吉屋信子集 生霊―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)


【収録作】
「生霊」
「生死」
「誰かが私に似ている」
「茶碗」
「宴会」
「井戸の底」
「黄梅院様」
「憑かれる」
「かくれんぼ」
「鶴」
「夏鶯」
「冬雁」
「海潮音」
「私の泉鏡花」
「梅雨」
「霊魂」
「鍾乳洞のなか」


 吉屋信子といえば、何といってもまず挙げられるのは少女小説の先駆け的作品『花物語』だろう。『花物語』は全54編から成る連作小説集で、それぞれのタイトルが花の名となっている。そこに描かれた少女たちの友情を超越した一種独特な関係は、現代の感覚からしても不変的で、妙なリアリティを持っている。戦後、晩年には『安宅家の人々』『徳川の夫人たち』など、女性の生き方を描いた小説で活躍、1973年7月11日に満77歳で没した。
 そんな吉屋信子の多々ある作品群の中でも、マイナーな怪談、怪異譚を集めたのがこの『吉屋信子集 生霊』である。吉屋信子の誕生日、1月12日を前にこの短編集を取り上げたい。

 この本に収録されているのは一応怪談ということになっているが、いわゆる幽霊譚みたいなのとは少し趣が違う。人間の心が生む怪奇、人間の心の恐ろしさ、である。そのリアリティのなかでふわっとあちら側に迷い込むような不気味さもあり、独特の味を出している。
 エッセイも含まれた全17編の収録作から、特に印象に残ったものをご紹介。

 「生霊」「誰かが私に似ている」はいわゆるドッペルゲンガー現象を扱った作品だが、2作の雰囲気はだいぶ違っている。
 「生霊」は第2次世界大戦後、シベリアから復員してきた男がある高原の空き別荘に住みつくが、管理人のおじいさんに“坊ちゃん”と人違いされ、男は“坊ちゃん”のふりをするという話。怪談とは言えないが、人違いをされる不気味さ、不思議なめぐり逢いを描いている。
 一方、「誰かが私に似ている」も人違いをモチーフとしているが、“私”が誰かに似ているのではなく、“誰か”が私に似ているという気味の悪さが作品全体に漂う。誰か知らない他人が自分によく似ているということで、主人公の女はさまざまなラッキーに出会うが、由来の分からないラッキーほど怖いものはない。何かが起こりそうな怪しげなムードが怪談っぽさを醸している。

 「宴会」「井戸の底」はそれぞれ幽霊が登場する話だが、幽霊らしい怖さのない幻想譚である。人間味があり、生きたぬくもりさえ感じられそうな実在感のある幽霊。そんな霊との奇妙な交流が描かれ、どこかほのぼのとした風情が漂う。

 「夏鶯」は戦時中の混乱に紛れて出会った老婆の昔語りで進む。登場する怪しげな家、独りぼっちの老婆、老婆が語るある美しい女、そして鶯というモチーフが何とも言えない絶妙というか妖しい雰囲気を醸し出す。主人公が老婆の話を聞くのは戦時中という設定だが、老婆が語るのは戦前の悲話。戦時、戦前という現在から遠い時代の出来事は、同じ日本でも異世界のことのような感じがする。
 「冬雁」「夏鶯」に共通して、ある1人の美しい女性の人生を描いている。主人公の女は美しいがゆえに歪み、数奇な運命をたどる。それでも不思議と憎めない愛嬌のようなものもあり、不気味でありながらコミカルさもある作品となっている。

 「海潮音」は裕福で容姿にも恵まれた青年の話。青年は子どもの頃から本当に欲しいと思ったモノは盗んででも手に入れようとする習癖を持つ。何もかもに恵まれているにもかかわらず、何事にも頓着せず“生”を感じさせない青年が、欲する“モノ”に執着する時だけ“生”を感じさせる。異常なまでの“モノ”への固執は青年を破滅へしか導かない。極端でショッキングとも言えるその姿は、しかしそれでも美しい。

 「私の泉鏡花」「梅雨」「霊魂」「鍾乳洞のなか」はエッセイ。中でも、「梅雨」で怪談を例に挙げ、“日本の女は浮気をした男ではなく、男の浮気相手である女を恨む、それが日本の女というものなのだ”と述べる部分は、日本の伝統文学である怪談の真理の一つを突いていて、印象に残る。

 吉屋信子の怪談は恐怖を前面に押し出すものでなく、読んでいるうちに気づいたらぬかるみにハマっていたという不思議な魅力がある。
 『花物語』や『徳川の夫人たち』といった吉屋信子しか知らなかった人、そして今まで吉屋信子を読んだことのない人にも、おすすめしたい1冊である。


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吉屋信子集 生霊―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)
吉屋 信子
筑摩書房
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# by hitsujigusa | 2014-01-09 16:13 | 小説 | Trackback | Comments(0)

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※2015年1月2日、競技結果、採点表のリンクを更新しました。

 全日本選手権2013、女子&ペア&アイスダンス編です。
 女子シングルを制したのは鈴木明子選手。何と13度目の全日本出場で初優勝です。2位には村上佳菜子選手、3位には浅田真央選手が入りました。
 ペアは唯一エントリーした高橋成美、木原龍一組が初優勝、アイスダンスではキャシー・リード、クリス・リード組が昨年に続き2連覇、6度目の全日本制覇となりました。

第82回全日本フィギュアスケート選手権大会 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 初の全日本女王に輝いたのは、今シーズン限りでの引退を表明している鈴木明子選手です。

