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 前記事に引き続き世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)2017の内容と感想をとりとめもなく綴っていきます。この記事では男子のショートプログラムとペアのショートプログラムについて書いていきます。なお、この大会のルールやシステムについては、こちらの記事をご参考下さい。

ISU World Team Trophy 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 まずは男子SPから。
 男子SPを制して1位となったのは日本の宇野昌磨選手です。

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 まずは新たな代名詞となった4フリップ、これを着氷でこらえながらも最小限のミスに抑えます。続く4トゥループ+3トゥループは、ファーストジャンプの着氷で若干詰まったためセカンドジャンプを2回転に。後半の3アクセルはパーフェクトな流れと着氷で満点となる加点3の高評価を獲得。スピン、ステップシークエンスはいつもどおりのレベル4に加え、加点も全て1点以上という安定ぶりを発揮。国際スケート連盟の公式記録では自身3度目の100点超えとなる103.53点でトップに立ちました。
 冒頭の4フリップこそ完全にきれいな着氷とはなりませんでしたが、それも含めていつもどおりの冷静で落ち着いた演技という印象でしたね。演技後は4+3を4+2にしたことについて、「逃げてしまった」と後悔と反省の言葉を口にしましたが、チーム戦ということを考えれば妥当な判断だったんじゃないかなと個人的には思います。ただ、宇野選手の常に攻める姿勢からすると本人にとっては許せないことなのでしょうし、世界選手権の銀メダリストとなっても以前と何ら変わらず、自分のスタンスを保っている姿には安心感というか頼もしさを覚えますね。


 2位に入ったのはアメリカチャンピオンのネイサン・チェン選手です。

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 足首を痛めている影響で最高難度の4ルッツは外した構成で臨み、まずは4フリップ+3トゥループ、これを完璧に決めて加点2を獲得。続く4トゥループは若干こらえ気味でしたが乱れなく成功。後半に組み込んだ苦手の3アクセルもクリーンに下り、スピン、ステップシークエンスも全てレベル4と、手堅く演技をまとめました。得点は99.28点で2位と好発進しました。
 とても足首を痛めているとは思えない猛烈なジャンプ構成でしたね。4ルッツを回避しているとはいえ相当に難度の高いプログラムであることは変わりませんし、持っている4回転の種類が多い分、いろんなバリエーションで戦えるのがチェン選手の強みだなと改めて感じさせられましたね。シニア1季目ということで世界選手権ではスケート靴の問題も含め、長いシーズンを送ってきたことによる難しさが表れてしまったという感じでしたが、このSPは本来のチェン選手らしい演技だったように思います。


 3位は世界選手権2017の銅メダリスト、中国の金博洋(ジン・ボーヤン)選手です。

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 冒頭は代名詞の大技4ルッツ+3トゥループから、少しフェンスに近づきすぎる着氷とはなりましたが乱れなくしっかり成功させます。中盤の3アクセルは珍しく着氷で若干バランスを崩しましたが、直後の4トゥループは問題なく決め、スピン、ステップシークエンスも全部レベル4と取りこぼしなし。得点は97.98点で3位につけました。
 シーズン序盤から終盤にかけて徐々に調子を上げ、確実に世界選手権にピークを合わせた金選手。今年の世界選手権は優勝候補だったハビエル・フェルナンデス選手のミス連発による棚からぼた餅的なところはありましたが、そうした運の良さも含め、2年連続で世界の表彰台に立つ実力は伊達じゃありません。このSPも変わらぬ安定感で、1つ1つのジャンプの綺麗さという点では宇野選手やチェン選手に劣る部分もあるのですが、大崩れしない安定感というのはシニア2季目を経験してさらに増したように思いますね。


 4位となったのはロシアチャンピオンのミハイル・コリヤダ選手です。

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 冒頭は得点源の4トゥループ+3トゥループ、これをきっちりと成功させて好調な滑り出しを見せます。続く得意の3アクセルは加点2の高評価。後半の3ルッツも危なげのない成功で、さらにステップシークエンス、スピンもレベル4を揃え、自己ベストとなる95.37点をマークしました。
 世界選手権に続き90点台をマークしたコリヤダ選手。まだトップ選手としての経験が浅いためか波がある部分もありますが、2大会連続で90点台というのを見ても、規模の大きな国際試合の場数を踏むことで確実に安定感が備わってきているなと感じます。ジャンプだけではなくスピン、ステップでもしっかりレベルを取って加点を稼げる総合力の高い選手なので、毎試合90点台を出せる実力者だと思いますし、来季は層の厚いロシアのエースとしてそれくらいの安定と活躍を期待したいですね。


 5位にはアメリカのジェイソン・ブラウン選手が入りました。

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 まずは得点源の3アクセルを確実に決めて1.86点の加点を得ます。続く3+3も微塵の乱れもなく成功。後半の3ルッツもクリーンに着氷させます。得意のスピン、ステップシークエンスも全てレベル4に加え、柔軟性を活かした個性的なポジションやどこを切り取っても美しい身のこなしでしっとりとしたプログラムの世界観を存分に表現し、笑顔でフィニッシュしました。得点は94.32点と先日の世界選手権でマークした自己ベストを約1点更新しました。
 全てのエレメンツで1点以上の加点という極めて完成度の高い演技を披露したブラウン選手。4回転を数種類組み込んでいる選手はどうしてもジャンプに集中しなければならない部分がありますが、ブラウン選手は確実に跳べるジャンプのみでプログラムを構成している分、ジャンプとジャンプ以外のエレメンツに対して同じだけの熱量を注ぎ込んでいる印象があり、あれだけの美しさに繋がっているのだろうと思います。


