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世界選手権2018・男子&アイスダンス―ネイサン・チェン選手、世界歴代2位の高得点で初優勝(後編)

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 前記事に引き続き、世界選手権2018の男子とアイスダンスの競技内容について書いていきます。なお、前編はこちらのリンクからご覧ください。

ISU World Championships 2018 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 男子の6位となったのはラトビアの有望株、デニス・ヴァシリエフス選手です。

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 SPは最初に3+3を確実に跳ぶと、続いて3アクセル、後半には3フリップと全て危なげなく着氷。ほかの要素でも目立った取りこぼしなくまとめ、パーソナルベストに迫る得点で9位につけます。
 フリーも4回転には挑まず、冒頭に得点源の3アクセル2本を固め、2本とも完璧に下ります。次いで3トゥループを難なく決め、後半は3ループ、3+1+3、2アクセル+2トゥループ、3フリップ、3ルッツと次々に成功。ステップシークエンス、スピンは全てレベル4かつ軒並み高い加点を積み重ね、演技を終えたヴァシリエフス選手は満面に笑みを浮かべました。得点はこれまでのパーソナルベストを約12点超える170.61点でフリー5位、総合でも自己ベストを11点ほど更新し自己最高の6位に入りました。
 ショート、フリーともに減点がゼロのまさに会心の出来で本当に素晴らしかったですね。特にフリーは盛り上がるプログラムですので観客をぐいぐい引き込んでいて、曲がアップテンポに変わる終盤は女性たちの黄色い歓声がたびたび上がっていて、あれだけ黄色い歓声を引き出せるスケーターというのは世界的にもそんなに多くはいませんので、表現者としても改めて魅力的な選手だなと感じました。すでに世界選手権は3度目ということでおなじみの選手ではありますが、今季は表現面での洗練度合いがぐっと伸びた印象があり、4回転がなくても魅せられる稀有なスケーターとしてさらに楽しみになりましたね。もちろん4回転がないと世界のトップレベルで戦い続けるのは難しいので、来季は4回転の完全な習得が課題になるでしょうが、うまくジャンプと表現を両立して、またヴァシリエフス選手らしい演技を見せてほしいと思います。


 7位は欧州選手権銀メダリスト、ロシアのドミトリー・アリエフ選手です。

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 ショート冒頭は大技の4ルッツ+3トゥループ、完璧な着氷に見えましたが4ルッツがアンダーローテーション(軽度の回転不足)の判定に。続けて4トゥループでしたが、こちらはパンクして3回転となり、3トゥループの繰り返しで無得点になる痛いミス。後半の3アクセルは何とか下りますが、2つのジャンプミスが響き、自己ベストから17点近く低いスコアで13位と出遅れます。
 フリーもまずは4ルッツ、今度はしっかり回り切って下り加点を得ます。続いて4トゥループ+3トゥループはきれいに下りたかに見えたものの4トゥループがわずかに回転不足の判定。しかし、次の単独の4トゥループは回り切って着氷し、上々の滑り出しとします。後半は3ルッツからの予定でしたが、若干跳ぶタイミングが早かったためかこの3ルッツは後半には含まれず。次いで3アクセルは回転が抜けて1回転に。3+1+3の3連続ジャンプは決め、2本目の3アクセルはアンダーローテーションでしたが何とか下り、最後の3フリップも着氷でこらえました。得点は170.15点でフリー6位、総合7位と順位を上げました。
 SPは4ルッツがアンダーローテーションとはいえ大きなミスなく下りただけに、次の4トゥループの失敗がもったいなかったですね。ただ、フリーでは4ルッツも4トゥループもクリーンに成功させていて、基本的には4回転の成功率はとても高い選手だと思うので、実戦になるとちょっとした体の感覚のズレだったり精神的な揺らぎだったりでまだ危なっかしいところがあるのかなという気がします。また、演技後半でミスすることが多いという印象なので、そのあたりは体力面の問題もあるのでしょうが、オフシーズンの強化で急激に成長する可能性も大いにありますので、来季のさらなる躍進に期待したいですね。