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 ショートは見事というしかない、素晴らしい出来でした。冒頭の3トゥループ+3トゥループは2つ目のジャンプがアンダーローテッド(1/4以内の回転不足)と判定されますが、流れのある美しいコンビネーションジャンプ。その後の3フリップ、2アクセルも落ち着いて決め、「愛の讃歌」のクライマックスにピタリと合わせたステップシークエンスはまさに圧巻。観客の盛り上がりは、最終滑走で最高潮に達しました。得点は70.19点で2位、上々の滑り出しとなりました。

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 そしてフリー、3+2+2をまずクリーンに決めると、続く大技2アクセル+3トゥループも成功。その後も次々とジャンプを降り、最後の3サルコウもきれいに着氷すると鈴木選手は片手で軽く拳を握り締め、最後までスピードに乗った演技で観客を魅了。地鳴りのようなスタンディングオベーションの中、フィニッシュでは感極まった表情を見せ、力強いガッツポーズで喜びを爆発させました。
 得点は驚異の144.99点、ショートとの合計は何と215.18点で、全日本女子史上最高スコアをマーク。最後と決めた全日本選手権で、最初で最後のタイトルを獲得しました。
 まさかこんな凄い結末が待っているとは想像もできませんでした。事実は小説より奇なりとよく言いますが、あまりに出来過ぎであまりに劇的、そしてあまりにも素敵すぎるフィナーレ。大会前の予想はやはり浅田真央選手の圧倒的有利、3連覇だったと思います。その優勝候補浅田選手の不調もあったとはいえ、鈴木選手も大会の1週間ほど前まで絶不調で長久保コーチが棄権を考えるほどだったそうですから、ファンよりも鈴木選手やコーチ、関係者がいちばん驚いたでしょうし、その歓喜は如何ほどのものかと思います。
 長久保コーチが大好きな曲をプログラムにした「愛の讃歌」、そして、自身をヒロインのクリスティーヌに、長久保コーチをクリスティーヌの歌の師匠、ファントムに見立てた「オペラ座の怪人」。フィギュアスケートはスケーターの生き様が表れる競技だと思いますが、これほどまでに投影されたプログラム、演技はなかなか無いんじゃないでしょうか。人間・鈴木明子の人生が、見えたような気がしました。
 本当に本当に、素晴らしい初優勝おめでとうございました! そして、ソチ五輪出場決定おめでとうございます。ソチの舞台でも鈴木選手らしい演技が見られることを、楽しみにしています。


 2年連続の銀メダルを獲得したのは、村上佳菜子選手です。

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 GPシリーズではSPでなかなかうまく行かず、プログラム変更を決断した村上選手。曲は2シーズン前のショート「ヴァイオリン・ミューズ」。ジャンプ構成も変え、冒頭に組み込んだ3トゥループ+3トゥループは高さ、幅、流れともに充分でパーフェクトに成功。後半の2つのジャンプも決めると、あとは村上選手の世界。慣れ親しんだ音楽で、しかし確実に2シーズン前よりも進化した姿、演技を披露しました。
 フィニッシュポーズを解いた村上選手は、顔をくしゃくしゃに歪めて大粒の涙をこぼしました。スケート人生初のうれし泣きだったそうですが、それだけ頑張ってきたのだろうなということがうかがえました。得点が出ると歓喜の声を上げ、再びの涙。山田満智子コーチ、樋口美穂子コーチと抱き合って喜びを分かち合いました。

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 フリーはショート同様、冒頭に3トゥループ+3トゥループを跳び成功。続く3ルッツはロングエッジ(踏み切り違反)で小さなマイナスこそ取られますが、最後までミスらしいミスはなく、キレのある動きと穏やかな表情で情感豊かに「愛のイエントル」を滑り切りました。
 フィニッシュを迎えると、前日の号泣から一転、笑みを爆発させ、ガッツポーズを何度も繰り返しました。得点は135.10点、トータルでも初めて200点を超え、最終順位2位でソチ五輪代表の切符を勝ち取りました。
 それにしても、ショートもフリーも物凄い感情の爆発のさせ方で、思わず笑ってしまいましたが、良い意味でジュニア時代から変わらない村上選手の明るさ、真っ直ぐさに元気付けられました。山田コーチは「3歳児くらいの感覚」「喜びも3歳児のよう」と独特な表現(笑)で村上選手を評し、この自然体が彼女の弱さでもあり良さでもあると語りましたが、こういうキャラクターの選手が一人いてくれると一フィギュアファンとしては安心しますし、何より見ていて楽しいです。先日引退を発表した織田信成さんとも通じるところがありますね。これからもこの個性を大切にしていって欲しいです。
 ソチ五輪が決まり、初めてのオリンピックということでまたこれからが大変になってくるでしょうが、1月の四大陸選手権とも併せて、村上選手らしく笑顔で頑張って欲しいと思います。


 銅メダルを獲得したのは浅田真央選手です。

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 ショートはこれまでの試合同様、冒頭でトリプルアクセルに挑みましたが、小さな回転不足で両足着氷気味に。しかしその他のジャンプはしっかりとまとめ、「ノクターン」の優雅で軽やかな世界観を表現。会心の滑りとまではいかないものの、いつもどおりの安定感ある演技を見せました。得点は73.01点で首位に立ちました。

