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 前記事に引き続き、世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)2015についてお伝えしていきます。今回は男子ショートプログラムとペアショートプログラム編です。なお、この大会のルール、システムについてはこちらの記事をご覧ください。

ISU World Team Trophy 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 男子SPで1位となったのは日本の羽生結弦選手です。

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 冒頭は大技の4トゥループ、これをパーフェクトに成功させて2.71点の高い加点を得ます。続く2つのスピンは最高難度のレベル4を獲得した上に1点以上の加点。後半に入り最初の3アクセル、こちらも問題なくクリーンに決めます。そして今シーズン苦しんでいる3ルッツからの2連続3回転でしたが、ファーストジャンプの着氷で詰まり、強引に3トゥループを付けたものの回転不足で転倒となります。しかしそこからすぐ立て直し、ステップシークエンス、スピンはレベル4。ショパンの「バラード第1番」を緩急豊かに演じ切りました。得点は96.27点でシーズンベストを更新、1位に立ちました。
 4トゥループ、3アクセルは申し分のない美しいジャンプでしたが、今季鬼門となっている3ルッツがまたもや壁となってしまいましたね。先月の世界選手権では完璧に成功させていて、会場入りしてからもほとんど失敗がなかったということでしたが、羽生選手はミスの原因についてスピードの問題を挙げ、ジャンプを跳ぶ前にターンやクロスが入っているためスピードを上げる機会が3歩しかなく、少ない歩数でトップスピードに持っていく技術がまだないと話しました。すごく論理的な説明でとても分かりやすいのですが、こうした技術的なことを聞くと、ひとえにジャンプを跳ぶといっても素人目には分からないような工夫がさまざま施されていて、ものすごく難しいことをしているんだなと改めて実感しますね。


 2位は中国のエース、閻涵(ヤン・ハン)選手です。

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 まずは代名詞の3アクセル、これをいつもどおりの猛スピードと飛距離で跳び、加点2.29点の高評価となります。続いて大技の4トゥループでしたが、こちらは着氷が乱れて大幅に減点。しかし、後半の3+3は確実に決めて、大きな取りこぼしなく演技を終えました。得点は87.13点で2位となりました。
 羽生選手にとって3ルッツが鬼門なように、閻選手にとっては4トゥループが泣きどころとなっていますね。回転不足というのはほとんどないにもかかわらずミスしてしまうというのは、着氷のタイミングや感覚の問題なのでしょうか。もちろんシーズン初戦のアクシデントの影響もあるでしょうが、これが決まると自己ベスト更新も十分に可能だったと思うので惜しかったですね。


 3位はアメリカチャンピオンのジェイソン・ブラウン選手です。

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 冒頭は得点源となる3アクセル、着氷で若干詰まり気味になりますがミスなくまとめます。続く3フリップ+3トゥループもしっかりクリア。後半の3ルッツも難なく決めました。ステップシークエンス、スピンは全てレベル4を揃え、特に得意のステップシークエンスは独創的なフットワーク、振り付けと抜群のリズム感で会場を盛り上げ、全選手中トップとなる1.7点の加点を獲得しました。得点は86.48点、ソチ五輪でマークした自己ベストを上回りました。
 ブラウン選手らしい、ユーモア溢れる軽快な演技でした。その中でも多彩なつなぎがプログラム全体に散りばめられていて、最初から最後まで目が離せない見どころ満載のプログラムで、この半年間毎回楽しませてもらいましたね。


 4位は日本チームのキャプテン、無良崇人選手。

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 まずは大技の4トゥループ+3トゥループから、4回転の着氷で片手を氷に付きますが、何とか3回転をつけて予定どおりの連続ジャンプにします。続く3アクセルも着氷で乱れたもののかろうじて成功。後半の3ルッツはきれいに降り、ところどころミスはありつつも、大崩れすることなく手堅く演技をまとめました。得点は82.04点となりました。
 世界選手権ではまさかの演技で際どいフリー進出となった無良選手。今大会はそれから3週間ほどしかない短期間での調整となったわけですが、不完全ながらもリベンジできたんじゃないかなと思います。表現的にも縮こまった感じがなく、無良選手らしい豪快さが表れていましたね。


