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 2017年4月10日、浅田真央選手が自身のブログで現役引退を発表し、12日には記者会見を開き引退についての思いを語りました。

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浅田真央、尊敬を集めた演技と人間性 引退後も語り継がれる希代のスケーター

 浅田真央(中京大)が10日、自身のブログで引退を表明した。現在26歳、言わずと知れた日本フィギュアスケート界の中心的な存在だ。多くの尊敬と注目を集め、人々を魅了し続けたアスリート。そんな彼女との別れは突然やってきた。

 信じ難い気持ちだった。12位と自己最低の結果に終わった昨年末の全日本選手権では、現役続行か否かを問われ、前向きな姿勢を見せていたからだ。ましてや来年には、自身の最終目標としていた平昌五輪が行われる。少なくとも来季までは競技を続けると思われていた。だからこそ突然の幕引きに驚きを禁じえなかった。

 「ソチ五輪シーズンの世界選手権は最高の演技と結果で終えることができました。その時に選手生活を終えていたら、今も選手として復帰することを望んでいたかもしれません。実際に選手としてやってみなければ分からないこともたくさんありました」

 2014年3月の世界選手権は、ショートプログラム(SP)で当時の世界歴代最高得点(78.66点)を更新するなど圧巻の演技で優勝。しかし、1年間の休養から復帰した15−16シーズン以降、彼女は満足いく内容・結果を得られず苦しんでいた。ブログでつづっているように、実際に再び競技生活を歩んだからこそ、未練なく今回の決断に至ることができたのだろう。


スポーツナビ 2017年4月11日 10:35 一部抜粋

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真央、会見の最後に涙 引退決意は2月「フィギュアスケートに恩返しできる活動を」

 10日に自身のブログでの突然の引退発表となったが、自己ワーストの12位に終わった昨年末の全日本選手権後には引退を考え始めていたという。それでも「自分が復帰してからずっと掲げてきた平昌オリンピックに出るという目標があったので、やり遂げないといけないと思っていた。言ってしまったことへの葛藤はすごいありました」。ただ、6位だった14年のソチ五輪後、1年間ほど休養し、現役復帰した決断については「気持ちも体も自分の気力も全部出し切ったので、今は挑戦して何も悔いはないです」とすっきりした表情で語った。

 また、3月の世界選手権で日本が五輪出場権を3枠獲得できず、2枠となったことで代表争いが厳しさを増したが「目標をやめてしまう自分が許せるのかな? 許せないのかな? と思いながら過ごしてきて、最終的に話し合いをして決めたのが2月だったので、世界選手権が影響したというわけではなく、自分自身が最後決めること」と判断には影響しなかったという。

 引退後の初滑りは7月のアイスショーとなることも明言。今後については「どんな形でもフィギュアスケートに恩返しできる活動をしていきたい」と語った。

 質問を受けている間はずっと笑顔の浅田だったが、会見の最後の挨拶でこらえきれずに涙。カメラに背を向け、涙をぬぐいながら笑顔を見せていた。


スポーツ報知 2017年4月12日 12:25 一部抜粋

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 4月10日の23時前、テレビのニュース速報でこの一報を知り、すぐに浅田選手引退についての記事を書こうかと思い、実際に書き始めましたが、いざとなると何をどう書いていいのかわからず、また、12日に記者会見を行うということで、その会見を見て浅田選手の生の声を聞いて、自分の考えをまとめてから記事にしようと思い直し、引退発表から5日も経ってからの記事アップになりました。

 ここからは私の個人的な話になりますが、私が浅田選手を初めて知ったのはシニアデビューシーズンのグランプリシリーズ。それまでも小学6年生でのトリプルアクセルの成功やシニアの全日本選手権での活躍、世界ジュニア選手権優勝などすでにフィギュアスケート界では知る人のいない有名人になっていたと思いますが、そもそもフィギュアスケートという競技自体知らなかった私は浅田選手のことも知らず。しかしシニアデビューのGP中国大会でいきなり2位に入ると、2戦目のフランス大会では優勝、そして世界の猛者が集うGPファイナルでは当時の世界女王イリーナ・スルツカヤさんを破っての優勝という快挙を成し遂げ、一気に報道は過熱、テレビを始めとしたメディアでの露出も増えていきました。そうした中で私も“浅田真央”という存在を知り、同学年の少女が一躍スターに上り詰めていくさまを、ただただ驚き、感動し、単純に凄いという気持ちでテレビの前で見ていました。そして、“浅田真央”との出会いが、“フィギュアスケート”との出会いでもありました。

 今までこのブログでも幾度となく浅田選手に関する文章を書いてきて、できるだけほかの選手と温度差が出ないようにと気をつけて書いてきたつもりですが、やはり浅田選手に対する特別な思い入れというのがあり、なかなか気持ちは隠し切れなかったように思います。なぜ自分が彼女にそこまで引きつけられたのか、なぜ当時活躍していたほかの日本の女子選手ではなく浅田選手だったのかと考えると、やはり同い年というのは一番大きな理由で、自分と同い年の可愛い女の子がもの凄いジャンプを跳んでいるというインパクトの強烈さから惹かれたのだと思いますが、その最初のインパクトだけで終わらず、その後もずっと浅田選手に惹かれ続けた理由は何だろうと思うと、自分にフィギュアスケートの魅力を最初に教えてくれたのが浅田選手だからというのは後付けの理由に過ぎなくて、やはり彼女が氷の上で見せる演技、表情の豊かさ、また、演技やインタビューなどから滲み出る人間性に魅了されたというのが本質的な理由なのかなと思います。
 そして、それは私だけではなく、多くの人にとっても同じなのではないでしょうか。「フィギュアスケートはその人の生きざまを見せるもの」と言ったのは浅田選手の亡き母・匡子さんですが、まさに浅田選手は氷の上で“浅田真央”という人間の生きざまを見せつけ、それが境遇や世代を超えていろんな人々の心に響いたということなのではないかと思います。