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 グランプリファイナルではフリーに2本、トリプルアクセルを組み込んだ浅田選手。今大会ではどうするかが注目されましたが、まずは1本目のトリプルアクセル。ショート同様、回転不足で降りてきてしまい似たような形での失敗に。続く2つ目のジャンプ、アクセルの軌道に入ると思い切って跳び上がりましたが、空中で回転を開きシングルに。その後は切り換えて、3フリップ、2アクセル+3トゥループなどエレメンツをこなしていき、トリプルアクセル以外でのミスらしいミスは、後半の3+2+2が3+1になったくらい。全体的に慎重さが目立ち、スピンでも珍しくレベルの取りこぼしがありましたが、大崩れはせず演技をまとめました。
 ただ、得点は伸びず126.49点、総合でも199.50点に留まり、全日本3連覇を逃しました。
 今大会はショートの前の練習からほとんどトリプルアクセルが決まらなかったそうで、いつもであれば演技直前の6分間練習でもきちんとトリプルアクセルを跳んでいるのに、それが明らかな失敗ばかりになっていて、本調子ではないんだなというのがうかがえました。競技終了後に佐藤信夫コーチが明かしたところによると、GPファイナル前に再発した持病の腰痛の治りが遅く、本格的な練習は全日本の会場に入ってからだったとのこと。その影響がもろに出てしまったんですね。
 今回は万全な状態で臨めなかったので不本意な演技、結果とはなりましたが、長いシーズンの中で1試合くらいはこういう落とし穴があるもの。張り詰めていた糸が一時的に緩んだという感じでしょうか。でも緩んだ糸はまた張り直すことができるわけですから、ソチに向けて、焦らずマイペースに、オリンピックまでの日々を過ごしていってほしいと思います。


 表彰台に迫る4位となったのは、今シーズン本格的なシニアデビューを果たした宮原知子選手。

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 ショート最初の要素はステップシークエンス。慎重にも見えましたがエッジを細かく使い分けた丁寧なステップはレベル4を獲得。続く難易度の高い3ルッツ+3トゥループのコンビネーションジャンプも綺麗に成功させて波に乗り、その他のジャンプ、スピンといったエレメンツも完璧にこなし、66.52点で4位発進となりました。

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 一夜明けたフリー。冒頭の3ルッツ+3トゥループは一見クリーンに着氷しますが、慎重に跳んだためか2つ目が回転不足の判定。ですが、その後ミスといえるミスはほとんど無く、次から次へとジャンプを降り、宮原選手らしい細部まで神経の行き届いた繊細かつ勢いのある演技を見せてくれました。
 今季シニアのGPシリーズに参戦し、本格的なシニアデビューとなった宮原選手ですが、技術力、表現力の高さ以上に、精神力の強さが印象に残りましたね。ここまでのシーズンで転倒やトリプルがシングルになるといった大きな失敗はほぼゼロで、本当にジャンプが安定していました。まだ回転不足を取られるところはちょこちょこありますが、オフシーズンの練習の成果か、その点もだいぶ改善されてきたように思います。何よりも初のシニアGP参戦&五輪が懸かった全日本で緊張もあるはずなのに、それを演技に反映させない落ち着き、冷静さは15歳離れしていて、強靭なメンタルには毎試合驚かされました。
 残念ながら目指していたソチ五輪出場はなりませんでしたが、全日本の一種異様ともいえる雰囲気、独特の緊張感の中で滑った経験は4年後に活きてくるでしょうし、貴重な財産となったのではないかと思います。1月の四大陸選手権、3月の世界ジュニアともに、また宮原選手らしい演技を楽しみにしています。


 5位には20歳の今井遥選手が入りました。

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 GPシリーズでは盲腸の影響もあって思うような成績を残せなかった今井選手。まずは2アクセルを流れに乗ってクリーンに決めると、3サルコウ+3トゥループも着氷。3トゥループは回転不足と判定されますが、しっかり3+3を跳びました。その後もスピード感のある滑りで今井選手らしく、伸びやかかつ柔らかな滑りを披露。演技後は満足そうな表情で、得点も60.63点と納得のスコアを得ました。

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 フリーも出だしからのびのびと滑り、次々とジャンプを決めます。後半に入っても勢いは衰えるどころか更に力強さを増して、大技2アクセル+3トゥループのコンビネーションジャンプも見事に着氷。最後の2アクセルで珍しく着氷が乱れるミスがあったものの、会心の演技で満面に笑みを浮かべました。得点は125.53点で初のフリー120点超え、総合順位5位となりました。
 10月初旬のオンドレイネペラトロフィーで優勝し帰国した後、盲腸で入院し手術を迫られた今井選手。ですが、手術をすれば全日本に間に合わないということで手術を回避し、投薬治療でGPシリーズを迎えました。その影響はやはり払拭できず、演技内容、結果としては悔しいものとなりましたが、手術を回避してまで今シーズンに懸ける彼女の強い意志、覚悟が見えて、何とか全日本ではうまく行くようにと願っていました。なので、全日本でのこの演技、結果は本当に良かったなあと思いますし、心から感動しました。
 四大陸選手権の代表にも決まりましたから、次は国際大会でこのような演技が出来ることを祈っています。


 6位に入ったのは全日本ジュニアチャンピオン、本郷理華選手です。

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 ショートはバレエ「ドン・キホーテ」。まずは冒頭の3トゥループ+3トゥループをパーフェクトに決め、その他のジャンプも高さ、幅のある大きなもの。ノーミスの演技で観客のスタンディングオベーションを受け、ショート7位で折り返しました。
 フリーの「ミス・サイゴン」は3+3を組み込まず、確実に着実にジャンプを跳んでいきます。回転不足を取られるといった小さな取りこぼしはありましたが、最初から最後までスピードと流れのあるダイナミックな演技で、本郷選手らしさを充分に発揮。SPから順位を上げ、6位で大会を終えました。
 ジュニアの女子選手は身体的な変化も大きいですし、一度大きな成績を残した選手でもそれを持続させるのは難しいものです。その中で、全日本ジュニア女王となり、シニアの全日本でも2年連続の入賞というのは素晴らしいですね。背が高く、ダイナミックなジャンプを持ち味とする本郷選手は、日本女子フィギュア界でも稀有なタイプですし、誰にも真似できない際立った魅力があるスケーターだと思います。
 世界ジュニアでも全日本のような、もしくはそれ以上の演技を期待しています。