 8位はカナダのキーガン・メッシング選手です。

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 SP冒頭は得点源の4トゥループ+3トゥループ、これをパーフェクトな流れで決めて1.57点の加点を得ます。さらに3アクセルも鮮やかに成功させ1.86点の加点と最高のスタートに。終盤の3ルッツも余裕で下り、スピンやステップシークエンスでも高い加点を稼ぎ、フィニッシュしたメッシング選手は派手なガッツポーズで歓喜を爆発させました。得点は自己ベストを6点以上更新する93.00点で6位と好発進しました。
 フリーはまず得意の3ルッツからでしたが若干着氷が乱れます。続いて4トゥループはパンクして3回転に。ですが、次の3アクセル+2トゥループ+2ループは完璧に成功させます。後半最初は2本目の4トゥループでしたがこちらは転倒。直後の3+3、3アクセルと高い質で決めましたが、3ループは2回転、最後の3フリップは踏み切りのエッジエラーで減点となり、159.30点でフリー11位、総合8位と順位を落としました。
 ショートはまさにパーフェクトな出来で、あのジャンプの美しさを見る限り、ジャンプの調子自体は悪くなかったのでしょうが、26歳のメッシング選手にとって初めての世界選手権で、しかもいきなり最終グループに入ったことによって独特の緊張を感じたでしょうし、1本目の4トゥループを失敗したことで2本目にも引きずってしまい、その後もリズムをつかみきれなかったのかなと想像します。ただ、ジャンプやスピンの質の高さは世界のトップレベルと比較しても遜色なく、実際に頻繁に高い加点もついているので、今回のショートのような演技をコンスタントに続けていけばまだまだ得点は伸びていくのかなと思います。また、小柄な体ながらダイナミックでスケールの大きな表現ができる選手でもあるので、安定感が増すと演技構成点もさらに高まっていきそうですね。


 日本の田中刑事選手は13位となりました。

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 SPは冒頭の4サルコウを耐えながらもクリーンに決めて好調な滑り出しを見せると、次いで3+3も成功。勢いに乗って後半の3アクセルも下りたいところでしたが、パンクして2アクセルに。得点は80.17点で14位にとどまります。

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 フリーもまずは4サルコウからでしたが、着氷でステップアウトします。続いて2本目の4サルコウは2トゥループを付けコンビネーションとしてきっちり成功。さらに3アクセルもクリーンに下ります。後半は鍵を握る4トゥループ、しかし回転が抜けて3回転に。3アクセル+2トゥループ、3フリップも着氷が乱れます。終盤の3ループ、3サルコウはきれいに決めましたが、複数のジャンプミスが響き、156.49点でフリー12位、総合13位で2度目の世界選手権を終えました。
 五輪後に新調したスケート靴が大会直前に破損し、その状態のままで使用せざるをえなかったとのことで、最後まで田中選手らしさを取り戻せなかったという印象ですね。靴の問題だけではなく、五輪という大舞台にピークを合わせた後で、再び世界選手権で調子を上げなければならないという難しさももちろんあったと思いますので、そのあたりも影響したのでしょうね。ただ、ジャンプが決まらない中でも演技自体は集中を切らすことなく、スピンやステップもしっかりとレベルを取れていましたので、1年前と比べても確実に成長の跡がうかがえましたね。
 田中選手にとっては2年連続で悔しい世界選手権となってしまったと思いますが、苦しい状況でも大崩れせずまとめられたことを収穫として来季に活かしていってほしいなと願っています。



 ここからはアイスダンス。

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 3度目の優勝を果たしたのは平昌五輪銀メダル、フランスのガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組です。SDは序盤のパターンダンスこそレベル3でしたが、そのほかのエレメンツは全てレベル4、また多くのジャッジが満点となる加点3を与え、世界歴代最高得点となる83.73点を叩き出し堂々の首位に立ちました。FDは安定感抜群のツイズルで幕を開けると、その後も全てのエレメンツでレベル4を連発。最後まで隙のない演技で演技構成点は5項目中3項目で10点満点の高評価を得、こちらも世界歴代最高の123.47点で1位、トータルは207.20点でもちろん歴代最高。他を寄せつけることなく圧巻の王座返り咲きとなりました。
 先月の五輪ではSDのまさかのアクシデントで、僅差ながらテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイアの後塵を拝したパパダキス&シゼロン組。今大会はヴァーチュー&モイア組は不在ということで圧倒的な優勝候補として臨み、その期待を裏切らない演技で2年ぶりに世界の頂点に立ちました。優勝が当たり前と思われている中で期待どおりの演技をするという精神力の強さには改めて感嘆しますね。来季もアイスダンス界はパパダキス&シゼロン組を中心とした勢力図になることは間違いないでしょうから、その多大な重圧の中でこのカップルがどんな演技を見せてくれるのか、期待したいと思います。世界選手権優勝、おめでとうございました。

 2位は全米王者、マディソン・ハベル&ザカリー・ドノヒュー組です。SDは全てのエレメンツでレベル4を獲得、演技構成点でも5項目で9点台前半から半ばを揃え、世界歴代3位となる80.42点で2位と好発進。FDも全要素でレベル4を揃える会心の演技を披露し、世界歴代4位の116.22点で2位、トータルでも世界歴代3位のハイスコアで初めて表彰台を射止めました。
 五輪はショート3位と好位置につけながら、フリーでエレメンツが一つ無得点になる致命的な失敗がありメダルを逃したハベル&ドノヒュー組。そのリベンジを期す今大会だったと思いますが、二人にとって理想的な演技、展開となりましたね。11/12シーズンからカップルを結成しているハベル&ドノヒュー組ですが、GPシリーズでの優勝はショートのみで大会が打ち切られたフランス大会の1試合だけ、全米選手権もずっと3位か4位が定位置というなかなか殻を破り切れないカップルという印象でした。ただ、今季は全米で初優勝し、五輪でもあと一歩のところでメダルと着実に安定感を増し、最高のハッピーエンドを迎えましたね。また、来季に向けてということを考えても、ハベル&ドノヒュー組が世界歴代3位の得点を出した意味合いは大きく、パパダキス&シゼロン組に今後どこまで肉薄できるか、そして平昌五輪で銅メダルを手にした同国のライバル、マイア・シブタニ&アレックス・シブタニ組との争いもさらに熾烈になりそうで、今季以上に注目の存在になるのは間違いないですね。

