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世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(前編)

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 アメリカのボストンにて行われた世界選手権2016。今回は女子&ペアについてお届けします。男子とアイスダンスについてはこちらをご覧ください。
 女子を制したのは今シーズン快進撃を続けるロシアの新星エフゲニア・メドベデワ選手。フリーでは女子の世界歴代最高得点を更新する圧巻の滑りで、2006年のキミー・マイズナーさん以来となる初出場初優勝の快挙を成し遂げました。2位にはアメリカのベテラン、アシュリー・ワグナー選手が入り、こちらは初表彰台となりました。3位はロシアのアンナ・ポゴリラヤ選手で、こちらも初めてのメダルを獲得しています。
 一方、ペアはカナダのメ―ガン・デュハメル&エリック・ラドフォード組が世界歴代2位のハイスコアで2連覇を達成しました。

ISU World Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 新世界女王となったのはロシアのエフゲニア・メドベデワ選手です。

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 SPは前半はスピンとステップシークエンスのみで、後半に全てのジャンプを固めた構成。まずは3フリップからでしたが、着氷で若干乱れて予定していたコンビネーションにはなりません。しかし、続く2アクセルを決めると、最後の3ループに急遽3トゥループを付けて冷静にリカバリーし、丁寧に滑り切りました。得点はパーソナルベストに迫る73.76点で3位と好発進しました。
 フリーの冒頭はショートで決められなかった3フリップ+3トゥループをパーフェクトに決めると、続く3ルッツも問題なく成功。後半に入っても3フリップ、3ループ、2アクセルからの3連続ジャンプと危なげなく着氷を続け、得点源となる3サルコウ+3トゥループもクリーンに成功。最後の2アクセルも下りると、“愛が世界を救う”というタイトルを掲げた深遠な雰囲気のプログラムをエモーショナルに演じ切り、フィニッシュしたメドベデワ選手は等身大の16歳らしく満面に笑みを浮かべました。得点は自己ベストを上回る150.10点、バンクーバー五輪で韓国のキム・ヨナさんがマークした女子フリーの世界歴代最高点を更新し、大差で初優勝を果たしました。
 ショートではちょっとしたつまずきがありましたが、それでも全体的に初出場の萎縮は感じられず、余裕を持って演技しているように見えましたね。ジャンプの安定感はもちろん、シニア1年目にしては難解な印象のあるプログラムについてもしっかり理解して滑りこなしているように感じました。演技構成点に関してはシーズンを追うごとにニョキニョキと伸びていて、やっぱりちょっと急激すぎるかなという印象は否めませんが、16歳らしからぬ大人びた表現力や身のこなしの巧さは確かに素晴らしいなと思います。
 これからまだまだ身長も伸びるでしょうし、成長期の壁にもぶち当たるでしょうから、これでメドベデワ選手の優位が確固たるものになったとはまだ言えないですが、来シーズンも女子フィギュア界をリードする存在であることは間違いなさそうですね。世界選手権初優勝、おめでとうございました。


