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 ベストコスチューム19/20、今回がいよいよ最後の記事、アイスダンスのフリーダンス部門です。なお、衣装のベスト10を選ぶにあたってのルールについては、こちらの記事の冒頭をご覧ください。

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 アイスダンスフリーダンス部門第1位は、アメリカのクリスティーナ・カレイラ&アンソニー・ポノマレンコ組の「ファルーカ/マラゲーニャ」です。

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 フラメンコの定番曲「ファルーカ」と「マラゲーニャ」を組み合わせた情熱的なプログラムです。
 男女ともに黒を基調としたシックな色づかい。女性は長袖でスカートも長く、首元も詰まったタイプの黒いドレス姿。特徴的なのは左の脇の下から脇腹にかけて、えぐれるようにその部分だけが露出していることで、それ以外の部分が黒一色で覆われている分、余計に露出しているところの肌色が際立ちます。また、スカートの形状も左脚を大胆に見せる作りで、肌の見せ方がうまいコスチュームと言えます。ドレス自体も黒一色なのですが、ところどころキラキラとした素材を使っているので華やかさもあり、アクセントとして髪に飾ったバラのような花の赤と、上の画像では見えませんがスカートの裏地の赤とが効果的な色づかいとなっていて、印象的です。一方の男性はアクセントとしてほかの色を用いることなく本当に黒一色なのですが、トップスだけでも部分部分で素材を変えているので、同じ黒でも微妙な質感の違いや風合いの違いがあり、工夫が感じられますね。
 フラメンコらしい色をチョイスしながらも、衣装の形や作りはモダンで洗練されていて、オーソドックスでもあり現代的でもあるというバランスの取れた両衣装ですね。


 2位はイタリアのジャスミン・テッサーリ&フランチェスコ・フィオレッティ組の「Lullaby of the Leaves/Jazz Man/I'll Take Care of You」。

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 アメリカの歌手、べス・ハートの楽曲3曲を組みわせたメドレープログラム。べス・ハートの低めで少しハスキーな声が大人びた雰囲気を作り出しています。
 そんな曲想に合わせてか衣装も黒をメインにしたシックな雰囲気。女性はハイネックの長袖ワンピースで、肩から袖にかけては透け感のある生地、それ以外は透け感のない生地というふうに素材感で変化をつけています。何といっても印象的なのは首元から胸元、腰の左側に施された装飾です。ゴールドのいびつな形のタイルと、その周辺にゴールドやオレンジっぽい色の細かい装飾が散りばめられていてとても美しいです。黒とゴールドという組み合わせの相性が良いのはもちろんですが、あえていびつに割り砕かれたような形状のタイルが目を引き、しかもそれが時折光に反射して輝くのがゴージャスでもあり、独創性を感じますね。そして男性はシーズンを通して数種類の衣装が使用されたのですが、今回選んだコスチュームは女性の衣装に似たデザインとなっています。上下黒で、女性と同じように首元や腰にゴールド&オレンジの繊細な装飾があしらわれています。タイルのような大きな装飾はないので女性の衣装よりは地味ですが、女性とのバランスで考えるとこれくらい装飾が控えめな方が調和が取れていて良いと思います。


 3位はアルメニアのティナ・ガラベディアン&シモン・プルー=セネカル組の「枯葉/Luck Be a Lady」。

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 シャンソンの名曲「枯葉」と1950年に発表され多くの歌手にカバーされたスタンダードナンバー「Luck Be a Lady」を使用したメドレープログラム。どちらも歌っているのはアメリカの歌手シールで、渋みのある低音ボイスによって大人の色香の漂うプログラムとなっています。
 そんな大人のムードを意識して、衣装は男女ともにクラシカルで気品のある佇まい。男性は白シャツに黒い上着と黒いパンツ、真紅のネクタイというまさに紳士的なコスチューム。そして女性は赤一色の鮮やかなドレス姿です。ドレスはハイネックのノースリーブ、また、上の画像ではわかりにくいですがスカートは長めになっていて、露出度を抑えた高貴な雰囲気。ですが、ドレスの上半身は体の中心部はうっすらと透け感を持たせ、首回りとサイド部分は透け感のない素材で装飾も散りばめられた重厚さのある生地と、部分ごとにメリハリをつけていて、工夫が凝らされているのがわかります。さらに手には短めの手袋をはめたりと、細部まで気品溢れる衣装となっています。
 男性が女性を際立たせているタイプの両衣装ですが、どちらもディテールまでこだわった本格的な作りで素晴らしいなと思います・


