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フィギュアスケーター衣装コレクション⑪―小塚崇彦編

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 フィギュアスケーターの衣装を振り返る、フィギュアスケーター衣装コレクション第11弾。今回取り上げるのは、2016年の3月をもって引退した小塚崇彦さんです。
 日本のフィギュアファンにとってはいまさら説明するまでもなく、小塚さんといえば日本フィギュア界のサラブレッド。正統派のスケーターとして、世界でも類まれなる美しいスケーティングの持ち主として活躍しましたが、惜しまれつつも引退、さらにアイスショーなど全てのスケート活動からも退きました。未だにそのことが淋しくてならないのですが、それはとりあえず脇に置いといて、そんな小塚さんのコスチュームの数々を見ていきたいと思います。


 まずは小塚さんが大きく飛躍した08/09シーズンのSP「テイク・ファイヴ」と、フリーの「ロミオ 映画『ロミオとジュリエット』より」です。

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 写真で見てお分かりのとおり、非常にシンプルだった08/09シーズンの両コスチューム。
 SPはジャズの名曲で、衣装は黒一色でクールに決めています。立て襟の部分のみ縞模様っぽくなっていますが、そのほかは全身黒で、衣装としての主張だったり世界観の表現のようなものは控えめです。
 そしてフリーもネイビー(深い紫?)一色で、模様も装飾も一切ない潔さ。この衣装に関してはプログラムの振り付けを行った佐藤有香さんが、小塚さんの足元の動きがよく見えるように上半身を目立たせない衣装にしたという逸話が残っていて、実際にシンプルにシンプルを極めた分、足さばきの美しさのみならず、姿勢の良さやしなやかな体づかいがよく映えた衣装でした。
 端正なスケーティングで魅せる正統派スケーター“小塚崇彦”のイメージを印象付ける、両プログラム、そして両コスチュームでしたね。


 続いてはバンクーバー五輪が行われた09/10シーズンのSP「ボールド・アズ・ラヴ」と、フリー「ギター・コンチェルト」です。

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 「ボールド・アズ・ラヴ」はアメリカの伝説的なギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの楽曲。ということで衣装も前年のイメージからガラリと変わったロック感を前面に押し出した派手めなデザインです。トップスは赤を基調としたシャツで、ところどころ豹柄っぽい模様が入り、男性的なワイルドさを強調。パンツはダメージジーンズ風で、この写真ではちょっと見えないですがパンツのサイドにはラインが入っていて太めのベルトは金属の部分がほどよく色褪せた感じでごついデザイン。トップスからボトムスまで全体的にデザインといい、風合いといい、古き良きロックの“カッコよさ”というのを見事に表現している衣装です。
 一方、フリーはこちらもギターをメインとした楽曲であることに変わりはないのですが、タイトルにあるように“コンチェルト”=協奏曲なので、クラシック音楽の趣きが強い作品です。トップスは立て襟となっていて、黒いベルト、黒いパンツと、一見「テイク・ファイヴ」に近い感じですが、こちらは左肩から縦にシルバーのラインが走り、その周囲に細かなビジューが散りばめられています。黒とシルバーという色づかいによってロックっぽい雰囲気もありつつ、あくまでシックかつクラシカルな落ち着きのある衣装になっていて、音楽の世界観にぴったり合っていますね。


 次は小塚さんが世界選手権で銀メダルを獲得した10/11シーズンのSP「ソウル・マン・メドレー」とフリー「ピアノ協奏曲第1番」です。

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 ショートは小塚さんにとっては新たなチャレンジということで、それまでにない選曲をしたわけですが、それに伴って衣装も彼にしては珍しい、斬新なものとなりました。トップスは水玉とボーダーで構成されたシャツで、赤や黒、グレーが混在する賑やかな印象となっています。対照的にボトムスは黒いストライプパンツでシックにまとめ、上半身とのバランスを取っています。シーズン前半はシャツの上にパンツと同じデザインのベストを着ていて、シャツの柄がかなり隠れる分、よりかっちりした感じだったのですが、個人的にはベストなしで、シャツの柄を大胆に活かした方が良いかな思い、こちらのバージョンを選びました。小塚さんのイメージを裏切るコスチュームでしたが、新鮮で強烈に印象に残りましたね。
 フリーはフランツ・リストのピアノ協奏曲ということでTHE正統派。衣装も“らしい”シンプルなものです。トップスは首元が詰まったシャツで、ベースとなる紫に黒い太めのラインが入ったデザイン。一見ボーダー柄っぽい感じもあるのですが、シャツの前立て(ボタンが並んでいる部分)が黒になっていたり、1本目のラインと2本目のラインの太さが違っていたりするので、いわゆる普通のボーダーとは印象が異なります。また、全体がシンメトリー(左右対称)であることによってすっきりとまとまった印象になり、王道のクラシックである「ピアノ協奏曲第1番」にうまく馴染んでいると思いますね。


