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スケートアメリカ2014・男子&アイスダンス―町田樹選手、圧巻の2連覇

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 14/15シーズンのGPシリーズ初戦、スケートアメリカが現地時間の10月24日から26日にかけてシカゴで行われました。
 男子シングルの優勝者は日本の町田樹選手。自己ベストには及びませんでしたが、2位を大きく引き離す圧倒的な大差をつけて、昨年に引き続きこの大会を制しました。銀メダルを獲得したのは地元アメリカのジェイソン・ブラウン選手、3位はカナダの新星ナム・グエン選手です。
 アイスダンスではアメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組が金メダルを獲得しています。

ISU GP Hilton HHonors Skate America 2014 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 優勝したのは町田樹選手です!

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 温めてきた新プログラム初お披露目となった町田選手でしたが、初演とは思えぬ完成度の高さで観客を魅了しました。
 SPは「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」。07/08シーズンに浅田真央選手がSPに使用したことでも知られている名曲です。冒頭は大技4トゥループ+3トゥループ、一つ目の着氷で若干詰まったのですが、2つ目にうまく繋げて完璧に決めます。3アクセルは空中で軸が微妙に歪みましたが、これも問題なく着氷。2つのスピンとステップシークエンスを挟み、ラスト近くの3ルッツも成功させ、ほぼノーミスのSPとなりました。得点は93.39点、初戦でいきなりの90点超え、首位に立ちました。
 今回初めてこのプログラムを見せていただきましたが、とにかく素晴らしいの一言。町田選手自身は反省点ばかりと話していましたが、ただただ美しい演技で見惚れてしまいました。この「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」は映画『ラヴェンダーの咲く庭で』の劇中曲ですが、タイトルのとおりヴァイオリンの繊細かつ切ない音色と壮大な管弦楽が一体となった音楽で、イメージとしては女性的な印象です。なので、男性がこれを演じるのはそう容易いことではないと思うのですが、町田選手は見事に音楽の世界観を表現していましたね。町田選手はもちろん男性的な力強さもあるスケーターですが、それ以上に女性的とも言えるしなやかさを持ったスケーターだと私は思っています。指先や腕、背中といった身体の使い方は他の男子選手には無い柔らかさとエレガンスさを持っていて、それがこの曲の雰囲気にぴったり合っていて、男性ではあるけれども何の違和感もなくしっくり来るんだなと思います。これから町田選手が出場する毎試合、この作品を見られるのだと思うと嬉しいですね。

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 フリーはベートーヴェンの「交響曲第9番」、数多ある交響曲の中でも最も偉大かつ著名な交響曲と言ってよいでしょう。
 冒頭はまず4トゥループをしっかり成功させると、続く4トゥループ+2トゥループは少し体勢を崩しつつも着氷します。次の3アクセル+3トゥループも完璧で高い加点を得、後半に向かいます。後半は3アクセルを2アクセルにしたり、3フリップからの3連続コンビネーションジャンプが単独になったりと、疲れからミスは出たものの、プログラムの世界観を壊すことなく最後まで滑り切り、スタンディングオベーションを受けました。得点は175.70点、こちらも高得点でフリー1位。ショートと合わせて269.09点、2位に35点近い差をつけての優勝となりました。
 小さなミスはありましたが、プログラムの世界観を存分に魅せてくれる演技で本当に素晴らしかったですね。まず、驚かされたのは演技冒頭。音楽が流れ始めてからおよそ20秒間はポーズを決めたままじっとして動かず、20秒経って静から動へ勢いよく動きだすという斬新なスタート。重厚なオーケストラの音を全身でとらえ、まるで町田選手の身体から音楽が生まれ出ているかのような一体感のある演技。合唱「歓喜の歌」が入る後半はオーケストラと歌声によって最高潮の盛り上がりを見せ、町田選手の動きも一気に激しさを増し、その勢いが萎むことのないまま壮大なフィナーレを迎えます。
 交響曲は元々フィギュアでは使われる頻度は少なく、ましてやベートーヴェンとなるとほとんどないのではないかと思います。まず、交響曲はストーリーがなく、純粋に音のみで表現しなければならないというところに難しさがあるでしょうが、それに加えてやはりフィギュアは“ダンス”、“踊り”なので、リズミカルにテンポよく演技するためには難易度の高い音楽なのだろうなと思います。特にそれがベートーヴェンともなれば、重厚さ、荘厳さというのはピカイチですし、交響曲の迫力に負けないくらいの力強さやエネルギーに溢れた演技をするというのは相当大変なことだと思います。
 ですが、町田選手ならこの難しいプログラムをきっと完成させてくれるだろうと、今回の演技を見て確信しましたし、完成したらフィギュア史に残るような凄いプログラムになるだろうなとも感じました。
 町田選手の次戦はフランス大会。町田選手がフランス大会に出場するのは初めてですが、芸術の国フランスで彼の演技、プログラムがどう観客に受け止められるかというのも楽しみですね。スケートアメリカ2連覇、おめでとうございました。