 4位はカナダのロランス・フルニエ=ボードリー&ニコライ・ソレンセン組の「サマータイム/我が心のジョージア/クライ・ミー・ア・リヴァー」です。

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 ジャズのスタンダードナンバー「サマータイム」を始め、同じくジャズの名曲「我が心のジョージア」、ポピュラーソングの「クライ・ミー・ア・リヴァー」といった、ジャンルの枠を超えた名曲を組み合わせたメドレープログラムとなっています。
 衣装は男女ともに黒っぽいシックな色づかい。男性は前身頃、サイドなど、パーツごとに素材感の異なるトップスが特徴的で、色味もパッと見は黒っぽいですが、ネイビーに近いように見えます。前身頃にのみ細かい装飾が施されていて、控えめながら華やかさをプラスしていますね。そんな男性の衣装と対照的なのが女性のワンショルダー型ワンピースで、ワンピース全面に装飾をあしらっており非常にゴージャスです。装飾が施されていて、控えめながら華やかさをプラスしていますね。そんな男性の衣装と対照的なのが女性のワンショルダー型ワンピースで、ワンピース全面に装飾をあしらっており非常にゴージャスです。装飾は上半身は曲線を描いていて、装飾そのもので模様を描き出しています。そして、さらに印象的なのがスカートで、上の画像だといまひとつ形がわかりにくくて申し訳ないのですが、実際には大胆に前側に深いスリットが入っているのでしっかり脚を見せる作りになっています。また、スカートの裾はレースのような繊細なデザインになっており、とても優雅です。
 色的には女性も男性も地味ですが、デザインで一工夫も二工夫も凝らしていて、よく練られたコスチュームと言えますね。


 5位はイギリスのライラ・フィアー&ルイス・ギブソン組の「マドンナ・メドレー」です。

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 かのマドンナの楽曲3曲を組み合わせたメドレープログラム。ということで、衣装からもマドンナをオマージュしたようなエッセンスが感じられます。
 特に印象的なのはやはり女性の衣装でしょうか。黒をベースに金色を合わせたゴージャスなワンピースで、形としては体にぴたりと添っていて、そのうえうっすら透け感もある素材でマドンナらしいセクシーさを想起させます。また、スカートの形も上の画像では見切れているのでわかりにくいですが、鋭角的な裾の形状が独特で、オリジナリティーがありますね。一方の男性はほぼ黒のシンプルな衣装で女性を引き立てていると言えます。ですが、そのシンプルな中でも工夫がさまざまあり、トップスのサイドのみを透け感のある生地にしたり、背中に女性の衣装の金色の模様と同じような模様が施されていたり、シャツの襟のボタンや袖口のカフスボタンを金色にしたり、金色のアクセサリーを首にかけたりと、細部に金色を配することで女性の衣装との統一感を持たせていて、絶妙なペアルック感だなと思いますね。


 6位はジョージアのマリア・カザコワ&ゲオルギー・レヴィヤ組の「In the End」。

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 アメリカのロックバンド、リンキンパークの「In the End」をアメリカの音楽プロデューサー、トミー・プロフィットが同じくアメリカの歌手、フルーリーとラッパーのジャング・ユースをフィーチャリングしてリリースしたカバーバージョンを使用したプログラムです。
 衣装は女性がグレーをメインに、男性が黒をメインにしたシックな色づかい。女性は肩が出た形の長袖ワンピース。ベースとなっている色はグレーっぽい色ですが、黒やピンクなどが複雑に混じり合い、美しいグラデーションになっています。また、素材的にはスカートや袖がうっすらと透け感のある生地になっていて、色と素材感が相まって幻想的な雰囲気がより高まっているように思いますね。一方、男性は黒一色で、装飾らしい装飾もありません。特徴的と言えるのは袖がシースルー生地になっていることで、こういった部分で女性の衣装とのペア感を演出し、さらに透け感を持たせることで全く透け感のない黒にするよりも軽やかさが感じられ、黒一色の中にも変化をつけていて良いですね。


 7位は日本の小松原美里&ティム・コレト組の「ミュージカル「Lord of the Dance」より」です。

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 アイルランド発のミュージカル「Lord of the Dance」のサントラを使用したプログラム。ということで、衣装もアイルランドの自然を想起させるような色づかい、デザインです。
 女性は上半身が淡いグリーン、スカートが濃いグリーンという全身グリーン系で統一した長袖ワンピース姿。山や森を思わせる鮮やかなグリーンが魅力的なのはもちろんですが、何といっても印象的なのは肩から胸元、また、腰にかけてあしらわれたピンクの花のアップリケです。この花のデザインがデフォルメされたデザインではなく、比較的写実的でリアルな花になっているので、それが背景となるグリーンとナチュラルに合わさって、まるで緑の中に咲き乱れているような、そんな風景のようなデザインになっていて、本当に美しいです。一方、男性は濃いグリーンのトップスに濃い紫のパンツというスタイル。トップスも全部がグリーンではなく、肘から下の袖は紫になっていて、緑の蔓が絡み合うような、こちらも自然を意識したデザインになっています。
 緑というのはアイルランドを象徴する色でもありますから、そういった意味でも納得のいく色の選択ですし、アイルランドらしさが伝わってくるコスチュームだなと思います。


 8位はカナダのキャロラーヌ・スシース&シェーン・フィラス組の「トム・ジョーンズ・メドレー」です。

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 イギリスを代表する歌手の一人、トム・ジョーンズの楽曲3曲(カバー含む)のメドレープログラムです。序盤から中盤は60年代の楽曲で古き良きポップス、終盤はドイツのDJとコラボレーションした楽曲で激しいダンスナンバーとなっています。
 衣装はクラシカルな趣きが印象的。女性はペールオレンジの優雅なワンピース姿で、左脚の方に深いスリットが入っています。肩から胸、スカートにかけて繊細な装飾が施されていて、貴婦人を思わせる上品さです。男性は白シャツに黒いジャケット、黒いパンツというオーソドックスなスタイル。ですが、ジャケットは肩や腕、また、上の画像だと見にくいですが前身頃にもふんだんに装飾が散りばめられています。ネクタイもないのでラフな印象で、往年のポップスらしい派手派手しさ、ゴージャスさを感じさせます。
 昔年のポップス特有のレトロさ、品の良さというのをうまく表現した両コスチュームだと思いますね。


