清原なつの『花岡ちゃんの夏休み』―みやもり坂があった頃

花岡ちゃんの夏休み (ハヤカワコミック文庫 (JA840))


※5月21日、文章内の変更と、関連リンクを加えました。

【収録作】
「花岡ちゃんの夏休み」
「早春物語」
「アップルグリーンのカラーインクで」
「青葉若葉のにおう中」
「なだれのイエス」
「胸さわぎの草むら」
「グッド・バイバイ」


少女漫画家清原なつのさんの代表作「花岡ちゃんシリーズ」を収めた文庫。

才女を自称するメガネ女子大生花岡数子は、世俗の雑事には無関心、学問に異常な情熱を傾ける変人。そんな花岡ちゃんがひょんなことから出会ったのは、悪魔みたいに頭が切れるとうわさの簑島さん。才女としてのプライドをあっさり打ち砕かれる花岡ちゃんだが、なぜか簑島さんに惹かれていき……。

というお話。
二人の出会いを描いたのが「花岡ちゃんの夏休み」。
二人がさらに接近するのが「早春物語」。
「アップルグリーンのカラーインクで」は、花岡ちゃんの友人美登利が主人公。花岡ちゃんは脇役で登場。
「青葉若葉のにおう中」は、花岡ちゃんそっくりな女子大生宮嶋桃子が登場する話。実質的には花岡ちゃんとは全く関係ない話ですが、一応シリーズに入ります。
「なだれのイエス」はシリーズ完結編。簑島さんが事故に遭って花岡ちゃんが我を失う話。
この5作が「花岡ちゃんシリーズ」ということになります。
(「胸さわぎの草むら」「グッド・バイバイ」は別の独立した短編。)

このシリーズの魅力はなんといっても主人公花岡ちゃん。
花岡ちゃんはヒジョーにまじめに「人生とはなにか」「自分とはなにか」と考えるわけですが、あまりにもそれしか見えなさすぎていておもしろい。
たとえばこんなセリフ。

昔 幼かった頃には―― まったく単純にお嫁にいくことを夢みてた  ところが近頃それがめんどくさくてならん! うっとーしくってならん!  この限りある人生の貴重な時間をなんで赤の他人のためにさかねばならんのじゃ!〉(清原なつの『花岡ちゃんの夏休み』早川書房、2006年3月、10頁)

うーん、たしかにそう言われるとそうなんだが。真理をついているように思えないこともないが。そう言い切ってしまうゴーイングマイウェイな花岡ちゃんがすごい。

しかし、そんな花岡ちゃんの上を行くのが簑島さん。大学生のくせにやたら達観していて、
〈「ものごとはまげて見ナナメから見てホントのことがわかるんだよ」〉(同上、16頁)と、花岡ちゃんに衝撃を与える。
そんな簑島さんに惹かれるうち、自分が低俗なものと決めつけていた恋愛感情に翻弄される花岡ちゃん。二人の恋の行方は……。

◆◆◆◆◆

ところで、「花岡ちゃん」は金沢を舞台にしています。
私hitsujigusaは金沢在住なので、そのこともあって「花岡ちゃん」ファンになりました。

作者の清原さんは金沢大学薬学部の卒業生。
金沢大学のキャンパスはかつて、金沢城跡地にありました。
現在、大学は移転し、跡地は金沢城公園として整備され、大学があったことを思わせるものはほとんどなし。
しかし、唯一「花岡ちゃん」を想起させるものが残っています。
「みやもり坂」です。

完結編「なだれのイエス」では、大学構内にある「みやもり坂」でなだれが発生、簑島さんが遭難するという事故が起きます。
んなばかなとつっこみを入れたくなりますが、実際のみやもり坂がこちら。

c0309082_21236.jpg


坂の上から見るとこんな感じ。

c0309082_245014.jpg


伝わりにくいかもですが、けっこう勾配があって、全長150mくらいでうねうねくねっています。
すぐ脇に石垣があって木々が迫っているので、なだれが起きてもおかしくない?とも思えます。

この本の巻末にあるあとがきマンガ「みやもり坂の頃の事~花岡ちゃんの思い出~」で、清原さんはこう綴っています。

北陸なので雪が降り積もると通学ならぬ登城も大変
そんなある日 一番の難所みやもり坂で スキーをしている人を目撃しちゃったのでした  みやもり坂は雪の無い季節には学生たちが自転車で一気登りができるかどうかで脚力自慢をしていた長く急峻な坂でした〉(同上、259頁)

