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NHK杯2017・男子&アイスダンス―セルゲイ・ボロノフ選手、パーソナルベストでGP初優勝

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 前記事に引き続きNHK杯2017の記事をお送りします。今回は男子とアイスダンスです。
 その男子は圧倒的な優勝候補だった日本の羽生結弦選手がSP前日の公式練習で4ルッツの練習をした際に着氷で失敗、転倒し、右足の靭帯を痛め棄権。このアクシデントによって、男子の勢力図はガラリと変貌しました。
 そんな男子を制したのはロシアのベテラン、セルゲイ・ボロノフ選手。GP参戦12季目、30歳にして初優勝という快挙を成し遂げました。2位はアメリカのアダム・リッポン選手、3位はイスラエルのアレクセイ・ビチェンコ選手と、ベテラン勢が表彰台を独占しました。
 一方、アイスダンスは世界王者のテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア組が優勝し、ファイナル進出を確定させました。

ISU GP NHK Trophy 2017 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 金メダルを獲得したのはロシアのセルゲイ・ボロノフ選手です。

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 SPは「アディオス・ノニーノ」。冒頭は得点源の4トゥループ+3トゥループを完璧に決めて加点2の高評価を得ます。単独の3ルッツはジャンプ自体はクリーンに下りましたが、ステップからただちに跳ばなければいけないところ、構えが長くなってしまったためわずかに減点を受けます。後半の3アクセルはこちらも余裕のある跳躍で加点1.86点。スピンは全てレベル4と全てのエレメンツをクリーンに揃え、自己ベストに0.27点と迫る高得点でトップに立ちます。
 フリーは「サラバンド組曲」。まずはショートでパーフェクトに決めた4トゥループ+3トゥループから、これをまたもや驚くべき高さで成功させて2.14点の加点を獲得します。続く3アクセルもクリーンで1.86点の加点。次の4トゥループは回転は充分だったものの両足着氷で減点となります。後半最初の3アクセル+2トゥループ+2ループを決めると、3ルッツ+2トゥループも完璧。残りの単独ジャンプ3本も難なく着氷し、終盤はステップシークエンスとスピン2つで締めくくり、フィニッシュしたボロノフ選手は氷に手をつき、肩で息をしながらも達成感を滲ませました。得点は自己ベストの181.06点でフリーも1位、総合1位で完全優勝を果たしました。
 今季はチャレンジャーシリーズ2試合を消化し、今大会がGP初戦だったボロノフ選手。チャレンジャーシリーズ2試合もまずまず安定した演技を見せていましたが、今大会はほぼノーミス、キャリアベストと言っていい素晴らしい出来でしたね。GPデビューから12季目、30歳での初優勝というのはたぶん最年長記録になるのだろうと思いますが、30歳で自己ベストを更新できるというのは本当に脱帽ですし、それだけ心技体全てが充実しているというのは演技を見てもヒシヒシと伝わってきました。最近の男子フィギュア界は10代の選手たちの勢いも猛烈なものがありますが、かといって必ずしも若さが全ての選手にとって有利に働くとも限らなくて、ボロノフ選手のように年齢を重ねるほどに技術面も表現面もどんどん進化していくタイプの選手もいて、フィギュアスケートの幅広い可能性を感じられる今回のボロノフ選手の優勝には深い感慨を覚えましたね。
 ボロノフ選手の次戦はスケートアメリカ。3年ぶりのファイナル進出となれば、オリンピック代表に向けて強いアピールになると思いますから、アメリカでも好演技に期待したいですね。NHK杯優勝、おめでとうございました。


