ひらがな暦 三六六日の絵ことば歳時記


【歳時記】
①中国や日本で,一年中の行事やおりおりの風物などを,四季もしくは月順に列挙し解説を加えた書。「荊楚歳時記」「日本歳時記」など。
②俳諧で,季語を分類して解説や例句を示した書。俳諧歳時記。俳句歳時記。季寄せ。
(エキサイト辞書より)

この本はそんな歳時記を、おーなり由子さん風に綴ったもの。1日1ページ、季節の事柄や行事、食べ物などについて、数行の文章と素朴な挿し絵とともに記している。

たとえば7月21日はこう。

七月二十一日 夏やすみ

 夏休みのはじまりは、いつもうれしかった。
 時間がたっぷりあって、こわいぐらいで。
 ほんとうの夏がはじまったようで、うれしかった。
 そうして、七月はゆっくり時間が過ぎるのに、八月はあっという間。
 あれは、どうしてだったんだろう。
 夏休みのはじまりの日――。学校は、もうとっくに卒業してしまったけれど、夏の時間がたっぷりあることを思い出させてくれるから、今でもこの日は、わたしにとって特別な日。
(おーなり由子『ひらがな暦 三六六日の絵ことば歳時記』新潮社、2006年11月、235頁)

ほかにも……

三月二十七日 赤い桜並木

 ふくらみはじめた桜のつぼみは、かたい赤色で
 桜は咲く前から、うっすらとお化粧をはじめる。
 なんだか思春期の女の子の、つんと、とんがらせた唇みたい。
 そっけなく空見て。さびしそうで、ねむそうで。
 遠くから見ると、ぽやぽやとけむるような、赤。
 曇り空の下、つぼみの赤い桜並木。
(同書、109頁)


五月二十三日 キスの日

 グレープフルーツ色の月が でている夜。
 あまいかおりが 空じゅうにふくらんでいる。
 あまったるい夜が ぽたりぽたりと 街にふりそそぐ。
 ぽたり ぽたり ぽたり ぽたり
 街が、夜が、あまく あまく なっていく。
 恋人たちの キスのじかん。
(同書、171頁)


十一月七日 立冬

 「ふゆ」という言葉は、声に出して言う時、くちびるがふれあわないところが好き。
 「ふ、ゆ、」と、さむそうに、ちいさくつぶやいた言葉みたいで。
 「ふゆぅ」と、つめたい風がふいたみたいで。
 やわらかくて、空気がしんとする音。

 立冬。
 冬のはじまりです。今日から、立春の前日までが冬。
 日だまりにも冬の気配。北の国からは初雪の知らせ。
 大陸から、冬の渡り鳥たちもやってくる頃。
(同書、355頁)


お花見とか、梅雨とか、クリスマスとか、いかにも季節を感じる事柄だけじゃなくて、日々の暮らしの中にあるなにげない“季節”が、この本にはたくさん詰まっている。道端に咲く花だったり、こないだまでは見なかった虫だったり、空の色だったり、どんな日常のささいなもののなかにも季節は確かに息づいているのだということを、時には茶目っ気たっぷりに、時には詩情的に、おーなりさんは教えてくれる。

おーなりさんはあとがきでこう語っている。

 心が暗くなるようなニュースに、自分の生きている場所が、とても、いいものだとは思えない時、自分自身にも嫌気がさしてしまう時――。季節の変わり目の大風や、いつも通る道の植物に、わたしは何度も救われました。たくさん笑ったり喜んだりするために、この世界に生まれてきたのだと思いたいから、かなしみに敏感になりすぎないように、と、思う。そして、幸福に鈍感にならないように、と、心する――。(同書、414頁)

私自身、おーなりさん同様に感じることは日常茶飯事で、現実逃避したくなることも多々あるが、なんでもないことに救われることも少なからずある。この本は、そんな日常の幸福を発見するための手助けとなってくれる。
日々の生活に疲れている人にこそ、手に取ってほしい、そんな本です。


ひらがな暦 三六六日の絵ことば歳時記
おーなり 由子
新潮社
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# by hitsujigusa | 2013-07-21 00:57 | エッセイ・評論・その他 | Trackback | Comments(0)

庭の小道から―英国流ガーデニングのエッセンス


サブタイトルにあるように、イングリッシュガーデニングの四季、さまざなま知識やヒントを、精密な絵とともに教えてくれる絵本。庭の姿を通して、イギリス人のライフスタイルを垣間見ることができる。
もちろん実用的なガーデニングの方法も書かれているのだが、本格的なイングリッシュガーデニングなので日本ではなかなか真似できない。それよりは、絵本として絵をじっくり楽しむという感じ。実際、1992年に日本で出版された時は、『庭の小道から』だけでサブタイトルはなかった。が、2008年に新装版で再出版される際に上のようなサブタイトルが付き、ガーデニング本としての面が強調された。でも中身は全く変わっていないので、やっぱり絵本として楽しめる。