スキーをする人を見たのがきっかけで、「なだれのイエス」を描いたと清原さんは続けています。

今ではみやもり坂という名前はなく、「いもり坂」となっています。
漢字では「宮守坂」と書くようですが、歴史的にはこれを「いもりざか」と読むのが正しいのでしょう。
清原さんはじめ当時の学生たちは、そのまま「みやもりざか」と呼んでいたのですね。

こんなふうに金沢も変わり、「花岡ちゃん」時代の面影も薄れつつあります。

そんななか、「花岡ちゃん」に登場する場所で実在するスポットがもう一つ存在します。
中央公園です。
中央公園は花岡ちゃんや簑島さんたち学生がたむろする場所としてよく登場します。
当時のキャンパスがなくなってしまった今、金沢城公園以上に、花岡ちゃん時代の面影を色濃く残している貴重なスポットといえるかもしれません。
が、そんな中央公園を巡って、今ある問題が生じています。

長くなってきたのでここらで一旦記事を終了します。
すみません。
続きは次の記事で。


【関連リンク】
金沢城公園 金沢城公園内の詳しい地図などが載っていますので、参考までに。

【ブログ内関連記事】
続き:『花岡ちゃんの夏休み』―中央公園の思い出 2013年5月19日
清原なつの『花図鑑』―科学的な体と非科学的な心 2015年8月7日




花岡ちゃんの夏休み (ハヤカワコミック文庫 (JA840))
清原 なつの
早川書房
売り上げランキング: 187,990

[PR]
Commented by みち at 2013-08-09 01:33 x
「夏休み」で検索をかけて偶然たどり着きました。
私も、花岡ちゃんのファンで、中央公園の件では、同様の趣旨でブログに書けたらと思っていました。
伐採計画では、多分、簑島さんが根元に腰掛けてタイプを打っていたと目される木も、なくなってしまうようで、
寂しい限りです。
現在はまだ残っている宮守坂ですが、これも将来なくす方向のようで、
http://www.pref.ishikawa.lg.jp/chiji/kisya/h23_1_4/09.html
金沢大学時代のよすががどんどん消えていきますね。
今は、人気のあるアニメ作品の舞台を訪ねる聖地巡礼が流行りですが、
花岡ちゃんシリーズに関しては、その聖地自体、どんどんなくなっているわけで、
もう少し目利きがあれば、まちおこしにも使えばと残念です。
Commented by hitsujigusa at 2013-08-10 15:52
みち様、コメントありがとうございます。

市民団体の活動などもあり伐採される本数は減りましたが、芝生のコンクリート化など基本的な計画は変わらず、どんどん公園の姿が変えられているのが残念でなりません。
みち様のおっしゃるとおり、金沢大学時代の名残りや風景がどんどん消えていってしまって、花岡ちゃんファンとしては淋しいですね。
みやもり坂のことについて、教えて下さってありがとうございます。廃止にというのは全然知らなかったので、びっくりしました。
張っていただいたリンク先を読みましたが、みやもり坂は旧陸軍がつくった坂で石垣の景観を損ねているから将来的に廃止したい、という県の考えのようですね。
たしかに、みやもり坂は古い歴史のある坂とは言えませんが、でも近代以前のものだけが“歴史”ではなく、たった100年や数十年の間にも構築されるものはあるんじゃないかと思っています。
みやもり坂や中央公園は、ある時代において、金沢という街を代表する風景、象徴的な風景のひとつだったのだと思うと、歴史が浅いからといって安易に無くしてもいい、変えてもいいというのは、浅はかな考えのように思えますね。
Commented by OjisanLv.57 at 2018-02-01 22:28 x
私が金沢大学1年生の時でしたが1977年頃に清原なつのさんとお会いした事があります。金沢大学の白梅寮祭でクラスメートの女の子に無理言って会わせてもらいました。白梅寮の階段の踊り場でお会いしたのですが、5才年上の大先輩でしたが聡明そうな方だったという記憶があります。
by hitsujigusa | 2013-05-19 03:26 | 漫画 | Comments(3)