 6位はカナダのベテラン、パトリック・チャン選手です。

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 SPでは初めてとなる2種類の4回転という構成で挑んだチャン選手。まずは得意の4トゥループ+3トゥループを完璧に成功させて好スタート。続いてショートでは初チャレンジの4サルコウでしたが、パンクして3回転となります。さらに後半の3アクセルでは回転不足で転倒となり、得点は85.73点で6位にとどまりました。
 今季からフリーでの4回転2種類に挑戦し始めたチャン選手。その新技である4サルコウも徐々に安定してきたということで、今大会はショートでも4サルコウに挑んできましたが成功とはなりませんでした。ただ、今大会はチーム戦とはいえ失うものが何もない大会ですし、来季を見据える上で良いチャレンジだったのではないかと思います。4サルコウをいかに自分のものにするかは、オフシーズンでの強化にもかかってくるでしょうから、チャン選手がオリンピックで優勝争いをするためにはこの4サルコウと鬼門となっている3アクセルが鍵になってきそうですね。


 世界選手権2017金メダリスト、日本の羽生結弦選手は7位となりました。

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 冒頭は代名詞の4ループでしたが、回転がすっぽ抜けて1回転となったため規定違反により0点となります。続く4サルコウ+3トゥループはファーストジャンプの着氷で乱れコンビネーションにならず。後半の3アクセルは危なげなく決めましたが、序盤のジャンプミスによって83.51点と得点は伸びず、まさかの7位に沈みました。
 今シーズンの中でもワーストと言ってもいい演技となってしまいましたね。公式練習では絶好調そのものでパーソナルベスト更新に期待がかかる中での演技でしたが、責任感の強い羽生選手だからこそチーム戦ということで気合いが入りすぎてしまったのかもしれませんし、今季苦戦を強いられていたショートを最後こそは完璧に決めたいという強い意志が逆に空回りしてしまったような印象を受けました。これでショートは今季1度もノーミスがないという結果になり来季に向けて課題と不安を残しましたが、元々ショートが苦手ということはないので、今までもいろんな壁を乗り越えてきた羽生選手ですから、しっかり自分自身を分析してオフシーズンに課題をクリアするのではないかと思いますね。


 ということで、男子SPの順位は以下のようになりました。

《男子SP》

1位:宇野昌磨(日本)、12ポイント
2位:ネイサン・チェン(アメリカ)、11ポイント
3位:金博洋(中国)、10ポイント
4位:ミハイル・コリヤダ(ロシア)、9ポイント
5位:ジェイソン・ブラウン(アメリカ)、8ポイント
6位:パトリック・チャン(カナダ)、7ポイント
7位:羽生結弦(日本)、6ポイント
8位:シャフィク・ベセギエ(フランス)、5ポイント
9位:ケヴィン・エイモズ(フランス)、4ポイント
10位:李唐続(中国)、3ポイント
11位:マキシム・コフトゥン(ロシア)、2ポイント
12位:ケヴィン・レイノルズ(カナダ)、1ポイント




 ここからはペアのショートプログラムです。
 SP首位となったのはフランスのヴァネッサ・ジェームズ&モルガン・シプレ組。冒頭のツイストリフトは男性が女性をキャッチするところでわずかにミスがありレベル1にとどまりましたが、そのほかはレベル3、4を揃え、さらに多くのエレメンツで加点1以上を積み重ね、自己ベストとなる75.72点をマークしました。
 2位は中国の彭程(ペン・チェン)&金楊(ジン・ヤン)組。目立ったミス、取りこぼしなく、ほとんどのエレメンツで加点1以上という完成度の高い演技を披露し、自己ベストに近いスコアで2位につけました。
 3位はカナダのカーステン・ムーア=タワーズ&マイケル・マリナロ組。冒頭のツイストはレベル2となりましたが、その後のエレメンツは大きな乱れなく堅実にこなし、パーソナルベストに約1点と迫る得点をマークしました。
 4位に入ったのは世界選手権2017の銅メダリスト、ロシアのエフゲニア・タラソワ&ウラジミール・モロゾフ組。冒頭の3ツイストはレベル4に加え加点2.1点という極めて高い評価を得て好スタートを切りましたが、続く3トゥループは回転不足で転倒。続くスロー3ループでも乱れがあり、自己ベストから10点以上低い得点で4位にとどまりました。
 5位はアメリカのアシュリー・ケイン&ティモシー・ルデュク組。ツイストリフトではレベル1になった上にGOEでも大幅な減点となりましたが、その後のソロジャンプやスロージャンプでは最小限のミスにとどめて自己ベストに近い得点をマークしました。
 6位となったのは日本の須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組です。

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 冒頭の3ツイストは大きな乱れはなかったもののキャッチの場面で若干流れが滞ったためレベル2になりGOEでも減点対象に。続く3サルコウは須藤選手がダウングレード(大幅な回転不足)で転倒してしまいます。次のスロー3サルコウは着氷でこらえ、その後はクリーンにエレメンツをまとめましたが、54.84点とスコアを伸ばせませんでした。
 世界選手権ではパーソナルベストを更新したものの、SP17位でフリー進出にあと一歩届かなかった須藤&ブードロー=オデ組。そのリベンジとして期待された今回の演技でしたが、ミスが重なり本領発揮とはなりませんでした。今季から取り入れている3ツイストは徐々に安定感を増してきていてちょっとしたミスだったと思うのですが、ソロジャンプが大幅な回転不足で転倒となったのは痛かったですね。