 7位となったのは3季ぶりに競技復帰した安藤美姫選手です。

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 強化選手ではないため、国内の地方大会から勝ち上がって全日本までたどり着いた安藤選手。11月から12月にかけてヨーロッパのB級大会で調整し、着実に力を取り戻しつつはありましたが、日本での試合は久しぶりになるので少し心配な目で見てしまいました。しかし、全くの杞憂でしたね。冒頭の3トゥループ+3トゥループのコンビネーションはブランクを感じさせない高さ、飛距離、流れのある大きなジャンプ。3ルッツ、2アクセルもクリーンに決め、ステップシークエンスでも安藤選手らしく全身を使いしなやかに舞いました。得点は64.87点でショート5位につけます。

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 そしてフリー。難易度を下げてまとめることも考えられましたが、安藤選手は自身が今できる最高のレベルで挑むことを選びました。冒頭は3ルッツ+2ループ。続くコンビネーションで3サルコウからの3ループに挑戦しましたが、3サルコウがシングルに。次の2アクセル+3トゥループは見事に決めます。その後はチラホラとミスが出て、ステップシークエンスではスピードが落ちてしまいましたが、最後まで力を振り絞って、気持ちのこもった「火の鳥」を演じ切りました。得点は106.25点でフリー9位、総合順位は7位となりました。
 ここまでのシーズン、そして今大会の安藤選手に対しては、出産を経ているということに注目が集まりましたが、そういった事実は関係なしに、単純にやはり凄いスケーターだなと思いました。特にジャンプに関しては、高さ、大きさだったり、背中に羽が生えているんじゃないかというふわっと浮き上がるような跳び上がりだったりと、休息に入る前と変わらないくらい、もしくはそれ以上のジャンプで、ジャンパーとしての類まれなる才能、魅力を改めて認識させられました。(女子で歴史上唯一4回転を成功させた人なので、当たり前といえば当たり前なんですが)
 フリーの競技終了後、安藤選手は現役引退を表明しました。安藤選手は精神的な揺れがストレートに演技に表れてしまうタイプだった分、調子の波も激しい選手でした。しかし元々持っているポテンシャル、フィギュアスケーターとしてのセンスは世界でも抜群で、浅田真央選手をも凌ぐレベルでした。メンタル面さえすんなり行けば、より安定した成績を残し続けられたのかなと思うと少し残念な気もしますが、こういう安藤選手だからこそ、あれだけの心を揺さぶる演技ができたのだろうと思います。
 演技後のインタビューで安藤選手は、フリーで難度の高い3サルコウ+3ループに挑んだ理由について、「“ジャンプの安藤美姫”と言われていた頃の演技をやりたかった」と話しました。最後の最後まで、“安藤美姫”らしさを貫く姿には感動しました。今後はアイスショーにも関わりつつ、指導者を目指していくということです。現役生活、お疲れ様でした。そして、美しく力強い演技の数々をありがとうございました!


 8位入賞となったのは、全日本ジュニア4位の木原万莉子選手です。

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 ショートの冒頭は大技3トゥループ+3トゥループ。クリーンに着氷し、上々のスタート。その他の3ループ、2アクセルでもミスはなく、スピンでは全てでレベル4を獲得。納得の演技で8位発進となりました。
 フリー1発目のジャンプは単独の3ルッツでしたが、ロングエッジ(踏み切り違反)で着氷も乱れます。続く3フリップも回転不足で転倒。乱調の出だしとなりましたが、その後は大きなミスなく、大技2アクセル+3トゥループを含め、ジャンプをしっかり立て直しました。フリー順位は10位とショートからは下げましたが、トータルでは8位入賞で新人賞にも輝きました。
 木原選手は現在高校1年生、中学時代は股関節の難病で長くスケートが出来なかったそうです。ですが、ショート、フリー通じて、ほとんどそのブランクや影響を感じさせない演技をしていましたね。表現面でも繊細さが感じられ、ショートの「コットン・クラブ」、フリーの「真夏の夜の夢」と、全く色味の違う音楽をそれぞれ演じ分けていて、印象に残りました。これからも、技術、表現ともに、ゆっくり磨いていって欲しいですね。


 さて、ここまで女子シングル入賞者について書きましたが、ここからはペア&アイスダンス。まずはペア。
 ペアの優勝者は唯一エントリーした高橋成美、木原龍一組。もちろん、初制覇です。

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 ショートはサイドバイサイドのジャンプではミスが出ましたが最小限のもの。その後はダブルツイスト、リフト、スロージャンプなど、大きなミスなくエレメンツをこなし、実力発揮の演技となりました。得点は目標としていた50点を超える54.62点。国内大会なので非公式ながらも、シーズンベストのスコアを得ました。
 フリーは冒頭の3トゥループからのコンビネーションで、高橋選手のセカンドジャンプがシングルに。その後もジャンプやスロージャンプでちょこちょこミスが出てしまい、ショートほどの出来とはいきませんでした。得点は94.86点、トータルでは149.48点で、150点にあと少しと迫りました。
 1年前、高橋選手はまだ負傷中で、全日本からペア競技が消えました。それが翌年には復活、しかも日本人同士でなんていうことは、1年前は想像だに出来ませんでした。毎試合ごとに成長を見せてくれる高橋、木原組には本当に毎回楽しませてもらっていますし、驚かされ続けてもいます。まだまだ技術的には未熟かもしれませんが、ペアとしての一体感は見るたびに増しているように感じます。
 ソチ五輪の団体戦に日本チームが出場ということで、高橋&木原組は団体戦要員として初の五輪が決定しました。ぜひ、そちらでも自己ベストが更新できるように、頑張って欲しいと思います。


