SF小説・私的10撰

夏への扉[新訳版]



 秋に読みたい絵本・私的10撰に続いて、SF小説の私的なベスト10をご紹介します。
 なぜ唐突にSF小説なのかと申しますと、10月4日から10月10日というのが世界宇宙週間だからなんですね。世界宇宙週間というのは、ソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた1957年10月4日から、宇宙条約ができた1967年10月10日までの1週間を記念して制定された国際週間です。(fromウィキペディア)それに便乗して当ブログでも宇宙関連の記事を、と思い立ったわけです。

 ということで、私的なSF小説10撰について、長々と書いていきたいと思います。なお、ランキングではありません。
 また、最初に断わっておかなければならないのですが、私はSF好きではあるのですが専門的・難解・高度なSF小説はあまり得意ではありません。なのでこれから挙げる10冊も易しめな10冊、初心者向きの10冊と言えると思います。さらに、ファンタジー好きでもあるのでファンタジーっぽいSFもけっこう含まれてます。
 あんまりSF読んだことないけど読んでみたいな~という方におすすめしたい10冊となっていますので、その点はご留意ください。

 まずはSFといったらすぐに名前が挙がるであろう3作。


火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)

【あらすじ】
 地球から火星にやってきた探検隊は火星人たちと出会う。しかし、火星人たちは地球から来たと言う探検隊の言葉に取り合わず、事態は思わぬ方向へ――。そんな困難を乗り越え地球人たちはどんどん火星に移住。一方、火星人たちは追い込まれていき――。

【収録作】
「2030年1月 ロケットの夏」
「2030年2月 イラ」
「2030年8月 夏の夜」
「2030年8月 地球の人々」
「2031年3月 納税者」
「2031年4月 第三探検隊」
「2032年6月 月は今でも明るいが」
「2032年8月 移住者たち」
「2032年12月 緑の朝」
「2033年2月 いなご」
「2033年8月 夜の邂逅」
「2033年10月 岸」
「2033年11月 火の玉」
「2034年2月 とかくするうちに」
「2034年4月 音楽家たち」
「2034年5月 荒野」
「2035-36年 名前をつける」
「2036年4月 第二のアッシャー邸」
「2036年8月 年老いた人たち」
「2036年9月 火星の人」
「2036年11月 鞄店」
「2036年11月 オフ・シーズン」
「2036年11月 地球を見守る人たち」
「2036年12月 沈黙の町」
「2037年4月 長の年月」
「2037年8月 優しく雨ぞ降りしきる」
「2037年10月 百万年ピクニック」


 SF界の巨星、2012年に亡くなったレイ・ブラッドベリの代表作『火星年代記』。火星を舞台に、移住してきた地球人たち、元々住んでいた火星人たちなど、さまざまな人々が織りなす人間模様をオムニバス形式で描いた長編です。
 上に示したように年代順に火星での出来事が綴られていって、まさに“年代記”。火星というひとつの星の変遷が、時におもしろおかしく、時にホラー、時にファンタジックに、時にヒューマニスティックに描かれます。
 長編といっても連作形式、その上1話1話違った雰囲気なので読みやすいと思います。27篇もあるので、人によってどの話が好きとか特に印象に残ったとか結構違ってくるでしょうね。ちなみに私は、「地球の人々」「月は今でも明るいが」「火の玉」「長の年月」が印象的でした。
 ところで、この本の初版は1950年なのですが、その時は「1999年1月 ロケットの夏」というように、現在の版より31年前の設定でした。現在の版は1997年に出たもので、年月の経過に合わせて31年未来にしたわけですね。最近でも2030年代の火星旅行の実現を目指すというニュースがありました。まさに“火星年代記”的に世界は進んでいるようです。そう考えると今から60年以上前にこれを書いたブラッドベリさんはすごいなーと改めて思います。



夏への扉[新訳版]

夏への扉[新訳版]

【あらすじ】
 1970年、ロサンゼルス。発明家のダンは親友マイルズと会社を興し成功、秘書のベルとも良い関係でなにもかもがうまくいっていた。ところが会社の経営を巡ってダンはマイルズと対立、マイルズを裏で操るベルの画策もあって会社を追い出されショックを受けたダンは、コールド・スリープで30年間の眠りにつこうとするが――。

 こちらもSF界を代表する作家の一人であるロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』。いわゆるタイムトラベルものですね。
 ロボットとかコールド・スリープとかSFらしいアイテムは出てきますが、そこまで難しいものではないので初心者向きのSFと言えるでしょう。何より、キャラクターの個性、プロットのおもしろさ、ストーリー展開など、読んでいて明快なのが良いですね。タイムトラベルによる矛盾―タイム・パラドックス―というテーマはSFの大定番ですが、それを実にわかりやすく扱っていますし、時間移動することによってどんな変化が起こるか、どのように未来に手を加えるかなど、ミステリーめいた工夫もあって読みごたえがあります。
 ところで、書影では新訳版を挙げましたが、これは私が読んだのがこのバージョンだったからで、旧訳の文庫もあるのでこれは好みかと思います。



アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

【あらすじ】
 主人公チャーリイ・ゴードンは知的障害があり、実年齢は32歳だが知能は6歳並みだった。そんなある日、チャーリイは知己の大学教授から知能レベルを上げる脳手術を受けることを勧められる。すでにその手術を受けたハツカネズミのアルジャーノンはチャーリイとの迷路実験でチャーリイに勝利する。それを見たチャーリイは手術することを決め、そして無事手術は成功するのだが――。