 9位はカナダのパイパー・ギレス&ポール・ポワリエ組の「青春の光と影」です。

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 カナダを代表する歌手、ジョニ・ミッチェルの代表曲「青春の光と影」。そのジョニ・ミッチェル自身によるオーケストラアレンジバージョンを使用した壮大なプログラムです。衣装はシーズンを通して2種類使用されましたが、今回選んだのは四大陸選手権で着用されたものです。
 男女ともに深みのある赤のコスチューム。女性はノースリーブのワンピースで、上半身、ウエストを中心に細かな装飾が施されています。装飾は長方形や丸、いびつな形の楕円形や四角など、さまざまな形を組み合わせて、それを上から下へ流れ落ちるようにあしらっていて目を引きます。ウエスト部分は装飾をベルトのように用い、そしてスカートにはごく小さなラインストーンがぽつぽつと散りばめられていて、多彩かつバランスの良い装飾の使い方だなと思います。一方の男性はこちらも上下ともに赤ですが、女性のワンピースよりはワントーン濃い感じでしょうか。こちらは肩から首元、背中にかけて女性の衣装同様に装飾をあしらっていて、統一感を持たせています。
 壮大でスケール感の大きな曲想に合わせ、衣装もシンプルでありながら独創的なデザインがなされていて、素晴らしいですね。


 10位はロシアのアレクサンドラ・ステパノワ&イワン・ブキン組の「Primavera/クライ・ミー・ア・リヴァー」です。

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 イタリアの作曲家、ルドヴィゴ・エイナウディの「Primavera」と、アメリカの歌手、ジャスティン・ティンバーレイクの「クライ・ミー・ア・リヴァー」(ポピュラーソングの「クライ・ミー・ア・リヴァー」とは別の曲)とを組み合わせたプログラムです。
 女性は長袖の黒いワンピース姿。肩から胸元にかけて装飾が控えめに散りばめられている以外は目立った装飾もなく、非常にシンプルです。特徴的なのはワンピースの素材感で、袖や肩、スカートなどうっすら透ける素材感になっており、重厚でありながらも軽やかさを感じさせます。男性の衣装に関しても同様で、トップスの袖部分は透け感のある作りにしていて、黒一色の中にも変化をつけているのがわかります。
 男女ともに装飾性を排したシンプルの極みの衣装と言えますが、その分身体の線の美しさや動きのしなやかさをクリアに際立たせるデザインとも言えるのではないかと思いますね。



 ベストコスチューム19/20、アイスダンスフリーダンス部門は以上です。ということで19/20シーズンのベストコスチュームもこれで全てが終了となりました。19/20シーズンは新型コロナウイルスの関係で思わぬ形でのシーズン終了となり、五輪プレシーズンとなる20/21シーズンについてもすでにジュニアのグランプリシリーズは一部の試合が開催中止となるなど影響が出ており、シニアの国際大会にも影響が出ることは必至と思われます。今はただ、選手たちへの影響が最小限のものとなることを祈るしかありませんが、また楽しくフィギュアスケートが見られる日を待ちたいですね。では。


:国際スケート連盟のロゴは、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、カレイラ&ポノマレンコ組の画像は、フィギュアスケート情報サイト「Absolute Skating」から、テッサーリ&フィオレッティ組の画像、フルニエ=ボードリー&ソレンセン組の画像、スシース&フィラス組の画像、ギレス&ポワリエ組の画像、ステパノワ&ブキン組の画像は、アイスダンス情報サイト「ice-dance.com」から、ガラベディアン&プルー=セネカル組の画像は、フィギュアスケート情報サイト「Art On Ice」から、フィアー&ギブソン組の画像は、カナダのフィギュアスケート組織「Skate Canada」の公式ツイッターから、カザコワ&レヴィヤ組の画像は、フォトグラファーのマリア・カテショワ氏の公式ツイッターから、小松原&コレト組の画像は、日刊スポーツのニュースサイトが2020年2月8日に配信した記事「小松原&コレト組11位もシーズンベストに手応え」から引用させていただきました。

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# by hitsujigusa | 2020-06-18 15:37 | フィギュアスケート(衣装関連)

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 19/20シーズンを彩った衣装の数々をランキング形式で振り返るベストコスチューム19/20。今回はアイスダンスのリズムダンスの衣装を見ていきたいと思います。なお、衣装を選ぶにあたってのルールについては、こちらの記事の冒頭をご覧ください。

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 アイスダンスRD部門第1位は、カナダのパイパー・ギレス&ポール・ポワリエ組の「ミュージカル「Mack and Mabel」より」です。