 2位に入ったのはアメリカのベテラン、アダム・リッポン選手です。

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 SPは昨季から継続の「Let Me Think About It」。まずは3フリップ+3トゥループをきれいに決めると、3アクセルは着氷で若干こらえながらも成功。後半の得意の3ルッツもわずかに詰まり加点はあまり伸びず。しかしステップシークエンス、スピンではいつもどおりの美しい身のこなしを披露。ダンサブルなプログラムでリッポン選手らしさを存分に発揮しました。得点は84.95点で4位につけます。
 フリーも昨季からの持ち越しである「Arrival of the Birds 映画『The Crimson Wing: Mystery of the Flamingos』より/O」。冒頭は大技4ルッツにチャレンジ、大きな乱れなく着氷しましたがアンダーローテーション(軽度の回転不足)の判定となります。続く3+2、3ループは問題なく成功。レべル4のスピンとステップシークエンスを挟んで後半、3アクセルからの3連続ジャンプを決めると、2本目の3アクセルは軸が傾きますが何とか成功。3+3、3サルコウ、3ルッツと全てのジャンプを予定どおりに着氷し、終盤のスピン2つもレベル4。演技を終えた瞬間、リッポン選手は両手で顔を覆い、信じられないといった表情を浮かべました。得点は自己ベストに約1点差の177.04点でフリー2位、総合2位とGP2個目の銀メダルを手にしました。
 今年の1月、練習中に左足首の捻挫と指の骨折という大怪我を負ったリッポン選手。全米選手権も欠場せざるをえず、いよいよ脂の乗ってきたキャリアに水を差すような不慮の出来事でしたが、今回の演技はそうしたフィジカル面の不安を払拭するどころか、怪我をする前よりもさらに強くなったと思わせる見事なカムバックでしたね。フリー冒頭の4ルッツは初成功まであと一歩という本当に惜しい出来でしたが、その後は圧巻の一言。プログラム自体もショート、フリーともに2季連続ということですでに滑り込みは充分で、美しい所作の連続に改めて惚れ惚れしてしまいました。上述したボロノフ選手のところでも言及しましたが、やはり年齢というのは関係なくて、どの段階で開花するかというのは人それぞれで、リッポン選手の場合もまさに今が花盛りと言えますね。
 次戦のスケートアメリカでは2年連続でのファイナル進出が懸かりますが、ぜひ納得のいく演技でファイナルの切符をつかんで、全米選手権に向けて勢いをつけて、オリンピックで花を満開に咲かせてほしいと思います。


 3位はイスラエルの実力者アレクセイ・ビチェンコ選手です。

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 SPは「ハバ・ナギラ」。冒頭は3アクセル、これをクリーンに決めて1点以上の加点を獲得。次いで4トゥループもしっかり下ります。後半の3+3も確実に回り切って着氷させ、最後まで力強い滑りを披露しました。得点は自己ベストまで約1点の85.52点で2位と好スタートを切ります。
 フリーは昨季と同じ「オペラ「道化師」より」。冒頭は4トゥループ+3トゥループ、セカンドジャンプの着氷で詰まりますがしっかり成功させると、2本目の4トゥループはより良い流れで決めて加点1以上。続く3ループは2回転となります。後半最初の3アクセルは着氷でステップアウト。3アクセル+2トゥループは問題なく決めます。次いで3ルッツ、終盤には3+1+3の難しい3連続ジャンプも成功。最後の2アクセルも難なく下り、フィニッシュでは舌を出して悔しさをのぞかせながらも笑顔で観客の声援に応えました。得点は自己ベストに約2点差の166.55点でフリー3位、総合3位でGP2度目の表彰台となりました。
 フリーは細かいミスがありパーソナルベスト、自己最高位の2位を逃しましたが、全体的には安定していてミスがあってもプログラムを破綻させることなく終始集中していたなという印象ですね。10月初旬のジャパンオープンの時はほかの選手の欠場による代役ということもあってかミスを連発し、10月下旬のチャレンジャーシリーズのアイススターという大会でもフリーはミスが多かったのですが、今回はそれらとは別人のような安定感でした。来年の2月で30歳になるビチェンコ選手ですが、10年以上GPに出場しているボロノフ、リッポンの両選手と比べると、14/15シーズンがGPデビューの彼はまた違う道を歩んできたベテランと言えます。まだ伸びしろは多々ありそうですし、演技中の動きも若々しいという印象があり、今後のプログラムのブラッシュアップにも期待ですね。
 次戦は2週連続となるフランス大会。なかなかきつい日程ですが、フランスでもベストなパフォーマンスができることを祈っています。


