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NHK杯2014・男子&アイスダンス―村上大介選手、パーソナルベストでGP初優勝(その1)

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 グランプリシリーズ14/15、最終戦のNHK杯について、前回の女子とペアの記事に続いて男子とアイスダンスについてお届けします。
 男子シングルの優勝者は日本の村上大介選手です。初めてのGP表彰台が何と優勝というビッグサプライズを起こしました。2位はロシアのセルゲイ・ボロノフ選手、この結果により自身初のファイナル進出を決めています。3位は日本の無良崇人選手、こちらも初めてのファイナル進出が決定しました。
 アイスダンスを制したのはカナダのケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組。GP2連勝で4度目となるファイナルへの切符を手にしています。

ISU GP NHK Trophy 2014 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 金メダルを獲得したのは日本の村上大介選手です!

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 SPは「ロクサーヌのタンゴ 映画『ムーラン・ルージュ』より」。冒頭は4サルコウ+2トゥループから、これを非の打ちどころなくパーフェクトに決めて高い加点を得ます。さらに3アクセルも完璧でさらに高い加点が付く出来。後半の3フリップも難なく着氷し、ステップシークエンス、スピンでも取りこぼしなくエレメンツをこなすと、「ロクサーヌのタンゴ」の重厚なリズムを全身で情熱的に表現。フィニッシュした村上選手は両手を空中に突き上げ、喜びを爆発させました。得点は79.68点、自己ベストを9点以上更新する会心の演技で3位発進となりました。
 本当にマイナスの全くない完璧な演技で圧倒されましたね。正直失礼ながらこれがあの村上選手かと思ってしまうほどの安定感と堂々とした存在感のある演技で見違えました。
 何といっても素晴らしかったのが4サルコウ。トゥループと違って爪先をつかない分跳び上がるのがより難しいジャンプですが、冒頭にさらりとお手本のようにクリーンに跳んでしまって、そこから一気に村上選手の世界が広がっていった感じでしたね。元々サルコウが得意な選手ですが、それにしてもこんなに綺麗に!と驚かされました。
 プログラムは「ロクサーヌのタンゴ」ということで、かつて高橋大輔さんが演じたことでも知られている楽曲ですが、村上選手はシーズン当初は映画『風とライオン』のサントラを使用したプログラムを滑っていたものの、しっくりこなかったのか東日本選手権から「ロクサーヌのタンゴ」に変更。それから1か月ない中での演技とは思えないほど見事に仕上げてきたなと思いますし、音楽との調和も素晴らしかったですね。

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 フリーはラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」。序盤は難度の高い大技の連続。まずは4サルコウを前日同様きれいに着氷すると、続く4サルコウ+2トゥループも完璧に成功。さらに3アクセル+2トゥループ、単独の3アクセルもクリーンに決めます。後半に入るとますます勢いは増し、それぞれ単独ジャンプを4つ立て続けに成功、スピンでも全てレベル4を揃えるなどそつのない滑りを見せ、演技を終えた村上選手は前日以上に歓喜を露わにしました。得点は166.39点、これまでのパーソナルベストを30点以上上回るハイスコアでフリー1位、総合でも1位に輝きました。
 前日のSPの上位3選手による記者会見で村上選手は、「僕は絶対に順位は落ちるので」と話していましたが、それくらい本人も、そして周囲の関係者の方や日本のフィギュアファンもなかなか想像できなかった劇的な結末でしたね。SPのジャンプが安定していたので表彰台は充分にありうると思っていましたが、それでも優勝までは予想できなかったです。でも、SPとフリー合わせてノーミスだったのは彼だけですから、優勝するのは当然といえば当然、逆に優勝しなかったらおかしいくらいの申し分のない演技でした。
 ジャンプは本当に失敗する気配の微塵もない安定感でしたね。練習から絶好調だったそうですが、練習が良くても本番で崩れるというのはよくあることですから、練習が良かったから本番も良かったというそんな単純なことではないと思うのですが、でもやはり練習の好調さ、そして実際にショートで練習どおりに出来たというのが、フリーにも良い影響を与えたのでしょうね。
 また、村上選手は「ノープレッシャーだった」ともおっしゃっていて、実際にそういった心の軽さがSPでの好演に繋がったのだろうと思います。ですが、SPで思いがけず3位という好位置に立ったことによって、心境の変化というのは間違いなく生まれたでしょうし、表彰台を守りたいという意識があったかどうかは分かりませんが、フリーは“ノープレッシャー”ということはなかったのではないかと想像します。その中であれだけ落ち着いて演技できたということは、村上選手の地力がついてきたことの証なのだと思います。
 NHK杯のチャンピオンという華々しい肩書きを背負って全日本選手権に挑むことになる村上選手。一躍注目される存在になったのでノープレッシャーで臨むことはできないかもしれませんが、村上選手のペースでまた全日本に向けて歩みを進めていってほしいなと思いますね。NHK杯優勝、おめでとうございました。