 5位はロシアのベテラン、セルゲイ・ボロノフ選手です。

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 冒頭は今季高い確率で成功させている4トゥループ+3トゥループの連続ジャンプでしたが、ファーストジャンプが3回転となり、3+3となります。後半の3アクセル、3ループは確実に決めましたが、4回転のミスが響き、79.09点とスコアは伸び切らず、5位に留まりました。
 4回転が入らないミスこそありましたが、プログラムの流れとしては途切れることなく世界観を存分に見せてくれましたね。この「死の舞踏」もこれで見納めになると思いますが、ボロノフ選手の雰囲気にハマっていて私はとても好きでした。そもそも「死の舞踏」という曲自体が好きなのでえこひいきが入ってるかもしれませんが、特徴的な振り付けで奇怪な空気感をうまく作り出していて、ロシアのスケーターならではの影を湛えた感じが音楽とピッタリ合わさっていたように思いますね。


 6位はカナダ王者のナム・グエン選手。

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 冒頭の3アクセルは完璧な跳躍とランディングでしっかり加点を稼ぎます。後半に2つのジャンプ要素を組み込み、3ルッツ+3トゥループはルッツのエッジが不正確とされ若干減点を受けますが、3フリップは問題なく成功。ただ、スピンでもマイナスとなる部分があり、得点は77.42点とわずかに自己ベストに及びませんでした。
 演技内容は良かっただけに細かな取りこぼしがもったいなかったですね。パーソナルベストは77.73点でしたから、あと本当にちょっとでした。世界選手権でもすでに証明済みなように、試合の雰囲気に飲まれない度胸だったりメンタルの強さはあるので、さらに隙の無い演技ができるようになってくると、一皮も二皮も剥けて手強い選手になりそうだなと感じます。



 ということで、男子SPの順位とポイントをまとめますと、このようになります。


《男子SP》

1位:羽生結弦(日本)、12ポイント
2位:閻涵(中国)、11ポイント
3位:ジェイソン・ブラウン(アメリカ):10ポイント
4位:無良崇人(日本):9ポイント
5位:セルゲイ・ボロノフ(ロシア):8ポイント
6位:ナム・グエン(カナダ):7ポイント
7位:マックス・アーロン(アメリカ):6ポイント
8位:マキシム・コフトゥン(ロシア):5ポイント
9位:フローラン・アモディオ(フランス):4ポイント
10位:ジェレミー・テン(カナダ):3ポイント
11位:ロマン・ポンサール(フランス):2ポイント
12位:宋楠(中国):1ポイント




 続いてはペアのショートプログラムです。
 1位となったのは世界選手権銀メダリスト、中国の隋文静(スイ・ウェンジン)、韓聰(ハン・ツォン)組。冒頭の3トゥループを2人そろってクリーンに決めると、続くスロー3フリップも完璧な跳躍とランディングで1.8点の高い加点。その後のエレメンツもそつなくこなし、71.20点をマークしました。普段私はペアをじっくり見ることがないのでこのSPを見るのも実は今回が最初で最後なのですが、良い意味でペア大国中国の正統派とは違う魅力があっておもしろいですね。ロカビリーバンドのアップテンポな曲を終始ノリノリで演じていて、見ているこちらも楽しくなりました。
 2位は世界チャンピオンのカナダのメーガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組です。全体的にまとまりのある演技を見せましたが、3ルッツが2回転になるミスがあり、68.68点と得点を伸ばすことができませんでした。
 3位はロシアの川口悠子、アレクサンドル・スミルノフ組。序盤のソロジャンプ、ツイストが本来の出来ではなく予定した基礎点を稼げませんでしたが、その後は安定してエレメンツをクリーンにこなしました。
 4位はアメリカのアレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組。ソロジャンプの3サルコウとスロージャンプの3フリップでの小さなミスはありましたが、演技をしっかりまとめ、自己ベストに迫る得点をマークしました。
 5位はフランスのヴァネッサ・ジェームズ、モルガン・シプレ組。序盤のソロジャンプでミスがあった以外に目立ったミスはありませんでしたが、終盤のデススパイラルで減点される場面があり、パーソナルベストからは遠い得点となりました。
 6位は今大会がシニアデビューとなった日本の古賀亜美、フランシス・ブードロー=オデ組です。

