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全米選手権2017―ティーンネイジャー躍動

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 1月14日から22日にかけてミズーリ州のカンザスシティにて行われた全米選手権2017。同時期に行われたカナダ選手権とは対照的に若手やダークホースの躍進が目立つ試合展開となりました。その内容をざっくりと書いていきます。

2017 U.S Figure Skating Championships この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 まずは上の写真でお分かりのとおり男子の結果から。
 男子の覇者となったのは今季シニアデビューした新星ネイサン・チェン選手です。まずショートで4ルッツ+3トゥループと4フリップの2種類の4回転を完璧に決めると、苦手の3アクセルも成功させ、106.39点という高得点で圧巻の首位発進となります。フリーは4種類5本の4回転を組み込んだ史上最高レベルの構成で挑み、前半の4ルッツ、4フリップ、2本の4トゥループを全てクリーンに着氷。そして後半の4サルコウも成功させ、世界初の1つのプログラムで5本の4回転という偉業を達成。そのほかのトリプルジャンプも3+3で細かな着氷ミスがあった以外はほぼノーミスでまとめ上げ212.08点、総合318.47点という異次元のハイスコアで初の全米チャンピオンの座をつかみました。
 とにもかくにもショート、フリー合わせて7本の4回転を完璧に成功させたという事実だけで言葉はいらないでしょう。正直シーズン序盤にチェン選手がこの高難度の構成に挑むのを見た時は完成させるまでにもっと時間がかかるだろうと思っていました。その後フリーは3種類4本の4回転と少しレベルを下げたわけですが(それでも世界最高レベルですが)、その構成をGPファイナルでノーミスでやり切ったことが自信となり、今回のフリー5本の4回転に繋がっているのでしょうね。
 シニア1年目で想像以上の急成長を遂げるというのは昨季の宇野昌磨選手も金博洋選手もそうでしたが、チェン選手の進化ぶりには彼らを上回る何か神がかったものさえ感じられて、7本の4回転さえまだまだゴールどころか通過点でさえなくて、これがスタートなのだと思わせられます。まずは四大陸で羽生結弦選手やパトリック・チャン選手、そして同世代のライバルたちとどんな戦いを繰り広げてくれるのか、楽しみでなりません。

 銀メダルを獲得したのはジュニアのヴィンセント・ゾウ選手です。SPは3アクセルで若干ミスがあったものの4サルコウを決め、ステップシークエンスやスピンも全てレベル4で3位と好発進。フリーは冒頭で大技の4ルッツに挑戦しますが3回転になります。しかし続く4サルコウ+3トゥループを決めると、後半に組み込んだ2本目の4サルコウも成功させ、2本の3アクセルも大きなミスなく着氷。ショートに続きスピン、ステップは全てレベル4を揃えフリー2位、総合2位と順位を上げました。
 昨季はジュニアGPファイナル4位、世界ジュニア選手権5位、そして今季もJGPで2戦とも台乗りと大崩れしない安定感が持ち味のゾウ選手。とはいえシニアの全米で一気に2位まで上がってくるとは想像以上でした。何といってもショート、フリー合わせて3本組み込んだ4サルコウが全てクリーンに決まったのが銀メダルの最大の要因ですが、それ以外にもステップやスピンの精度の高さも目立ち、ジャンプだけではなく全体的にウィークポイントがないというのがゾウ選手の最大の売りと言えますね。
 17歳と16歳のワンツーフィニッシュということで、長らく世界の表彰台からは遠ざかっているアメリカ男子も若く将来有望な選手がどんどん出てきたことで層が厚くなり活気づいてきて、日本男子にとっては脅威ではありますが世界の男子フィギュアが盛り上がるという意味では喜ぶべきことで今後が楽しみですね。

 3位に入ったのは2季前の全米王者ジェイソン・ブラウン選手です。SPは3アクセルでダウングレードの上に転倒、3ルッツがアンダーローテーション(軽度の回転不足)となり3位に8点差以上つけられての4位と出遅れ。しかしフリーは4回転を外し確実性を高めたプログラムを大きなミスなく演じ切り3位に上がりました。
 11月末のNHK杯の後、ブラウン選手は右脚の腓骨の疲労骨折が判明し、ジャンプの練習を始めたのはこの大会の2週間前だったとのことで、その中で最善を尽くした演技だったと思います。SPでジャンプミスが相次ぎフリーに向けては精神的にキツイ状態になったのではないかと想像しますが、昨季は負傷でシーズン後半の試合にほとんど出られなかったブラウン選手だからこそ、今季こそはという想いはあったでしょうし、その強い気持ちを持ってショートから切り替えたフリーは素晴らしかったですね。四大陸、世界選手権では万全な状態でまたブラウン選手らしい演技を見られることを楽しみにしています。