 アイスダンスを制したのは、キャシー・リード、クリス・リード組です。

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 ショートはツイズルをうまく合わせ加点を得ますが、ステップで同調が乱れるところが少しあり、マイナス評価を受けてしまいました。
 しかしフリーでは終始エネルギッシュかつ滑らかな演技を見せ、全てのエレメンツで加点を獲得。2年連続、通算6度目の全日本優勝となりました。
 クリス選手は相変わらず負傷を抱えていますが、それと長く付き合う中でうまく折り合いをつけているようで、試合ではその影響をほとんど感じませんね。昨シーズンと比べてもずっと安定した演技が出来ているので、安心感を持って見ていられるようになりました。ソチ五輪では個人戦に、団体戦にと、フル稼働となるのでその点はちょっと心配ですが、最高の演技が出来るよう願っています。


 では、男子シングル同様にソチ五輪、世界選手権などの代表選手を以下にまとめますが(敬称略)、その前に選考方法について。


《オリンピック代表選考方法(男女シングル)》

①1人目は全日本選手権優勝者を選考する。
②2人目は、全日本2位、3位の選手とグランプリ・ファイナルの日本人表彰台最上位者の中から選考を行う。
③3人目は、②の選考から漏れた選手と、全日本選手権終了時点でのワールド・ランキング日本人上位3名、ISUシーズンベストスコアの日本人上位3名選手の中から選考を行う。

《オリンピック代表選考方法(ペア、アイスダンス)》

全日本優勝者と全日本選手権終了時点でのワールド・ランキング日本人最上位組、全日本選手権終了時点でのISU シーズンベストスコアの日本人最上位組の中から選考を行う。


《ソチオリンピック》

女子シングル代表:鈴木明子、浅田真央、村上佳菜子

アイスダンス代表:キャシー・リード、クリス・リード組

ペア代表(団体戦のみ):高橋成美、木原龍一組



 全日本初優勝という最高の結果で、まっさきにソチ五輪代表を射止めた鈴木選手。そして、②にも③も該当する浅田選手に、こちらも②③に当てはまる村上選手と、終わってみれば予想どおりの3選手が選ばれました。間違いなく、現在日本女子でいちばん強い3人、文句なしの3人だと思います。
 アイスダンスの方も、圧倒的な力を持つ全日本チャンピオンであり、実績的にも図抜けているリード兄弟が代表となりました。
 また、世界選手権、四大陸選手権、世界ジュニア選手権の代表もそれぞれ以下のように発表されています。


《世界選手権》

女子シングル代表:鈴木明子、浅田真央、村上佳菜子

ペア代表:高橋成美、木原龍一組

アイスダンス代表:キャシー・リード、クリス・リード組

《四大陸選手権》

女子シングル代表:村上佳菜子、宮原知子、今井遥

アイスダンス代表:平井絵己、マリオン・デラアソンシオン組

《世界ジュニア選手権》

女子シングル代表:本郷理華、宮原知子



 熱狂的な雰囲気の中、幕を閉じた全日本選手権2013。男子も女子も、表彰台に上った選手を含め、今年が最後の全日本となるトップスケーターも多くいて、これまでにない特別な全日本選手権となりました。来年は表彰台の顔ぶれもガラッと変わるでしょうし、会場に流れる空気も今までとはまた少し違ったものになるんじゃないかと何となく想像します。そんなことに思いを馳せると、今から寂しさが込み上げてきてしまうんですが……。
 とにもかくにも、出場した選手の皆さん、お疲れ様でした。楽しいスケートをありがとうございました。


:女子シングルメダリスト3選手のスリーショット写真、鈴木選手のフリーの写真、村上選手のSPの写真、浅田選手のSPの写真、高橋&木原組の写真、リード&リード組のショートの写真は、毎日新聞のニュースサイト内の写真特集「フィギュア全日本選手権」から、鈴木選手のSPの写真、村上選手のフリーの写真、浅田選手のフリーの写真、宮原選手の写真、今井選手の写真、本郷選手の写真、安藤選手のSPの写真、木原万莉子選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、安藤選手のフリーの写真、リード&リード組のフリーの写真は、朝日新聞のニュースサイト「朝日新聞デジタル」内のフォトギャラリーの「フィギュアスケート全日本選手権」から引用させていただきました。


【ブログ内関連記事】
全日本選手権2013・男子―羽生結弦選手、圧巻の演技で断トツの2連覇 2013年12月26日
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# by hitsujigusa | 2013-12-28 05:03 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)

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※2015年1月2日、競技結果、採点表のリンクを更新しました。

 全日本フィギュアスケート選手権2013、全競技が終了しました。ソチ五輪の最終選考会でもある今大会は、史上まれに見る激戦、凄まじい試合となりました。まずは男子の結果からお伝えします。
 男子シングルを制したのは、19歳の羽生結弦選手。昨年に続いての2連覇で、ソチ五輪の切符をつかみ取りました。銀メダルを獲得したのは町田樹選手、3位は小塚崇彦選手となりました。

第82回全日本フィギュアスケート選手権大会 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

*****

 見事、優勝でソチ五輪出場を決めたのは羽生結弦選手です!