 ダニエル・キイスさんの名作『アルジャーノンに花束を』。日本でもテレビドラマ化されていたのでSFを普段読まない人にも知られている(であろう)SFです。
 SFというとまさに『火星年代記』や『夏への扉』のような、宇宙とかタイムトラベルというのが思い付きますが、この作品は知的障害を持つ人の知能レベルを手術によって向上させるという医学的なSFです。しかし軸となるのは、手術の方法とか効果とかそういったサイエンティフィックなことよりも、人間の幸せとは何かという心の在り方に迫ったドラマとなっています。
 手術で知能レベルを上げるということ自体は私たちには無縁のことですが、知能レベルが上がることで物事を理論的に理解できるようになり、さまざまな知識を得ることができるようになる一方、自分と他者を比較して優越を感じたり、人の嫌な部分が目についたりしてしまうチャーリイの姿は、大人になることで理知的になり物質的にも豊かになる一方、子ども時代の純粋さを失ってしまう世間の大人たちの姿と重なります。そういった意味でも、共感し考えさせられることの多いSFと言えると思います。
 一作家一冊という前提で『アルジャーノン』を挙げましたが、ダニエル・キイスさんでは『タッチ』という作品もおすすめです。これは放射能汚染を題材にした作品なので、現代の日本人にとっては非常にリアルで他人事じゃない生々しさのあるSFですね。


 ここまでアメリカのSF作家の作品を列挙しましたが、続いてもアメリカの作家です。


なつかしく謎めいて (Modern & classic)

なつかしく謎めいて (Modern & classic)

【あらすじ】
 語り手「私」は、次元間移動を用いてさまざまな世界を旅した。あるところには植物まじり、動物まじりの人間がおり、あるところには夢を財産として共有する人々がおり、あるところには翼を持つ人間がいる。「私」はそんな人々と出会い、触れ合い、交流するが――。

【収録作】
「シータ・ドゥリープ式次元間移動法」
「玉蜀黍の髪の女」
「アソヌの沈黙」
「その人たちもここにいる」
「ヴェクシの怒り」
「渡りをする人々」
「夜を通る道」
「ヘーニャの王族たち」
「四つの悲惨な物語」
「グレート・ジョイ」
「眠らない島」
「海星のような言語」
「謎の建築物」
「翼人間の選択」
「不死の人の島」
「しっちゃかめっちゃか」


 アメリカを代表する女流SF作家、アーシュラ・K・ル=グウィンさんの連作短編集『なつかしく謎めいて』。これは語り手の「私」が次元の異なる世界を訪れて、その様子を日記のように書き留めたという設定となっています。ですので各話ごとに全く違う世界が描かれており、旅行記といった感じの小説です。
 ル=グウィンさんはSF作家ではありますが、スタジオジブリで映画化された『ゲド戦記』などファンタジーも多く書かれており、ファンタジー作家としての色も濃いです。SFの方にもその色は表れていて、ファンタジック・抒情的な雰囲気が特徴的です。この作品も次元間移動などSFらしいモチーフはいくつか登場しますが、全体にファンタジックな面が強いですね。また、社会の中で個々の人間はどう生きるべきかという、社会学や多様性にも関連する内容となっています。
 でも最も特徴的なのは、民族や文化の描き方でしょうか。ル=グウィンさんの父は著名な文化人類学者、母も文化人類学に造詣のある方で、ル=グウィンさん自身も文化人類学に相当詳しいようです。『なつかしく謎めいて』はその知識が存分に生かされていて、各民族・種族の文化や習俗、歴史など、本当にリアルに実在しているかのように描かれています。単なる空想ではなく、しっかりと地に足のついた、土のにおい、風のにおいがするような“風土”を描いているという感じがしますね。


 ここまでは海外のSF作家でしたが、ここからは日本の作家です。


旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

【あらすじ】
 謎の男ラゴスは、超能力が存在する世界を旅する。超能力をパワーとした集団転移をしたり、壁を抜ける不思議な男と出会ったり、奴隷になったり、さまざまな苦難を経験しながらもラゴスは旅することをやめない。ラゴスは何を求め、何を目的に旅をしているのか――。

【収録作】
「集団転移」
「解放された男」
「顔」
「壁抜け芸人」
「たまご道」
「銀鉱」
「着地点」
「王国への道」
「赤い蝶」
「顎」
「奴隷商人」
「氷の女王」


 日本を代表するSF作家筒井康隆さんの長編、というか連作短編集『旅のラゴス』。ある異世界を主人公ラゴスが旅し、見たもの出会ったもの経験したことが描かれます。その点では『なつかしく謎めいて』に似たところもありますが、こちらの方がより長編としての繋がりが強いですね。
 筒井康隆さんといえば、『時をかける少女』みたいなジュブナイルSFや、ナンセンス小説のイメージがありますが、それらとは全く違う雰囲気のファンタジーっぽい壮大なSFです。とはいえ、中にはナンセンス風味の話もあるんですが。
 超能力のある世界と書きましたが、近未来的なイメージではありません。中央アジアとか中東のような風情で、どちらかというと退廃的な雰囲気の世界です。なのでSFっぽくないんですが、集団が精神を集中させて転移先を強く思い描くことで同化して集団転移、つまりテレポーテーションするみたいなSFらしさもありおもしろいです。一篇一篇が独立して読めるのですが、全体を通して読むことでロードムービーを見ているような感覚になります。


音楽の在りて

音楽の在りて

【収録作】
「ヘルマロッド殺し」
「子供の時間」
「おもちゃ箱」
「クレパス」
「プロメテにて」
「音楽の在りて」
「闇夜に声がする」
「マンガ原人」
「CMをどうぞ」
「憑かれた男」
「守人たち」
「美しき神の伝え」
「左利きのイザン」