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 ミュージカル「Mack and Mabel」のサントラを使用したプログラムで、ミュージカルのストーリーは実在したハリウッドの映画監督、マック・セネットとそのミューズである女優、メイベル・ノーマンドを題材にしていて、喜劇を得意とした監督と女優の物語ということで、プログラムもコミカルで陽気な作品となっています。
 衣装は男女ともにスーツ風でペアルック感が満載ですが、ところどころデザインに違いを持たせています。男性は白シャツに赤い蝶ネクタイ、黒いショート丈の上着に、黒いパンツというクラシカルなスタイル。ですが、上着の襟がシルバーだったりパンツのサイドラインがピンクだったりと、遊び心のある作りにしていて、紳士的なイメージであるとともに可愛らしさもあります。一方女性もスーツ風で、白いシャツや赤い蝶ネクタイは男性と共通しているわけですが、こちらは上着ではなく袖なしのベストっぽく見えるようなトップスのデザインになっていて、袖をキラキラとした繊細な装飾をあしらったものにすることで、フェミニンな雰囲気を醸し出しています。そして、ボトムスはパンツでもスカートでもなくレオタード風になっており、そこに黒とピンクのフリンジをサイドから後ろ側にだけ施すことでスカートのようでスカートでないという印象的なアクセントにしていて、ほかでは見たことのない独創性溢れるコスチュームになっていると言えます。
 ミュージカルの世界観、音楽のイメージを反映させつつ、ギレス&ポワリエ組らしい個性もプラスしていて、素晴らしい両衣装だと思いますね。


 2位はカナダのロランス・フルニエ=ボードリー&ニコライ・ソレンセン組の「ミュージカル「Bonnie & Clyde」より」です。

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 実在したアメリカの強盗2人組、ボニーとクライドを描いたミュージカルのサントラを使用したプログラム。ということで、2人の衣装もボニーとクライドのイメージを反映させているものと思われます。
 衣装は女性がノースリーブの白のトップスに、表が黒、裏地が赤の長めのスカートというクラシカルなスタイル。2人が活動したのが主に1930年代ということで、その時代のアメリカの女性の服装を想起させるようなエレガントなデザインです。また、黒い手袋や首に巻いた赤いスカーフ、ゴールドのバックルが印象的なベルトなど、小物づかいからもエレガンスさが感じられて、フィギュアスケートのコスチュームというよりも、このまま街に出てもおかしくないような素敵な衣装だなと思います。一方の男性は深みのあるグレーのヘンリーネックシャツに、ブラウンのストライプのサスペンダー、黒いパンツというコーディネート。女性と比べるとよりカジュアルでしょうか。色合い的にもシックで、女性の華やかさを引き立てるような衣装と言えます。
 ボニーとクライドのイメージを表現しながら、フィギュアスケートの衣装としての華やかさもしっかり備えていて、素敵だなと思いますね。


 3位はロシアのアレクサンドラ・ステパノワ&イワン・ブキン組の「映画『ムーラン・ルージュ』より」です。

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 フィギュア界定番のミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』。そのサントラを使用した華麗なプログラムで、衣装も実に華やかかつゴージャスです。
 女性は赤を基調とした派手めなワンピース。ワンピースの胸元からお腹にかけて、さらに首元や肩から腕にかけてもゴールドと赤の装飾的なデザインを施しています。一方、スカートは細長い生地を幾枚もずらして重ねたような作りで、このあたりは普通に一枚の布でスカートを作るよりもふんわりとした軽やかさがあり、また、生地の色も赤とオレンジを用いることでグラデーション風になっていて、変化がつけられています。さらに上の画像だと見にくいかもしれませんが、赤いフリンジも部分的にあしらわれていてアクセントになっていて、オリジナリティーのある作りだなと思いますね。男性はクラシカルなスーツスタイル。印象的なのは上着の裾がタキシードのように長く、その裏地が赤になっていることで、モノトーンの衣装の中でこの部分が翻ったときに鮮やかな赤が目に入って印象に残りやすく、シンプルなのですが素敵だなと感じますね。
 キャバレーの踊り子と作家志望の若者との恋の物語を衣装でも明確に表していて、一目見たら忘れられない印象深い衣装になっていると言えます。


 4位は日本の小松原美里&ティム・コレト組の「映画『ドリームガールズ』より」。

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 アメリカの女性3人組のボーカルグループ、ザ・スプリームスをモデルにしたミュージカル映画『ドリームガールズ』。そのサントラを使用したプログラムで、衣装にもアメリカのショービジネスの世界の華々しさが表現されています。
 女性はオレンジのノースリーブワンピース。胸元は深いV字になっており露出も多めなのでセクシーさもありますが、オレンジという明るい色をメインにすることで健康的なセクシーさを感じさせます。また、ワンピース全体にフリンジが施され、そのフリンジもオレンジを始め、ゴールド、ブラウンなど同系色のさまざまな色が使われており、全体としては同じトーンで統一しながらも変化をつけていて、工夫が見て取れますね。一方、男性は白シャツにジャケット、パンツというシンプルなスタイル。ですが、ジャケットの表側が全面シルバーというインパクトのある色づかいになっています。シルバーは使い方を間違えると逆にチープな印象も与えかねない色と素材感だと思うのですが、このジャケットは襟と裏地を黒にすることで締まった印象を与えていて、品の感じられるシルバーとなっていますね。
 このカップルの場合も女性の華やかさを男性が際立たせているタイプの両衣装だと言えそうですが、男性にも程よい華やかさがあり、アメリカのエンターテインメント業界のムードをよく伝えているコスチュームだと思います。


