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平昌五輪・女子―アリーナ・ザギトワ選手、世界歴代2位の高得点で金メダル(前編)

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 2月9日から25日にかけて開催された平昌五輪。フィギュアスケートは開幕初日から団体戦が行われ、14日からペア、男子、アイスダンスと順々に個人戦が繰り広げられましたが、その最後を飾ったのが女子です。この記事ではその女子の結果について書いていきます。
 熾烈な女子の戦いを制したのはOAR(オリンピック・アスリート・フロム・ロシア)のアリーナ・ザギトワ選手。シニアデビューシーズンにして五輪制覇という快挙を成し遂げました。2位は世界女王、同じくOARのエフゲニア・メドベデワ選手、3位はカナダの実力者、ケイトリン・オズモンド選手となりました。

Olympic Winter Games 2018 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 オリンピック女王となったのは、OARのアリーナ・ザギトワ選手です。

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 SPはいつもどおりジャンプを全て後半に組み込み、前半はスピン、ステップシークエンスで緊張感漂うスローパートを丁寧に表現。そして後半、最初の3ルッツ+3ループを完璧に決めると、3フリップ、2アクセルと相次いで成功。曲の盛り上がりに合わせ、柔軟性を活かした2つのスピンで観客の拍手を誘うと、フィニッシュしたザギトワ選手はガッツポーズで手応えを露わにしました。得点は世界最高となる82.92点で首位に立ちます。
 フリーもまずはコレオシークエンスでゆったりと音楽に乗せて滑り、スピン、ステップシークエンスをきっちりとこなします。後半に入りようやく1つ目のジャンプ、3ルッツ+3ループからでしたが、ファーストジャンプで若干こらえたため単独にします。続いて2アクセル+3トゥループ、3+2+2は完璧に着氷。そして終盤に差し掛かり、単独の予定だった3ルッツに3ループをつけてパーフェクトに成功。さらに3サルコウ、3フリップ、2アクセルと残りのジャンプも全てクリーンに下りて、演技を終えたザギトワ選手はショートに続き満足そうに笑みを浮かべました。得点は156.65点でフリー2位、ショートのリードを守って総合1位となり、弱冠15歳ながらオリンピックチャンピオンに輝きました。
 団体戦のフリーではパーソナルベストをマークし、シーズン序盤からの勢いを保ったまま個人戦を迎えたザギトワ選手。完全無欠だったショート、そしてわずかなほころびはあったものの演技中にしっかり修正し最終的にはほぼノーミスでまとめたフリーと、最後まで圧巻でしたね。さすがに金メダルがよぎったのかフリーは最初のジャンプで慎重さがうかがえましたが、次のジャンプで何事もなかったかのように立て直した姿は、15歳離れした冷静沈着ぶりでした。やはりあれだけの難しいジャンプ構成を完璧にこなせる体力はもちろんのこと、精神のタフさも印象深く、技術力があるというのはもちろんですが、練習に裏打ちされた自信があるからこその強さなんだろうなと思いますね。
 後半に全てのジャンプを固める構成についてはやはり批判もあり、国際スケート連盟がそのことに関連したルール改正も考えているといった報道も見られましたが、それだけザギトワ選手の存在、成し遂げたことが世界に与えたインパクト、影響は大きく、プログラムの芸術性以上に、ジャンプが際立った演技になってしまったのは否めないのかなと感じます。ただ、彼女が偉大なことを達成したのは間違いないですから、ただただ拍手を送りたいなと思いますし、一方で、15歳にして世界の頂点を極めたザギトワ選手が今後どういうスケーターに成長していくのか、本当の意味で真価が問われるのはこれからなのかなとも思いますね。平昌五輪優勝、おめでとうございました。