 日本漫画界を代表する少女漫画家、萩尾望都さんの短編集『音楽の在りて』。作者は漫画家さんではありますがもちろん小説です。
 萩尾望都さんは少女漫画界の巨星、男子校を舞台にした『トーマの心臓』のような人間ドラマ、不死のバンパイアを描いた『ポーの一族』のようなファンタジーなど多彩ですが、SF漫画でも有名です。『11人いる!』『A-A´』のようなオリジナルを始め、レイ・ブラッドベリや光瀬龍さんの小説を漫画化したものなど、SF作品を多く発表しています。そんな萩尾さんが書いたSF小説が収められたのがこの『音楽の在りて』です。
 内容的にはそれぞれ独立した短編集ですが、古代の遺跡や仏像など、古いものと近未来的なものをうまくミックスさせたロマンティックさが特徴的です。クローンや宇宙船といった、一見すると非常に科学的で無機質な感じのするモチーフを扱っていても、情緒のある独特の雰囲気が作品に漂っています。
 ちなみに、SF小説だけが収録されているわけではなく、エッセイ風のものもありますし、最後に収められている「左利きのイザン」は、最初に入っている「ヘルマロッド殺し」と対をなすSF漫画です。SF作家としての萩尾望都さんの魅力が詰まった一冊です。



おもいでエマノン (徳間デュアル文庫)

おもいでエマノン (徳間デュアル文庫)

【あらすじ】
 長い髪にすらっとした身体、彫りの深い顔立ちとそこに浮かぶそばかすの美少女。“NO NAME”の逆さ綴り、エマノンと名乗る不思議な少女は一見すると普通の女の子。しかし彼女には、地球に生命が誕生してから現在までの全ての記憶があった――。

【収録作】
「おもいでエマノン」
「さかしまエングラム」
「ゆきずりアムネジア」
「とまどいマクトゥーヴ」
「うらぎりガリオン」
「たそがれコンタクト」
「しおかぜエヴォリューション」
「あしびきデイドリーム」


 SF作家、梶尾真治さんの連作短編集『おもいでエマノン』。“エマノンシリーズ”の第1作目で、その後『さすらいエマノン』『かりそめエマノン』『まろうどエマノン』『ゆきずりエマノン』と続きます。どれも良いのですが、初めて読んだ時の衝撃度という意味で『おもいでエマノン』を挙げました。
 内容としては、地球に生命が誕生して以降の記憶を持つ謎の少女エマノンが、キーマンとしていろんな場所に現れるという連作です。30億年分の記憶を持っている少女という設定がまず驚かされるところですが、エマノンは別に不死というわけじゃなく、彼女の娘から娘(顔は同じ)へと記憶が受け継がれていくんですね。それによって、ある出来事の目撃者となってそれを千年後に伝えたり、生態系のシステムに関わったり、全ての地球生命体の代表者のような役割を担うわけです。
 こう書くとどんな壮大な話かと思われそうですが、(壮大は壮大なのですが)あくまでエマノンというひとりの人間をフィーチャーすることで、ぐっと自分の隣に話が引き寄せられるというか、現実味のある物語にしています。SFというのはともすれば荒唐無稽になってしまいますが、もしかしたら自分もエマノンに会っているんじゃないかと思わせるようなエマノンの存在感によって、このシリーズは絶妙なリアリティを獲得しています。



蒲生邸事件 (文春文庫)

蒲生邸事件 (文春文庫)

【あらすじ】
 主人公尾崎孝史は予備校受験のため東京にやってくる。しかし、宿泊していたホテルで火事が発生、危ないところを同じホテルに泊まっていた謎の男、平田に助けられる。が、九死に一生を得た孝史がいたのはホテルの外ではなく、二・二六事件の只中の東京。孝史はタイムスリップしていたのだった――。


 ミステリー、時代小説と多彩な才能を見せる宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』。タイムトラベルものなのでSFはSFですが、明治を舞台にした時代小説でもあり、謎解きのあるミステリーでもあります。
 時間移動することで過去を変えてしまうかもしれない、歴史に手を加えてしまうかもしれないというテーマはSFの王道です。が、本来ミステリーを得意としている宮部さんだけあって、タイムトラベルで起こる問題を描くSF面と過去で発生した事件を解決するというミステリー面をうまく融合させ、さらにヒューマンドラマとしても読みごたえたっぷりです。
 余談ですが、タイムトラベルと二・ニ六事件という点で共通している小説として、恩田陸さんの『ねじの回転』というのがあります。こちらはまた違った角度からタイムトラベル、二・ニ六事件を描いているので、併せて読むとおもしろいと思います。



新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

【あらすじ】
 科学文明が失われた1000年後の日本。超能力を得た人間は平和に暮らしていた。神栖66町に住む12歳の少女、渡辺早季もまた、平凡ながら幸せに暮らしていた。ある日、同級生たちとともに町の外に出た早季は、謎の生物“ミノシロモドキ”を発見する。国立国会図書館つくば館の自律・自走型端末機であるというミノシロモドキによって、先史文明が崩壊した理由、現在の社会が構築された経緯など、早季たちは禁断の情報を知ってしまい――。


 貴志祐介さんの長編『新世界より』。1000年後の未来を描いたSFです。
 未来を舞台にしたSFというのは数多ありますし、科学文明が失われてしまった世界というのもよくありますが、そんな中でもこの小説の世界観というのは一種独特なもののように思えます。それを最も印象強く決定づけるのが“バケネズミ”の存在です。バケネズミはハダカデバネズミから進化したとされ、身体は人間の子ども並み、固有の言語を持ち、人間の支配下に置かれた生物です。しかし賢い者は人間の言葉を話すこともでき、知能も人間とさほど変わらない者として描かれています。見た目は毛のないネズミ、しかし人間ほどのサイズで言葉も話すというこの存在感が、ある種の気持ち悪さ、違和感を生み出しています。バケネズミのことだけではなく、ネコダマシ、ミノシロなどの奇妙な生物、1000年後の未来とは思えない人々の生活、原始的なにおいのする“呪力”と呼ばれる超能力……、未来という設定と未来らしからぬ世界観が相まって、読んでいても落ち着かない怖さ、ぬるっとした不気味さを感じる小説です。



