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平昌五輪・女子―アリーナ・ザギトワ選手、世界歴代2位の高得点で金メダル(後編)

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 前記事に引き続き、平昌五輪の女子の結果についてお伝えしていきます。なお、前編はこちらからご覧ください。

Olympic Winter Games 2018 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 6位と健闘したのは日本の新星、坂本花織選手です。

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 SPは全てのジャンプを後半に組み込み、ベートーベンの「月光」の厳かな旋律に乗せてまずはスローパートを丁寧に演じます。そして後半、鍵を握る3フリップ+3トゥループを完璧に決めると、次いで3ループ、2アクセルもしっかり成功。最後を回転の速いコンビネーションスピンで締めくくった坂本選手は、力強く拳を握り締めて満足感を露わにしました。得点は自己ベストを上回る73.18点で5位と好発進します。

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 フリーは冒頭に得点源の3フリップ+3トゥループ、これを余裕を持ってクリーンに下り1.2点の加点を得ます。さらに3サルコウも全く問題なく跳び切り、最高の滑り出しに。続くステップシークエンス、スピンともにレベル4を取って後半、苦手としている3ルッツは着氷はきれいだったものの、踏み切りのエッジがロングエッジと判定され減点。続く3+2を成功させ、2アクセル+3トゥループ+2トゥループもクリーンに着氷。終盤に入り3ループは着氷でステップアウト。最後の2アクセルは無難に決め、演技を終えた坂本選手は悔しさを滲ませつつも、満面に笑みを浮かべました。得点は136.53点でフリー6位、総合6位となり、初五輪にして初入賞しました。
 ショート、フリーともに実に坂本選手らしいダイナミックさ、のびやかさ、溌剌さが存分に表れた演技でしたね。フリーは細かなミスがありましたが、全体を通してよくコントロールされていて、場の雰囲気に飲まれてしまった団体戦とは見違えるようでした。坂本選手も宮原選手同様に団体戦後に北九州で練習していたようですから、団体戦の教訓をうまく個人戦に反映させられたのかなと思います。
 今シーズンは怒濤の快進撃で全日本選手権2位、四大陸選手権優勝、そして五輪6位と世界のトップレベルに駆け上がった坂本選手ですが、1年前はまさか坂本選手がこれほどまでの選手に成長するとは想像できませんでした。ジュニア時代からの坂本選手のイメージに劇的な変化はないものの、人知れないところで相当な努力を積み重ねたことが、同世代のライバルたちを追い抜いての現在のポジションに繋がったことは間違いないでしょうね。世界選手権の代表には選ばれていないので、このあとほかの試合に出るのかどうかはわかりませんが、まずはゆっくり体を休めて、今季の経験を来季に活かせるよう充実のオフシーズンを送ってほしいと思います。


 7位は韓国の実力者、チェ・ダビン選手です。

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 ショートはまず得点源の3ルッツ+3トゥループを確実に回り切って下りると、後半に組み込んだ3フリップ、2アクセルも危なげなく成功。ステップシークエンス、スピンは全てレベル4と取りこぼしなくまとめ、パーソナルベストを約2点更新する67.77点で8位に食い込みます。
 フリーも冒頭は3ルッツ+3トゥループでしたが、ファーストジャンプの着氷でこらえ気味になりセカンドジャンプには繋げられず。続く3フリップ、2アクセル+3トゥループは予定どおりに成功させます。後半最初は3ループを決めると、次いで3ルッツの後ろに2回転ジャンプ2つをつける3連続ジャンプの予定でしたが、急遽セカンドジャンプを3トゥループに変更して挑み、見事クリーンに成功させます。さらに3+2、2アクセルとクリーンな跳躍を続け、フィニッシュしたチェ選手はほっとしたように微笑みました。得点はこちらも自己ベストを上回る131.49点でフリー8位、総合7位で初めての五輪を終えました。
 韓国のエースとして大きな期待を背負って母国開催の五輪に臨んだチェ選手。全体を通して非常に冷静で落ち着いていましたね。団体戦のショートでも落ち着きぶりは際立っていましたが、さらに重圧がかかったであろう個人戦も周囲の雰囲気に惑わされることなく、自分自身がやるべきことを淡々と一つ一つクリアしていったという印象を受けました。特にフリーは冒頭のジャンプが予定どおり決まらず、焦って崩れてもおかしくない場面でしたが、後半に臨機応変なリカバリーを見せて精神的にもタフな選手であることを証明しました。韓国の場合、五輪代表となるためには対象となる国内試合を3試合戦って、そのポイントの合計で代表を選ぶというシステムでしたが、国内のライバルと直接的に戦う試合を経験して勝ち抜いたことで、どんどん自信と安定感を手に入れていったのかなという気もしますね。
 次戦は世界選手権。昨年はこの大会でたった一人の韓国代表として出場し、10位と健闘したことによって韓国に五輪の2枠をもたらしました。今年も同じような輝きを放てるのか、注目ですね。