 次は13/14シーズンのSP「アンスクエア・ダンス」と、12/13、13/14シーズンのフリー「序奏とロンド・カプリチオーソ」です。

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 「アンスクエア・ダンス」は「テイク・ファイヴ」と同じデイヴ・ブルーベックの楽曲。珍しい4/7拍子のリズムのジャズで、衣装も小塚さんにしては珍しく趣向を凝らした独創的なものとなっています。一見黒い五分袖シャツの上に白いベストを重ねたように見えますが、実際は黒いシャツの上に前面のみが白い五分袖のジャケットを重ねていて、背中側から見ると普通の黒いジャケットっぽく見えるような作りです。シャツ+ジャケットというコーディネートは定番ですが、ジャケットの前身頃の一部分だけが白という個性的なデザインで、しかも五分袖、さらにイエローという明るい色をところどころに配色したり、ポケットチーフを一際目立つ赤にしたりすることで、全体的に軽快な雰囲気が作り出されています。
 一方、「序奏とロンド・カプリチオーソ」は12/13、13/14と2シーズンに渡って演じられ、衣装も計4着が使用されました。今回選んだのはその中でも最後に使用されたコスチュームです。トップスはワイン色の長袖シャツで、前はVネックのような形ですが、後ろ側は立て襟のようになっています。そして肩やウエストを中心に色とりどりの細かなビジューが散りばめられ、華やかさをプラスしています。小塚さんの衣装でビジューが用いられるのはそんなに多くないのですが、このコスチュームのように服の全体に配置するというよりも一部分に集中的に多用することで、チープな感じにならず気品のある使い方になっていて、オーソドックスなクラシックである「序奏とロンド・カプリチオーソ」にぴったり合っていると思います。


 最後は15/16シーズンのSP「レスペート・イ・オルグージョ~誇りと敬意~(ファルーカ)」と、14/15、15/16シーズンのフリー「これからも僕はいるよ」です。

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 ショートプログラムは好評だった14/15シーズンのエキシビションナンバーをSPとして再構成したもの。日本を代表するフラメンコギター奏者、沖仁さんの楽曲ということでもちろんフラメンコ。小塚さんにとって初のフラメンコプログラムとなりましたが、コスチュームもフラメンコらしい赤と黒でシンプルにまとめています。ただその中でも、この写真では見えにくいですが、デコルテ部分がシースルー生地になっていたり、その周囲にビジューが施されていたりと、大人の男の色香を感じさせるデザインになっていて、若手からベテランへと階段を上った小塚さんの新たな魅力が垣間見えたコスチュームでしたね。
 「これからも僕はいるよ」(原題の「Io Ci Saro」の曲名でも知られています)はイタリアのテノール歌手アンドレア・ボチェッリさんが歌う壮大なバラード曲。同じく2季連続で滑った「序奏とロンド・カプリチオーソ」とは対照的にコスチュームはこの1着のみでした。トップスは青みがかった深みのあるグリーンのシャツでほどよい光沢感があります。肩の部分にはシャツよりワントーン明るい色の生地でラインが施され、その周りにあしらわれたビジューでアクセントがつけられています。デザイン的には上述した「序奏とロンド・カプリチオーソ」のコスチュームの系統上にある感じで、小塚さんらしいシンプルさで、音楽に寄り添って、音楽を引き立てるような衣装だなと思います。



 小塚さんの衣装をこうして振り返ってみると、やはり全体的にシンプルで、声高に主張せず控えめな印象を改めて受けます。そうしたコスチュームのイメージを受けて演技やプログラムにも考えを馳せると、小塚さんの演技というのはわりと淡泊といわれがちで、小塚さん自身もインタビューで自らの演技について「淡泊」と評し、その“弱点”を克服しようとイメージを変えるプログラムにチャレンジしたり、自らプログラムの編集を行ったりした時期もありました。でも、本当にその“淡泊さ”が弱点だったのかと考えると、やはりそれも小塚さんの紛れもない個性、魅力だったのだと彼が引退した今改めて思います。ほかの誰にも真似できない正確無比なスケーティングは、まるで背中に羽が生えているかのように軽やかで、ある意味女性的でもあり、そこから醸し出される柔らかな雰囲気が、力強さやダイナミックさが称賛されやすい男性スケーターの中では埋もれがちな優しい印象に繋がっていたように思います。ですが、年齢を重ねるごとにそこに大人の男性の色気や渋み、良い意味での“アク”が加わり、若手の頃とは違う魅力が形成されつつあったのもまた事実でした。ゆえに、その矢先の引退、アイスショーにも出演しない完全引退は惜しまれてなりません。
 少し話が逸れましたが本題に戻しますと、そんな小塚さん特有の魅力を支えていたのは、何といっても彼のその唯一無二のスケーティングで、プログラムにしても、コスチュームにしても、やはりスケーティングを最大限引き立てるというところに着眼点が置かれていたのではないかと思います。スケーティングを見せるためには余計はものはいらない、そうした信念(筆者が勝手に思う信念です)がコスチュームにも貫かれていたように感じます。
 現在は一会社員として頑張っておられる小塚さん。個人的かつわがままな望みとしては、いつかまたフィギュア界に戻ってきてほしいですが、今はただただ、お仕事でもプライベートでも穏やかで楽しい日常を送られることを願うばかりですね。


:記事冒頭の写真は、フィギュアスケート専門誌「International Figure Skating」の公式フェイスブックページから、「テイク・ファイヴ」の写真、「ロミオ 映画『ロミオとジュリエット』より」の写真、「ソウル・マン・メドレー」の写真、「ピアノ協奏曲第1番」の写真、「序奏とロンド・カプリチオーソ」の写真、「これからも僕はいるよ」の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、「ボールド・アズ・ラヴ」の写真、「ギター・コンチェルト」の写真は、マルチメディアサイト「Zimbio」から、「アンスクエア・ダンス」の写真は、フィギュアスケート情報サイト「Absolute Skating」から、「レスペート・イ・オルグージョ~誇りと敬意~(ファルーカ)」はスポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2016-07-07 23:46 | フィギュアスケート(衣装関連)