 ペアSPの順位は以下の通りです。

《ペアSP》

1位:ヴァネッサ・ジェームズ&モルガン・シプレ組(フランス)、12ポイント
2位:彭程&金楊組(中国)、11ポイント
3位:カーステン・ムーア=タワーズ&マイケル・マリナロ組(カナダ)、10ポイント
4位:エフゲニア・タラソワ&ウラジミール・モロゾフ組(ロシア)、9ポイント
5位:アシュリー・ケイン&ティモシー・ルデュク組(アメリカ)、8ポイント
6位:須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組(日本)、7ポイント




 さて、これで男子、女子、ペア、アイスダンス、全てのショートが終了しました。次の記事では男子フリーとアイスダンスフリーについて書いていきます。では。


:メダリスト3チームの集合写真はスケート情報サイト「icenetwork」から、宇野選手の写真、金選手の写真、羽生選手の写真、須藤&ブードロー=オデ組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、チェン選手の写真、コリヤダ選手の写真、ブラウン選手の写真、チャン選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
世界国別対抗戦2017―日本、3大会ぶり2度目の優勝(女子SP&アイスダンスSD) 2017年4月24日
世界国別対抗戦2017―日本、3大会ぶり2度目の優勝(男子フリー&アイスダンスFD) 2017年4月27日
世界国別対抗戦2017―日本、3大会ぶり2度目の優勝(女子フリー&ペアフリー) 2017年4月29日

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# by hitsujigusa | 2017-04-26 17:36 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 シーズンの最後を締めくくる世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)2017が東京にて4月20日から23日にかけて行われました。世界国別対抗戦は国別のポイントランキングの上位6か国が出場し、男女シングル2名ずつ、ペア、アイスダンス1組ずつで構成された6チームが競う団体戦です。試合の内容を書く前に、この大会のシステムをおさらいしたいと思います。


◆出場国

カナダ(8437ポイント)、ロシア(7972ポイント)、アメリカ(7257ポイント)、日本(7068ポイント)、中国(5065ポイント)、フランス(4307ポイント)


◆順位の決定方法

 各種目のショートプログラム(ショートダンス)、フリーそれぞれの順位ごとにポイントが付与されます。1位の選手(組)には12ポイント、2位ならば11ポイントというふうに1ポイントずつ下がっていきます。そのポイントの最終的な合計によって順位を決定します。



 ということで、先に結果を言ってしまいますと(というか記事タイトルに書いていますが)、日本が2012年以来となる3大会ぶり2度目の優勝を果たしました。そして、僅差で2位はロシア、3位がアメリカ、4位がカナダ、5位が中国、6位がフランスとなっています。
 この記事ではまず女子のショートプログラムとアイスダンスのショートダンスの模様をお伝えしますが、このあとも各種目のショートからフリーへと順々に記事にしていきたいと思います。


ISU World Team Trophy 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 まずは女子のショートプログラムから。
 女子ショートで1位に立ったのは世界女王、ロシアのエフゲニア・メドベデワ選手です。

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 まずはスピンとステップシークエンスでしっかりレベル4&加点を取って好スタートを切ると、後半最初の3フリップ+3トゥループはファーストジャンプで片手、セカンドジャンプで両手を上げて完璧に着氷。続く3ループも問題なく下り、最後の2アクセルは珍しく少し軸が外れて着氷が詰まり気味になりましたが問題なく加点を稼ぎ、最後のスピン2つもレベル4といつもどおりそつのない演技を見せました。得点は自己ベストかつ世界歴代最高得点となる80.85点を叩き出し、キス&クライではチームの仲間とともに喜びを爆発させました。
 シーズン最後の疲労など全く感じさせないいつもどおりのパーフェクトな演技でしたね。80点を突破するのは時間の問題だったので、実際に80.85点という得点が出ても驚きはしませんでしたが、男子でも高得点と言われる80点台にとうとう到達したというのを目にすると、やはりここまで来たかと感慨を覚えました。それでも今回のショートは2アクセルでちょっとしたミスがあったので、まだ得点を伸ばせる余地があるという点では80点というのは全くゴールではなく、まだ通過点という感じですね。


 2位となったのは同じくロシアのエレーナ・ラディオノワ選手。

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 冒頭は得点源となる3ルッツからの2連続3回転でしたが、3ルッツの着氷で若干こらえ気味になったため単独にします。しかし後半の3ループに3トゥループを付けてしっかりリカバリー。最後の2アクセルもクリーンに跳び切り、軽快でコケティッシュなプログラムを演じ切りました。得点は自己ベストとなる72.21点で2位と好位置につけました。
 実戦は2月のユニバーシアード以来だったラディオノワ選手。試合間隔があいたことによる調整の難しさもあったでしょうが、ラディオノワ選手らしい躍動感と明るさ溢れる演技だったと思います。一方で、これだけレベルの高い選手が国内では破れて欧州選手権にも世界選手権にも出場できなかったということを思うと、改めてロシア女子の層の厚さを感じましたね。


 3位に入ったのは日本の三原舞依選手です。

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 冒頭は得意の3ルッツ+3トゥループ、これをクリーンに決めて1.1点の高い加点を獲得。続く2つのスピンをレベル4で揃えると、中盤の2アクセルは問題なく成功。終盤のスピンとステップシークエンスもきっちりレベル4でまとめ、そして最後は世界選手権でまさかのパンク&転倒となった3フリップでしたが、今度は完璧に跳び切り、笑顔のフィニッシュとなりました。得点は自己ベストを3点以上更新する72.10点で、世界選手権の悔しさを晴らしました。
 最後の3フリップは世界選手権での失敗があってさすがに嫌な記憶がよぎったと思うのですが、元々得意なジャンプでああいう形での失敗自体が珍しいことなので、今回の演技こそが本来の三原選手の姿で、練習どおりのジャンプが跳べたのではないかと思います。