 2位となったのはアメリカのジェイソン・ブラウン選手です。

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 SPは「Juke」、軽快かつコミカルなプログラムです。冒頭は得点源となる3アクセルからでしたが、回転は足りていたものの着氷がうまくいかず転倒。しかし、次の3フリップ+3トゥループ、後半の3ルッツは完璧にこなし、スピン、ステップでもブラウン選手らしさを発揮。プログラムの世界観を存分に見せてくれました。得点は79.75点で3位発進となりました。
 フリーは「トリスタンとイゾルデ」。冒頭は前日失敗した3アクセルを完璧に成功させると、続く2アクセル、3+1+3など、前半はほぼノーミスで波に乗ります。しかし、後半一発目の3アクセルは転倒でコンビネーションに繋げられず、その後も3+3、3ルッツなど、ミスが目立つ後半となりましたが、最後までスピードのある演技を見せました。得点は154.42点でフリーは3位、トータルで2位となりました。
 ショート、フリーともに3アクセルでミスがあり、本来の出来ではなかったのですが、その中でもブラウン選手らしい表現力は発揮されていて、この人の魅せる力というのは凄いなと改めて思いました。ジャンプ構成的にはまだ4回転が入っておらず、今大会は町田選手以外の有力選手にミスが多かったということもあって、4回転の無いブラウン選手にチャンスが回ってきた形になりましたが、トップ選手のほとんどが4回転を跳ぶ中で4回転を持たない彼がどう対抗していくのか、どれだけ上位に食い込んでいくのか、今後も大注目ですね。次戦はロシア大会です。


 銅メダルを獲得したのは今大会でGPデビューを果たしたカナダのナム・グエン選手。

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 SPは「Sinnerman」、ボーカル入りプログラムです。冒頭の3アクセルをパーフェクトに決めますが、3ルッツ+3トゥループはルッツの踏み切りがフラット気味で若干の減点、単独の3フリップは難なく成功させます。得点は73.71点でパーソナルベスト、7位につけます。
 フリーは「映画『道』より」。ショートでは入れなかった4サルコウは完璧な回転と着氷で、高い加点を得ます。続く3アクセルからのコンビネーションジャンプ、単独の3アクセルも成功させ、後半も減点のひとつもないほぼノーミスの演技。溌剌と滑り切り、演技を終えると満面に笑みを浮かべました。得点は158.53点で先日行われたスケートカナダオータムクラシックでマークした自己ベストにはわずかに及ばなかったものの、フリー2位で、総合3位となりました。
 ショートもフリーも大きなミスのない演技で素晴らしかったですね。GPデビューですから緊張がなかったことはないと思うのですが、表情も明るくてのびのびと滑っていて大物感を感じました。ショート、フリーともに軽快さや明るさの印象的なプログラムですが、ショートの「Sinnerman」は“罪人”という意味。フリーの「道」も映画自体は重さ、暗さのある映画ですし、しかも高橋大輔さんの「道」があまりにも強烈に印象深いプログラムなので、比較しては申し訳ないと思いつつも多少物足りなさは感じてしまうのですが、ショートにしてもフリーにしてもグエン選手特有の若々しさ、さわやかな明るさが前面に押し出されていて、本格的なシニアデビューということを考えると、あえて大人びた雰囲気を出すよりも等身大の明るさやコミカルさを強調する方がイメージ戦略的には正解なのかなとも思いましたね。
 グエン選手の次戦は中国杯。羽生結弦選手、若手の閻涵(ヤン・ハン)選手やマキシム・コフトゥン選手と表彰台を争うことになり、ファイナル進出には大きな壁が立ちはだかることになりますが、今大会のような演技を中国杯でも見せてほしいですね。