 “浅田真央”というフィギュアスケーターの特徴や魅力については、何といってもトリプルアクセルという女子では数人しか成功させていないジャンプを武器に戦ったという特異性が挙げられますし、そのほかにもさまざまな技術面や表現面での彼女にしかない魅力というのは多々あるのですが、“生きざま”という点に絞って考えてみると、まずは“両面性”というのが重要なポイントかなと感じます。
 浅田選手の両面性、それは“強さ”と“弱さ”です。浅田選手のジュニア時代から引退までの成績を振り返ると、ジュニアGPファイナル優勝、世界ジュニア選手権優勝、6度の全日本選手権優勝、4度のGPファイナル優勝、3度の世界選手権優勝、バンクーバー五輪銀メダルと、日本のみならず、世界のフィギュアスケート史にも残る華々しい経歴を残しているわけですが、しかしその数々の勝利のシーンと同じくらいかそれ以上に強烈な印象を残したのは、失敗から立ち上がる姿でした。
 その印象を最初に強烈に植えつけられたのは初出場となった2007年の世界選手権。金メダルを期待されて臨んだショートプログラム、得点源となる3フリップ+3ループの3ループが1回転になるミスがあり5位。首位とは約10点差、3位までも約5点差と、優勝どころか表彰台に向けても厳しい船出となりました。しかしフリーはトリプルアクセルを含め全てのジャンプを予定どおりに着氷する会心の演技。優勝には僅差で届きませんでしたが、驚異的な追い上げで銀メダルを獲得しました。
 さらに驚かされたのは翌年の世界選手権のフリー。冒頭のトリプルアクセル、軌道に入り跳ぼうとした瞬間にスケート靴のエッジが氷の溝にはまり激しく転倒。誰もが優勝を諦めるような衝撃的なシーンでしたが、浅田選手はすぐに立ち上がると、3フリップ+3トゥループを完璧に着氷。その後も高難度の3フリップ+3ループ含め全てのジャンプを目立ったミスなく下り、初の世界女王に輝きました。
 そして迎えたバンクーバー五輪シーズンでしたが、浅田選手はそれまでにないほどのジャンプの不調に陥り、シニアに上がって初めてGPファイナル進出も逃すというオリンピックに向けて不安の残る演技が続きました。ですが、オリンピックではショート、フリー合わせて3本のトリプルアクセルを全てクリーンに成功させる史上初の偉業を達成し、銀メダルを獲得。
 11/12シーズンは母・匡子さんが浅田選手が出場予定であったGPファイナル直前に死去。その直後の全日本選手権は欠場も予想される中、短期間の調整で出場。身体的にも精神的にも難しい状況でしたが全力を尽くした演技で見事に優勝。
 スケート人生の集大成として臨んだソチ五輪。SPは全ジャンプを失敗というまさかの演技で16位。そして今や伝説となったフリー、練習でもほとんど決まっていなかったトリプルアクセルを冒頭で下りると、その後は怒濤の勢いで全てのジャンプを着氷させる鬼気迫る滑りを見せ総合6位となりました。
 1年の休養から復帰した15/16シーズン。復帰初戦のジャパンオープン、GP中国大会と上々のスタートを切ったものの、2戦目のNHK杯、GPファイナルと不振が続き、全日本選手権もSP5位と出遅れ。しかし引退覚悟で迎えたフリーはミスを最小限にまとめて3位と表彰台に上って世界選手権の切符を手にし、その世界選手権も左膝痛の影響もありSPはミスが相次いで9位となりましたが、フリーはトリプルアクセル、3フリップ+3ループなど、ほとんどのジャンプを大きなミスなく着氷させて笑顔でシーズンを締めくくりました。
 こうして浅田選手が辿ってきた道を振り返ると、やはり思い起こすのは順風満帆にうまくいったシーズンや試合よりも、何か失敗や困難にぶつかりながらもそれを乗り越えた場面の方が強く印象に残っていて、失敗しては立ち上がり、失敗しては立ち上がりというのを、誰よりも繰り返し繰り返ししぶとく粘り強く積み重ねてきた選手なんだと改めて思います。
 浅田選手より安定感のある選手はいます。ライバルとして現役時代比較され続けたキム・ヨナさんはシニア参戦以降は出場した全ての試合で表彰台に上り、2度のオリンピックで2度ともメダルを獲得していますし、羽生結弦選手も優勝したソチ五輪後はほとんどの試合で1位もしくは2位という圧倒的な安定感を誇っています。そういった選手たちと比べると浅田選手は、女子には非常に難しくリスクの高いトリプルアクセルに挑み続けたということもあって、決して安定感抜群の選手だったとは言えません。しかし、そんな失敗の場面をたびたび見せてきたとしても、彼女が私(や多くのファン)を惹きつけてやまなかったのは、彼女が最後には必ず立ち上がって笑顔を見せてくれたからです。もちろん滅多にミスをしないタイプの選手にも魅力はあります。ですが、普通の人々の人生は成功よりも失敗の数の方が多いものです。だからこそアスリートが失敗をした時や厳しい状況に見舞われた時にどう乗り越えるかという部分に関心が集まります。そういった意味で、何度も失敗し、でもそのたびに立ち上がり、そしてまた挑戦してという浅田選手の生きざまは、たくさんの失敗を繰り返すという“弱さ”の点では私のような凡人にも重なる部分があり、一方で立ち上がる姿からは自分自身では考えられない尋常ならざる“強さ”を感じさせて、そうした両面のギャップが、毎回ハラハラドキドキさせられながらも心をとらえて離さない浅田選手特有の不思議な魅力だったのかなと今では思います。

