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世界選手権2017・男子フリー&アイスダンス―羽生結弦選手、逆転で2度目の優勝(前編)

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 フィンランドの首都ヘルシンキで行われた世界選手権2017。この記事では男子のフリーとアイスダンスについてお届けしますが、前編ではまず男子の1~6位までの選手について書いていきます。
 男子を制し2度目の優勝を果たしたのは日本の羽生結弦選手。SP5位からの逆転優勝を狙ったフリーでは自身が持つ世界歴代最高得点を塗り替え、劇的な展開を演出しました。銀メダルを獲得したのは同じく日本の宇野昌磨選手、3位は2年連続で中国の金博洋(ジン・ボーヤン)選手となっています。
 一方、アイスダンスはバンクーバー五輪金メダリストのテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア組が実に5年ぶり、3度目の優勝となりました。

ISU World Figure Skating Championships 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 SP5位から逆転で金メダルを獲得したのは羽生結弦選手です!

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 冒頭は代名詞の大技4ループ、これをショート同様完璧に決めて全ての審判からプラス2もしくは3の高評価を引き出します。さらに4サルコウも難なく成功。続くスピンとステップシークエンスはきっちりレベル4。3フリップをあっさりと下り、ここから後半。ショートでは失敗に終わった鍵となる4サルコウ+3トゥループでしたが、4サルコウをパーフェクトに下りると綺麗な流れで3トゥループに繋げて2.43点の高加点。次の4トゥループもクリーンに着氷。その後は3アクセルからの連続ジャンプと単独の3ルッツと、羽生選手にとっては簡単なジャンプを全て余裕を持って成功させ、演技を終えた羽生選手に対し嵐のようなスタンディングオベーションと拍手喝采が送られました。得点は世界歴代最高となる223.20点でもちろんフリー1位、総合でも1位となり、2014年以来2度目となる世界タイトルを手にしました。
 ショートでは今季鬼門となっている4サルコウ+3トゥループでのミスに加え、スタートのポジションにつくのが遅れたことによる減点もあり5位にとどまった羽生選手。トップのハビエル・フェルナンデス選手までは約10点差ということで、フェルナンデス選手がミスを連発でもしない限り逆転は難しいだろうとショートの記事の時に書いたのですが、まさにそのとおりの展開となりました。思えば昨年の世界選手権は羽生選手が1位で2位がフェルナンデス選手、2人のあいだには約12点差があったのが、フリーはフェルナンデス選手のキャリアベストの演技と羽生選手の不本意な演技により劇的なフェルナンデス選手2連覇となりましたし、2015年の時も僅差ながら1位羽生選手、2位フェルナンデス選手という順位からフリーでの逆転を許してしまっていて、むしろ追いかける立場となった羽生選手の方に今回は精神的に有利に働いたのかなという気もしますね。
 とはいえ10点差をひっくり返すのはたやすいことではありません。それが成し遂げられたのは、羽生選手の確かな技術と追い詰められれば追い詰められるほど燃えやすい羽生選手の性格によるところが大きいのかなと思います。そう考えるとオリンピックもショート1位よりも2位とか3位の方が良いのかななんて思ってしまいますが、羽生選手本人からしたらショートもフリーも完全無欠の演技が当然の目標でしょうし、昨季のNHK杯、GPファイナルではそうした神がかった演技ができていたわけですから、今後も羽生選手にとっては過去の自分が最大の敵になっていくのかなと思いますね。
 オリンピック前年の世界選手権を制し、最高の形で五輪プレシーズンを締めくくることが出来た羽生選手(まだ国別対抗戦は残っていますが)。とにかく怪我にだけは気をつけて、オリンピック2連覇に向けて頑張ってほしいですね。世界選手権優勝、おめでとうございました。


