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四大陸選手権2017・男子&ペア―ネイサン・チェン選手、300点超えで初優勝(前編)

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 来年行われる平昌五輪の会場で開催された四大陸選手権2017。女子&アイスダンス編の記事に続き、男子とペアの試合内容、結果についてお伝えします。なお、女子&アイスダンスの記事はこちらのリンクからご覧ください。
 300点超えで初出場にして初優勝を達成したのは全米王者のネイサン・チェン選手です。同じく300点超えで銀メダルを獲得したのは日本の羽生結弦選手、銅メダルを獲得したのは全日本王者の宇野昌磨選手となっています。
 ペアは昨季の世界選手権以来の実戦となった中国の隋文静(スイ・ウェンジン)&韓聰(ハン・ツォン)組が2連覇を果たしました。

ISU Four Continents Figure Skating Championships 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 男子を制したのはアメリカの新星ネイサン・チェン選手です。

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 SPはまず代名詞ともなっている大技4ルッツ+3トゥループ、これをクリーンに下り1.7点の高い加点を獲得。続く4フリップも難なく成功。後半に組み込んだ苦手な3アクセルもきっちりと着氷し、ステップシークエンス、スピンは全てレベル4というそつのない演技。得点は自己ベストで世界歴代3位となる103.12点で圧巻の首位発進となります。
 フリーも冒頭は4ルッツ+3トゥループ、これをショート以上の完成度で跳び、続く4フリップもパーフェクトに着氷し、それぞれ2.43点という高い加点を得ます。次の4トゥループは着氷が若干乱れますが確実に成功。さらに続けて4トゥループ+2トゥループも成功と、前半に組み込んだ4つの4回転を全て着氷します。コレオシークエンスを挟んで後半、最初の3アクセルからの3連続ジャンプは最後に跳んだ2トゥループが同じジャンプの繰り返し違反で無得点となりますが、直後に予定を変更して4サルコウに挑み見事に成功。次の3ルッツはきれいに下り、最後の3アクセルは着氷が乱れましたが、終盤に固めたステップシークエンス、スピンは全てレベル4と最後までエネルギッシュに滑り切りました。得点はこちらも世界歴代3位となる204.34点、トータルでは307.46点と史上3人目となる300点の壁を突破し、金メダルを手にしました。
 とにもかくにも圧巻としか言いようのない、まさに新時代の到来を告げる演技でしたね。当初の予定ではフリーは3種類4本の4回転に抑えるつもりで(それでも十分凄いですが)、さらにさかのぼって3週間前には3本の4回転にとどめる計画もあったそうですが、実際の演技では全米選手権と同じ4種類5本の4回転を跳び切り、国際大会では史上初となる1つのプログラムで5本の4回転成功という偉業達成となりました。直前に滑った羽生選手が300点を超えたのを見て、それに勝つためには5本の4回転が必要と判断したのかもしれないですし、それとは別に最高レベルの演技をしようと思ったのかもしれないですが、このジャンプ構成でもまだ余裕さえ感じさせる演技で、一躍世界選手権の優勝候補に名乗りを上げました。四大陸王者として臨む世界選手権は2009年のエヴァン・ライサチェクさん以来となるアメリカ人の世界王者誕生なるかという点においても大きな期待を背負うことになると思いますが、再びチェン選手らしいジャンプとスケートで観客を魅了してほしいと思います。四大陸選手権初優勝、おめでとうございました。


 惜しくも2位となったのは日本の羽生結弦選手です。

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 SPは新たな代名詞となった大技4ループから、これを完璧に跳び切って2.29点の高い加点を獲得し最高のスタートを切りますが、続く4サルコウ+3トゥループは2サルコウ+3トゥループに。後半の3アクセルは満点となる加点3を得る美しい跳躍と流れでまとめ、終盤のステップシークエンスやスピンは全て加点1以上と高いクオリティーを見せ、97.04点で3位につけました。

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 フリーも冒頭は4ループ、これを再び完璧に下りると、ショートで失敗した4サルコウもクリーンに成功。スピンとステップシークエンスを挟んだ3フリップも問題なく決めてノーミスの前半となります。後半最初は4サルコウからの連続ジャンプ、これは2サルコウ+1ループに。ですが、直後の4トゥループ、3アクセル+3トゥループを着氷すると、続いて3アクセルからの連続ジャンプの予定を4トゥループ+2トゥループに変更。さらに最後の3ルッツは3アクセルに変更してより点数を稼ぐための機転を利かせ、206.67点でフリー1位と猛追を見せましたが、トータルではシーズンベストで303.71点だったもののチェン選手には僅差で及ばず2位となりました。
 ショート、フリーともに4サルコウのパンクが1つずつあり、予定していた演技とは違う内容となりましたが、フリーは滑りながら高度なレベルでジャンプ構成を変更するという離れ業を見せ、羽生選手の底力を改めて示しました。相当な集中力をジャンプに注ぎ込むことになったため表現面は少し疎かになってしまった感は否めないですが、今後のことも見据えると、1つのジャンプ構成のバリエーションとしてこうした経験ができたことは来季に繋がるでしょうね。残念ながら四大陸初制覇はチェン選手に阻まれましたが、全体的な総合力で見ると、フリーでほとんどの4回転を前半に跳んだチェン選手に対して、2本の4回転と2本の3アクセルを後半に跳んだ羽生選手にまだまだ優位性はあり、世界選手権で2人ともノーミスの演技をすれば羽生選手が勝つ可能性は高いので、まだ完成していない両プログラムを完成させて、ぜひ世界の頂点に再び立ってほしいと思います。