 4位でピューター(錫)メダルを手にしたのはグラント・ホフスタイン選手です。SPは冒頭の4トゥループが2回転になり0点となる痛いミスがあり5位。フリーはその4トゥループを着氷で乱れながらも回り切って下りると、もう1本の4トゥループはきっちりコンビネーションにして成功させフリー4位、総合4位となりました。
 総合得点では3位のブラウン選手と約6点差ということで、SPの4トゥループのパンクがもったいなかったですが、四大陸や世界の代表入りを目指す中でフリーでは最後まで諦めないという攻めた演技だったと思います。世界選手権の切符獲得は惜しくもなりませんでしたが、四大陸では今大会で得た悔しさも晴らせるよう頑張ってほしいですね。

 5位はこちらも実力者のロス・マイナー選手。SPは4回転を回避した構成をパーフェクトに滑り切り2位と好発進。しかし、フリーは4サルコウや3アクセルといった得点源のジャンプが不発に終わり8位、総合5位と表彰台を逃しました。
 6位はベテランのアレクサンダー・ジョンソン選手。SPは得点源のジャンプでミスを連発し9位と出遅れましたが、フリーはほぼ全てのエレメンツで加点を積み重ね5位、総合6位とジャンプアップしました。
 7位はティモシー・ドレンスキー選手。SPはジャンプとステップシークエンスでミスを犯し6位発進。フリーは3アクセルでミスが重なり9位、総合では7位となりました。
 8位はショーン・ラビット選手。ショートは最小限のミスで抑え11位につけると、フリーはショートで挑まなかった3アクセルこそ失敗に終わったものの、ほかのエレメンツは全て加点が付く出来でまとめて7位、総合8位に順位を上げました。


 次は女子の結果です。


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 初の栄冠に輝いたのはシニア2年目のカレン・チェン選手です。ショートは全ジャンプをパーフェクトに決め、さらに得意のスピンでも高い加点を稼ぎ72.82点でトップに立つと、フリーも全てのエレメンツで加点を引き出す質の高い演技を披露し141.40点でフリーも1位、完全優勝を果たしました。
 今シーズンのチェン選手は必ずしもジャンプの安定感抜群というわけではなく、GPの表彰台もありませんでしたが、持ち前のしなやかさに大人っぽさが加わった艶やかな表現力が印象深く、芸術面で成長したなとは感じていました。が、今大会は技術面でも一皮も二皮も剥けて一気に頂点へと躍進しましたね。シーズン前半の国際大会では転倒やパンク、細かな回転不足などジャンプの課題を感じる場面が多々あったので、そうした些細なミスさえもほぼなかった今大会の演技内容には驚かされましたが、ジュニア時代の2015年に初出場にして3位に入ったという爆発力のある選手でもあるので、ここ2シーズン国際大会でなかなか本領を発揮し切れなかった姿の方がやはり仮の姿で、今大会で見せた姿こそが本来のチェン選手なのだなと改めて感じさせられましたね。
 このあとのシーズンは全米女王として結果を期待される立場になるので、まだ若いチェン選手にとってはキツイ場面もあるかもしれませんが、今回の演技を自信に頑張ってほしいと思います。

 2位となったのはベテランのアシュリー・ワグナー選手です。SPは2アクセルでわずかなミスとスピンやステップシークエンスでレベルの取りこぼしがあり3位発進。フリーは3+3で2つ目がアンダーローテーションと判定されたり3+2の2つ目が1回転となったりと小さなミスはありましたが、ベテランらしい落ち着いた演技で総合2位に順位を上げ、全米9個目のメダルを獲得しました。
 GPでは初戦のスケートアメリカで優勝し最高のスタートを切ったものの、2戦目の中国杯では6位と表彰台に遠く及ばず、5年ぶりにファイナル進出を逃すというここ数年ではなかった形でシーズンを送っているワグナー選手。逆に言えば全米に向けて練習の時間はたっぷりあったわけで、パーフェクトではなかったものの練習の成果がきっちり表れた演技でしたね。経験豊かなワグナー選手のことですから、ここからさらに一段も二段もレベルアップするための手段は熟知しているでしょうし、世界選手権で再びメダルを取るためにいつもどおりのワグナー選手のペースできっちりピークを合わせてくるのではないかと思います。