 銀メダルを獲得したのは世界女王、OARのエフゲニア・メドベデワ選手です。

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 ショートはザギトワ選手同様、全てのジャンプを後半に跳ぶ構成で臨み、スピン、ステップシークエンスで確実にレベルと加点を取ると、後半の3フリップ+3トゥループ、3ループ、2アクセルと次々クリーンに着氷。終盤のスピン2つもレベル4で、パーソナルベストとなる81.61点で首位と僅差の2位につけます。
 最終滑走となったフリー。まずは単独の3フリップの予定でしたが、変更して3フリップ+3トゥループのコンビネーションジャンプを確実に成功させます。次いで若干苦手としている3ルッツも下り、前半は上々の内容に。後半に入り、まず単独の3フリップを決めると、3ループも成功。2アクセルからの3連続ジャンプを決め、さらに3サルコウ+3トゥループも完璧。最後の2アクセルをクリアし、最後は美しいスピンで締めくくると、演技を終えたメドベデワ選手は感極まり両手で顔を覆いました。得点は156.65点でザギトワ選手と同点でしたが、演技構成点で上回ったメドベデワ選手が1位に。しかしトータルスコアではわずかに及ばず2位となりました。
 ショート、フリーともにノーミスの演技を披露したメドベデワ選手。フリーの演技直後は重圧から解き放たれたように感情を露わにし、キス&クライでは笑顔で観客の拍手に応えましたが、惜しくも金メダルには届きませんでした。個人的には得点が表示されるまではメドベデワ選手が勝ったんじゃないかなと思ったのですが、思ったほど得点が伸び切りませんでしたね。演技構成点はメドベデワ選手の方がザギトワ選手よりもちろん上ですが、ただショートに関してはその演技構成点も1点差もないですし、フリーも約2点と小差にとどまっています。昨年のワールド・チーム・トロフィーで世界最高をマークした時は演技構成点のパフォーマンスの項目で10点満点が出ているので、今回もそれくらい出てもおかしくないかなという気がしたのですが、オリンピックのわりにはメドベデワ選手に対してはそこまで大盤振る舞いではなかったですね。確かに演技全体の滑りとしては少し勢いに欠けた印象もあったので妥当なのかもしれませんが、シニア1季目のザギトワ選手とここまで差がないのもどうなんだろうなとは感じました。個人的にはここ数シーズンの女子フィギュア界を引っ張ってきたメドベデワ選手に順当に金メダルを取ってほしかったなという想いもありましたが、こればかりは勝負事なので仕方ないですね。
 キス&クライで自身の得点と順位を確認した後、涙を流したメドベデワ選手。悔しさから溢れる涙なのか、安堵感から溢れる涙なのかはわかりませんが、ずっと勝ち続けてきた彼女にしかわからない尋常ならざるプレッシャーというものがあったと思います。メドベデワ選手はこれまであまり五輪について具体的な目標を語ることはありませんでしたが、実際に試合を終えて目の前で金メダルが指先から逃げていったという悔しさはやはりあるのではないかと想像します。それでも結果をありのままに受け止め、後輩のザギトワ選手を称え、穏やかに微笑んでいる姿を見ると、ようやく解放されてほっとした気持ちもあるのかなという気もしましたね。節目の五輪を終えて、今後はまたのびのびとメドベデワ選手らしい演技を見て欲しいと思います。


 3位は世界選手権2017銀メダル、カナダのケイトリン・オズモンド選手です。

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 ショート冒頭は得点源の3フリップ+3トゥループ、これを抜群の高さと幅で成功させ1.9点の加点を得ると、続く3ルッツもクリーンに着氷。後半の2アクセルも難なく下り、ステップシークエンス、スピンは全てレベル4。エディット・ピアフの歌声に乗せて軽快な滑りで観客を沸かせ、パーソナルベストかつ世界歴代3位となる78.87点で3位と好発進します。
 フリーもまずは3フリップ+3トゥループからで、ショート同様に余裕を持って成功させます。さらに2アクセル+3トゥループもパーフェクトで、両ジャンプとも1.9点の加点を獲得します。次の3ルッツは着氷が乱れ減点となりますが、最小限のミスに抑えます。課題の後半、最初の3ループをクリーンに決めると、3フリップ、3+2+2と危なげなく成功。最後の2アクセルをクリアすると、終盤は気迫に満ちたステップシークエンスで“黒鳥”を思う存分演じ切り、フィニッシュしたオズモンド選手は達成感を表情に滲ませました。得点はこちらも自己ベストかつ世界歴代3位の152.15点でフリー3位、総合3位で銅メダルを手にしました。
 団体戦のショートにも出場したオズモンド選手ですが、この時は最初の3+3でミスが出て、さらに直後の3ルッツもミスを犯して70点台前半のスコアにとどまりました。そこからどれだけ修正できたかが注目ポイントでしたが、短期間でしっかり改善されていて素晴らしいショートでしたね。そしてフリーも、いつもならば後半にスタミナが切れてジャンプミスが散見されるのですが、今回は前半の3ルッツのステップアウト以外はクリーンなジャンプばかりで、最後まで集中していましたね。ショートを理想的な展開と順位で終えられたことがフリーに向けて心の余裕に繋がったのかもしれません。また、メダルを意識してしまうと体の動きが硬くなったり縮こまったりすることも考えられますが、オズモンド選手は終始のびやかに滑れていて、自分の演技のみにフォーカスできていたのかなと思いますね。
 大きな怪我を乗り越えて五輪の表彰台にたどり着いたオズモンド選手。22歳と中堅からベテランの域に差し掛かっていますが、表現面でもまだまだ極めていける選手だと思いますので、今後も期待したいですね。


 4位に入ったのは日本のエース、宮原知子選手です。

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 SP冒頭は得点源の3ルッツ+3トゥループ、これを完璧に回り切って着氷します。後半に2つのジャンプを組み込み、最初の3ループ、そして最後の2アクセルともに確実に成功。ステップシークエンス、スピンもいつもどおり丁寧にこなしてレベル4かつ全て加点1以上を積み重ね、パーソナルベストとなる75.94点で4位と好位置につけました。