 5位はトルコのニコール・ケリー&ベルク・アカリン組の「You Are Woman, I Am Man 映画『ファニー・ガール』より/Overture 映画『ファニー・ガール』より」。

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 バーブラ・ストライサンド主演のミュージカル映画『ファニー・ガール』の楽曲2曲を組み合わせたプログラム。実在したブロードウェイ女優の人生を描いた作品ということで、こちらもショービジネス界の華やかさを感じさせる衣装となっています。
 女性はノースリーブのラベンダー色のワンピース姿。ウエストから上は花柄っぽい立体感のある作りで繊細な装飾も配され、スカートはシンプルに素材感の美しさ、色合いの美しさを活かした作りになっています。映画の中でもヒロインが紫色のドレスを着るシーンがあるのですが(まさに「You Are Woman, I Am Man」を歌うシーンです)、もしかしたらそのイメージが取り入れられているのかもしれません。一方、男性は白シャツに黒い蝶ネクタイ、黒いサスペンダー、黒いパンツというスタンダードなスタイル。これといって特徴のある衣装ではありませんが、映画の中でもヒロインの相手役となる男性はこうしたオーソドックスな服装をしていますから、そのイメージを踏襲していると言えます。
 映画の中から飛び出してきたような正統派のコスチュームといえ、もの凄いひねりがあるわけではありませんが、奇をてらわない良さを感じさせてくれる両衣装だと思いますね。


 6位はブルガリアのミーナ・ズラコヴァ&クリストファー・M・デイヴィス組の「映画『シカゴ』より」。

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 こちらも大定番のミュージカル映画『シカゴ』。その中の4曲を組み合わせたメドレープログラムです。
 衣装は女性は黒一色のセクシーなワンピース。映画のメインキャラクターであるロキシーやベルマはナイトクラブのショーガールということで、そのイメージを反映させているのは明確ですね。ただ、映画の中の衣装をそのまま踏襲するのではなく工夫を凝らしアレンジをしていて、特にお腹の部分が透け感のある生地になっていたりジグザグとしたシャープなデザインを強調していたりするところはオリジナリティーを感じます。他方、男性に関しては特定のキャラクターのイメージを反映させたというよりは、映画の世界観、女性の衣装とのバランスで考えられているのかなと思うのですが、黒い透け感のある長袖シャツに黒いストライプ柄のベストを重ねたように見える作りのトップスが特徴的です。白いシャツに黒いベストだと紳士的な印象が強くなりますが、全身黒だとやはり少し悪い感じが強調され、この映画の雰囲気にもぴったりですね。
 今まで数多くのスケーターが演じてきた「シカゴ」ということで、どのようにコスチュームで個性を表現するかというのも悩みどころだと思うのですが、このカップルはシカゴらしさを大切にしつつもしっかり独創性もアピールしていて、素敵なコスチュームだなと思います。


 7位はアメリカのマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組の「Too Darn Hot ミュージカル「キス・ミー・ケイト」より」。

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 喜劇ミュージカルの傑作「キス・ミー・ケイト」。その中でも特に知られる「Too Darn Hot」を使用した明るく華やかなプログラムです。
 まず、女性は鮮やかなピンクのワンピース姿。「キス・ミー・ケイト」の映画版ではこの「Too Darn Hot」のシーンで、歌を歌う女優がまさにこういった濃いめのピンクのワンピースを着ています。もちろん全く同じというわけではありませんが、フリンジや長い手袋など、細かいところまで忠実に再現しています。ただ、こういった色合いの、かつ、こういったきらびやかな素材感というのは、ともすれば派手すぎてチープな印象にもなりかねないのですが、チョック選手はうまく着こなして気品のある佇まいにしているなと思います。男性の方はオーソドックスなシャツにジャケットというコーディネートですが、ジャケットは深みのあるネイビーで、黒よりも少し柔らかい印象を演出しています。また、上の画像だと隠れていますが、ポケットには女性の衣装に似た濃いめのピンクのチーフを忍ばせていて、ちょっとしたアクセントにしています。スタイル自体はシンプルですが、色づかいで喜劇プログラム特有の軽快さを表現していて、男女の衣装両方からそうした意図がうかがえますね。


 8位はジョージアのマリア・カザコワ&ゲオルギー・レヴィヤ組の「サヨナラ・ベイビー ミュージカル「ビューティフル」より/Dream a Little Dream of Me」。

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 アメリカの歌手、キャロル・キングの半生を描いたミュージカル「ビューティフル」の劇中曲と、1931年に発表され、数多くの歌手にカバーされたスタンダードナンバーを組み合わせたメドレープログラム。
 衣装は男女ともに黒を基調としたシックな色づかい。プログラムは比較的甘美な印象のある歌2曲の組み合わせなので、衣装もそれに合わせて明るいスウィートな感じの色づかいでも似合うのかなと思ったりもしますが、あえて黒をメインにすることで、大人っぽい印象を作り出しているように思います。特に女性は大胆に胸元の開いたワンピースで露出度は高めですが、黒という大人びた色を用いることでセクシーさもありつつ品のある衣装に仕上げています。一方、男性は白シャツに黒いベスト、黒いパンツで、女性の引き立て役としてシンプルに徹しています。女性とのバランスという点で考えると、女性が黒一色な分、男性は白いシャツを着ているので二人一緒に見た時に抜け感のある色づかいとなっていて、ちょうど良いバランスと言えますね。