 8位はOAR(オリンピック・アスリート・フロム・ロシア)のマリア・ソツコワ選手です。

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 SP冒頭は鍵を握る3ルッツ+3トゥループでしたが、3ルッツで転倒しコンビネーションジャンプにはならず。後半の3フリップに3トゥループをつけてリカバリーを見せますが、こちらは3トゥループがアンダーローテーション(軽度の回転不足)となって減点。最後の2アクセルは何とか決めましたが、精彩を欠いた演技となり、63.86点で12位と大きく出遅れました。
 フリー冒頭はショートで失敗した3ルッツ+3トゥループ、今度はしっかり成功させ加点も獲得します。さらに3フリップもクリーンに決め、前半は申し分ない演技に。後半に入り最初の3ループを着氷しますが、続く3+1+3はサードジャンプが2回転に。その後はミスらしいミスなく全てのエレメンツをこなし、134.24点でフリー7位、総合8位と挽回しました。
 シーズン中でもあまり見ない冒頭のジャンプの転倒によってリズムを狂わしてしまったショート。一転フリーは全体的によくまとまった演技でしたが、一つ一つのエレメンツとしては慎重さが感じられたかなと思います。本領を発揮できればもっと上位でメダル争いにも加わっていた選手だと思いますので、ソツコワ選手らしさを思う存分出し切れなかったのは残念でしたが、フリーでショートの失敗を引きずることなく立て直せたのは実力の証ですね。
 まだ脆さもある選手ですが、ジャンプが決まれば持ち味の華やかさやダイナミックさもさらに際立って魅せられると思うので、世界選手権では好い演技が見られることを祈っています。


 9位は全米女王のブレイディ―・テネル選手です。

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 SP冒頭は3ルッツ+3トゥループでしたが、セカンドジャンプで転倒してしまい大幅な減点に。後半の3ループ、2アクセルはクリーンにこなし挽回しますが、冒頭のジャンプミスが響き64.01点で11位にとどまります。
 フリーもまずは3ルッツ+3トゥループ、これを今度は完璧に下りて1.1点の加点を獲得。次いで2アクセル、3フリップときれいなジャンプを続けます。レベル4のスピンとステップシークエンスを挟んで後半、得点源の2アクセル+3トゥループはセカンドジャンプがアンダーローテーションで着氷も乱れます。直後の3ルッツも同じ形のミスに。3+2+2と3サルコウは決めて終盤は盛り返し、プログラムを締めくくる2つのスピンもレベル4。128.34点でフリー9位、総合も9位となりました。
 団体戦のショートにも出場したテネル選手ですが、パーソナルベストをマークしたその時の演技と比べると緊張感がより濃かったのかなと思います。それでもスピンやステップでの取りこぼしはほぼなく、テネル選手らしいのびやかさや優雅さも垣間見えましたね。アメリカのチャンピオンとしてのプレッシャーは並々ならぬものがあったでしょうが、合格点とまでは言えないものの、及第点の演技にはなったのではないでしょうか。
 初めてとなる世界選手権でも全米女王として自信を持って思い切りぶつかっていってほしいですね。


 10位はアメリカのベテラン、長洲未来選手です。

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 ショート冒頭は新たな代名詞となった大技3アクセル、回転は充分だったものの着氷でこらえきれず転倒してしまいます。ですが、直後の3フリップ+3トゥループはクリーンに成功。後半の3ループは若干乱れたものの最小限のミスに抑え、また、得意のスピンは3つともしっかりレベル4でまとめ、66.93点で9位につけます。
 フリーも冒頭は3アクセルでしたが、回転する前に抜けた形になってしまい無得点に。ですが、次の3フリップ+3トゥループは確実に着氷。さらに3サルコウもきれいに下ります。後半は最初の2アクセル+3トゥループ+2トゥループを完璧に跳び切って好調な出だしでしたが、若干苦手としている3ルッツはパンクして1回転に。3フリップはこらえつつもまとめ、最後の3+2も成功。冒頭のミスを忘れさせるエネルギッシュな演技を披露し、演技を終えた長洲選手は悔しそうに苦笑いを浮かべつつも笑顔で観客の歓声に応えました。得点は119.61点でフリー12位、総合10位となりました。
 団体戦フリーに続き果敢に3アクセルに挑んだ長洲選手。残念ながら2本とも不首尾に終わりましたが、演技全体を通して楽しみながら滑っている雰囲気、最後まで諦めない攻めの姿勢が感じられましたね。24歳というベテランの年齢ですが、もちろん成熟している部分もある一方で、非常にフレッシュでみずみずしさを感じるような滑りでもあり、今後もまだまだ進化していけるんじゃないかなと思います。
 2年ぶりの世界選手権でも3アクセルを始め、長洲選手らしさを思う存分発揮してほしいですね。



 さて、平昌五輪・女子の記事は以上です。上位の顔ぶれを見渡すと実力者が実力どおりの力を出し切ったなという印象でしたね。また、この記事では取り上げなかった下位の顔ぶれを見ても、決してフィギュアが盛んではない国の選手たちでも普通に3+3を跳んだり、高いスケーティング技術を持っていたりと、全体的に底上げされているなと思いました。男子とは違って大技に挑む選手は少ないですが、その分男子以上に工夫を凝らしたりオリジナリティーを追求したりしたプログラムが多かったような気がします。
 平昌五輪関連の記事はこれで全て終了です。4年に1度の大舞台、笑顔の選手も涙した選手も、いろんな物語が氷上で繰り広げられ、演技自体を楽しめたのはもちろんのこと、一人ひとりの選手の人生が垣間見える大会でもありました。
 多くの選手たちが次に見据えるのは今シーズンの集大成となる世界選手権。こちらでも白熱した試合が見られることを願っています。では。


:女子メダリスト3選手のスリーショット画像、チェ選手の画像、ソツコワ選手の画像、長洲選手の画像は、マルチメディアサイト「Newscom」から、坂本選手の画像は、時事通信のニュースサイト「時事ドットコム」の平昌五輪写真特集ページから、テネル選手の画像はマルチメディアサイト「Zimbio」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2018-03-05 23:38 | フィギュアスケート(大会関連)