 そんな特別な魅力を放った浅田選手に惹きつけられたのは、一般のファンだけではなく現役選手、元選手も同じでした。日本国内の同じ時代をともに戦い抜いた戦友たちのみならず、たくさんの後輩選手たち、さらには海外の選手や元選手たちも浅田選手の引退に際して次々とコメントを寄せました。それは浅田選手が築いてきた功績や素晴らしい技術、演技に対する尊敬もあるでしょうが、やはり彼女が氷上で見せてきた生きざまが同じスケーターたちでさえも魅了し、これだけフィギュアスケート界の中でも尊敬を集め愛される選手になったということなのだろうと思います。
 それだけ慕われる一方で、浅田選手ほど孤高の選手もいなかったのではないでしょうか。子どもの頃から注目され続け、常に優勝することを求められる。そういうアスリート自体が日本全体を見回しても卓球の福原愛選手くらいしかいないですし、さらには浅田選手の場合、女子では跳ぶ人のほとんどいないトリプルアクセルを10年以上に渡って跳び続けるという後にも先にも例のない試みを続けてきた唯一無二の選手でもあって、同じフィギュアスケーターでも悩みや経験を共有できない、本当に孤独な道を歩んできたのではないかと思います。
 12日の引退会見でもトリプルアクセルに関連する応答はいくつかあり、浅田選手自身トリプルアクセルについて「自分の強さでもあった」とする一方で、「悩まされた」と本音もこぼしました。また、小学6年生の時に参加した新人発掘のための“野辺山合宿”で、トリプルアクセルを跳ぶと目標を定めて臨んで実際に初成功させたというエピソードも披露しました。トリプルアクセルというのを戦略として考えるなら、回避してほかの女子選手同様に3+3の完成度を高める方向で行った方が戦略的には賢いのかもしれませんし、成績ももっと安定したかもしれません。特に佐藤信夫コーチが就任した10/11シーズン以降は浅田選手も20代に突入してますますトリプルアクセルを跳ぶのは身体的にきつくなっていったと思うのですが、技術を基礎から見直している時期に一時的に構成から外していた時を除けば変わらずトリプルアクセルを跳び続け、佐藤コーチに回避を勧められても自分の意志を最後まで曲げなかったというのは、やはり最初に目標を達成した原体験というのがトリプルアクセルであったという強烈な記憶と忘れがたい喜びが大人になっても浅田選手の中に根付いていたということなのでしょう。もちろん浅田選手はトリプルアクセルだけの選手ではなかったですし、むしろ年齢を重ねるほどジャンプ以外の部分の技術や表現もそれまで以上に強化されていきました。しかしそれでもトリプルアクセルは彼女にとって切っても切り離せない相棒のようなものであり、“浅田真央”を“浅田真央”たらしめている最大の要素がトリプルアクセルであったことは間違いなく、たとえトリプルアクセルを外して試合に臨んで金メダルの数が増えていたとしても、それは浅田選手にとってはあまり意味のない勝利だったのではないかと思いますね。

 そんな浅田選手のラストダンスとなった昨年末の全日本選手権。左膝の負傷の影響でGPシリーズでは回避していたトリプルアクセルをショート、フリーともに組み込み、残念ながら成功には至りませんでしたが、演技後の表情からは納得感が滲み出ていました。ですが、まさかそれが最後の演技になるとは露ほども思わず、左膝痛さえ癒えればまだまだ世界のトップレベルで競えると感じていたので、平昌五輪まで1年を切ったこのタイミングでの引退発表は予想外で驚きました。
 浅田選手は引退の理由について自身のブログで「去年の全日本選手権を終えた後、それまでの自分を支えてきた目標が消え、選手として続ける自分の気力もなくなりました」と綴り、記者会見でも「体も気力も全部出し切った」「悔いはない」と明るく語りました。上述したように、幾度となく困難を乗り越えてきた浅田選手なので、今回の自分の身体との戦いもきっと乗り越えてくれるだろうと勝手に期待してしまっていたのですが、それ以上に浅田選手をそれまで支えていたほとばしるような情熱がもう消えてしまったんだなということにブログの文面や会見での言葉から気づかされましたね。その発端となったのは体の不調かもしれませんが、今回の会見でも怪我に関することを一度も口にしなかったように、フィジカル的な問題があってもそれを表に出すことなく強い気持ちで乗り越えてきたのが“浅田真央”というアスリートなので、その気持ち自体がなくなってしまうと、やはり競技者として続けていくのは難しいんだろうなと感じました。
 浅田選手の引退に際して心残りがあるとすれば、できることなら最後の演技が満面の笑みで終われれば最高だったなとは思います。ただ、最後の試合でもトリプルアクセルを跳んだというのは、浅田選手自身が会見でおっしゃっていたように浅田選手らしかったなと思いますし、最後の最後まで“浅田真央らしさ”を貫き通した姿はただただかっこよく、順位や点数は関係なく、私が知っている“浅田真央”の姿そのものだったなと思います。

 浅田選手についてここまで綴ってきて、いろんなシーンが走馬灯のように思い出されるのですが、やはり一番印象深いのは笑顔です。特にソチ五輪のフリーは、フィニッシュのポーズから解き放たれた瞬間にさまざまな想いが詰まった大粒の涙を流し、それでもパッと顔を上げて見せた涙まじりの笑顔というのは、どうしてあの状況であんなに笑えるんだろうと不思議なくらいの美しい笑顔で、目に焼きついて離れません。そして、今回の引退会見の最後、司会者から挨拶を促されて最初は笑顔で話していたのが、途中で感極まったのか言葉に詰まり涙をこらえようとしばらく黙り、それでも涙が流れそうだったのか記者やカメラに10秒ほど背を向けました。しかし再び前に向き直った浅田選手の表情は笑顔で、先ほどの言葉の続きを述べ、また途中で想いが溢れて涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえて数秒だけ後ろを向いて指先で涙を拭い、最後はいつもどおりの“真央スマイル”で感謝の言葉で会見を締めくくり、会場を後にしました。まるで涙から笑顔にパッと変わったソチ五輪のフリーと重なるシーンで、会見でさえも最後まで浅田選手らしい“生きざま”を見せてくれましたね。
 その笑顔にこちらが逆に励まされ、元気づけられ、思わず顔がほころんでしまったのと同時に、私のようなファンが浅田選手に笑顔でいることを自分勝手に期待して強いてしまっていたのではないかという気もして申し訳なくも思いました。ただ、いつの時も浅田選手の笑顔というのは誰かから強いられたり求められたりしたものではなく、もちろん笑顔を作ることを意識しなければいけない場面もあったとは思うのですが、それでもその笑顔は作り物ではなく浅田選手の心の中から自然と生まれた笑顔で、見ているこちらにも気持ちが伝わってくるようなありのままの笑顔で、だからこそこれだけの国民的なアスリートになったのかなと思いますね。

