2015年 07月 08日
フィギュアスケーター衣装コレクション⑧―町田樹編
およそ11か月ぶりとなる久しぶりのフィギュアスケーター衣装コレクションは、第8弾となる町田樹さんです。町田さんは2014年の全日本選手権をもって惜しまれつつも現役を引退され、現在は学生として、またアイスショースケーターとして活躍されています。そんな町田さんの衣装の数々を振り返ってみたいと思います。
まずは、10/11、11/12シーズンのショートプログラム「黒い瞳」です。
ロシア歌謡「黒い瞳」はロマ(ジプシー)の女性のことを歌った歌といわれますが、それだけあってとても女性的な艶っぽさを感じさせます。そんなイメージを反映させてか、この衣装も女性的な華やかさがあります。トップスもボトムもタイトルのとおり黒で統一していますが、襟元はヒラヒラとした大ぶりのフリルがついていますし、袖にはびっしりとビジューで模様が描かれていてゴージャスです。また、パンツの側面には大きなピンクのバラの刺繍があしらわれていて、ここまで可愛らしいデザインのバラが施されるというのも男子スケーターの衣装では珍しい感じがします。演じるスケーターは男性ですが、衣装を女性的にすることでプログラムの世界観を忠実に表現していますね。
続いては11/12シーズンのフリー「ドン・キホーテ」です。
スペインを舞台にした作品ということでコスチュームにもスペインらしさがふんだんに盛り込まれています。下に白いシャツ、その上に金糸の刺繍が華やかな上着を着ていて、まさにスペインの闘牛士のいでたちです。その一方で首元はネクタイでなくひらひらとしたアスコットタイ風だったり、上着の下にベストを着ていなかったりと本物の闘牛士の服装よりは少しカジュアルになっています。色づかい的には黒と金色で重厚さを醸しつつも、その下の白いシャツによって爽やかさも演出されていて、重厚さとシンプルさのバランスが取れた闘牛士服になっていますね。
次は町田さんの才能が一気に花開いた12/13シーズンのSP「F・U・Y・A」です。
ステファン・ランビエールさんが振り付けた「F・U・Y・A」はフランスのDJグループ・C2Cの楽曲。エレクトロニックで近未来的なサウンドでありながらも、アジアの伝統的な音楽のようなオリエンタルなメロディが印象的な、西洋と東洋、新しさと古さが融合した独特のプログラムです。
そんな「F・U・Y・A」では2着の衣装が使用されましたが、今回選んだのはシーズン序盤のGPシリーズのアメリカ大会と中国大会で着用されたもの。シンプルなシャツ+黒いパンツというスタイルですが、シャツは前面と腕部分にアジアの伝統的な文様のような絵が描かれています。イスラムのアラベスク模様のようでもありペイズリー柄っぽくもあり、この模様によってプログラムのオリエンタルな雰囲気が見事に表現されていますね。
次は町田さんが更なる進化を遂げた13/14シーズンのSP「エデンの東」です。
町田さんの代表作となった「エデンの東」。衣装は音楽を引き立てるようなシンプルな白を基調とし、右肩から胸元にかけて銀色の装飾で何本もの曲線が描かれ、柔らかな印象を作り出しています。豊かな物語を持った「エデンの東」だからこそ、余計な飾りや派手な色のないコスチュームで作品の世界観に寄り添っていますね。
続いて12/13シーズン、13/14シーズンと2季に渡って演じられたフリー「火の鳥」です。
2シーズン連続のフリー「火の鳥」では2年間で3つのコスチュームが使われましたが、その中で最も多く着用されたのが今回選んだ衣装です。お腹から下は黒、胸から肩にかけては赤という色づかい。胸の部分はギザギザしたデザインに加え、華やかな金色で縁取られていて“火の鳥”の強さ、激しさを表すようです。そして何より特徴的なのがたっぷりとあしらわれた鳥の羽のような飾りで、“火の鳥”らしさがさらに増していますね。演技の中にも羽を羽ばたかせるような振り付けがあり、その仕草も引き立てるような、プログラムにマッチした衣装だと思います。
最後は町田さんのラストシーズンとなった14/15シーズンのSP「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」とフリー「交響曲第9番」です。
ショートの「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」は町田さん自身もおっしゃっていましたが、「エデンの東」を受け継ぐようなプログラムとなっていて、そのためか衣装も「エデンの東」に似たデザインとなっています。白いワイシャツの左側を縦断するようにラインが走り、その部分だけがシースルー風で、周りを銀色の装飾で縁取っています。袖にも部分的に同じ銀色の装飾がアクセントとして施されています。「エデンの東」同様、音楽の世界観を邪魔しない控えめなコスチュームと言えますね。
一方、フリーの「交響曲第9番」はベートーヴェンの代表曲。重厚で壮大な音楽に負けない存在感のある衣装となっています。透け感のある深いブルーをベースに、フロント部分が大きく開いたデザイン。金色の曲線が中央に左右3本ずつ走り、その周囲には同じ金色のラメが金粉のように細かく散りばめられています。「交響曲第9番」は歌詞付きで、その中には宇宙を想起させるような“星空”、“星々”といったキーワードが登場しますが、衣装は深みのある青地に無数の金色がふんだんにあしらわれていて、まさに歌詞の世界観そのままの素晴らしいコスチュームだと思います。
トップ選手として活躍した時期は短いながらも、そのあいだに多くの名プログラムを演じ、強烈な印象を残した町田さん。シニア参戦後のコスチュームをざっくりと見渡しても、独特のセンスがうかがえますね。
今回取り上げた衣装はシニア2年目の10/11シーズンからのものですが、ここに載せなかった衣装も含め、シニア初期のものは競技生活終盤のものと比べると装飾が多めだということが分かります。「黒い瞳」「ドン・キホーテ」に代表されるように、大ぶりで立体的なデコレーションがなされています。
競技生活終盤になると装飾は控えめなものが多くなっていき、特に「エデンの東」、「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」は繊細な音楽の世界観を阻害しないようシンプルを極めたものとなっています。その一方で「火の鳥」、「交響曲第9番」は音楽が力強い分、比較的華やかなデザインとなっていて、作品の世界観、物語を忠実に反映、再現したデザインと言えますね。
一つの傾向というよりもプログラムによってさまざまなタイプのコスチュームを使用し、表現力同様の多彩さを見せた町田さん。引退後も自作のプログラムでアイスショーを盛り上げていて、ますますアーティスト性に磨きがかかり、選手時代以上に本領を発揮していると言えるかもしれません。今後も町田さんのさらなるご活躍をお祈りしています。
注:記事冒頭のポートレート写真、「ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、「黒い瞳」の写真はアイスダンス情報ウェブサイト「Ice-dance.com」から、「ドン・キホーテ」の写真は写真共有ウェブサイト「Pinterest」から、「F・U・Y・A」の写真はスポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、「エデンの東」の写真は毎日新聞のニュースサイトが2014年3月26日に配信した写真特集「世界フィギュア2014」から、「火の鳥」の写真は毎日新聞のニュースサイトが2013年10月20日に配信した写真特集「2013フィギュアGP第1戦 スケートアメリカ」から、「交響曲第9番」の写真は毎日新聞のニュースサイトが2014年12月26日に配信した写真特集「2014全日本フィギュア 華麗なる戦い」から引用させていただきました。
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