図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

【あらすじ】
 公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる「メディア良化法」が存在する2019年。不適切な本の取り締まりのためには武力も辞さない「メディア良化隊」と、本と利用者の自由のために自ら武装した図書館組織「図書隊」は、長く抗争を繰り広げていた。そんな中、自分を助けてくれた図書隊員に憧れて図書隊に入隊した主人公笠原郁は、精鋭部隊といわれる図書特殊部隊配属となるが……。


 最後は有川浩さんの近未来SF『図書館戦争』、こちらもシリーズですね。映画化もされているので知っている方は多いと思いますし、当ブログでもすでに『図書館戦争』関連の記事を2つも書きましたので、改めてここで書くこともないですね。以下にリンクを張っておきますので、そちらを読んでいただけると幸いです。



 ということで、以上がSF小説・私的10撰となります。1年に1度の世界宇宙週間、この機会にSF小説を手に取ってみてはいかがでしょうか。


【ブログ内関連記事】
有川浩『図書館戦争』―現実の延長としての“図書館戦争” 2013年5月17日
有川浩『図書館革命』―2013年の“図書館革命” 2013年6月22日
夏に読みたい小説・私的10撰 2014年7月8日  ロバート・A・ハインライン『夏への扉』を記事内で取り上げています。
冒険を描いた小説・私的10撰 2015年8月29日  筒井康隆『旅のラゴス』を記事内で取り上げています。
萩尾望都『A‐A´』―ノスタルジックな宇宙の風景 2015年9月12日
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# by hitsujigusa | 2013-10-06 03:42 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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さて、新プログラム続報シリーズ第7弾ですが、9月も下旬、いよいよ10月ということで、このシリーズは今回で終わりにしようと思います。記事の最後には、このシリーズで言及した13/14シーズンのプログラムをまとめたものを付けますので、ご参考になさって下さい。

まずは、ネーベルホルン杯に出場した安藤美姫選手です。プログラム発表というよりは大会で披露して判明したという感じですが。
SPは「マイ・ウェイ」、フリーは「火の鳥」です。
「マイ・ウェイ」は“わたしの道”ということで、まさに集大成としてふさわしいプログラムだと思います。ネーベルホルン杯での演技を拝見しましたが、ボーカルの入った穏やかな音楽で、今の安藤選手によく合っているなと感じました。
そしてフリーは「火の鳥」。「火の鳥」は安藤選手が初めて世界選手権に出場した03/04シーズンのフリー使用曲です。この音楽で4回転サルコウをぴょんぴょん跳んでいたのが私は強烈に印象に残っているのですが、壮大で情熱的な“火の鳥”のイメージが安藤選手に重なっていて良い選曲ですね。
ネーベルホルン杯では2位、162.86点ということで、良い時と比べればまだまだですが、こうして試合に出場して滑り切ったということが何よりも素晴らしい第一歩だと思います。SPのトリプルルッツ、トリプルループは本来の安藤選手のジャンプに近い見事なものでした。スピンはポジションがシンプルだったり流れたりしていてレベル2~3ばかりでしたが、これからより本来の形に戻っていくでしょう。
何はともあれ、SP、フリーともに、ソチ五輪出場のための最低技術点をクリアし、第一歩を踏み出した安藤選手のこれからがますます楽しみです。


続いて、同じくネーベルホルン杯に出場の織田信成選手。

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フリーとエキシビションについては当ブログでも書いたのですが、SPはまだでした。
SPは「コットン・クラブ」、映画のサントラですね。振り付けはローリー・二コルさんだそうです。確かSPはデヴィッド・ウィルソンさんにお願いしたと言っていたような……。ちょっと謎です。
プログラムはジャズ系ですかね。“コットン・クラブ”自体がジャズで有名なナイトクラブですし。演技はまだ見ていないのですが、織田選手らしい明るい軽快な音楽のようですね。
織田選手は8月にソーンヒルサマースケート、そして今回のネーベルホルン杯とすでに2大会に出場していますが、それぞれ手応えを得た演技内容と言えそうです。
今まで日本フィギュア界を引っ張ってきた選手たちが引退を表明する中、織田選手も今シーズン限りで引退。寂しいですが、織田選手の最後のシーズンが完全燃焼で終わるよう祈っています。


さて、ここからは海外選手5人です。


昨シーズン、大ブレイクを果たしたケヴィン・レイノルズ選手。
SPはAC/DCの「バック・イン・ブラック」「サンダーストラック」、フリーは『Excelsius』より「Excerpts」だそうです。
レイノルズ選手はこれまでのプログラムを見ても、あまり定番曲、メジャーな曲を用いず、マニアックな選曲をしています。その中で自分の世界を作っていて、昨季のフリーはそれが見事に結実した形となりました。
今季のプログラムも有名な楽曲ではありませんが、レイノルズ選手特有の世界を見せてくれるのではないかと期待しています。


昨季の欧州選手権銀メダリスト、フローラン・アモディオ選手はSPがステファン・ランビエールさん振り付けの「ラ・クンパルシータ」、フリーは「マック・ザ・ナイフ」「ラ・ヴィ・アン・ローズ」、フランスのDJグループC2Cの楽曲を使用するようです。
ところで、この夏アモディオ選手はニコライ・モロゾフコーチとの師弟関係を解消し、練習拠点を母国フランスに変更しました。新たなコーチは、ブライアン・ジュベール選手やマエ=ベレニス・メイテ選手などフランスのトップスケーターたちを指導するカティア・クリエコーチ、そして以前浅田真央選手のアシスタントコーチをしていたシャネッタ・フォレコーチとなりました。
3シーズンに渡ってモロゾフコーチに師事してきたアモディオ選手ですが、いまいち殻を破れていない、本当の意味でのブレイクが出来ていないという印象を持っていました。ですので、この決断は良い判断だと思います。モロゾフコーチ自体がここ2、3年は落ち目と言ったらあれですが、かつての輝きを失っているように思えるので。
五輪シーズンのコーチ変更はリスクもあるでしょうが、母国に戻ることで良い効果も得られそうですね。また、振り付け師も変わりますから、今までとは違ったアモディオ選手が見られるかもしれません。