 4位に入ったのはソチ五輪銅メダリストのカザフスタンのデニス・テン選手。

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 ショートはイタリアのポピュラーソング「Caruso」。まずは単独の4トゥループからでしたが、これは転倒。次の3アクセルも着氷で大きく乱れ減点を受けます。後半の3+3は決めますが、スピンでも取りこぼしが目立ち、得点は77.18点で4位発進となります。
 フリーは「アルバム『New Impossibilties』より」。冒頭はショートと同じく4トゥループからでしたが、前日同様に転倒。2本目の4トゥループも2回転となってしまいます。その後、2本の3アクセルは完璧に成功させて立ち直るかと思われましたが、3+3+1が3+1+2になったり単独の3ループでも小さなミスが出るなどし、全体的に精彩を欠いたフリーとなりました。得点は147.56点でフリー4位、総合4位で大会を終えました。
 今大会のテン選手は4回転に悩まされているような感じでしたね。ショートもでフリーでもミスの仕方があんまり良くないミスの仕方で、噛み合っていないのかなと思いました。ミスが多かったためにプログラムの魅力を発揮するまでには至らなかったのですが、どちらもこれまでのテン選手とは違う魅力を引き出してくれるような作品のように感じましたし、特にフリーはアジアらしさ、ユーラシアの雄大さを想起させるプログラムでおもしろいなと思いました。
 それにしてもテン選手はGPではなかなかうまくいかないですね。スロースターターということもあるのでしょうが、表彰台に立てる実力は充分に備えているのにまだGPでの最高順位は4位で、メダルは一つも獲得していないんですよね。その一方で世界選手権ではすでにメダリストになっていますし、オリンピックのメダリストでもある。そういう星の下に生まれたのだと言えるのでしょうが、これまでのキャリアを見れば必ずしも一流大会での優勝経験やメダリスト経験が多いとは言えないのに、ここぞという大きな大会でチャンスをものにしてしまうというのは不思議な選手だなと思いますね。
 次の大会はエリック・ボンパール杯。次こそ初めてのメダル獲得が叶うことを願っています。


 5位はアメリカの大ベテラン、ジェレミー・アボット選手です。

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 ショートはボーカル入りプログラムの「Lay Me Down」。4回転は入れず、冒頭は3フリップ+3トゥループで無難な出だし。続く3ルッツも難なく決めましたが、後半に入れた3アクセルが大きく乱れてしまいます。それでもアボット選手らしいスケーティングの美しさ、音楽との一体感を見せてくれました。得点は81.82点で2位の好発進となります。
 フリーは「弦楽のためのアダージョ」。ショートでは回避した4トゥループに挑みましたが、すっぽ抜けて2トゥループに。それが影響したのか次の3フリップ+3トゥループも2フリップ+3トゥループになってしまいます。後半も3+1+3のファーストジャンプがシングルになったり、3アクセルがシングルになったりするなどミスが相次ぎ、得点は137.51点でフリー6位、総合でも5位とSPから順位を下げる結果となりました。
 なかなかジャンプがうまくいかず残念でしたが、プログラムの素晴らしさは随所にうかがえて、アボット選手によく合っているなと感じました。特にフリーは悲哀の印象が濃い重厚なプログラムで、端正なスケーティングと美しい身体づかいを持つアボット選手だからこそ表現できる作品だと思いますし、大人の男性の渋い魅力を醸し出していて、アボット選手の真骨頂だなと感じました。
 次戦はNHK杯なのでかなりあいだが長く空いてしまいますが、うまくその時間を活かしてジャンプの調子を取り戻せればいいなと思いますね。


