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世界選手権2016・女子&ペア―エフゲニア・メドベデワ選手、圧巻の初優勝(後編)

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 世界選手権2016の女子とペアに関する記事の後編です。前編をお読みでない方はこちらからご覧ください。

ISU World Championships 2016 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 6位となったのは前年の銅メダリスト、ロシアのエレーナ・ラディオノワ選手です。

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 SPは冒頭の3ルッツ+3トゥループをクリーンに下りますが、後半に組み込んだ3フリップの着氷で前のめりになったため減点。最後の2アクセルは確実に決め、ステップシークエンス、スピンは全てレベル4。ミスを最小限に抑えた演技で、パーソナルベストに極めて近い71.70点で5位となりました。
 フリーも冒頭は3ルッツ+3トゥループ、これをしっかり着氷すると、ショートで小さなミスがあった3フリップもクリーンに成功。続く3ルッツはこらえた着氷になりますが、後半の3+1+3、3+2など、全てのジャンプをクリアし、演技を終えたラディオノワ選手は控えめなガッツポーズで喜びを表しました。得点はこちらも自己ベストに迫る138.11点でフリー5位、総合6位で大会を終えました。
 上位陣のノーミス続出で前年よりは順位を下げる結果になりましたが、ショート、フリー通じてジャンプの着氷でこらえる場面があっただけのほぼノーミスの内容で素晴らしかったですね。ただ、ロシア国内の競争という観点で見ると、13/14シーズンにシニアに参戦して以降、表彰台を逃すことがほぼなかったラディオノワ選手が今回はロシア勢の3番手に終わったことで、国内の勢力図がさらに混沌としてきそうな感じがします。ですが、シーズン前半は成長期の問題でジャンプに苦しみながらも、シーズンを追うごとにしっかり修正し揺るぎないメンタルの強さも証明したラディオノワ選手ですので、この世界一厳しい競争の中を勝ち抜くのは容易なことではないと思いますが、来季もきっと彼女らしい演技を多く見せてくれるんじゃないかなと思いますね。


 7位となったのは日本の浅田真央選手です。

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 SPの冒頭は代名詞の大技3アクセルでしたが、アンダーローテーション(軽度の回転不足)で下りてきてしまいステップアウトします。しかし、直後の3+2はクリーンに着氷。後半の3ループは着氷で詰まり気味となり減点されますが、ステップシークエンス、スピンは全てレベル4を揃え、つなぎの部分でも存分に魅せる滑りを披露しました。得点は65.87点で9位となります。

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 フリーもまずは3アクセルから、惜しくも再び回転不足となりますが、しっかりと片足で着氷します。続いてこちらも大技3フリップ+3ループはセカンドジャンプがわずかに回転不足の判定。次の苦手としている3ルッツはタイミングが合わず2回転となります。後半に入り最初の2アクセル+3トゥループもセカンドジャンプが回転不足となりますが、その後は3サルコウ、3+2+2、3ループと、全てのジャンプをクリーンに着氷。終盤の曲調が変わるステップシークエンスではメリハリのある動きで壮大な女性ソプラノと調和した滑りを見せ、フィニッシュした浅田選手はほっとしたように微笑み、拍手喝采に応えました。得点はシーズンベストとなる134.43点、トータルでは今季初の200点超えをマークし、2年ぶりの世界選手権を7位で終えました。
 今大会の浅田選手の表情や言葉は昨年末の全日本選手権までとはかなり違っていて、何か吹っ切れたような、清々しささえ感じさせるような姿が印象的でした。年明けから左膝を痛めていていつもの練習量を詰めなかったということも影響してか、今できることをしようというどっしりと腹の据わったような感じがしましたね。
 ただ、その中でもフリー翌日のエキシビションの際のインタビューでは、「1日経って悔しさが出てきた」と話したり、帰国後の空港でのインタビューでも「選手である以上は結果を求めていく」と語ったり、勝負師としての顔を見せました。個人的には順位や結果にとらわれず、ただただ楽しんで滑ってくれればと思いますが、最初から結果にこだわらないというのは浅田選手にとって妥協であり、一切の妥協を許さないのがまさに浅田選手らしさであって、それでこそ“浅田真央”なんだなと改めて思い知らされましたね。今シーズンは復帰1季目とあって試合勘を取り戻すのにも時間がかかり、手探りの部分もあって自身の心技体を整えることにいっぱいいっぱいだったと思うのですが、今まで味わったことのない苦しみを経験した浅田選手だからこそ、来季はまた今までとは質の異なる強さを手に入れて試合に臨めるのではないでしょうか。まずは長かった復帰シーズンの疲れを、ゆっくり癒やしてほしいですね。