内容は章ごとにいろんな“庭”が描かれる。
「子どものころの庭」「鉢植えの庭」「野菜の庭」「ハーブの庭」「街にある庭」「バラの庭」「子どもたちの庭」「自然のままの庭」「夜の庭」「冬の庭」「庭づくりをする人たち」「風景の庭」「迷路の庭」「水の庭」「わたしの空想の庭」

作者のスーザン・ヒルはガーデナーなようで、絵本のそこかしこから彼女の庭への思い入れが読み取れる。絵本の冒頭で、庭への憧れの始まりを彼女はこう綴る。

 子どものころ、庭は、わたしにとってとても大きな存在でした。でも、いちばんよく覚えている庭は、現実のものより、むしろ想像の庭なのです。わたしは遊びの中で、ことに空想や夢の中で、それがどんな庭か、はっきりと描きだすことができました。中でも最初の大切な庭は『不思議の国のアリス』の庭です。(中略)
 ところがその庭をさがしに本の中に戻ってみると、実際には具体的な描写はほとんどなくて、すべてが誘いと暗示でしかないことに気づくのです。

“アリスが膝をついて廊下を見渡すと、見たこともないような美しい庭園が目に入りました。アリスは、どんなにか、その暗い廊下から出て、あの明るい花壇や涼しげな噴水の間をぶらつきたかったことでしょう”

 ほんのわずかな描写ですが、ここには庭に望むものすべてが、なにげなく暗示されています。今閉じこめられているうす暗い心の部屋の向こうのほうに、さんさんと輝く光があり、草木が育ち、水の流れる不思議な場所がかすかに見えます。そこは自由に歩きまわれる所で、まさに天国を表わしているようです。
(『庭の小道から―英国流ガーデニングのエッセンス―』西村書店、2008年3月、6頁)

庭への愛情にあふれたスーザン・ヒルの文章は想像力を喚起させるように映像的で、読者は読みながら頭の中にそれぞれの理想の庭を思い浮かべることができる。
その中でも、イギリスの匂い、空気みたいなものが手に取るように伝わってくる文章が特に印象深い。

 茂みの間やイボタの木の生け垣に沿って、もう少し歩いていってみましょう。夜気にかすかに動くものがあります。芝生のまん中に立つブナの大木の葉が風にそよいで、その影がゆらめいているのです。ブナの木の下で仰向けに横たわって、空を見上げてごらんなさい。密集した黒い葉のほかは何も見えません。ただ葉がそっと揺れるたびに、星のまたたきがチカチカと目に入り、月の光が斜めにさしこんでくるだけです。そして、ふたたび静寂。闇と無。(同書、68頁)

 春になると、鳥が庭の深緑の奥に巣をつくります。夏は1日中飛びまわり、夜おそくまで飛びつづけます。鳥などはありふれたものですが、もし手なずけたいなら、冬にココナッツかナッツをつるし、水を飲んだり水浴びしたりできるように、池やかいばおけの氷を割っておきます。鳥たちはうれしそうに近づいてきて、窓の張り出しのあたりをうろつき、テラスや壁、芝生でとびはねるでしょう。(同書、73頁)

日本にはない、イギリス特有の風情が感じられる。

その雰囲気をより鮮明に伝えるのが、アンジェラ・バレットの美しい絵。精密ではあるが、写実的過ぎない。

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そのままを写し取る写真ではなく、より理想的に描ける絵だからこそ、庭の美しさ、魅力が表れている。

さわやかな気分に浸れる庭絵本。じっとりと暑い今の季節に、ぜひ。


【ブログ内関連記事】
ターシャ・テューダー『ターシャの庭』―生命の庭 2014年6月16日


庭の小道から―英国流ガーデニングのエッセンス
スーザン ヒル
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# by hitsujigusa | 2013-07-17 18:07 | 絵本 | Trackback | Comments(0)

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※7月12日、高橋選手のプログラムについて追記しました。

7月11日、高橋大輔選手が大阪国際空港での記者会見で、今シーズンのプログラムを発表しました。ショートプログラムは佐村河内守さん作曲の「ヴァイオリンのためのソナチネ」、フリーは「ビートルズメドレー」だそうです。

◇◇◇◇◇

高橋、フリーはビートルズ=自然体で五輪シーズンへ-フィギュア

 フィギュアスケート男子の高橋大輔(27)=関大大学院=が11日、北米合宿への出発前に大阪国際空港で記者会見し、2014年ソチ五輪のシーズンで使う曲目などを明らかにした。フリーはビートルズのメドレーで、振り付けはローリー・ニコル氏に初めて依頼。ショートプログラム(SP)は佐村河内守氏作曲の「ヴァイオリンのためのソナチネ」で宮本賢二氏が振り付けを担当する。
 フリーのビートルズは「イエスタデイ」「カム・トゥゲザー」など5曲。振付師に浅田真央(中京大)らを担当したニコル氏を選んだ理由について、高橋は「自分が現役でいる間にやってもらいたい一人だった。素晴らしい才能の持ち主」と語った。支えてくれた人々への感謝の気持ちを演技に込めるという。
 今季限りでの引退を表明している高橋は「今は熱くなく、すごく落ち着いている」。自然体で3度目の五輪を目指す。
 合宿では米国でニコライ・モロゾフ・コーチと練習した後、カナダでニコル氏と会う予定。8月上旬からは北海道で合宿し、10月のジャパン・オープンが今季初戦となる。