 4位は世界選手権2017の銅メダリスト、カナダのガブリエル・デールマン選手。

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 まずは代名詞ともなっている3トゥループ+3トゥループ、これを驚異的なスピードと飛距離で成功させ、2.1点の極めて高い加点を獲得します。中盤の3ルッツは着氷でわずかにバランスを崩し減点。ですが、直後の2アクセルは危なげなく下り、スピン、ステップシークエンスも全てレベル4と、世界選手権メダリストの意地を見せつけました。得点は自己ベストに迫る71.74点で4位と好発進しました。
 3ルッツでは細かなミスがありましたが、今季のデールマン選手を象徴するような安定感のある演技でしたね。数週間前の世界選手権でメダルを取ったばかりだからこそ、今大会はカナダチームをリードする存在として期待される立場で変な失敗はできないというプレッシャーもあったと思うのですが、その期待をしっかりと自分のパワーに変えた素晴らしい内容だったと思います。


 5位は日本の樋口新葉選手です。

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 まずは得意の2アクセルを余裕たっぷりに成功させると、後半に組み込んだ大技3ルッツ+3トゥループもクリーンに着氷して加点1。次の3フリップは踏み切りのエッジが不正確と判定されたものの最終的には加点も得て、フィニッシュした樋口選手はガッツポーズで喜びを露わに。得点は71.41点とパーソナルベストを4点以上上回りました。
 今大会は公式練習で3アクセルの練習をしクリーンに着氷する姿も幾度か見せていて、好調さをうかがわせていた樋口選手。その練習のままの演技内容となりましたね。特に冒頭の2アクセルは3アクセルを練習しているだけあってほかの選手の2アクセルと比べても高さや幅、滞空時間など余裕を感じさせて、3アクセルへの期待も抱かせる迫力のある2アクセルでしたね。3+3はファーストジャンプで若干勢いが止まりかけ、3トゥループを付けるのをためらったとのことですが、諦めずに跳び切ったことが自己ベストに繋がったわけなので、こういった部分もシニアで戦ってきたことによる成長なのかなと思います。

 6位はアメリカのベテラン、アシュリー・ワグナー選手です。

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 まずは得点源となる3フリップ+3トゥループ、クリーンに着氷したかに見えましたが、セカンドジャンプがアンダーローテーション(軽度の回転不足)と判定されて細かな減点を受けます。しかしその後の3ループ、2アクセルはパーフェクトに下りて、ダンサブルなプログラムを最後までノリノリで滑り切りました。得点はシーズンベストの70.75点でしっかりと70点台に乗せました。
 今季はショートでなかなか70点台に乗せることができず、フラストレーションが溜まる試合が多かったのかなと思うのですが、プログラム自体はワグナー選手のリズム感の良さを活かしていてシーズン序盤から体に馴染んでいて、シーズン最後の今大会でもらしさを充分に発揮しましたね。技術面では3+3はワグナー選手本来の高さに欠けた印象で回転不足となりましたが、そのほかの安定感はさすがなので、若い10代の選手たちと同等に張り合うためにはやはり来季も3+3をいかに確実に跳ぶかが鍵になってきそうです。


 1位から6位は以上です。7位以下の選手も含めて、このような順位、獲得ポイントとなりました。


《女子SP》

1位:エフゲニア・メドベデワ(ロシア)、12ポイント
2位:エレーナ・ラディオノワ(ロシア)、11ポイント
3位:三原舞依(日本)、10ポイント
4位:ガブリエル・デールマン(カナダ)、9ポイント
5位:樋口新葉(日本)、8ポイント
6位:アシュリー・ワグナー(アメリカ)、7ポイント
7位:李香擬(中国)、6ポイント
8位:カレン・チェン(アメリカ)、5ポイント
9位:李子君(中国)、4ポイント
10位:アレーヌ・シャルトラン(カナダ)、3ポイント
11位:ロリーヌ・ルカヴェリエ(フランス):2ポイント
12位:マエ=ベレニス・メイテ(フランス):1ポイント




 続いてアイスダンスのショートダンスについてお伝えします。
 ショートダンスで1位となったのはアメリカのマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組。5つのエレメンツのうち4つでレベル4を獲得する会心の演技を披露し、79.05点と自己ベストを2点以上更新しました。
 2位はカナダのケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェ組。5つのエレメンツのうち3つでレベル4と隙の無い演技で、こちらも自己ベストを2点以上上回りました。
 3位はロシアのエカテリーナ・ボブロワ&ドミトリー・ソロビエフ組。冒頭のツイズルでミスがありレベルが1になった上、GOEも減点となるなど取りこぼしが目立ち、自己ベストより7点以上低いスコアで3位にとどまりました。
 4位は中国の王詩玥(ワン・シーユエ)&柳鑫宇(リュー・シンユー)組。ツイズルやリフトでレベル4を獲得するミスらしいミスのない演技で自己ベストを2点以上更新しました。
 そして5位は日本の村元哉中&クリス・リード組です。

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 5つのエレメンツのうち3つをレベル4でまとめ、世界選手権でミスがあった課題のツイズルもクリーンに成功させる会心の出来で、フィニッシュではリード選手が力強いガッツポーズで手応えを示しました。得点はこちらも自己ベストを2点以上上回る63.77点をマークしました。
 世界選手権ではミスもあり予想以上に低い得点で悔しさを味わった村元&リード組。今回のSDはそのリベンジとして今のベストを出し切ったのではないかと思います。表現面でもカップル結成2季目の集大成として、軽快なプログラムをこの二人にしか出せない雰囲気、空気感で表現し切ってくれましたね。
 6位はフランスのマリー=ジャド・ローリオ&ロマン・ルギャック組。全体的にはそつなくエレメンツをこなしたものの、そこまで大きく加点を伸ばすことはできず、自己ベストにはわずかに及ばず6位にとどまりました。