 またもや個人的な話になってしまいますが、私にとって浅田選手はフィギュアスケートを見るきっかけを与えてくれた選手であり、“フィギュアスケート=浅田真央”といっても過言ではありません。なので、浅田選手がいないフィギュア界をまだ想像できないのですが、浅田選手が築いたものは確実に今後の若い選手たちが引き継いでいくでしょうし、“浅田真央”のDNAとでもいうべきものは日本のフィギュア界に目に見える形でも見えない形でも受け継がれていくでしょう。
 ですが、浅田選手のような選手はもう二度と現れないのではないかと思います。ジャンプだけなら浅田選手よりうまい選手が出てくる可能性はいくらでもありますし、浅田選手の記録や偉業もいつかは塗り替えられていくでしょう。ですが、ジャンプ、スピン、ステップ、スケーティング、表現、そして氷上での佇まいの全てをそなえた、総合芸術としてのフィギュアスケートを体現する存在として、浅田選手以上の選手は、私にとっては今後現れることはないと思います。
 正直寂しい気持ちが消えることはないですが、今はただ浅田選手が見せてくれた数々の名演技に感謝するとともに、“浅田真央”という人生の新たな章の始まりにおめでとうと言いたい気持ちですね。引退しても浅田選手にとってフィギュアスケートはかけがえのないものであり続けるでしょうし、7月には座長を務める「THE ICE」もあるので、これからもフィギュアスケーターとして大好きなフィギュアスケートを追求してほしいと思います。もちろん、フィギュアスケート以外にもどんどん興味を広げていって、フィギュアスケート以上に夢中になれるものが見つかれば、それも幸せなことだと思いますので、どんな形であれ浅田選手の今後の人生が幸多く、笑顔に溢れたものになることを願っています。
 21年間の選手生活、お疲れさまでした。そして、今までありがとうございました。


:浅田選手の写真は、デイリースポーツのニュースサイトが2017年4月12日に配信した記事「真央、五輪出場枠「3」→「2」は引退の理由じゃない 決断「2月だった」」から引用、文中の浅田匡子さんの言葉はスポーツ誌「Number」の公式サイトが2011年12月26日の11:50に配信したコラム記事「母と一緒に滑った浅田が全日本でV。男子は最強の世界選手権代表トリオ。」を参考にさせていただきました。
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# by hitsujigusa | 2017-04-15 00:52 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 世界選手権2017、男子とアイスダンスについての記事の後編です。なお、前編はこちらをご覧ください。

ISU World Figure Skating Championships 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 7位はアメリカのジェイソン・ブラウン選手です。

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 まずはショートには組み込まなかった4トゥループからでしたが、アンダーローテーション(軽度の回転不足)で転倒となります。しかし、次の3アクセル+3トゥループをクリーンに着氷すると、レベル4のスピンとステップシークエンスを挟んだ後半、2本目の3アクセルもパーフェクトに成功。さらに3ルッツ、3+2、2アクセルと中盤のジャンプは全てクリーンで1点以上の加点が付く出来栄え。終盤の3ループがパンクして2回転になりましたが、最後の3ルッツ+1ループ+3サルコウはきれいに着氷。演技を終えたブラウン選手は感極まったように破顔しました。得点は176.42点でフリー7位、総合も7位となりました。
 異次元の4回転ジャンパーたちが優勝争い、メダル争いを繰り広げる中、ショート、フリー合わせて4回転1本という構成で異彩を放ったブラウン選手。4トゥループと3ループの失敗はありましたが、それさえも些細なことに思わせる圧倒的な表現の力、プログラムの力で唯一無二の世界を作り上げましたね。前編の記事でネイサン・チェン選手のフリーの構成について偏っていると指摘したのですが、ブラウン選手も8つのジャンプ要素のうち6つを後半に固めているわけなので偏っているといえば偏っているのですが、ジャンプとジャンプのあいだにつなぎや小技をふんだんに盛り込んだり、スピンを演技全体に均等に配置したりと、ジャンプ以外の部分にも観客の目がいくバランスの良い構成になっていて、ジャンプに注目が集まりがちな最近の男子フィギュア界の中でジャンプ以外のフィギュアスケートの魅力を最も伝えてくれる貴重なスケーターだなと今回改めて感じました。
 4回転が得意ではないブラウン選手が世界のメダル争いに食い込んでいくのは難しいかもしれませんが、今のままのブラウン選手のスケートを追求してどんどんほかの選手にはないオリジナリティーを極めていってほしいなと思います。


 8位はロシアチャンピオンのミハイル・コリヤダ選手です。

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 冒頭は今季からチャレンジしている大技4ルッツ、回転は認定されたものの転倒で初成功とはならず。続く4トゥループはきっちり決めて加点を得ます。しかし直後の3アクセルはタイミングが合わなかったのか抜けて1回転に。次の3+3はクリーンに成功とバラつきの目立つ前半となります。立て直したい後半、まずは3アクセルを今度は完璧に成功。3+1+3は最後のジャンプが2回転に。続いて3ループは問題なく決めますが、最後の2アクセルは若干乱れ、フィニッシュしたコリヤダ選手は納得がいかないというように顔を曇らせました。得点は164.19点でフリー9位、総合8位となりました。
 前半の大技でミスが重なったことによって全体的にリズムに乗りきれなかったという印象の残る演技でしたね。ただ、4ルッツは回り切ってからの転倒でしたし、成功の形も本人には見えているのだろうと思うので、来シーズンに向けて良い収穫になったのではないかと思います。
 今大会はパーソナルベストから10点以上低いスコアで8位とコリヤダ選手自身は消化不良の内容、結果だったかもしれませんが、シーズン全体を俯瞰するとそこまで極端に崩れる試合というのも少なく、何といってもロシア選手権優勝という大きな初タイトルもあり、足元をしっかり固めるシーズンになったのではないでしょうか。来季は4ルッツの成功も含め、さらに飛躍するシーズンになることを期待したいですね。