 3位となったのは日本の宇野昌磨選手です。

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 SPはまず代名詞の4フリップから、着氷でバランスを崩しながらも何とかこらえます。続いて4トゥループ+3トゥループはパーフェクトに成功。さらに後半の3アクセルはお手本通りの跳躍で加点2.71という高評価を得て、ステップシークエンスやスピンも全てレベル4。フィニッシュした宇野選手は天を仰いで喜びを露わにしました。得点は自己ベストで世界歴代4位となる100.28点で2位と好発進しました。

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 フリーはまずは試合では初めてとなる4ループに挑戦、これを完璧に成功させて2.43点の加点を獲得します。さらにショートでは着氷が乱れた4フリップもクリーンに下りて2.29点の加点。若干苦手としている3ルッツも問題なく決めて最高の前半となります。レベル4のスピンとステップを挟んで後半、得意の3アクセルからでしたが珍しく転倒。続いて4トゥループは着氷でこらえながらも成功させ、さらに4トゥループ+2トゥループの連続ジャンプもクリーンに着氷します。次は3アクセルからの連続ジャンプでしたがこちらは再び転倒。最後の3サルコウは難なく下り、情熱的な女性ボーカルに乗せてスピード感を保ったまま滑り切った宇野選手は、達成感と悔しさがない交ぜになった複雑そうな表情を浮かべました。得点は187.77点でフリー3位、トータルでは288.05点と自己ベストを更新し、ショートから順位は落としたものの四大陸では初めてとなるメダルを手にしました。
 過去2度の四大陸ではSPで自己ベストをマークして2位につけながらもフリーで崩れて表彰台を逃してきた宇野選手。今大会も自己ベストでショート2位という全く同じシチュエーションとなったわけですが、フリーでミスがある中でも踏みとどまって3度目の正直を体現しましたね。何といっても特筆すべきはフリーの4ループの初成功でしょう。初挑戦にしていきなりの完璧な形での成功で、練習ではまだ成功率が低く宇野選手自身もここまでのきれいな形での成功は想定していなかったんじゃないかと思いますが、宇野選手といえば4フリップも昨年4月のチームチャレンジカップで初挑戦で初成功させており、本当に本番に強いなと改めて思わせられましたね。一方で練習でほとんど失敗のなかった3アクセルが2本とも転倒というもったいないミスもあり、世界選手権に向けては収穫と課題を両方得た試合となったわけですが、3アクセルに関しては心配な点はないので、良い宿題をもらったという感じでしょうか。
 宇野選手はこの記事を書いている時点ですでに始まっているアジア冬季大会にも出場しなければならず、大変だとは思いますが体調と怪我にだけは気を付けて頑張ってほしいですね。


 4位に入ったのは元世界チャンピオン、カナダのパトリック・チャン選手です。

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 SPは得意の4トゥループからでしたが、珍しく回転不足で転倒してしまいます。直後の苦手としている3アクセルはパーフェクトに成功。後半の3ルッツに3トゥループを付けてリカバリーしますが、着氷が乱れて減点。しかしステップシークエンス、スピンは全てレベル4に加え1点以上の加点を積み重ね、88.46点で5位につけます。
 フリーはショートで失敗した4トゥループ+3トゥループから、これをクリーンに着氷させ2.57点の加点を得ると、続く3アクセルも完璧で同じく加点2.57点を獲得。理想的な滑り出しを見せましたが、続いて今季から取り入れている4サルコウはアンダーローテーション(軽度の回転不足)で転倒します。そこから調子が狂ったのか、2本目の4トゥループは転倒。2本目の3アクセルも着氷を乱してコンビネーションに繋げられず、終盤の3ルッツでもミス。最後はチャン選手らしい無駄な力の入っていない流れるようなスケーティングと回転の速いスピンで魅せましたが、179.52点でフリー4位、総合も4位と表彰台には届きませんでした。
 これまで3度四大陸に出場してその全てで優勝している極めて相性の良かったチャン選手ですが、急激にレベルの高くなった今年は上位3選手と内容的にも得点的にも大差をつけられてしまいました。チャン選手の強みとしては軒並み9点台を揃えられる演技構成点の高さやジャンプ、スピン、ステップ全てで高いGOE加点を稼げる総合力の高さがありますが、4回転を3種類も4種類も跳ぶ時代にあっては、さすがのチャン選手といえども今回の演技内容では太刀打ちできなかったですね。ただ、チャン選手だからこそできるスケートというのは今回も際立っていましたし、2種類の4回転をショートとフリー合わせて4本という構成でもさらに完成度を高めることさえできれば世界選手権の表彰台争いに間違いなく加わってくる選手ですので、今度こそは納得いく演技を楽しみにしたいですね。