 9位は中国の陳宏(チェン・ホン)&孫茁鳴(スン・ズオミン)組の「It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing)」。

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 デューク・エリントン作曲のジャズのスタンダードナンバー「It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing)」を使用した軽快でノリノリなプログラム。
 衣装は女性と男性とで全くデザインが異なっており、それぞれの個性を活かしたものとなっています。女性は深みのある紫のノースリーブワンピース。上半身は全面的に装飾がびっしりと散りばめられている上、フリンジのような形のシルバーの装飾も施されており、装飾性の高い作りと言えます。一方、男性はキラキラとした装飾的なものは一切なく、グレーやネイビーといった暗めな色のみのシックなコーディネート。ですが、ジャケットは黒とグレーのチェックになっていて、パッと見ではあまり目立ちませんが、控えめながら個性を表しています。
 男女それぞれで雰囲気に違いはありますが、色合いはおおむね統一しているので一体感もあり、きらびやかな女性の衣装でジャズの華やかさを、渋めな男性の衣装でジャズのカジュアルさを表現しているように思いますね。


 10位はロシアのティファニー・ザホースキー&ジョナサン・ゲレイロ組の「映画『グレイテスト・ショーマン』より」です。

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 2017年公開(日本では2018年)のミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』のサントラを使用したダイナミックでスケール感の大きいプログラム。衣装はシーズンを通して2種類使用されたのですが、今回選んだのは欧州選手権で使用されたものです。
 まず、女性はラベンダー色の光沢感のある生地のワンピース姿。上半身を中心に細かな装飾もふんだんに施され、ショーやサーカスといった華々しいエンターテインメント業界を描いた映画にしっくり来るゴージャスな衣装です。男性はシルクのような素材感の光沢のあるシャツの上に、唐草模様のような複雑なデザインの施されたベストを重ねたコーディネート。何といってもこのベストのデザインが素晴らしく、普通の黒やネイビーのベストではなく、全体的に柄の入ったものにすることでやはりエンターテインメント感が増し、女性の衣装との組み合わせという点で見ても、ちょうど良いバランスと言えますね。



 ここまで、ベストコスチューム19/20、アイスダンスリズムダンス部門のベスト10でした。次はいよいよ今季のベストコスチュームシリーズのラストを飾る、アイスダンスフリーダンス部門です。記事アップまでしばしお待ちください。では。


:記事冒頭のロゴは、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、ギレス&ポワリエ組の画像、フルニエ=ボードリー&ソレンセン組の画像、ステパノワ&ブキン組の画像、ケリー&ベルク組の画像、チョック&ベイツ組の画像、陳&孫組の画像は、アイスダンス情報サイト「ice-dance.com」から、小松原&コレト組の画像は、日刊スポーツのニュースサイトが2019年12月20日に配信した記事「アイスダンス小松原、コレト組 けが乗り越えて首位」から、ズラコヴァ&デイヴィス組の画像、ザホースキー&ゲレイロ組の画像は、マルチメディアサイト「Newscom」から、カザコワ&レヴィヤ組の画像は、フィギュアスケート情報サイト「Golden Skate」が2019年12月6日に配信した記事「Georgia’s Kazakova and Reviya take lead in Junior Ice Dance in Torino」から引用させていただきました。

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# by hitsujigusa | 2020-06-08 18:21 | フィギュアスケート(衣装関連)

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 ベストコスチューム19/20、今回は男子フリー部門です。なお、衣装のベスト10を選ぶにあたってのルールについては、こちらの記事の冒頭をご覧ください。

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 男子フリー部門第1位は、日本の羽生結弦選手の「ORIGIN」です。

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 18/19シーズンと同じ「ORIGIN」を演じた羽生選手。しかし衣装は色もデザインもまったく異なるものに変更し、新たなイメージを作り上げました。
 色はトップスが紫、パンツは黒。18/19シーズンはトップスも黒で、全身黒一色だったので、紫にすることで少し柔らかさとともに、華やかさも増した印象でしょうか。衣装の形としては襟が立ったような形状で首の後ろ側だけ覆っていて、長袖なのは前シーズンの衣装と同じです。その紫の生地をベースに、繊細な装飾が上半身全体に散りばめられています。中でもゴールドっぽい装飾によって三日月のような曲線が胸からお腹、腕にかけてもデザインされていて、印象的なアクセントになっています。また、上の画像では見えないですが、首元から背中にかけて紫のバラのコサージュがいくつもあしらわれ、そのバラの周辺には赤い花びらのようなものもアクセント的に施されており、衣装の表側と背中側とではデザインをガラリと変えていて、隅々まで余すことなく工夫しているのがわかります。こうした複雑さ、贅沢さは羽生選手のコスチュームの特徴ですが、用いている色の数はそんなに多くないため気品があり、それでいて紫特有の神秘的な趣きもあり、まさに芸術的なコスチュームと言えますね。