同じくフランスのブライアン・ジュベール選手。
SPのみになりますが、ピアソラの「オブリビオン」「五重奏のためのコンチェルト」だということです。ジュベール選手のタンゴというのはなかなかないので、どういう感じなのかわかりませんが楽しみですね。
ジュベール選手も今年で29歳、今季で引退ということになるでしょうが、織田選手同様、満足のいく終わり方をしてほしいなと思います。


そしてグルジアのエレーネ・ゲデヴァニシヴィリ選手もネーベルホルン杯に出場し、新プログラムを披露しています。
SPはロシア映画『吹雪』より「ロマンス」、フリーはバレエ『ジゼル』です。
ゲデヴァニシヴィリ選手は今シーズン、これまで師事していたブライアン・オーサーコーチから、コンスタンティン・コスティンコーチ、エドゥアール・プリナーコーチにコーチを変更、練習拠点もカナダからアメリカに移っています。理由としては、より家族に近いところに住みたかったからだそうです。
昨季は欧州選手権で14位、世界選手権はSP29位で初めてフリー進出を逃しました。成績の上で良い結果が出なかったことも、コーチ変更の理由のひとつにはなっているんじゃないかと想像します。
ネーベルホルン杯では総合6位、144.80点でした。採点表を見る限り、複数ミスをしてしまったようで彼女本来の出来ではなかったみたいですね。ですが6位という成績によって、グルジアの女子シングル五輪出場枠を獲得しています。ゲデヴァニシヴィリ選手が五輪後、どういった道に進むのかは分かりませんが、彼女らしい演技ができることを願っています。


最後に、同じくネーベルホルン杯に出場し、見事シニアの国際大会初優勝を飾ったロシアのエレーナ・ラディオノワ選手。
SPは映画『アンナ・カレーニナ』、フリーは映画『フリーダ』です。
ネーベルホルンでは総合188・21点で優勝し、演技内容もほぼミスのないもの、上々のシニアデビューとなりました。まだ14歳のラディオノワ選手、さすがに若いだけあってポンポン跳びまくりますね。浅田真央選手にしても、同じロシアのソトニコワ選手やトゥクタミシェワ選手にしてもかつてはそうでした。表現力やスケーティング技術に未熟さがあるとはいえ、この勢いで来られるとベテラン選手にとっても強敵となりそうです。浅田選手もトリノ五輪に出場できていたら優勝してたんじゃないかと言われるくらいですからね。若さというのは侮れません。
GPシリーズ、ラディオノワ選手はアメリカ大会と日本大会にエントリー、浅田選手との競演となります。いろんな意味で楽しみですね。


ということで、このシリーズは以上となります。ここまでお付き合い下さってありがとうございました。10月5日にはジャパンオープンもありますし、それ以降もちょこちょこ試合内容や各選手の演技について書いていくつもりですので、お暇な時にぜひのぞいてみて下さい。

では最後に、新プログラム続報シリーズで紹介した各選手のプログラムの一覧を掲載いたします。なお、エキシビションは一人の選手で複数ある場合もありますので除外させていただきます。(敬称略)


≪日本≫
浅田真央:SP「ノクターン第2番」ショパン フリー「ピアノ協奏曲第2番」ラフマニノフ
高橋大輔:SP「バイオリンのためのソナチネ」佐村河内守 フリー「ビートルズ・メドレー」
安藤美姫:SP「マイ・ウェイ」 フリー「火の鳥」
鈴木明子:SP「愛の讃歌」 フリー「オペラ座の怪人」
小塚崇彦:SP「アンスクエアダンス」 フリー「序奏とロンド・カプリチオーソ」
羽生結弦:SP「パリの散歩道」 フリー「ロミオとジュリエット」ニーノ・ロータ
織田信成:SP「コットン・クラブ」 フリー「ウィリアム・テル序曲」
村上佳菜子:SP「スイング・メドレー」 フリー「愛のイエントル」
町田樹:フリー「火の鳥」
無良崇人:SP「ジャンピン・ジャック」
宮原知子:フリー「ポエタ」
キャシー・リード、クリス・リード組:SP「踊るリッツの夜」 フリー「Shogun」
高橋成美、木原龍一組:SP「サムソンとデリラ」 フリー「レ・ミゼラブル」

≪アメリカ≫
エヴァン・ライサチェク:SP「ブラック・スワン」 フリー「ドン・キホーテ」レオン・ミンクス
アシュリー・ワグナー:SP「クレイジー・ダイアモンド」ピンク・フロイド フリー「ロメオとジュリエット」プロコフィエフ
ジェレミー・アボット:SP「Let Yourself Go」 フリー「エクソジェネシス交響曲第3部」
アリッサ・シズニー:SP「コンソレーション第3曲」リスト フリー「風と共に去りぬ」
マックス・アーロン:SP「ある恋の物語」 フリー「カルメン」
グレイシー・ゴールド:SP「3つの前奏曲」ガーシュウィン フリー「眠れる森の美女」チャイコフスキー
長洲未来:SP「The Man I Love」ガーシュウィン フリー「ジェームズ・ボンド」
アグネス・ザワツキー:SP「セックス・アンド・ザ・シティ2」 フリー「ラ・クンパルシータ/ジェラシー」
アダム・リッポン:SP「カルメン組曲」 フリー「牧神の午後への前奏曲」
ロス・マイナー:SP「追憶」 フリー「ボストン・ストロング」
クリスティーナ・ガオ:SP「Close Without Touching」 フリー「天使と悪魔」
ジョシュア・ファリス:SP「リベルタンゴ」 フリー「シンドラーのリスト」