 銀メダリストとなったのはロシアのベテラン、セルゲイ・ボロノフ選手です。

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 SPはまず4トゥループ+2トゥループの連続ジャンプをクリーンに降り、好スタートを切りますが、後半の3アクセルは着氷で大きく乱れます。最後の3ループは問題なく成功させ、スピンでも全てレベル4を獲得するなど、実力者らしい安定ぶりを見せましたが、3アクセルのミスと全体的にGOE加点が伸びなかったこともあり、得点は78.93点とシーズンベストから10点以上低い得点となり、4位に留まります。
 フリーは4回転を2本組み込んだ構成で挑み、まずは4トゥループ+3トゥループをSPよりもきれいに決め、1点以上の高い加点を獲得。さらに前日失敗に終わった3アクセルからの連続ジャンプも完璧に成功させます。続く単独の4トゥループは3回転になり、3ルッツも2回転になりますが、その後は全てのジャンプ要素を予定どおりにクリアし、ボロノフ選手らしい男性的な色気を漂わせたプログラムを最後まで丁寧に演じ切りました。得点は157.72点でフリー順位は2位、総合2位に順位を上げました。
 ショートは3アクセルの大きなミスがあったとはいえ、それ以外はまずまずの内容だったので80点台を割り込んだのは意外でしたが、フリーは大崩れすることなくきっちり挽回してきて、欧州選手権銀メダリストの実力を見せつけてくれましたね。
 ボロノフ選手はこれまでのGPではなかなか2大会が揃わなかったのですが、大崩れしないという点では確実性が出てきて、トップスケーターとしての風格も感じられるようになってきたなと思います。
 これで2大会を終えて26ポイント、全体の5位で初のファイナル進出を決めたボロノフ選手。27歳なのでファイナリストの中では最年長となりますが、初出場なのであまり気負わずボロノフ選手らしい演技を見せてほしいですね。


 3位は日本の無良崇人選手です。

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 SPはまず4トゥループ+3トゥループをクリーンに決めると、代名詞の3アクセルは見事な高さと幅で加点2という高評価。後半の3ルッツも難なく着氷すると、ステップシークエンスでは「カルメン」の“闘牛士の歌”の軽快かつアップテンポな曲調にピタリと合った華やかなステップを披露、熱狂的にフィニッシュしました。得点は86.28点、自己ベストを2点ほど更新しトップに立ちました。
 スケートカナダで優勝し、プレッシャーがかかる状態でショートに臨んだ無良選手。そのせいかスケートカナダよりも最初は硬さがあるかなと感じましたが、ジャンプを降りるたびに少しずつ演技に柔らかさが出てきて、生き生きと「カルメン」の世界を表現していましたね。スケートカナダの記事でも書いたのですが、「カルメン」というと私は女子スケーターが妖艶に力強く“カルメン”を演じるという印象が強かったのですが、無良選手のような武骨な男らしさが魅力的な男子スケーターが演じると全く違った雰囲気になって、こういう表現のアプローチの仕方もあるんだな、こういう「カルメン」もありなんだなと、良い意味で「カルメン」のイメージを裏切られるような形で楽しく演技を見させてもらってますね。