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 ショートプログラムはGPファイナルの再現かと思うような圧巻の出来。安定感を増した4トゥループ、難しい入りの3アクセルとパーフェクトに決め、最後の3+3は珍しく最初の3ルッツで軸が曲がりましたが、空中で修正してまとめました。得点は驚異の103.10点。全日本史上初めての100点超え、かつ全日本史上最高得点で首位発進となりました。

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 迎えたフリー、ここまでのシーズンでほとんど成功させられていない4サルコウは転倒。しかし今季の羽生選手の強さはここからで、続く4トゥループをこらえると、後半に組み込んだ2本の3アクセルからのコンビネーションなど、ジャンプを次々と成功。いつもどおり大崩れせず、GPファイナルの王者らしい安定した演技を見せました。得点は194.70点、総合得点も297.80点と、ショート、フリー、トータル全てで全日本男子史上最高得点を更新、2位以下に圧倒的な大差を付けての優勝となりました。
 演技内容としては4サルコウの失敗があったので完璧とはいかず、練習では出来ていることが出来ない悔しさが羽生選手自身あったと思いますが、それをほかのジャンプに影響させない強さが今大会も目立ちました。ただ、2シーズン前の「ロミオとジュリエット」からは感じられた感動や心を揺さ振る衝撃みたいなものは、まだ感じられなかったですね。4サルコウが成功すればそう感じられるのか、それともジャンプの成否とはまた別のところに原因があるのかは分かりませんが、ぜひ、五輪でこのプログラムを完成させてほしいなと思います。
 全日本2連覇&ソチ五輪出場、おめでとうございます!


 2位となったのは町田樹選手です。

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 ショートは冒頭の4+3を完璧に決めると、3アクセル、3ルッツもクリーンに成功。相当な緊張はあったと思いますが、それを感じさせないのびのびとした最高の「エデンの東」を披露してくれました。得点は93.22点で、2位につけました。

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 1本目の4トゥループは前のめりの着氷となりますが成功。続く2本目の4トゥループは2トゥループを付けてしっかりコンビネーションにしました。その後も2本の3アクセル、3+2+2など、次々とジャンプを降り、美しく力強く羽ばたきました。得点は183.82点の高得点、ショート、フリーともにほぼ完璧な演技で五輪の切符を勝ち取りました。
 昨シーズン、GPシリーズで大きく飛躍し一躍五輪代表候補に名乗りを上げた町田選手でしたが、GPファイナルでは最下位、全日本では9位と本当の意味でのブレイクは果たせませんでした。しかし、その飛躍からの屈辱を無駄にせず、今シーズン、真の飛躍を遂げ、見事にオリンピック代表の座を手に入れました。記者会見では「選手層が厚い中で出せていただくならメダルを狙うことが義務」と話し、五輪が決まっても気を緩めることなく、町田選手らしく自分を奮い立たせている姿が印象に残りました。ロシアの地で、「火の鳥」が飛翔するのを楽しみにしたいと思います。


 そして、3位には小塚崇彦選手が入りました。

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 ショートは冒頭の4トゥループの着氷が乱れますが、回転は認定されました。3アクセルはクリーンに成功しましたが、3ルッツ+3トゥループも着氷に乱れがあり、大きな失敗はなかったものの、完璧な演技とはいきませんでした。しかし得点は90.70点という高得点で、会場からも驚きの声が上がり、小塚選手自身も表情とジェスチャーで素直に驚きを表しました。私もあそこまで出るとは予想していなかったので少しびっくりしましたが、元々技術力の高い選手なのでジャンプ以外でも得点が稼げますし、大きなミスがなかったことで演技構成点も気前よく出たのだろうと思います。

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 翌日のフリー、こちらも4トゥループは回り切ったものの着氷でオーバーターンしてしまいます。しかしその後は小塚選手らしい滑らかな流れるようなスケーティングの中でポンポンとジャンプを決めていき、終盤で珍しく3ルッツでの転倒がありましたが、全体的にまとまった演技を見せ、表彰台を確保しました。
 昨シーズンから股関節痛があり、なかなか思うような滑りができなかった小塚選手。手術をするとソチ五輪に間に合わないということで、毎日のケアで自らの身体と折り合いを付け、この大会にしっかりと合わせてきました。小塚選手らしい美しいスケーティングやジャンプ、スピンなど、GPシリーズと比べてもだいぶ戻ってきているように感じました。小塚選手がオリンピック代表に選ばれるためには表彰台しかないというプレッシャーの中で、よくぞここまでという素晴らしい演技でした。
 しかし、この後も言及しますが、高橋大輔選手との3枠目の争いで一歩及ばず、残念ながら五輪代表からは外れてしまいました。GPシリーズは悪かったけれども全日本で調子を上げてきた小塚選手と、GPシリーズでは結果を残したものの直前の怪我で全日本に合わせられなかった高橋選手と、どちらを選ぶかは素人目に見ても難しいものでした。今回の選考は小塚選手にとっては非常に悔しい、厳しいものとなりましたが、“小塚崇彦ここにあり”という存在感は充分に感じられました。小塚選手が今後どうするかはまだ不明ですが、来シーズンも現役を続けて欲しい、競技者としての小塚選手のスケートもっと見たいと一ファンとして思います。


 惜しくも表彰台に及ばず、4位となったのは織田信成選手です。

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 ショートの冒頭、4トゥループがすっぽ抜け3トゥループに。ですがその後は冷静で、3アクセルや、3+2など着実にジャンプをこなしました。序盤にミスが出たことで全体的に勢いと元気がなくなり、その分ステップシークエンスがレベル2になったり最後のスピンがレベル2になったりしてしまったのがもったいなかったですね。