≪カナダ≫
パトリック・チャン:SP「エレジー」ラフマニノフ フリー「四季」ヴィヴァルディ
ケヴィン・レイノルズ:SP「バック・イン・ブラック/サンダーストラック」AC/DC フリー「Excerpts『Excelsius』より」
ケイトリン・オズモンド:SP「スイート・チャリティー」 フリー「クレオパトラ」

≪ロシア≫
エフゲニー・プルシェンコ:SP「Taka jak ty」オケアン・エリズィ フリー「ゴッドファーザー/アルビノーニのアダージョ/トスカ/タンゴ・アモーレ」
アルトゥール・ガチンスキー:SP「フラメンコ」 フリー「アンナ・カレーニナ」
アデリーナ・ソトニコワ:SP「カルメン」 フリー「序奏とロンド・カプリチオーソ」
エレーナ・ラディオノワ:SP「アンナ・カレーニナ」 フリー「フリーダ」
アリョーナ・レオノワ:SP「オブリビオン/Mr.&Mrs.スミス」 フリー「カルメン」

≪フランス≫
ブライアン・ジュベール:SP「オブリビオン/五重奏のためのコンチェルト」ピアソラ
フローラン・アモディオ:SP「ラ・クンパルシータ」 フリー「マック・ザ・ナイフ/ラ・ヴィ・アン・ローズ/C2C」

≪その他≫
キム・ヨナ:SP「悲しみのクラウン」 フリー「アディオス・ノニーノ」
カロリーナ・コストナー:SP「ユーモレスク」 フリー「シェヘラザード」
ハビエル・フェルナンデス:SP「Satan Takes A Holiday」 フリー「ピーター・ガン/ハーレム・ノクターン」
デニス・テン:SP「死の舞踏」サン=サーンス フリー「お嬢さんとならず者」
キーラ・コルピ:SP「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」ビートルズ フリー「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」
トマシュ・ベルネル:SP「Dueling Banjos『脱出』より」 フリー「オブリビオン/アディオス・ノニーノ/リベルタンゴ/ラ・クンパルシータ」
エレーネ・ゲデヴァニシヴィリ:SP「ロマンス『吹雪』より」 フリー「ジゼル」


:安藤美姫選手の写真は、毎日新聞のニュースサイト「毎日jp」内の記事「フィギュアスケート:安藤美姫が会見…娘が生まれて感謝」から、織田信成選手の写真はInternational Figure Skatingの公式フェイスブックページから引用させていただきました。

【参考サイト】
Folle steps in as Amodio's new coach at Bercy | icenetwork.com フローラン・アモディオ選手の近況、プログラムについて言及した記事です。
On skater's road to Sochi Games, a flight of tears - Olympics - ESPN フローラン・アモディオ選手の近況、フリープログラムについて報じた記事です。

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# by hitsujigusa | 2013-09-29 02:54 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

もりのかくれんぼう (日本の絵本)



9月も下旬、秋が徐々に深まってくる頃合いです。ということで、秋にぴったりの絵本10冊をご紹介。私的10撰なので、メジャーなものからマイナーなものまで私の独断と偏見で選んだ秋の絵本です。絵本選びのご参考に。


まずは、こちら。


14ひきのおつきみ (14ひきのシリーズ)

14ひきのおつきみ (14ひきのシリーズ)
【あらすじ】
十五夜の日。14ひきたちは夜にそなえて、木の上にお月見台を作り、おだんごやごちそうを用意。そうして、日が暮れて、月が出るのを待ちます。

いわむらかずおさんの『14ひきのおつきみ』は、森にすむねずみの大家族の日常を描いた“14ひきシリーズ”の1冊。秋絵本の定番と言えるでしょう。
14ひきシリーズはねずみの一家を主人公とすることで、豊かな自然の姿を壮大なものではなく、身近なものとして描いています。一家にとって木や花や虫たちは特別なものではないし、“自然”という感じではない。ご近所さんみたいな感じですね。うまく木や草など森の恵みを利用して、楽しい日常を送っています。こういう自然との接し方はいいなあと思いますし、人間として学べる部分も多くあって、温かな気持ちになれる絵本です。
このシリーズにはほかにも、『やまいも』や『あきまつり』といった秋を舞台にしたものがありますが、私は特に『おつきみ』が印象深いのでこれにしました。もちろん、これ以外も全部良いです。


次は、記事冒頭にも載せたこちら。


もりのかくれんぼう (日本の絵本)

もりのかくれんぼう (日本の絵本)

【あらすじ】
帰宅途中の女の子ケイコは、ひょんなことから不思議な森に迷い込みます。そこにはたくさんの動物たちが隠れていて……。

末吉暁子さんの『もりのかくれんぼう』。これも秋の定番(たぶん)。
秋が深まった黄金色の森の中にたくさんの動物たちが隠れているという内容です。いわゆる“隠し絵”というんでしょうか、黄金色の背景の中に同色の動物たちが紛れ込んでいて、それを発見していくのが楽しい絵本です。見事に森の色と溶け合っているので、子どもはもちろん、大人でも存分に楽しめると思います。
絵は林明子さん。『はじめてのおつかい』『こんとあき』など、ありのままの子どもの姿を描いた名作を生み出している林さんの描写力が、この絵本でも最大限に発揮されています。余談ですが、宮崎駿監督はかつて『はじめてのおつかい』の女の子の描き方を見て感動したそうです。幼い子ども特有の歩き方―まっすぐ立って歩けず、前のめりか後ろのめりになる―がリアルに表現されているから、とのこと。林さんの描く子どもは最も“子どもらしい子ども”と言えるのかもしれません。


秋と言えば月。十五夜はもう終わってしまいましたが、月気分に浸る絵本を2冊。


どこへいったの、お月さま (児童図書館・絵本の部屋)