 3位に入ったのは今季飛躍を遂げているマライア・ベル選手です。ショートは3+3で転倒し6位と出遅れましたが、フリーは序盤の2つのジャンプでミスがあった後はしっかり立て直してほとんどのエレメンツで1点以上の加点を獲得してフリー3位、トータルでも3位と銅メダルを射止めました。
 怪我で辞退した選手の代役として出場したスケートアメリカで銀メダルを獲得し一躍シンデレラとなったベル選手。そのあと出場したタリントロフィーではミスの多い内容で調子としては一度落としていましたが、今大会はしっかり合わせてきましたね。必ずしもジャンプは本調子ではなく、ショートで6位にとどまり、フリーでも冒頭にミスが相次ぎと表彰台に向けては危うい展開となりましたが、そこからの挽回が素晴らしかったですね。精神的に沈んで崩れてしまってもおかしくない流れから切り替えて立て直せたのは、シーズン前半の国際大会で得た経験や自信があったからこそだと思いますし、接戦のレースを勝ち抜けたという今回の経験もまた、さらに彼女を強くするのではないでしょうか。

 4位は実力者の長洲未来選手です。ショートは3ループでミスがあったものの得点源の3+3の成功に加え、得意のスピンやステップシークエンスを全てレベル4で揃えるなど底力を見せ2位の好位置につけます。しかしフリーは前半の3ルッツで転倒、後半のジャンプではアンダーローテーションが相次いで得点を伸ばせず4位、総合も4位と順位を落としました。
 2年連続の4位というのは群雄割拠のアメリカ女子の中で十分に拍手を送られるべき結果ですが、世界選手権出場を目指している長洲選手としては悔しさの方が大きいでしょう。今季はシーズン序盤のB級国際大会で3位&優勝と申し分ない滑り出しでしたが、その好い流れをGPにうまく繋げられなかった印象があります。そうした中で万全の準備をして今大会に臨み、SPではそれが結実しましたが、ショートで2位になったことが逆にフリーで過度に緊張させる原因になってしまったのかもしれません。昨季は久しぶりに世界選手権に出場できたとはいえ、出場辞退した選手のピンチヒッターで自力でつかんだチケットではなかったので、揺らがない自信が持てるほどの成功体験というのが近年の長洲選手にはなく、今回のフリーでも100%の自信を持てなかったのかなという気がしますね。ただ、2季前よりも昨季、昨季よりも今季と力をつけていることは間違いないですし、練習ではトリプルアクセルを成功させる姿も見せているので、今後も期待したいですね。

 5位は元世界ジュニア女王のキャロライン・ジャン選手です。ショートは冒頭で大技3ループ+3ループを完璧に成功。後半の3フリップで細かなミスがありましたが、得意のスピンは全てレベル4を揃え7位につけます。フリーは3ルッツでエッジエラー、ステップシークエンスでミスがあったものの、ショートに続き3ループ+3ループを後半で成功させるなどミスらしいミスなくジャンプをまとめ上げ、5位にジャンプアップしました。
 ジャン選手といえば10季前のJGPファイナルと世界ジュニアを制し、翌シーズンにはシニアに参戦するといきなりGPで2戦連続表彰台でファイナルにも進出と輝かしいシニアデビューで強いインパクトを残しましたが、その後は怪我もあり低迷。GPや主要国際大会への出場もここ数年なく、近年は全米でも10位台が定位置と個人的には第一線から遠ざかった選手というイメージでした。ですが、おととしに先天的な股関節の欠陥を補う外科出術をし、昨シーズンのフル休養を経て今季は国内の地方大会で順調に調整し、そして全米で5年ぶりの一桁順位と見事に復活。内容的にも世界で跳ぶ人のめったにいない3ループ+3ループを23歳という年齢で、しかも手術を経た上でこれだけ確率高く跳べるというのは本当に感嘆させられるとともに、勝手に全盛期を過ぎた選手と思っていたことを申し訳なく思います。
 3ループ+3ループというのは稀有で貴重な武器ですし、1年のブランクの翌シーズンでこれだけ本来のレベルを取り戻しているということで、今から来季のジャン選手が楽しみになりました。願わくば来季も表彰台争いに加わっている姿をぜひ見たいですね。
 6位になったのは前全米女王のグレイシー・ゴールド選手です。ショートは得点源の3+3を決めたものの、3フリップが2回転となり無得点になる痛いミスがあり5位発進。フリーも3+3は成功させましたが、その後のジャンプでミスを連発し、フリー9位、総合6位とシニア参戦以降初めて表彰台を逃す結果となりました。
 今季はシーズン序盤からジャンプのスランプに陥っているゴールド選手。高難度の3+3よりも、単独の3ルッツや3フリップでのミスが非常に多くなっています。原因が精神的なものなのか技術的なものなのかはわかりませんが、どんなにシーズン前半で振るわなくても全米には毎回きっちり合わせてきたゴールド選手が最後まで修正できなかったというのは、相当深刻な状態にあるのだろうと思います。大会後にはゴールド選手を指導するフランク・キャロルコーチが師弟関係の解消を示唆していて、今後ゴールド選手がどのような形で平昌五輪に向かっていくのかはまだ不明ですが、現役のアメリカ女子の中でも最高レベルのポテンシャルを持っている選手なので、また彼女らしい笑顔と輝きが戻ってくる日を待ちたいですね。
 7位はアンジェラ・ワン選手。ショートは冒頭の3フリップで転倒し11位発進。フリーも転倒とパンクがあり満足のいく演技とはなりませんでしたが、7位まで順位を上げてフィニッシュしました。
 8位はシニア1年目のアンバー・グレン選手。ショートは2つのジャンプでミスが重なり12位と出遅れましたが、フリーではミスを最小限にとどめて8位となりました。