 ということで、アイスダンスSDの順位は以下のようになりました。

《アイスダンスSD》

1位:マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組(アメリカ)、12ポイント
2位:ケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェ組(カナダ)、11ポイント
3位:エカテリーナ・ボブロワ&ドミトリー・ソロビエフ組(ロシア):10ポイント
4位:王詩玥&柳鑫宇組(中国)、9ポイント
5位:村元哉中&クリス・リード組(日本)、8ポイント
6位:マリー=ジャド・ローリオ&ロマン・ルギャック組(フランス)、7ポイント




 さて、次の記事では男子SPとペアSPについて書きますので、しばしお待ちください。


:メダリスト3チームの集合写真はスケート情報サイト「icenetwork」から、メドベデワ選手の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、ラディオノワ選手の写真、三原選手の写真、デールマン選手の写真、樋口選手の写真、ワグナー選手の写真、村元&リード組の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
世界国別対抗戦2017―日本、3大会ぶり2度目の優勝(男子SP&ペアSP) 2017年4月26日
世界国別対抗戦2017―日本、3大会ぶり2度目の優勝(男子フリー&アイスダンスFD) 2017年4月27日
世界国別対抗戦2017―日本、3大会ぶり2度目の優勝(女子フリー&ペアフリー) 2017年4月29日


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# by hitsujigusa | 2017-04-24 20:49 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 2017年4月10日、浅田真央選手が自身のブログで現役引退を発表し、12日には記者会見を開き引退についての思いを語りました。

◆◆◆◆◆

浅田真央、尊敬を集めた演技と人間性 引退後も語り継がれる希代のスケーター

 浅田真央(中京大)が10日、自身のブログで引退を表明した。現在26歳、言わずと知れた日本フィギュアスケート界の中心的な存在だ。多くの尊敬と注目を集め、人々を魅了し続けたアスリート。そんな彼女との別れは突然やってきた。

 信じ難い気持ちだった。12位と自己最低の結果に終わった昨年末の全日本選手権では、現役続行か否かを問われ、前向きな姿勢を見せていたからだ。ましてや来年には、自身の最終目標としていた平昌五輪が行われる。少なくとも来季までは競技を続けると思われていた。だからこそ突然の幕引きに驚きを禁じえなかった。

 「ソチ五輪シーズンの世界選手権は最高の演技と結果で終えることができました。その時に選手生活を終えていたら、今も選手として復帰することを望んでいたかもしれません。実際に選手としてやってみなければ分からないこともたくさんありました」

 2014年3月の世界選手権は、ショートプログラム(SP)で当時の世界歴代最高得点(78.66点)を更新するなど圧巻の演技で優勝。しかし、1年間の休養から復帰した15−16シーズン以降、彼女は満足いく内容・結果を得られず苦しんでいた。ブログでつづっているように、実際に再び競技生活を歩んだからこそ、未練なく今回の決断に至ることができたのだろう。


スポーツナビ 2017年4月11日 10:35 一部抜粋

◆◆◆◆◆

◇◇◇◇◇

真央、会見の最後に涙 引退決意は2月「フィギュアスケートに恩返しできる活動を」

 10日に自身のブログでの突然の引退発表となったが、自己ワーストの12位に終わった昨年末の全日本選手権後には引退を考え始めていたという。それでも「自分が復帰してからずっと掲げてきた平昌オリンピックに出るという目標があったので、やり遂げないといけないと思っていた。言ってしまったことへの葛藤はすごいありました」。ただ、6位だった14年のソチ五輪後、1年間ほど休養し、現役復帰した決断については「気持ちも体も自分の気力も全部出し切ったので、今は挑戦して何も悔いはないです」とすっきりした表情で語った。

 また、3月の世界選手権で日本が五輪出場権を3枠獲得できず、2枠となったことで代表争いが厳しさを増したが「目標をやめてしまう自分が許せるのかな? 許せないのかな? と思いながら過ごしてきて、最終的に話し合いをして決めたのが2月だったので、世界選手権が影響したというわけではなく、自分自身が最後決めること」と判断には影響しなかったという。

 引退後の初滑りは7月のアイスショーとなることも明言。今後については「どんな形でもフィギュアスケートに恩返しできる活動をしていきたい」と語った。

 質問を受けている間はずっと笑顔の浅田だったが、会見の最後の挨拶でこらえきれずに涙。カメラに背を向け、涙をぬぐいながら笑顔を見せていた。


スポーツ報知 2017年4月12日 12:25 一部抜粋

◇◇◇◇◇

 4月10日の23時前、テレビのニュース速報でこの一報を知り、すぐに浅田選手引退についての記事を書こうかと思い、実際に書き始めましたが、いざとなると何をどう書いていいのかわからず、また、12日に記者会見を行うということで、その会見を見て浅田選手の生の声を聞いて、自分の考えをまとめてから記事にしようと思い直し、引退発表から5日も経ってからの記事アップになりました。

