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平昌五輪・男子―羽生結弦選手、史上4人目の2連覇(後編)

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 平昌オリンピック、男子の結果について、前編に引き続きお伝えしていきます。なお、前編はこちらからご覧下さい。

Olympic Winter Games 2018 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 7位となったのはOAR(オリンピック・アスリート・フロム・ロシア)のドミトリー・アリエフ選手です。

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 ショート冒頭は最高難度の連続ジャンプ、4ルッツ+3トゥループで、これを完璧に回り切って決め1.57点の加点を得ます。続く4トゥループも鮮やかに成功。後半の3アクセルもしっかり下り、スピン3つは全てレベル4と取りこぼしなくまとめ、98.98点と自己ベストを大幅に更新して5位と好発進しました。
 フリーはまず4トゥループ+3トゥループから、これを確実に決めて好スタートを切ります。次いで単独の4トゥループでしたが、こちらは転倒。さらに3アクセルも転倒と波乱の滑り出しに。後半は最初の3ルッツを着氷し、3アクセル+2トゥループもクリーンに決めますが、3+1+3は最初のジャンプが2回転に。残りの2つの単独ジャンプは無難に下りましたが、序盤の転倒が響き168.53点でフリー13位、それでもショートのアドバンテージが活きた形で総合7位と入賞しました。
 ショートは見事に4ルッツ+3トゥループを決め、そこから一気に波に乗ってフリーの最終グループ入りと存在感を発揮しました。一方、フリーは序盤から崩れてしまい、後半はまずまず立て直したものの立て直すのに精一杯の演技になったかなという印象なので、やはりショートとフリーを揃えるという点ではまだ不安定さが露呈しましたね。ただ、その中でも7位に食い込んだのは素晴らしいことで、シーズンの前半を考えるとアリエフ選手が五輪で入賞するというのも想像できなかったので、着実に成長しているなと感じます。次戦の世界選手権ではフリーも納得のいく演技ができることを願っています。


 8位は同じくOARのミハイル・コリヤダ選手です。

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 ショート冒頭は大技の4ルッツ、しかし空中で回転がほどけて3回転になります。続いて4トゥループ+3トゥループは4トゥループで転倒し連続ジャンプにならず。後半の得意の3アクセルは余裕を持って決め2.14点の加点を得ましたが、前半のジャンプミスが影響して86.69点で8位にとどまりました。
 フリーは再び冒頭から4ルッツにチャレンジ、ですがあえなく転倒となります。続く4トゥループ+3トゥループはパーフェクトに成功。さらに3アクセル+2トゥループもスムーズな跳躍と着氷で加点2の高評価。後半は得意の3アクセルからでしたが、パンクして1回転に。3+1+3の3連続ジャンプは何とか下りますが、3ループは2回転に。最後のジャンプは予定を変更して再び3アクセルに挑みましたが転倒し、177.56点でフリー7位、総合8位と順位を上げることは叶いませんでした。
 良い部分もあった一方で悪い部分もはっきりと表れた、ある意味でコリヤダ選手らしい荒れた演技でしたね。良かった部分はミスを引きずることなく切り替えて、直後のジャンプはしっかりと決めてきたところでしょうか。逆に悪かった部分はミスを最小限に抑えられなかったところですね。コリヤダ選手はミスをするときはパンクだったり転倒だったりとわりと派手な失敗をしでかすことが多いのですが、今回もやはりその傾向が強く、ミスをするにしてももう少し小さなミスでとどめられればもっと良い選手になるのになといつも思ってしまいます。ジャンプにしてもスピンにしても質の高さは一級品なので、あとはトータルとして演技をコントロールし切れれば、さらに一皮も二皮も剥けてもう一段階レベルアップできるのかなと思います。
 次の世界選手権ではうまく調整して、ジャンプの調子を取り戻して臨んでほしいですね。