 19位となったのは日本の田中刑事選手です。

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 まずは得点源の4サルコウ、これをクリーンに着氷します。さらに続けて2本目の4サルコウはしっかり2トゥループを付けて成功させ最高の滑り出しとなります。しかし直後の3アクセルが2回転に。後半に入り最初の3+3は問題なく下りますが、3アクセルは力が入ったのか珍しく回転不足で転倒。残りのジャンプは全て予定どおりにこなしましたが、3アクセルのミスが響いて148.89点でフリー17位、総合19位にとどまりました。
 ショートで失敗した4サルコウをしっかり修正した一方で、今シーズン安定していた3アクセルが1本もクリーンに決まらず、田中選手らしい演技とはなりませんでしたね。単純にこの大会で自己ベストくらいの得点を出せていれば10位には入れていたので残念だなと思うのと同時に、田中選手の実力は19位で終わる選手ではないというのもわかっているので、今大会の演技には少しもどかしさも覚えました。ただ、五輪プレシーズンに世界選手権の雰囲気を経験できたことは貴重な収穫だと思うので、来季は日本男子の第3の男としてさらにベースを底上げするシーズンにしてほしいなと思いますね。



 さて、ここからはアイスダンスです。

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 実に5年ぶりとなる3度目の優勝を果たしたのは、今季競技復帰したカナダのテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア組です。SDは全てのエレメンツがレベル4という非の打ちどころのない演技で2位に約5点の大差をつけて断トツの首位。FDはサーキュラーステップシークエンスの終わりでモイア選手がバランスを崩して転びかけるというまさかのミスはありましたが、そのほかは全て高いレベルとクオリティーでまとめ自己ベストに近い得点で2位、ショートのリードを守り切って優勝となりました。
 フリーはヴァーチュー&モイア組らしからぬシーンはありましたが、それでも2位という圧倒的な地力の差を見せつけましたね。この結果を見る限り来シーズンもこのカップルを軸に世界のアイスダンス界は回っていきそうですし、二人が引っ張ることによってほかのカップルも追いつけ追い越せとばかりにレベルアップしてくると思うので、そういった意味でもヴァーチュー&モイア組が競技会に戻ってきた意義は大きかったのかなと思います。世界選手権優勝、おめでとうございました。

 銀メダリストとなったのは2015、2016年の世界王者、フランスのガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組。SDはツイズルと2つのステップシークエンスがレベル3にとどまり、1位に点差をつけられての2位。しかしFDはステップは1つレベル3だったものの全体的に完成度の高い演技を披露し、自身が持つ世界最高を上回る119.15点で1位、トータルでは2点差及ばず惜しくも2位となりました。
 ショートで5点というアイスダンスではひっくり返すのが難しい点差をつけられ、ヴァーチュー&モイア組の優勝だろうという大方の予想になりましたが、フリーはディフェンディング・チャンピオンとして意地を見せる演技でしたね。パパダキス&シゼロン組が来季ヴァーチュー&モイア組を上回ってオリンピックチャンピオンになるために鍵となるのはショート。パパダキス&シゼロン組はショートで少し出遅れてフリーで追い上げるというのがパターンが多いので、その鬼門のショートでさらに安定感が増せば、ヴァーチュー&モイア組をもっと脅かせるのではないでしょうか。

 3位はアメリカチャンピオンのマイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組です。SDは得意のステップシークエンスがレベル2という取りこぼしがあり、アメリカ勢の中でも3番手となる5位と出遅れ。FDも珍しくリフトで時間超過による減点1があり4位でしたが、トータルでは3位で2年連続で表彰台に上がりました。
 圧倒的な技術力を武器とするシブタニ兄妹にしては取りこぼしの多い試合となりましたが、この僅差の接戦を勝ち抜いてメダルを手にした経験は、ある程度余裕を持って2位になった昨年以上の価値があるのではないかと思います。特に今年はショートとフリーが揃わず順位の変動が大きいカップルが例年より多かった中で、ショート5位、フリー4位という不本意な内容でも2年連続で表彰台を死守できたことは、来季に向けて大きなアピールになりますし、大きな意味のある3位なのではないでしょうか。

 日本の村元哉中&クリス・リード組はSD23位で残念ながらFDには進めませんでした。

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 冒頭のパターンダンスは確実に丁寧にこなしましたが、パーシャルステップシークエンスはレベル2どまり。そして終盤のツイズルではリード選手の回転がずれてレベル1になった上GOEでも減点となり、54.68点で23位にとどまりました。
 パーソナルベストの61.10点からはかなり低い得点となってしまい、キス&クライでは言葉を失った村元&リード組。演技全体としては勢いもあって良かったと思うのですが、細かな部分の精密さに欠けてしまったのかなと思いますね。彼らの自己ベストを考えると問題なくフリー進出できると思っていましたし、そのために必死に練習をしてきたと思うので悔しい気持ちは強いでしょうが、この悔しさをバネに来季はさらなる技術の向上と安定感を手に入れて、オリンピックの出場権を獲得してほしいですね。