 ここからは私の個人的な話になりますが、私が浅田選手を初めて知ったのはシニアデビューシーズンのグランプリシリーズ。それまでも小学6年生でのトリプルアクセルの成功やシニアの全日本選手権での活躍、世界ジュニア選手権優勝などすでにフィギュアスケート界では知る人のいない有名人になっていたと思いますが、そもそもフィギュアスケートという競技自体知らなかった私は浅田選手のことも知らず。しかしシニアデビューのGP中国大会でいきなり2位に入ると、2戦目のフランス大会では優勝、そして世界の猛者が集うGPファイナルでは当時の世界女王イリーナ・スルツカヤさんを破っての優勝という快挙を成し遂げ、一気に報道は過熱、テレビを始めとしたメディアでの露出も増えていきました。そうした中で私も“浅田真央”という存在を知り、同学年の少女が一躍スターに上り詰めていくさまを、ただただ驚き、感動し、単純に凄いという気持ちでテレビの前で見ていました。そして、“浅田真央”との出会いが、“フィギュアスケート”との出会いでもありました。

 今までこのブログでも幾度となく浅田選手に関する文章を書いてきて、できるだけほかの選手と温度差が出ないようにと気をつけて書いてきたつもりですが、やはり浅田選手に対する特別な思い入れというのがあり、なかなか気持ちは隠し切れなかったように思います。なぜ自分が彼女にそこまで引きつけられたのか、なぜ当時活躍していたほかの日本の女子選手ではなく浅田選手だったのかと考えると、やはり同い年というのは一番大きな理由で、自分と同い年の可愛い女の子がもの凄いジャンプを跳んでいるというインパクトの強烈さから惹かれたのだと思いますが、その最初のインパクトだけで終わらず、その後もずっと浅田選手に惹かれ続けた理由は何だろうと思うと、自分にフィギュアスケートの魅力を最初に教えてくれたのが浅田選手だからというのは後付けの理由に過ぎなくて、やはり彼女が氷の上で見せる演技、表情の豊かさ、また、演技やインタビューなどから滲み出る人間性に魅了されたというのが本質的な理由なのかなと思います。
 そして、それは私だけではなく、多くの人にとっても同じなのではないでしょうか。「フィギュアスケートはその人の生きざまを見せるもの」と言ったのは浅田選手の亡き母・匡子さんですが、まさに浅田選手は氷の上で“浅田真央”という人間の生きざまを見せつけ、それが境遇や世代を超えていろんな人々の心に響いたということなのではないかと思います。

 “浅田真央”というフィギュアスケーターの特徴や魅力については、何といってもトリプルアクセルという女子では数人しか成功させていないジャンプを武器に戦ったという特異性が挙げられますし、そのほかにもさまざまな技術面や表現面での彼女にしかない魅力というのは多々あるのですが、“生きざま”という点に絞って考えてみると、まずは“両面性”というのが重要なポイントかなと感じます。
 浅田選手の両面性、それは“強さ”と“弱さ”です。浅田選手のジュニア時代から引退までの成績を振り返ると、ジュニアGPファイナル優勝、世界ジュニア選手権優勝、6度の全日本選手権優勝、4度のGPファイナル優勝、3度の世界選手権優勝、バンクーバー五輪銀メダルと、日本のみならず、世界のフィギュアスケート史にも残る華々しい経歴を残しているわけですが、しかしその数々の勝利のシーンと同じくらいかそれ以上に強烈な印象を残したのは、失敗から立ち上がる姿でした。
 その印象を最初に強烈に植えつけられたのは初出場となった2007年の世界選手権。金メダルを期待されて臨んだショートプログラム、得点源となる3フリップ+3ループの3ループが1回転になるミスがあり5位。首位とは約10点差、3位までも約5点差と、優勝どころか表彰台に向けても厳しい船出となりました。しかしフリーはトリプルアクセルを含め全てのジャンプを予定どおりに着氷する会心の演技。優勝には僅差で届きませんでしたが、驚異的な追い上げで銀メダルを獲得しました。
 さらに驚かされたのは翌年の世界選手権のフリー。冒頭のトリプルアクセル、軌道に入り跳ぼうとした瞬間にスケート靴のエッジが氷の溝にはまり激しく転倒。誰もが優勝を諦めるような衝撃的なシーンでしたが、浅田選手はすぐに立ち上がると、3フリップ+3トゥループを完璧に着氷。その後も高難度の3フリップ+3ループ含め全てのジャンプを目立ったミスなく下り、初の世界女王に輝きました。
 そして迎えたバンクーバー五輪シーズンでしたが、浅田選手はそれまでにないほどのジャンプの不調に陥り、シニアに上がって初めてGPファイナル進出も逃すというオリンピックに向けて不安の残る演技が続きました。ですが、オリンピックではショート、フリー合わせて3本のトリプルアクセルを全てクリーンに成功させる史上初の偉業を達成し、銀メダルを獲得。
 11/12シーズンは母・匡子さんが浅田選手が出場予定であったGPファイナル直前に死去。その直後の全日本選手権は欠場も予想される中、短期間の調整で出場。身体的にも精神的にも難しい状況でしたが全力を尽くした演技で見事に優勝。
 スケート人生の集大成として臨んだソチ五輪。SPは全ジャンプを失敗というまさかの演技で16位。そして今や伝説となったフリー、練習でもほとんど決まっていなかったトリプルアクセルを冒頭で下りると、その後は怒濤の勢いで全てのジャンプを着氷させる鬼気迫る滑りを見せ総合6位となりました。
 1年の休養から復帰した15/16シーズン。復帰初戦のジャパンオープン、GP中国大会と上々のスタートを切ったものの、2戦目のNHK杯、GPファイナルと不振が続き、全日本選手権もSP5位と出遅れ。しかし引退覚悟で迎えたフリーはミスを最小限にまとめて3位と表彰台に上って世界選手権の切符を手にし、その世界選手権も左膝痛の影響もありSPはミスが相次いで9位となりましたが、フリーはトリプルアクセル、3フリップ+3ループなど、ほとんどのジャンプを大きなミスなく着氷させて笑顔でシーズンを締めくくりました。
 こうして浅田選手が辿ってきた道を振り返ると、やはり思い起こすのは順風満帆にうまくいったシーズンや試合よりも、何か失敗や困難にぶつかりながらもそれを乗り越えた場面の方が強く印象に残っていて、失敗しては立ち上がり、失敗しては立ち上がりというのを、誰よりも繰り返し繰り返ししぶとく粘り強く積み重ねてきた選手なんだと改めて思います。
 浅田選手より安定感のある選手はいます。ライバルとして現役時代比較され続けたキム・ヨナさんはシニア参戦以降は出場した全ての試合で表彰台に上り、2度のオリンピックで2度ともメダルを獲得していますし、羽生結弦選手も優勝したソチ五輪後はほとんどの試合で1位もしくは2位という圧倒的な安定感を誇っています。そういった選手たちと比べると浅田選手は、女子には非常に難しくリスクの高いトリプルアクセルに挑み続けたということもあって、決して安定感抜群の選手だったとは言えません。しかし、そんな失敗の場面をたびたび見せてきたとしても、彼女が私(や多くのファン)を惹きつけてやまなかったのは、彼女が最後には必ず立ち上がって笑顔を見せてくれたからです。もちろん滅多にミスをしないタイプの選手にも魅力はあります。ですが、普通の人々の人生は成功よりも失敗の数の方が多いものです。だからこそアスリートが失敗をした時や厳しい状況に見舞われた時にどう乗り越えるかという部分に関心が集まります。そういった意味で、何度も失敗し、でもそのたびに立ち上がり、そしてまた挑戦してという浅田選手の生きざまは、たくさんの失敗を繰り返すという“弱さ”の点では私のような凡人にも重なる部分があり、一方で立ち上がる姿からは自分自身では考えられない尋常ならざる“強さ”を感じさせて、そうした両面のギャップが、毎回ハラハラドキドキさせられながらも心をとらえて離さない浅田選手特有の不思議な魅力だったのかなと今では思います。