 2位は中国の金博洋(ジン・ボーヤン)選手の「The Path of Silence/Yellow Moon」です。

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 異なる2曲を組み合わせたプログラムで、冒頭は静かなピアノの旋律で幕を開け、終盤に向けて壮大なオーケストラで盛り上がっていくスケール感の大きいプログラムとなっています。
 衣装は上下ともに黒で、トップスは長袖のシンプルな形です。しかし、何より特徴的なのは左肩から左胸を中心にしたデザインです。個人的にはまるで波打つ血脈のように見えるのですが、その脈が枝分かれするように胸から肩、そして左腕にまで枝を伸ばしています。そしてその血が通っているさまというのを黒の向こう側に透けて見える淡い青や緑、赤などが入り混じった生地によって表現していて、細かな装飾も用いながら洗練されたデザインに仕上げています。
 プログラムのテーマ、コンセプトなど具体的なことはわからないのですが、非常にシリアスで重厚な曲想にとてもよく合ったコスチュームで、新たな金選手の一面を引き出したプログラム、コスチュームと言えるかもしれません。


 3位はイタリアのマッテオ・リッツォ選手の「ガリシア・フラメンコ」です。

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 イタリアのクラシックギター奏者、ジーノ・ダウリが演奏するフラメンコの名曲「ガリシア・フラメンコ」。フィギュア界でも人気のフラメンコ曲の一つです。
 衣装はワイン色の長袖シャツと黒いベスト、黒いパンツというクラシカルなスタイル。シャツは前身頃にふんだんにフリルがあしらわれ、ゴージャスかつ華麗な印象。実際のフラメンコの衣装でもこうしたフリルは多用されますから、フラメンコらしさを感じさせます。そしてベストは短めの丈でスマート。その中でもダブルボタンにすることで気品のある紳士的なイメージが作り出され、また、その両サイドに繊細な装飾で唐草模様のような曲線的なデザインが施されていてエキゾチックさも演出されています。色づかいとしては黒とワイン色というシックな組み合わせで、スペインらしさというと黒と赤というのが定番かなと思うのですが、この曲はフラメンコといっても元々のフラメンコの発祥の地であるアンダルシアではなく、タイトルにもあるように“ガリシア”をイメージした曲なので、情熱的ではありながら落ち着いた趣きもあり、そうした世界観が渋めのコスチュームにも合っているのかなと思いますね。


 4位はイスラエルのアレクセイ・ビチェンコ選手の「映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』より」。

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 フィギュア界でもすでに定番となった「パイレーツ・オブ・カリビアン」。タイトルのとおり海賊が主人公の映画ということで、ビチェンコ選手もまさに海賊らしさ全開のコスチュームを着用しました。
 衣装は白い長袖シャツの上に青いベストを重ね、パンツは黒というオーソドックスなコーディネート。もちろんこれだけでは海賊らしいとは言えず、そこに肩から斜めに下げたベルトや、腰に巻いた大きめのバックルが特徴的なベルト、また、装飾性の高いベストのボタンなど、さまざまな小物や装飾によって海賊らしさを演出していて、こだわりが感じられます。
 海賊風の衣装としては決して目新しいデザインではありませんが、細部まで工夫を施したのが伝わってくるコスチュームで、プログラムの世界に引き込まれますね。


 5位は日本の島田高志郎選手の「映画『アーティスト』より」です。

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 2012年のアカデミー賞作品賞を受賞した映画『アーティスト』のサントラを使用した、華やかかつ軽やかなプログラムです。
 コスチュームはピンクのシャツが印象的で、シニア1季目の島田選手らしい初々しさ、少年らしさというのが感じられます。スタイルとしては白いTシャツの上にピンクの襟付きシャツを重ねていて、カジュアルな印象が強め。ですが、上に着たシャツの襟は背広によく用いられるようなテーラードカラーで、きっちり感も演出しています。一方で袖は肘までまくり上げたような五分袖で、肩から胸にかけて白や赤などの細かい装飾が散りばめられ、ボタンは白いボタンが3つだけ並んでいる様子が可愛らしくもあり、やはり島田選手だからこそのフレッシュさが衣装にも表れていて、今の彼だからこそ似合う衣装、着こなせる衣装とも言えるかもしれません。
 映画『アーティスト』の物語の世界観を反映させるというよりは、音楽の軽快なイメージを反映させたコスチュームだなと思いますね。


 6位は日本の宇野昌磨選手の「Dancing on My Own」です。

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 イギリスの歌手、カラム・スコットの歌う「Dancing on My Own」(原曲はスウェーデンの歌手、ロビン)をメインに、ほかの曲も組み合わせられたバラードプログラムです。
 衣装は黒をベースに、肩や腕、胸元にシルバーっぽい白の模様が描き出された幻想的な雰囲気。音楽自体が全体的に起伏が少なく、穏やかで大人っぽい曲想なので、やはり派手だったり華やかすぎたりする衣装というのは音楽のイメージを殺しかねないですが、黒と白というモノトーンで統一することによって曲を邪魔せず寄り添っているという感じでしょうか。一方で少しキラキラ感のある白の模様は具体的なイメージの元などはわかりませんが、神秘的かつ光と闇を感じさせ、魅力的な衣装になっているなと思います。