 男子フリーとアイスダンスの記事は以上ですが、ここで平昌オリンピック(と来年の世界選手権)の国別出場枠をまとめたいと思います。


《男子》

3枠:日本、アメリカ
2枠:カナダ、ロシア、スペイン、中国、イスラエル

《アイスダンス》

3枠:カナダ、アメリカ
2枠:ロシア、イタリア、フランス



 オリンピックと世界選手権の出場枠は、それぞれ国別の出場選手数とその順位によって決められます。
 まず3選手もしくは2選手出場している国は、その上位2選手の順位の数字の合計が13以下であれば3枠獲得。14~28以内であれば2枠、29以上で1枠となります。一方、1選手しか出場していない国は、その1選手が2位以上になれば一気に3枠獲得。3~10位であれば2枠。11位以下だと1枠のままです。
 ということで、男子は日本がワンツーフィニッシュというこれ以上ない最高の形で3枠を確保。そしてアメリカは表彰台も目されていたチェン選手が6位と思ったほど伸びませんでしたが、ブラウン選手が4回転1本のみで踏ん張って7位と、ちょうど13ポイントで見事に3枠を勝ち取りました。
 そして2選手出場で2枠を守ったのはカナダとロシアとスペイン。有力選手がフェルナンデス選手しかいないスペインは別として、カナダとロシアは何とか頑張って3枠を取りたいところだったと思うのですが残念ながら2枠のまま。特にカナダはチャン選手が5位、ケヴィン・レイノルズ選手が9位で14ポイントだったので、本当にあと少しでしたね。
 1選手のみの出場だった中国とイスラエルは上位に食い込んで2枠に増枠。中国は元々2枠が与えられていましたが、出場予定だった閻涵(ヤン・ハン)選手が肩の負傷のため欠場。結果的に金選手一人のみの出場でしたが、全く問題なく余裕で2枠を確保しましたね。そしてイスラエルは唯一の出場のアレクセイ・ビチェンコ選手が10位と2枠に増えるギリギリのラインをクリア。イスラエルが2枠を獲得するのはオリンピック史上初の歴史的な快挙であり、最近のイスラエルはビチェンコ選手のほかにも若手のダニエル・サモヒン選手も台頭してきていますから意味の大きい2枠ですね。
 アイスダンスはアイスダンス大国の北米2国ががっちりと3枠をキープ。一方で同じくアイスダンス大国のロシアは上位2組の合計が15ポイントで惜しいところで3枠を逃しました。5位のエカテリーナ・ボブロワ&ドミトリー・ソロビエフ組がSD8位と出遅れたのが、FDだけだと3位だっただけにもったいなかったですね。

 今大会全体を振り返ると男子は予想されていたとおり史上最高レベルの戦いとなり、300点を超えたフェルナンデス選手でさえ4位という尋常ではない時代に突入。この過酷な時代を勝ち抜いて勝者となるためには、4回転を数種類跳ぶのは当たり前として、その出来栄えも求められ、また、スピンやステップの些細な取りこぼしでも順位が左右される可能性があり、本当の意味での総合力が必要とされるのかなと思います。難度の高い4回転を何本も跳んでほかの選手に基礎点で優位に立つという方法ももちろんありますが、今やそういったレベルの選手が1人や2人ではなく5人以上いる時代なので、ジャンプの基礎点の足し算で差をつけるだけではなく、その美しさを磨くこともかなり重要になってきそうですね。
 そしてアイスダンスは第一線から退いていたオリンピックチャンピオンが戻ってきたことによって、パパダキス&シゼロン組が頭一つ抜け出ていたここ2年の状況が一転、勢力図が掻き回されておもしろさが増したのではないかと思います。オリンピックシーズンも今季同様もしくはそれ以上に、基礎点でレベル4を取るのは大前提として、GOEをどう稼ぐかという戦いになってくるでしょうね。



 世界選手権2017の記事はこれで終了です。ただ、今年は世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)も残っていますので、世界選手権に出場した選手たちは連戦で大変でしょうが、怪我のないよう気を付けて今シーズンを有終の美で飾ってほしいと思います。では。


:男子メダリスト3選手のスリーショット写真、田中選手の写真、アイスダンスメダリスト3組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、ブラウン選手の写真、コリヤダ選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、村元&リード組の写真はフィギュアスケート情報サイト「Absolute Skating」から引用させていただきました。

【ブログ内関連記事】
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世界選手権2017・女子フリー&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、世界最高得点で2連覇(前編) 2017年4月3日
世界選手権2017・女子フリー&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、世界最高得点で2連覇(後編) 2017年4月5日
世界選手権2017・男子フリー&アイスダンス―羽生結弦選手、逆転で2度目の優勝(前編) 2017年4月5日

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# by hitsujigusa | 2017-04-06 18:00 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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 フィンランドの首都ヘルシンキで行われた世界選手権2017。この記事では男子のフリーとアイスダンスについてお届けしますが、前編ではまず男子の1~6位までの選手について書いていきます。
 男子を制し2度目の優勝を果たしたのは日本の羽生結弦選手。SP5位からの逆転優勝を狙ったフリーでは自身が持つ世界歴代最高得点を塗り替え、劇的な展開を演出しました。銀メダルを獲得したのは同じく日本の宇野昌磨選手、3位は2年連続で中国の金博洋(ジン・ボーヤン)選手となっています。
 一方、アイスダンスはバンクーバー五輪金メダリストのテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア組が実に5年ぶり、3度目の優勝となりました。

ISU World Figure Skating Championships 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 SP5位から逆転で金メダルを獲得したのは羽生結弦選手です!