 2位に入ったのは全日本チャンピオンの宇野昌磨選手です。

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 まずは2月の四大陸選手権から跳び始めた新技4ループ、これをクリーンに回り切って下りて1.43点の加点を得ます。続けてこちらも大技の4フリップを若干着氷でこらえながらもまとめます。次の3ルッツは踏み切りのエッジを気にしすぎたのか、いつもより力の入った跳躍となり着氷でバランスを崩します。後半はまず得意の3アクセル+3トゥループから、これは完璧な流れで満点となる加点3の高評価。続く4トゥループは着氷でわずかにこらえて減点されますが、直後の4トゥループ+2トゥループはクリーンに成功。さらに3アクセル+1ループ+3フリップの高難度3連続ジャンプもパーフェクト。最後の3サルコウも難なく決めると、代名詞の“クリムキン・イーグル”を含むコレオシークエンスでは情熱的な滑りで観客を沸かせ、フィニッシュした宇野選手はショートに続き片手でガッツポーズ。得点は自己ベストかつ世界歴代3位の214.45点でフリーも2位、総合では世界歴代2位のハイスコアで初めての銀メダルを獲得しました。
 1年前はフリーで崩れ大粒の涙をこぼした宇野選手。その借りを返す素晴らしい演技でした。何よりも驚かされるのがジャンプの安定感。すでに宇野選手の代名詞的ジャンプとして定着している4フリップも跳び始めたのは昨年の世界選手権の後で、気分転換でやってみたら成功してしまったという凄いエピソードがありますし、4ループに関しても試合で跳び始めたのは2月の四大陸からにもかかわらずしっかり自分のものにしています。元々ジュニア時代の宇野選手はジャンパーというよりも表現面が注目された選手でしたが、ジュニアラストの14/15シーズンに4トゥループと3アクセルを習得してからはジャンパーとしても安定感、上達の早さは際立っています。また、フリーの演技前には羽生選手の世界最高の演技をモニターで見ていて敵わないと思うことで逆に開き直れたという話もあり、そうしたメンタルコントロールの巧さも銀メダルに繋がったのでしょうね。
 世界選手権から帰国後にははやくも4ルッツの習得に意欲を示していて、個人的にはあまり無理して怪我してほしくないなという老婆心もあるのですが、こうした無限の向上心、攻める姿勢こそが宇野選手らしくもあり、また、彼がここまで技術の進化に貪欲になれるのも同じ国に羽生選手という高い壁であり良いお手本でもある存在からいるからこそで、オリンピック前にこの二人のワンツーフィニッシュが見られたのは本当にうれしいことですね。
 4月20日から始まる世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)の出場も決まっている宇野選手。去年の4月はチーム・チャレンジ・カップで史上初となる4フリップを成功させたことを考えると、今年の国別対抗戦もまた何か新しいことをやってくるんじゃないかという気もして楽しみですね。


 昨年に続き銅メダリストとなったのは中国のエース、金博洋選手です。

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 冒頭は代名詞の4ルッツをパーフェクトに成功させて2.57点の加点を獲得。さらに4サルコウもスムーズに着氷します。さらに3アクセル+1ループ+3サルコウもクリーンに下りて、前半を最高の形で折り返します。そして後半、まずは4トゥループ+2トゥループをしっかり決めると、続く単独の4トゥループも成功。3+3、3アクセル、3フリップと全てのジャンプを予定どおりにクリアし、スピン、ステップシークエンスも全てレベル4とそつなくまとめ、フィニッシュした金選手は力強いガッツポーズで喜びを露わにしました。得点は204.94点と初めて200点台に乗せてフリー3位、トータルでも自身初の300点台で3位に入りました。
 今シーズンはGP初戦のスケートアメリカこそジャンプ不調で表彰台を逃しましたが、2戦目の中国杯では2位、年明け以降も四大陸、アジア冬季大会と順調に調整を進めて調子を上げつつあった金選手ですが、今大会はショート、フリーともに全てのエレメンツがプラス評価という素晴らしい仕上がりでしたね。演技自体も非常にのびのびと楽しそうに滑っているのが印象的で、今季はネイサン・チェン選手という新たな4ルッツの使い手が登場し脚光を浴びたことで金選手は少し陰に隠れた感がありましたが、それが逆に功を奏したのかもしれません。
 2年連続での銅メダルということで、何か運の良さも感じられる金選手。オリンピックでもメダル候補に挙げられることは間違いないですから、来季も日本勢の手ごわいライバルとして注目ですね。


 惜しくも4位となったのは2015、2016年の世界王者、スペインのハビエル・フェルナンデス選手。

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 SP首位という絶好のポジションでフリーを迎え、まず冒頭の4トゥループをお手本のような流れで決め全てのジャッジが加点3という驚異的な評価を得る最高のスタート。次の4サルコウ+3トゥループは着氷で少し乱れますが、3アクセル+2トゥループはクリーンにまとめます。後半は得意の4サルコウからでしたが、珍しく転倒。次の3アクセル、3ルッツは問題なく下りて立て直したかに見えましたが、その後の3+1+3のファーストジャンプが2回転に、さらに最後の3ループでも着氷ミスと普段失敗しないジャンプでのミスが重なり、演技後フェルナンデス選手は残念そうに肩を落としました。得点は192.14点でフリー6位、トータルでは300点台に乗せましたが3位の金選手にわずかに及ばず表彰台を逃しました。
 世界歴代2位の演技となったショートから一転、フリーはフェルナンデス選手らしからぬ演技で優勝候補がまさかの4位にとどまりました。前半の4+3でちょっとしたミスがありましたがそれだけならまだしも、後半の4サルコウの転倒から終盤の2つのジャンプのミスと、どんどん歯車が噛み合わなくなっていったような印象でしたね。演技前にはすでに羽生選手の得点を知っていたそうなので完璧に滑らなければならないというプレッシャーがあったのかなと想像しますが、フェルナンデス選手のこれまでの優勝というのはSP2位から羽生選手を追いかける立場だったので、SP首位という初経験がいつもとは違う感覚に繋がったのかもしれませんね。
 今までフェルナンデス選手はショート、フリー合わせて2種類の4回転を5本という構成で世界の覇権を争ってきましたが、4回転を3種類、さらには4種類跳ぶ選手がいる現状を考えると、戦略を考え直す必要があるかもしれません。それとも今までどおりの構成でさらに精度を高める方向でいくのか、フェルナンデス選手の逆襲に期待したいですね。


