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ベストコスチューム18/19・男子フリー部門

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 前記事に引き続き、ベストコスチューム18/19をお送りします。今回は男子フリー部門です。なお、このシリーズのルールについては、こちらの記事の冒頭をご参考下さい。

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 男子フリー部門第1位は、日本の羽生結弦選手の「ORIGIN」です。

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 エフゲニー・プルシェンコさんの名プログラム「ニジンスキーに捧ぐ」に触発され制作された羽生選手の「ORIGIN」。「ニジンスキーに捧ぐ」で使用された音楽を用い、プルシェンコさんの演技にオマージュを捧げつつ、羽生選手オリジナルの作品となっています。
 衣装は黒がベースで、このあたりはプルシェンコさんと同じチョイスです。ですが、デザインは全く異なっていて、上半身から腕にかけて全体的にうねるような曲線の連なりで覆われた独特のデザインで、非常に繊細さと複雑さを感じさせます。また、黒の中に金色やシルバーも入り混じっており、シックでありながらも華やかさも備えています。こうしたデザインからはどこかこの世のものでないような禍々しさやダークさも感じられる一方、幻想的で美しくもあり、重層性、二面性を秘めたコスチュームであるように思います。プログラム自体もそうした一筋縄ではいかないような多重性、複雑さを持ったプログラムであり、プログラムの世界観をまさに体現した衣装と言えるのではないでしょうか。


 2位は日本の宇野昌磨選手の「月光」です。

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 フィギュア界定番のベートーヴェンのピアノソナタ「月光」。男女シングル、ペア、アイスダンス問わず人気の曲ですが、その分オリジナリティーを表現するのが簡単ではない選曲とも言えます。
 そんな「月光」を宇野選手は緑がかった青の衣装で表現。色はこの一色のみですが、よくよく見るとグラデーションとなっていて単調な一色ではなく、まるで月が浮かぶ夜空を想起させます。そして何よりも印象的なのがエレガントなドレープ。このドレープがあることによって立体感が生まれ、より一層優雅さも強調されています。また、ふんだんに施された細かな装飾も、配置する位置も考えられていてまさに“月光”のようであり、この衣装全体で「月光」の世界を存分に表しているなと思いますね。


 3位は韓国のチャ・ジュンファン選手の「映画『ロミオ+ジュリエット』より」です。

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 「ロミオとジュリエット」を題材にした音楽作品、映画は多々ありますが、チャ選手が使用したのは1996年公開の現代版『ロミオ+ジュリエット』。ということでプログラムもリズミカルでアップテンポなパートもあったり、センチメンタルで抒情的なパートもあったり、クラシカルな“ロミジュリ”とはまた違った趣きとなっています。
 そんな“ロミジュリ”を演じたチャ選手が着用したのは深みのある紫のトップス。パッと見派手派手しい装飾もなくシンプルですが、よくよく見ると全体的にレース調となっており繊細な作りであることがわかります。また、トップスのフロント部分はまた違うデザインとなっていて、同じ紫の中でもデザインや素材を変えることでメリハリをつけています。紫という色は“ロミオ”らしい気品を感じさせるとともに、大人の色香を匂わせる色でもあって、弱冠17歳ながらもどことなく色気を漂わせるチャ選手にぴったりな衣装だと思いますね。


 4位は日本の田中刑事選手の「ウィリアム・テル序曲」です。

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 こちらも大定番の「ウィリアム・テル序曲」。スイスの英雄ウィリアム・テルに材を取った壮大な作品ですが、そんな壮大さ、ウィリアム・テルらしさを田中選手は衣装でも見事に表現しています。
 何といっても目を引くのはゴージャスなベスト。黒地にシルバーの糸で植物のような絵柄が刺繍されており、色合いはシックですが華やかさを感じさせます。その下に着ているのは淡いイエローの長袖シャツ。大きめの襟には金糸で古風な模様があしらわれていて、ベストの刺繍同様、クラシカルな雰囲気を醸し出しています。さらにはベストの側面を別の赤い生地で彩ったり、同じ赤の紐でシャツの袖口にアクセントをつけたりと、細かいところまで工夫が凝らされていて、中世の人物であるとされるウィリアム・テルのイメージを鮮やかに体現したコスチュームですね。


 5位は日本の友野一希選手の「リバーダンス」です。

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 これまた定番の「リバーダンス」。アイルランドの伝統的な音楽やアイリッシュダンスを取り入れた有名な舞台作品で、さまざまなスケーターたちが滑ってきたフィギュア界でも大人気のプログラムです。
 アイルランドのシンボリックな色が緑ということで、かつて「リバーダンス」を演じてきたスケーターたちも緑の衣装を使用することが多かったのですが、友野選手もその王道を踏襲し鮮やかな緑のトップスを着用。そこに黒い襟や袖口、袖の一部分を黒い透け感のある素材にしたりと変化をつけています。そして、緑の部分は全体的にクロコダイル柄っぽい細かな模様が入り、さらに光沢感のある素材で華やかさを演出。遠目からでもキラキラと輝いて見える衣装にしていて、友野選手オリジナルの「リバーダンス」を作り上げたんじゃないかと思いますね。