 5位は中国の若手、金博洋(ジン・ボーヤン)選手です。

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 SP冒頭は代名詞の4ルッツ+3トゥループでしたが、セカンドジャンプの着氷で大きくバランスを崩し大幅に減点。しかしその後の4トゥループ、3アクセルは無難にまとめ、また、コミカルな「スパイダーマン」のプログラムを表情豊かかつ躍動感たっぷりに演じ切り、91.33点で4位の好位置につけます。
 フリーもまずは4ルッツ+3トゥループを若干流れは詰まりながらも確実に着氷。しかし、次の4サルコウで乱れると、試合では始めて挑んだ4ループはアンダーローテーションで転倒となります。さらに後半1発目の4トゥループでも転倒。直後の4トゥループ+2トゥループは何とか下り、終盤は2本の3アクセル含め全てのジャンプをクリーンに跳び切り、176.18点でフリー5位、総合ではチャン選手に0.47点及ばず5位となりました。
 今シーズンの金選手は昨季ほどの4回転の抜群の安定感は見られず、今大会も7本挑んだうちクリーンに決まったのは2本だけでした。成長期の影響もあるのでしょうが、昨季よりも思い切りの良さも薄れているのかなという気もしますね。ただ、その中でも新たな武器として4ループにチャレンジし、残念ながら成功には至りませんでしたが、現在の4回転時代を作り上げた一人として周囲の進化に食らいついていこうという強い気持ちがうかがえる試みでしたね。金選手は上述した宇野選手と同じく札幌で開催中のアジア冬季大会に出場予定で、そうした調整を経て世界選手権に臨むことになりますが、約1カ月の短期間で4回転のズレをどこまで修正できるかに注目したいですね。


 6位はアメリカの実力者ジェイソン・ブラウン選手です。

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 SPはまず3フリップ+3トゥループをクリーンに着氷して好調な出だし。続いて3アクセルでしたがこれは転倒となります。後半の3ルッツも目立った乱れなく下りたもののアンダーローテーションと判定されて減点。ステップシークエンス、スピンは全てレベル4を揃えて本領を発揮しましたが、2つのジャンプミスが響き、80.77点で9位にとどまります。
 フリーも4回転は入れない構成で臨み、まずはショートで転倒した3アクセルからの連続ジャンプを成功させると、続いて2本目の3アクセルもきれいにまとめます。スピンとステップを高いレベルでこなすと、6つのジャンプ要素を固めた後半最初の2アクセルを難なく着氷。3ルッツと3+3を相次いで下りて良い流れに乗りますが、続く2アクセルはパンクして1回転に。残り2つのジャンプでも細かなミスは重なりましたが、しっとりとしたプログラムの世界観をブラウン選手ならではのしなやかな身のこなしで十二分に表現しました。得点は165.08点でフリー6位、総合も6位と順位を上げました。
 NHK杯後に判明した疲労骨折からの回復途上にあるブラウン選手。今大会も全米選手権の時と同じく4トゥループは回避しましたが、SPは得点源となる3アクセルで転倒したことによって出遅れてしまいました。ただ、フリーではしっかり立て直して6位という高順位に食い込み、改めて4回転がなくともそのほかのエレメンツを高いレベルでまとめられるブラウン選手の凄味を感じさせられました。異次元の4回転時代を迎えている今の時代だからこそ、彼のような稀有なスケーターの存在が男子フィギュア界に豊かさをもたらしてくれるのではないかと思います。世界選手権でもブラウン選手らしい演技を楽しみにしています。



 さて、この記事はとりあえずここまでとして、続きは後編に書きます。お手数ですが、続きは後編をご覧ください。


:男子メダリスト3組のスリーショット写真、羽生選手のフリーの写真は、デイリースポーツの公式サイト内の写真特集記事から、チェン選手の写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、羽生選手のSPの写真、宇野選手のSPの写真、チャン選手の写真、金選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、宇野選手のフリーの写真、ブラウン選手の写真は、マルチメディアサイト「Zimbio」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2017-02-23 16:54 | フィギュアスケート(大会関連)