 続いてはペアです。
 優勝者は2年前の銀メダリスト、ヘイヴン・デニー&ブランドン・フレイジャー組です。SPはソロジャンプとスロージャンプでミスがあったもののほかをクリーンにまとめて2位と好位置につけます。フリーもジャンプ系エレメンツで細かなミスは重なりましたが、大崩れすることなく演じ切って初優勝を成し遂げました。
 昨季はデニー選手の負傷のため休養を強いられたデニー&フレイジャー組ですが、復帰した今季はさっそくスケートアメリカで銀メダルを取り、翌週のスケートカナダでも4位と上々のシーズン前半を送り、そして初の全米チャンピオンというこれ以上ない栄誉を手に入れました。元々世界ジュニアを制するなど実力は証明されているペアですし、21歳と24歳と年齢的にも若いので、ここをスタートとしてアメリカのペア界を引っ張る存在としてこれからが楽しみですね。

 2位はマリッサ・カステリ&マーヴィン・トラン組です。ショートはツイストのレベルの取りこぼしやソロジャンプの転倒などミスを連発し4位と出遅れ。フリーもジャンプ系エレメンツで苦心しましたが、そのほかはおおむね安定した演技を見せ、昨年の3位から一つ順位を上げました。
 GPではスロージャンプやソロジャンプのみならずツイストやスピンで取りこぼす場面が散見されたカステリ&トラン組。今大会もジャンプは不安定さが目立ちましたが、ツイストやリフト、スピンではレベルの取りこぼしはGPより減り、しっかりと修正してきたことを感じさせる内容でしたね。結成して3季目ということでペアとしての一体感も徐々に出てきて、今回の銀メダルによって確実にまた一段ステップアップしたと思いますね。

 3位はペア結成1季目のアシュリー・ケイン&ティモシー・ルデュク組。SPはツイストがレベル1になるミス以外はほぼノーミスで滑り切り70点に迫る得点で首位発進。フリーはショートに続きツイストの失敗を始め、中盤のジャンプ系要素でもミスが相次ぎましたが、そのほかは無難にまとめて順位は落としたものの初の銅メダルを獲得しました。
 女性のケイン選手は元々ペアとシングルを掛け持ちし、12/13シーズンから昨季まではシングルに専念してGPにも出場するほどの選手でしたが、今季は新たにルデュク選手とパートナーを組みペアに復帰。そしていきなりの全米3位となったわけですが、女性がシングルでも活躍していたということでジャンプが安定しているのが強みですし、その上で子どもの頃からペアもやっているという経験も強力な武器となっていますね。まだ始まったばかりのペアなので未知数の部分も多いですが、今シーズンの成績を見ても将来性は十分という感じなので楽しみですね。