 惜しくも表彰台まであと一歩の4位だったのはアメリカのジェイソン・ブラウン選手です。

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 SPはまず得点源の3アクセルから、これは着氷でステップアウトし減点を受けます。続く3ルッツはクリーンに成功。しかし後半の3+3は3+2にとジャンプミスが重なります。しかし、その3+2も含め、3アクセル以外では全て加点1以上を積み重ね、85.36点で3位と好位置につけます。
 フリーは4トゥループを回避し、まずは得意の3フリップを確実に決めて良い流れを作ります。しかし直後の3アクセルは転倒。次いで2アクセルは問題なく下ります、後半は序盤で転倒した3アクセル、何とか着氷してコンビネーションにしたいところでしたが、回転不足であえなく転倒します。続く3ルッツもステップアウト、得点源となる3+1+3はクリーンに跳び切り、さらに3+3、2アクセルと終盤のジャンプはミスなくこなしましたが、2度の転倒が響き、自己ベストより20点以上低い160.59点でフリー4位、総合4位と表彰台を逃しました。
 ショート、フリーともに基礎点の高い3アクセルの失敗が痛かったですね。特にフリーの2本とも転倒というのは最近の調子の良さそうなブラウン選手の姿からはあまり想像できない失敗で少し驚きました。フリーは今まで試合で成功させたことのない4トゥループを外して臨んだということで、それだけ練習から成功する気配がなかったということでしょうし、また、4トゥループがなくても全てのジャンプをしっかりまとめれば優勝できるという戦略でもあったでしょうし、実際に賢明な判断だったと言えます。ただ、頼みの綱の3アクセルまでもが不調だと、いくらブラウン選手の素晴らしい表現力を持ってしても補えないですし、上位3選手の調子もかなり良い方だったのでブラウン選手にとっては厳しかったですね。個人的には海外の男子選手ではブラウン選手が最もお気に入りの選手で、羽生選手が不在となりブラウン選手にとってはまたとないチャンスだったので優勝を願っていたのですが、残念ながらNHK杯は2年連続でほろ苦い思い出となってしまいましたね。
 スケートカナダの2位と今回の4位を合わせ、ブラウン選手のポイントは22ポイント。ファイナルに進むには次のフランス大会や最後のアメリカ大会で番狂わせでも起こらない限りかなり難しいですが、次戦ではブラウン選手らしい演技で氷上で満面の笑みを見せてほしいと思います。


 5位はカナダのキーガン・メッシング選手です。

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 SPは「映画『雨に唄えば』より」。冒頭は得点源の4トゥループ+3トゥループ、ファーストジャンプの着氷で膝をぐっと曲げてこらえセカンドジャンプに繋げます。続く3アクセルは空中で軸が傾き転倒。後半の3ルッツはクリーンに決めますが、ステップからただちに踏み切らなかったため加点は得られず。スピン、ステップシークエンスは目立ったミスなくこなし、80.13点で5位につけます。
 フリーは「チャップリン・メドレー」。まずは単独の3ルッツを余裕を持って下りて加点1.3。続く4トゥループは着氷でお尻がつきそうなくらい膝を曲げて何とか耐えます。次の3アクセルからの3連続ジャンプはクリーンに成功させ、前半をまとめます。後半最初は2本目の4トゥループでしたが、これはパンクして3回転に。直後の3+3は成功。さらに2本目の3アクセルも決めたものの、それ以前に3ルッツを2本、3トゥループを2本跳んでいたため、3回転以上のジャンプは2種類2本ずつまでという規定に違反したこととなり2本目の3アクセルは無効扱いで0点に。3ループはクリーンに着氷しますが、最後の3フリップ+2トゥループは3フリップの踏み切り違反のため減点と、惜しいミスが続き、155.67点でフリー6位、総合5位となりました。
 ショートもフリーももったいないミスの仕方が目立ったメッシング選手。特にフリーは2本目の4トゥループが3回転になったために3アクセルが無効となってしまい、計算が狂ってしまいましたね。ただ、ショートで5位につけながらフリーで10位と大崩れしたスケートカナダと比べると、内容的にはかなり改善が見られたのは間違いないので、カナダ選手権に向けて収穫の多い試合になったのではないかなと思います。


