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夜に読みたい小説・私的10撰

アフターダーク (講談社文庫)


 9月に入り、徐々に秋らしさが感じられるようになってきました。今頃の季節の夜のことをよく“秋の夜長”と言いますが、日の入りから日の出までの時間がいちばん長いのが秋だからというのが理由なようです。ということで、長い夜に読むのにぴったりな小説を10冊ご紹介したいと思います。


 まずは“夜小説”の大定番とも言える作品。

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

【あらすじ】
 高校3年生の甲田貴子が通う北高には、全校生徒が24時間かけて80キロの道のりを歩く“歩行祭”という行事があった。貴子は高校最後のこの歩行祭で、クラスメートの西脇融に関したある賭けを自分の中に秘めていた。一方、西脇融も貴子のことをある特別な理由から意識していて――。

 恩田陸さんの『夜のピクニック』。映画化もされており、恩田さんの代表作となっている。
 ストーリーは実にシンプルで、歩行祭に参加する中で登場人物たちが自分の秘密を吐露したり、自分自身と向き合ったりし、友情を深め成長していくというある意味青春小説らしい青春小説と言える。こういうふうに内容をまとめてしまうと何とも陳腐で申し訳ないのだが、実際に作中で大きな事件が起こるとかあっと驚くようなどんでん返しがあるとかいうことはなく、キャラクターたちの台詞の積み重ね、やりとり、心理描写によって物語は進められていく。
 それが成り立つのはやはり“歩行祭”という設定が大きい。昼日中に行われるウォーキングやハイキングなどではなく、朝の8時に学校を出発して翌日の朝8時に再び学校に戻ってくるという夜通しで行う行事の特殊性。昼ならば自分自身に仮面をつけて取り繕うこともできるが、夜ともなればそうはいかない。暗闇の中に身を投じるという特別感、真夜中に堂々と外を出歩いているという非日常感、それに加えて身体を侵食してくる疲労感が、被っていた仮面を取っ払い、ありのままの心を露わにしていく。夜が持つ魔力がそうさせるのである。
 また、歩行祭は前半はクラスごとに歩く団体歩行、後半は誰と歩いても良い自由歩行となっていて、この構成も巧みである。比較的のんびり歩く前半、転換点となる後半、ラストスパートをかける終盤といったように歩行祭の中でもメリハリがあり、ただほのぼのと歩くだけにはなっていない。そして午前8時までにゴールしなければいけないという緊張感もある。だからこそキャラクターたちの心にも緩んだり張り詰めたりと微妙な移り変わりが生まれ、ストーリー自体は地味にもかかわらずドラマティックとさえ感じられる物語になっている。
 主人公は甲田貴子と西脇融のふたりで、それぞれの視点が交代する形で語られる。主軸となるのは貴子と融のあいだの秘密、因縁だが、ふたりの友人たちもしっかり“キャラ立ち”している。主人公の添え物ではなく、その人物の性格や育ってきた背景など、書かれていないところまで伝わってくるような細かい人物造形。クラスにこういう人いたよなーと思わせる実在感。そういった巧みな描写によって主人公の成長物語にとどまらない、読みごたえのある青春群像劇に仕上がっている。


 こちらも、夜という設定を効果的に使った作品です。

アフターダーク (講談社文庫)

アフターダーク (講談社文庫)

【あらすじ】
 深夜のファミレスで大学生の浅井マリはひとり、本を読んでいた。そこに風変わりな青年・高橋が現れ、マリに声を掛ける。マリと高橋はとりとめもない会話を始める。一方、高橋の元同級生でマリの姉であるエリは、暗い部屋の中で2か月も眠り続けていて――。