どこへいったの、お月さま (児童図書館・絵本の部屋)
【あらすじ】
クマくんはお月さまとかくれんぼを始めます。クマくんが木に隠れると、お月さまも雲に隠れて……。

アメリカの絵本作家、フランク・アッシュさんの『どこへいったの、お月さま』。ストーリー自体はシンプルで、主人公のクマくんが月とかくれんぼをするという他愛ないものですが、クマくんが隠れると、ちょうどそれに合わせて月も雲に隠れるので、本当にかくれんぼをしているみたいになるという微笑ましい絵本です。
でも、こういうのは絵本の中だけのお話ではなく、実際に子どもって自然物に対してもこういうふうに接してしまうものなんですね。私自身、子どもの頃はどうして月はどこへ行っても追いかけてくるのかと不思議に思っていました。子どもの何気ない姿、遊びを描いた絵本ではありますが、子どもの特徴を細かく的確にとらえた絵本だと思います。
ちなみに、この絵本もシリーズの1冊で、クマくんを主人公にした絵本がいくつもあります。『かじってみたいな、お月さま』『ぼく、お月さまとはなしたよ』といった月のお話もあるので、そちらも良いでしょう。


月世界探険 (タンタンの冒険)

月世界探険 (タンタンの冒険)
【あらすじ】
ロケットに乗って地球を旅立ったルポライターのタンタン、ムーランサール城の城主のハドック船長、ロケットの開発者のビーカー教授、タンタンの愛犬スノーウィたちは、宇宙飛行の末、とうとう月に降り立ちます。未知の世界を、タンタンたちは探検しますが……。

『月世界探検』は、“タンタンの冒険シリーズ”の1つ。スピルバーグ監督が手掛けて映画化しているくらいなので、それなりに有名なシリーズなのだろうと思います。そのわりに日本ではいまいちヒットしなかったようですが……。
“タンタンの冒険”は、ベルギーの漫画家エルジェさんのバンド・デシネ。バンド・デシネとはベルギー、フランスで親しまれている漫画のことです。なので、厳密には絵本でないのですが、私はほかの絵本と同じ感覚で読んでいたので、あえて含めました。
話としては主人公タンタンたちが月を探検するというもの。でもファンタジーではなく、緻密な科学に基づいたリアルな月旅行です。これが出版されたのが1954年、実際にアポロが月へ行ったのが1969年。15年も前にこんなにリアルな月旅行を描いていたのかと思うと驚かされます。
内容的は子どもには難しいと思います。専門的な知識満載なので。でも、私は子ども時代読んでいて、分からないなりに絵のカラーの鮮やかさとか、キャラクターたちの変人ぶりとか、かなりおもしろがりながら読んでました。
眺める月でなく、サイエンティフィックな月を味わえる本です。この話の前日譚となる『めざすは月』を合わせて読むと、さらに気分が高まります。


5、6冊目は、味覚の秋。ということで、りんごを題材にした絵本。


アップルパイをつくりましょ―りょこうもいっしょにしちゃいましょ

アップルパイをつくりましょ―りょこうもいっしょにしちゃいましょ
【あらすじ】
ある日、主人公の女の子はアップルパイを作ろうと思い立ちます。必要な材料は、りんご、小麦粉、砂糖、シナモン、塩、バター、卵。ところがマーケットはお休み。そこで女の子は材料を求めて、世界へと旅立ちます。まずは小麦粉を求めて、イタリアの麦農場に行きますが……。

アメリカの絵本作家、マージョリー・プライスマンさんの『アップルパイをつくりましょ りょこうもいっしょにしちゃいましょ』。
なんと、アップルパイを作るために世界中を旅してしまうという壮大なお話。どこへ行ったかは、読んだ時のお楽しみなので書きませんが、ヨーロッパからアジア、中南米まで、本当に世界中です。そこまでしなくてもほかのお店に行けばいいのに……と思っちゃいますが、なにはともあれ、発想がおもしろい絵本ですね。
でも、その材料の本場?にわざわざ行くわけですから、こんなに美味しいアップルパイはないだろうと思います。まさに、味覚の秋にふさわしい絵本です。


1こでも100このりんご (えほん・ワンダーランド)

1こでも100このりんご (えほん・ワンダーランド)
【あらすじ】
ある町のくだものやさんに1個のりんごが飾られています。くだものやさんの前をいろんな人が通りかかっては、りんごを見ていろんなことを考えます。

井上正治さんの『1こでも100このりんご』。
ひとつのりんごを巡って、さまざまな人々の多様性みたいなものがうかがえる、ちょっと哲学的なにおいもする絵本です。
たとえば、りんごを見て、良い畑でないと育たないりんごだ、と言う農家の人たち。良い色だという言う絵描きさん。ビタミンがいっぱいありそうだなあと言うお医者さん。みんなこんなきれいなりんごを見て歌を作ったのかなと言う作曲家の女性。
たったひとつのりんごを見ても、見た人が感じることはこんなにも違う。100人いれば100通りのりんごがあるのだという、視点がユニークな絵本。
子どもが読んでも、あんまりおもしろがるタイプの絵本ではないかもしれないけど、シンプルでありながら考えさせられもする良作です。


次の2冊は、ハロウィーンにまつわる絵本。


パンプキン・ムーンシャイン (ターシャ・テューダークラシックコレクション)

パンプキン・ムーンシャイン (ターシャ・テューダークラシックコレクション)
【あらすじ】
小さな女の子シルヴィー・アンは、ハロウィーンで使うかぼちゃちょうちんのためのかぼちゃを採りに畑へ行きます。シルヴィー・アンは大きなかぼちゃを運ぼうとしますが……。