 そんな特別な魅力を放った浅田選手に惹きつけられたのは、一般のファンだけではなく現役選手、元選手も同じでした。日本国内の同じ時代をともに戦い抜いた戦友たちのみならず、たくさんの後輩選手たち、さらには海外の選手や元選手たちも浅田選手の引退に際して次々とコメントを寄せました。それは浅田選手が築いてきた功績や素晴らしい技術、演技に対する尊敬もあるでしょうが、やはり彼女が氷上で見せてきた生きざまが同じスケーターたちでさえも魅了し、これだけフィギュアスケート界の中でも尊敬を集め愛される選手になったということなのだろうと思います。
 それだけ慕われる一方で、浅田選手ほど孤高の選手もいなかったのではないでしょうか。子どもの頃から注目され続け、常に優勝することを求められる。そういうアスリート自体が日本全体を見回しても卓球の福原愛選手くらいしかいないですし、さらには浅田選手の場合、女子では跳ぶ人のほとんどいないトリプルアクセルを10年以上に渡って跳び続けるという後にも先にも例のない試みを続けてきた唯一無二の選手でもあって、同じフィギュアスケーターでも悩みや経験を共有できない、本当に孤独な道を歩んできたのではないかと思います。
 12日の引退会見でもトリプルアクセルに関連する応答はいくつかあり、浅田選手自身トリプルアクセルについて「自分の強さでもあった」とする一方で、「悩まされた」と本音もこぼしました。また、小学6年生の時に参加した新人発掘のための“野辺山合宿”で、トリプルアクセルを跳ぶと目標を定めて臨んで実際に初成功させたというエピソードも披露しました。トリプルアクセルというのを戦略として考えるなら、回避してほかの女子選手同様に3+3の完成度を高める方向で行った方が戦略的には賢いのかもしれませんし、成績ももっと安定したかもしれません。特に佐藤信夫コーチが就任した10/11シーズン以降は浅田選手も20代に突入してますますトリプルアクセルを跳ぶのは身体的にきつくなっていったと思うのですが、技術を基礎から見直している時期に一時的に構成から外していた時を除けば変わらずトリプルアクセルを跳び続け、佐藤コーチに回避を勧められても自分の意志を最後まで曲げなかったというのは、やはり最初に目標を達成した原体験というのがトリプルアクセルであったという強烈な記憶と忘れがたい喜びが大人になっても浅田選手の中に根付いていたということなのでしょう。もちろん浅田選手はトリプルアクセルだけの選手ではなかったですし、むしろ年齢を重ねるほどジャンプ以外の部分の技術や表現もそれまで以上に強化されていきました。しかしそれでもトリプルアクセルは彼女にとって切っても切り離せない相棒のようなものであり、“浅田真央”を“浅田真央”たらしめている最大の要素がトリプルアクセルであったことは間違いなく、たとえトリプルアクセルを外して試合に臨んで金メダルの数が増えていたとしても、それは浅田選手にとってはあまり意味のない勝利だったのではないかと思いますね。