 村上春樹さんの『アフターダーク』は、ある一夜の出来事を描いた作品。23時56分から6時52分という夜の中で交錯するさまざまな人々のちょっと変わった日常というのを描いている。
 ある一夜に、特定の場所で起きた物事を書いているという点で村上さんの小説の中では珍しいタイプの作品かなと思う。深夜のデニーズに女の子がいて、そこに青年がやって来て、他愛もない会話を交わして……という変哲もないといえば変哲もない話である。もちろん実際はそれだけではなくて、マリがラブホテルと関わっていたり、マリの姉がなぜか長い間眠り続けていたりとありきたりな日常話では終わらないのだが、大事件が起こるとか別の場所へ冒険に行くとかいうことはなく、現実世界の都会の街の深夜の光景を描写しているにすぎない。にもかかわらず、この物語全体にはどこか異界のような妖しさが漂う。デニーズやセブン・イレブン、スガシカオといった固有名詞や、ラブホテルや中国人の売春婦といった生々しいモチーフも登場するが、全てひっくるめてこの世のことでないような不思議な雰囲気に包まれている。
 だからといって、現実感がないということではない。特に、夜から夜明けに向かって流れる時間の描写は印象的だ。時間とともに変化していく空気の質感、夜特有の冷たさ、または温かさ。暗さと明るさ、静けさと喧騒などが、手触りのある表現で描かれていて、その点では普通の日常らしいにおいがする。
 また、珍しいといえば文章も特徴的である。現在進行形で三人称のシナリオ風文章は、淡々と登場人物たちの表情や動きを描写するもので、その淡々ぶりが現実から一歩離れたところで景色を眺めているような、それこそ客席からステージの上のお芝居を観賞しているような何とも言えない心地にさせる。
 もうひとつ特徴と言えるのが、語り手である。この物語の語り手は“私たち”という謎の存在である。“私たち”は世界を俯瞰するような形で人々を眺め、マリや高橋、エリたちの姿をとらえる。このつかみどころのない不可思議な語り手の存在も、現実であり現実でないようなこの物語の雰囲気をいっそう高めている。


 続いては、子どもにとっての夜を描いた児童書3冊です。


七夜物語(上)

七夜物語(上) (朝日文庫)

【あらすじ】
 母とふたり暮らしのさよは小学4年生。ある日、さよは町の図書館で『七夜物語』というタイトルの本を見つける。なぜか『七夜物語』に惹かれるさよだったが、ある夜、ひょんなことから同級生の灰田くんと一緒に近所の高校に忍び込むことに。そこで出会ったのは人間ほどもある大きなネズミで――。

 川上弘美さんのファンタジー『七夜物語』。主人公さよとその友だちである灰田くんとが、不思議な夜の世界に入り込みさまざまな冒険をしていくというお話。といってもその“冒険”は決して明るく楽しいものではなく、子どもたちにとっては本当に過酷で辛いものである。もちろんそれは肉体的に虐げられるとかいじめられるとかいった類のものではないが、もしかしたらそれよりも辛い経験かもしれない。
 さよと灰田くんが夜の冒険の中で対峙するのは、悪意を持った敵などではなく、自分自身に内在する“闇”である。大人が自分のダークサイドと向き合うといった小説は数多くあるが、一見無垢で純粋な幼い子どもの世界に存在する“闇”や“暗さ”を描いていて、印象深い。
 ふたりが向き合わなければいけない“闇”は、たとえば親や友だちに対する不安や不満、モノを粗末に扱ってしまう傲慢さ、自身に対する嫌悪感といった、大人と何ら変わらないものである。そういった物事がファンタジーらしいシンボリックな形で表現される。大人でも自分の汚い部分と向き合うのは嫌なものだが、子どもにとってみたらそれ以上で、さよと灰田くんも戸惑い、拒否感を示す。しかし、夜という圧倒的に孤独な世界に置かれる中で、必然的にふたりは自分の心と対話することになる。たどたどしく、危なっかしくとも、子どもは子どもなりに考え、自分の答えを導き出す。そんな子どもたちの姿は、ファンタジーではあるが現実味に溢れている。
 子どもが読むのはもちろん、大人が読んでも楽しめ、考えさせられる点も多い秀逸な作品。



夜の子どもたち

夜の子どもたち

【あらすじ】
 地方の小さな町・八塚市で、5人の子どもたちがある日突然登校拒否となった。その原因を探るため八塚市にやって来た若きカウンセラーは、5人に共通のある恐怖体験があることを突き止める。しかし、子どもたちの不登校以外にも、八塚市には謎めいたことが多くあって――。