 9位はソチ五輪銀メダリスト、カナダのパトリック・チャン選手です。

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 SPはまず得点源の4トゥループ+3トゥループから、ファーストジャンプで若干こらえる着氷になったため無理せず単独ジャンプに変更します。続いて単独の予定の3ルッツに3トゥループをつけてきちんとリカバリー。後半は鬼門の3アクセルでしたが、アンダーローテーション(軽度の回転不足)で転倒。しかし3アクセル以外のエレメンツでは全て加点1以上を積み重ね、90.01点で6位につけました。
 フリーもまずは4トゥループ+3トゥループからでしたが、ファーストジャンプの着氷の感触が良くなかったのか、セカンドジャンプは2トゥループにとどめます。続く単独の4トゥループはパンクして3回転に。直後の3アクセル+1ループ+3サルコウは最後のジャンプが2回転になったものの、課題だった3アクセルはしっかり跳び切ります。さらに中盤の3+3をクリーンに下りると、3アクセルは着氷で乱れながらも最小限のミスに抑えます。続いて3ループは2回転となりますが、終盤の3フリップ、2アクセルは無難にクリア。終盤のステップシークエンスは珍しくつまずいてバランスを崩す場面があり、いつもほどの加点は得られなかったものののびやかなスケーティングを披露。フィニッシュしたチャン選手は悔しさを滲ませながらも穏やかに微笑みました。得点は173.42点でフリー8位、総合9位と順位を落としました。
 団体戦はショートもフリーも出場し、カナダ初の金メダルに大いに貢献したチャン選手。その疲労は多少なりとも残っていたと思うのですが、まずまずチャン選手らしさは出せたんじゃないかなと思いますね。団体戦のフリーでは完璧に決めた4トゥループは個人戦では耐えるような着氷が多く、やはり団体戦にピークが来てしまったのかなと思うのですが、チャン選手にとっては団体戦も個人戦と同じくらいの意気込みで臨んでいたように見えましたし、団体戦で金メダルを取っているということで気持ち的には少し楽に個人戦を迎えられたんじゃないかなという気もします。順位としては結果的に9位と入賞にも至りませんでしたが、すでにパトリック・チャンというスケーターは順位や点数といった数値的なものを超えて、その先の領域へと足を踏み入れているような感じがしましたし、そういった意味で心に残る素晴らしい演技だったと思いますね。
 今シーズン限りでの現役引退を表明しているチャン選手。来月の世界選手権に関しては出場するともしないとも断言していませんが、個人的には最後にもう一度、彼のスケートを目に焼きつけておきたいなと思います。まずは五輪に向けて厳しいトレーニングを積んできたでしょうから、体と心の疲れを癒やしてほしいですね。


 10位はアメリカのベテラン、アダム・リッポン選手です。

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 ショートはまず3フリップ+3トゥループを確実に決めて好調な滑り出し。3アクセルはわずかに着氷を乱し減点。後半の3ルッツはいつもどおり安定感抜群に下り、ステップシークエンス、スピンは全てレベル4とアップテンポなリズムの中でも丁寧に要素をこなし、演技を終えたリッポン選手は派手なガッツポーズで喜びを露わに。87.95点で7位となります。
 フリー冒頭は2アクセルで堅実なスタート。続いて高難度の3フリップ+3ループを完璧に回り切って着氷します。さらに2本目の2アクセルを下り、前半をクリーンにまとめます。レベル4のスピンとステップシークエンスを挟んで後半、3アクセル+2トゥループ+2ループはきれいに下りたかに見えましたが、最後のジャンプがダウングレード(大幅な回転不足)の判定。続く2本目の3アクセルはパーフェクトに成功。さらに3フリップ+3トゥループもクリーンに着氷させます。残りの3サルコウ、そして3ルッツもノーミスで下り、終盤の2つのスピンもレベル4とリッポン選手らしさを余すことなく表現し、フィニッシュしたリッポン選手は目に涙を浮かべました。得点は171.41点でフリー10位、総合も10位となりました。
 28歳にして最初で最後のオリンピックとなったリッポン選手。マイナスゼロの完璧な演技ではありませんでしたが、終始五輪という舞台を楽しみながら味わいながら滑っているというのが伝わってくる演技でしたね。団体戦のフリーにも出場したリッポン選手ですが、その時は冒頭のジャンプを今シーズン挑み続けてきた4ルッツではなく、確実性の高い2アクセルにして臨みました。個人戦はどうするかなと思って注目していたのですが、4ルッツには挑みませんでしたね。得点的には4ルッツと2アクセルとではかなり基礎点が違うので、4ルッツで失敗する可能性が高いとしても、ほかのジャンプをまとめられれば4ルッツを入れた方が技術点は高くなるのですが、それよりも最初から最後までミスのない流れの途切れない演技をしようという気持ちだったのかもしれませんね。そういった意味ではリッポン選手も上述したチャン選手同様、順位やスコアを超えたところで勝負していたというのが感じられ、心を揺さぶられました。
 世界選手権でも笑顔で終われるような演技となることを祈っています。