 4位となったのはディアナ・ステラート=デュデク&ネイサン・バーソロメイ組です。SPはツイストのレベルこそ2だったものの全てのエレメンツで加点を得て3位と好発進。フリーは全体的にミスの多い精彩を欠いた内容で順位を落としました。
 4位となったため四大陸や世界選手権への派遣は叶いませんでしたが、何といっても驚かされるのが女性のステラート=デュデク選手のキャリアとプロフィールです。ステラート=デュデク選手は99年のJGPファイナル女王、かつ、00年の世界ジュニア銀で、翌シーズンにはシニアのGPにも出場したものの、そのシーズンの全米選手権直前に怪我をしそのまま17歳で引退。ところが突如今季になって、ほかのパートナーとともに全米で銀メダルを獲得したこともある実力者バーソロメイ選手とペアを結成し、16季ぶりの競技復帰を果たしたという驚くべき33歳なのですが、そもそも10代で引退して30代で復帰しようというだけでも驚きですが、しかも経験のあるシングルではなくあえて未経験のペアでというのが信じられないような気持ちです。なかなか常識では考えられないことですが、実際に普通にトリプルジャンプを跳び、ペアならではのさまざまな技もこなしてというのを見ると、事実は小説より奇なりとはよく言いますが、ドラマや映画でもないようなことで本当に凄いなと思わせられます。
 オリンピックプレシーズンにして新たなキャリアをスタートさせたステラート=デュデク選手とバーソロメイ選手のペアがどこまで上り詰めるのか、今後も注目の二人ですね。


 最後はアイスダンスについて。
 2連覇を達成したのはマイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組です。SDはパターンダンスがレベル3になりましたが、それ以外は全てレベル4を揃え、唯一の80点台をマークして堂々の首位発進となります。FDもサーペンタインステップ以外はレベル4でまとめたものの、リフトの時間超過による減点もあり2位に。ですが、総合では1位で昨年に続く2つ目の金メダルを獲得しました。
 確固たる技術力を持つシブタニ兄妹にしては珍しくフリーは技術点で1位を取れませんでしたが、今大会もあくまで通過点でしかなくて、見据えているのは世界の頂点だと思うので、ほとんど問題なく順調に調整できているように感じますね。

 2位となったのはマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組です。SDはシブタニ兄妹と約2点の僅差で2位につけると、FDは基礎点ではシブタニ兄妹と同じ得点だったもののGOEの加点をより多く獲得し技術点で上回ってフリー1位、総合では約1点差の2位となりました。
 GPでは最高難度のレベル4に届かない場面が多々見られ調子の波に乗り切れていないという印象のあったチョック&ベイツ組ですが、今回の演技はその鬱憤を晴らすのに十分な完成度、達成感があったのではないかと思います。シーズン後半はチョック&ベイツ組らしいキレキレの演技をまた見せてほしいですね。

 3位に入ったのはマディソン・ハベル&ザカリー・ドノヒュー組です。SDは全てのエレメンツでレベル4を獲得し3位と好位置につけます。しかしフリーでは珍しく転倒もあり得点を伸ばし切れず昨年と同じ3位となりました。
 今季はGPで2戦連続2位でファイナルも進出と成長目覚ましいハベル&ドノヒュー組。今大会のショートもその勢いのままにパーフェクトな演技を披露しましたが、フリーでは順位を意識してしまったのかショートほどのびのびとした滑りはできませんでした。ただ、着実に成長を遂げているカップルなので、シーズン後半のさらなる飛躍に期待したいですね。

 4位は今季シニアデビューのエリアナ・ポグレビンスキー&アレックス・ブノワ組。SDは2つのステップがレベル3にとどまり5位発進。しかしフリーはサーペンターンステップ以外は全てレベル4という精度の高い演技で順位を上げました。
 GPでは7位&6位とさほど目立った成績を残したわけではありませんでしたが、今大会はレベルの取りこぼしも少なく、特にフリーでは基礎点の合計がシブタニ兄妹、チョック&ベイツ組に並ぶ点数で技術力の高さを見せつけ、シーズン序盤からの修正力と確かな成長を示しました。18歳と21歳という若いカップルなので、次世代のアメリカのアイスダンス界を担う存在として今後が楽しみですね。