 児童文学作家・芝田勝茂さんの『夜の子どもたち』。その名もずばりなタイトルだが、“夜”というモチーフを巧みに使った作品。
 この作品が最初に出版されたのは1985年。今では不登校など珍しいことでもなんでもないが、80年代あたりはまだ一般的な社会問題としてはさほど重要視されていなかったのだろう。この物語は5人の子どもの不登校問題を解決しようとカウンセラーがやって来るところから始まる。が、単にそれぞれの子どもたちの精神とか家庭環境といった個々の問題ではなく、もっと巨大な存在が不登校の背景にあることが徐々に分かってくる。謎解きがメインなのであまり詳しくは書けないが、その鍵を握るのが“夜”なのである。
 “夜”が人間に与える影響、“夜”の根源に迫る内容となっていて、どことなく背筋が寒くなるような不気味さもある。ミステリーとしてはあくまで子ども向きかもしれないが、何とも言えないうすら寒さというか、人間の心の闇をあぶり出すような感じは、大人が読んでもちょっと怖いんじゃないかという気がする。



トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

【あらすじ】
 トムは弟のピーターがはしかにかかったため、おじさんとおばさんが住むアパートに預けられるはめに。アパートは古く大きな邸宅だったが、まわりに友だちもおらずトムは退屈する。そんなある夜、アパートのホールの大時計が13回鳴り、あるはずのない夜の“13時”を告げたのをトムは目の当たりにする。さらに、裏口の外には昼間は無かった美しい庭が広がっていて――。

 イギリスの児童文学作家、フィリパ・ピアスさんの代表作『トムは真夜中の庭で』。言わずもがなの名ファンタジーであり、夜を舞台にした傑作です。
 主人公の少年トムが、真夜中にもかかわらず13回鳴る時計をきっかけに不思議な庭園を見つける。トムは庭でハティという少女と出会い、そこがヴィクトリア朝時代であることを知る。つまりはタイムトリップものなわけだが、SFではなくあくまで幻想的でロマンティックなファンタジーとなっている。
 庭を主な舞台にした児童文学はいろいろあるが、この作品は夜の庭が舞台となっていて、その謎めいた神秘的な雰囲気が何よりも魅力的。そして、時計が13回鳴ったり過去にタイムスリップしたりと、童心をくすぐるようなアイディアやモチーフがいっぱいでそれだけでもワクワクさせられる。
 だが、今作もやはり夜を舞台にしているだけあって、少年と少女が出会って楽しい時間を過ごしました、めでたしめでたしというような底抜けに明るいのみの物語ではなく、子どもの心の問題がちゃんと描かれる。逆に言えば心に閉ざされているものを露わにするからこそ、夜でなければいけないのだろう。


 次は、夜を描いた海外の小説3冊です。


夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)

夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)

【収録作】
「老歌手」
「降っても晴れても」
「モールバンヒルズ」
「夜想曲」
「チェリスト」

 イギリスの作家、カズオ・イシグロさんの短編集『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』。音楽と夜(夕暮れ)をテーマにした5つの短編が収録されている。
 どの短編も素晴らしく、それぞれに魅力があるが、共通しているのは大人の物語だということ。人生の盛りを終え、人生の夕暮れに差し掛かろうとしている人々の哀愁、悲哀が深く心に残る。「老歌手」の舞台はベネチア。離婚間近の老歌手とその妻、ひょんなことから夫婦と知り合いになったギター奏者の話だが、老歌手が醸し出すおかしみと渋みが、ベネチアの夜のロマンティックな情景と相まってしっとりとした味わいを感じさせる。「降っても晴れても」は、故郷に帰った男と久しぶりに再会した友人夫婦とのおかしなすれ違いを描いている。基本的には喜劇なのだが、年月を経るうちに変化してしまった友情の切なさもあり、単なるコメディに終わらない。「夜想曲」はあるホテルに宿泊したサックス奏者の男と有名女優との奇妙な一夜の物語。ホテルという見知らぬ場所で、見知らぬ人間と一夜の接点を持つというちょっとした非日常感がありありと描写される。全くの赤の他人、今後自分の人生に関わることのない人間が相手だからこそ、心を開くことができる。そんな大人と大人のふれあいが印象的だ。
 5つの短編はどれも大人の悲哀を感じさせる内容だが、決して湿っぽさはない。からりとしてとても清々しい哀切だ。だからこそ、悲哀とともに少し笑えるようなコミカルさもあるし、読んでいて心地よい。そんな短編集である。


