フィギュアスケーター衣装コレクション⑮―村上佳菜子編

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 フィギュアスケーターたちの華麗なる衣装を振り返るフィギュアスケーター衣装コレクション。第15弾となるのは昨年現役を引退された村上佳菜子さんです。現役時代は明るい笑顔と躍動感に満ち溢れた滑りで多くのファンを魅了した村上さん。引退してからはプロのスケーターとして、また、タレントとしても大活躍していますが、そんな村上さんの現役時代のコスチュームを年代を追って、一部ではありますがご紹介していきたいと思います。


 まずは村上さんがシニアデビューした10/11シーズンのショート「ジャンピン・ジャック」、フリー「映画『マスク・オブ・ゾロ』より」です。

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 SPはアメリカのスウィングジャズのバンド、ビッグ・バッド・ブードゥー・ダディーの代表曲「ジャンピン・ジャック」を使用したポップで元気いっぱいのプログラム。ということで衣装も黒地にピンクの水玉という可愛らしさを強調したデザインとなっています。シニアデビューシーズンということもあって、まずは村上さんの若さ、フレッシュさを前面に押し出す戦略だったのだと思いますが、一見するとピンクの水玉柄というチープな印象を与えかねない感じもしますが、村上さんの当時のとにかく明るい雰囲気にはまさにピッタリな衣装でしたし、また、ベースとなる色は黒なのでシックさもあって、“村上佳菜子”というスケーターのイメージを形づくり大いにアピールするコスチュームとなりましたね。
 一方、フリーは剣士ゾロを主人公とした映画『マスク・オブ・ゾロ』のサントラを使用。ショートとは対照的な男性的なプログラムとなり、衣装はシーズンを通して3着ほど使用されましたが、今回選んだのはシーズン初戦のNHK杯で着用されたもの。体の左側が黒、右側が赤というアシンメトリーなデザインです。映画の舞台がスペイン領時代のアメリカのカリフォルニアということで、黒と赤というスペインらしさを意識した色づかいとなっています。そして、黒と赤がくっきり分かれたデザインにすることによって、黒で男性らしさ、赤で女性らしさを表しているようにも見えます。黒の方はデコルテや腕などに網状の生地を使ったり、また、ゴールドを部分的に用いたりすることで、男性的な強さやゴージャスさを表現。一方で赤の方は柔らかい質感の生地で、上の画像ではわかりにくいですが花柄となっています。左右で全く違う衣装のようなデザインにすることで、プログラムが持つ女性性と男性性をうまく表しているなと思います。


 続いては12/13シーズンのSP「プレイヤー・フォー・テイラー」とフリー「とろ火で/オブリヴィオン/アディオス・ノニーノ」です。

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 SPはアメリカのクリスチャンミュージックの歌手、マイケル・W・スミスの楽曲。クリスチャンミュージックですので、「プレイヤー・フォー・テイラー」も静謐で神聖な雰囲気がありますが、そこまで難解ではなくシンプルに旋律の美しさ、清らかさが際立つ作品です。ということで衣装も淡いピンクで清廉さを表現。形としてはハイネックのノースリーブ風ですが、実際は肌色の生地を使った長袖で、腕部分にも細かなラインストーンがあしらわれ華やかさを演出しています。ボディ部分はピンクの生地をベースに、シルバーの装飾で枝を伸ばす草木のような絵柄を描いていて(腕にも同じデザインあり)、植物の曲線を用いることによって柔らかな雰囲気を強調しています。楽曲の優しい曲想にぴったりな衣装ですね。
 そしてフリーは対照的に激しいタンゴメドレー。シーズン序盤は赤と黒の衣装を使用していましたが、シーズン中盤以降は画像の黒一色の衣装に変更し、シックな大人の魅力を醸し出していました。ただ、色づかいはシックな一方、衣装の形はとても個性的で、左側だけ袖があるアシンメトリーな作りで、さらに右のお腹から背中にかけて大胆に肌をのぞかせていてセクシーさも感じさせます。上半身は黒い生地の上にシルバーの細かな装飾でうねるような模様をびっしりと施していますが、右の脇腹から背中にかけて生地を切り取ったかのように肌を見せる部分も、曲線が強調されたフォルムとなっていて、全体的に曲線を意識したコスチュームであることがわかります。他方でスカートは裾が斜めで、右側の方が長めの作りとなっていて、どちらかというと直線的。こうした上半身と下半身の形の違いも工夫されているなと感じるところですね。



 次は村上さんがオリンピックに出場した13/14シーズンのショート「ヴァイオリン・ミューズ」、フリー「パパ、見守ってください 映画『愛のイエントル』より」です。

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 SPの「ヴァイオリン・ミューズ」は、バッハの「シャコンヌ」という曲を基に、ヴァイオリニストの川井郁子さんがアレンジした楽曲。このプログラムを村上さんは11/12シーズンにも演じましたが、集大成となる五輪シーズンにも再び採用しました。11/12シーズンの時はピンクを基調にした衣装を着ていましたが、13/14シーズンはデザインは11/12シーズンとほぼ同じながらも、色をグレーメインに変え、よりシックな印象になりました。形としては左肩の方にのみショルダーがあるワンショルダー風で、そこからグレーや黒、紫で流れる曲線がスカートに向かって描かれています。プログラムの中に弓矢を放つような動作があるのですが、この衣装の流れるようなラインからは放たれる矢と共通したイメージが感じ取れますし、グレーや紫といった落ち着いた雰囲気の色づかいにすることで、2シーズン前との違いを際立たせていて、印象に残るコスチュームでした。
 フリーはアメリカ映画『愛のイエントル』の劇中曲。全体的にしっとりと暗めの曲調で、村上さんはこのプログラムでシーズンを通して4着の衣装を使用しましたが、ロステレコム杯、全日本選手権、四大陸選手権の3試合で画像の衣装を使用しました。ほかの衣装もグレーだったり黒だったりシックな色づかいで統一されていましたが、曲自体が暗めな分、衣装は画像のもののように、シックではあるけれども明るさも多少ある色づかいの方がバランスが取れるのではないかと思いますね。また、上半身を中心にまるで星空のような形でラインストーンなどがあしらわれていてほどよい華やかさもあり、また、映画では主人公が星空の下でこの歌を歌うという場面になっているので、そのあたりも考慮されたデザインになっているのかなと思います。