 5位となったのはカナダのベテラン、パトリック・チャン選手です。

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 まずは得点源となる4トゥループ+3トゥループをきっちり決めて2点の加点。さらに今季から取り入れている4サルコウも完璧な跳躍と着氷で加点2.71点と絶好の滑り出しとなります。しかし次の3アクセルは着氷で大きくバランスを崩し減点。2つのスピンを挟んだ後半、1発目のジャンプは4トゥループでしたがこちらも着氷でミス。次の3アクセルはきれいに成功させ、以降のジャンプは全てクリーンに下りましたが、得点源となる大技でのミスが響き、193.03点でフリー5位、総合も5位となりました。
 残念ながら表彰台には届きませんでしたが、チャン選手らしいスケーティング、ジャンプやスピンの質の高さは随所に見られ、世界のトップレベルで戦う力はまだまだ健在であることを示す演技だったと思います。特に今回決めた4サルコウはまるで何年も跳び続けてきたかのような美しさで、このジャンプを手に入れたことはチャン選手にとって構成の幅が広がるという意味でも、26歳にしてまだ伸びしろがあることを証明したという意味でも、来季の大きな武器になるのではないでしょうか。
 フェルナンデス選手同様、下の世代と比べるとジャンプの基礎点ではどうしても劣るチャン選手ですので、2種類の4回転の安定感はもちろん、彼にしかできないスケーティングの世界を極めていくことで、オリンピックのメダルにも繋がっていくのではないかと思いますね。


 6位はアメリカチャンピオンのネイサン・チェン選手です。

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 まずは今季ほとんど失敗がない大技4ルッツでしたが、回転は十分だったもの転倒となります。しかし次の4フリップに急遽2トゥループを付けてリカバリー。さらに続けて2本目の4フリップに挑みきれいに成功させ、直後の4トゥループは着氷でわずかに乱れますが最小限のミスにとどめます。後半はSPで失敗した3アクセル、これをクリーンに下りて良い流れのように見えましたが、次の4サルコウで転倒。続いて6本目の4回転となる4トゥループ+3トゥループに挑戦しましたが着氷で乱れ、最後の3ルッツからの3連続ジャンプも若干減点される出来栄えに。終盤に固めたスピンとステップシークエンスは全てレベル4にまとめましたが、193.39点でフリー4位、総合6位にとどまりました。
 フリーでは何と史上初となる6本の4回転にチャレンジしましたが、そのうち加点が付いたのは2本だけで、転倒も2本と完成度と出来栄えでは劣る内容となりました。ただ、今大会のチェン選手はスケート靴に問題を抱えていたということで、それがなかったらどうなっていたのかというのは気になるところですね。来季チェン選手が4回転を何本入れてくるのかはまだわかりませんが、個人的な要望としては、現在のチェン選手のフリーはほとんどの4回転を前半に跳び、体力がきつくなる終盤に全てのスピンを集めているというかなり偏った構成になっているので、4回転5、6本というのはもちろん素晴らしいのですが、せっかくチェン選手にはバレエで鍛えた美しい身のこなしやフットワークの巧さもあるので、そちらもより活かされたプログラムになることを来季は期待したいですね。



 さて、この記事はここで一旦終了とし、後編に続けます。お手数をおかけしますが、続きは後編でお読みください。


:男子メダリスト3選手のスリーショット写真は、マルチメディアサイト「Newscom」から、羽生選手の写真、金選手の写真、フェルナンデス選手の写真、チャン選手の写真、チェン選手の写真は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、宇野選手の写真はAFPBB Newsが2017年4月2日の8:55に配信した記事「羽生がFS歴代最高得点で逆転優勝、宇野は銀 世界フィギュア」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2017-04-05 23:49 | フィギュアスケート(大会関連)