 8位は日本の本郷理華選手です。

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 SPは四大陸選手権から構成を変更し、まずは得意の3フリップを確実に着氷させます。続く2つのスピンはしっかりレベル4を取り、後半の鍵となる3トゥループ+3トゥループ、これを抜群の高さとスピードで跳び切り1.2点の加点を獲得。最後の2アクセルも決め、終盤のステップシークエンス、スピンもレベル4と実力を出し切り、妖しげな「キダム」の世界観をのびやかに表現しました。得点はパーソナルベストを4点以上更新する69.89点で7位発進となりました。

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 フリーはショートより難度を上げた3+3から、滞りのない流れで成功させますがセカンドジャンプが回転不足となります。しかし、次の3サルコウ、3ルッツは続けて成功させミスらしいミスなく前半をクリアします。後半に入っても勢いは衰えず、2アクセル+3トゥループ+2トゥループ、3ループ、3フリップと相次いでクリーンに着氷。最後の2アクセル+2トゥループは勢いあまってセカンドジャンプの着氷が不完全となりますが、最後まで躍動感いっぱいに「リバーダンス」を演じ切りました。得点は129.26点と自己ベストにはわずかに及ばなかったものの、トータルでは自己ベストを更新し8位で2度目の世界選手権を終えました。
 フリーではちょっとしたミスがありましたが、大会通して表情の明るさ、元気の良さが印象に残りましたね。初出場だった昨年もそうですが、大舞台に全く臆することなく自分の演技を楽しむ余裕さえあるような感じで、本当にメンタルの強い選手だなと改めて思いました。今季の本郷選手は注目度の低いところから一気に飛躍した昨季とは違って、最初から期待される立場でのシーズンということで2年目の難しさに直面しているのかなという印象もありましたが、本郷選手らしからぬ慎重さのあった全日本、四大陸からシーズンラストにしっかり立て直しましたね。
 シニア3年目となる来季はどんな姿を見せてくれるのか、今から楽しみにしています。



 さて、ここからはペアについてです。


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 世界王者の座を勝ち取ったのはディフェンディングチャンピオン、カナダのメ―ガン・デュハメル&エリック・ラドフォード組。SPは冒頭のツイストリフトがレベル2になる取りこぼしはありましたが、目立ったミスなく演技をまとめ、78.18点のパーソナルベストで2位発進します。フリーもツイストはレベル2でしたが、大技の4スローサルコウ、3スローフリップなど、全てのエレメンツをクリーンに決め、ハイレベルな内容をノーミスでまとめ上げました。得点は自己ベストを大幅に更新する153.81点、トータル231.99点で逆転優勝を果たしました。
 昨季は出場した全ての試合で優勝するという圧倒的な強さを誇ったデュハメル&ラドフォード組ですが、今季はGPファイナルで2位となり連勝記録が途絶えたり、四大陸ではデュハメル選手の体調不良によりフリーを棄権したりと必ずしも順風満帆ではありませんでした。それに加えてソチ五輪王者であるタチアナ・ボロソジャー&マキシム・トランコフ組、新たなパートナーとの新ペアで復帰した元世界王者のアリオナ・サフチェンコ&ブリュノ・マッソ組など、実力者の競技復帰もあり、世界選手権連覇への道は予断を許さないものだったと思うのですが、最後の最後にベストを出し尽くす底力はさすが世界王者でしたね。来季もペア界の熾烈な競争は続きそうですが、デュハメル&ラドフォード組が他のペアの追随を突き放すのか、それとも今季以上に混戦状態になっていくのか、ペア界から目が離せませんね。世界選手権2連覇、おめでとうございました。
 銀メダルを獲得したのは中国の隋文静(スイ・ウェンジン)&韓聰(ハン・ツォン)組です。ショートは全てのエレメンツで1点以上の加点を引き出す完璧な演技で、SP世界歴代2位の得点をマークし首位発進。フリーはジャンプやスピンのミスがありトップを守りきれませんでしたが、それでもわずかにパーソナルベストを更新して前年と同じ2位となりました。
 今季はGPファイナルを隋選手の怪我で辞退するなど、こちらも順風満帆ではなかった隋&韓組。ただ、年明け以降は四大陸で圧勝し、着実に万全の準備をして今大会に臨めた印象ですね。フリーではデュハメル&ラドフォード組に差を広げられてしまいましたが、ショートでは史上2組目となる80点台をマークして、世界王者をおびやかす力があることを示しました。まだ20歳と23歳のペアということもあって伸びしろも無限なので、デュハメル&ラドフォード組にとっては年々怖い存在になってきていますね。
 3位はこのペアとしては初出場のドイツのアリオナ・サフチェンコ&ブリュノ・マッソ組。SPはスロージャンプのミスがありましたが、上位と僅差の4位につけます。フリーでもジャンプの細かなミスがあったものの、成功させたエレメンツでは取りこぼしなく十分に加点も積み重ね、総合3位と順位を上げ、初めてのメダルを手にしました。
 かつてロビン・ゾルコビーさんとのペアで世界選手権を5度制したサフチェンコ選手と、フランス出身のマッソ選手との新ペアですが、初出場とは思えない完成度ですね。競技会デビュー1年目にして結果を出した二人が、これからペア界でどんな地位を築いていくのか、楽しみですね。