 6位はラトビアの成長株デニス・ヴァシリエフス選手。

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 SPは「妙なる調和 オペラ「トスカ」より」。まずは3+3を決め好調なスタートを切りますが、3アクセルは回転は充分だったものの転倒。後半の3フリップはクリーンに下りて1点近い加点を獲得。スピンやステップシークエンスも安定してこなし、76.51点で8位となります。
 フリーは「Put the Blame On Mame/Anyone to Love/Sway」。4回転は回避した構成で臨み、まずは3アクセル+2トゥループを成功。続いて2本目の3アクセルに挑みますがこちらはパンクして1回転に。しかし次の予定を変更して再び3アクセルに挑み、今度はクリーンに下ります。後半は3ループを難なく着氷して幕を開け、次の3+3も成功。2アクセルも着氷して波に乗りますが、3フリップは1回転に。3ルッツ+1ループ+3サルコウはファーストジャンプの着氷でバランスを崩しかけますが、立て直して最後のジャンプまで繋げます。終盤はスピード感のあるコレオシークエンスと独創的なポジションのスピンで観客を沸かせました。得点はシーズンベストの158.29点でフリー5位、総合6位と順位をショートから二つ上げました。
 ショート、フリーともに3アクセルのミスはありましたが、全体を通して滑りの躍動感、勢いは充分すぎるほど感じられましたね。前回のロステレコム杯でもそうでしたが、昨季と比べても見違えるくらい動きが洗練されて上手くなっているなと感じます。プログラムに関しても、定番のオペラを用いたショートは、ヴァシリエフス選手の高貴な雰囲気、端正なスケーティングを活かしていますし、洒落たピアノの旋律で幕を開け、中盤からはマイケル・ブーブレの甘い歌声で曲調が変化、終盤は一気にテンポアップして情熱的に締めくくるフリーは、ヴァシリエフス選手の踊りの巧さを余すことなく引き出していて、本当に見応えのあるものになっていて、コーチで振り付け師のステファン・ランビエールさんの力も大きいのでしょうが、ヴァシリエフス選手自身の地力もぐんぐん上がってきているような気がしますね。


 7位は昨季の全日本ジュニア王者、友野一希選手です。

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 SPは「ツィゴイネルワイゼン」。冒頭は大技4サルコウ、着氷でよろめきますが回転はしっかり回り切ります。続く3+3はクリーンに成功。後半の3アクセルは高さと流れのある跳躍で1.43点の加点を獲得。どんどんテンポアップする曲調に合わせた力強い滑りで観客から喝采を浴びました。得点は自己ベストをちょうど10点更新する79.88点で6位と好位置につけました。

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 フリーは「ウエスト・サイド・ストーリー」。冒頭はショートで決めた4サルコウ、しかしアンダーローテーションで両足着氷となります。続いて2本目の4サルコウも同じく回転が足りず転倒とミスが重なります。しかし直後の3アクセル+3トゥループはスムーズに決めて挽回。後半最初の3アクセル+2トゥループ+2ループは最後が少し詰まりますが成功。3ループ、3サルコウと難なく決めて、3ルッツ+2トゥループは3ルッツの踏み切りが不正確なのとセカンドジャンプの着氷が詰まったのとでわずかに減点。最後の3フリップはクリーンに下り、最後まで勢いの衰えないキレキレの演技を披露。フィニッシュした友野選手は悔しさを滲ませながらも笑顔を見せました。得点は152.05点でフリー7位、総合では自己ベストをマークし7位でGPデビュー戦を終えました。
 当初出場する予定だった村上大介選手が急性肺炎で辞退したため、その代役としてチャンスが巡ってきた友野選手。もちろん初めてのGPでしたが、緊張で硬くなるとか縮こまるとかいった雰囲気は微塵も感じられない実に堂々とした演技でした。4サルコウこそフリーでは2本とも失敗に終わりましたが、そのことによって以降の演技が慎重になったり守りに入ったりすることなく、どんどん攻めて全力を出し切ろうという姿勢がうかがえました。何よりショート、フリーともに踊りの巧さが印象的で、日本のスケーターはわりとシャイだったり大人しめな選手が多いですが、友野選手はオーバーアクションやアピールが自然と身についていて、良い意味で大げさな動きや表情を恥じらいなくできるスケーターというのは日本ではけっこう貴重な存在だと思うので、羽生選手や宇野昌磨選手とはまた違った個性を持ったスケーターが出てきてくれたことは非常に嬉しく感じましたね。
 今大会で得た課題と収穫をぜひ全日本選手権への糧にして、次こそは完璧な演技を見せてほしいと思います。