 3位はカナダのケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェ組です。SDは後半のステップ以外はレベル4を並べ、自己ベストの78.31点で3位につけます。FDも目立ったミス、取りこぼしなく安定感のある滑りを見せ自己ベストで4位、トータルでも自己ベストで僅差ながら4位のカップルをかわし、3年ぶりにメダルを獲得しました。
 今大会は五輪でトップ10に入ったカップルのうち、3組が欠場したこともあって、ウィーバー&ポジェ組にとっては久しぶりに表彰台に手が届く可能性のある試合でしたが、ショート、フリーともに確実性の高い演技でチャンスをつかみましたね。フリーは4位だったのでギリギリの表彰台でしたが、ショートでまず好スタートを切ったことで自信を持ってフリーに臨めたのかなと思います。

 以下、4位は地元イタリアのベテラン、アンナ・カッペリーニ&ルカ・ラノッテ組、5位はアメリカのマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組、6位はカナダのパイパー・ギレス&ポール・ポワリエ組、7位はロシアのアレクサンドラ・ステパノワ&イワン・ブキン組、8位もロシアのティファニー・ザゴースキー&ジョナサン・ゲレイロ組となりました。

 日本の村元哉中&クリス・リード組は11位と健闘し、日本勢最高位を更新しました。

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 SDは冒頭のツイズルをレベル4で成功させると、その後のステップやパターンダンスも丁寧に取りこぼしなくクリアし、自己ベストの65.65点で10位と好発進。FDもレベル4のツイズルで幕を開けると、ステップ、スピンを全てレベル3もしくは4でまとめ、坂本龍一さんの音楽に乗せたエレガントで清らかなプログラムを全身で余すことなく表現。フィニッシュするとリード選手は氷の上にしゃがみ込み、その背中を村元選手が称えるように優しく叩き、達成感を滲ませました。得点はこちらも自己最高の98.73点で11位、総合では日本のアイスダンス勢にとって過去最高の11位に入りました。
 SDは10位ということで村元&リード組が目標に掲げてきた世界選手権のトップ10入り目前にまで迫りましたが、FDで1組に追い越されて惜しくも11位でした。ただ、今できる彼らのベストは出し切ったと思いますし、その結果での11位なのである程度満足感はあるんじゃないかなと思います。
 二人にとって今季はシーズンを通して怪我なく良いコンディションを保って戦い切ったシーズンとなり、毎試合確実に成長を遂げてきました。特にシーズン後半は四大陸選手権でアジア勢初の表彰台、念願の五輪出場と貴重な経験を積み重ね、シーズン集大成の世界選手権でも自己ベスト更新と、本当に強いカップルになったなと実感します。それでもまだまだ世界のトップレベルとは実力差があるということで、村元&リード組にはさらに上のポジションを狙っていってほしいですし、それができるチームだと思うので、来季も日本のアイスダンスの新たな歴史を作っていってほしいですね。



 さて、世界選手権2018、男子&アイスダンス編は以上です。
 男子は終わってみればGPファイナルの表彰台と全く同じ顔ぶれで、実力どおりのワンツースリーだったと言えるのですが、演技内容、試合展開はファイナルの時とは全く違っていて、シーズン中のさまざまな経験を経てのそれぞれの選手の変化、成長が感じられましたね。来季以降も彼らが男子フィギュア界をリードしていくのは間違いないでしょう。
 一方、アイスダンスはしばらくはパパダキス&シゼロン時代が続くことを予感させる大会となり、それに次ぐ存在としてハベル&ドノヒュー組の急成長はアイスダンス界の勢力図に変化をもたらしていて、来季はどのカップルがパパダキス&シゼロン組に最も迫れるのかが注目ポイントとなりそうですね。
 ということで、17/18シーズンはこれで実質的に終了となります。あっという間の秋から冬、そして春でしたが、最後まで選手たちのエモーショナルな演技、思いがけないドラマを見せて頂いて、今は感謝の気持ちでいっぱいです。今季を持って引退する選手、一区切りをつける選手、そして新たな一歩を踏み出した選手、皆さんの幸運を祈りたいと思います。では。


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by hitsujigusa | 2018-03-30 20:51 | フィギュアスケート(大会関連)