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 フリーはまず得意の3ループをクリーンに下りて1点の加点を獲得。続いて得点源の3ルッツ+3トゥループもきっちり回り切って着氷し、こちらも1点の加点を得ます。次の3フリップも難なく成功させ、好調な滑り出しを見せます。スピン2つとステップシークエンスを挟んで後半、最初の3+2+2をきれいに下りると、2アクセル+3トゥループも鮮やかに決め1.2点の加点。さらに3サルコウ、2アクセルと危なげなく成功させ、繊細かつダイナミックな「蝶々夫人」の物語を全身で表現し、フィニッシュした宮原選手は両手を握り締めて天に突き上げ喜びを爆発させました。得点はパーソナルベストとなる146.44点でフリーも4位、総合4位で初めての五輪を終えました。
 思いがけない回転不足を取られ困惑の表情を浮かべた団体戦のショートから10日、素晴らしい修正能力でショート、フリーともに減点要素の一つもない完璧な演技を見せてくれましたね。団体戦の後は日本の北九州のリンクで調整していたそうですが、団体戦ショートでは自分でも回り切っていると思った3+3が回転不足を取られ、心理的に不安に陥ってもおかしくない状況でしたが、焦ることなく課題に向き合って実際に乗り越えた姿からは、ジュニア時代からシニアに上がっても何度も何度も困難な壁にぶつかりながらも、そのたびに真正面から乗り越えてきた宮原選手らしさをヒシヒシと感じましたね。努力の天才として知られる宮原選手ですが、何よりも努力することをいとわず当たり前に取り組める姿勢こそが、団体戦から個人戦という短い期間でも完璧に修正できた理由なんだろうなと改めて思いました。個人的にはいろんな苦難を克服してきた宮原選手にこそ、メダルを取らせてあげたかったなと今でも思いますが、滅多に大きなアクションをしない彼女がフリーの演技後に派手なガッツポーズを見せてくれただけでも本当に良かったなと心から思いますし、1年前には試合に出ることさえ絶望的な状況だったことを考えると、必死の努力で今季に間に合わせ、そして念願の五輪にたどり着き素晴らしい演技を披露してくれたということに感謝したい気持ちでいっぱいですね。
 次戦は世界選手権。体調にはよくよく気をつけながら、また宮原選手らしい繊細で華麗な演技を見せてほしいと思います。


 5位はイタリアの大ベテラン、カロリーナ・コストナー選手です。

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 ショート冒頭は得点源の3フリップ+3トゥループからでしたが、ファーストジャンプの着氷が詰まったためセカンドジャンプは2トゥループに抑えます。次いで得意の3ループも着氷で乱れます。後半の2アクセルはクリーンに着氷し、ステップシークエンス、スピンでは軒並み高い加点を稼ぎ、73.15点で6位につけます。
 フリー冒頭は苦手としている3ルッツ、これをクリーンに決めてまずは順調な出だし。続いて3フリップからのコンビネーションジャンプでしたが、着氷が乱れセカンドジャンプには繋げられず。直後の3ループはスムーズに成功させます。後半最初の3トゥループは若干こらえながらも決めましたが、2アクセル+1ループ+3サルコウは1ループがアンダーローテーション(軽度の回転不足)のため減点に。残りの2アクセル、3+2は予定どおり下り、代名詞のステップシークエンスでは全身を余すことなく自由自在に使い、ゆったりとした旋律の中でも緩急豊かに滑り切り、演技を終えたコストナー選手は穏やかに破顔しました。得点は139.29点でフリー5位、総合5位となりました。
 実に4度目の五輪となったコストナー選手。ジャンプ自体の調子は団体戦、個人戦を通して上がり切らなかったのかなという印象なのですが、ジャンプにミスがあっても魅せられる数少ないスケーターの一人として、最後までコストナー選手らしさは存分にうかがえましたね。得点に関してはミスがあったわりには高いんじゃないかな?と思ったりもしますが、でもあの演技を見せられると、指先から腕、膝、爪先、背中と体の隅々まで全く引っかかりのない動きというか、眺めていて少しも違和感なくスッと心に入ってくる身のこなしというのはやはり別格だなと感じますね。
 次戦はコストナー選手にとって母国開催となるミラノでの世界選手権。年齢的には引退という二文字がどうしてもちらついてしまいますが、ミラノで彼女がどんな演技を見せて今季を締めくくるのか楽しみですね。



 さて、平昌五輪の女子の前編はここまで。6位から10位までの選手に関しては後編に書きますので、もうしばらくお待ちください。


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by hitsujigusa | 2018-03-02 17:47 | フィギュアスケート(大会関連)