2008年に92歳で亡くなった、アメリカを代表する絵本作家ターシャ・テューダーさんのデビュー作、『パンプキン・ムーンシャイン』。
ハロウィーンというアメリカの文化、風習がありありと伝わってくる絵本です。日本ではハロウィーンというとクリスマス同様にイベント的な扱われ方をしていますが、本場のハロウィーンというのはこういうものなんだというのがよく分かります。アメリカの風土を学ぶという意味でもおもしろい絵本ですね。
ターシャさんの絵は、緻密ではありますが緻密過ぎないというか、どこかふわっとした雰囲気のある絵で、優しさに溢れています。奇抜なストーリーではなく、かつて存在した古き良き田舎の生活、風土というものを大切にする人々のライフスタイルが描かれていて、温かい気持ちになれます。


魔女たちのあさ (えほんライブラリー)

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【あらすじ】
ある森に住んでいる魔女たちは、夜になると起き出します。そうして、こうもりのシチューを食べると、ほうきに乗って夜空へと飛び出して……。

これまたアメリカの絵本作家エドリアン・アダムズさんの『魔女たちのあさ』。
夜起きて朝眠る魔女たちの一日を描いています。なので絵本は全体的に暗めなのですが、魔女たちがとても明るい魔女たちなので、怖い感じはなく、読んでいてこんな魔女なら自分もなってみたいなあと思わせる魔女です。ほうきで曲芸飛行をしたり、月の上で一休みしたり。また、絵的にも青、緑、紫、黒など、いろんな色づかいで夜が魅力的に描かれていて、雰囲気たっぷりです。秋の夜長とよく言いますが、まさにこの季節にぴったりですね。
ところで、『魔女たちのあさ』の作者アダムズさんは、1906年生まれ。この本がアメリカで出版されたのが1971年、当時65歳です。ご存命であれば2013年で107歳ですが……。どうなのでしょう。


最後に、宮沢賢治の絵本を2冊、ご紹介します。


狼(オイノ)森と笊森、盗森 (日本の童話名作選)

狼(オイノ)森と笊森、盗森 (日本の童話名作選)
【あらすじ】
ある秋の日、4つの森に囲まれた野原に、農民たちがやってきます。農民たちが畑を作ること、家を建てること、火を使うこと、少し木をもらうことをしてもいいかと森に訪ねると、森は「いいぞお」と答えてくれました。そうして農民たちはそこに暮らすようになりますが……。

宮沢賢治の『狼森と笊森、盗森』(おいのもりとざるもり、ぬすともり)。
農業に従事していた宮沢賢治らしい童話です。人間たちが自然に対して許可を求め、その上で開拓し生活する。しかし、そうたやすくは話は進まず、人間たちに慢心が生まれ、事件が起こるわけです。自然に対する敬意の気持ちをテーマにした作品ですが、説教臭くなく、それよりは岩手の農民の風土がよくわかる絵本として純粋におもしろいです。
この作品に限らず賢治の童話は、独特の世界を持っていて深いがゆえに、深読みしたくなります。でも、そこまでせずとも、自然の描き方のユニークさやオノマトペの豊かさなど楽しめるポイントがいくつもあるので、それだけでも十分おなかいっぱい、読み応えがありますね。とは言え、やはり読めば読むほど新たな味がにじみ出てきて、いろいろ裏に隠されたものを読んでしまいたくなるんですが。
絵の村上勉さんは、デフォルメされた曲線的かつ細かい絵柄が特徴的な絵本画家・イラストレーターさんです。佐藤さとるさんの「コロボックル」とか、最近では有川浩さんの『旅猫リポート』が有名でしょうか。賢治とのコラボレーションは良い相乗効果を生み出していて、ちょっぴり不気味な感じ、おどろおどろしさが醸し出されています。


どんぐりと山猫 (ミキハウスの絵本)

どんぐりと山猫 (ミキハウスの絵本)
【あらすじ】
ある秋の土曜日、一郎の元にへたくそな字で書かれたはがきが届きます。はがきには、明日面倒な裁判をするからおいでくださいというようなことが書かれ、差出人は山ねことなっていました。翌日、一郎は谷川に沿った道を上へと歩いていきますが……。

『どんぐりと山猫』は、どんぐりたちの裁判に人間の男の子が招かれて行くというもの。人間とそれ以外のものの交流を描いた童話は、先ほどの『狼森と笊森、盗森』もそうですし、『注文の多い料理店』とか『雪渡り』がありますね。そのなかでもこの『どんぐりと山猫』はユーモアあふれる作品となっています。
“どんぐりのせいくらべ”という言葉がありますが、まさにこの作品はどんぐりたちの争い(=誰がいちばん偉いか)を描いています。どんぐり同士ということでおかしみが生まれるわけですが、よく考えたら人間もこれと同じことをやっているわけです。そしてそこには裁判長として君臨する山猫もおり、まさに人間界の縮図となっています。
この作品もまた、他者との比較とか競争意識とか様々な問題をはらんでいると見ることもできるのですが、絵本ですから、まずは秋の雰囲気とか森の不思議さを味わって、それから文章とかセリフ、場面の意味を考えてみるとおもしろいと思います。とは言っても、読んでいるうちに自然と疑問が湧いてきちゃうんですよね、賢治童話は。ちなみに、宮崎駿監督がいちばん好きな宮沢賢治作品はこれだそうです。
ところで、実は私はこの作品を絵本で読んだことはありません。ですので、とりあえず数ある『どんぐりと山猫』の絵本の中で最新のものを挙げましたが、他のどれでも良いと思います。


というわけで、長々と書き連ねてまいりました。ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
秋の絵本10撰、ご参考になれば幸いです。


:記事内の宮崎駿監督に関する部分は、スタジオジブリ、文春文庫編『ジブリの教科書3 となりのトトロ』(文藝春秋、2013年6月)を参考にいたしました。以下にリンクを張ります。


【ブログ内関連記事】
冬に読みたい絵本・私的10撰 2013年12月15日
宮沢賢治の絵本・私的10撰 2014年9月20日  記事内で『狼森と笊森、盗森』を取り上げています。


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# by hitsujigusa | 2013-09-21 03:17 | 絵本 | Trackback | Comments(0)