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 まず最初のエレメンツの2ツイストをきちんと成功させると、続くスロー3ループもクリーンに降ります。ソロジャンプやスピンで減点される部分はありましたが、決めた技では加点もしっかり得て、自己ベストに迫る46.87点をマークしました。
 シニアの日本代表だった高橋成美、木原龍一組のペア解消によって急遽チャンスが回ってきたわけですが、そうした慣れないシチュエーションの中でも落ち着いて安定した演技ができていたと思います。プログラムも日本を舞台に日本人の女性と西洋人の男性のカップルを描いた作品ですから、二人の醸し出す雰囲気とよくマッチしていて良かったですね。


《ペアSP》

1位:隋文静、韓聰組(中国)、12ポイント
2位:メ―ガン・デュアメル、エリック・ラドフォード組(カナダ)、11ポイント
3位:川口悠子、アレクサンドル・スミルノフ組(ロシア)、10ポイント
4位:アレクサ・シメカ、クリス・クニーリム組(アメリカ)、9ポイント
5位:ヴァネッサ・ジェームズ、モルガン・シプレ組(フランス)、8ポイント
6位:古賀亜美、フランシス・ブードロー=オデ組(日本)、7ポイント




 男子SP&ペアSP編はこれで終了です。男子フリー&アイスダンスフリー編に続きます。


:記事冒頭のメダリスト3チームの写真、閻選手の写真、ブラウン選手の写真、無良選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、羽生選手の写真、ボロノフ選手の写真、グエン選手の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から、古賀&ブードロー=オデ組の写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年4月16日に配信した記事「写真特集:2015フィギュア世界国別対抗戦 羽生エースの決意」から引用させていただきました。

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# by hitsujigusa | 2015-04-21 01:35 | フィギュアスケート(大会関連)

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 14/15シーズンを締めくくる世界国別対抗戦(ワールド・チーム・トロフィー)2015が、4月16日から19日にかけて東京にて開催されました。世界国別対抗戦は国別のポイント上位6か国が出場し競う団体戦です。以下にこの大会の出場国やチーム構成、システムなどをざっくりとまとめたいと思います。


◆出場国とチーム構成

ロシア(8517ポイント)、アメリカ(7641ポイント)、日本(6543ポイント)、カナダ(6400ポイント)、フランス(4993ポイント)、中国(4368ポイント)

 各チームは、男女シングル2名ずつ、ペア1組、アイスダンス1組で構成されます。

◆順位決定の方法

 これまでの大会では各種目ショートとフリーの得点を合わせた総合順位によってポイントが付与されていましたが、今大会からはショートごと、フリーごとにポイントが与えられるシステムとなりました。
 ポイントは1位の選手(組)が12ポイント、2位が11ポイントというふうに、順位が一つ下がるごとにポイントも一つ減っていきます。



 こうして行われた世界国別対抗戦2015、優勝したのはアメリカチームです。2位のロシアチームを1点差でかわしての2連覇となりました。ロシアは惜しいところまで迫りましたが、超僅差で頂点には届きませんでした。3位には日本チームが入り、4大会連続で表彰台に立ちました。
 この記事では競技初日の4月16日に実施された女子のショートプログラムとアイスダンスのショートダンスの結果を簡潔にではありますが、お伝えします。その後、男子SP&ペアSP、各種目フリー……という順に続けていきたいと思います。

ISU World Team Trophy 2015 この大会の詳しい結果、各選手の採点表が見られます。

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 まずは女子ショートプログラムです。
 1位となったのはアメリカのグレイシー・ゴールド選手。

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 冒頭の3ルッツ+3トゥループを完璧に決め高い加点を得ると、続く2つのスピンでも1点以上の加点。後半の3ループ、2アクセルも確実に降り、ゴールド選手らしいエレガンスでありながら壮大さも併せ持った表現を出し尽くしました。得点は71.26点でパーソナルベストをマーク、1位となりました。
 SPでは久しぶりのノーミス演技でしたね。ジャンプが安定していたのはもちろんですが、スピンでこれだけ加点を稼げる選手というのはそうそういないので、改めてゴールド選手の総合力の高さを思い知らされた感じがします。世界選手権ではSPで大きく出遅れてしまったわけですが、こうしてエレメンツさえ揃えばロシア勢を凌ぐ力を持っている選手なので、調整やピーキングといった部分が来季に向けての課題になるのでしょうね。