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 冒頭は代名詞の大技4ループ、これをショート同様完璧に決めて全ての審判からプラス2もしくは3の高評価を引き出します。さらに4サルコウも難なく成功。続くスピンとステップシークエンスはきっちりレベル4。3フリップをあっさりと下り、ここから後半。ショートでは失敗に終わった鍵となる4サルコウ+3トゥループでしたが、4サルコウをパーフェクトに下りると綺麗な流れで3トゥループに繋げて2.43点の高加点。次の4トゥループもクリーンに着氷。その後は3アクセルからの連続ジャンプと単独の3ルッツと、羽生選手にとっては簡単なジャンプを全て余裕を持って成功させ、演技を終えた羽生選手に対し嵐のようなスタンディングオベーションと拍手喝采が送られました。得点は世界歴代最高となる223.20点でもちろんフリー1位、総合でも1位となり、2014年以来2度目となる世界タイトルを手にしました。
 ショートでは今季鬼門となっている4サルコウ+3トゥループでのミスに加え、スタートのポジションにつくのが遅れたことによる減点もあり5位にとどまった羽生選手。トップのハビエル・フェルナンデス選手までは約10点差ということで、フェルナンデス選手がミスを連発でもしない限り逆転は難しいだろうとショートの記事の時に書いたのですが、まさにそのとおりの展開となりました。思えば昨年の世界選手権は羽生選手が1位で2位がフェルナンデス選手、2人のあいだには約12点差があったのが、フリーはフェルナンデス選手のキャリアベストの演技と羽生選手の不本意な演技により劇的なフェルナンデス選手2連覇となりましたし、2015年の時も僅差ながら1位羽生選手、2位フェルナンデス選手という順位からフリーでの逆転を許してしまっていて、むしろ追いかける立場となった羽生選手の方に今回は精神的に有利に働いたのかなという気もしますね。
 とはいえ10点差をひっくり返すのはたやすいことではありません。それが成し遂げられたのは、羽生選手の確かな技術と追い詰められれば追い詰められるほど燃えやすい羽生選手の性格によるところが大きいのかなと思います。そう考えるとオリンピックもショート1位よりも2位とか3位の方が良いのかななんて思ってしまいますが、羽生選手本人からしたらショートもフリーも完全無欠の演技が当然の目標でしょうし、昨季のNHK杯、GPファイナルではそうした神がかった演技ができていたわけですから、今後も羽生選手にとっては過去の自分が最大の敵になっていくのかなと思いますね。
 オリンピック前年の世界選手権を制し、最高の形で五輪プレシーズンを締めくくることが出来た羽生選手(まだ国別対抗戦は残っていますが)。とにかく怪我にだけは気をつけて、オリンピック2連覇に向けて頑張ってほしいですね。世界選手権優勝、おめでとうございました。


 2位に入ったのは全日本チャンピオンの宇野昌磨選手です。

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 まずは2月の四大陸選手権から跳び始めた新技4ループ、これをクリーンに回り切って下りて1.43点の加点を得ます。続けてこちらも大技の4フリップを若干着氷でこらえながらもまとめます。次の3ルッツは踏み切りのエッジを気にしすぎたのか、いつもより力の入った跳躍となり着氷でバランスを崩します。後半はまず得意の3アクセル+3トゥループから、これは完璧な流れで満点となる加点3の高評価。続く4トゥループは着氷でわずかにこらえて減点されますが、直後の4トゥループ+2トゥループはクリーンに成功。さらに3アクセル+1ループ+3フリップの高難度3連続ジャンプもパーフェクト。最後の3サルコウも難なく決めると、代名詞の“クリムキン・イーグル”を含むコレオシークエンスでは情熱的な滑りで観客を沸かせ、フィニッシュした宇野選手はショートに続き片手でガッツポーズ。得点は自己ベストかつ世界歴代3位の214.45点でフリーも2位、総合では世界歴代2位のハイスコアで初めての銀メダルを獲得しました。
 1年前はフリーで崩れ大粒の涙をこぼした宇野選手。その借りを返す素晴らしい演技でした。何よりも驚かされるのがジャンプの安定感。すでに宇野選手の代名詞的ジャンプとして定着している4フリップも跳び始めたのは昨年の世界選手権の後で、気分転換でやってみたら成功してしまったという凄いエピソードがありますし、4ループに関しても試合で跳び始めたのは2月の四大陸からにもかかわらずしっかり自分のものにしています。元々ジュニア時代の宇野選手はジャンパーというよりも表現面が注目された選手でしたが、ジュニアラストの14/15シーズンに4トゥループと3アクセルを習得してからはジャンパーとしても安定感、上達の早さは際立っています。また、フリーの演技前には羽生選手の世界最高の演技をモニターで見ていて敵わないと思うことで逆に開き直れたという話もあり、そうしたメンタルコントロールの巧さも銀メダルに繋がったのでしょうね。
 世界選手権から帰国後にははやくも4ルッツの習得に意欲を示していて、個人的にはあまり無理して怪我してほしくないなという老婆心もあるのですが、こうした無限の向上心、攻める姿勢こそが宇野選手らしくもあり、また、彼がここまで技術の進化に貪欲になれるのも同じ国に羽生選手という高い壁であり良いお手本でもある存在からいるからこそで、オリンピック前にこの二人のワンツーフィニッシュが見られたのは本当にうれしいことですね。
 4月20日から始まる世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)の出場も決まっている宇野選手。去年の4月はチーム・チャレンジ・カップで史上初となる4フリップを成功させたことを考えると、今年の国別対抗戦もまた何か新しいことをやってくるんじゃないかという気もして楽しみですね。


 昨年に続き銅メダリストとなったのは中国のエース、金博洋選手です。

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 冒頭は代名詞の4ルッツをパーフェクトに成功させて2.57点の加点を獲得。さらに4サルコウもスムーズに着氷します。さらに3アクセル+1ループ+3サルコウもクリーンに下りて、前半を最高の形で折り返します。そして後半、まずは4トゥループ+2トゥループをしっかり決めると、続く単独の4トゥループも成功。3+3、3アクセル、3フリップと全てのジャンプを予定どおりにクリアし、スピン、ステップシークエンスも全てレベル4とそつなくまとめ、フィニッシュした金選手は力強いガッツポーズで喜びを露わにしました。得点は204.94点と初めて200点台に乗せてフリー3位、トータルでも自身初の300点台で3位に入りました。
 今シーズンはGP初戦のスケートアメリカこそジャンプ不調で表彰台を逃しましたが、2戦目の中国杯では2位、年明け以降も四大陸、アジア冬季大会と順調に調整を進めて調子を上げつつあった金選手ですが、今大会はショート、フリーともに全てのエレメンツがプラス評価という素晴らしい仕上がりでしたね。演技自体も非常にのびのびと楽しそうに滑っているのが印象的で、今季はネイサン・チェン選手という新たな4ルッツの使い手が登場し脚光を浴びたことで金選手は少し陰に隠れた感がありましたが、それが逆に功を奏したのかもしれません。
 2年連続での銅メダルということで、何か運の良さも感じられる金選手。オリンピックでもメダル候補に挙げられることは間違いないですから、来季も日本勢の手ごわいライバルとして注目ですね。