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 そしてフリー。4トゥループ+3トゥループは織田選手らしい柔らかな着氷で見事に成功。続く4トゥループはトリプルになってしまいましたが、3アクセル+2トゥループ、3アクセル、3ルッツ+1ループ+3サルコウと次々とジャンプを決めていきます。終盤に向かうにつれさらに勢いを増して、最後のコレオグラフィックシークエンスは笑顔が溢れ、前日の控えめになってしまった演技から一転、織田選手の魅力が爆発したフリーとなりました。得点は織田選手史上、全日本での最高スコアとなり、最後の全日本で最高の演技を見せてくれました。
 4位という結果により、五輪代表選考の条件から外れてしまった織田選手は、エキシビションの全選手の演技終了後、一人マイクを持ってリンクに現れ、この日(12月24日)を持って現役生活から引退することを表明、観客に向かって伝えました。
 来年の1月に台北で開催される四大陸選手権の代表に決定していましたが、以前から今シーズン限りでの引退を表明していた織田選手ですから、その後の試合が何もない中で四大陸に出場してもモチベーションを上げるのは難しいでしょう。なのでどうするかなと思っていましたが、やはり辞退、全日本が競技者としてのラストとなりました。引退発表に際して、浅田真央選手、村上佳菜子選手から花束が贈られ、高橋大輔選手、鈴木明子選手、羽生結弦選手、小塚崇彦選手、町田樹選手など、ともに戦ってきた仲間もリンクに登場、エキシビション出演スケーターたちと満員の観客に見送られての感涙の引退となりました。

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 織田選手ほど“愛される”キャラクター性を持ったスケーターは他にいなかったんじゃないでしょうか。好不調の波が激しく、大きな怪我もあり、ここぞという大きな舞台でのつまずきも多くありましたが、それでもなぜか憎めない、応援したくなってしまう不思議な選手でした。喜ぶ時は大げさなくらい喜び、悔しい時は隠すことなく泣き、感情をそのまま表わしてくれる織田選手はフィギュア界にとって貴重で、かけがえのない存在だったと思います。
 織田選手は引退発表の記者会見で、「鳴かぬなら 泣きに泣きます ホトトギス」と先祖織田信長の名言に引っ掛け、また、「涙が印象的なスケート人生だったと思うので」と語りました。ですが、涙と同じくらい、笑顔も深く印象に残るスケーターでした。今後は指導者を目指すそうですが、アイスショーでもどんなオファーでも全力でやりたいと茶目っ気たっぷりに話しました。これからも織田選手らしく、笑顔いっぱいで頑張って欲しいですね。現役生活、お疲れ様でした! そして、素晴らしい演技の数々をありがとうございました!


 5位となったのは、高橋大輔選手です。

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 11月末に右足の脛骨を負傷し、GPファイナルを欠場した高橋選手。まだ完全には傷が癒えない中での復帰戦となりましたが、ショート冒頭の4トゥループは回転不足で両足着氷。次の3アクセルはきれいに着氷したかに見えましたが、ランディングでこらえきれず転倒。3+3も2つ目が回転不足となるなど、怪我の影響がそのまま表れた演技となりました。
 得点は82.57点で4位発進。キス&クライでの高橋選手は今までに見たことのないような顔面蒼白で、高橋選手自身のショックを物語っていました。

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 一夜明けたフリーで挽回を期しましたが、1発目の4トゥループは転倒。ここで何かの拍子に右手を切ってしまったようで、見る見るうちに血が溢れ出しましたが演技を続行。続く2本目の4トゥループは大幅な回転不足で両足着氷となり、後半も3アクセルでのお手つき、3ループでのパンクなど、ミスが相次ぎ、フィニッシュでは笑顔を見せたものの、どこか淋しげな、何かを覚悟したような静かな笑みで、観客の声援に応えました。
 フリーの得点は170.24点、トータルで252.81点で、あと2人の滑走者を残して暫定3位となりました。そして、23番滑走の町田選手、24番滑走の小塚選手が高橋選手を上回ったことで、高橋選手の最終順位は5位、五輪代表選考の重要な条件の一つである表彰台を逃す結果となりました。
 しかし、日本スケート連盟は協議の結果、全日本の表彰台に登った小塚選手ではなく、世界ランキングやシーズンベストスコアで結果を残している高橋選手を男子シングル五輪代表の3人目に選びました。
 この選考結果にはいろんな意見があるでしょうが、私は正直にうれしく思いました。やはり、日本フィギュア界に多大なる貢献をし、フィギュアファンに喜びと夢を与え続けてくれた大エースのラストがこんな痛ましいものでは悲しすぎますし、普段感情を露わにすることの少ない高橋選手の号泣を見てしまっては、このままで終わって欲しくないと願わざるを得なかったですからね。
 でも、その分小塚選手には辛い決着となってしまいました……。高橋選手は「崇彦の思い、いろんな人の思い、すべてを受け止め、100%、120%の演技を五輪でするのが僕の使命」として、五輪へ向けての新たな覚悟を口にしました。
 まずは怪我をしっかり治して、万全な状態でソチに入り、最高の演技を見せて欲しいと思います。


 6位となったのは無良崇人選手です。

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 ショートは4トゥループ、そして3ルッツでもミスがあり、コンビネーションが入らなかったことで得点を稼ぐことが出来ず、大きく出遅れる8位となった無良選手。
 フリーでも代名詞の3アクセルがシングルに、3ループもシングルになるなど、チラホラとミスが散見され、何とか大崩れせずまとめたものの会心の演技とはいきませんでした。
 今大会の無良選手はショートもフリーも本来の豪快さ、ダイナミズムが見られず、やはり五輪選考会という特別な緊張感に飲まれてしまったのかなという感じでしたね。
 目指していたオリンピックという舞台を逃した無良選手ですが、演技後のインタビューではすでに来シーズンを見据えた発言をしていて、もう前を向いているんだなという強さを感じさせました。無良選手もここ1、2年で大きく成長した選手の一人、そしてまだまだ伸びしろのある選手だと思います。オリンピック選考会というスケート人生最大の節目を経験した無良選手が、これからどのように更なる成長を見せてくれるのか、今からとても楽しみです。なお、全日本での引退により四大陸選手権出場を辞退した織田選手に代わり、無良選手が出場することが決定しました。そちらでの彼らしい滑りを期待しています。