 続いては14/15シーズンのSP「シンク・オブ・ミー 映画『オペラ座の怪人』より」、フリー「映画『オペラ座の怪人』より」。

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 このシーズン、ショート、フリーともに「オペラ座の怪人」の音楽を使用するという異例の試みに挑んだ村上さん。ショートはヒロイン、クリスティーヌのソロパートである「シンク・オブ・ミー」で女性的な、フリーは主にファントムに関連する曲を使い、男性的なプログラムとなっています。
 そんなショートは金色を帯びたイエローのノースリーブ風ワンピース。首回りと上半身は無数のバラの花のアップリケをあしらったデザインで、女性らしい華やかさを表すとともに、映画の中で印象的な役割を果たすバラを用いることで、映画の世界観も表現しています。
 一方、フリーはファントムを演じるということで、ファントムの着ているようなタキシード風の個性的なデザインとなっています。色も白と黒とグレーというモノトーンで統一され、闇に生きるファントムらしい色づかいですし、また、右の胸元に施された仮面風のデザインがよりファントムらしさを強調していて、まさに全身で「オペラ座の怪人」を表現したコスチュームと言えますね。


 次は15/16シーズンのショート「ロクサーヌのタンゴ 映画『ムーラン・ルージュ』より」です。

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 フィギュア界定番の「ロクサーヌのタンゴ」。タンゴではありますが、いわゆるアルゼンチンタンゴなどとは違って現代的な趣きが強く、また、男性ボーカル入りということもあって力強さや激しさが印象的なプログラムとなりました。
 そんなイメージに合わせてか、衣装はスカートとパンツを合わせた独創的な作りに。黒い生地で首から腕、足元まで覆う露出の少なさで(肩や腕などは透け感のある素材です)、上半身は細かな装飾をびっしりと埋め込んでうっすらと絵柄が浮かび上がるようなデザインにしています。全身黒のシンプルな衣装ですが、パンツとスカートを合わせることによって唯一無二の男性的でもあり女性的でもある雰囲気を醸し出しており、オリジナリティー溢れるコスチュームになっていると思います。


 最後は村上さんが引退した16/17シーズンのフリー「トスカ」です。

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 オペラの名作「トスカ」を演じた村上さん。衣装は黒を基調とした長袖のシンプルなワンピースで、上半身、腕は細かな装飾を散りばめてアクセントとしています。そして特徴的なのは右胸から飛び出ている赤い布ですが、プログラムが始まる段階ではこの赤い布は黒い生地の中に隠されていて、演技の途中で突然赤い布が姿を現すといった仕掛けがなされています。イメージとしては胸に秘めた情熱のような感じかなと個人的には想像するのですが、衣装でもプログラムの世界観を存分に表現した、工夫の感じられる衣装ですね。



 ということで、フィギュアスケーター衣装コレクション、村上佳菜子編は以上です。ざっと10着の衣装を年代順に追ってきましたが、年月を追うごとにシンプルになっていったのかなという印象を受けます。村上さんといえば、やはり明るさや活発さが印象的ではあるのですが、実際のプログラムを見てみるとしっとりしたものやクールなものも多く、特にキャリア終盤はそういったプログラムが目立ち、必ずしもポップさや軽快さが強い作品は多くなく、そのため衣装も比較的シンプルだったり、一色でまとめたりしたものが多くなったのではないかと思います。そうしたシンプルさの中にもそこここに工夫が見られ、村上さんならではのオリジナリティーが形づくられていったように感じますね。
 引退されて約1年。テレビでも日に日に目にする機会が増え、あの眩しいほどの“佳菜子スマイル”は現役時代と同じくらい、もしくはそれ以上の輝きを放っていますが、今後もテレビでも氷上でもさらに活躍されることを祈りたいと思います。では。


:記事冒頭の村上さんのポートレート画像、「ジャンピン・ジャック」の画像、「映画『マスク・オブ・ゾロ』より」の画像、「プレイヤー・フォー・テイラー」の画像、「とろ火で/オブリヴィオン/アディオス・ノニーノ」の画像、「パパ、見守ってください 映画『愛のイエントル』より」の画像、「映画『オペラ座の怪人』より」の画像は、マルチメディアサイト「Newscom」から、「ヴァイオリン・ミューズ」の画像はマルチメディアサイト「Zimbio」から、「シンク・オブ・ミー 映画『オペラ座の怪人』より」の画像、「ロクサーヌのタンゴ 映画『ムーラン・ルージュ』より」の画像はスポーツ情報サイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、「トスカ」の画像はフィギュアスケート情報サイト「Absolute Skating」から引用させていただきました。

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by hitsujigusa | 2018-08-13 00:10 | フィギュアスケート(衣装関連) | Comments(0)