 惜しくも4位となったのは2015、2016年の世界王者、スペインのハビエル・フェルナンデス選手。

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 SP首位という絶好のポジションでフリーを迎え、まず冒頭の4トゥループをお手本のような流れで決め全てのジャッジが加点3という驚異的な評価を得る最高のスタート。次の4サルコウ+3トゥループは着氷で少し乱れますが、3アクセル+2トゥループはクリーンにまとめます。後半は得意の4サルコウからでしたが、珍しく転倒。次の3アクセル、3ルッツは問題なく下りて立て直したかに見えましたが、その後の3+1+3のファーストジャンプが2回転に、さらに最後の3ループでも着氷ミスと普段失敗しないジャンプでのミスが重なり、演技後フェルナンデス選手は残念そうに肩を落としました。得点は192.14点でフリー6位、トータルでは300点台に乗せましたが3位の金選手にわずかに及ばず表彰台を逃しました。
 世界歴代2位の演技となったショートから一転、フリーはフェルナンデス選手らしからぬ演技で優勝候補がまさかの4位にとどまりました。前半の4+3でちょっとしたミスがありましたがそれだけならまだしも、後半の4サルコウの転倒から終盤の2つのジャンプのミスと、どんどん歯車が噛み合わなくなっていったような印象でしたね。演技前にはすでに羽生選手の得点を知っていたそうなので完璧に滑らなければならないというプレッシャーがあったのかなと想像しますが、フェルナンデス選手のこれまでの優勝というのはSP2位から羽生選手を追いかける立場だったので、SP首位という初経験がいつもとは違う感覚に繋がったのかもしれませんね。
 今までフェルナンデス選手はショート、フリー合わせて2種類の4回転を5本という構成で世界の覇権を争ってきましたが、4回転を3種類、さらには4種類跳ぶ選手がいる現状を考えると、戦略を考え直す必要があるかもしれません。それとも今までどおりの構成でさらに精度を高める方向でいくのか、フェルナンデス選手の逆襲に期待したいですね。


 5位となったのはカナダのベテラン、パトリック・チャン選手です。

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 まずは得点源となる4トゥループ+3トゥループをきっちり決めて2点の加点。さらに今季から取り入れている4サルコウも完璧な跳躍と着氷で加点2.71点と絶好の滑り出しとなります。しかし次の3アクセルは着氷で大きくバランスを崩し減点。2つのスピンを挟んだ後半、1発目のジャンプは4トゥループでしたがこちらも着氷でミス。次の3アクセルはきれいに成功させ、以降のジャンプは全てクリーンに下りましたが、得点源となる大技でのミスが響き、193.03点でフリー5位、総合も5位となりました。
 残念ながら表彰台には届きませんでしたが、チャン選手らしいスケーティング、ジャンプやスピンの質の高さは随所に見られ、世界のトップレベルで戦う力はまだまだ健在であることを示す演技だったと思います。特に今回決めた4サルコウはまるで何年も跳び続けてきたかのような美しさで、このジャンプを手に入れたことはチャン選手にとって構成の幅が広がるという意味でも、26歳にしてまだ伸びしろがあることを証明したという意味でも、来季の大きな武器になるのではないでしょうか。
 フェルナンデス選手同様、下の世代と比べるとジャンプの基礎点ではどうしても劣るチャン選手ですので、2種類の4回転の安定感はもちろん、彼にしかできないスケーティングの世界を極めていくことで、オリンピックのメダルにも繋がっていくのではないかと思いますね。


 6位はアメリカチャンピオンのネイサン・チェン選手です。

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 まずは今季ほとんど失敗がない大技4ルッツでしたが、回転は十分だったもの転倒となります。しかし次の4フリップに急遽2トゥループを付けてリカバリー。さらに続けて2本目の4フリップに挑みきれいに成功させ、直後の4トゥループは着氷でわずかに乱れますが最小限のミスにとどめます。後半はSPで失敗した3アクセル、これをクリーンに下りて良い流れのように見えましたが、次の4サルコウで転倒。続いて6本目の4回転となる4トゥループ+3トゥループに挑戦しましたが着氷で乱れ、最後の3ルッツからの3連続ジャンプも若干減点される出来栄えに。終盤に固めたスピンとステップシークエンスは全てレベル4にまとめましたが、193.39点でフリー4位、総合6位にとどまりました。
 フリーでは何と史上初となる6本の4回転にチャレンジしましたが、そのうち加点が付いたのは2本だけで、転倒も2本と完成度と出来栄えでは劣る内容となりました。ただ、今大会のチェン選手はスケート靴に問題を抱えていたということで、それがなかったらどうなっていたのかというのは気になるところですね。来季チェン選手が4回転を何本入れてくるのかはまだわかりませんが、個人的な要望としては、現在のチェン選手のフリーはほとんどの4回転を前半に跳び、体力がきつくなる終盤に全てのスピンを集めているというかなり偏った構成になっているので、4回転5、6本というのはもちろん素晴らしいのですが、せっかくチェン選手にはバレエで鍛えた美しい身のこなしやフットワークの巧さもあるので、そちらもより活かされたプログラムになることを来季は期待したいですね。



 さて、この記事はここで一旦終了とし、後編に続けます。お手数をおかけしますが、続きは後編でお読みください。


:男子メダリスト3選手のスリーショット写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、羽生選手の写真、金選手の写真、フェルナンデス選手の写真、チャン選手の写真、チェン選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、宇野選手の写真はAFPBB Newsが2017年4月2日の8:55に配信した記事「羽生がFS歴代最高得点で逆転優勝、宇野は銀 世界フィギュア」から引用させていただきました。

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# by hitsujigusa | 2017-04-05 23:49 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)