 そんな浅田選手のラストダンスとなった昨年末の全日本選手権。左膝の負傷の影響でGPシリーズでは回避していたトリプルアクセルをショート、フリーともに組み込み、残念ながら成功には至りませんでしたが、演技後の表情からは納得感が滲み出ていました。ですが、まさかそれが最後の演技になるとは露ほども思わず、左膝痛さえ癒えればまだまだ世界のトップレベルで競えると感じていたので、平昌五輪まで1年を切ったこのタイミングでの引退発表は予想外で驚きました。
 浅田選手は引退の理由について自身のブログで「去年の全日本選手権を終えた後、それまでの自分を支えてきた目標が消え、選手として続ける自分の気力もなくなりました」と綴り、記者会見でも「体も気力も全部出し切った」「悔いはない」と明るく語りました。上述したように、幾度となく困難を乗り越えてきた浅田選手なので、今回の自分の身体との戦いもきっと乗り越えてくれるだろうと勝手に期待してしまっていたのですが、それ以上に浅田選手をそれまで支えていたほとばしるような情熱がもう消えてしまったんだなということにブログの文面や会見での言葉から気づかされましたね。その発端となったのは体の不調かもしれませんが、今回の会見でも怪我に関することを一度も口にしなかったように、フィジカル的な問題があってもそれを表に出すことなく強い気持ちで乗り越えてきたのが“浅田真央”というアスリートなので、その気持ち自体がなくなってしまうと、やはり競技者として続けていくのは難しいんだろうなと感じました。
 浅田選手の引退に際して心残りがあるとすれば、できることなら最後の演技が満面の笑みで終われれば最高だったなとは思います。ただ、最後の試合でもトリプルアクセルを跳んだというのは、浅田選手自身が会見でおっしゃっていたように浅田選手らしかったなと思いますし、最後の最後まで“浅田真央らしさ”を貫き通した姿はただただかっこよく、順位や点数は関係なく、私が知っている“浅田真央”の姿そのものだったなと思います。

 浅田選手についてここまで綴ってきて、いろんなシーンが走馬灯のように思い出されるのですが、やはり一番印象深いのは笑顔です。特にソチ五輪のフリーは、フィニッシュのポーズから解き放たれた瞬間にさまざまな想いが詰まった大粒の涙を流し、それでもパッと顔を上げて見せた涙まじりの笑顔というのは、どうしてあの状況であんなに笑えるんだろうと不思議なくらいの美しい笑顔で、目に焼きついて離れません。そして、今回の引退会見の最後、司会者から挨拶を促されて最初は笑顔で話していたのが、途中で感極まったのか言葉に詰まり涙をこらえようとしばらく黙り、それでも涙が流れそうだったのか記者やカメラに10秒ほど背を向けました。しかし再び前に向き直った浅田選手の表情は笑顔で、先ほどの言葉の続きを述べ、また途中で想いが溢れて涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえて数秒だけ後ろを向いて指先で涙を拭い、最後はいつもどおりの“真央スマイル”で感謝の言葉で会見を締めくくり、会場を後にしました。まるで涙から笑顔にパッと変わったソチ五輪のフリーと重なるシーンで、会見でさえも最後まで浅田選手らしい“生きざま”を見せてくれましたね。
 その笑顔にこちらが逆に励まされ、元気づけられ、思わず顔がほころんでしまったのと同時に、私のようなファンが浅田選手に笑顔でいることを自分勝手に期待して強いてしまっていたのではないかという気もして申し訳なくも思いました。ただ、いつの時も浅田選手の笑顔というのは誰かから強いられたり求められたりしたものではなく、もちろん笑顔を作ることを意識しなければいけない場面もあったとは思うのですが、それでもその笑顔は作り物ではなく浅田選手の心の中から自然と生まれた笑顔で、見ているこちらにも気持ちが伝わってくるようなありのままの笑顔で、だからこそこれだけの国民的なアスリートになったのかなと思いますね。

 またもや個人的な話になってしまいますが、私にとって浅田選手はフィギュアスケートを見るきっかけを与えてくれた選手であり、“フィギュアスケート=浅田真央”といっても過言ではありません。なので、浅田選手がいないフィギュア界をまだ想像できないのですが、浅田選手が築いたものは確実に今後の若い選手たちが引き継いでいくでしょうし、“浅田真央”のDNAとでもいうべきものは日本のフィギュア界に目に見える形でも見えない形でも受け継がれていくでしょう。
 ですが、浅田選手のような選手はもう二度と現れないのではないかと思います。ジャンプだけなら浅田選手よりうまい選手が出てくる可能性はいくらでもありますし、浅田選手の記録や偉業もいつかは塗り替えられていくでしょう。ですが、ジャンプ、スピン、ステップ、スケーティング、表現、そして氷上での佇まいの全てをそなえた、総合芸術としてのフィギュアスケートを体現する存在として、浅田選手以上の選手は、私にとっては今後現れることはないと思います。
 正直寂しい気持ちが消えることはないですが、今はただ浅田選手が見せてくれた数々の名演技に感謝するとともに、“浅田真央”という人生の新たな章の始まりにおめでとうと言いたい気持ちですね。引退しても浅田選手にとってフィギュアスケートはかけがえのないものであり続けるでしょうし、7月には座長を務める「THE ICE」もあるので、これからもフィギュアスケーターとして大好きなフィギュアスケートを追求してほしいと思います。もちろん、フィギュアスケート以外にもどんどん興味を広げていって、フィギュアスケート以上に夢中になれるものが見つかれば、それも幸せなことだと思いますので、どんな形であれ浅田選手の今後の人生が幸多く、笑顔に溢れたものになることを願っています。
 21年間の選手生活、お疲れさまでした。そして、今までありがとうございました。


:浅田選手の写真は、デイリースポーツのニュースサイトが2017年4月12日に配信した記事「真央、五輪出場枠「3」→「2」は引退の理由じゃない 決断「2月だった」」から引用、文中の浅田匡子さんの言葉はスポーツ誌「Number」の公式サイトが2011年12月26日の11:50に配信したコラム記事「母と一緒に滑った浅田が全日本でV。男子は最強の世界選手権代表トリオ。」を参考にさせていただきました。
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# by hitsujigusa | 2017-04-15 00:52 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)