 日本の佐藤洸彬選手は11位となりました。

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 SPは昨季と同じ「トーテム」。冒頭の3アクセルを決めて波に乗ると、続く4トゥループ+2トゥループは1つ目の着氷で詰まったものの、両手を上げて2トゥループを付けます。後半の3ルッツも若干着氷で流れが止まりますが、全体的に最小限のミスで抑え、自己ベストを大幅に更新し10位につけます。

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 フリーも昨季から継続の「セビリアの理髪師」。冒頭の3アクセルは着氷で膝を曲げてぐっとこらえ最小限の減点にとどめます。直後の4トゥループは空中で軸が曲がりステップアウト。2本目の4トゥループはアンダーローテーションで両足着氷となり、コンビネーションにできません。ステップシークエンスとスピンを挟んで後半、3アクセル+2トゥループはファーストジャンプの着氷がオーバーターンとなり減点。続く3フリップは軸が斜めになり転倒。次いで3ルッツもこらえた着氷となり、3サルコウも乱れた着氷に。最後の3ループは1回転にと後半はミス連発となり、演技を終えた佐藤選手は残念そうに顔を曇らせました。得点は123.25点でフリー11位、総合11位と順位を落としました。
 ショートはジャンプもおおむね決まり佐藤選手らしいオリジナリティー溢れる世界観を存分に発揮できたのですが、フリーはジャンプミスが相次ぎせっかくの演技力も印象が薄れてしまったかなという印象ですね。フリーはショートよりも緊張が強まったのか、途中から佐藤選手本来のジャンプのタイミングを見失っているような感じで、負のスパイラルに陥ってしまいましたね。ただ、4トゥループの失敗の仕方はそこまで悪いものではなかったので、確実な感覚をつかめればもっと安定感も増すのかなという気がしました。
 全日本選手権ではショート、フリーともに笑顔で終われることを祈っています。



 ここからはアイスダンスの結果です。

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 優勝したのは世界王者、カナダのテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア組。SDはツイズルで珍しく少し乱れがありレベル3と取りこぼしてしまいましたが、ほかは目立ったミスなくクリーンなエレメンツを揃え、80.92点で首位に立ちます。FDはツイズルのミスもしっかり修正し、後半のステップがレベル3となった以外は全てレベル4でまとめ、パーソナルベストとなる117.72点でフリー1位、トータルでは2位に10点差をつける圧勝でファイナル進出を決めました。
 ショートでツイズルの細かなミスがあったとはいえ、やはり圧倒的な強さを見せつけたヴァーチュー&モイア組。フリーはパーソナルベストで本当に死角のない演技でしたが、前週の中国杯でガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組がマークした世界最高得点にはまだ1点以上及ばない点数ということで、キス&クライでも喜びは控えめだったのかなと感じました。ファイナルではこの2組の直接対決となるのはほぼ間違いないので、その時に一体どんな熾烈な戦いとなるのか、今から楽しみですね。NHK杯優勝、おめでとうございました。

 2位はアメリカの成長株マディソン・ハベル&ザカリー・ドノヒュー組です。SDは序盤のステップがレベル3となった以外は全てレベル4と質の高いエレメンツを揃え、自己ベストまで0.22点という高得点で2位と好発進。フリーもダイアゴナルステップ以外はレベル4と確実かつ丁寧にエレメンツをこなし、自己ベストまで約1点のスコアで2位、総合でも2位で銀メダルを獲得しました。
 スケートカナダの得点よりは若干下がってしまいましたが、微妙な差なのであまりに気にすることはないでしょう。オリンピック代表争いというのを見据えても、シーズンベストランキングではアメリカ勢ではトップということで、順風満帆なシーズン序盤を送っていると言えます。ファイナルに進めるか否かはこのあとの2試合次第でわかりませんが、まだまだ伸びる可能性のあるカップルなので楽しみですね。