 2位はアメリカのアシュリー・ワグナー選手です。

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 ショートはまず3フリップ+3トゥループを完璧に回り切って着氷すると、後半に固めた2アクセル、3ループもきれいに成功。ステップシークエンスはレベル3でしたが、スピンはレベル4を揃え、演技を終えたワグナー選手は嬉しそうに飛び跳ねすぎて尻もちをつくご愛嬌を見せました。得点は自己ベストを更新し73.16点で4位と好位置につけます。
 フリーの冒頭は得意の2アクセルを決めてスタートを切ると、続く3+3はセカンドジャンプがアンダーローテーション(軽度の回転不足)と判定されたものの着氷。直後の2アクセル+2トゥループをしっかり成功させます。2つのスピンを挟んだ後半、得点源の3+1+3の難しい3連続ジャンプ、これをきっちり回り切って着氷し1.2点の高い加点を獲得。続く3フリップはアンダーローテーションでしたが、その後は3ループ、3ルッツと全てのジャンプを成功させ、大喝采を浴びながらフィニッシュしました。得点は142.23点でパーソナルベストをマーク、総合2位に順位を上げ、6度目の出場にして初めてメダルを手にしました。
 いつメダルを取ってもおかしくない実力はありながら、今まではショートで出遅れることが多かったワグナー選手ですが、今回は点差の詰まったショートでメダルが目の前に見えるポジションにつけ、しかもフリー次第で良い方にも悪い方にも転ぶ可能性が大いにある中での最終滑走でしたが、何が何でもやってやるんだという気迫に満ちた演技でした。ワグナー選手は必ずしもスポットライトを浴び続ける競技人生を送ってきたわけではなく、10代の頃は国内のライバルの陰に隠れがちでしたが、少しずつ少しずつ力をつけ、徐々にジャッジの評価も上げ、24歳にしてようやくここまでたどり着きました。ミドルティーンからうなぎ上りにトップ街道を駆け上がるタイプの選手も多くいますが、時間がかかってもゆっくり着実に上り詰める方法があるんだということをワグナー選手の人生がまさに証明していますね。来季もまたワグナー選手にしか醸し出せない味わいのある演技を見せてほしいと思います。


 3位はロシアのアンナ・ポゴリラヤ選手です。

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 SPはまず大技の3ルッツ+3トゥループをしっかり決めて好調な滑り出しを図ると、続く3ループ、後半の2アクセルとジャンプを全てクリーンに成功。ヴァイオリンが奏でる独特なリズムに乗ったステップシークエンスでは長い手足をフルに使ってダイナミックに滑り、迫力のある演技を披露しました。得点はパーソナルベストとなる73.98点で2位と好発進しました。
 メダルを懸けたフリー、冒頭はショートでも決めた3ルッツ+3トゥループを再びクリーンに着氷します。続く得点源の3+1+3、単独の3ルッツも問題なく下り、前半は非の打ちどころのない出来となります。後半は単独の3フリップの踏み切り時のエッジが不正確とされたため加点は与えられませんでしたが、ミスらしいミスなく全てのエレメンツをパーフェクトに揃え、フィニッシュしたポゴリラヤ選手は全身で歓喜を爆発させました。得点は自己ベストにわずかに及ばない139.71点で残念そうに顔を曇らせましたが、終わってみれば総合3位と初めての表彰台をつかみ取りました。
 上述したワグナー選手ではありませんが、ポゴリラヤ選手も同国のライバルたちの後塵を拝してきた選手で、彼女自身も十分才能に溢れているのですが、2つ年上のアデリナ・ソトニコワ選手、エリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手、同い年のユリア・リプニツカヤ選手、1つ年下のエレーナ・ラディオノワ選手、そしてメドベデワ選手と、あまりにも華やかな活躍を見せる選手たちが周囲にいすぎて、常にロシアの3番手くらいから抜け出せずにいました。それに加え良い時は良いけれど悪い時は極端に悪いという好不調の波の激しさが目立ち、そういった意味でもロシア女子の中では埋もれがちだったのかなと思います。しかしその一方でシニア参戦後は世界選手権の切符を逃したことはなく、安定しているのか不安定なのか、なかなか読めない不思議なタイプの選手でもありました。その“読めなさ”のため、今大会もメダル候補に挙げられることは少なかったと思うのですが、見事に歯車が噛み合いましたね。
 来シーズン、ポゴリラヤ選手がロシア女子の中でどう存在感を示していくのか、期待したいと思います。