 6位は世界ジュニア2014銀メダリストのロシアのアディアン・ピトキーエフ選手。

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 ショートはモダンアレンジされたラフマニノフの名曲「パガニーニの主題による狂詩曲」。冒頭の4トゥループは回転し切って降りたものの着氷でステップアウトしてしまいます。しかし、後半の3アクセル、3ルッツ+3トゥループは完璧で、フィニッシュしたピトキーエフ選手は小さくガッツポーズを見せました。得点は76.13点でこれまでのパーソナルベストを大きく更新して5位につけました。
 フリーはミューズの「エキソジェネシス交響曲第3部」。まずは4トゥループでしたが、転倒となります。その後は2本の2アクセルを決めるなど前半はまずまずの出来でしたが、後半は複数ミスがあり、満足のいく演技とはなりませんでした。得点は135.94点でフリー7位、総合6位でGPデビューの大会を終えました。
 ショートは小さなミスはあったものの良い内容で、フリーの出来次第で表彰台の可能性もあったと思うので残念でしたが、次のフランス大会で今大会の悔しさを晴らしてほしいなと思いますね。


 7位は昨季の世界選手権に初出場し9位と躍進した、フランスのシャフィク・ベセギエ選手。

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 ショートは「Heat/Clozee Mountain Legend」。冒頭の4トゥループ+3トゥループを成功させると、続く3アクセルも着氷させ、勢いに乗るかと思われましたが、後半は3ルッツやスピンでミスがあり、少しもったいない内容でしたね。得点は73.57点でフリー8位スタートとなります。
 フリーは「Road Game/You and Me 」。冒頭は前日同様、4トゥループからでしたがこれが3回転になり、続く4トゥループからの3連続コンビネーションでもミスが出てしまいます。その後も大きなミスではないもののチラホラ綻びが散見され、得点は135.13点でフリー10位、総合8位に順位を落としてしまいました。
 べセギエ選手は豪快なジャンプ力のある選手なのですが、今回は成功した4回転や3アクセルでもランディングがあまりきれいに流れなかったりして、GOEの加点を稼げなかったですね。あと、これは今大会に限ったことはないですが、スピンが苦手なのかレベルを取りこぼしたりGOEで減点を受けたりすることが多くて、そのあたりの細かいところでもより安定してくると、もっと成績も安定してくるでしょうね。次のGPは母国のフランス大会です。



 ここからはアイスダンスについてです。

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 アイスダンスで優勝したのは地元アメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組です。ショート、フリーともに安定した演技で、フリーのステップでレベルを取りこぼしたところはありましたが、全体的に良い内容で、ショート、フリー、総合の全てで自己ベストをマークしました。意外だったのはチョック&ベイツ組はスケートアメリカの出場は5年ぶりで、しかもこれがGP初優勝なんですね。スケートアメリカは今シーズン休養しているアメリカのエース、メリル・デイヴィス、チャーリー・ホワイト組が4連覇していて、なので久しぶりのスケートアメリカの新チャンピオン誕生ということになります。初めてのGPファイナル出場に向け、これ以上ない好スタートを切ったチョック&ベイツ組。次戦はロシア大会です。
 銀メダルを獲得したのは同じくアメリカのマイア・シブタニ、アレックス・シブタニ組。ショートでもフリーでもスピンだったりステップだったりで少しレベルを取りこぼすところがあり、その分得点を伸ばし切ることができなかったのかなという印象ですね。ですが、3年ぶりのファイナル進出に向けては好発進となったのではないかと思います。
 3位はロシアのアレクサンドラ・ステパノワ、イワン・ブキン組。昨季からGPシリーズに参戦していますが、今回が初めての表彰台です。自己ベストには遠い得点だったのですが、元世界ジュニアのチャンピオンカップルとしての実力を発揮してメダル獲得となりました。



 実力者が実力どおりの力を発揮して自ら優勝を勝ち取った男子とアイスダンスでした。女子&ペアについては次の記事で書こうと思いますので、少々お待ちください。


:男子シングルメダリスト3選手のスリーショット写真は、フィギュアスケート専門誌「International Figure Skating」の公式フェイスブックページから、町田選手の写真、ブラウン選手の写真、テン選手の写真、アボット選手の写真、ピトキーエフ選手の写真、べセギエ選手の写真はエンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、グエン選手の写真は国際スケート連盟のフィギュアスケート部門の公式フェイスブックページから、アイスダンスメダリスト3組のスリーショット写真は、AFPBB Newsが2014年10月26日の16:15に配信した記事「チョーク/ベイツ組がアイスダンス制す、スケート・アメリカ」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2014-10-29 23:31 | フィギュアスケート(大会関連)