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 フリーは最終滑走者として演技に臨んだ無良選手。前日はクリーンに決めた4トゥループが回転不足となり着氷で乱れます。ですが、2本目の4トゥループはしっかりと着氷してコンビネーションジャンプに繋げます。次は得意の3アクセルでしたが、力みが入ったのか珍しく1回転に。ミスの多い前半となりましたが、後半は細かなミスもあったものの3アクセル+2トゥループを含めジャンプをしっかりこなしました。演技を終えた無良選手は悔しそうに顔をしかめました。得点は148.16点、フリーは4位でしたが、ショートのアドバンテージを活かして何とか表彰台を守りました。
 SPから別人のように打って変わった演技になってしまいましたね。無良選手はフリーで最終滑走は初めてだったそうで、経験したことのない立場や空気というものがプレッシャーになってしまったのでしょう。無良選手がこれまで優勝した試合を見るとSP1位を守り切った優勝というのは何度もありますが、ただ順位として1位というのと、1位の上にさらに最後に滑るというとでは全然違うものなのですね。でも、ご本人がおっしゃっているように大きな舞台でこういった経験ができたのは良いことだと思いますし、ファイナルや世界選手権といったさらに大きな試合でも今回の失敗が糧になるのではないかと思います。
 演技内容的には点数が思った以上に抑えられたなという感じが私はしたのですが、ダウングレード含め回転不足が複数ありましたし、ジャンプに余裕がなかったというのもGOEに影響したのだろうと思います。ただ、その中でも4回転1本、3アクセル1本は確実に決めているので、その点では無良選手が長年掛けて積み重ねてきた底力を垣間見ることができましたね。
 2大会合計26ポイントで初のファイナル進出を決めた無良選手。ファイナルでは今大会よりものびのびとした演技を見られることを楽しみにしています。


 4位は日本の羽生結弦選手です。

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 中国杯の6分間練習で他選手と衝突するアクシデントに見舞われてから約3週間後の試合となった羽生選手。当初のジャンプ構成からはジャンプの順番を変更して臨みました。冒頭は大技の4トゥループでしたが、アンダーローテーション(軽度の回転不足)で降りてきてしまい転倒。後半の3アクセルは完璧に着氷し高い加点を得ましたが、3ルッツ+3トゥループの連続ジャンプはファーストジャンプの着氷で乱れてしまい、セカンドジャンプが1回転となるミス。ステップシークエンスやスピンでは本領を発揮したものの、ジャンプミスが響き、得点は78.01点、5位発進となりました。
 直前の6分間練習では4トゥループもきれいに着氷していたので、これはいけるのではないかという雰囲気を漂わせていましたが、本番は負傷による練習不足の影響がもろに表れた内容となってしまいました。万全な状態ならば4トゥループが回転不足になることなどほとんどないので、ある程度予想できたことではありますが、改めてあの中国杯での出来事がもたらしたものの大きさを思い知らされた気がしましたね。
 ただ、その中でもステップシークエンスとスピンでは全てレベル4を獲得していて、ジャンプにミスが相次いだとしても他をおろそかにしないいつもの羽生選手らしさも感じることができました。