 7位に入ったのは全日本ジュニア2位の宇野昌磨選手です。

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 ショートは3+3を完璧に成功させると、2アクセル、3ループとそのほかのジャンプもまとめ、スピンでは全てレベル4を獲得。全日本ジュニア銀メダリストらしい、堂々とした演技で6位発進となりました。
 フリーは五輪代表争いを繰り広げる最終グループでの滑走。冒頭に組み込んだ3アクセルは残念ながら転倒しましたが、その後は次々とジャンプをクリーンに決め、ショート同様全スピンでレベル4を獲得、最初から最後まで流れのある大きな演技で見事、7位入賞となりました。
 以前から表現力に定評のある宇野選手ですが、今大会はフリーの3アクセルの失敗以外、ほぼパーフェクトといって良い素晴らしい出来で、技術力の高さ、そして精神力の強さが目立ちました。ジュニア男子のフリーの演技時間は4分、全日本はシニアの大会なのでいつもより30秒長い演技だったわけですが、その中でも8つのジャンプ要素の内、5つを後半に固め、しかも3つのコンビネーションジャンプを全て後半に持ってくるという難易度の高い演技構成。それをこのシーズン一の大舞台できっちりこなしたわけですから、度胸があるなあと思います。全日本の結果によって、3年連続での世界ジュニア代表に決定した宇野選手。そちらでも満足いく演技が出来ることを願っています。
 余談ですが、宇野選手大きくなりましたね! といっても公式プロフィールによると150センチなのですが、それでも昨シーズンより10センチほど伸びたんですよね。身長がこれだけ急激に伸びると大変なんじゃないかと思いますが、また新たな魅力も生まれてくるでしょうからますます楽しみです。


 8位には全日本ジュニアチャンピオン、田中刑事選手が入りました。

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 ショートは転倒やパンクといった大きなミスこそありませんでしたが、予定していた3+3が3+2になったり、スピンでも取りこぼしが多くあったりと、不本意な演技となりました。それでも7位と、上位につけます。
 フリーは4トゥループに挑みますが、ダウングレード(大幅な回転不足)で失敗。しかし、その後は大きなミスなく演技をまとめました。
 4回転に関しては失敗は織り込み済みということで、その他のところで大きく乱れなかったところに全日本ジュニア王者の強さを感じました。シニアに上がれば必然的に4回転は必要になってくるので、そのためにも今から果敢に挑戦するのは、たとえ失敗の公算が大きかったとしても、意義のあることだと思います。
 今大会の結果によって、四大陸選手権の代表に選ばれた田中選手。ISU主催のシニアのチャンピオンシップに出場するのは初めてだと思いますが、シニアの国際大会でどこまで通用するのか、その力を存分に試してほしいですね。そしてシーズンの集大成となる世界ジュニア。昨季の世界ジュニアは、出場が決まっていたものの太腿の怪我により欠場となってしまいました。2年ぶり、かつ最後の世界ジュニア、全力を出し切れるよう祈っています。


 さて、ここまで男子シングル入賞者8選手について、とりとめもなく感想を書きました。今年の全日本はソチ五輪最終選考会でもありますので、今大会の結果により選ばれた選手を以下にまとめます(敬称略)。その前に、改めましてソチ五輪代表選考のルールを……。


《オリンピック代表選考方法(男女シングル)》

①1人目は全日本選手権優勝者を選考する。
②2人目は、全日本2位、3位の選手とグランプリ・ファイナルの日本人表彰台最上位者の中から選考を行う。
③3人目は、②の選考から漏れた選手と、全日本選手権終了時点でのワールド・ランキング日本人上位3名、ISUシーズンベストスコアの日本人上位3名選手の中から選考を行う。


《ソチオリンピック男子シングル代表》

羽生結弦、町田樹、高橋大輔



 羽生選手は全日本優勝者で申し分なし。町田選手は全日本2位で②に該当し、③のワールドランキング日本人上位3名、シーズンベストスコア日本人上位3名にも入っているということでこちらも文句なし。高橋選手は②からは漏れましたが、③に当てはまっているということで、②に該当する小塚選手をかわしての代表入りとなりました。高橋選手、小塚選手のどちらを選んでも苦しいことになっていたと思います。選ばれた3選手は皆、選ばれた責任というものをよく分かっていることでしょう。
 こうして代表選手が決定したことで、本当にソチ五輪がすぐそこまで来ているんだなという実感がさらに強まりました。今から楽しみなような、怖いような……ですね。
 また、世界選手権、四大陸選手権、世界ジュニア選手権の代表も以下のように発表されています。


《世界選手権男子シングル代表》

羽生結弦、町田樹、高橋大輔

《四大陸選手権男子シングル代表》

小塚崇彦、田中刑事、無良崇人(※無良選手は、出場を辞退した織田選手に代わっての出場)

《世界ジュニア選手権男子シングル代表》

田中刑事、宇野昌磨



 五輪だけでなく、もちろんこちらも注目ですね。
 全日本記事は、女子&ペア&アイスダンスに続きます。


:男子シングルメダリスト3選手のスリーショット写真、エキシビションでの織田選手の引退発表時の写真は、朝日新聞のニュースサイト「朝日新聞デジタル」内のフォトギャラリー「フィギュアスケート全日本選手権」から、羽生選手のSPの写真、小塚選手のSPの写真、高橋選手の写真は、毎日新聞のニュースサイト内の写真特集「フィギュア全日本選手権」から、そのほかの写真はスポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから引用させていただきました。


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# by hitsujigusa | 2013-12-26 04:02 | フィギュアスケート(大会関連) | Trackback | Comments(0)