 2位は世界女王、ロシアのエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手です。

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 世界選手権同様、大技3アクセルに挑んだトゥクタミシェワ選手。回転は十分でしたが、体重が後ろに乗りすぎてしまいあえなく転倒となります。しかし、直後の3ルッツはさすがの安定感。後半に組み込んだ3トゥループ+3トゥループも完璧に成功させ、世界チャンピオンとして堂々とした演技を披露しました。得点は70.93点で2位となりました。
 3アクセルは惜しくも転倒でしたが、回転はしているので紙一重の失敗という感じでしたね。トゥクタミシェワ選手は2月に行われたババリアンオープンから3アクセルをプログラムに取り入れていますが、成否は別として、その全てで回転を認定されているんですね。あれだけ難しいジャンプで一度も回転不足を取られていないというのは凄いことですし、完全に3アクセルを自分のものにしているんだなと感じます。


 3位は世界選手権銅メダリスト、ロシアのエレーナ・ラディオノワ選手です。

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 まずは得点源の3ルッツ+3トゥループをきっちり着氷すると、後半の3ループ、2アクセルも難なく成功。ジェニファー・ロペスのボーカルを取り入れた情熱的なフラメンコプログラムを終始キレッキレに演じ切り、自己ベストに迫る68.77点で3位に入りました。
 世界選手権の時は発熱があり、体調が万全ではない中で滑ったラディオノワ選手ですが、今回は本来の躍動感、快活さが戻っていたように感じました。あと、全然関係ないことなんですが、世界選手権の時とは違う髪の結い方をしたり真っ赤な口紅を塗ったりしていて、シーズン序盤と比べてもぐっと大人っぽく見えて、ちょっとドキッとさせられましたね。


 4位はアメリカ女王のアシュリー・ワグナー選手。

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 冒頭は難度の高い3ルッツ+3トゥループ、パーフェクトに回り切って降り加点を得ます。後半に入り、2アクセルは問題なく決めましたが、3フリップは回転不足と着氷の乱れがあり、大きく減点。しかし、最後まで表現力豊かに、エネルギッシュに滑り切り、得点はシーズンベストとなる64.55点をマークしました。
 今シーズン、全米選手権から取り入れている3ルッツ+3トゥループですが、なかなか完璧な跳躍というのはなく、クリーンに決まったのは全米のフリーだけだったんですね。それ以来の久しぶりの成功となりました。10代の選手たちに囲まれての演技でしたが、一味違う表現力、重厚さというのはやはり一際印象に残りましたね。


 5位は日本の村上佳菜子選手です。

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 冒頭の3トゥループ+3トゥループはパーフェクトな跳躍と回転で1.1点の高い加点を獲得。続く3フリップは回転不足でマイナスとなりますが、後半に入れた苦手の2アクセルはしっかり決めます。得意のステップシークエンス、スピンも丁寧にこなして全てレベル4。得点は62.39点となりました。
 回転不足を取られてしまった3フリップは少し慎重な入りだったかなと思いますが、そのほかの部分は思い切りの良さも安定感もあり、シーズン前半から好演を続けているSPならではの“こなれ感”が素晴らしかったですね。
 大会に会場入りしてからは来季の去就について「もう決めている」と話し、現役引退かと憶測を呼びましたが、その後村上選手自身が否定し、現役続行の意思を表明しました。村上選手は「引退」と受け止められたことについて驚きを隠しませんでしたが、正直私も「もう決めている」と聞いた時には、決めていてあえて明言しないということは引退なのかな……と思ってしまいました。ですが、単純に国別対抗戦が終わってから言いたかったということのようですね。とにもかくにも、現役続行を決めてくれてとても嬉しいです。ジャンプの安定に関してはまだまだ課題はあるでしょうが、練習の仕方や工夫によっても変わってくるでしょうし、また、表現面はこれからがさらに熟してくる年齢ですから、楽しみだなと思います。


