった要因としては、一つはコンビネーションジャンプが2つしか入らなかったこと、もう一つはジャンプの加点があまり稼げなかったことでしょうか。後者に関しては、ジャンプそのものはきれいに決まっているのですが、ジャンプ前の準備動作だったり着氷後の流れだったり、そういった細かいところでスムーズさに欠けているかなと感じるので、それがGOEにも影響したのだと思います。ただ、まずは一つ一つジャンプを確実に降りるということが現在の李選手にとっては何より良薬になるでしょうし、出来栄えの課題は追い追い取り組んでいけばよいことなので、ひとまずは李選手のベストを充分に発揮した演技と言えるのではないかと思いますね。
 世界選手権は地元の中国で行われますから、その大舞台で悔いのない演技ができることを願っています。



 女子&ペア(前編)の記事はとりあえずここで終わりと致しまして、続きは(後編)に持ち越そうと思います。この続きはぜひ(後編)でお読みください。


:女子メダリスト3選手のスリーショット写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年2月13日に配信した記事「写真特集:4大陸フィギュア2015 華麗なる戦い」から、エドマンズ選手の写真はエンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、それ以外の写真は全てスポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
四大陸選手権2015・男子&アイスダンス―デニス・テン選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(前編) 2015年2月18日
四大陸選手権2015・男子&アイスダンス―デニス・テン選手、パーソナルベストで圧巻の初優勝(後編) 2015年2月19日
四大陸選手権2015・女子&ペア―ポリーナ・エドマンズ選手、ISUチャンピオンシップス初優勝(後編) 2015年2月23日
# by hitsujigusa | 2015-02-22 16:48 | フィギュアスケート(大会関連)