時事通信 2013年7月11日 17:35

◇◇◇◇◇

フリーについてはまさかポピュラー音楽と思わなかったので、ちょっとびっくりしました。ですが、高橋選手はこれまでもヒップホップ版「白鳥の湖」やオルタナティブな雰囲気の「イン・ザ・ガーデン・オブ・ソウルズ」、ブルースの「ブルース・フォー・クルック」など、ジャンルにとらわれず常に新しい音楽表現をしてきました。なので、今回の「ビートルズメドレー」も高橋選手らしいと言えばらしいですね。
ビートルズの音楽を使ったプログラムと言えば、昨シーズンのリード兄弟のフリーが強く印象に残っています。こちらはアルバム『アビー・ロード』の中の連続した3曲をそのままの流れで使っていました。
一方、高橋選手のプログラムはもちろんボーカルなしで、「イエスタデイ」「カム・トゥゲザー」などを使うと書かれているので、ビートルズの数ある曲の中でも結構いろんなものをとりあわせたものになるのでしょうか。そして振り付けはローリー・二コルさんということで、今まで組んだことのない振付師の作品を滑るというのは勇気が要りそうな感じがするのですが、また違った高橋選手の表情・姿が見られるかもしれません。
高橋選手はこのフリーについて、「最高のものになる」とも語っていて、初お披露目はジャパン・オープンになるでしょうが、その時が楽しみですね。
SPは佐村河内守さんの「ヴァイオリンのためのソナチネ」、振り付けは宮本賢二さん。佐村河内さんの曲がフィギュアで使用されるのは初めてと思いますが、どんなふうに表現されるのか、想像がつかなくて楽しみです。

以下、追記部分です。

また新たな情報が入ってきましたので、もう少し高橋選手のプログラムについて追記します。
フリーのビートルズメドレーは「イエスタデイ」で始まり、その中には「イン・マイ・ライフ」も含まれるそうです。このプログラムについて高橋選手は、「テーマは愛。今まで関わってきた人、応援してくれた人たちに、ありがとうの気持ちを込めて滑りたい」と語っています。
SPに関しては、「純クラシックではなく、どこかに新しさが欲しかった」そうで、候補の中から「びびっときた」と自分で選んだのだとか。さらに、「見どころはあるけれど、その先に希望があるような感じ」ともおっしゃっています。


さて、他選手のプログラム情報に行きます。

アメリカのアグネス・ザワツキ-、アリッサ・シズニー、グレイシー・ゴールドの3選手は、それぞれ「icenetwork.com」の取材で今シーズンのプログラムについて明かしています。
ザワツキ-選手はSPが昨季と同じ『セックス・アンド・ザ・シティ2』のサントラを使用したもの、フリーは「ラ・クンパルシータ」「ジェラシー」のタンゴメドレーになるそうです。
シズニ-選手はフリーを昨季から引き続き「風と共に去りぬ」にするそうです。シズニ-選手は12/13シーズン全くと言っていいほど試合に出場できていないので、同じプログラムと言ってもほとんど新プログラムみたいなものですね。ケガからも順調に回復しているようなので、またあの繊細で美しい演技を見せてほしいです。
そして、ゴールド選手はSPはまだ発表していませんが、フリーはバレエ「眠れる森の美女」だそうです。エレガントさが持ち味のスケーターなのでぴったりだなあという感じがします。しかもロシア開催の五輪ですしね。

まだまだ新プログラムを発表していない選手は多くいますので、またわかり次第、まとめて書いていこうかなと思います。


:記事冒頭の高橋大輔選手の写真は、時事通信が7月11日17:35に配信した記事「高橋、フリーはビートルズ=自然体で五輪シーズンへ-フィギュア」から引用させていただきました。また、追記部分の高橋選手の言葉は、2013年7月12日付北陸中日新聞朝刊からの引用です。

【参考リンク】
icenetwork.com:Zawadzki zaps her demons for Olympic season アグネス・ザワツキー選手の新プログラムについての記述があります。
icenetwork.com:Czisny preparing for one last run at Olympic glory アリッサ・シズニー選手の現在、今後についてインタビューした記事です。
icenetwork.com:The Inside Edge: AAC gala brings out glamour グレイシー・ゴールド選手の新フリープログラムについての記述が記事冒頭にあります。

【ブログ内関連記事】
浅田真央選手、五輪シーズンのプログラム発表
鈴木明子選手、今シーズンのプログラム発表&各選手の新プログラムについて
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# by hitsujigusa | 2013-07-12 01:16 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)