 6位は世界選手権銀メダリスト、日本の宮原知子選手です。

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 まずは得点源となる3ルッツ+3トゥループからでしたが、ファーストジャンプが回転不足でステップアウトしてしまいコンビネーションジャンプにならず。しかし、後半の3フリップに急遽2トゥループを付けてリカバリーすると、ラストの2アクセルもきれいに成功。終盤のスピンとステップシークエンスでは1点以上の高い加点も得るなど、宮原選手らしい確実性のある演技を見せました。ただ、序盤のジャンプミスが響き、得点は60.52点と伸びませんでした。
 SPで予定どおりのジャンプが跳べないことはほとんど無い宮原選手にしては珍しい明確な形でのミスが出てしまいましたね。身のこなしも微妙にいつもより硬かったかなと感じました。世界選手権のメダリストとなって以来の日本での凱旋試合で、そのプレッシャーがあったかどうかは分かりませんが、演技前には宮原選手の登場を待つ観客の手拍子が起こるなど、今までにない雰囲気ではありましたね。その中でもミスを引きずらない冷静さ、立て直し方はさすがで、初めての国別対抗戦の一種独特な空気に飲まれず演技する姿は、シーズン前半よりずっと泰然として見えて、安心して見ていられました。


 1~6位までの選手は上記のようになりましたが、7位以下の選手も含めますと、以下のようなSPの最終順位、ポイント獲得となりました。


《女子SP》

1位:グレイシー・ゴールド(アメリカ)、12ポイント
2位:エリザヴェータ・トゥクタミシェワ(ロシア)、11ポイント
3位:エレーナ・ラディオノワ(ロシア)、10ポイント
4位:アシュリー・ワグナー(アメリカ)、9ポイント
5位:村上佳菜子(日本)、8ポイント
6位:宮原知子(日本)、7ポイント
7位:李子君(中国)、6ポイント
8位:ガブリエル・デールマン(カナダ)、5ポイント
9位:アレーヌ・シャルトラン(カナダ)、4ポイント
10位:ローリン・レカヴェリエ(フランス)、3ポイント
11位:マエ=ベレニス・メイテ(フランス)、2ポイント
12位:趙子荃(中国)、1ポイント




 ここからはアイスダンスのショートダンスです。
 1位になったのは世界選手権銅メダリスト、カナダのケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組。ツイズル、パーシャルステップシークエンス、ローテーショナルリフトでレベル4、非接触ミッドラインステップシークエンスとパソドブレでレベル3とハイレベルな演技を披露。得点は73.14点で自己ベストをマーク、演技構成点でも全5項目で9点台に乗せました。
 2位は世界選手権銀メダリスト、アメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組。こちらも実力者らしい安定感抜群の演技を見せ、自己ベストに迫る72.17点で2位となりました。
 3位は世界チャンピオンのフランスのガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組。明確なミスはありませんでしたが、レベルの取りこぼしや加点を十分に稼げないエレメンツもあり、3位に留まりました。
 4位はロシアのエレーナ・イリニフ、ルスラン・ジガンシン組。全体的にまとまりのある演技内容ではありましたが、2つのステップシークエンスがともにレベル2となる取りこぼしがあり、自己ベストよりは6点ほど低い63.09点となりました。
 5位は中国の王詩玥(ワン・シーユエ)、柳鑫宇(リュー・シンユー)組。非接触ミッドラインステップシークエンスはレベル2でしたが、そのほかは安定してエレメンツをこなし、パーソナルベストとなる55.32点をマークしました。
 そして、6位は日本のキャシー・リード、クリス・リード組となりました。

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 ツイズルやステップシークエンスでのレベルの取りこぼしや細かいミスはありましたが、パソドブレやローテーショナルリフトではレベル4も獲得するなど本領も垣間見せ、得点はシーズンベストにあともう少しと迫る49.99点をマークしました。


 この結果、アイスダンスSDのポイント獲得は下記のようになりました。


《アイスダンスSD》

1位:ケイトリン・ウィーバー、アンドリュー・ポジェ組(カナダ)、12ポイント
2位:マディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組(アメリカ)、11ポイント
3位:ガブリエラ・パパダキス、ギヨーム・シゼロン組(フランス)、10ポイント
4位:エレーナ・イリニフ、ルスラン・ジガンシン組(ロシア)、9ポイント
5位: 王詩玥、柳鑫宇組(中国)、8ポイント
6位:キャシー・リード、クリス・リード組(日本)、7ポイント