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 フリーもジャンプ構成を変更し、今季の目玉だった4回転3本を2本に減らしました。まずは1本目の4サルコウでしたが、すっぽ抜けて2回転になります。さらに続く4トゥループも3回転となり転倒。しかし、次の3フリップはきっちりと着氷します。後半に入り、3ルッツ+2トゥループ、3アクセル+3トゥループを立て続けに成功させ波に乗るかと思われましたが、3アクセルからの3連続ジャンプは1+1+3に。その後は演技が進むにつれ明らかにスピードが落ちましたが、最後まで気持ちを切らすことなく懸命に滑り切りました。得点は151.79点、フリー3位でショートから1つ順位を上げて大会を終えました。
 ショートの演技後は悔しさを露わにし、悔しい感情はプラスになるとしてフリーに挑んだ羽生選手でしたが、やはりあれだけのアクシデントに遭ったのですから、その影響を完全に払拭することはいくら羽生選手と言えども難しかったでしょうし、今回の演技内容は致し方ないことだと思います。
 羽生選手は競技後のインタビューで今大会思ったような演技が出来なかったことに関して、怪我の影響ではなく精神的な問題を主な理由に挙げました。実際のところ脚の負傷がどれほど回復しているのか、痛みの程度はどれくらいかといったことは本人にしか分からないのですが、そういった身体的なことはさておいて、確かに今大会の羽生選手の演技はエレメンツの成否やクオリティーなどとは別の面で、羽生選手らしくない部分があったかなと感じました。
 これまでも羽生選手が負傷しながら試合に出場したことは何度かあって、初出場した2012年の世界選手権の時は大会期間中に右足首を捻挫するというアクシデントを負いながらも、SP7位からフリー2位と挽回して銅メダルを獲得しました。2013年の世界選手権の時は1か月前にインフルエンザを患い満足に練習ができず、練習再開後は左膝、大会期間中は右足首と相次いで脚を痛め、満身創痍の中でSP9位から総合4位と巻き返しました。今回のNHK杯にも似た状況というのは過去にもあったわけですが、そういった時の羽生選手の演技というのはまさに“鬼気迫る”という形容詞に相応しい、怖いくらいの気迫や気力に満ち満ちていて、見ているこちらが羽生選手の身体から溢れるエネルギーに飲み込まれるかのような、そんな圧倒される何かがありました。それはジャンプの成功不成功とは関係がなくて、それこそ先日の中国杯のフリー演技の時は5度転倒し滑るのがやっとやっとというボロボロな状態だったわけですが、羽生選手の姿からは普通に演技している時以上の気力の猛烈さというのを感じました。
 ですが、今大会の羽生選手の演技からはそこまでの気迫や覇気が感じられませんでした。諦めの気持ちがあったとは思いませんが、かつて負傷を抱えながら演技をした時とは違う心情が羽生選手の中にあったのだろうと思います。
 今大会と中国杯の違いについて羽生選手は、「焦っていたか、そうでなかったかだけ」と話しました。また、SP後のインタビューではファイナルのことを意識しすぎていたとも言い、「僕ずっと『ファイナル行きたい、ファイナル行きたい』って言っているんですよ。『ファイナルじゃねえよ、ここ。NHK杯だよ』とすごく思ったんですね。ファイナルに行くためにこの試合をやる。そうじゃないんですよ。今は今だし、この大会はこの大会だからもっとこの試合に集中しなければいけないと思います」と自己分析しました。
 過去に身体的なトラブルを負いながら演技した時―2012年、2013年の世界選手権、そして先日の中国杯の時の羽生選手というのは、ただただ最後まで滑り切るということだけに没頭して、それ以外の何ものにもとらわれることなく演技のみに集中できていたのだと思います。ですが、今大会はファイナル進出が懸かる試合で、しかも中国杯のフリーに強行出場して2位になり、それによって手にしたファイナル進出のチャンスですから、あれだけ必死にやった演技を無駄にしたくない、せっかく頑張って勝ち取ったチャンスを生かさなければならないという意識が働いたのではないでしょうか。羽生選手と同じシチュエーションになれば誰だってそういう心境になるのは当たり前だと思いますが、そうした感情が雑念となって演技への集中を妨げ、羽生選手らしい気迫溢れる演技、ひいては本来のジャンプを失わせる要因の一つになったのかなと思います。
 また、中国杯のアクシデントによって羽生選手を見るメディアやファンの目は普段と違うものとなり、ブライアン・オーサーコーチや日本スケート連盟に対する批判の声も上がりました。SP前の記者会見で羽生選手は、強行出場を認めたコーチや連盟への感謝を口にし、自身のコンディションについても「あまり深刻に受け止めないでいただければ」と話しましたが、そういった羽生選手の発言から考えても、自分がしっかり演技することでコーチ・連盟に対する批判や自身に対する心配の目を一掃したい、そういう目で見られるのはこれで終わりにしたいという思いもあったのではないかと想像します。
 そんな諸々のことが羽生選手を難しい状況に追い込んだのかなと思いますが、中国杯2位、NHK杯4位でギリギリではあるもののひとまずファイナルの切符は獲得して、ひとつ試合を無事に終えたわけですから、ファイナルではNHK杯とは全く違ったフレッシュな気持ちで演技できるのではないでしょうか。NHK杯後はカナダに戻らず日本で調整を続けるとのことですが、NHK杯のあいだにも自らのジャンプの問題点を見つけていた羽生選手ですから十二分に修正可能だと思いますし、あとは無理しすぎず、これ以上ほかの部位を痛めないよう身体に気を付けて練習に取り組んでほしいですね。