 3位はイタリアのベテラン、アンナ・カッペリーニ&ルカ・ラノッテ組です。SDは「Kaboom/Skip to the Bip/1008 Samba」。ステップとパターンダンスがレベル3にとどまり技術点を思ったほど伸ばし切れなかったものの演技構成点でカバーし、わずかながら自己ベストを更新し3位につけます。FDは「映画『ライフ・イズ・ビューティフル』より」。ステップが一つレベル3になった以外はミスらしいミスなくさすがの安定感を見せつけ、自己ベストに0.03点と迫るシーズンベストをマークしフリーも3位、総合3位となりました。
 ショート、フリーともにカッペリーニ&ラノッテ組らしい踊り心、遊び心溢れるプログラムで大いに楽しませられましたね。特にフリーはイタリア映画の名作『ライフ・イズ・ビューティフル』をテーマにした作品ということで、イタリアのカップルが演じるのにぴったりな、そしてオリンピックシーズンという集大成のシーズンにふさわしいプログラムと感じました。次戦のスケートアメリカでの順位次第では2年ぶりのファイナル進出も懸かってきますが、次もカッペリーニ&ラノッテ組らしい楽しくてのびやかな演技を期待したいですね。

 全日本チャンピオンの村元哉中&クリス・リード組は9位となりました。

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 SDは「I Like It Like That/Mondo Bongo/Batucada de Sambrasil」。2つのステップがレベル2となる取りこぼしはあったものの、ツイズルやリフトは丁寧にこなして加点も積み重ね、61.82点で9位につけます。
 FDは「映画『ラスト・エンペラー』より/映画『戦場のメリー・クリスマス』より」。演技前半のステップがレベル2にとどまった以外はミスらしいミスなく演技をまとめ、94.59点でフリー8位、総合9位で大会を終えました。
 ショート、フリーともにちょっとずつ取りこぼしがあって技術点を伸ばし切れなかったのはもったいなかったですが、表現面では昨季以上に進化した姿が見られましたね。ダンサブルなショートは最初から最後まで元気よく、二人の華やかさが存分に活かされていましたし、フリーは一転して坂本龍一さんの音楽に乗せてしっとりと清らかな世界観を繊細に表現していて、ショートとフリーの演じ分けも見事でした。
 次戦は2週間後のスケートアメリカということで、プログラムのブラッシュアップはもちろん、シーズンベスト、ひいてはパーソナルベストの更新も目指して、短い期間ですがうまく調整してまた二人らしい演技を見せてほしいと思います。

 GP初出場の小松原美里&ティモシー・コレト組は10位でした。

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 SDは「Ahora Quien/Samba do Brasil (Radio Remix)」。パターンダンスやパーシャルステップシークエンスはレベル2どまりとなりましたが、リフトやツイズルはレベル4と確実にレベルを取り、パーソナルベストとなる53.83点で10位となります。
 FDは「映画『愛のイエントル』より/映画『サブリナ』より」。2つのステップがレベル2と1にとどまる取りこぼしはありましたが、そのほかのエレメンツは全てレベル4と本領も発揮し、自己ベストをわずかに更新しフリー10位、総合10位でGPデビュー戦を終えました。 
 ショート、フリーともにステップのレベル獲得には苦戦した印象ですが、全体的な流れとしてはこのカップルらしい明るさや優雅さがよく表れていたように思います。特にプライベートでも夫婦とあって、カップルを結成してから日が浅いわりにユニゾンが素晴らしいなと感じましたし、息が合っている様子が見て取れましたね。年齢的にも25歳と26歳でまだ若いので、今後の伸びしろに期待ですね。



 NHK杯2017の記事は以上で全て終了です。全体を振り返るとベテラン勢の躍動が目立ち、表彰台を独占した男子トップスリーや女子の2位となったカロリーナ・コストナー選手のみならず、長洲未来選手、アリョーナ・レオノワ選手らの活躍は、若手の躍進ぶりが際立っている最近の時流とは少し違った風景で、見ていて思わず微笑ましくなりましたね。フィギュアスケートという競技の懐の深さとでも言いましょうか、戦いの中に身を置くにしても人それぞれの戦い方があるのだということを改めて感じさせてくれた大会になりました。
 さて、次戦はフランス。そうこうしているうちにこの記事のアップ時点でもう始まってしまいましたが、日本からは3年連続のファイナル進出が懸かる宇野昌磨選手、優勝すれば初のファイナルの可能性が残る三原舞依選手、NHK杯から連戦となる白岩優奈選手が登場します。では。


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by hitsujigusa | 2017-11-18 01:11 | フィギュアスケート(大会関連)