 さて、次の記事では男子ショートとペアショートについてまとめたいと思いますので、しばらくお待ちください。


:記事冒頭のメダリスト3チームの写真、ラディオノワ選手の写真は、スポーツ情報ウェブサイト「スポーツナビ」のフィギュアスケートページから、ゴールド選手の写真、村上選手の写真は、毎日新聞のニュースサイトが2015年4月16日に配信した記事「写真特集:2015フィギュア世界国別対抗戦 羽生エースの決意」から、トゥクタミシェワ選手の写真は、AFPBB Newsが2015年4月17日の8:48に配信した記事「羽生が男子SP首位、日本は総合2位発進 フィギュア国別対抗戦」から、ワグナー選手の写真、宮原選手の写真、リード&リード組の写真は、エンターテインメント情報ウェブサイト「Zimbio」から引用させていただきました。

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# by hitsujigusa | 2015-04-20 00:39 | フィギュアスケート(大会関連)

百日紅 (上) (ちくま文庫)


【あらすじ】
 文化11年、江戸。葛飾北斎、55歳。世に名を馳せる人気絵師でありながら下町の長屋に住み、質素な暮らしを送っている。北斎と同居するのが娘のお栄、23歳。北斎の片腕として、また代筆として父にも劣らぬ才能を発揮する。そんな変わり者親子の周りには、女好きで春画を得意とする居候の池田善次郎、北斎の愛人で女弟子の井上政、対立する一門でありながら北斎を慕う売れっ子若手絵師の歌川国直、北斎に振り回される本問屋の主人ら、個性的な面々が集まる。北斎とお栄、そして二人を巡る人々の毎日はふしぎな出来事やちょっとした事件に満ちていて――。


 江戸という時代を圧倒的な画力と観察力で徹底的にリアルに描いた稀代の漫画家、杉浦日向子さん。1980年に漫画家としてデビュー、1993年に惜しまれつつ漫画家を引退、その後は江戸風俗研究家としてテレビでも活躍しましたが、2005年に下咽頭癌のため46歳の若さで亡くなりました。そんな杉浦さんの没後10年ということもあってか、今年2015年は杉浦さんの残した名作が次々と映像化されます。
 当ブログでも取り上げた『合葬』は秋に実写映画として公開予定、そして『百日紅』はアニメ映画として5月9日に公開されます。ということで、今回は『百日紅』について少し書きたいと思います。

 『百日紅』は1話完結型の長編作品です。「番町の生首」「ほうき」「恋」「木瓜」「龍」「豊国と北斎」「鉄蔵」「女弟子」「鬼」「人斬り」「四万六千日」「矢返し」「再会」「波の女」「春浅し」「火焔」「女罰」「酔」「色情」「離魂病」「愛玩」「綿虫」「美女」「因果娘」「心中屋」「仙女」「稲妻」「野分」「夜長」「山童」の全30話で、映画ではお栄が主人公ですが、漫画では各話ごとにフィーチャーされる人物が変わり(時には北斎ともお栄とも直接関係ない人物がメインになることも)、そうしたエピソードの連なりで一つの作品となっています。

 物語の鍵となるのはやはり北斎ですが、北斎の人生とか仕事をテーマにしているわけではなく(それもあるけど)、あくまで江戸の市井の人々の姿を特徴的なエピソードとともに描いた群像劇です。
 読んでいちばん印象に残ったのは、流れる空気がゆったりしていること。一部の例外を除いて誰も時間に追われていない。北斎やお栄には絵の注文の締め切りがあったりするけれど、にもかかわらずなんだかのんびりしている。仕事をサボってるとか雑にやってるとかではなくて(サボるときもあるけど)、やるときはやるんだけれどもやらないときはやらない、みたいな。ちゃんと自分で自分の時間をコントロールしていて、だから仕事に食われたり潰されたりすることもない。
 もうひとつ、いいなと思うのは風通しの良さ。人も町も風通しが良い。ベストな表現が思いつかないが、開放感、爽快感、大らかさとも言い換えられる。とにかく窮屈さがない。みんなのびのびしている。人と人とのあいだに適度な距離感があって、それはたとえ親子であっても師弟であっても他者の領域に土足でずかずか踏み込まない、ちょうどいい距離の取り方を心得ている。現代では家族間や会社内などで変なかたちの過干渉が流行ってますが(マザコン、モラハラ、パワハラ、セクハラ……)、『百日紅』の人々はそこんところの“好い加減”をしっかり分かっているんですね。お互いの個性を尊重して、なんてつもりは北斎やお栄たちにはさらさらないでしょう。でも、変わり者でも悪者でも温かく受け入れてくれる、かどうかは分からないけど、別にいてもいいよ、と存在を認めてくれるような器の大きさを感じるのです。