初夜 (新潮クレスト・ブックス)

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

【あらすじ】
 1962年のイギリス。若き夫婦、エドワードとフローレンスは結婚式と披露宴を終えたばかり。幸福の真っただ中にいるふたりだったが、それぞれ危惧していることがあった。それは、セックスの経験がないこと。両親や友人たちに見送られ、いよいよエドワードとフローレンスは初めての夜を迎えることになるが――。

 こちらもイギリスの作家、イアン・マキューアンさんの『初夜』。タイトルのとおり、結婚初夜の若い夫婦の話なので、厳密に言えば“夜”を描いているというよりも“初体験”を描いているのだが、夜を舞台にしていることは間違いないので選ばせて頂いた。
 1960年代初頭のまだ“性”に関しては閉鎖的だった時代。エドワードとフローレンスも当然のごとく“性”については無知で、結婚式を終え、その瞬間が目前に迫っている今、最大の緊張を強いられている。息を張り詰めるような不穏な空気が物語の冒頭からヒシヒシと感じられ、ふたりの不安、心配が手に取るようにわかる。
 初めて身体を重ねる“初夜”という出来事の重さ、深刻さがここまで真正面から書かれている小説も珍しいだろう。男女が結ばれることの幸福、甘さではなく、恐怖にも似た困難が主題である。やはりそこには時代性もあって、“性”が一種のタブーであるからこそ、この夫婦も戸惑いを覚えるのである。未知の世界に足を踏み入れる時の恐れ、無知ゆえの危うさ。反対に、新しい経験への期待や歓喜もあり、ふたりの複雑な感情が緻密かつ臨場感たっぷりに描かれる。
 “性”の描写だけでなく、風景描写も美しい。初夜の舞台となるホテル、ホテルが立地する風光明媚なビーチ。1960年代のイギリスの雰囲気も存分に味わえる作品である。


 最後は、怪異を描いた日本の小説3冊です。


きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

【収録作】
「きつねのはなし」
「果実の中の龍」
「魔」
「水神」

 森見登美彦さんの短編集『きつねのはなし』。どの短編も京都を舞台に、現実と非現実が入り混じった妖しげな出来事、事件を描いている。必ずしも夜をメインにした話ばかりではないが、夜のシーンが多く、印象深い。
 この短編集に限らず森見さんの小説というのはどれもそうだが、妖しい情景を描写したり独特の雰囲気を作り出すのが巧い。この4編でもその描写力は存分に発揮されていて、自然に異界へと導いてくれる。
 「きつねのはなし」はある古道具屋にまつわる怪異譚。アルバイトの主人公の青年、若く美しい古道具屋の女主人、不気味な雰囲気を漂わせる古馴染みの客、そして謎めいた古道具。シチュエーションや設定は奇抜なものではないが、その古風な情緒が懐かしくも新鮮であり、引き込まれる。
 ほかの3編にも共通して同じことが言えるが、「水神」はまた少し違った面白味のある話だ。主人公の青年は亡くなった祖父の通夜に出かける。通夜の後、青年の父や伯父たちと酒宴をしながら寝ずの番をすることになる。そして、ここにも”芳蓮堂”が登場し、祖父が預けた家宝を返しに来る。夜は夜でも通夜の夜という非日常の時間が、いかにもこの世のものでない何かを寄せ付けそうで最初から気味の悪さを匂わせる。しかも、それがどっぷり非日常に浸ったシチュエーションではなく、“通夜”という誰もが経験ある日常の延長線上の非日常だからこそ、なんとなく想像ができて怖い。
 「水神」は思いっきり夜を描いているが、そうでない作品でも常に暗闇の気配が付きまとうのが、この短編集の魅力である。