 4位は全米女王のグレイシー・ゴールド選手です。

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 ショートはまず3ルッツ+3トゥループを完璧な跳躍と着氷で成功させると、後半の3フリップは踏み切り時のエッジが不正確と判定されたもののクリーンな着氷で加点を獲得。最後の2アクセルも決め、艶やかなタンゴの情感をしなやかかつ情熱的な身のこなしで表現し切りました。得点は世界歴代5位となる76.43点で堂々の首位発進となります。
 最後から2番目の滑走となったフリー、冒頭は鍵となる3+3でしたが、セカンドジャンプの着氷でバランスを崩し両手をついてしまいます。しかし、その後の3ループ、2アクセルは問題なく決め、巻き返しを見せます。後半最初の2アクセル+3トゥループ+2トゥループ、続く3フリップ+2トゥループも成功させて良い流れのように見えましたが、次の3ルッツが2回転になるミス。「火の鳥」のエネルギッシュな曲想に合わせ力強い滑りで観客を魅了しましたが、ジャンプミスが影響し得点はフリー6位の134.86点、総合4位と惜しくも表彰台には届きませんでした。
 SPは母国開催のプレッシャーを感じさせないのびやかな演技、フリーも冒頭の3+3はファーストジャンプはきれいな着氷で問題ない流れでしたが、セカンドジャンプの着氷で少しいつもとは違うところに体重が乗ってしまい踏ん張れずに転倒とはなったものの、演技全体としては勢いもあってゴールド選手らしさが端々まで行き渡っていました。惜しむらくは後半の3ルッツの失敗で、今シーズンはこのジャンプのミスがしばしばあるので慎重になったのかもしれませんが、これが成功していれば3位のポゴリラヤ選手を上回れていた計算になるのでもったいなかったですね。ただ、これも一つの経験として再び同じシチュエーションになった時の強みになりますから、来季も(その前にチームチャレンジカップがありますが)ゴールド選手らしく頑張ってほしいですね。


 5位は日本のエース、宮原知子選手です。

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 SPは高難度の3ルッツ+3トゥループで幕を開け、2つのスピンを挟んだ後半、3フリップは踏み切り時のエッジが不正確となった上、珍しくアンダーローテーションを取ら減点を受けます。しかし、最後の2アクセル、終盤のステップシークエンス、スピンとそのほかのエレメンツに取りこぼしはなく、いつもどおりの繊細かつダンサブルな演技で、70.72点の6位につけました。

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 フリーはまず3+2+2を確実に着氷して好スタートを切ると、3ループ、そしてショートで回転不足と判定された3フリップもクリーンに成功。後半に入っても3ルッツ、2アクセル+3トゥループ、3サルコウ、2アクセル+3トゥループと、いつもと変わらぬ正確無比な技術力で次々とジャンプを下り、ピアノ曲「ため息」のしっとりとしてエレガンスな世界観を演じ切りました。得点は139.89点で自己ベストには届かなかったもののフリー3位、総合5位と順位を上げました。
 SPでは3フリップの回転不足による減点があり、またフリーでもベストを尽くした演技ながらパーソナルベストに2.5点ほど及ばなかったということもあって、僅差の争いの中で5位に留まりました。しかし、ミスと言えるようなミスは今回も皆無で、上位陣が軒並み200点超えという異常事態といってもいい状況だったので、力を出し切った上での悔いなき5位なんじゃないかなと思います。残念だったのはフリーの演技構成点が四大陸の時よりも下がっていたことで、大体良い演技を2試合続けた時は点数がアップすることが多いと思うので個人的にはあれ?という感じだったのですが、その時その時のジャッジの裁量によるものなので、致し方ないですね。ですが、1年前とは比べものにならないくらい演技内容もスコアも急成長を遂げていますから、今までどおりの宮原選手の道を突き進んでほしいと思います。今季はまだあと1試合、チームチャレンジカップが残っていますので、そちらでも宮原選手らしい安定感抜群の演技を楽しみにしています。



 突然ですが、前編はここで終了です。続きは後編をお読みくださると幸いです。


:女子メダリスト3選手のスリーショット写真、ポゴリラヤ選手の写真、宮原選手のSPの写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、メドベデワ選手の写真は、AFPBB Newsが2016年4月3日の16:03に配信した記事「メドベデワが世界フィギュア制す、日本勢は宮原の5位が最高」から、ワグナー選手の写真、宮原選手のフリーの写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、ゴールド選手の写真は、AFPBB Newsが2016年4月1日の8:44に配信した記事「日本勢出遅れる、女子SPはゴールドが首位 世界フィギュア」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2016-04-07 01:58 | フィギュアスケート(大会関連)