 そんな人々によって作られているから、江戸という町自体もどっしり坐って両腕広げている感じがします。ゆえに怪奇の類も生き生きと幅を利かせます。
 『百日紅』にはいくつか狐狸妖怪や非現実的な現象が登場するエピソードがありますが、その一つが第2話の「ほうき」です。

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 「ほうき」は亡くなった知人の死に顔の写生を引き受けた北斎が絵を描いていると、死人に魔が差して突然動きだす“走屍(そうし)”に出くわすという話。もちろんこんなことは頻繁に起こることではないので北斎も驚くが、吃驚仰天してあたふたしたりはせず、とりあえず絵を描き続ける。こんなふうに普通ありえないことが起こっても否定したり騒いだりするのではなく、走屍だからと肯定してしまうのが良いですね。これ以外にも北斎たちは摩訶不思議な出来事にたびたび出会いますが、どんな時もそういうもんだといわんばかりに泰然と受け容れます。そういった人知を超えたものを排除しない江戸の人々のスタンスがあるからこそ、不思議なモノやコトも人間の前に現れるのでしょうし、うまく共生できるんだろうなという気がします。個人的にはこういう一見無駄とも思える雑多なもので溢れた世界の方が、科学の力で統一された隙の無い世界よりも、好きだし楽しそうだなーと思いますね。

 もちろん江戸時代も楽しいことばっかりじゃありません。なんといっても死の問題があります。戦だらけの時代より改善されたとはいえ、殺人、武士の人斬り、病、身投げ、子どもの死、江戸の名物とも言われる火事など、まだまだ死は人々の身近にあり、『百日紅』の中でもしばしば死に関連する風景が描かれます。でも、その死さえも全体的にどこかさっぱりとしていて、湿っぽくはない。その描き方が、死が決して特別なものではなく生のすぐ隣りに在るものなのだと感じさせます。一方で、というか、だからこそ、生きている人たちのほとばしるような生の濃さが際立って印象に残ります。生と死、光と闇が区別なく曖昧に混じり合っているところが、なんとも言えない“お江戸”の魅力なのかもしれません。

 けれどその生きている人たちもただ生命を漲らせて明るさに満ちているかというとそんなことはなくて、孤独の影が常に付き添っています。メインキャラクターのみならず、1回こっきり出演の人たち、特に『男はつらいよ』のマドンナ的に登場する女性たちも、人と親しく付き合いはするけれどもベタベタはしてなくて、その独りで地に足つけてすっくと立ってる感じが、何ともかっこよくて美しい。でも別の言い方をすればそれは孤独ということでもあります。自分の人生は自分でどうにかしなければいけないという当たり前かつ意外に難しいこと。もちろん困ったときに人を頼ったり助けてもらったりすることはできるが、根本的な心の問題は自分自身で引き受けるより仕方ない。そういうふうに自分の孤独を自分のものとして自分の身で処理している姿が、使い古された言葉かもしれないですが、やっぱり粋だなと思うのです。

 『百日紅』で描かれる江戸の人々は、とても自由に見えます。実際は絶対的権力者もいるし、法律もあるし、身分もあるし、決して何もかもが自由というわけじゃありません。にもかかわらず、言論の自由も思想信条の自由も世界中好きなところへ行ける自由もある現代の日本人より、彼らの方が自由というものを存分に満喫しているように見えます。それは彼ら一人一人が、自由に伴う責任をちゃんと背負える本当の意味での大人だからなのでしょう。だからこそ、彼らはけっこうマイペースに生きてますが、ゆるさやテキトーさとは違って、見ていて胸がすくような気持ちの良さを感じずにはいられません。

 まだお読みでない方は、映画の方もいいですが、ぜひ『百日紅』を手に取ってみて下さい。


:記事内の絵は、杉浦日向子著『百日紅(上)』(筑摩書房、1996年12月)から引用させていただきました。

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# by hitsujigusa | 2015-04-13 03:01 | 漫画