 7位はロシアのドミトリー・アリエフ選手の「サウンド・オブ・サイレンス」です。

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 サイモン&ガーファンクルの名曲「サウンド・オブ・サイレンス」をアメリカのヘヴィメタルバンド、ディスターブドがカバーしたバージョンを使用。ヘビメタバンドではありますが、ダイナミックで荘厳な印象の楽曲となっています。
 衣装は紫から黒へグラデーションする重厚な色づかい。最も紫が強いのは左肩から左の二の腕のあたりにかけてで、そこを中心に細かな装飾が散りばめられ、まるで銀河のようでもあります。そこから下、または先端に向かって徐々に黒みを帯びていくグラデーションになっていて、夜空を思わせます。とてもシンプルな衣装ですが、「サウンド・オブ・サイレンス」の歌詞の世界観にも合っていて、素敵だなと思います。


 8位は日本の田中刑事選手の「映画『シャーロック・ホームズ』より」。

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 2009年公開(日本では2010年)の映画『シャーロック・ホームズ』のサントラを使用したプログラム。かの名探偵シャーロック・ホームズが主人公ということで、もちろん田中選手の衣装もシャーロック・ホームズをイメージしたものと思われます。
 その衣装は肘までまくし上げた白シャツにショート丈のネイビーのベスト、そして上の画像ではわかりにくいですが白い線の入ったストライプの黒パンツという紳士的なスタイルです。ただ、その中でもところどころ遊び心がうかがえ、まずタイを普通のネクタイではなくスカーフっぽいアスコットタイにすることで、より洗練されたおしゃれ感が演出されているように思います。そしてこれまた上の画像では見にくいのですが、ベストには全面に繊細な刺繍が施されていて、かなり本格的な作りとなっています。また、パンツもあえて真っ黒ではなく白ストライプ入りにすることで少しカジュアルな印象にしていますし、ベルトもシルバーのバックルが目立つものにすることでやはりカジュアル感が出ていて、一見スタンダードなコーディネートなのですが、細部まで工夫とこだわりが散りばめられた素晴らしいコスチュームだと思います。


 9位はカナダのナム・グエン選手の「ビートルズ・メドレー」です。

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 ビートルズの「カム・トゥゲザー」「ゲット・バック」「レット・イット・ビー」の3曲によるメドレープログラムです。
 比較的軽快なパートの多いプログラムということで、衣装もシャツとネクタイ、パンツというシンプルなスタイルです。ですが、シンプルさの中にも個性、独自性がうかがえ、まず目を引くのはワイン色のシャツでしょう。ワイン色のシャツというもの自体はそこまで珍しい色づかいではありませんが、白だときっちり感が出すぎる一方、黒だと重々しくなりすぎるきらいがあり、ワイン色にすることで大人の男性の色気や渋さを引き出すとともに、決めすぎない程よいカジュアルさも表現されて、絶妙なチョイスかなと思います。また、黒いネクタイは先っぽだけ黄色になっており、遊び心の利いたアクセントと言えます。
 「ビートルズ・メドレー」ということで、曲ごとにイメージや世界観が変わる難しさのあるプログラムだとも思うのですが、コスチュームによって一つのコンセプト、世界観を作り出しているともいえ、そういった意味でもこの衣装の役割は大きいのかなと思いますね。


 10位はオーストラリアのジョーダン・ドッズ選手の「ロクサーヌのタンゴ 映画『ムーラン・ルージュ』より」。

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 さまざまあるタンゴ曲の中でも安定の人気を誇る「ロクサーヌのタンゴ」を使用したプログラムです。
 衣装は赤をメインにした実に華やかな色とデザイン。何といっても特徴的なのは全面にキラキラ加工がなされたトップスの素材感です。そこにさらに黒い線が縦横に入って独特の模様を作り出していて、インパクト大なデザインとなっています。全体的に赤だけだと少し派手すぎるかなという気もするのですが、黒いラインが入ることでモダンなデザイン性も加わり、また、着物の半襟のように襟ぐりから前身頃にかけて黒が用いられることで締まった印象にもなり、派手さとシックさのバランスが取れていますね。
 赤と黒というタンゴの王道の色を用いながら、デザイン的には王道のイメージにとらわれないオリジナリティー溢れるデザインにしていて、素敵なコスチュームだと思います。



 ベストコスチューム19/20、男子フリー部門は以上で終了です。さて、いよいよ次が最後、アイスダンスです。リズムダンス、フリーダンスとそれぞれベスト10を紹介したいと思いますので、記事アップをしばらくお待ちください。では。


:記事冒頭の国際スケート連盟のロゴは、国際スケート連盟フィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、羽生選手の画像は、フィギュアスケート情報ブログサイト「No Figure skating,No Lifeーフィギュアスケートに恋をしてー」から、金選手の画像は、女性ファッション誌「non-no」の公式サイトのフィギュアスケートページから、リッツォ選手の画像は、写真画像サイト「ゲッティイメージズ」から、ビチェンコ選手の画像、宇野選手の画像、田中選手の画像、グエン選手の画像、ドッズ選手の画像は、マルチメディアサイト「Newscom」から、島田選手の画像は、デイリースポーツのニュースサイトが2019年11月23日に配信した記事「島田高志郎はフリー137・67点、合計213・65点」から、アリエフ選手の画像は、フィギュアスケート情報サイト「Inside Skating」が2020年3月23日に配信した記事「Dmitri Aliev: “Fate has gifted me with figure skating”」から引用させていただきました。

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# by hitsujigusa | 2020-05-26 17:46 | フィギュアスケート(衣装関連)