 5位に入ったのはアメリカのベテラン、ジェレミー・アボット選手です。

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 SPは4回転を外したジャンプ構成にし、まずは3フリップ+3トゥループの連続ジャンプを確実に決めると、3ルッツも完璧。スケートアメリカではミスがあった3アクセルもクリーンに降ります。終盤のステップシークエンスではアボット選手の高度なスケーティング技術を存分に発揮、観客を魅了しました。得点は81.51点で2位につけます。
 フリーは冒頭に4回転を組み込んだ構成で臨みましたが、パンクして3トゥループになってしまいます。しかし、その影響を以降に及ぼすことなく、3フリップ+2トゥループ、3アクセルと着実にジャンプをクリア。後半は3アクセルからの連続ジャンプが単独になったり3ルッツが2回転になったりと、点をロスする部分はあったものの、静謐かつ重厚な音楽の世界観を見事に創り上げ、観客からは大きな拍手が送られました。得点は148.14点でフリー5位、トータルでも5位でフィニッシュしました。
 結果としては5位となったものの、SP、フリーともにアボット選手らしさは充分に発揮した演技だったと思います。特にフリーの「弦楽のためのアダージョ」は素晴らしく、テレビで解説をされていた本田武史さんは「この曲はアボット選手にしかできない」といったことをおっしゃっていましたが私も同感ですね。
 「弦楽のためのアダージョ」は映画やドラマの悲劇的な場面や葬送の場面で使われることが多く、悲哀を強く感じさせる重々しくゆったりとした旋律が印象的ですが、全体的に起伏が少なく、アップテンポな部分とスローな部分というパート分けがない上に、徐々にゆっくりとテンポが上がっていくという明確なメリハリのない楽曲です。だからこそ、フィギュアスケートのようにオーバーアクションな振り付けで演技し、緩急をつけながら滑るシチュエーションでは演じにくい音楽なのですが、アボット選手は抑制的な動作や仕草の中で見事にこの音楽を表現し、自分のものにしていました。それができるのは現役随一とも言えるアボット選手のスケーティング技術―ひと蹴りですっと伸び、最小限の足さばきでトップスピードを出し、途切れることのない流れをつくることのできるスケート技術の質の高さゆえでしょうし、この楽曲とこれほど一体化できるスケーターはアボット選手しかいないでしょう。
 今回は残念ながらジャンプミスやスピンのレベルの取りこぼしが複数あり、技術点が伸び悩んだためにさほど良い得点は与えられませんでしたが、とても心に響く演技でしたし、アボット選手の代表作にもなりうる秀逸なプログラムだと思います。次戦は全米選手権になると思いますが、アボット選手にとって納得いく演技・結果となることを祈っています。



 さて、申し訳ないのですが記事が長めになりましたので、この記事はここで一旦終了とさせていただきます。この続きは(その2)に書いていこうと思いますので、ぜひそちらもお読みいただければ幸いです。


:男子シングルメダリスト3選手のスリーショット写真、村上選手のSPの写真、無良選手のフリーの写真、羽生選手のフリーの写真、アボット選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、村上選手のフリーの写真、ボロノフ選手の写真、無良選手のSPの写真、羽生選手のSPの写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2014-12-05 00:56 | フィギュアスケート(大会関連)