 日本代表の須藤澄玲&フランシス・ブードロー=オデ組はSP22位でフリーに進出することはできませんでした。

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 ショートは7つのエレメンツのうち4つでミスが出てしまい、自己ベストの52.70点に遠く及ばない38.50点で最下位に沈み、フリー進出は叶いませんでした。
 本来の演技ができれば上位16位に入れる可能性もあったので残念でしたね。ジャンプだけではなく普段クリーンにこなせるステップやデススパイラルなどでもミスが連鎖してしまい、初出場の緊張が影響したのかもしれません。まだまだ技術的な課題は多いと思いますが、国際大会で160点台をマークするなど可能性も感じさせるシーズンでしたので、来季の成長を期待したいですね。



 女子&ペアの記事は以上です。
 女子はSPで70点台が6人、トータルで200点超えが7人という史上稀に見るハイレベルな戦いとなりました。昨年はSP70点台は首位のエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手一人、総合200点超えもトゥクタミシェワ選手のみだったことを考えると、今年は異常事態といってもいいくらいの得点傾向でしたね。もちろん1年で女子の技術レベルが急激にアップしたわけではありませんが、それだけ上位はミスの少ない素晴らしい演技の連続でしたし、それぞれがそれぞれの全力を出し切って個性を見せつけたおもしろい試合内容で、本当に見ごたえたっぷりで楽しませてもらいました。
 日本女子は2006年以降継続してきたメダル獲得が途絶えましたが、当然こうした記録はいつか途切れるものですし、そもそも10年間続いてきたということ自体がもの凄いことなので、すでに引退した元選手含め、今まで記録を受け継いできた皆さんに改めて拍手を送りたい気持ちですね。今大会はロシア、アメリカの後塵を拝したということで、今後の日本女子を不安視する向きもあるようですが、ジャンプのレベルに関してはトップ選手の実力はほぼ横並び状態です。女子のトップ選手の武器といえば3+3で、ほとんどの選手がショートで3+3を1つ、フリーでは3+3が1つに加え、2アクセル+3トゥループや3+1+3といった2つ目や3つ目に3回転を跳ぶコンビネーションを1つという構成がほとんどです。実際今回の上位陣のフリーの基礎点の合計は、回転不足やパンクといった基礎点からの失点が皆無だったメドベデワ、ポゴリラヤ、宮原、ラディオノワの4選手が62点台、基礎点から失点するミスがあったワグナー、ゴールド、浅田、本郷の4選手が58~59点台と、大きな差はありません。しかも、フリーで3+3を跳んでいない宮原選手の基礎点が3+3を2回跳んだメドベデワ選手の基礎点を上回っているくらいで、コンビネーションの組み合わせをどうするか、基礎点が1.1倍になる後半にいくつ3回転を跳ぶかといった細かな戦略による小数点刻みの争いとなっていて、その中で基礎点で頭一つ抜け出せるのは3アクセルジャンパーである浅田選手と今大会は不出場のトゥクタミシェワ選手だけなんですね。そうした大技を持たない選手たちは基礎点で差がつかない分、加点でいかに稼ぐかというGOEの争いにならざるをえないわけですが、メドベデワ選手は半分のジャンプで片手を上げて跳んでいて、まさにGOE戦略の象徴的な存在と言えます。そういった加点の稼ぎ方が巧いロシア勢に日本勢がどう対抗していくかと考えると、同じような戦略を採るか、基礎点で優位に立つために3アクセルや4回転の習得を目指すかの2つの方向に絞られてきます。もちろん大技を跳んだ上で加点も狙うというのが最高の理想ですが、男子ほど技術的には進化していない女子フィギュア界がこれからどういう方向に向かっていくのか、個人的にはやはり3アクセルや4回転の若い使い手が現われるといいなと期待しますね。


:記事冒頭の女子メダリスト3選手のスリーショット写真、浅田選手のフリーの写真、本郷選手のSPの写真、ペアメダリスト3組の写真、須藤&ブードロー=オデ組の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、ラディオノワ選手の写真、浅田選手のSPの写真、本郷選手のフリーの写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2016-04-08 17:01 | フィギュアスケート(大会関連)