室生犀星集 童子―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)

室生犀星集 童子―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)

【収録作】
「童話」
「童子」
「後の日の童子」
「みずうみ」
「蛾」
「天狗」
「ゆめの話」
「不思議な国の話」
「不思議な魚」
「あじゃり」
「三階の家」
「香爐を盗む」
「幻影の都市」
「しゃれこうべ」

 詩人としても活躍した文豪・室生犀星の怪談を集めた短編集『室生犀星集 童子』。
 上述した『きつねのはなし』同様、全てが夜ばかりを舞台にした作品というわけではないが、やはりこれも暗闇の気配が色濃く漂う短編集である。室生犀星のそれは森見さん以上に濃く、しかも体感に迫るような生々しさ、グロテスクさもある。美しい闇というよりは悪寒が走るほどの暗さ、冷やかさである。
 当ブログでは既にこの本を単独で取り上げて記事にしているので、詳しくは下のリンクをご参考下さい。


降霊会の夜 (文春文庫)

降霊会の夜 (文春文庫)

【あらすじ】
 初老の“私”はしばしば知らない女が出てくる不思議な夢を見ていた。そんなある夜、“私”は夢の女とそっくりな女と出会う。女は、森にジョーンズ夫人という霊媒師が住んでおり、死んだ人にも会わせてくれると“私”に言う。興味を持った”私”はジョーンズ夫人の元を訪れて――。

 浅田次郎さんの『降霊会の夜』。主人公が降霊会で亡き思い出の人々と再会する怪異譚です。
 亡霊が登場するのでホラーとも言えないこともないが、亡霊が登場するということ以外にはさほどホラーめいた仕掛けや設定はない。この小説でメインとなるのは、主人公の思い出であり人生である。亡霊と再会することで自分の人生を振り返る主人公。少年時代、青年時代のさまざまな出来事が、生前に主人公と関わりを持った亡霊たちの証言によって語られる。亡霊が語ること自体に不気味さがないわけではないが、いちばん怖いと感じるのは人間の心である。主人公がこれまでの人生で目にしてきた人間の心の闇、そして彼自身が犯してきた罪悪。亡き人々との再会によって、男は否応なく自分の心と向き合わざるを得なくなる。
 亡霊の証言というのはもちろん一種のファンタジーなのだが、にもかかわらずそこには妙なリアリティがある。死者といってもそれらは自分が知る人々であり、確かにかつて生きていた人々なのだ。“幽霊”などといっておざなりにできない。そんな亡霊の実在感みたいなものが物語全体から滲み出ていて、怪談に説得力を与えていると思う。



 以上が、夜に読みたい小説のベスト10です。怪談とか怪異譚というのは必然的に夜の話になることが多いかなと思うのですが、そういった夜の怖さを書いたものだけでなく、『夜のピクニック』や『アフターダーク』、『夜想曲集』のような夜の描き方もあり、ひとえに“夜”といっても多種多様ですね。また、子どもにとっての夜を描いた作品も印象的で、大人にとってのそれとはまた意味合いの異なった“夜”になるんですね。成長するための孤独を味わう時間としての“夜”でしょうか。
 というわけで、この記事はこれで終わりです。秋の夜長にひっかけた記事ですが、もちろん秋のみならず、いつの夜に読んでも楽しめる小説ばかりです。ご参考になればと思います。では。


【ブログ内関連記事】
冒険を描いた小説・私的10撰 2015年8月29日  川上弘美『七夜物語』を記事内で取り上げています。
室生犀星『室生犀星集 童子』―生と死の生々しさ 2013年5月30日
幽霊を描いた小説・私的10撰 2015年7月24日  室生犀星『室生犀星集 童子』、浅田次郎『降霊会の夜』を記事内で取り上げています。

by hitsujigusa | 2014-09-16 01:56 | 小説