 日本の田中刑事選手は18位に入りました。

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 SPは得点源の4サルコウからでしたが、アンダーローテーションで転倒してしまいます。続く3+3は軽やかに着氷。後半の3アクセルも難なく成功させ、ステップシークエンスやスピンもミスらしいミスなくこなしましたが、4サルコウのミスが響いて80.05点で20位に沈みました。

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 フリーも一発目のジャンプは4サルコウ、これを鮮やかに跳び切って1点以上の加点を獲得します。続いて同じく4サルコウからの連続ジャンプの予定でしたが、4サルコウで転倒し同じ単独ジャンプの繰り返しに。直後の3アクセルは決めて何とか立て直しを図ります。レベル4のスピンとステップシークエンスを挟んで後半、最初は4トゥループでしたが着氷が乱れます。さらに3アクセルは転倒し連続ジャンプにできず。次の3+3は下り、3ループ、3+2+2と終盤のジャンプも決めて挽回しましたが、演技を終えた田中選手は残念そうに肩を落としました。得点は164.78点でフリー15位、総合18位で初めての五輪を終えました。
 団体戦フリーではミスが重なり個人戦での奮起を語っていた田中選手。そこから短期間でどれだけ修正できたかが個人戦の注目ポイントでしたが、修正できているところももちろんあった一方で、五輪の雰囲気に気圧されてしまったのか、本来の躍動感に溢れた滑りよりも少し慎重で大人しめな滑りだったように感じます。ただ、調子が上がり切らない中でも、4回転をパンクではなく最小限のミスに抑えられたこと、ミスに対するリカバリー能力を発揮できたことは収穫と言えると思いますので、世界選手権に向けて、そして次のシーズンへ向けて、この経験を財産にしていってほしいですね。



 平昌五輪・男子については以上です。終わってみればここ数年の世界選手権で表彰台を経験しているメンバーがトップ4に入り、強い人は大舞台でも強いということを改めて示しましたね。一方で優勝候補として脚光を浴びながらもSPで大崩れしてしまったネイサン・チェン選手のように、ポテンシャルは極めて高いけれどもまだ世界トップレベルでの経験が浅い選手たちは、やはり五輪という4年に1度の大舞台で実力の全てを発揮するにはさらなる経験と時間が必要ということなのかもしれません。
 何はともあれ、今大会の男子フィギュアは5種類の4回転が披露されるという未だかつてないハイレベルな五輪となり、ジャンプ技術の進化に改めて圧倒される大会ともなりました。今はただただ、素晴らしい演技を見せてくれた選手たちに感謝するばかりです。では。


:男子メダリスト3選手のスリーショット画像、アリエフ選手の画像、チャン選手の画像、田中選手のSPの画像は、マルチメディアサイト「Newscom」から、コリヤダ選手の画像、リッポン選手の画像は、マルチメディアサイト「Zimbio」から、田中選手のフリーの画像は、スポーツ情報サイト「スポーツナビ」の平昌五輪特集ページから引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2018-02-26 01:34 | フィギュアスケート(大会関連)