 さて、ここまで全米選手権2017の結果を振り返ってきましたが、この成績を受けて選ばれた世界選手権と四大陸選手権のメンバーをまとめてみたいと思います(敬称略)。


《世界選手権代表》

男子シングル:ジェイソン・ブラウン、ネイサン・チェン
女子シングル:マライア・ベル、カレン・チェン、アシュリー・ワグナー
ペア:ヘイヴン・デニー&ブランドン・フレイジャー組、アレクサ・シメカ=クニーリム&クリス・クニーリム組
アイスダンス:マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組、マディソン・ハベル&ザカリー・ドノヒュー組、マイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組

《四大陸選手権代表》

男子シングル:ジェイソン・ブラウン、ネイサン・チェン、グラント・ホフスタイン
女子シングル:マライア・ベル、カレン・チェン、長洲未来
ペア:アシュリー・ケイン&ティモシー・ルデュク組、ヘイヴン・デニー&ブランドン・フレイジャー組、アレクサ・シメカ=クニーリム&クリス・クニーリム組
アイスダンス:マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組、マディソン・ハベル&ザカリー・ドノヒュー組、マイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組



 まずは世界選手権の代表メンバー。おおむね全米の順位どおりとなっていますが、男子は銀メダルのゾウ選手ではなく銅メダルのブラウン選手が2人目として選ばれ、ゾウ選手は補欠の1番手に回りました。これはやはりブラウン選手の経験を買ってということだと思いますが、今年の世界選手権は来年のオリンピックの枠取りも懸かる例年以上に重要な大会なので、その重圧を初出場の10代の2人に委ねるのはリスクが高いと考えたのでしょうね。個人的にもその考えには頷けるので、ブラウン選手の選出は納得できます。
 そして、ペアは女性のシメカ=クニーリム選手の病気の治療のため今季は試合に出ていないシメカ=クニーリム&クニーリム組が選出されました。シメカ=クニーリム&クニーリム組は一昨年の全米チャンピオンで昨年は銀という実力者なので、シメカ=クニーリム選手の回復具合を確認した上で十分間に合うと判断しての選出なのでしょうね。
 一方で昨年の金メダリストのタラ・ケイン&ダニエル・オシェア組はSPで5位につけながらも、演技中のスロージャンプでケイン選手が転倒した際に頭を打ち脳震盪を起こした疑いがあると診断を受けフリーを棄権。さらに、昨年の夏からケイン選手は右膝の痛みに悩まされていたとのことで世界、四大陸ともに補欠に入ることもありませんでした。

 そして四大陸。男子は世界選手権のメンバー2人に加え、今回4位だったホフスタイン選手が選出。ゾウ選手は補欠にも名を連ねていないので、四大陸への派遣希望はなかったものと思われます。
 女子はワグナー選手が外れ、長洲選手がメンバー入り。ワグナー選手は2012年を最後に四大陸には出場しておらず、ただ今年の四大陸は平昌五輪の会場で開催されるのでワグナー選手も出場を希望するかなと思ったのですが、例年どおり出場せず世界選手権に専念するという道を選びましたね。
 またペアでは、世界選手権メンバーから外れたカステリ&トラン組が四大陸代表入りもならずという結果となりました。世界選手権の補欠の順番を見てもケイン&ルデュク組の次にカステリ&トラン組という位置づけになっているので、アメリカフィギュアスケート協会としてはケイン&ルデュク組の方をより評価しているということなのでしょう。国際大会での経験、実績ではカステリ&トラン組の方が上回っていると思うのですが、ケイン&ルデュク組は今大会のSPで1位になるなど爆発力もあり、トータルスコアでは僅差だったということも鑑みて、ケイン&ルデュク組の将来性をより重く見たということなのかもしれません。



 という全米の結果&主要国際大会のメンバーとなりました。日本とは違って順位どおりの選出とはなっていない部分も多いですが、今年の世界選手権の重要さを考えるとメンバー選びもいつも以上に慎重にならざるをえないでしょうし、3枠を確実に取れる可能性の高い顔ぶれにしなければいけないというところで難しさがありますね。
 さて、この記事を書いているあいだにも欧州選手権が始まり進行しています。次はその欧州選手権についての記事を書きたいと思っていますので、また少しお待ちください。では。


:記事冒頭の男子メダリスト4選手の写真は、フィギュアスケート専門誌「International Figure Skating」の公式フェイスブックページから、女子メダリスト4選手の写真は、スケート情報サイト「icenetwork」の写真特集ページから引用させていただきました。

by hitsujigusa | 2017-01-27 16:17 | フィギュアスケート(大会関連)