 6位はロシアのマキシム・コフトゥン選手の「カルメン」です。

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 フィギュア界で最も人気のある音楽といっても過言ではない「カルメン」。元々女子スケーターの使用が多いイメージでしたが、最近は男子選手が演じる機会も増えてきているように思います。そんな「カルメン」を昨季を持って引退を表明したコフトゥン選手も演じましたが、正統派から個性派へと変化を遂げたコフトゥン選手らしく、この「カルメン」の衣装も独自性が大いにうかがえました。
 衣装のベースは上下ともに黒ですが、印象的なのは肩、腕、胸まで覆うアラベスクのような金色の模様です。アラベスクは元々はイスラム美術の代表的な模様ですが、古くからヨーロッパにも伝わっており、古いヨーロッパの雰囲気を醸しだすのにもピッタリな模様と言えます。上述した田中選手の衣装のベストの絵柄もそれに近い感じがありますが、コフトゥン選手のこの衣装の模様はより細かくアラベスクに近い感じがしますね。また、「カルメン」の舞台はスペインということで、ヨーロッパの中でもイスラムの影響を色濃く受けている国でもあるので、そうしたエキゾチックさを表現するのにアラベスクは最適な模様だと思います。そして、色づかいとしては黒と金という二色のみでほかに装飾らしい装飾もなくシンプルといえ、また、「カルメン」では定番の赤を使っていないというところにもオリジナリティーを感じさせますね。


 7位はラトビアのデニス・ヴァシリエフス選手の「映画『ラスト・サムライ』より」です。

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 明治時代の日本を舞台に、時代の流れに抵抗する侍たちを描いた映画『ラスト・サムライ』。そのサントラを使用したプログラムということで、衣装も侍らしさ、日本らしさを明確に意識したデザインとなっています。
 衣装はトップスが2層構造に。一番下に着ているのはシンプルなネイビーの半袖シャツ。その上に武士が着る裃を模したような形の上着を着用しており、この上着も右側はシンプルな黒地に同色の模様が施されたデザイン、一方左側は友禅のような華やかなデザインでアシンメトリーな作りとなっていて、日本風だけれども独創的なアレンジがなされているので新鮮味を覚えます。そして上の画像では見えませんが、ボトムは膝から上はゆったりと膨らんだような形、膝から下は足にピッタリと沿うタイトな形というふうに、侍風ではないですがどこか忍者っぽいパンツになっていて、このあたりからも日本らしさを意識したことがうかがえます。日本のスケーターが和風のプログラムを演じるのとは違う感覚、イメージが反映されていて、おもしろいコスチュームだと思いますね。


 8位はロシアのミハイル・コリヤダ選手の「カルメン」です。

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 同じくロシアのコフトゥン選手同様、「カルメン」を演じたコリヤダ選手。ただ、衣装は全く趣向の異なるものとなっています。
 コリヤダ選手の衣装の特徴は何といっても鮮やかな赤。黒い花のような刺繍(アップリケ?)の入った赤い上着、その下にはワイン色の格子柄のベスト、さらにその下には白い長袖シャツという正装風のコーディネートです。非常に気品を感じさせるスタイルで、かつ、赤という実にスペインらしい色を用いることで、「カルメン」というプログラムの情熱、華やかさをわかりやすく表していて素敵なコスチュームだと思います。


 9位はロシアのアンドレイ・ラズキン選手の「ロメオとジュリエット」です。

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 上述したチャ選手は映画の“ロミジュリ”でしたが、ラズキン選手が演じたのはチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」です(クラシックの場合は“ロミオ”ではなく“ロメオ”と表記するのが通例です)。チャイコフスキーらしい華麗さ、ダイナミックさを兼ね備えた名曲を、同じロシアのラズキン選手が端正な滑りで表現しました。
 衣装は黒をベースにした色づかいで、トップスは体の中心がレースアップになったシンメトリーな作り。そこから白く柔らかさを感じさせる素材感のシャツがのぞいています。その上に着た服は黒とグレーで構成されていて、縦のラインを強調したスマートなデザインと言えます。細かな装飾もアクセント的にあしらわれてはいますが、そこまで派手なものではなく、全体的にシンプルな印象を受けます。曲自体には充分に華やかさもある「ロメオとジュリエット」ですが、ラズキン選手の表現としてはまさに正統派といった感じで、実直さが衣装からも伝わってきますね。


 10位はイタリアのマッテオ・リッツォ選手の「ローリング・ストーンズ・メドレー」です。

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 シーズン途中でフリープログラムを変更したリッツォ選手ですが、今回選んだのは変更する前のシーズン前半に演じていた「ローリング・ストーンズ・メドレー」の衣装です。
 ロックバンドの曲を使用したプログラムということで、コスチュームは黒いライダースジャケット風のデザイン。そこに胸からお腹にかけて3本並んだベルトや、腰から下がったチェーンなど、遊び心のある工夫がなされていて、有名なロックバンドのメドレーでも自分らしく、オリジナリティーを表現していこうとするリッツォ選手の意図がうかがえますね。



 男子フリー部門は以上です。次はアイスダンスのリズムダンス部門になると思います。次の記事アップをしばしお待ちください。では。


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by hitsujigusa | 2019-05-31 23:02 | フィギュアスケート(衣装関連)